the Report - Carbon Tracker Initiative

燃やせない炭素 2013
資本浪費と座礁資産
協力実施団体
2|
カーボン・トラッカー
について
カーボン・トラッカーは、資本市場を気候変動政策アジェ
ンダと連携させるよう努めている非営利組織である。炭素
予算と座礁資産についての見解をさまざまな地域や資産ク
ロンドン・スクール・オブ・ 謝 辞
エコノミクス(LSE)
本報告書に寄稿したのは、James Leaton、Nicola
Ranger、Bob Ward、Luke Sussams、Meg Brownで
グランサム気候変動環境
ある。報告書のレビューを行ってくれたMark Campanale、
Nick Robins、Alice Chapple、Jemma Green、Chris
研究所について
Duffy、Alex Hartridge、Jeremy Leggettに感謝し
ラスにわたって適用し、投資家の思考と資本市場の規制に
たい。また、live.magicc.orgの使用を助けてくれた
情報を与えている。米国および英国の数多くの慈善団体か
グランサム気候変動環境研究所は、ロンドン・スクール・
PIK Potsdam、データ編集をしてくれたCook ESG
ら資金提供を受けている。
オブ・エコノミクス(LSE)に2008年に設置された。気
ResearchのJackie Cook、デザインを行ってくれたDHA
候変動と環境に関する政策関連の研究、教育、研修で世界
CommunicationsのDavid Caseyにも御礼を申し上げる。
われわれのデータを画像で検討したい、あるいは調査結果
をリードするセンターたるため、経済学、財政学、地理学、
を他者と共有したい、自らの年金基金にリスク管理の状況
環境学、国際開発学、政治経済学の国際的な知見を集めて
Copyright © 2013 (Carbon Tracker & The Grantham
を問い合わせたいといった場合は、次のサイトのオンライ
いる。グランサム環境保護財団からの資金で運営されてお
Research Institute, LSE)
ンツールを利用されたい。
り、同財団はインペリアル・カレッジ・ロンドンのグラン
www.carbontracker.org/wastedcapital
サム気候変動研究所への資金提供者でもある。
問い合わせ先:
研究部長(Research Director)
自らのポートフォリオの、化石燃料の埋蔵量へのエクスポ
ジェームズ・リートン(James Leaton)
ージャーに関心がある投資家の方は、われわれに直接、あ
[email protected]
www.carbontracker.org
twitter: @carbonbubble
るいはわれわれのブルームバーグのページを通じてご連絡
いただきたい。
問い合わせ先:
政策&広報部長(Policy & Communications Director)
ボブ・ワード(Bob Ward)
[email protected]
www.lse.ac.uk/grantham/
twitter: @GRI_LSE
免責条項
カーボン・トラッカーおよびLSEグランサム研究所は投資顧問ではなく、いかなる特定の企業または投資ファンド、またはその他の商品に対しても、投資の可否を一切示すものではない。このような
いかなる投資ファンドまたはその他の主体に対しても、投資を行う決定は、本書に示されるいかなる記述も信頼して行われるべきではない。当団体は信頼に足ると思われる情報を入手したが、本文書
に含まれる情報に関連するいかなる性質のいかなる請求または損害(逸失利益、懲罰的損害、間接的損害を含むがこれらに限定されない)に対しても責任を負わない。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 3
目次
要旨
読者の皆様へ
4
われわれが2011年に出した最初の報告書は、地球温暖化を
目を向けさせた。この分析に対する彼らの反応を、大いな
摂氏2度未満に抑える際に許容される炭素予算の現在の理解
る関心を持って待ち構えている。
に基づくと、世界の資本市場の上場企業は燃やせる量以上
まえがき
はじめに
1. 世界のCO₂予算
2. 世界の上場企業の石炭、石油、天然ガス
埋蔵量・資源量
3. 気候リスクにかかわる市場規制の進化
4. 株式評価および信用格付けへの影響
5. 投資家への影響
6. 今後に向けて:結論と提言
7
8
9
14
23
27
に化石燃料を抱えていることを示した。2度は広く受け入れ
このすべてを考慮に入れ、またカーボン・バブル問題にお
られている地球温暖化の危険閾値であり、数多くの政府が
ける利害関係を心に留めて、われわれはこの世界的な報告
すでに行動を起こし始めている。『燃やせない炭素』報告
書第2版ができるだけ幅広い読者層に役立つよう願ってい
書初版は、企業ごとに、そして証券取引所ごとに、いかに
る。われわれが扱っているのは、資本市場研究のアナリス
ひどい行き過ぎが起きているかの定量化を初めて行うもの
トとエコノミストを超えてはるかに広い関与を求めるリス
だった。政府が排出量に関してするつもりだと言っている
ク軽減策であると認識している。例えば年金評価への利害
こと、あるいはそのごく一部でも実行する可能性を、金融
関係を考えれば、万一カーボン・バブルが膨らみ続けるな
システムの中のどの部分の資本市場の関係者も認識してお
ら、一般市民は必ず心配になるはずだ。したがって、最初
らず、ましてやその可能性の定量化もしていないことを示
の報告書の発表後、燃やせない炭素のメッセージに活動家
した。これがいかに機能不全であるかを指摘し、膨らむ一
たちが広く同調したことを歓迎する。特に注目に値するの
方のカーボン・バブルを収縮させるために金融システム全
は、ビル・マッキベンが2012年8月に雑誌『ローリング
体の関係者、とりわけ規制当局がやらなければならないこ
ストーン』誌に書いてたびたび引用されている記事「地球
とを描いた。
温暖化の恐るべき新しい計算」や、それに基づいて「350.
32
36
org」が行ったキャンペーンである。そのような市民参加を
この報告書第2版は、さらに深く掘り下げるものである。そ
称賛したい。本報告書で行った、より深い分析が、さらな
れにあたって、グランサム研究所および、気候変動の経済
る刺激を与えるよう願っている。
学の第一人者であるスターン卿と連携できたことを、とり
参考文献
38
わけうれしく思う。
カーボン・トラッカー
会長 ジェレミー・レゲット
カーボン・トラッカーの成果は今、株式公開企業の評価シ
ナリオに炭素予算が何を意味し得るのかについて、HSBC
やシティグループなどの銀行や、格付け会社スタンダー
ド&プアーズが、思考を集中させるのに役立っている。国
際エネルギー機関(IEA)は気候とエネルギーの関係に関
する特別な調査を行っており、この中でカーボン・バブル
を考慮することになるであろう。われわれは協力者とと
もに、この問題にイングランド銀行の金融安定委員会の
創設者兼取締役 マーク・キャンパネール
4|
要旨
が燃やせないことを確認した。
どCO₂以外の排出量が大幅に削減されると想定しているた
もし上場化石燃料企業が地球の炭素予算を案分した配分を
すべての化石燃料を使用すると、地球の二酸化炭素予
算に反する
め、大きな値になっている。つまり、より大きなCO₂予算
受けるなら、その量はおよそ125~275ギガトンCO₂とな
を適用できるかどうかは、廃棄物や農業などの分野でCO₂
り、現在埋蔵量として計上されている762ギガトンCO₂の
以外の排出量を削減するようさらなる行動を起こせるかに
20~40%となる。この炭素予算の赤字の規模は、投資家
かかっている。
に重大なリスクをもたらす。投資家は上場企業の石炭・石
2010年に各国政府は「カンクン合意」において、産業革
上場企業は炭素予算の赤字に直面する
このCO₂予算は、地球温暖化ポテンシャルの高いメタンな
命前の水準に比べ地球の平均気温の上昇幅が摂氏2度を超
油・天然ガス埋蔵量の60~80%が燃やせないことを理解し
えるのを防止するために排出量が削減されるべきであるこ
研究では、他の気温目標の場合に燃やせる化石燃料の量が
とを確認し、これを1.5度に引き下げる可能性も示した。以
どうなり得るかも検討した。その分析の結果、例えば地球
前の分析でカーボン・トラッカーと国際エネルギー機関
の平均気温の上昇幅が3度以上など、はるかに意欲にかけ
ロンドンとニューヨークの証券取引所が炭素集約型に
(IEA)が用いたモデリングにより、「2度シナリオ」の炭
る気候目標であったとしても(その場合、われわれの社会
なりつつある
素予算(carbon budget)が2050年までに565~886ギ
経済に著しく大きな影響を及ぼす)、やはり今から2050年
ガトンCO₂(二酸化炭素換算)であることが示された。こ
までに化石燃料の埋蔵量の使用が著しく制約されることが
ニューヨーク市場に内包される炭素は、石油が支配してい
の値は、CO₂以外の温室効果ガス排出量(メタンや一酸化
分かるという結論が出ている。
る。内包される炭素の水準は2011年以降37%増加した。
なければならない。
ロンドン市場はそれよりも石炭に集中しており、総CO₂エ
二窒素など)が高水準を維持すると想定したものである。
炭素回収・貯留が結論を変えることはない
クスポージャーが同期間に7%増加した。しかし、とりわ
けサンパウロ、香港、ヨハネスブルグなど、他の市場の方
しかしこの予算は、世界の化石燃料の推定埋蔵量に内包さ
れた炭素2860ギガトンCO₂のごく一部に過ぎない。予防的
炭素回収・貯留(CCS)技術は、化石燃料燃焼の予算を広
が、全体規模に比べて内包される炭素が多い。南方や東方
なアプローチをとると、2050年までに化石燃料の総埋蔵
げる可能性を有する。IEAの理想的シナリオ(まだ確保され
の市場は、主に石炭開発の資本を調達している。
量のわずか20%しか燃やせないことになる。従って、世界
ていないある水準の投資を想定)を適用したときに拡大す
経済はすでに座礁資産の見通しに直面している。現在の投
る2050年までの予算は、わずか125ギガトンCO₂である。
資動向が続けば、この問題は悪化するしかないと思われる。
要するにカーボン・バブルである。
さらなる埋蔵量を発見・開発するのに使われる資本は
ほとんどむだになる
2050年以降の予算は制約される
投資家および預金者のリスクを最小化するためには、資本
炭素予算のストレステスト
「2度シナリオ」を達成するためには、2050年以降対策な
の流れを高炭素のオプションから他に変えなければならな
しで燃やせる化石燃料はほんのわずかしかない。負の排出
い。しかしながら、本報告書の試算では、石油・天然ガ
カーボン・トラッカーは、ロンドン・スクール・オブ・エ
技術がない場合、80%の確率で2度目標を達成するには今
ス・採鉱企業の上位200社が昨年さらなる埋蔵量と新た
コノミクス(LSE)グランサム気候変動環境研究所と協力
世紀後半の炭素予算はわずか75ギガトンCO₂となるだろう。 な採掘方法を発見・開発するために配分した額は、最大で
して、炭素予算のストレステストを行う新たな分析を実施
これは現在の水準でわずか2年あまりの排出量に相当する。
6740億ドルにのぼっていた。この支出の大部分が内部留保
した。この分析は、80%の確率で摂氏2度未満に抑える場
よって、2050年以降に化石燃料ルネッサンスが起こり得る
から拠出されており、これらの資金が気候安全保障に合致
合に利用できる予算が900ギガトンCO₂、50%の確率の場
という考えには根拠がない。
し財務的に有利な機会に投じられるように株主が監督する
合は1075ギガトンCO₂であると試算し、化石燃料の大部分
責任があることを示している。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 5
新しいビジネスモデルが求められる
評価と格付けはいつも座礁資産に価格を付けているわ
もっと良い計算をする
けではない
現在の資本的支出のペースでいくと、今後10年間に化石燃
機関投資家は、投資のリスクと機会の公正な評価を行うた
料の開発に配分される額は6兆ドルを超えるだろう。炭素予
ここで分析する化石燃料企業200社は、市場価値が4兆ド
めに、より良い、より未来志向の投資評価を必要とする。
算には制限があり減少しているため、この金額のほとんど
ル、負債が1.5兆ドルである。資産保有者と証券アナリスト
埋蔵量置換率(RRR)は、今後の埋蔵量の余剰率となるお
が燃やせない資産にむだに使われているリスクがある。上
が、燃やせない炭素の影響の調査を始めた。HSBCの分析
それがある。これまで企業を評価し経営陣を鼓舞する役割
場企業は、市場にのしかかる内包される炭素の負荷を1541
では、低排出シナリオで株式評価が40~60%下がり得る
を果たしてきた業績指標は、覆されつつある。アナリスト
ギガトンCO₂に倍増させるような、未開発の化石燃料資源
ことが分かっている。同時に化石燃料企業の債券は、近年
から保険計理士に至る金融仲介機関は、より先見の明のあ
に関心を示している。株主にリターンされる資金と、低炭
スタンダード&プアーズで示されたように、格付けが引き
る分析を資産保有者に提供するために、多様な将来の排出
素の機会に投資される資本と、さらなる埋蔵量の開発に使
下げられやすくなるおそれがある。このように格下げが起
シナリオに対し、バリュー・アット・リスク(VaR)のス
われる資本の3つの間の現在のバランスを変えなければなら
きれば、企業が資金借り入れで高い金利を払うことになる
トレステストを行う必要がある。このためには、資産保有
ない。化石燃料収入を埋蔵量置換に再循環させる従来のビ
だろう。あるいは、もしも格付けが投資適格より下がれば、 者が、ただこれまで通りではなく、起こり得るさまざまな
ジネスモデルはもはや妥当ではない。
債務の借り換えに苦労するおそれがある。
リスクを再定義しなければならない
過去のパフォーマンスのみに依存する財務モデルは、
投資家にとって不適切な指針である
影響を検討するような評価モデルを、投資顧問に要求しな
ければならない。
投資プロセスは現在、指数など市場のベンチマークのパフ
規制当局と投資家は、システミック・リスクへのアプ
ローチを再考しなければならない
ォーマンスからどれだけ乖離しているかでリスクを定義す
しかし株式市場も信用市場も、財務モデルでこのリスクに
る傾向にある。従って、投資家およびその顧問は、化石燃
体系的に価格を付けていない。今後も上場企業所有の化石
燃やせない炭素に関連して金融市場の安定を脅かすシステ
料部門の絶対的な価値損失のリスクよりも、(金融ベンチ
燃料が開発・販売され続け、放出された資金が新規の発
ミック・リスクは2011年以降増大しており、確実性は減る
マークに対して)自分のポートフォリオが市場平均を下回
見で埋蔵量を置換するのに使われ続けるであろうとの暗黙
どころか増している。市場は評価と資本配分において、低
ることをはるかに恐れる。低炭素への移行で本質的な価値
の想定がある。炭素予算が減少している状況において、こ
炭素経済への長期的な移行を要因として考慮することがで
がリスクにさらされていることにもっと着目する必要があ
のような評価モデルは投資家に不適切な指針を与えており、 きていないようだ。市場参加者が短期的な指標で動かされ
る。
再調整される必要がある。
ている中、規制当局は、気候変動によりもたらされるシス
テミック・リスクへのアプローチを再考する必要がある。
透明性とリスク管理の向上は、秩序ある市場を維持し、資
本浪費と壊滅的な気候影響を防ぐ上で不可欠である。
6|
財務大臣
投資顧問
証券監督者国際機構(IOSCO)等
投資ベンチマークから乖離
の機関と連携し、資本市場のシステ
するリスクではなく、将来シナ
ミック・リスクの評価と管理に気候変
リオの確率に基づき顧客のポート
動を組み入れる国際プロセスを開始
フォリオにおける潜在的な座礁資
する。このプロセスを推進する上で、
個人
産によるバリュー・アット・リス
G20が適切な場となり得る。
クを反映するように、リスク
保険計理士
自分の年金基金と投資信
さまざまな排出シナリ
託会社がどのように気候リスク
オの確率を計算に入れる
に対処しているかについてその会社と
ように、年金の評価に使
面談し、その会社が潜在する資本のむだ
われる資産・負債モデ
づかいと座礁資産を管理する戦略を有する
ルを再考する。
を再定義する。
ようにする。
自分の年金基金と投資信託会社のファン
ド・マネージャーと面談し、マネージャー
が気候リスクと資本配分について
炭素予算アプローチをとる
ようにする。
金融規制当局
企業に、化石燃料の埋蔵量に内包される
提言
潜在的なCO₂排出量の情報を公開するよう命
本報告書は、政府、金融仲介
じる。
機関、機関投資家、市民によ
埋蔵量に内包されるCO₂を再考し、国際規制機関お
る行動を提言する。
よび立法機関に潜在的なシステミック・リスク評価
投資家
を報告する。
企業に、排出削減を達成した結果付随して起こり
規制当局、アナリスト、格付け機関、顧問、保険計理士
得る価格と需要の低下を考えた場合、自社のビ
に対し、それぞれが気候・排出量リスクに沿わない金融シ
ジネスモデルがいかに排出削減の達成と合
ステムに行っている関与のストレステストを、特に評価と
致するかを、規制に基づく書類にお
リスクの引き受けについて行うよう、要求を表明する。
いて説明するよう命じる。
株主の資金を使って高コストの化石燃料事業を展開している
企業の戦略の正当性を問う。さらなる化石燃料の探査と開発
アナリスト
将来のパフォーマンスが過去の
踏襲とならないかどうかの評価の
ストレステストを行うための代替指
標を開発する。
異なる排出シナリオの影響と確
率を織り込む代替的な研究
を行う。
に投資を続けそのリターンを求める戦略をとっている企業
格付け機関
先見の明のある分析を
提供するため、気候リスク
の体系的な評価を各部門の
手法に組み入れるという
困難に挑戦する。
の資金配分を調査する。炭素集約型の企業の株式保有を減
らし、炭素リスクの再均衡を行った指数をパフォーマン
スのベンチマークとして用いる。気候の安定に沿った
別の機会に資金を再分配する。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 7
スターン郷によるまえがき
賢明な投資家はすでに、世界的合意に沿って排出量を減ら
もしこのような評価リスクの透明性がもっと高まれば、現
す必要性から、ほとんどの化石燃料の埋蔵量が本当のとこ
在化石燃料に特化している企業は、自社商品の需要が今後
ろ燃やせないことを見て取っている。化石燃料の埋蔵量を
数十年で急激に下がるだろうという事実を考慮に入れた新
本報告書は、現在の化石燃料資産の評価と、各国政府が巨
絶えず補充することにひとえに、あるいは大幅に頼ってい
しいビジネスモデルを開発できるようになるだろう。そし
大な気候変動リスクを管理するためにとると約束した道筋
る企業に投資することは、非常にリスクを伴う決断になり
て、自社の価値を維持するために多角化の選択肢を考慮に
との間にある、ひどい矛盾を非常に明快に示している。
つつあることが分かるのだ。
入れられるようになるだろう。また投資家も、高炭素資産
に固執する方がいいのか、あるいはそうではなく低炭素経
もし化石燃料の現有埋蔵量をすべて燃やせば、地球の気温
は何百万年も経験しなかった水準まで上昇し、先史時代の
気候を生み出せるだけのCO₂を排出することになろう。こ
のような世界は今日の世界とは完全に異なる。洪水や干ば
つなど極端な気象現象の強度と頻度が変わり、海面上昇が
世界中の海岸線を引き直し、砂漠化が人々の住める地域の
見直しを迫ることになるのだ。これらの影響は集団移住を
引き起こし、広範囲に紛争が起こる可能性が生じて、経済
しかし本報告書により、規制当局も気 済の恩恵を享受する最高の位置にある企業に新たな可能性
を見出した方がいいのかを、考えられるようになるだろう。
付くことになるだろうと期待している。
なぜなら、現在の報告義務では、この 本報告書は、投資家と規制当局が必要としている、高炭素
ような不良資産となり得る炭素資産に 資産に深刻なリスクが高まりつつあることを示す証拠を提
供している。彼らがこうしたリスクをタイムリーかつ効果
内包されるリスクのほとんどは公に認 的な形でより適切に管理する手助けになるはずだ。
識されていないからだ。
の成長と安定を脅かし得る。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)教授兼
リスクが気付かれぬまま積み重なったときに何が起きるの
グランサム気候変動環境研究所所長
各国政府は、管理されていない気候変動が呈するリスクの
かは、金融危機で明らかになった。よって、企業と規制当
スターン・オブ・ブレントフォード卿
規模を認識し始めており、摂氏2度を超える地球温暖化を防
局が協力して、このような炭素に関連した評価リスクを公
止するため世界の年間排出量を削減することにすでに同意
に言明して定量化し、投資家と株主が最善のリスク管理方
している。2015年後半には各国政府がパリで開催される国
法を考えられるようにすることが重要である。
連気候変動枠組条約締約国会議に集結し、全員がこの目的
達成のための行動を約束する協定に署名することが期待さ
れている。
炭素回収・貯留(CCS)技術は、理論上は、排出量削減の
目的に合致しながら化石燃料を燃やせるようにする可能性
をもつ。しかし本報告書が示すのは、現在楽観的と考えら
れている展開シナリオでさえ、2050年までに消費できる化
石燃料の量にほんのわずかな違いしかもたらさないだろう
ということだ。
8|
はじめに
下の図は、化石燃料の燃焼による継続的な排出を当てにして循環する、資
金の流れを表している。本報告書は、この関係性をさらに探り、排出量を
適切な炭素予算内に収めた場合のフィードバック効果をいくつか明らかに
する。資本浪費と座礁資産の増大するリスクを反映できるように、現在の
金融システムがいかに適応しなければならないかを詳しく述べる。
£
負債
EBITDA
支払利息・税金・減価
償却・償却控除前利益
株式
CAPEX
資本的支出
LOGO
LOGO
企業
排出量
£
利子
埋蔵量の開発
配当金
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 9
1. 世界のCO₂予算
昇など、非常に深刻な影響のリスクが許容できない水準に
らだ。各国政府は現在、気候変動に立ち向かうため2015年
ある特定の気温の閾値に対する炭素予算を決める数多くの
1.1 CO₂予算とは
に新しい国際協定に合意する予定である。この中には、平
要素に関しては、以下のように、幅広い不確実性がある。
地球温暖化を引き起こしているのは、化石燃料の燃焼によ
含まれる可能性もある。
達するということが、科学的証拠により認識されているか
均気温の上昇を抑えるための、世界の年間排出量の目標が
る二酸化炭素(CO₂)を主とする、温室効果ガスの大気中
濃度の上昇である。どの期間をとっても、大体のところ累
本章では、次の質問について考察する。
積年間排出量により、濃度の変化ひいては温暖化の度合い
が決まるものだ。これはつまり、どの気温上昇幅について
1. どのような炭素予算を設定し得るか?
も、目標の閾値を上回る気温上昇を避けるためには超えて
はならない、CO₂を含む温室効果ガスの排出量の予算があ
それぞれの気温目標が、異なる炭素予算を意味する。ここ
るということだ。予算が大きければ大きいほど、温暖化を
では、1.5度、2.0度、2.5度、3.0度の気温上昇における
特定の水準に制限できる可能性は低くなる。
炭素予算を探る。それぞれの気温上昇に対し、50%の確率、
および80%の確率で地球温暖化をその水準に抑えるような
本分析では、CO₂のみの予算に焦点を当てて、これ以降
予算を定める。
◦気候感度(すなわち、大気中のCO₂濃度が倍増するとど
れだけ地球の気温上昇が起きるかを決める気候システム
の特性)
◦炭素循環フィードバック(化石燃料の燃焼によるCO₂排
出量がどの程度、海洋および陸地に吸収されるのか、ま
たは大気中に残るのか)
◦エアロゾルの水準(化石燃料の燃焼は、冷却効果をもた
らし温室効果ガスの温暖化効果を減らす二酸化硫黄など
の粒子も放出する)
◦化石燃料の燃焼以外のCO₂排出源(とくに土地利用変化
および森林)
これらの要素に関して立てた仮定については、概要をここ
「炭素予算」と称する。(これは、英国政府のすべての温
室効果ガスを含める炭素予算とは異なる。)炭素予算はそ
確率の決定
2. 炭素予算が対象とするのはどの期間か?
に示した上で、さらなる詳細は付随する技術文書に記載す
る。
れぞれ、特定の気温の閾値を超えない確率と関連付けられ
ている。これは、このような今後数十年にわたる複雑系の
ほとんどの政策論議で着目されるのが、2050年までに必要
予測においては避けられない不確実性の度合いを反映した
とされる年間排出量の削減である。しかしながら、2050
ものである。
年より先の排出量も地球の気温に関して重要な問題である。
ここでわれわれは2000~2049年および2050~2100年
国際的な気候政策アジェンダ
のCO₂予算を検討する。
各国政府は、温室効果ガス、主にCO₂の排出量を削減する
3. 炭素回収・貯留はどれだけの違いを生み得るのか?
ことにより、将来の気候変動リスクを管理する必要性を認
識するようになった。2010年に各国政府は国連の気候変動
炭素回収・貯留(CCS)は、化石燃料の燃焼によるCO₂が
の会合において、産業革命前の水準に比べ地球の平均気温
大気中に放出されるのを防ぐ技術である。したがってCCS
の上昇幅が摂氏2度を超えるのを防止するために排出量が削
は、ある特定の気温の閾値において、炭素予算を超えずに
減されるべきであることに合意し、これを1.5度に引き下げ
燃やせる化石燃料の量を増やせる可能性がある。われわれ
る可能性も示した。2度という目標が設定された理由は、そ
は、CCSの開発・展開の理想主義的シナリオが炭素予算に
れより高い気温では、世界の海水面の大幅で不可逆的な上
どの程度影響を与えるかを検討する。
10 |
別の仮定
1.2 炭素予算の分析
財務分析であろうと環境分析であろうとどの分析でもそうだが、枠組みを定める変数に関し
気温の閾値ごとの炭素予算
て何らかの基本的な仮定を立てる必要がある。財務分析で使われる割引率や将来の物価は、
アナリストによって異なるものだ。それと同じように、炭素予算を決定する要素は、最新の
今世紀ここまでの年間排出量を考慮に入れた上での、2013~2049年の化石燃料の炭素予
考え方を反映するように調整することができる。それでもなおどの方法も有効であり、ユー
算は以下の通りである。
ザーは可能性が最も高いと感じる分析を利用してよい。
最大の気温上昇幅(度)
本研究で行ったモデリングから示された予算は、以前のカーボン・トラッカーの報告書で参
2013~2049年の化石燃料の炭素予算
(ギガトンCO₂)
気温の閾値を超えない確率
50%
80%
されたものよりも大きくなった。そのアプローチでは、温暖化を80%~50%の確率で「2
1.5
525
-
度シナリオ(2DS)」に抑える場合、565~886ギガトンCO₂(CO₂換算ギガトン、ギガ
2.0
1075
900
トン=10億トン)の幅が示されていた。本研究では同じモデルを使用するものの、上述の
2.5
1275
1125
要素の一部についていくつか別の仮定を適用している。具体的には、
3.0
1425
1275
照した2009年のMeinshausenらの研究のモデリングや、国際エネルギー機関(IEA)で出
◦エアロゾルの大気中濃度を高めにした。これにより、温室効果ガスの温暖化効果の一部が
相殺される。
◦CO₂以外の温室効果ガス(地球温暖化係数が高い)の削減量を増やした。このため、CO₂
排出量を増やしても全体としてもたらされる温暖化効果は変わらない。
もしCO₂以外の緩和策(例えば埋め立て地のメタンの回収と再利用や、低炭素農業技術な
ど)を適用できる可能性がもっと高いことが分かれば、CO₂排出量で利用できる予算を増や
この結果から、地球温暖化を1.5度に制限できる確率はすでに80%より低いことが分かる。
これらの炭素予算は2050年以降も作動するモデルで作成されており、したがってこの後
の期間に対しても意味合いを持つ。
2050年以降の炭素予算
し得る。このような別の仮定を用いることにより、もし地球温暖化を2DSに制限するなら
ここでの主たる焦点は2013~2049年の化石燃料およびその他の排出源の炭素予算にある
化石燃料の大部分は緩和策なしには燃やせない、という以前の研究の結論全体を検証する上
が、2049年より後の予算もこの分析では重要である。2050~2100年における気温の閾
で、有用な参照値が得られる。
値ごとのCO₂総予算(化石燃料以外の要素も含む)を以下に示す。
最大の気温上昇幅(度)
2050~2100年の総炭素予算
(ギガトンCO₂)
気温の閾値を超えない確率
50%
80%
1.5
25
-
2.0
475
75
2.5
1175
650
3.0
1875
1200
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 11
これは化石燃料の利害関係者に対して、産業界からの排出量の累積的な影響が依然として存
とんど排出の余地はない。一部の排出経路では、土地利用と林業が2050~2100年に正味
在し、予算が2050年にリセットされるわけではないことを明快に示している。ここで確認
で負のCO₂排出量に貢献するかもしれないため、今回の数字が化石燃料の炭素予算の上限で
されるのは、今世紀の地球温暖化を抑えるつもりなら、ただ埋蔵量を燃やすのを後にすれば
はない可能性もある。
いいわけではないという事実である。実のところ1.5度と2度の目標の場合、2050年以降ほ
確率80%の場合の、2049年までおよび2050年以降の予算
4000
4000
3500
3500
3000
3000
2500
2500
ギガトンCO₂
ギガトンCO₂
確率50%の場合の、2049年までおよび2050年以降の予算
2000
1500
2000
1500
1000
1000
500
500
0
0
1.5
2
2.5
3
2100年までの最大気温上昇幅(度)
2013∼2049年の化石燃料使用による炭素予算
(ギガトンCO₂)
(確率50%)
2050∼2100年の化石燃料使用による炭素予算
(ギガトンCO₂)
(確率50%)
1.5
2
2.5
3
2100年までの最大気温上昇幅(度)
2013∼2049年の化石燃料使用による炭素予算
(ギガトンCO₂)
(80%の確率)
2050∼2100年の化石燃料使用による炭素予算
(ギガトンCO₂)
(80%の確率)
12 |
1.3 CCSが炭素予算を拡大させる
可能性
GCCSI(Global Carbon Capture and Storage
特定の気温上昇幅が生じる確率に対して示されたそれぞれ
Institute 2012)によれば2015年のCCS事業16件の平
の炭素予算は、2050年までに楽観的な水準でCCSが設置
均の年間貯留量が225万トンであるから、理想主義的シ
された場合にも125ギガトンCO₂しか増えないであろう。
ナリオでは2050年までに計3800件近くのCCS事業が稼
CCS技術は、世界中の数多くの実証プラントに装備され
働していなければならないことになる。
てきた。グローバルCCSインスティテュート(GCCSI)
(Global Carbon Capture and Storage Institute
り、合わせて年に約2300万トンCO₂が貯留されているとい
う。さらに現在8件の事業の建設が進んでおり、GCCSIの
推計では年間CO₂貯留量が2015年には約3600万トンへと
増える(つまり事業1件当たり平均の年間貯留量は約225万
トンになる)という。
IEA(International Energy Agency 2012)は、その
モデルによると「80%の確率で長期的な気温上昇を2度に
抑える」ような、技術オプションと政策方針を述べている。
ここには、2015~2050年に化石燃料の燃焼による大気中
への排出量125ギガトンCO₂がCCSで防止されるという理
想主義的シナリオも含まれる。
理想主義的シナリオでは、CCS技術により1年間に大気中
への排出が防がれるCO₂の量が2020年の0.3ギガトンCO₂
から2050年には8ギガトンCO₂に増大する。グラフは、理
想主義的シナリオにおいてCCSで除去される排出量と、約
80%の確率で温暖化が2度を超えないような排出経路とを
比べたものである。
化石燃料による年間排出量(ギガトンCO₂)
2012)の報告によると、大規模事業8件が現在操業中であ
35
30
25
20
15
10
5
0
0
2000
2005
2010
2015
2020
2025
年
対策なしの化石燃料による排出量
CCSで除去される排出量(理想主義的シナリオ)
2030
2035
2040
2045
2050
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 13
CCSは依然、広く展開される商用技術には程遠い。理論的
投資が実現された場合でも、2DSの予算は12~14%し
には予算を使い果たさすことなく無制限に化石燃料を燃や
か増えない。
せるようにする方法を提供するものだが、理想主義的シナ
◦ほかの温室効果ガスよりもCO₂排出量に多くの予算を配
リオにおいてでさえ2050年までのCCSの展開が比較的制
分した場合でも、そして理想的な水準でCCSが実施され
限されると予想されることは、燃やせる化石燃料を大幅に
た場合でも、まともな確率で地球温暖化を2度に制限した
増量できる見込みがないことを示している。CCSに全面的
ければ化石燃料の埋蔵量の大部分が燃やせない。
な投資が行われるこれらのシナリオでさえ、2DSの炭素予
算はわずか12~14%(確率50~80%)しか増えない。
◦炭素予算の概念は、埋蔵量と照合できる新しいベースラ
インを与え、株式公開会社が所有する化石燃料のうちど
のくらいの割合を開発し緩和策なしに燃やすことがで
CCSに全面的な投資が行われるシナ
リオでさえ、2DSの炭素予算はわず
か12~14%しか増えない
もう一つ留意すべきなのが、CCS技術が本当に探求されて
いるのは天然ガスと石炭だけであり、運輸部門の石油への
使用には適さないと現在考えられていることである。
結論
◦炭素予算は、気温上昇の閾値を満たす際に今後数十年間
に化石燃料から対策なしで出せる排出量の水準を理解す
る上で、非常に有用なツールである。
◦各国政府は2015年に新しい気候変動の国際協定の一部と
して、CO₂およびその他の温室効果ガスの予算に合意す
るかもしれない。
◦もしCO₂以外の排出量を削減するためにさらなる行動が
とられれば、化石燃料によるCO₂排出量の予算は2DSを
80%の確率で達成する場合に900ギガトンCO₂と、より
寛大な値になる。
◦たとえCCSへの投資がIEAの理想主義的シナリオに沿っ
て拡大したとしても、大規模に適用できる時までに炭素
予算を拡大できる可能性は限られている。もし全面的な
きるかが分かるようになる。投資銀行や投資家がこれら
の企業を評価する方法、企業が自社の埋蔵量の実現可能
性の情報公開を行う方法、そしてさらなる化石燃料の探
査・開発に関する将来の決定に対して、意味合いをもつ。
提言
◦CO₂予算の意味合いは奥深く、国際的な気候政策決定者
はその意味合いを金融・経済の意思決定に転化させる役
割を担う。
方法論
◦過去の複数の研究(Bowen and Ranger 2009;
Ranger et al. 2010)で示された数多くの排出経路
のほか、本研究のために開発された新しいものも使
用する。
◦本研究で用いた各経路が気候にもたらす結果は、
MAGICC6気候モデル(http://live.MAGICC.org;
Meinshausen et al., 2011)を使って検証した。
◦MAGICC6におけるMeinshausen et al. (2009)の
気候の設定を、排出経路の分析で用いる。
◦仮定を確率分布として示す。つまり、モデルは、世
界全体の年間排出量の各経路における推定気温上昇
幅を算出する。
◦アウトプットは、特定の気温をもたらす確率が50%
の場合と80%の場合を中心とする。
◦本研究におけるどの経路も、2100年まで正味で負の
温室効果ガス年間排出量を伴わない。
◦2050年までの炭素予算で、CO₂総排出量の7.3%が
土地利用、土地利用変化および林業から生じると仮
定する。
◦2000~2012年の化石燃料による排出量は、約400
ギガトンCO₂と推定する。
◦炭素予算はモデル排出経路を書いたグラフの最良適
合線から得られ、予算は最も近い25ギガトンCO₂の
倍数に丸める。
14 |
2. 世界の上場企業の
石炭、石油、天然ガス
埋蔵量・資源量
2.1 上場企業の所有する埋蔵量
もしこの資源量すべての開発が実現したら、世界の証券取
国有:埋蔵量対生産量
CO₂から1541ギガトンCO₂へと倍増するだろう。潜在埋蔵
引所の上場企業による潜在的なCO₂排出量は762ギガトン
量をさらに開発して、資源量/P2分類から埋蔵量/P1分
『世界エネルギー展望2012』によると、国有資産を含む総
類へと移行させるためには、資本が必要となろう。現有埋
埋蔵量は2860ギガトンCO₂になるという。これはすでに、
蔵量と潜在埋蔵量を比較したとき、全化石燃料のうち石炭
3度を超える温暖化を引き起こせる量だ。
の占める割合も36%から42%に増えることは注目に値する
本章では、次の質問に着目する。
(下表参照)。したがって、もしここに資本が投下される
1. どれだけの埋蔵量を上場企業がすでに所有してい
政府所有の埋蔵量の割合は、石炭(約3分の2)に比べ、石
なら、上場企業にさらされた平均的な投資家のポートフォ
るか? 上場企業はさらにどれだけの埋蔵量を開
発して生産に入ることを目指しているか?
油と天然ガスの方が高い(最大90%)。しかし注目すべき
リオは今後、炭素集約度が下がるのではなく上がることに
なのは、現在の生産量に国営石油会社が占める割合はこれ
なる。しかし、未開発の埋蔵量をすべて生産の流れに乗せ
2. 埋蔵量の水準は、炭素予算と比較してどうなの
か?
3. どれだけの資本的支出がさらなる埋蔵量の発見と
開発に使われているか?
4. 埋蔵量は世界の証券取引所にどのように分布して
いるか?
5. どの市場指数が最も炭素集約的か?
と同じではなく、石油が約60%、天然ガスが50%未満と推
なければならないわけではない。実際、需要が弱まり価格
定されることである。
が低下する市場では、埋蔵量の実現可能性が下がるであろ
う。
これはつまり、上場企業が果たす役割は埋蔵量の数字が示
唆するよりももっと大きいということである。企業は、そ
のもたらし得る技術と資本で国有資産を解き放つという重
要な役割を担っている。
機関投資家のエクスポージャーを評価するため、世界の証
券取引所に上場している企業が保有する埋蔵量に注目する。
石炭埋蔵量/P1石油・天然ガス
天然ガス
101
石炭
273
石油
388
合計
762
確実性が高いもの(石油および天然ガスのP1確認埋蔵量
と石炭埋蔵量)に着目するのに加え、『燃やせない炭素』
初版の分析からさらに一歩進めて、企業が開発しようとし
ている潜在埋蔵量(石油および天然ガスのP2推定埋蔵量
と石炭資源量)の分析も行った。ここで明らかになったの
は、燃やせない炭素の潜在量(企業が所有する埋蔵量のう
ち、未開発のまま地中にとどまらなければならない割合)
が、これまで考えられていたよりさらに大きいということ
である。また、排出規制が全く設定されていないときの、
採掘部門の意向も示している。
石炭資源量/P2石油・天然ガス
天然ガス
186
石炭
640
石油
715
合計
1541
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 15
2.2 上場企業の埋蔵量と炭素予算
上場企業が予算に占める割合
国有資産を加えずとも、上場された採掘会社で計画され
ている事業だけで、50%3DSを超えることが確認される。
との比較
上場企業の所有する埋蔵量が全体(2860ギガトンCO₂)の
2DSから2.5DSへ、さらに3DSへとするのに要する追加的
約4分の1であることを考えると、炭素予算でもそれに比例
な排出量は、比較的微増である。
上場企業がすでに開発した石炭・石油・天然ガス資産は、
した配分を受けるなら、埋蔵量すべてを活用するのに必要
2050年までの2度80%の予算900ギガトンCO₂にほぼ等し
な量とはかけ離れている。このことが示すのは、もし高い
い。周知の通り、埋蔵量の大部分を保有しているのは国有
確率で国際気候交渉で大まかに示された気温上昇幅の中で
企業である。もし上場企業が関心のある資産をすべて開発
も小さい方に抑えたいなら、上場企業の埋蔵量には非常に
したなら、その潜在埋蔵量は、わずか50%の確率で2DSを
限られた予算しか残されていないということである。つま
達成する2050年までの予算1075ギガトンCO₂を上回るこ
り、上場企業の現有埋蔵量のうち緩和策なしでは燃やせな
とになる。
いものが、推定65~80%にのぼるのである。
上場企業の埋蔵量と、確率50%の炭素予算を案分した配分との比較
もし上場企業が予算のうち案分した割
合(25%)を配分されるなら、埋蔵
量と比べて大幅な炭素予算の赤字とな
る。
上場企業の埋蔵量と、確率80%の炭素予算を案分した配分との比較
最大気温上昇幅(度)
確率80%
最大気温上昇幅(度)
確率50%
1541
3
356
2.5
319
2
1.5
1541
3
319
2.5
281
269
2
225
131
1.5
-
上場企業の潜在埋蔵量
762
上場企業の現有埋蔵量
上場企業の潜在埋蔵量
762
上場企業の現有埋蔵量
16 |
2.3 ど れだけの資本がさらなる埋蔵
量の開発に投下されているか
蔵量の開発に株主の資金を注ぎ続ける大きなCAPEX計画を
別のビジネスモデル
持つ企業において、これは特に深刻である。
化石燃料を基盤とした企業は、別のビジネスモデルを考え
現金のリターン
出せなければ、収益と成長を維持できるとは限らない。
本セクションでは、上場企業のさらなる埋蔵量の発見・開
対照的に、これらの同じ会社が株主への配当金として過去
特に石炭やオイルサンドなど炭素集約型の事業に特化した
発に向けた資本的支出(CAPEX)の水準を示す。上場200
12カ月に支払った額は1260億米ドルである(石油・天然
企業には、難題である。
社の過去12カ月のCAPEX支出額(石炭、石油、天然ガス
ガスが1050億米ドル、石炭が210億米ドル)。
現有埋蔵量の開発には、さらなる資本の投下が必要になる。
からの収益に比例して調整)は計6740億米ドルと分析され
る。石油・天然ガス部門の資本コストの方が高く、大部分
化石燃料の採掘に関わるこれらの会社は、株主資本のリタ
(5930億ドル)が同部門に関わるもので、石炭事業関連は
ーンの5倍の額を新しい埋蔵量の発見に支出している。株主
810億ドルだった。
はすでにこの割合を変えるべきではないかと問い始めてい
る。世界の石炭埋蔵量は、地球温暖化を抑えるために求め
CAPEX内訳
られる炭素予算を超えて豊富に存在する。投資家は、配当
性向の向上や自社株買いの戦略の方がもっと適切であるか
CAPEX予算の詳細な内訳は、全企業にわたっては入手で
もしれないのに、なぜ新たな石炭と石油のためのさらなる
きなかった。鉱業会社については、石炭からの収益に比
投資が企業の資金の有効利用であるのかを、問い始める必
例して石炭のCAPEXとした。石油メジャーの大部分では、
要がある。
CAPEXの大部分が探査・生産・精製、つまり市場に出す商
品を増やすことに向けられていた。風力やソーラーといっ
たほかの種類のエネルギーへの多角化という点では、企業
間
年
間でいくらかばらつきが見られる。非在来型炭化水素を採
掘する新技術の開発からバッテリー技術の改良まであらゆ
もしCAPEXが今後10年も同じ水準
で続くなら、燃やせなくなりそうな
埋蔵量を開発する資本の浪費は最大
6.74兆ドルとなろう。
さらなる埋蔵量の開発に向けた年間CAPEX支出額推計
EX6740億ドル
P
CA
る用途も含み得る研究開発予算は、透明性が限られていた。
資本の浪費?
もしCAPEXが今後10年も同じ水準で続くなら、燃やせな
くなりそうな埋蔵量を開発する資本の浪費は最大6.74兆
ドルとなろう。この場合、2DSと金融市場の状況との間に、
さらに大きな相違が生じることになる。このことは、化石
燃料の株式を大量に保有する資産保有者に対して深い意味
1541
ギガトンCO₂
762
ギガトンCO₂
石炭埋蔵量/P1石油・天然ガス
石炭資源量/P2石油・天然ガス
合いをもつ。低炭素への道筋と相容れない追加的な新規埋
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 17
2.4 証券取引所ごとの石炭・石油・
天然ガス資産の分布
どちらも大きな石炭鉱床があるが、需要の特徴は大いに異
させ得るその他のあらゆる要素がもたらすリスクを理解す
なる。南アフリカのエネルギー部門は、石炭を液化して輸
る必要がある。例えば中国が現行5カ年計画において、石炭
送用燃料を生産するなど、石炭が支配している。つまり石
使用量を最大で年間40億トン弱とする計画を発表したこと
炭の市場は主に国内である。他方、オーストラリアは太平
は、グローバル化が進む石炭市場に大きな連鎖反応を生み
次ページの最初の地図は、現在報告されている埋蔵量を表
洋全域に向けて輸出しており、世界市場向けも増えている。 得る。多くの生産者の現在の成長計画は、中国で石炭需要
しており、ニューヨーク、モスクワ、ロンドンの取引所に
対照的に、米国は国内市場の先細りにより輸出の選択肢を
が抑制されないことを前提にしたものだ。
化石燃料の多くが集中していることが分かる。香港、上海、 検討中である。
座礁資産
深圳(シンセン)証券取引所の埋蔵量を合わせると、中国
も引けをとらない。2つめの地図は、各取引所の潜在埋蔵量
投資家は、ある取引所を通じて保有する株式を、別の市場
の水準を示す。ここには、1つめの地図に示された埋蔵量に
への輸出を目的として別の国で採鉱され得る埋蔵量と結び
化石燃料が採掘、販売、燃焼される国の政策や物価など、
加え、P2石油・天然ガス埋蔵量と石炭資源量も含める。お
つける可能性のある、世界的なバリューチェーンを理解す
数多くの要素が、どの特定の化石燃料資産が燃やせなくな
そらく驚くにはあたらないだろうが、中国の証券取引所に
る必要がある。ロンドン証券取引所の上場企業の石炭を分
るかに影響することになる。このため、潜在的な座礁資産
上場されているCO₂潜在量の88%が、石炭埋蔵量に関わる
析したところ、埋蔵量の1/3がオーストラリアに位置してい
を特定する作業の複雑性は増す。しかしシステミックな見
ものである。
た。
方が有益であることは明らかである。もし世界市場が同じ
成長率を維持できないなら、ほとんどの会社の増産し続け
開発中
すなわち、エクストラータのような企業には、以下のよう
る戦略は、すべて帳尻が合うとは限らない。
な世界的な結びつきがある。
生産が始まればエクスポージャーを大きくすることになる
であろう開発中の潜在埋蔵量が、ほかの取引所にかなり大
量にある。ヨハネスブルグ、東京、オーストラリア、イン
ドネシア、バンコク、アムステルダムはすべて、現在の有
望地への投資資本が増えて実現可能な埋蔵量への開発に成
功すれば、エクスポージャーの水準が3倍以上になるだろう。
投資家と規制当局は、さらなる化石燃料資産の開発に資本
を使おうとしている企業の新株発行や株式売出しの妥当性
を問い始めるべきだ。
バリューチェーンの理解
しかし、これらの全取引所の投資家に対してもたらされる
◦本社はスイスに置く。
◦主な上場市場はロンドンである。
◦埋蔵量の大部分はオーストラリアと南アフリカにある。
◦生産量の85%が輸出される。
◦主な市場には日本、中国、インド、韓国、台湾などがあ
る。
中国が現行5カ年計画において、石炭
使用量を最大で年間40億トン弱とす
る計画を発表したことは、大きな連鎖
反応を生み得る
意味合いは、上場企業の埋蔵量の地理によって、そして販
売にあたってどの市場を当てにしているかによって、大き
したがって投資家は、別の技術、排出量規制、需要と価格
く異なる可能性がある。南アフリカとオーストラリアには
の変化、エネルギー効率、水不足、それに石炭市場を変化
東西の差異
これらの地図を見ると、石炭の割合が大きい東側・南側の
証券取引所と、石油の量が多い西側の市場との間で明らか
に差異があることが分かる。極東とオーストラリアの上場
企業で開発が待たれている石炭資源量はまだたくさんある。
これは炭素制約シナリオのもとで将来、座礁資産となり得
る。すべての市場で天然ガスへのエクスポージャーが限ら
れていることは、この燃料を使って低炭素に移行するとい
う位置づけが乏しいことを示している。モスクワは上場企
業の天然ガス現有埋蔵量で他を圧倒しており、パリとニュ
ーヨークは成長の可能性を示している。
18 |
世界各地の証券取引所の上場企業が所有する石炭・石油・天然ガスの現在の埋蔵量に内包されるCO₂(ギガトンCO₂)
凡例
埋蔵量のCO₂総量
モスクワ
石炭(埋蔵量)のCO₂
144
天然ガス(P1)のCO₂
ロンドン
12
113
石油(P1)のCO₂
(エクスポージャーが極めて高い上位12の証券取引所のみ表示)
89
43
49
53
11
トロント
東京
33
5
13
2.5
.5
3
10
25
上海
1
パリ
41
20
ニューヨーク
インド・ナショナル
4
33
215
40
12
16
2
10
36
146
33
ヨハネスブルグ
サンパウロ
13
30
3
26
1
13
オーストラリア
1
26
2
香港
60
1 10
49
23
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 19
世界各地の証券取引所の上場企業が所有する石炭・石油・天然ガスの潜在的な埋蔵量に内包されるCO₂(ギガトンCO₂)
凡例
モスクワ
266
潜在的な埋蔵量のCO₂総量
ロンドン
石炭(潜在的な埋蔵量)のCO₂
286
16
天然ガス(P2)のCO₂
石油(P2)のCO₂
(エクスポージャーが極めて高い上位12の証券取引所のみ表示)
79
100
171
165
21
トロント
東京
69
39
42
6
2
21
31
6
上海
63
1 2
パリ
37
ニューヨーク
366
インド・ナショナル
7
25
1 2
33
30
43
22
香港
91
オーストラリア
60
263
60
ヨハネスブルグ
51
サンパウロ
58
4
2
10
46
3
101
2
51
19
70
95
20 |
VS
欧米の二大金融センターである
これら2つの証券取引所の焦点の違いを
対比することは価値がある。
ニューヨークは石油偏重が明らかであり、
ロンドンは石炭の中心地である。
ニューヨーク
CO₂は2年間で37%増加
ロンドン
215.00
P1/埋蔵量のCO₂総量
113.32
365.64
P2/埋蔵量のCO₂総量
286.45
36.42
石炭(埋蔵量)のCO₂
48.91
43.13
石炭(資源)のCO₂
165.86
32.70
天然ガス(P1)のCO₂
11.25
59.46
天然ガス(P2)のCO₂
20.50
145.88
石油(P1)のCO₂
53.15
263.05
石油(P2)のCO₂
100.10
$344.85
負債(10億米ドル)
$158.09
1487.48
時価総額(10億米ドル)
538.09
245.74
過去12カ月のCAPEX(10億米ドル)
78.67
43.60
昨年度の配当金(10億米ドル)
16.80
CO₂は2年間で7%増加
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 21
2.5 指数の炭素集約度の比較
一部の証券取引所が、石炭・石油・天然ガス埋蔵量への高水準かつ絶対的なエクスポージャ
また、企業が開発を目指している潜在的な埋蔵量への指数のエクスポージャーについて、同
ーを有していることは明らかである。したがって、これらは投資リスクにおいてとりわけ懸
様の分析を行った。新たに上位10位に加わったのは、オーストラリア、南アフリカ、ジャ
念すべきことである。だが、加えて、比較的小規模な証券取引所の中には、その指数におい
カルタである。このことは、オーストラリアやインドネシアの企業が、炭素予算達成に必要
て、化石燃料事業を基盤とする企業への集中度が高いところもある。われわれは、分析対象
な方向とは矛盾する、自社の埋蔵量の拡大を目指していることを示している。
の上位200社に関連する主要な指数を分析した。これにより、以下の炭素集約度の高いファ
ンドやベンチマークが明らかになった。
指数
指数における現在埋蔵量の炭素集約度
(ギガトンCO₂/時価総額1兆米ドル)
指数
指数における潜在的な埋蔵量の炭素集約度
(ギガトンCO₂/時価総額1兆米ドル)
MICEX指数(モスクワ)
213.39
MICEX指数(モスクワ)
395.61
アテネ総合指数
101.44
アテネ総合指数
101.44
FTSE MIB指数(イタリア)
40.89
FTSE100指数(ロンドン)
90.65
FTSE100指数(ロンドン)
35.86
FTSE MIB指数(イタリア)
74.42
ブダペスト証券取引所指数
29.95
S&P/ASX 200指数(オーストラリア)
67.14
サンパウロ証券取引所ボベスパ指数
24.55
FTSE/JSEアフリカ全株指数
49.73
香港ハンセン指数
24.16
サンパウロ証券取引所ボベスパ指数
47.89
ウィーン証券取引所株価指数
23.38
ジャカルタ総合指数
47.78
BSE Sensex 30株価指数(インド)
21.21
ブダペスト証券取引所指数
47.32
S&Pトロント総合指数(カナダ)
19.59
BSE Sensex 30株価指数(インド)
43.09
この表は、当該指数を構成する企業の時価総額に対して、既存埋蔵量の割合が高い証券取引
カーボン・トラッカーは、膨大かつ拡大し続ける埋蔵量を抱えるいくつかの市場を分析して
所上位10カ所をまとめたものである。アテネ、イタリア、ウィーン、ブダペストは、欧州
きた。2012年11月には、南アフリカ上場企業の石炭埋蔵量の分析を行った。これにより、
の小規模な取引所であるが、それぞれの指数における埋蔵量は比較的多い。ブラジル、香港、 燃やせない炭素の問題が国内に集中している実態が明らかになった。現在の埋蔵量は、南ア
インドが上位10位に姿を見せるのは、新興国市場も肩を並べつつあることの表れである。
フリカ政府の炭素予算調査で示された「科学予算で求められる量」に対して十分な量である。
われわれは、南アフリカ公務員年金基金(GEPF)のポートフォリオと、ヨハネスブルグ証券
取引所(JSE)指数の組み入れ比率を比較した。南アフリカ最大の投資家であるGEPFが国内
集中型の投資を行う必要があるため、そのポートフォリオは、GEPFが対処し始めているシス
テミック・リスクにさらされた状態になっている。
22 |
結論
◦上場企業が所有する化石燃料埋蔵量は、762ギガトンCO₂相当まで増え続けた。
◦見込まれる埋蔵量がすべて開発されると、上場企業の埋蔵量の水準は1541ギガトンCO₂
に倍増する可能性がある。
◦上場企業が、総埋蔵量に対して相対的な割合で炭素予算の配分(全体の4分の1)を受け
るとすると、それらはすでに、2度シナリオ(2DS)を十分な確率で達成するための上場
企業の炭素予算配分のおよそ3倍になる。
◦上場企業は、石油や天然ガスよりも石炭の開発機会を多く有しており、炭素集約度がより
高い化石燃料へのエクスポージャーを市場に与えている。
◦石油・天然ガス・採鉱企業は昨年、さらなる埋蔵量の開発を目指して6740億ドルの資本
的支出を行った。
◦エクスポージャーの絶対的な水準を分析したところ、とりわけ潜在的な将来資産に関して、
ロンドン市場は石炭の中心地であり、ニューヨーク市場は石油関連の金融の中心地である
ことが分かっている。これらの市場の規制当局は、先導的な役割を担う必要がある。
◦炭素集約度に着目したところ、一部の比較的小規模な証券取引所(ブラジル、香港、ヨハ
ネスブルグ、インド、ギリシャ、イタリア、ウィーン、ブダペスト)は、その規模にして
は化石燃料の比率が高い。
前 提:
◦現在の埋蔵量:採掘して採算のとれる確率と地質学的な確実性が90%を超えるもの。
石炭埋蔵量および石油・天然ガス埋蔵量(P1)は、RMGG Intierra and Evaluate
Energyから入手可能な最良のデータに基づく。
◦潜在的な埋蔵量:採掘して採算のとれる確率と地質学的な確実性が50%を超えるも
の。石炭資源および石油・天然ガス埋蔵量(P2)は、RMG Intierra and Evaluate
Energyから入手可能な最良のデータに基づく。
れき
れき
◦炭化水素の種類(天然ガス、在来型石油、オイルサンド、褐炭、亜瀝青炭、瀝青炭)
に応じて、異なる6つのCO₂係数が用いられる。
◦シェールガスなどの他の非在来型エネルギー源は個別に報告されていない。気候変動
に関する政府間パネル(IPCC)は、これらの炭化水素の種類に応じた個別のCO₂係
数を示していない。したがって、これらは控えめな見積もりと考えられる。
◦所有権:企業のCO₂潜在量は、国が大きな経営権(10%超)を握っている場合には、
それに比例して削減される。
◦上場企業の子会社/親会社:ある上場企業が、埋蔵量を持つ別の上場企業の一定割合
を所有する場合には、それに伴う二重計上を避けるため、CO₂潜在量は分割される。
◦優先市場:CO₂は上場株式の優先市場に帰属する。
◦二重上場:二重上場している企業のCO₂潜在量は、各取引所での時価総額に応じて分
割される。
◦CAPEXと配当金のデータは、報告されている直近12カ月の数字をまとめたもの。
◦通貨:すべてのデータは米ドルに換算された。
◦多角的経営の採鉱企業:データが入手可能な場合には、数値は石炭収入の割合に応じ
て減らされた。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 23
3. 気候リスクに対する
市場規制の進化
3.1 採掘部門への要求事項
欧州連合
埋蔵量に関する今回の分析の焦点は、採掘部門に最も関連
欧州連合(EU)は、透明性指令の改定によって、採掘産業
性がある。採掘部門に対しては具体的に措置が講じられて
から投資先国政府への支払いの透明性を提案した。
おり、これは、規制当局が新たな問題に対して株主や社会
2008年から2012年の銀行システムの急激な混乱と、それ
の利益を守るために行動する意思があることの表れである。 ロンドン
に続く株式市場評価への波及効果は、金融市場で高まりつ
埋蔵量に関する採掘部門固有のデータは、規制当局や投資
つあるリスクに対する明確かつ全体的な理解の欠如によっ
家が炭素予算に関連する気候のシステミック・リスクの水
採掘企業が資金調達を行う国際金融センターとして、ロン
て生じた。いくつかの部門―とりわけ、投資不動産の投機
準を理解する助けになり得る。採掘部門の事業の側面―埋
ドン証券取引所は、高水準のコーポレート・ガバナンス
的開発と、再販目的のサブプライムローンの証券化商品に
蔵量と収入―は、すでに大規模な監視の対象であり、排出
(企業統治)に対する評判を維持する必要がある。投資家
関係する不動産市場―については、投資銀行や格付け機関
量の見込みはその延長線上にある。
に更なる保証を提供するために、企業が提示する鉱物埋蔵
が満足にリスクを評価できないことが明らかになった。同
量について「有資格者による再調査」を要求する新たな指
様に、銀行システムや規制当局は、われわれが本報告書で
本報告書で取り上げる、規制当局のための「リスク」を示
針が、2009年に上場企業に対して導入された。これにより、
特定した警戒信号にいまだ注意を払っておらず、依然とし
す最も簡単な2つの指標は、相互に関連する。それらは以下
ロンドン証券取引所上場企業は、将来の収益拡大をほのめ
て目的に適合していない金融システムが放置されたままで
の2つである。
かすような自社の埋蔵量の水増しができなくなる。
ある。
金融市場の運営の指針となり、これを統制する規則は、こ
うしたシステミック・リスクに対処するために進化する必
要がある。ロンドンおよびニューヨーク市場は、この問題
1. 上場企業の埋蔵量に内包されるCO₂に関するデータの収
集
2. これらの企業が自社の埋蔵量置換率(RRR)を維持する
中で、新たな資源を開発する際に行う資本的支出の水準
米国
米国では、ドッド・フランク法(金融規制改革法)が、金
融システムのさまざまな領域の垣根を越え、採掘部門によ
へのエクスポージャーの高さを考えれば、着手するのに格
1つ目の指標は、どれくらいの埋蔵量が座礁資産となり、減
る各政府への支払いの透明性を向上させた。これは、金融
好の場所である。欧州連合(EU)も、ロンドン市場に影響
損対象となり得るかを示す。2つ目の指標は、年金基金など
規制当局が、情報公開の改善に向けていかに行動できるか
を与え得る包括的な規制を定めている。本セクションでは、 の資産保有者の貴重な現金資源が、非生産的な資本投資に
を示している。同様のアプローチが、自らが出資している
既存のプロセスを通じて気候リスクに対処するいくつかの
よって「失われる」かもしれないことを示す。全体的に見
化石燃料埋蔵量のCO₂潜在量について明らかにするように
機会を特定する。
れば、どちらも、炭素制約社会の難題に伴って資本市場で
採掘企業に対して適用される必要がある。
高まりつつあるシステミック・リスクに関する、規制当局
規制は、各市場のリーダーシップや、国際的な機関―証券
監督者国際機構(IOSCO)―による導入によって進化させ
ることができる。金融規制当局は、新たな事態や投資家に
よって提起される諸問題を踏まえ、特定部門のリスクの透
明性を向上させるために、積極的に行動する姿勢を示した。
次に取り組むべきは、気候リスクである。
のための指標である。
提案
◦すべての採掘企業に対して、自社の石炭・石油・天然ガ
ス埋蔵量のCO₂潜在量を金融規制当局に提示するよう義
務付けることは、透明性の向上とリスク監視の促進に向
けた第一歩になるだろう。
24 |
3.2 金融安定性に関する規制
欧州連合
米国
金融機関の資産における貸付の割合を最小限に抑えるため
バーゼルIIIは、銀行の自己資本比率やストレステスト、市場
ドッド・フランク法は、金融の安定性と市場の透明性にお
に、世界各地で自己資本比率規制に関する措置が導入され
の流動性リスクに関する世界的な規制基準である。欧州委員
ける数々の問題に対処するための多様なメカニズムだった。
てきた。
会は、自己資本要求指令の下でバーゼルIII基準を導入した。
ドッド・フランク法は、以下の権限を有する金融安定監督
評議会(FSOC)を設置した。
気候リスクがあらゆる部門に及ぼす影
響力や、化石燃料埋蔵量に大きな価値
が置かれている状況により、カーボ
ン・バブルの崩壊を防ぐためにはもは
やこの問題に積極的に取り組むことは
必須である。
ロンドン
「ドッド・フランクウォールストリート改革および消費者
英国では、2012年金融サービス法の成立によって、イング
保護法(ドッド・フランク法)の下で設置された金融安定
ランド銀行(英中央銀行)に金融監督委員会(FPC)が設
監督評議会は、米国金融システムの安定性の包括的な監視
置された。FPCは自己資本比率の水準を監視し、半年ごと
を初めて実施する。評議会は、米国の金融安定性に対する
の審査でリスクの評価を報告する。
リスクを特定し、市場規律を促進し、米国金融システムの
安定性に対して新たに出現するリスクに対応する任務を負
イングランド銀行は、カーボン・トラッカーおよび数多くの
う。」
金融業界と環境分野のステークホルダーとの対話を受けて、
気候変動を潜在的なシステミック・リスクと認識した。
また、米国では、金融機関の資本計画プロセスを審査し、
ストレステストを行う「包括的な資本分析・レビュー」が、
これまでのところ、これらの報告書で気候変動リスクは全
米連邦準備制度理事会(FRB)によって実施される。
く言及されていない。こうしたリスクが監視されていると
いう安心感が市場に広がるためには、気候リスクへのエク
スポージャーに関する同様の指標が構築され、高炭素資産
と低炭素資産のバランスの変化を示すべきだとわれわれは
考えている。現在のところ、間違った方向に進んでいるに
もかかわらず、規制当局がこの状況に積極的に対処しよう
としていないことが、分析により明らかになっている。
イングランド銀行は、 2013年第3四半期に新総裁を迎え、
新たな体制が導入されるなど、変化の時を迎えている。ま
た、これは、この銀行の金融安定性対策の任務を担う新た
な機能が、あらゆる潜在的なリスクに確実に対処する機会
でもある。
提案
◦金融の安定性に責任を有する規制当局は、気温上昇を2度
未満に抑える排出シナリオに沿わない埋蔵量の水準と生
産計画のストレステストを行い、各市場の現状について
報告すべきである。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 25
3.3 長期主義と株式市場
ロンドン
3.4 企業の情報公開
金融危機は、金融市場にまん延する短期主義を露呈させた。 英国のビジネス・イノベーション・技能省(BIS)は、英
国際統合報告評議会(IIRC)による統合報告の開発や、南
これに対処するために、金融システムの一部に焦点を当て
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジョン・ケイ
アフリカのガバナンスの原則に関する規範(King Code
たいくつかの取り組みがすでに行われている。ジェネレィ
教授による考察を、「英国株式市場と長期的意志決定(UK
III)などの試験的な取り組みは、多くの人が考える、これか
ション・インベストメント・マネージメントなどの投資会社
equity markets and long term decision-making)」と
らの企業報告のあるべき姿を示している。これは、埋蔵量
やユニリーバなどの企業は、例えば、四半期ごとの報告か
いう報告書にまとめた。これは、イングランド銀行のアン
の報告や企業戦略の説明と、気候リスクへの考慮を統合す
らの脱却をすでに提案している。英国のNGOシェアアクシ
ディ・ホールデン金融安定化担当理事が述べた「市場の近
る機会をもたらす。ほかの市場はこれほど進んではいない
ョン(前フェアペンションズ)は、年金基金受託者のため
視眼性」を認めたものである。この考察をきっかけに、英
が、それでも、今や戦略やビジネスモデルへの関連性が明
に、長期的な世代間の考慮事項を包含する受託者責任の明
国議会のBIS特別委員会によってこの問題がさらに監視され
らかである気候リスクに対処する機会が存在する。
確な解釈を積極的に模索している。
るようになった。
欧州連合
欧州連合
さらなる副産物は、受託者責任の定義の明確化に向けた法
制委員会による考察である。これは、一部の受託者(年金
欧州連合(EU)は現在、会計指令の下で非財務報告の改
欧州連合(EU)は2013年3月、持続可能な経済の長期的
基金受託者など)が、自らに求められる受託者責任を短期
革に向けた提案を作成している。これにより、企業が直面
な資金調達に関する3カ月にわたる協議を開始した。これを
的なリターンを最大化することだと理解し、企業業績に影
する「重要なリスクと不確実性の説明」を年次報告書で行
後押ししたのは、金融危機によって、貯蓄を長期投資に振
響を与え得る長期的な要因への考慮を排除しているという
うことが義務付けられるようになるだろう。この報告は、
り向ける欧州金融部門の能力が損なわれたという考えであ
懸念に対応したものである。
「企業の事業の開発・業績およびその状態についてのバラ
る。EUは、長期投資を、経済の生産能力を高める支出と定
義する。これには、エネルギー・輸送・通信インフラ、産
ンスのとれた総合的な分析で、事業の規模や複雑性に沿っ
米国
業・サービス施設、気候変動・環境に関する革新技術、さ
たもの」でなければならない。こうした汎用的な形式にお
いてでさえ、カーボン・トラッカーは、ビジネスモデルが
らには教育や研究開発も含めることができる。欧州は、持
米国では、この分野における明確な規制活動は認められな
化石燃料に依存する企業は、気候変動リスクに対処すべき
続可能な成長を支えるのに欠かせない、大規模かつ長期的
かった。アスペン研究所はこの分野で積極的に活動し、長
だと主張するだろう。情報公開の改善を促すために、環境
な投資の必要性に直面している。
期的な価値創造の指針を構築している。
問題に対するさらなる指針や具体的な記述が構築されるか
もしれない。
提案
◦システミック・リスクに対処できる長期志向の株式市場
の構築を目指す規制当局は、自らが成功してきたことを
実証するテストケースとして気候変動リスクを用いるべ
きである。
26 |
ロンドン
米国
2006年英国会社法(戦略報告書および取締役報
英国政府は2013年10月に、温室効果ガス排出量や重要業績
告書)2013年規則案
評価指標(KPI)、記述情報開示(ナラティブ・レポーティ
米国証券取引委員会(SEC)は、企業への気候変動リスク
のマテリアリティ(重要性)に関する指針を発表した。こ
ング)を対象とする上場企業報告要件の改定を導入する。
上場企業の場合、戦略報告書は、事業の開発・業績・状
れは、石炭、石油、天然ガス、電力、金融各企業で気候問
態の理解に必要な限度において、以下を含めなければな
題に関する株主決議を提出してきた投資家にとっての評価
温室効果ガスに関する要件案は、汎用的なアプローチであ
らない。
基準となった。また、SECは、石油企業に対して、確認埋
る。この案には、採掘企業は、自社が関心を示している埋
(a) 企業戦略の記述
蔵量の正味現在価値(NPV10)を株主への年次報告書で示
蔵量の潜在的な排出量について報告すべきであるというカ
ーボン・トラッカーの提案は盛り込まれなかった。そのた
め、多くの企業にとって、そのサプライ・チェーンや製品
市場に関連する最も重要性のある排出量は、温室効果ガス
(GHG)報告の必須要件の対象にならないだろう。
温室効果ガスに関する報告指針は、気候変動開示基準審
議会(CDSB)が開発した、気候変動報告フレームワーク
(CCRF)のようなアプローチを参考にしている。CCRFの
適用は、企業が、自社のエクスポージャーやリスク管理の
全体像をよりいっそう把握する手助けになる。
(b) 企業のビジネスモデルの記述
(c) 企業の事業における将来の開発・業績・状態に及
ぼし得る主な傾向と要因
(d) 以下に関する情報
(ⅰ) 環境問題(企業の事業が環境に及ぼす影響
を含む)
(ⅱ) 企業の従業員、および
(ⅲ) 社会、コミュニティ、人権に関する問題(こ
れらの問題に関連する企業の方針およびそ
の方針の有効性に関する情報を含む)
すよう義務付けている。これには、市況商品の価格、割引
率、埋蔵量の実現可能性に関する前提について、取締役の
考えを示すことが求められる。
一部の投資家が、気候リスクに関する情報を引き出すため
に決議を提出する必要性を感じているという事実は、現行
制度の下では企業が自発的に十分な情報を提供していない
ことの表れである。それは、環境に責任を持つ経済のため
の連合(CERES)がこの分野の企業の情報公開について実
施した調査で裏付けられている。
提案
とはいえ、英国会社法の要件は理論上、気候変動が企業の
戦略やビジネスモデルにどのような影響を及ぼすかについ
て企業が報告するという結果につながるはずである。
◦規制当局は、企業に対して、自社のビジネスモデルがど
のように排出量削減目標の達成と合致するかを説明する
よう義務付けるべきである。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 27
4. 株式評価と信用格付けへの影響
HSBC:石油と炭素の再考
(2013年1月)要約
投資家が自身の資産を低炭素経済に沿ったものにできるように、こうした迫り来る炭素リス
低炭素経済では、輸送効率向上に向けた費用対効果の高い技術の有用性を踏まえると、
クの規模を、株価形成や債券の格付けに組み入れる必要がある。
石油需要は比較的速く減少する可能性があるが、天然ガス需要は、ペースは落ちるもの
4.1 株式
の、拡大し続けるだろう。予想を下回る需要は石油価格の低下をもたらし、1バレル50
時価総額
から石油価格の低下に移り、危険にさらされる市場価値の合計は時価総額の40~60%
ドルが上限の目安としてモデル化される。市場価値への最も重要な影響は、需要の減少
に及ぶ。投資家としては、低価格の環境で力強く成長し得る低コストの生産者や、オイ
ここで分析する、最大規模の化石燃料埋蔵量を抱える上場企業200社の市場価値は、2012
ルサンドよりも天然ガスに重きを置く生産者に焦点を当てるべきである。
年末時点で総額およそ4兆米ドルだった。その内訳は石炭事業が16%、石油・天然ガス事業
が84%だった。以下のセクションでは、炭素予算を堅持することが株価の評価方法にどの
ような意味を持つかを理解するために、石油・天然ガス、採鉱、電力各部門を順番に見てい
次に「新しい投資」として計画されている
300の石油・天然ガス事業の費用曲線
く。
石油・天然ガス部門の評価
90
◦需要ピーク後は、消費の減少よりも、価格と需要のファンダメンタルズ(基礎的条件)の
ほうが重要で、市場価値に大きな影響を及ぼす。低コストで低炭素の資産のほうが望まし
くなる。
◦資本運用における過去のリターンに基づく評価額は、利益率を維持できることが前提であ
るが、利益率の維持は、需要とともに価格が低下するにつれてますます難しくなる。
損益分岐点ドル/バレル
◦現在の評価額は、確認埋蔵量を一定の生産率と生産価格で完全に開発することに基づいて
いる。
費用曲線の上側から脱却する
80
60
50
30
メキシコ湾深海部、
西アフリカ、米国の
シェールオイル
20
業につながり、高いエクスポージャーを抱えるそれらの事業は不利な状況に置かれるだろう。
0
る。
非在来型
液化天然ガス(LNG)
・
重油
40
10
になる前に、利益の上がらない可能性のある事業を続けることに疑問を投げかける必要があ
低コストの
従来型補助金:
ブラジル、ノルウェー、
イラク
70
需要と価格の低下は必然的に、最終的な投資決定を得られない費用曲線の上側に位置する事
だが、この論理は必ずしも一貫して当てはまるわけではなく、投資家は、コストが回収不能
在来型液化
天然ガス(LNG)
・
非在来型天然ガス
100
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
2020年末の純生産量 石油換算100万バレル/日
20
22
出典:シティ・リサーチ
28 |
採鉱部門の評価
エネルギーの価値連鎖
◦商品市況の高騰が終わるかどうかではなく、いつ終わるかが常に問題だったにもかかわら
◦中国の石炭消費量が永久に増加し続けるという前提に異議を唱えることは、世界的にこの
ず、多くの企業は市況の下落に備えて適切な体制を整えていない。気候変動への対処はこ
部門に大きな影響を及ぼし、石炭輸出国は、飽和状態で先細る市場を求めて闘っている。
れによく似ており、起きるかどうかではなく、いつ起きるかが問題であるのに、多くの企
◦化石燃料産業に従事する企業は顧客を失い、インフラ要件は以前とは違うものになる。
業ではその切り替えがなかなか進んでいない。
◦再生可能エネルギーの担い手や天然ガス事業者、クリーンテクノロジー企業、公共交通機
◦より長期の割引キャッシュフローは、石炭の需要減少が収益に及ぼす影響に気付くことが
できるが、短期のキャッシュフローモデルでは気付かないかもしれない。
◦今日確約済みの資本的支出は、この数年間で収益を実現させるわけではなく、それまでに
関事業者が勝者になる。
◦相互に関連する部門や地域を網羅するマクロ経済分析には、炭素予算が投資家に及ぼす十
分な影響を理解することが必要とされる。
方針の背景は大きく変わり得る。
◦多角経営の採鉱企業は、代わりの収益源や収益機会を持っているが、石炭専業企業はリス
クにさらされている度合いが非常に高い。
HSBC:石炭と炭素(2012年6月)
ドイツ銀行(2013年3月)中国の戦略:大気汚染と闘うための大胆な措置
低炭素社会では、世界の石炭需要は2020年以降減少する必要がある。本報告書は、英
この分析は、大気質の問題への対処が石炭需要に及ぼすフィードバック効果を明らかに
国の採鉱大手上場企業4社のリスクを検証する。石炭需要がもはや拡大しない、または
する。都市部の大気質は、中国では政治的な問題となり、状況の改善に向けた新たな措
減少に向かうシナリオでは、市況商品の価格は下落し、生産コストの高い生産者に悪影
置が導入されつつある。このことは、石炭使用は、(2017年まで続く)現在の5カ年
響を及ぼすことになる。全体的に見ると、2020年以降需要が拡大しないシナリオでは、
計画の間にピークを迎えるだろうという中国政府の発言によって裏付けられる。中国が
これらの企業が抱える石炭資産の割引キャッシュフロー(DCF)による評価額は、現
再び石炭の純輸出国になることが価格に及ぼす効果は、太平洋地域の石炭輸出国を苦し
時点で44%減少するだろう。しかし、これらの企業は多角的な経営を行っているため、
めることになるだろう。エネルギー集約型部門は価格の上昇にも見舞われるだろう。プ
株価への影響は抑えられ、4~15%の下落となる。採鉱事業は準備期間が長いため、将
ラス面としては、このような事態により、天然ガス事業者やエネルギー効率技術、公共
来の炭素制約による潜在的な影響は今日の投資家に大きく関係し、石炭への資本的支出
交通機関、再生可能エネルギーが勝者になる。
に対する事業の評価は、炭素のストレステストを行う必要がある。その結果、採鉱部門
に変動性があり、アナリストが目先のことを重視していることがわかり、どのような形
であれ、炭素に関する構造的な変化に市場は驚くばかりだろう。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 29
座礁資産はどこで発生する可能性があり、投資家はど
新たな業績指標
のようにこれを事前に特定できるか?
炭素制約社会での企業のより望ましい姿の全容を把握しよ
企業はおそらく、市況商品価格の下落に対して、資本的支
うとするなら、これらの部門に用いられる中心的な指標の
出を先延ばしし、資産(鉱山、採掘井戸、発電施設)の稼
いくつかは改訂されなければならない。とりわけ、現在の
働を休止させることで対応するだろう。これは、将来価格
アプローチを逆転させる必要がある指標が同じ数だけある。
が上昇し、再び資産を利用できるようになることを期待し
てのことである。しかし、長期的な低炭素シナリオが最終
埋蔵量置換率(RRR):現在、企業は、少なくとも生産
的に行く着く先は、資産の閉鎖、廃止措置、そして可能で
によって減少する埋蔵量を―探査か買収のいずれかによっ
あれば、別の土地利用に向けた敷地の売却である。
て―置き換えるよう期待されている。将来収益の指標であ
るRRRを100%超に維持すれば報酬が与えられる。
閉鎖候補を特定する際に用いられる要素の序列には以下の
ものが含まれるだろう:
◦購入・探査されたが、まだ開発されていない
◦利益:非効率な施設や最大規模のコストがかかる生産施
設は、最初に稼働休止あるいは延期される
◦政治的(北アフリカ)あるいは技術的(北極圏)にリス
クの高い場所
◦市場へのアクセスの容易さ:地政学的な不安定さにさら
されるより、地域にある燃料源のほうが望ましいかもし
れない
◦修復費用を低く抑えられるか、また他の目的での土地利
用が可能かという点は、施設の廃止場所の再販価値を最
大化するだろう
新たな開発は保留され、埋蔵量は「帳簿上」残されたまま
になるが、それらにさらなる資金が投じられることはない
だろう。資産は処分される可能性があるが、これを帳簿上
に残すのは、これらに対する需要がまだあることを前提と
していて、縮小している部門ではありそうもない。
炭素予算を埋蔵量に適用すると、埋蔵
量置換率(RRR)の原動力が逆に作用
し、埋蔵量余剰率に転じる恐れがある。
結論
◦需要がピークに達すると価格の下落をもたらし、損益分
岐点コストが最も高い事業や収益が圧迫される。資本利
益率の水準を維持することはますます難しくなる。
◦埋蔵量置換率などの従来の指標は、化石燃料の備蓄補充
への投資にこれまで報酬を与えてきた。市場が切り替わ
れば、この指標は、もはや置換は望ましいものではない
というような指標へと転じる。
◦世界規模の規制がまだ整備されないまま、大気質に関す
る規制や再生可能エネルギーのコスト低下、水の利用可
能性に至るまで、さまざまな要因がエネルギー市場を変
えつつある。
◦電力企業の発電所の耐用年数は、これに影響を与える炭
素価格などの市場メカニズムによって不確実性に直面し
ている。そのため、これらは減損資産になりやすい。
提言
投下資本利益率(ROIC):どの石油企業も、投下資本
に対する利益率を達成してきた実績を持つ。何年もの間、
大手石油企業はコストの上昇を経験してきたが、これは石
油価格の漸増の影に隠れてきた。価格の漸増で収益は維持
されてきたが、石油企業は価格の低下に対して脆弱な状態
になっている。石油のピーク需要シナリオは、将来のパフ
ォーマンスが過去の踏襲になる仮定では脆弱性を露呈し、
ROICを圧迫するだろう。
◦アナリストはさまざまな前提を用いて、自身の評価結果
のストレステストを行う必要がある。
◦炭素制約社会を映し出すには、埋蔵量置換率などの従来
の指標を別のものに置き換えたり、これらに逆の意味を
持たせたりする必要がある。
30 |
4.2 負債
分析対象企業200社の企業負債残高(債券および借り入
れ)は、合計1兆2700億ドルである。内訳は、石油・天然
ガス企業の負債が74%、採鉱企業の(石炭由来の収入に基
づく)負債が26%である。
以下のセクションでは、炭素予算を堅持することが債券の
カーボン・トラッカー(2013年4月):米国の石炭の
スタンダード&プアーズ(2013年2月):炭素が制
脆弱性
約される未来は、石油企業の信用価値にどのような
意味を持ち得るか
2012年上半期、米国の石炭需要はこの25年間で最低
の水準になった。市場が確信を持っていなかった水銀
排出規制の導入を米国環境保護庁(EPA)が実施した
ことで、天然ガスの安値に拍車がかかった。その結果、
米国の採鉱企業は格下げされた。
格付け方法にどのような意味を持つかを理解するために、
企業のコーポレート・ファミリー・
レーティング(ムーディーズ)
石油・天然ガス、採鉱、電力各部門を順番に見ていく。
企業
石炭
アルファ・ナチュラル・ 2011年12月:
リソーシズ
Ba2(安定的)
◦採鉱専業企業は、変化する事業環境に最も脆弱であ
り、国内市場に主に依存している企業はなおさらである。
例:米国、南アフリカ
◦気候変動や炭素価格に関する世界的な取り組みは、必ず
しも規制リスクをもたらすわけではない。大気質に関す
る措置は、まさに有効であることが明らかになりつつあ
る。例:中国、米国
◦さまざまな技術のコスト競争力は、絶えず進化し続けて
いる。米国では、天然ガスと石炭の力関係が決定的にな
ってきた。再生可能エネルギーの台頭で、三つどもえの
闘いになっている国がますます増えている。例:ドイツ、
オーストラリア
◦ビジネスモデルが崩壊するその速さは、先細る市場での
石炭の脆弱性を表す。
◦今後数年以内に負債の返済期限が到来する場合、一部の
企業ではその負債の借り換え能力が侵害されるかもしれ
ない。
2012年6月:
B1(安定的)
アーク・コール
2011年12月:
Ba3(安定的)
2012年5月:
B1(ネガティブ)
パトリオット・コール
2011年12月:
B2(安定的)
2012年5月:
Caa1(安定的)
石油
◦オイルサンドへのエクスポージャーが高い中小企業は、
ピーク需要シナリオによる価格圧力に対して強靭ではな
スタンダード&プアーズは、石油価格が低迷する状況
でカナダ産オイルサンドへのエクスポージャーを抱え
る企業の信用価値を再考した。石油価格の下落は、石
油需要を低下させる措置(北米の自動車燃費に関して
導入されているものなど)に由来するであろう需要の
減少を反映するものとして用いられた。このストレス
シナリオでは、一般的な3年の格付け見通し期間におい
てさえ、オイルサンドへのエクスポージャーが高い中
小企業の信用価値が影響を受けることが分かった。こ
のシナリオは、配当金が減らされたり、事業が中止に
なったりするかもしれないキャッシュフローへ圧力を
かけている。その結果、中小企業の場合、その財務リ
スク特性は、2014年から2017年にかけて格付けの見
通しが「ネガティブ」に見直され、その後格下げされ
る可能性があるほど悪化することが分かった。さらに、
採算の合わない埋蔵量の開発への資本の投資継続を支
持する論拠はなく、これらの企業のビジネスモデルの
崩壊はますます進む。
い。
◦キャッシュフローへの圧力は、配当金に影響を与え、事
業の中止を招き、座礁資産を生み出す恐れがある。
◦より長期的な気候政策、技術、影響リスクは、一般的な3
年の格付け見通し期間に含まれていない。
◦過去のパフォーマンスと信用価値のみに依存する財務モ
デルは、投資家にとって不適切な指針である。
電力企業
◦化石燃料の未来に関する不確実性は、一部の市場では再
生可能エネルギーよりも大きい。
◦発電の分散化により、従来の電力企業にとって利用可能
な市場が減る可能性がある。
◦従来型のビジネスモデルは、脱炭素化を促進するエネル
ギー市場ではもはや存続可能ではない――企業は生き残
りをかけて適応する必要がある。
◦水の利用可能性などといった炭素以外の要素は、将来の
大規模発電の実現可能性に対する理解をより複雑にする。
例:中国、インド
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 31
格付け機関との最新の取り組みにより、企業の財務力とそ
ムーディーズ(2012年11月):欧州の電力企業―
風力と太陽光が火力発電事業者の信用の質を低下
のビジネスモデルの健全性に関する格付け機関の手法のフ
させ続ける
を受ける可能性があることがわかった。これは、信用格付
ドイツではすでに、分散型太陽光発電と補助金を受け
て行われる風力発電の競争によって、集中管理型の化
石燃料発電所が圧力を受けている。再生可能エネルギ
ーが2012年には需要の26%を満たし、2020年までに
35%という目標の突破に向けて軌道に乗る中、石炭お
よび天然ガス火力発電所は、ベースロード発電所の負
荷率(最大75%)の維持に四苦八苦しており、時には、
再生可能エネルギー発電事業者のバックアップ容量と
しての役割を迫られることもある。再生可能エネルギ
ーの大幅な増加により、電力価格と欧州の火力発電の
競争力は甚大なマイナスの影響を受けた。かつて「安
定的」とみなされた企業はいずれも、自社のビジネス
モデルが著しく崩壊した。再生可能エネルギーのさら
なる増加が見込まれることを踏まえれば、これらのマ
イナスの圧力は、火力発電を基盤とする電力企業の信
用の質を、短・中期的に低下させ続けるだろう。
ァンダメンタルズ(基礎的条件)は、気候リスクの影響
けのより体系的なストレステストや、従来とは異なる結果
の可能性を考慮に入れるアプローチ調整を行う論拠となる。
これらはやがて、気候リスクを体系的に網羅することにつ
ながるはずである。
展望
将来のシステミック・リスクを回避するために、投資家に
は先を見据える情報が必要になることもまた明白である。
気候変動の特性からすれば、世界がどの道筋をたどろうと、
将来が過去の踏襲となる可能性は極めて低い。格付け機関
は、将来の信用価値の予測に、従来のパフォーマンスを用
結論
◦従来型のビジネスモデルは、脱炭素化を促進するエネル
ギー市場ではもはや存続可能ではない――企業は生き残
りをかけて適応する必要がある。
◦今後数年以内に負債の返済期限が到来する場合、一部の
企業ではその負債の借り換え能力が侵害されるかもしれ
ない。
◦ビジネスモデルが崩壊する速さは、先細る市場における
石炭の脆弱性を表す。
◦キャッシュフローへの圧力は、配当金に影響を与え、事
業の中止を招き、座礁資産を生み出す恐れがある。
◦過去のパフォーマンスと信用価値のみに依存する財務モ
デルは、投資家にとって不適切な指針である。
提言
いることがますます不適切になりつつあると気付き始めて
◦投資家は、ビジネスモデルや信用価値の評価に常に気候
いる。投資家は分析の改善を強く求め、格付け機関はその
要素が組み込まれるように、格付け利用者として影響力
課題に対処すべき時期に来ているのである。
を行使する必要がある。
◦規制当局は、信用格付け機関が、システミック・リスク
最新の手法
監視体制の改善
に対する自らの取り組みの一環として気候変動に対処し
ていることを確実にすべきである。
格付け機関は、新たな問題を反映させるべく、自らの手法
信用格付け機関が資金調達のしやすさに影響を与えること
を再考し、進化させなければならない。われわれは、気候
は明らかである。そのような力の行使には責任が伴う。金
変動を、企業年金基金の負債のようなものであると考える。 融危機を受けて、信用格付けの質を向上させるために、新
これまで、年金基金は、確定給付制度にかかる負債を埋め
たな規制が導入され始めている。米国では、ドッド・フラ
合わせるのに十分な資産を保有していると単に考えられて
ンク法により、格付け機関を監視する態勢を整えた本部が
いた。その後、ある程度不足していることが明らかになっ
証券取引委員会に設置された。欧州では、欧州証券市場監
たため、アナリストはこれを組み入れるようになった。今
督機構(ESMA)が監督責任を持つ。しかしこれまでのと
では、全体像が分かるように、これらの数字は貸借対照表
ころ、これらの新しい規則は、気候リスクや、より広範な
(B/S)に計上されている。
持続可能性リスクという緊急課題を盛り込んでいない。
32 |
5. 投資家への影響
おそらく最も重要な所見は、経済の進んでいる道筋が明らかでない中で、周辺部ではこれら
の影響がいずれもすでに見られるということだろう。投資家はすでに、一部の石炭関連投資
の妥当性を疑い始めている。同様に、洪水の打撃を受けているサプライチェーンもある(例
5.1 リスクの再定義
えば、タイの半導体など)。これは、現実を直視しないのは、もはや機関投資家の選択肢で
相違のあるシナリオ
ためにどのような戦略をとるのか、どのリスクの可能性が高いかをどのように仮定している
あってはならないというメッセージになる。機関投資家は、この状況下でリスクを管理する
のかを、明確に表現できなければならない。
地球温暖化を摂氏2度に抑えるのと、排出量の増加により3度、4度、5度もしくは6度もの
温暖化を招くのでは、大きな相違がある。排出量が制限されなければ、化石燃料部門は間違
リスクにさらされている価値
いなく繁栄するだろうが、炭素制約社会において座礁資産のリスクにさらされるだろう。そ
の一方で、気候に影響されやすい農業、不動産、インフラ、林業、水など各部門、ならびに
当然ながら機関投資家は自らのポートフォリオのリスク管理に関心がある。リスクの定義が
サプライチェーンを介してこれらに依存する部門は、炭素集約的な活動とは反対の運命をた
狭いと、時として、投資家の将来的なリスクに基づく先を見越した行動が妨げられることが
どるだろう。
ある。リスクは価値の絶対的な損失が起こる確率としてではなく、通常は、むしろベンチマ
石炭の一次エネルギー需要についてのIEAシナリオ
ークからどれだけ乖離しているかで定義される。これにより、市場の軌道から大きく逸脱す
石油換算
100万トン
(Mtoe)
るリスクを減らすために、直接的であれ間接的であれ、ファンドは市場の構成を反映するこ
450ppm
現行政策
新政策
6000
とになる。
これはファンド・マネージャーに、ある部門内の特定の会社の組み入れ比率を引き上げたり
引き下げたりする自由をいくらか残すことになるが、結果として、ベンチマークを反映した
部門内構成になる可能性が高い。ある部門からの大口の売却を求める声に投資家が対応しづ
5000
らい理由の一つはここにある。機関投資家は、特定の活動を避ける方針を決定し、市場の規
範をくつがえすことを選択する特別な指令を出さなければならないだろう。ここまでの章の
分析は、まだ大量の化石燃料がベンチマークと結びついていることを示している。
4000
将来の異なる排出量レベルの間の相違を考えれば、さまざまな手段が必要かもしれない。将
3000
来の排出量レベルに関するさまざまな仮定に基づく評価は、十分に実行可能であり、これに
2000
その次に、市場が進んでいる軌道についての投資家の考えにより、それらの結果に確率をあ
よって広範な株価の可能性を提示できる。
てがうことができる。この手法を平易に表した例を、次ページの囲みに示している。評価モ
デルのほとんどは過去のパフォーマンスの繰り返しと従来通りの状況を基礎とするので、こ
うしたいかなる調整も、多くの化石燃料事業を基盤とする企業にとって下方の調整になると
1000
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035
年
出典:IEA World Energy Outlook
考えて差し支えないと思われる。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 33
不確実性への対処
5.2 計算をし続ける
戦略的な資産配分から資産運用に至るまで、投資の連鎖を
2011年の『燃やせない炭素』報告書初版での分析で、カ
通して、2度の世界を目指す投資がどのような姿になるの
ーボン・トラッカーは、炭素予算を石炭、石油および天
かを理解するよう、もっと強く要求する必要がある。将来
然ガスの埋蔵量と比較する計算を行うよう呼びかけ、IEA、
気温を下げる
時価評価のモデルは過去の需要レベルに基づくもので
あり、ある会社の株式に100ドルという評価を与えて
いる。これを「摂氏6度の評価」に相当すると見なすこ
とにしよう。
には大きな不確実性が伴うことも確かである。したがって、 HSBC、ムーディーズ、350.orgをはじめ、さまざまな団
仮に、低めの需要と価格を反映した別の仮定を使うと、
以下のような別の評価が得られる。
◦「摂氏4度の評価」として、一株あたり60ドル
◦「摂氏2度の評価」として、一株あたり40ドル
投資手段においては、すべてが過去に基づくモデルに適合
次に個別の投資家や保険計理士は、起こり得ると考え
る結果それぞれの確率に基づいて価格を付けることが
できる。
6°
C
4°
C
2°
C
一株当たり
の価値
100%
0%
0%
100ドル
投資家A
60%
20%
20%
80ドル
投資家B
20%
60%
20%
64ドル
投資家C
20%
20%
60%
56ドル
従来の手法
この平易な例により、別の結果を低い確率で加えるだ
けでも、価値が変わり得るが分かる。これは、HSBC
の石油と炭素の分析で、株式の時価総額の40~60%
がリスクにさらされている可能性の影響を指摘するも
のである。
体がこの難題を引受け、さまざまな数字の応用を開始した。
すると想定するのではなく、不確実性に対処する方法を見
いだす必要がある。これは、エネルギーの将来に影響を及
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)グラン
ぼす問題が複雑である表れであり、つまるところ単一の炭
サム気候変動環境研究所が実施した研究は、最も楽観的な
素価格に落ち着くということにはならない。
シナリオでCCSが最大の貢献をすると仮定した場合でさえ
も、計算が合わないことを立証している。上場企業の炭素
予算は、自らのビジネスモデルが根拠とする埋蔵量と比較
すると不足している。
そして市場に従う投資家に対しては、数字は市場が間違っ
た方向に進んでいることを示している。
◦さらなる埋蔵量の発見に向けて、毎年、最大で6470億
ドルの資本が浪費されている。
◦潜在的な埋蔵量により、上場企業のエクスポージャーの
度合いが1541ギガトンCO₂に倍増し得る。
◦過去2年間で、化石燃料埋蔵量はニューヨーク市場では
37%、ロンドン市場では7%増加した。
34 |
5.3 資本の流れを再考する
金融システムに数字を当てはめると、私たちが賢明な炭素予算に従うのであれば、さらに多
くの石炭、石油および天然ガスの開発を促進する複数の資本サイクルを見直す必要があるの
は明らかである。排出量を制限することによって避けられないフィードバックは、株主の利
益を守り、資本の浪費を防ぎ、座礁資産を避けるためには、資金の見直しと再配分が必要だ
ということだ。ブルームバーグ・ニュー エナジー・ファイナンスは、クリーンエネルギーへ
の投資が年間5000億ドル超まで倍増する必要があると見積もっている。化石燃料の不確実
性とリスクに関する理解が進めば、別の選択肢への投資はより魅力的なものになり得る。
億ドル
億ドル
負債
EBITDA
支払利息・税金・減価
償却・償却控除前利益
株式
CAPEX
資本的支出
LOGO
.
兆ドル
兆ドル
配当金
LOGO
企業
億ドル
億ドル
排出量
利子
埋蔵量の開発
∼
ギガトンCO₂
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 35
5.4 投資家の選択肢
株主による積極的な監督という点では、世界中の種々の
投資手法と文化を反映するさまざまな手法がある。
関与・参加する:エンゲージメント(関
与・参加)は一般的な手法である。しか
し、企業が必要とするビジネスモデルの
売却・撤退:これは多くの投資家にとっ
規制:まず投資家は、自らが活動してい
根本的な転換には、投資家からの明確な
る市場の枠組みが、気候変動のシステミ
指針が求められる。これには、企業の将
利益の還元:より主流の手法として採掘
つかの選択肢を使い果たしてしまってい
ック・リスクの問題への対処に資するこ
来の資本投資戦略の正当性を問うといっ
部門で近年見られるのは、株主が、株価
る必要があるだろう。また、企業がほか
とを確認しなければならない。現在の市
た介入が必要になる。投資家は、少しば
の押し上げにつながる自社株の買い戻し
の行動を取るのを拒んだ場合のような極
場の矛盾は、企業が予測する収益を達成
かり環境に配慮した従来型の取り組みを
や、利益増につながる増配を促進するこ
限の事例にしか適用しないかもしれない。
する裏付けとしている将来の排出量につ
強く求めるのではなく、企業の方向性の
とである。これは企業が、株主に利益を還
この措置には、企業の戦略が価値をリス
いて、規制当局が透明性を高める必要が
変更を明確に要求するに足る、はっきり
元する以外に、より良い資本の活用計画
クにさらすと投資家が確信している必要
あることを示している。
とした意見を持っていなければならない。
がないと認識していることを示している。
があるだろう。
て最終的な制裁措置であり、先立ついく
機関投資家にできること
リスク:いくつかの別の方法を用いて想
決議案:エンゲージメントが好結果を生
分配し直す:さらなる化石燃料の開発か
定最大損失額を測ることにより、投資家
まない場合、特に米国の株主は、問題を
ら資本を引き出したら、その次に、資産
の動き方が変わるだろう。気候変動のよ
議題にするために株主決議案を提出する。
保有者がその資本を、低炭素の未来に向
うなシステミック・リスクを避けようとす
株主決議案が、取締役会に行動を命じる
けてよい位置付けにある、低炭素または
るのであれば、投資家はベンチマークを
のに必要なだけの支持を得ることはほと
エネルギー以外の投資に用いることが求
下回るパフォーマンスという従来のリス
んどない。しかしその過程、対話および
められる。一部の企業はすでに、排出量
クの定義を超えなければならないだろう。
世間の注目は、変化への圧力を生む一因
削減を後押ししたり、気候変動の影響に
になり得る。そしてこれが、企業の対応
対して強靭であるべく、自らの事業の転
につながる可能性がある。
換を図っている。機関投資家の投資ニー
ズを満たすような投資商品を開発する取
り組みが進んでいる(例:英国のクライ
メート・ボンド・イニシアティブ(CBI)
)
。
36 |
6. 今後に向けて:
結論と提言
◦第三に、投資の連鎖に連なる専門家たちは、保険計理士
過去10年の間に、主要な機関投資家は自らの戦略に気候要
からアナリスト、監査役からその先に至るまで、市場の
因を組み入れ始めた。しかし業界を見渡すと、これまでの
全体としての整合性に十分に注目せずに、当座の利益を
ところ、平均的なファンドに対する都合の悪い追加という
享受していた。
域を超えるものはほとんどない。しかし気候問題は連鎖的
な性質を持つために、投資家が先頭を切って進むことがで
パーティーのお酒を片付ける(市場の沈静化を図る)
本報告書は、世界市場が希少な資金を、気候安全保障と相
きるようなインセンティブがほとんどなく、行き詰まって
容れない化石燃料埋蔵量の開発に充当し続けていることを
いる。
過去2年間に、投資業界および政策立案者の間では、気候政
確認した。先の金融危機の教訓からの学びをいかすのであ
策と資本市場との矛盾についての認識が高まってきた。し
れば、世界市場において気候変動に対する構造的な手法を
明らかに、2015年に新たな国際合意が最終的に成立する
かしこの理解はまだ、資産の価格を改めたり、資本の方向
早めにとることになる。
ための準備段階において、各国政府は、投資家の意識が低
性を変えることにつながっていない。結果として、世界最
大の証券取引所の、燃やせない炭素のリスクへのエクスポ
炭素へと向かうような確かな気候政策を実施する必要があ
システム全体の行き詰まりを乗り越える
ージャーは、減るどころか増している。
る。しかしこの政策の実施は、投資家が長期にわたるこれ
らの警告を読み取り、適切な行動を起こすことができるよ
国際市場を律し導いている規則と規範は、気候変動が世界
うにする資本市場の枠組みの改革と組み合わせる必要があ
『燃やせない炭素』報告書初版が書かれたのは、世界金融危
的な優先事項になる前の時代に設計されたものだ。企業は
る。本報告書の主要な結論にはそれぞれ、政策立案者、規
機の後である。世界金融危機は、市場がいかにして経済の
依然として、新たな化石燃料埋蔵量を発見し開発すること
制当局、投資家および投資仲介業者が今後2年間にとるべき
ファンダメンタルズ(基礎的条件)を超過してバブルを生
で報酬を与えられている。市場リスクはいまだに、まるで
行動について、具体的な提言を特定している。
みだし、やがてはそれが価格の破裂に行き着くのかについ
地球の平均気温の上昇が過去に例のない速さで起こってな
て、痛みを伴う記憶となった。この世界経済に対する長期
どいないかのように評価されている。さらに、エネルギー
的なショックから得られた教訓は多いが、気候変動の課題
など重要な部門の将来について、過去は本当に役立つ指針
に対処するために、市場が今どう変わらなければならない
にならないことを気候変動は意味しているのに、市場関係
かという点で、特に適切な3つの教訓ある。
者は依然として過去に資産価値を決めてきた要因に焦点を
◦第一に、持続可能でない資産バブルが築かれていくのを
防ぐうえで、規制当局の積極性が足りず、市場が加熱し
ていく中で「パーティーのお酒を片付ける(沈静化を図
る)」ことに失敗した。
◦第二に、機関投資家は自らのポートフォリオにある資産
について、その責任を十分に果たさなかった。その結果、
「所有者のいない企業」は短期的な収益に注力した。
当てる。この意思疎通の欠如を読み解く説得力のある説明
の一つは、炭素排出量を押し下げるために必要な政策の実
行を政府が真剣に考えていると、市場が考えていないこと
だ。こうした政策が実施されない限り、従来通りの状況は
ほとんど抑制されることなく続くだろう。
燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 37
結論
提言
地球温暖化を抑えるのであれば、緩和策なしに燃や
すことのできる化石燃料はわずかである。
政策立案者:排出量の制限が、確実に、金融市場に明確な警告を送るようにしなければならない。
世界の証券取引所の上場企業が所有する化石燃料の
比率は、特にロンドン(石炭)とニューヨーク(石
油)で高くなっている。
金融規制当局:企業に、化石燃料埋蔵量に内包される潜在的なCO2排出量を公表するよう義務づける。資本市場のシス
テミック・リスクの評価と監視に、気候変動リスクを組み入れる。
企業は、現在の埋蔵量が炭素予算を上回っているに
もかかわらず、さらなる埋蔵量を探索するために資
本を投入している。
投資家:株主の資金を使って高コストの化石燃料事業を展開している企業の戦略の正当性を問う。さらなる化石燃料の
探査と開発に投資を続けそのリターンを求める戦略をとっている企業の資金配分を調査する。炭素集約型の企業の株式
保有を減らし、炭素リスクの再均衡を行った指数をパフォーマンスのベンチマークとして用いる。気候の安定に沿った
別の機会に資金を再分配する。
戦略に関する企業の報告は、排出量制約下でのビジ
ネスモデルに対するリスクを扱っていない。
規制当局:排出量削減目標に関連して起こり得る価格の下落および需要減を考慮に入れて、自社のビジネスモデルがど
のように排出量削減目標の達成と両立するのかを説明するよう、企業に義務付ける。
株式の分析は、排出量限度のリスクを価格に織り込
んでいない。また、従来の指標は縮小する市場には
適していない。
投資家:顧客としての権利を行使し、従来とは異なる研究を行って、さまざまな排出量の道筋が評価に与える影響を価
格に織り込むよう要求する。
信用格付けは、排出量限度のリスクを体系的に考慮
に入れていない。
投資家:格付けの利用者としての影響力を行使し、信用度とビジネスモデルに対するさまざまな排出量の道筋の影響を
考慮に入れた、従来とは異なる格付けを要求する。
財務大臣:G20はその取り組みを拡大し、化石燃料の補助金の段階的な廃止と、炭素に対する金融市場の高水準のエク
スポージャーを下げるための行動計画を策定するべきである。
投資家:金融規制当局に、気候変動を市場へのシステミック・リスクとして扱うよう要請する。
アナリスト:将来のパフォーマンスが過去の踏襲とならないかどうかの評価のストレステストを行うための代替指標を
開発する。
規制当局:信用格付け機関が、システミック・リスクに対する取り組みの一環として、気候変動に確実に対処するよう
にする。
格付け機関:将来を見据えた分析を提供するために、部門の手法に気候リスクの体系的な評価を組み入れるという困難
な課題に対処する。
投資家はリスクへのエクスポージャーを理解するの
ではなく、ベンチマークに縛られている。
投資顧問:ベンチマークから乖離するリスクではなく、将来シナリオの確率に基づき想定最大損失額を反映するように、
リスクを再定義する。
保険計理士:さまざまな排出量シナリオの確率を計算に入れるように、年金の評価方法を再考する。
38 |
参考文献
第1章
Bowen, A. and Ranger, N. (2009) Mitigating climate
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emissions: The science and economics of future
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第2章
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燃やせない炭素2013 資産浪費と座礁資産 | 39
第3章
第4章
第5章
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8 December.
要旨
分が燃やせないことを確認した。
などCO₂以外の排出量が大幅に削減されると想定している
もし上場化石燃料企業が地球の炭素予算を案分した配分
すべての化石燃料を使用すると、地球の二酸化炭素予
算に反する
ため、大きな値になっている。つまり、より大きなCO₂予
を受けるなら、その量はおよそ125~275ギガトンCO₂と
算を適用できるかどうかは、廃棄物や農業などの分野で
なり、現在埋蔵量として計上されている762ギガトンCO₂
CO₂以外の排出量を削減するようさらなる行動を起こせる
の20~40%となる。この炭素予算の赤字の規模は、投資家
かにかかっている。
に重大なリスクをもたらす。投資家は上場企業の石炭・石
2010年に各国政府は「カンクン合意」において、産業革
上場企業は炭素予算の赤字に直面する
このCO₂予算は、地球温暖化ポテンシャルの高いメタン
命前の水準に比べ地球の平均気温の上昇幅が摂氏2度を超
油・天然ガス埋蔵量の60~80%が燃やせないことを理解し
えるのを防止するために排出量が削減されるべきであるこ
研究では、他の気温目標の場合に燃やせる化石燃料の量
とを確認し、これを1.5度に引き下げる可能性も示した。以
がどうなり得るかも検討した。その分析の結果、例えば地
前の分析でカーボン・トラッカーと国際エネルギー機関
球の平均気温の上昇幅が3度以上など、はるかに意欲にか
ロンドンとニューヨークの証券取引所が炭素集約型に
(IEA)が用いたモデリングにより、「2度シナリオ」の炭
ける気候目標であったとしても(その場合、われわれの社
なりつつある
素予算(carbon budget)が2050年までに565~886ギ
会経済に著しく大きな影響を及ぼす)、やはり今から2050
ガトンCO₂(二酸化炭素換算)であることが示された。こ
年までに化石燃料の埋蔵量の使用が著しく制約されること
ニューヨーク市場に内包される炭素は、石油が支配して
の値は、CO₂以外の温室効果ガス排出量(メタンや一酸化
が分かるという結論が出ている。
いる。内包される炭素の水準は2011年以降37%増加した。
なければならない。
ロンドン市場はそれよりも石炭に集中しており、総CO₂エ
二窒素など)が高水準を維持すると想定したものである。
炭素回収・貯留(CCS)が結論を変えることはない
クスポージャーが同期間に7%増加した。しかし、とりわ
けサンパウロ、香港、ヨハネスブルグなど、他の市場の方
しかしこの予算は、世界の化石燃料の推定埋蔵量に内包
された炭素2860ギガトンCO₂のごく一部に過ぎない。予防
CCS技術は、化石燃料燃焼の予算を広げる可能性を有す
が、全体規模に比べて内包される炭素が多い。南方や東方
的なアプローチをとると、2050年までに化石燃料の総埋蔵
る。IEAの理想的シナリオ(まだ確保されていないある水準
の市場は、主に石炭開発の資本を調達している。
量のわずか20%しか燃やせないことになる。従って、世界
の投資を想定)を適用したときに拡大する2050年までの予
経済はすでに座礁資産の見通しに直面している。現在の投
算は、わずか125ギガトンCO₂である。
資動向が続けば、この問題は悪化するしかないと思われる。
要するにカーボン・バブルである。
さらなる埋蔵量を発見・開発するのに使われる資本は
ほとんどむだになる
2050年以降の予算は制約される
投資家および預金者のリスクを最小化するためには、資
炭素予算のストレステスト
「2度シナリオ」を達成するためには、2050年以降もほ
本の流れを高炭素のオプションから他に変えなければなら
んのわずかな化石燃料しか燃やせない。負の排出技術がな
ない。しかしながら、本報告書の試算では、石油・天然ガ
カーボン・トラッカーは、ロンドン・スクール・オブ・
い場合、80%の確率で2度目標を達成するには今世紀後半
ス・採鉱企業の上位200社が昨年さらなる埋蔵量と新た
エコノミクス(LSE)グランサム気候変動環境研究所と協
の炭素予算はわずか75ギガトンCO₂となるだろう。これは
な採掘方法を発見・開発するために配分した額は、最大で
力して、炭素予算のストレステストを行う新たな分析を実
カーボン
・
トラッカーについての詳しい情報は、
下記の当団体ウェブサイトをご参照ください。
施した。この分析は、80%の確率で摂氏2度未満に抑える
現在の水準でわずか2年あまりの排出量に相当する。よって、
6740億ドルにのぼっていた。この支出の大部分が内部留保
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)グランサム気候変動環境研究所に
場合に利用できる予算が900ギガトンCO₂、50%の確率の
えには根拠がない。
www.carbontracker.org
場合は1075ギガトンCO₂であると試算し、化石燃料の大部
ついての詳しい情報は、下記の当団体ウェブサイトをご参照ください。
2050年以降に化石燃料ルネッサンスが起こり得るという考
から拠出されており、これらの資金が気候安全保障に合致
し財務的に有利な機会に投じられるように株主が監督する
www.lse.ac.uk/grantham責任があることを示している。