リバースエンジニアリングの迅速化に関する研究

リバースエンジニアリングの迅速化に関する研究
リ バ ー ス エ ン ジ ニ ア リ ン グ の 迅 速 化 を 図 る 3DCAD/CAMデ ー タ 作 成 支 援 シ ス テ ム の 開 発
(平成24~26年度)
製
品
技
術
部
○安田星季、万城目 聡、神生直敏、櫻庭洋平
ものづくり支援センター
岩越睦郎
北 海道 大 学 、旭 川 高専
1
はじめに
ある。また、CAM データ作成作業は多くのパラメー
リバースエンジニアリング(以下、RE)とは、手
タを設定する必要があり、この作業にも多くの時間
作りの試作品などの現物を測定し、その測定データ
を要する。
を基に CAD データを作成したり、CAD データを基
そこで本研究では、これらの課題を解決し、RE を
に再度試作を行ったりして製品設計を進める技術で
迅速化するツール類を開発した。
ある(図 1)。道内に
お い て は 、 3DCAD
2
非接触3次元測定実践マニュアル
を導入する企業の増
非接触 3 元測定機による測定には、測定物の表面
加 な ど に よ り 、 RE
性状が測定データの精度や取得率に大きく影響する
によって製品の高度
などの特徴がある。このため、測定を効率的に行う
化や設計の迅速化を
ためには、こうした特徴を理解し、適切に作業を行
図りたいというニー
ズが高まっている。
当場では、こうし
図1
うことが求められる。しかし、非接触 3 次元測定に
リバースエンジニ
関する実践的なノウハウについてとりまとめられた
アリング
公開資料はない。
たニーズに応えるため、RE 関連機器として非接触
そこで、当場で蓄
3次元測定システムや 5 軸 NC 加工システム等を導
積した測定ノウハウ
入し、技術支援に活用している(図 2)。また、RE
や新たに調べた技術
の工程別に複数のソフトウエア(以下、ソフト)を利
情報等をまとめた実
用しデータ処理・加工を行っている(表 1)。
践マニュアルを作成
した(図 3)。
図3
実践マニュアル
本マニュアルの内
容の一部は下記の通りである。
l
測定物の特徴(特徴形状の多少等)に応じた測
定方法の選び方
l
測定物に塗布する反射防止スプレーの膜厚とデ
ータ取得率との関係
図2
本マニュアルにより、非接触3次元測定に関する
当 場 に 導 入 さ れ て い る RE関 連 機 器
ノウハウ等が形式知として明確化され、測定作業を
表1
RE工 程 別 の 利 用 ソ フ ト
効率的に行えるようになった。
3
鋳肌面・機械加工面自動分離ソフト
当場がこれまでに支援した RE における CAD デー
タ作成事例のうち約 30 %が鋳造品であり、鋳造品の
RE へのニーズは高い。また、機械加工された鋳造
品は、面粗さが大きく異なる部位が一体となってい
表 1 のうち、CAD データ作成に関する作業では、
るなど、CAD データ作成に一層多くの時間を要する。
人が感覚的に行う作業が多いため、CAD データと測
そこで、CAD ソフト上で鋳造品の CAD データを
定データとの偏差がばらつきやすいといった課題が
作成する際に参照するサーフェスデータ※を効率的に
-5-
作成するため、測定データを鋳肌面と機械加工面に
タを入力する必要があるため、作業に多くの時間を
自動分離するソフトを開発した。
要する。当場の CAM ソフトではこれを解決する手
本ソフトにより、従来の一体処理で作成したサー
段として加工方法の一括入力機能が用意されている
フェスデータと同程度の品質のデータをより軽量に
が、工具回転数等のパラメータ値を一覧表示できな
作成できるようになり(図 4)、その結果、CAD ソ
いなど、一部に使いにくい点があった。そこで、こ
フト上での
うした課題を解決するため、加工パラメータ設定支
CAD デ ー タ
援ソフトを開発した(図 6)。
作成時間を短
本ソフトは、当場の CAM ソフトが作成する一括
縮することが
設定ファイルから工具回転数等の重要パラメータを
可能となっ
読み出し、一覧表示することができる。また、それ
た。
図4
らのパラメータを一覧表上で編集することも可能で
分離ソフトの利用例
ある。これらの機能によりパラメータ設定作業を簡
4
コマンド履歴・偏差グラフ表示ソフト
便かつ迅速に行えるようになった。
CAD ソフト上で参照するサーフェスデータ作成作
業では、スムージング処理など人がデータを見なが
ら感覚的に行う作業が多いため、サーフェスデータ
データと測定データとの偏差がばらつきやすい。ま
た、パラメータ調整に試行錯誤することが多く、作
業に時間を要する。そこで、サーフェスデータと測
定データとの偏差のばらつきを抑制し、効率的に作
図6
業を行うため、サーフェスデータ作成ソフトのコマ
ンド履歴・偏差グラフ表示ソフトを開発した(図 5)。
6
加工パラメータ設定支援ソフト
検証試験
本ソフトは、サーフェスデータ作成ソフトが生成
本研究で開発したソフトの効果を検証する試験を
する履歴ファイルから作業中に選択したコマンドや
行った。現物の鋳造品(バルブ部品)を基に設計変
偏差計算結果等を逐次読み出し、一覧表示する。ま
更した部品の CAD データを作成し、木型を製作す
た、以前に行った作業のコマンド履歴や設定パラメ
る事例を想定し、RE の一連のデータ作成時間を測
ータ値等も同様に表示することができる。
定した(CAD データ作成:被験者 2 名の平均値を算
これらの機能により、作業中の偏差の推移を把握
出、CAM データ作成:被験者 1 名)。その結果、開
しながら作業を行うことができるため、偏差のばら
発ソフトを利用した場合の方が利用しない場合より
つきを抑制し、作業時間を短縮することが可能とな
も約 25%の時間短縮となった(図 7)。
った。
図5
5
図7
コマンド・偏差表示ソフト
加工パラメータ設定支援ソフト
7
試験結果
まとめ
CAM データ作成作業は、CAM ソフト上で各種の
本研究では、RE におけるデータ作成の迅速化を
荒加工、仕上げ加工の加工方法毎に多くのパラメー
支援するツール類を開発し、検証試験を通じてその
有効性を確認した。今後は RE に取り組む道内企業
※サーフェスデータ:測定データに近似した曲面
や技術センターに対して、得られた成果の普及を図
の集まりで、測定データよりもファイル容量が小
っていく予定である。
さい、CAD ソフト上で断面線を生成できるなどの
(連絡先:[email protected] 、 011-747-2378)
利点がある。
-6-