News Letter

新学術領域研究�
細胞競合:細胞社会を支える適者生存システム�
News Letter
Vol. 1
Feb.2015
第2回領域会議(2015年1月13,14日 北九州市)
領域代表挨拶
第2回領域会議を終えて 領域代表 藤田 恭之 (北海道大学 遺伝子病制御研究所)
平成26年春に細胞競合班が発足して、すでに半年が過ぎました。現在、それぞれの計画研究班において、さまざまな細胞競合
研究がアクティブに展開されています。
平成27年1月13−14日の2日間にわたって、九州大学の鈴木先生、石谷先生のグループの主幹で、門司港において第2回領域
会議が開催されました。来年度の領域会議からは新たに公募班も加わりますが、今回の会議では領域班の根幹をなす計画研究
班間での交流や相互理解を深めるとてもいい機会になりました。
領域会議ではまず、各計画研究班の代表がそれぞれのプロジェクトおける進捗状況や将来の展望について、トークを繰り広げま
した。まだ領域班が発足して間もない状況にも関わらず、領域班が大きく胎動し、細胞競合研究がダイナミックに発展していく息吹
のようなものを感じることができました。またポスター発表においても、活発なディスカッションがあちらこちらで展開され、活況を呈
していました。会を通して特に印象的だったのが、大学院生やポスドクの若い研究者の皆さんが、とても積極的に質問をし、会を
盛り上げてくれたことです。この中から、将来の細胞競合研究を担う次世代の研究者が育ってくれることを真に願っています。
会のあとには、ふぐ三昧の夕食!ひれ酒も振る舞って頂き、年齢や役職の垣根を越えて、とても楽しい雰囲気のもと交流が進み
ました。いやあ、やはりバッカス神の力は偉大である。2次会(スナック)、3次会(ホテルのヤスの部屋)と熱い語らいは続き、領域
の結束は一層固まりました。オーガナイザーの鈴木先生、石谷先生、本当にありがとうございました! ここまでとても順調に領域研究が進展していると感じています。今後は公募班も加わり、大きなシナジーとともに細胞競合研究が
加速度的に進んでいくことを期待しています。皆さん、頑張っていきましょう!
News & Topics
活動報告
第2回領域会議�
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日時:平成27年1月13,14日�
場所:北九州市�門司港ホテル�
内容:1月13日�Oral Presentation, Poster Presentation�
�������� 1月14日�Oral Presentation, ポスター賞発表�
オーガナイズ:�鈴木�聡�(九州大学)�
第2回領域会議�ポスター賞表彰�
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ポスター賞受賞者の声�
ポスドク部門 第1位 梶田 美穂子 (北海道大学) 第2位 昆 俊亮 (北海道大学) 第3位 名黒 功 (東京大学) 博士部門 第1位 山本 真寿 (京都大学)
第2位 八子 優太 (北海道大学)
修士部門 第1位 河原崎 陽介 (東京大学)
梶田 美穂子 北海道大学 遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野
この度は第2回新学術領域研究会議にて最優秀ポスター賞(ポスドク以上の部)をいただき、誠に光栄に存じます。会議におき
ましては各PIの先生方がご発表になった研究・計画内容のどれもが大変興味深く、細胞競合について多角的に研究を推進す
る体制が整っていることを再認識しまして、大変感銘を受けました。質疑応答も活発で、活気溢れる有意義な会議でした。ポス
ターでは、正常上皮細胞と変異細胞の細胞競合の結果、正常上皮細胞が変異細胞を排除する抗腫瘍作用を示すことを発表
させていただきました。活発なご質問をいただきまして有難うございました。私事ではございますが、近い将来にヤスラボを卒
業することになりました。次の仕事先では細胞競合研究を続けられるか分かりませんが、領域班のますますのご発展を陰なが
らお祈りしております。
山本 真寿 京都大学大学院 生命科学研究科 システム機能学
この度はこのような栄誉ある賞を賜り大変光栄に存じます。本研究に携わってこられた井垣研究室の多くの方の努力が評価さ
れ嬉しく思います。 さて、今回の領域会議では細胞競合のメカニズムと生理的意義や疾患との関連について、様々なモデル生物・培養細胞系を
用いた研究や理論的な研究まで幅広い発表が行われました。そのためか、どの発表においても時間を超過するほどの質疑応
答が交わされ、特に若い方々が積極的に発言されていました。懇親会は終始和気藹々とした雰囲気で、領域代表をはじめ多く
の先生方が三次会までお付き合い下さり、領域メンバー間の協調作用(競合ではなく)が一層高まったのではないでしょうか。
また、最終日に訪れた長府は明治維新発祥の地であり、今回の班会議にふさわしい場所であったと思います。以上、第二回
班会議につきましてご報告させていただきました。今後ともご指導ご鞭撻を賜れば幸いです。
河原崎 陽介 東京大学大学院 薬学系研究科 細胞情報学教室
一條研の修士2年の河原崎と申します。今回1月13日から14日の2日間にわたって開催された領域会議に参加させていただき
ました。領域班の人が一同に会してオーラル発表、ポスター発表する機会は初めてだったので、初めて聞くような内容も多く、
とても新鮮で勉強になりました。ポスター発表で4分間の説明後の質疑で多くの方とディスカッションした中で今まで気づかな
かったサジェッションをいただき、新たな発見がありました。1日目の会議終了後の飲み会では同年代の学生の方々だけでは
なく、ポスドクの方からPIの方々とも楽しくお話させていただきました。学生からPIの方々まで分け隔てなく議論し、楽しく飲み交
わせることの環境はとても貴重な体験でした。これから細胞競合班のみなさんと領域班を盛り上げていければと思いますので
よろしくお願いします。
平成26年度 業績のハイライト
西田班 Imajo, M., Ebisuya, M, and Nishida, E. (2014) Dual role of YAP and TAZ in renewal of the intes=nal epithelium. Nature Cell Biology17(1): 7-­‐19�
腸
� 上皮組織における遺伝子導入/遺伝子ノックダウンの手法の開発:腸上皮組織の恒常性維持におけるYAPとTAZ
の二重の役割
腸上皮組織の恒常性維持における細胞競合ならびに細胞脱落の分子機構の解明のために、腸上皮組織において in vivoで簡便に遺伝子導入ならびに遺伝子ノックダウンをする方法を開発した。本方法をiGT(intes=ne-­‐specific gene Hippo経路
transfer) と名づけた。本方法は、同時に多数の遺伝子ノックダウンを簡便に行うことが出来る利点がある。本方法を用 YAP/TAZ
YAP/TAZ
いて、Hippo経路エフェクターYAPとTAZの腸上皮組織の恒常性の維持における役割を検討したところ、腸上皮幹細胞及 KLF4
TEAD
び前駆細胞の増殖とゴブレット細胞への分化の双方に、YAPとTAZが重要な役割を果たしていることが明らかになった。 また、YAPとTAZの上流のHippo経路の因子の関与も明らかとなった。興味深いことに、細胞増殖においては、TEAD転 幹細胞・前駆!
ゴブレット細胞!
細胞の増殖
への分化
写因子がYAP/TAZのパートナーとして働き、ゴブレット細胞への分化においては、Klf4がパートナーとして働くことが示された。
鈴木班(分担 仁科) Sean Porazinski, Huijia Wang, Yoichi Asaoka, Mar=n Behrndt, Tatsuo Miyamoto, Hitoshi Morita, Shoji Hata, Takashi Sasaki, S.F. Gabby Krens, Yumi Osada, Satoshi Asaka, Akihiro Momoi, Sarah Linton, Joel B. Miesfeld, Brian A. Link, Takeshi Senga, Atahualpa Cas=llo-­‐
Morales, Araxi O. Urru=a, Nobuyoshi Shimizu, Hideaki Nagase, Shinya Matsuura, Stefan Bagby, Hisato Kondoh, Hiroshi Nishina*, Carl-­‐
Philipp Heisenberg* and Makoto Furutani-­‐Seiki* (*Corresponding authors) YAP is essen)al for )ssue tension to ensure vertebrate 3D body shape. Nature 521, 217-­‐221, 2015. �
脊椎動物の器官形成に関与する遺伝子を網羅的に同定する目的で、大規模なメダカ変異体スクリーニングが行われた(ERATO近藤分化誘導プ
ロジェクト, 1998-­‐2007年)。私の研究グループは、肝形成不全メダカの単離を目的に本プロジェクトに参加し、興味深い変異体を複数単離すること
に成功した。このうち体全体が扁平になるユニークな表現型を示したメダカ変異体を、hirame(ヒラメ)と命名した(図)。hirame変異体では、肝臓の
原基である前腸の形成不全を示した。英国バース大学の古谷-­‐清木誠室長、オーストリアISTの Carl-­‐Philipp Heisenberg教授らとの国際共同研究の結果、1)hirame変異体の原因遺伝子は、細胞競合との関 連が示唆されている転写共役因子YAPであること、2)hirame変異体では、重力に抵抗する細胞張力が低下す ること、3)遺伝子発現を介した細胞骨格アクトミオシンネットワークの重合・脱重合の調節不全が生じること、 4)細胞間の接着に関与する細胞外基質のフィブロネクチンに異常が生じることが明らかとなった。これらの 結果は、YAPが細胞張力を調節することで、脊椎動物の3次元器官形成を制御することを示唆する。未だ不明 な点が多い3次元器官形成メカニズムの一端を解明した研究成果である。 図1 大規模スクリーニングによって単離された扁平メダカhirame変異体
YAP
YAP
井垣班 *Nakamura M, *Ohsawa S, Igaki T Mitochondrial defects trigger prolifera=on of neighbouring cells via a senescence-­‐associated secretory phenotype in Drosophila. (*equal contribu=on) Nature Communica.ons 5: 5264, (2014)�
細胞老化を起点とした細胞間コミュニケーションによるがん進展 がん微小環境におけるヘテロな細胞集団内の細胞間コミュニケーションは、細胞同士の競合と協調 を通じてがんの発生・進展に重要な役割を果たすと考えられる。我々はこれまで、ショウジョウバエを用 いて細胞間コミュニケーションを介した腫瘍悪性化に関わる因子の探索を行い、ヒトのがんで高頻度に 認められる2つの変異(Rasの活性化とミトコンドリアの機能障害)を同時に起こした細胞(RasV12/mito-­‐/-­‐) がその周辺細胞のがん化を促進すること見いだしてきた(Ohsawa et al., Nature, 2012)。今回、この RasV12/mito-­‐/-­‐変異細胞が「細胞老化」を引き起こし、SASP (Senescence-­‐Associated Secretory Phenotype) を介して周辺細胞の増殖と浸潤・転移を促すことを見いだし、そのメカニズムを明らかにした (Nakamura et al., Nat Commun, 2014)(図1)。この結果は、細胞老化現象とSASPが無脊椎動物におい ても進化的に保存されていることを初めて示すとともに、前がん組織内で細胞老化を起こした細胞が がん原性の「ニッチ」細胞となり、これを起点として細胞間コミュニケーションを介した腫瘍悪性化が駆 動される可能性を示している。
藤田班 Kajita M., Sugimura, K., Ohoka, A., Burden, J., Suganuma, H., Ikegawa, M., Shimada, T., Kitamura, T., Shindoh, M., Ishikawa, S., Yamamoto, S., Saitoh, S., Yako, Y., Takahashi, R., Okajima, T., Kikuta, J., Maijima, Y., Ishii, M., Tada, M., and Fujita, Y. (2014) Filamin acts as a key regulator in epithelial defence against transformed cells. Nature Communica3ons doi: 10.1038/ncomms5428.�
Filamin acts as a key regulator in epithelial defence against transformed cells
私たちの研究室では、がん蛋白質であるv-SrcやRasV12で変異した細胞が正常上皮細胞に囲まれると、細胞層の頭頂側
にはじき出されること(apical extrusion)をすでに報告しているが、その分子機構については不明な点が多い。私は生化学
的スクリーニングによって、正常上皮細胞とv-Src変異細胞の境界で特異的に機能している分子として、filaminとvimentinを
同定した。これらの分子は変異細胞に隣接する正常上皮細胞内において、変異細胞を取り囲むように濃縮していた。また、
filaminはvimentin の上流で作用し、v-Src変異細胞のapical extrusionを誘導していることもわかった。これらの現象は
zebrafish胚を用いたin vivoにおいても確認でき、filaminによる変異細胞への作用は種を越えて保存されていることが示唆さ
れた。以上の結果は、発癌の初期段階においては、変異細胞に隣接する正常上皮細胞に、変異細胞を排除する機構
(EDAC:Epithelial Defence Against Cancer)が備わっていることを示唆するものである。
?
Transformed cell
Neighboring
normal cell
Apical
Rho
Myosin-II
Rho
kinase
FLN
PKC¡
p vim
Basal
Basal extension
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Apical extrusion
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