平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ 論文題目 N 末端から C

平成 24 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅰ
論文題目
N 末端から C 末端への方向性を持った連続的な
Ligation Chemistry
Tandem Ligation of Three Peptide Segments
With N-Terminus to C-Terminus Direction
薬品製造学研究室
07P125
森本
(指導教員:北川
大介
幸己)
要
旨
通常 NCL (Native Chemical Ligation) で連続的にリゲーションを行う時、同一ペ
プチド間でのセルフリゲーションや環化反応などが問題となる。しかし、BMEA
(N,N-Bis(2-mercaptoethyl)amide) ペプチドを用いた NCL を行うと上記の問題を
回避できる。また通常リゲーションは C 末端セグメントに N 末端セグメントを順々
にリゲーションしていくが、BMEA ペプチドを使った NCL では N 末端から C 末端
への方向性をもってリゲーションを行うことが可能である。
本研究では、BMEA を用いて 46 残基のモデルペプチドと 76 残基のユビキチンの
合成を、それぞれ連続した 2 回の NCL で行い、BMEA ペプチドを用いる新規なリゲ
ーション法の有用性を検証した。ユビキチンの合成においては、2 回目のリゲーショ
ン後に脱硫を行い、リゲーション部位の Cys を Ala に変換してユビキチンに導いた。
この結果 N 末端から C 末端への方向性を持った連続的リゲーションが BMEA ペプチ
ドを用いることで効率良く進むことが示された。
BMEA を含むペプチドセグメントは容易に固相合成できることから、この N 末端
から C 末端への連続的リゲーションはタンパク質化学合成の幅を広げるものと期待
できる。
キーワード
1.
Native Chemical
Ligation
2 N,N-Bis
3.システイン
(2-mercaptoethyl)amide
4.チオエステル
5.F-moc 固相合成
6.脱硫反応
7.VA-044
8.アシル基転移反応
9.C 末端
10.N 末端
11.SEA off
12.SEA on
13.MESNa
14.ユビキチン
15.Tandem Ligation
16.One-pot Sequential
Ligation
1. はじめに
1-1. Native Chemical Ligation
Scheme 1 NCL の反応機構
チオエステルペプチド A とペプチド B の
システイン残基のチオール基と反応によ
りチオエステル交換が起こりチオエステ
ル中間体 C が生成する。チオエステルと
アミノ基が反応し、分子内 S-N アシル基
転移反応によりアミド結合が形成された
調査ペプチド D が得られる。
NCL 反応には、N 末端に存在するシステ
イン残基が必要であるが、選択的な反応な
の で 保護 基を必 要 とせ ず固相 合 成後 、
HPLC で精製したペプチドを用いること
から、タンパク質の化学合成に適用できる
有力な手法である。
アミノ酸を順次繋げて作る固相ペプチド合成法は、操作の簡便性から 50 残基程度
のペプチドの合成に有用であるが、それ以上の長鎖ペプチドでは、収率、純度が急激
に低下する。この問題を改善するために考案された方法が無保護のペプチドを化学選
択性をもって繋ぎあわせるリゲーション法である。
NativeChemicalLigation (NCL)はリゲーション法の 1 種である。NCL は無保護の
ペプチドチオエステルとシステインペプチドを用いて収率良くリゲーションが進行
するが、リゲーション部位はシステイン残基である必要があった。
1
1-2. ストラテジー
通常 NCL で連続的にリゲーションを行う時、同一ペプチド間でのセルフリゲーシ
ョンや同一ペプチド内での環化反応などが問題となる。一方で、BMEA (N,N-Bis
(2-mercaptoethyl)amide) エステルは酸性条件下で容易にチオエステルに変換でき
ることから、上記した問題を回避することができる。
また、通常リゲーションは C 末端セグメントから N 末端セグメントの方向に合成
されるが、BMEA ペプチドを使った NCL では N 末端から C 末端への方向性をもっ
Scheme 2 BMEA を用いた連続的な NCL
てリゲーションを行うことも可能である。この
BMEA ペプチドを用いたリゲーショ
ン法を確立することで、タンパク質合成の幅を広げられる。そこで本研究ではこの合
成法を 46 残基のモデルペプチドおよび 76 残基のユビキチンの合成に適用することを
検討した。
1-3.BMEA を用いた N から C への連続的リゲーション
今回の実験では、ペプチド①とペプチド②を通常の NCL プロトコールを用いて連
結し、その後にペプチド②の C 末端の BMEA エステルをチオエステルに変換し、ペ
プチド③と 2 度目の NCL を行う戦略をたてた。
BMEA ペプチドは 2nd NCL を行う際に反応液の pH を低下させることで、one-pot
での反応が可能になる特徴がある。
2
Scheme 3 酸性条件下での BMEA の特徴
(1) Scheme
1 より改変
1-4.脱硫反応による Cys→Ala への変換
初期の NCL では、Ligation 部位にシステインを用いる制限があったが、そ
の後、脱硫反応によりシステインからアラニンに変換する方法が報告された。
現在では、アルキルチオールなどのチオール基をもつ非天然型アミノ酸をシス
テイン類似体として用い、リゲーション後に脱硫を行って種々の天然型アミノ
酸に変換する手法が多く報告されており、NCL の適用が拡大されている。
一般に脱硫反応には Raney Ni などの金属触媒を用いる方法が広く知られて
いるが、Danishefski らは水溶性のラジカル開始剤である VA-044 とリン化合物
を用いたラジカル反応による脱硫方法を報告し、NCL に用いている。(3)
3
Scheme 4Cys→Ala への脱硫反応と VA-044
1-5.BMEA ペプチドの合成
Sheme 5
BMEA ペプチドの合成法
(2) Scheme
3 より転載
Bis(2-mercaptoethyl)amide(BMEA)基を C 末端部にもつペプチドを固相合
成するために、固相担体として用いる樹脂(c)を以下の方法で調製した。
先ずトリチル樹脂に 2-メルカプトエチルアミンを反応させて調製した樹脂(a)
に O-ニトロベンゼンスルホニルクロリドを反応させ,アミノ基を Nosyl 基で保護
した樹脂(b)に変換した。次いで、光延反応によりアミノ基をメルカプトエチル
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化し、引き続きチオールにより Nosyl 基を除去した樹脂(c)とした。以後 Fmoc
固相合成法により樹脂(c)の 2 級アミノ基に Fmoc アミノ酸を導入して、ペプチ
ド鎖を構築した。最後に樹脂からのペプチドの脱離とチオールの保護に用いた
Trt 基を含むアミノ酸側鎖保護基を TFA で除去して、BMEA ペプチドとした。
2.BMEA を用いたペプチドの合成
BMEA ペプチドを用いた連続的リゲーション法を確立するために、3 つの短い
ペプチドを使って 46 残基のモデルペプチド、および 76 残基からなるユビキチ
ンの合成行った。
2-1.46 残基のモデルペプチドの合成
リゲーションに用いた各ペプチドのうち、C 末端チオエステルを含むペプチ
ド①を Boc 法で固相合成し、また BMEA ペプチド②とペプチド④はそれぞれ
Fmoc 法で固相合成し、HPLC で精製後リゲーションの実験に用いた。
先ずペプチド①とペプチド②の間で最初の NCL を通常の NCL プロトコール
(pH7.0) で行った。4 時間後にペプチド②のピークはほぼ消失して新たなペプチ
ドのピーク③が観察され、リゲーションが完了した。
ピーク③を HPLC で分取し、ペプチド④との 2 回目の NCL を pH5.0 で
MESNa (sodium 2-mercaptoethanesulfonate) の存在下に行った。
この反応では、反応液の pH を酸性 (pH5.0) にすることで、ペプチド③の
BMEA 部分が一旦分子内チオエステルに変換され、反応系に加えた MESNa に
よってチオエステル交換したペプチド MESNa エステルとペプチド④との間で
NCL が進行していると考えられる。
この NCL 反応はマイクロ波照射下に 15h で完了し、HPLC 分析で 90%以上
の収率でリゲーション生成物⑤が得られている。質量分析により、目的とする
ペプチド⑤が得られていることが確認できた。
(理論値 5349.50)
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Figure 1
連続的な NCL による 46 残基モデルペプチドの合成 ( (1)Fig.1 より改変)
A,C は HPLC を用いて反応の進行度を示した図である。B は MALDI-TOFMS を用いて A で最終的に
精製したピーク③をみたものであり、D は C の⑤をみたものである。
2-2.ユビキチンの合成
3 つのペプチド成分を用いて 76 残基のユビキチンを合成するため、チオエス
テルを含むペプチド①を Boc 法で、BMEA エステルを含むペプチド②と C 末端
セグメントのペプチド④は Fmoc 法でそれぞれ固相合成し、HPLC 精製後、実
験に用いた。
先ず N 末端セグメントのペプチド①と中央部分セグメントのペプチド②の
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NCL を pH8.0 で行ったところ、5 時間後にリゲーションはほぼ完了した。HPLC
でピーク③を分取し、質量分析で目的のリゲーション生成物であることを確認
した。
ペプチド③とペプチド④との間での 2 回目の NCL 反応系の pH を 5.0 に調製
し、メルカプト酢酸メチルエステルを反応系に加えてマイクロ波照射下に 7 時
間反応したところ、リゲーションがほぼ完了した。HPLC でピーク⑤を分取し、
質量分析で目的とするリゲーション生成物ユビキチンであることを確認した。
Figure 2
連続的な NCL によるユビキンの合成 ( (1) Fig.2 より改変)
A,C は HPLC を用いて反応の進行度を示した図である。B は ESI-MS を用いて A で最終的
に精製したピーク③をみたものであり、D は C の⑤をみたものである。
3. 本研究の類似の反応
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本論文で紹介した Liu らの手法とほぼ同じ考え方の NCL の手法が、Melnik らにより同
時期に報告されている。Melik らの方法では、BMEA 部分を環化さて’員環ジスルフィド
(SEAoff) にしており、還元剤によってジスルフィドを開裂させて BMEA (SEAon) エステル
に変換して NCL に用いている。(4) (5)
Scheme 4 SEA を用いた連続的な NCL
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4.まとめ
BMEA ペプチドを用いることにより 3 つのペプチド成分の連続的なリゲーシ
ョンが可能になり、46 残基モデルペプチドと 76 残基のユビキチンの合成に適
用した。これによりN末端から C 末端への方向性を持った連続的リゲーション
が、BMEA ペプチドを用いることで効率良く進むことが示された。また、この
BMEA リゲーション法はタンパク質の合成にも応用できる。
BMEA ペプチドは容易に固相合成することができるので、この N 末端から C
末端への方向性をもった連続的リゲーションはタンパク質の化学合成の幅を広
げるものと期待できる。
5.謝辞
本卒業研究Ⅰにおいて随時ご指導頂きました、新潟薬科大学薬学部、薬品製造
学研究室 北川 幸己 教授に深く感謝致します。
本卒業研究Ⅰにおいて随時ご指導頂きました、新潟薬科大学薬学部、薬品製造
学研究室 浅田 真一 助教に心から感謝致します。
最後にご指導頂きました、薬品製造学研究室の皆様に感謝致します。
6.引用文献
(1) Yang, R.,Hou, W., Zhang, X., Liu, C-F.,Org.Lett.,14, 374-377 (2012) .
(2) Hou, W., Zhang, X., Li, F., Liu, C.-F.,Org.Lett., 13, 386-389 (2011) .
(3) Wan, Q., Danishefsky, S.J., Angew. Chem. Int. ed.,46,9248-9252 (2007) .
(4) Melnyk, O., Ollivier, N., Dheur, J., Vallin, A., J. Org. Chem., 76,
3194-3202 (2011) .
(5) Melnyk, O., Ollivier, N., Dheur, J., Mhidia, R., Blanpain, A., Org.Lett., 12,
5238-5241 (2010) .
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