「寝たきり予防」 - JAグループ茨城

平成 27 年 4 月 29 日放送
「寝たきり予防」
なめがた地域総合病院
リハビリテーション部 理学療法士 藤嵜有佳里
司会: 「寝たきり予防」ということですが、寝たきりになるとどのようなことが起こるの
でしょうか。
藤嵜: 寝たきりになってしまうと様々な弊害が生じます。たとえば、関節が固くなってし
まったり、筋力が低下したり、心肺機能や体力が低下したり、急に起きるとめまい
がする起立性低血圧になったり、床ずれができたり、認知症の発症や悪化が生じる
こともあります。現在、日本の高齢化率は 25.1%で、4 人に 1 人が 65 歳以上の高
齢者です。茨城県内では県北、鹿行地域では 30%に上る市町村もあります。当院
のある行方市も例外ではなく高齢化率 31.0%であり、高齢者が多く入院されてい
ます。将来的には高齢化率はさらに上昇するという推計が出てきます。
司会: 高齢者が増えていますね。最近では健康寿命という言葉も耳にしますが、平均寿命
と何が異なるのでしょうか。
藤嵜: 健康寿命とは健康上問題がなく、日常生活を送れる期間をさします。2013 年にお
ける日本の平均寿命は男性 80.21 歳、女性 86.61 歳であるのに対し、健康寿命は男
性 71.19 歳、女性 74.21 歳です。平均寿命と健康寿命に差があり、男性は 9.02 歳、
女性は 12.14 歳です。この期間は日常生活に支障をきたす期間を表し、誰かの手を
借りて生活を送る、つまり介護が必要になるということになります。
司会: 現在介護が必要となる原因はどんなものがあるのでしょうか。
藤嵜: 厚生労働省の発表では介護が必要となった原因の第 1 位から順に脳卒中、認知症、
高齢による衰弱、転倒・骨折、関節疾患です。今回は、転倒・骨折の予防を中心に
ついてお話したいと思います。一度転倒したことのある方は恐怖心や不安を持ち歩
かなくなったり、再び転倒する確率も高いというデータもあります。
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司会: 転倒・骨折の予防にはどうような対策がありますか。
藤嵜: 転倒・骨折の予防には転ばない体を維持する、正しい歩き方をする、適切な環境を
作る、骨粗鬆症の予防などがあります。まず、転ばない体を維持するということで
すが、ヒトは加齢とともにさまざまな変化が生じ転びやすくなってしまいます。も
しバランスを崩しても次の一歩、そして二歩目がでれば転倒は防ぐことができる可
能性が高くなります。必要最低限の関節の柔らかさ、筋力、バランス能力などが不
可欠です。歩き方は背筋を伸ばし、あごを引いて、2-3m先をみるようにして、踵
からついてつま先で地面を蹴るにします。腰が曲がると視線は下を向き、歩幅も狭
くなってしまいます。転びやすいのであれば、杖やシルバーカー、歩行器などの歩
行補助具の使用を検討してみてください。杖は平らな場所だけでなく段差のあると
ころでも使うことが出来、大変便利です。杖を使うことによって足二本で立つより
も支える面積が増え、関節への負担を減らし、痛みを軽減できます。さらに安心感
が持て精神的な効果も期待できます。でも、リハビリの仕事をしていると、杖の使
い方を勘違いされている方を目にすることがあります。
司会: 杖はどのように使ったらよいのでしょうか。
藤嵜: 利き手に杖を持つ方がいらっしゃいますが、杖は利き手に持つものではないんで
す。悪い方の足と反対側に持ちます。右足が悪い方は左手で杖を持ちます。杖の長
さは足の小指から 15 センチ離れたところに杖をついて、肘が 30°ほど曲がる位の
高さが理想的です。腰の曲がっている方は肘を曲げやすい高さで調節してください。
適正な長さに変えるだけでも安定性が増します。杖をお持ちの方は、杖先のゴムの
状態を確認してください。すり減ったり、すり切れたりしていないでしょうか。素
材がゴムなので、劣化やすり減りが生じます。すり減っていると滑りやすくなりま
す。安全に使うためにもゴムの点検を行い、必要であれば交換をしてください。替
えゴムの購入は介護用品を扱っている店舗や病院に相談してみてください。
司会: シルバーカーや歩行器での注意点はありますか。
藤嵜: シルバーカーや歩行器も種類が豊富です。ブレーキの有無、車輪の可動性など細か
なところに違いがあります。どちらも杖より安定性がありますが、段差は苦手で、
平らな場所の移動に適しています。シルバーカーは外出先やお散歩での休憩に使え
る椅子のついているタイプのもののあります。ご自身の歩行能力や生活スタイルに
合ったものを選んでください。
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司会: 適切な環境とはどういうことでしょうか。
藤嵜: 転びやすい場所は廊下、寝室、居間、トイレ、段差、歩道などで、屋内が多く、日
常で使う場所がほとんどです。こたつ布団につまづいて転倒する方もいます。大き
な段差は目で見て段差と認識して足を出しますが、小さな段差は気づかないことや、
気づいても目測を誤って足の上がりが不十分でつまづくこともあります。必要な場
所に手すりを設置する、段差をなくす、ライトをつけ明るくし段差をわかりやすく
する、歩きやすいよう整理整頓するなどの対策があります。一度生活環境を見直し
てみましょう。他にも、バランスが悪い方に後ろから声をかけないということです。
後ろを振り返った拍子に転倒する方もいます。周囲の方が気をつけるだけでも転倒
を予防することができるかもしれません。
司会: 骨粗鬆症の予防にはどのようなことがありますか。
藤嵜: カルシウムだけでなくビタミン D、マグネシウムなどを多く摂り、バランスの良
い食事を心がける、日光浴をすることでビタミン D を合成しカルシウムの吸収を
促す、骨への適度な負荷を加えるなどがあります。特に足の骨への負担をかけるこ
とが大切です。寝てばかりいると骨がもろくなりやすいのはこのためです。
司会: その他に何か対策はありますか。
藤嵜: 脳卒中や心筋梗塞は生活習慣病といわれ、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満など
の基礎疾患がある方が多いです。予防としての運動療法は有酸素運動といわれる全
身を使ったウォーキングやジョギング、サイクリングなどの運動を週 3 回 20 分程
度行うと良いとされています。改めて運動するのが大変という方は、普段の生活で
ちょっとした工夫をしてみるのはいかがでしょうか。少し早歩きをする、少し遠回
りする、
テレビを見ながら足を動かすなどほんのちょっとしたことから始めてみる
のはいかかでしょうか。認知症予防のためにも生活にメリハリをつけ、刺激を減ら
さないことも重要です。
司会: 普段から気をつけることが寝たきり予防になるのですね。
藤嵜: 最後になりますが、寝たきりにならないために今からできることをコツコツと
行っていくことが大切です。自分自身の将来のことを考えることも必要ですが、
ご家族など身近な方の寝たきり予防も考えていただけたら幸いです。
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