14. 電子材料物性学研究部門 松岡 隆志 - Act IMR 金属材料研究所の

14. 電子材料物性学研究部門
部門担当教授
松岡 隆志
(2008.4 ~)
【構成員】
教授:松岡 隆志/准教授:片山 竜二(2009.4~)/助教:花田 貴、劉 玉懐/
教育研究支援者:Venkatachalam Suresh. Kumar/CREST 研究員:紀世陽/JSPS 外国人特別研究員:張 源涛/
事務補佐員[1 名]/大学院生[5 名]/学部生[2 名]
【研究成果】
温度安定性に優れた半導体材料として期待されている InN の高品質化の研究を進めている。InN 薄膜のエ
ピタキシャル成長法として、発光ダイオードや半導体レーザの作製に広く用いられている有機金属気相成長
(MOVPE)法を採用した。InN 成長表面における気相-固相間での高い窒素平衡蒸気圧 PN に打ち勝つために、
一般に成長炉内の窒素分圧を高く保つことが求められる。従来から保有していた縦型反応炉で発生するガス
の熱対流を避けるため、横型反応炉に改造し、成長可能条件を示す相図を作成した。縦型反応炉に較べ、高
品質成長に有利な成長温度の高温化が可能となり、結晶品質を示す一指標であるX線回折線幅を一桁低減
でき、結晶性の改善を見た。また、成長速度も 20~30 倍向上した(Ref. 1)。さらなる高品質結晶を得るために
は、用いているサファイア基板上へのヘテロエピタキシャル成長では、結晶島の融合の形態が重要である。当
研究室では GaN 成長において、加圧下での成長では結晶島の形態が膜の緻密化に有効な形態に有ることを
すでに明らかにしている。そこで、InN のより高品質成長を狙いとして、加圧下で成長を可能にする成長装置を
新たに設計・開発し、導入した。加圧成長によって、高品質成長を可能にするファセットを有する結晶島の形
成とその凝集による平坦膜の実現に成功した(Ref. 2)。また、加圧型 MOVPE 装置を用いることによって、減圧
炉の場合より高温での成長が可能となり、単結晶成長領域を拡大できた。従来の炉圧 650 Torr および成長温
度 600°C で成長した InN 膜においては、サファイア基板表面の一部が露出しており、InN の被覆率が低く、結
晶の緻密性が損なわれていた。一方、今回開発した加圧型 MOVPE 装置で可能となる 2400 Torr での加圧成
長によって、サファイア基板が全面被覆され、より緻密な構造となった。
発光デバイスへの応用に向け、残留キャリア濃度 ne の低減は、重要な課題である。残留キャリア濃度の測定
には、非破壊測定が可能であり、面内分布の測定も可能な赤外反射率測定法を用いた。測定に用いた試料
は、成長圧力 1600 Torr および 2400 Torr において V/III 比 25,000 の条件下でサファイア基板上に直接成長
した InN 薄膜である。成長温度 500°C から 700°C の間では、成長温度の上昇とともにキャリア濃度が減少し
た。高温では、気相から結晶表面に飛来してきた In 原子の運動エネルギが大きくなり、In 原子は結晶表面上を
移動しやすく最も安定なサイトに吸着され、高品質結晶が成長していると考えられる。成長温度 700°C におい
て、最もキャリア濃度が低下し、およそ 1×1019cm-3 と見積もることができた。この結果は、加圧および高温条件
での成長によって、さらなる低キャリア濃度実現の可能性を示唆している(Ref. 3)。
Ref. 1 Y. H. Liu, T. Kimura, T. Shimada, M. Hirata, M. Wakaba, M. Nakao, S. Y. Ji, and T.
Matsuoka, “MOVPE Growth of InN: A Comparison between a Horizontal and a Vertical
Reactor”, phys. stat. sol. (c), 6(52), pp. S381-S384 (2009).
Ref. 2 T. Matsuoka, “New Trends of Nitride Semiconductors”, 2009 International Symposium
Opto-mechatronic Technol. (ISOT) (Istanbul, Turkey, Sept. 21-23), plenary lecture.
Ref. 3 M. Hirata, Y. H. Liu, Y. T. Zhang, T. Kimura, K. Prasertsuk, R. Katayama, and T.
Matsuoka, “Evaluation of Carrier Density of Pressurized-MOVPE Grown InN by using
FTIR Spectroscopy”, 2009 Asian Core Workshop on Wide Bandgap Semiconductors in
Korea, SI-1 (Gyeonju, Korea, Oct. 23-24, 2009).
【研究計画】
加圧 MOVPE 装置を用い、InN 成長の可否を示す相図の圧力依存性を究明し、成長条件を最適化する。ま
た、下地サファイア基板の微傾斜角を変化させ、基板のステップ幅を制御し、InN の結晶性との関連を明らか
にする。また、基板の濡れ性を改善するため、低温 InN または GaN 中間層を用いて、InN の結晶性の向上を目
指す。また、現在開発中の新しい格子整合基板上に、格子整合成長を試み、InN の高品質化を図る。以上の
技術を確立した後、ダブルヘテロ(DH)構造の成長に移行する。ここでのポイントは、閉じ込め層としての材料
である InGaN の InN 層上への高温成長である。ここでも加圧成長が可能なことを応用して、成長温度の高温化
を図り、高品質化を実現し、pn接合形成のためのp型化につなげる。電流注入による InN からのルミネッセンス
の観測と、光励起によるレーザ発振を今年度の研究目標とする。本研究の最終目標である温度安定性に優れ
た光ファイバ通信用光源としての半導体レーザの実現を目指す。