A Study on the Sustainability of the Shopping Streets Based on

商店街内部環境と後背地の相互分析に基づいた商店街の持続性に関する研究 ー世田谷区を事例としてー
A Study on the Sustainability of the Shopping Streets Based on Mutual
Analysis of Internal Environment of the Shopping Streets and the Hinterland.
-A Case of Setagaya City,Tokyo-
時空間デザインプログラム
13M43325 吉田 真希 指導教員 真野 洋介
Environmental Design Program
Maki Yoshida, Adviser Yosuke Mano
ABSTRACT The purpose of this study is to analyze internal environment of the shopping streets and the
hinterland to each other towards the sustainable shopping streets.
As the impact of changes that hinterland gave to the shopping streets,
1.Sales per store associated with the opening commercial facility has increased in short term at
the small and medium-sized shopping street, but it isn’t connected to sustainability of the
shopping street. 2. In the long term, infrastructure development has led to the increase in sales
per store. 3. There is a possibility that cause the dissolution of the shopping street if there is
deviation of significant store business category.
1 章 はじめに なお本研究において、店舗数・従業員数・売上高・店舗業
1-1.研究の背景と目的 態の 4 つの観点を含めて「商店街内部環境」と定義した。 地下街やショッピングセンターなどの計画的に形成された
1-3.研究の位置付け 商業集積地と異なり、自然発生的に中小小売業者が集積し形
商店街を網羅的に扱い分類したものとして、商店主や商店
成した商店街は、戦後から増え続け全国的に約 3 万もの商店
街の視点に立った商圏範囲によるもの や、業種形態によるも
ⅰ
ⅱ
街が誕生した。現在商店街は小売市場の約 4 割のシェアを占
の などがあげられる。立地性に基づいた分類も行われている
めており、流通小売市場において大きな存在である。しかし
が 、商店街を特徴付ける後背地の範囲が非常に広域で全体的
近年商業環境や消費者ニーズの変化、購買機会の多様化など
な商業集積傾向を捉えるのみに留まっている。
により商店街を取り巻く環境は変化しつつあり、2007 年の商
本研究では商業集積形態の一種として商店街を扱うのでは
店街数は約 1.2 万と量的に減少傾向にある。
なく、商店街内部環境と後背地 の動きの両者に着目し相互分
また商業環境の競合や近接など、商店街を取り巻く共通し
析を行うことで、商店街特有の特徴や課題を見出すことを主
た課題は存在するものの、個々の商店街の状況は画一的では
眼としており、この点において独自性があると考える。
なく、それぞれ地域性や商業集積の度合いなどが異なるため、
2 章 小売業における商店街の位置付け その現状を把握して分析する必要があると考えられる。
2-1.商業環境の整理 以上を踏まえ本研究では、東京都区部の商店街の動向を把
小売業に含まれる商業形態は、専門店 や中心店等買い回り
握しその特殊性を示したうえで、店舗業種形態や商業統計デ
品が中心の百貨店など多岐に渡る。小売業全体における専門
ータに着目した商店街内部環境と、商店街の後背地の動きの
店の内訳として、事務所数が 61%、従業員数と売上高が 40%
両者に着目した相互分析を行い、今後の商店街の持続や活性
を占めることから他業態と比較して規模が大きいといえる。 化に向けた取り組みに向けて考察することを目的とする。
2-2.商店街形成史 1-2.研究の構成と方法 商店街の起源としては、江戸期に寺社前や主要街道沿いに
2 章では商業環境の整理と商店街形成史を把握し、小売業
自然発生的に集積したものや、戦災や天災を契機とした宅地
における商店街の特性を示す。3 章では東京都区部全域の商
開発によって生じた新たな居住地の生活を支える機能を担い
店街を対象に、商業統計データの読み取りと商業関係の立地
計画的に発生したものなどがあげられる。 特性により、各区の類型化を行う。4 章では詳細な分析の対
戦後の商店街の変容を捉えるため、商店街に関連する法制
象地として世田谷区を対象に、商店街の現状と後背地の整理
度等の一覧を示す(表 1)。戦後中小小売業の正当な経営基盤
を行い、5 章では後背地に動きがみられる商店街において、
を築くために組織化を図ることを目的に施行された「中小企
商店街内部環境と後背地に着目した相互分析を行う。 業等協同組合法」を皮切りに商店街の組織化が始まった。1998
ⅲ
1
2
年には大店立地法が施行され、大規模店舗の進出に拍車をか
3-3.地域に着目した小売業の動向 けた。大規模店舗やコンビニエンスストアなどの多様な商業
用途地域の指定状況に着目すると、商業系用途地域 は都心
環境の台頭や、ネット通販など商業形態の多様化により商店
3 区から遠ざかるにつれ減少し、面的から線的な広がりへと
街を取り巻く環境は変化しつつある。 放射線状に形成している。また住宅系用途地域が高い割合を
3
占める世田谷区や練馬区、工業系用途地域が高い割合を占め
表 1.商店街を取り巻く法制度の変遷 る荒川区や大田区の商業系用途地域では、他用途地域との共
存をより求められ、また影響をより強く受けると考えられる。 業態別にみて事務所数が多い区を一覧に示す(表 2)。小売
業の総数に着目すると、都心 3 区から離れ商業系用途地域の
指定割合が少ない、世田谷区・大田区・足立区が上位を占め
ていることが分かる。総数が最多である世田谷区は、専門店
を含む多様な業態で事務所数が最多となっており、一方で百
貨店の進出が少ない傾向にある。 表 2.東京都区部における業態別事務所数の順位 2-3.小結 小売業における商業業態は多岐に渡ることを示し、百貨店
総数
世田谷区
総合スーパー
大田区・江戸川区
コンビニエンスストア
専門店
百貨店
や総合スーパーと比較して、商店街の事務所数や従業員数の
専門スーパー
規模が上回ることから、商店街のシェアは依然として大きい。
しかし宅地開発やインフラ整備などの大規模な事業や、他商
その他のスーパー
業施設の進出による商業環境の変化などの周辺環境から影響
中心店
その他の小売店
を受けやすい存在でもあるといえる。
第1位
区名
事務所数
第2位
区名
事務所数
第3位
区名
事務所数
7,627
大田区
6,661
10
足立区・ 飾区
7
世田谷区
256
大田区
247
江戸川区
198
世田谷区
5,001
大田区
4,400
足立区
3,933
千代田区
10
新宿区
8
中央区
練馬区
世田谷区
世田谷区
9
91
761
1,508
新宿区
世田谷区
練馬区
大田区
足立区
6
渋谷区・千代田区
89
足立区
670
世田谷区・練馬区
1,461
足立区
足立区
飾区
6,177
5
6
70
613
1,359
6
3 章 東京都区部における小売業の分類 3-4.詳細分析地の選定 3-1.3 大都市圏における商店街の動向 詳細分析地として「世田谷区」を選出する。 3 大都市圏の比較により、事務所数・従業者数・売上高に
その理由は以下の 2 点があげられる。 着目した東京都における小売業の特性を捉える(図 1)。
①東京都区部の中でも最も商店街数が多く、多様な業態の商
小売業に占めるスーパーや専門店の割合は 70%と大きく、
店が近接しつつ競合し、商業活動が盛んである。 また全国に占める 3 大都市圏の割合は 10%と縮小している。
②小売業に占める百貨店などの大規模店舗事務所数の割合が
東京都では専門店の割合がやや低い一方で他業種が台頭しつ
低いことから、他地域と比べると商店街が一定の活力を維持
つあり、専門店は多様な商業環境を抱えている。特に専門店
していると考えられる。 と類似した最寄品を扱う、中心店やコンビニエンスストアの
3-5.小結 占める割合が高い。また新規店舗出店数が減少していること
東京都区部の小売業の実態として、重層的な商業環境の中
から、より都市の成熟度合いが高く新陳代謝が起こりにくい
で、商店街を含む専門店の事務所数の割合が最も大きいこと
状況であると考えられる。
が明らかになったが、百貨店や総合スーパーの 1 店舗あたり
3-2.規模に着目した小売業の動向 の売上高が高いことから、それらが進出した際に専門店の売
従業員数は全国的には減少傾向にあるが、東京都ではほぼ
上高に大きな影響を及ぼす可能性があると考えられる。 横ばいに推移しており、雇用の一形態としての意味も担って
また都心 3 区から離れるほど線的に小売業は形成されてお
いるといえる。全国合計と比較して東京都の百貨店や総合ス
り、そのような地域において百貨店などの大規模店舗の進出
ーパーの売上高は高く、それらが出店した際に専門店などに
割合が少ないことから、商店街を含む専門店の活力があると
金銭的な側面で与える影響は大きいと考えられる(図 1)。
いえる。 ■新規店舗出店推移
軒
年 2004 2006 2008 2010 2012
639
523
586
37
25
33
23
27
24
31
28
23
37
27
16
26
27
大阪府
愛知県
40
20
1.6%
25.6%
738.4
5.2%
-5.0%
東京都
ホームセンター 食品スーパー
12.6% 全国合計 4.4%
■売上高内訳
0.07%
2002 +6.2%
20.0% 12.3% 4.1%
12.9%
38.0%
4.4%
東京都
776.2
757.9
2004 百貨店
5.7%
その他
0.1%
中心店
19.1%
専門店
40.3%
その他の
スーパー 4.4%
4-1.世田谷区の市街地特性 全国合計
愛知県
735.0
1994 1997 小売市場 その他
寄合百貨店 0.3%
0.5%
4.7%
3.5%
百貨店
ショッピング
1.4%
センター
3.9%
専門店 スーパー
43.0%
41.6%
30.6%
6.3%
東京都
大阪府
60
万
人
■小売業 業態構成比
2.7% 11.8%
797.2
80
]
652
42
東京都
4 章 世田谷区を対象とした商業環境の整理 ■従業員数推移
[
全国合計 713
2007 [年]
総合スーパー
5.5%
専門スーパー
4.4%
コンビニエンス
ストア 5.2%
全国合計
ドラッグストア
2.2%
経済産業省「商業統計調査 業態別(小売業)2007 年」、週刊東洋経済「全国大型小売店総覧 2013 年版」より作成
図 1.全国合計と 3 大都市圏における商店街の動向 東京都区部の中で 2 番目の大きさを占め、人口・人口密度・
世帯数ともに増加傾向にあり広大な住宅地が広がっている。 戦前の鉄道網整備や、戦後復興を契機に定住人口が増加し、
そして東京オリンピックや高度経済成長期に伴う都市化を背
景として市街地が形成された。特に私鉄各社による沿線宅地
開発や、玉川全円耕地整理事業を代表とする土地区画整理事
業により大規模な住宅地が誕生したことが特徴的である。 4-2.世田谷区における商店街の現状 から 37.7%に減少しており、サービス業店舗の台頭が著しい。 現在世田谷区には 138 もの商店街が存在する(図 2)。商店
総店舗数・1 店舗あたりの売上高・店舗業態の推移に着目
街数と店舗数は年々減少傾向にあり、特に生鮮食品や衣料品
する (図 3)。全体的な傾向として総店舗数増減率は減少傾
小売業が含まれる物販店舗の減少が顕著である。また総店舗
向にあるものの、1 店舗あたりの売上高増減率や店舗業態変
数は 10.4[軒]とあまり変化がなく、物販店舗の割合が 50.6% 化にはばらつきがみられる。1 店舗あたりの売上高は 41.2[百
4
万円]減少しているが、中小規模の商店街は総じて増加傾向に
①
線
京王
あり、顕著なサービス業店舗の増加がその背景として考えら
③ ④
②
⑤
⑩
⑥ ⑧
⑨
①
⑦
⑤
⑫
12
⑤
④
②
①
⑥
③
⑧
急線
小田
①
⑦
経堂駅
南側地区
砧地域
④
①
6[km]
数が少なく、店舗業態がどちらかに大きく比重を持つ商店街
⑮
において解体された商店街が多くみられた。 ⑱ ⑰
⑲
4-3.後背地の整理 大規模店舗や大規模事業(市街地再開発事業・密集市街地
⑮
事業)、インフラ整備(都市計画道路の整備)の 1994 年
⑲
2007
年の動向に着目して商店街の後背地を整理する(図 4)。 ⑳
5
大規模小売店舗 は 1990 年代以降を中心に開業し、駅周辺
⑥
世田谷地域
6
や主要道路沿道に多く立地している。また特定商業施設 は品
都
⑦
商店街(商店街連合会に加入)
商店街(商店街連合会に未加入)
近接している商店街を地区毎にまとめたもの
地域境界線
3
⑯
田
急
⑧
東
②
1
⑬
三軒茶屋駅
周辺地区
⑱
⑤
⑭
園
③
0
⑬
⑨
⑰
店舗業態の偏りが大きくなる傾向が読み取れる。また総店舗
下北沢駅周辺
北側地区
⑪ ⑫
⑳
⑭
⑧
⑯
⑥
⑩
⑨
⑥
⑩
②
⑦
井 京
の 王
頭
線
⑧
③
市
成城学園駅
周辺地区
③
⑦
④
④
東
急
世
田
谷
線
れる。総店舗数と店舗業態からは、総店舗数が少なくなる程
⑤
北沢地域
⑪
線
鳥山地域
⑬
⑫
東急
大
⑨
物構成に偏りがなく、商店街内を含む広域に立地している。
⑭
井町
線 ⑩
⑪
⑯
東
急
東
横
線
⑮
玉川地域
▲
市街地再開発事業は密集市街地事業の事業区域と重複してい
る場合が多く、二子玉川地区や三軒茶屋地区で大規模な市街
⑱
地再開発事業が実施されている。商店街が事業区域に含まれ
線
目黒
東急
⑰
る場合もあり、商店会の統廃合が実施されるなどの商店街に
奥沢駅南側
⑳ ⑲周辺地区
対する影響が大きい考えられる。都市計画道路の事業平均延
長距離は 244.7mと広域に広がるものの、近年商店街沿いの
世
田
谷
地
域
①千歳船橋参商会商店街 ②桜丘三丁目商店会 ③経堂商店街 ④経堂恵泉通り中央会 ⑤経堂小学校通り三ツ和会
⑥経堂本町会 ⑦経堂農大通り商店街 ⑧城山通り商店会 ⑨上町銀座会 ⑩ボロ市通り桜栄会商店会 ⑪さくらセン
ター通り共栄会 ⑫さくら通り共和会 ⑬世田谷駅前商店街 ⑭松陰神社通り松栄会商店街 ⑮若林中央商店会 ⑯弦
巻商店会 ⑰教育センター通り商店会 ⑱親和橋商店会 ⑲駒沢大学駅前商店会 ⑳上馬商店会 中里通り商店街
三軒茶屋商栄会協同組合 三軒茶屋仲見世商業協同組合 三軒茶屋三和会商店街 三和会 世田谷通り共
和会 三軒茶屋銀座商店街 太子堂商店街 下の谷商店会 太子堂中央商店街 三軒茶屋十一番街商店
会 三軒茶屋商店街 三宿四二〇商店街振興組合 三栄会 下馬新興会 玉
川
地
域
①玉川商店街 ②二子玉川商店街 ③瀬田商店会 ④用賀商店街 ⑤桜新町商店街 ⑥新町親和会 ⑦上野毛商和
会 ⑧中町商店会 ⑨等々力商店街 ⑩尾山台振興会商店街 ⑪尾山台商栄会商店街 ⑫深沢坂上商店会 ⑬深沢
中央商店会 ⑭東深沢商店街 ⑮九品仏商店会 ⑯南自由が丘商店会 ⑰ファミリーショップ商店会 ⑱奥澤共栄会
⑲奥沢本町商店会 ⑳奥沢親交会 奥沢銀座会
サービス業店舗へ移り変わり、また各商店街の店舗数は減少
北
沢
地
域
①桜上水商店会 ②富士見湯通り商店会 ③下高井戸商店街 ④明大前商店街 ⑤代田橋商栄会 ⑥代田橋栄光会 ⑦赤堤商店街 ⑧山下商店街 ⑨豪徳寺商店街 ⑩梅丘商店街 ⑪東松原商店街 ⑫代田商店会 ⑬しもきた商店街
⑭下北沢一番街商店街 ⑮下北沢東会 ⑯下北沢南口商店街 ⑰下北沢南口ピュアロード新栄商店会 ⑱代沢通り共
栄会 ⑲淡島通り商栄会 ⑳若代商和会 北沢五丁目商店街 池ノ上商栄会
施されている駅周辺の店舗数が多い商店街においては、1 店
道路で実施されているケースは少ない。 4-4.小結 区全域において店舗業態の推移は商店街の規模に関係せず
傾向にあることが明らかになった。特に大規模事業が多く実
舗あたりの売上高の減少率が著しく、後背地の変化が商店街
鳥 ①北鳥山連合商業会 ②鳥山西口駅前商店街 ③南鳥山六丁目商店街 ④鳥山商店街 ⑤鳥山駅南口商店会 ⑥鳥
山
地 山駅前通り商店街 ⑦粕谷商誠会 ⑧ 花公園商店街 ⑨八幡山商店街八栄会 ⑩八幡山連合商業会 ⑪上北沢共
域 栄会 ⑫上祖師谷商和会 砧 ①喜多見商店街 ②成城商店街 ③成城南商店街 ④祖師谷商店街祖師谷昇進会商店街 ⑤祖師谷南商店街 ⑥TMC
地
域 通り商店街 ⑦千歳船橋商店街サンヒルズ希望ヶ丘 ⑧赤堤通り西商店会
内部環境に影響を及ぼしていると推測される。一方、1 店舗
あたりの売上高が増加していることから、中小規模の商店街
図 2.世田谷区における商店街の分布 5 章 商店街内部環境と後背地に関する相互分析 5-1.後背地が引き起こす商店街内部環境の変化 20
7
近年、後背地に動きを持つ 17 の商店街を抽出し 、後背地
砧4
玉川 5
世田谷 3
1 店舗あたりの
玉川 4
北沢 3
売上高増減率 [%]
玉川 22
150
200
-50
50
100
北沢 16
世田谷 13
0
世田谷 36
鳥山 7
世田谷 28
北沢 23
砧 11
北沢 11 玉川 15
北沢 18 北沢 4
鳥山 6
玉川 18
砧1
北沢 5
砧8
世田谷 1
北沢 9
世田谷 35
鳥山 4
世田谷 19
北沢 6
鳥山 8
玉川 7
鳥山 9
鳥山 11
-20
玉川 9
玉川 12
世田谷 37
世田谷 18
世田谷 15
北沢 22
世田谷 14 -30
北沢 7
北沢 20
玉川 13
世田谷 21
玉川 8
世田谷 17
北沢 21 -40
北沢 1
玉川 11
玉川 1
-50
総店舗数
増減率 [%]
-100
砧6
毎に引き起こされる商店街内部環境の中で多くみられたケー
スを詳細に示した(図 5)。商店街内部環境と後背地に関する
相互分析を行い、以下の 2 つの知見を得た(図 6)。 ①大規模店舗の出店は商店街そのものの持続性には結びつか
ず、商店街の店舗業態の変化を引き起こす可能性がある。 後背地に大規模店舗が出店した全ての商店街において、そ
の時期を境に 1 店舗あたりの売上高が変化し、さらに 55%の
8
商店街において 1 店舗あたりの売上高が増加している 。しか
世田谷 5
-60 2007 年総店舗数 [ 軒 ]
鳥山 12
においては個店の集客力が維持されていると考えられる。 し駅周辺に立地する商店街を中心に、後背地の外に大規模店
玉川 14
∼50
物販店舗増減率 [%] ∼25
51∼100 101∼150
26∼50
51∼75
151∼200
76∼100 101∼125
サービス業店舗増加
図 3.商店街内部環境の推移 舗が出店した時期を境に商店街内部環境として扱う 1 店舗あ
201∼
たりの売上高が減少傾向にあることから、長期的にみて大規
126∼
物販店舗増加
模店舗の出店は商店街そのものの持続性には結びついていな
いといえる。 さらに大規模店舗の出店を境に商店街の店舗業態が変化し
ⅳ)経済産業省「商業統計調査(小売業 立地環境特性別)」各年 ⅴ)世田谷区商店街連合会「世田谷区産業団体名簿」1996,2000,2006 年 ている商店街がみうけられた。同時期に商店街の店舗数も減
注釈 少していることから、大規模店舗と同業種の店舗の撤退が起
きていることが考えられる。また過度な店舗業態の偏り(物
販店舗 70.9%以上又はサービス業店舗 86.8%以上)があった
商店街において消滅が確認された。 ②密集市街地事業や都市計画道路などの実施は、商店街の維
持に寄与する可能性がある。 密集市街地事業や都市計画道路などが実施された直後にお
いて商店街の 1 店舗あたりの売上高が減少する傾向にあるが、
概ね 7
1) 該当商店街から 600m 圏内を商圏範囲として定め、大規模店舗・大規模事業(市
街地再開発事業・密集市街地事業)・インフラ整備(都市計画道路の整備)が実
施されているものを「後背地の動き」とした 2) 取扱商品として衣料品・食料品・住関連のいずれかが 90%以上を占める店舗(中
心店は 50%以上)を指し、「商店街」はこれに含まれるものとした 3) 近隣商業地域と商業地域の総称 4) 後背地の変化(1994 年 2007 年 ※事業中のものも含む)、商店街内部環境(店 舗数・売上高・従業員数 1994・1997・2002・2004・2007 年、店舗業態 1996・2000・
2006 年)を基準とした 5) 大店立地法に基づき店舗面積が 1000 ㎡を超え、届け出された店舗 6) 大規模小売店舗を除く、店舗面積が 500 ㎡を超える店舗 7) 1994 年 2007 年の間に後背地に動きを持つ 19 の商店街の中から、経済産業省「商
業統計調査」にてまとめて扱われている 2 つの商店街を除外した 8) 本稿において大規模店舗は後背地に出店しているため、商店街内部環
境として扱う 1 店舗あたりの売上高に大規模店舗の売上高は含まれ
ていない
8 年後においてはそれが回復していることが読み取
は商圏内居住人口の増減率が減少しているが、事業の完了に
この傾向は駅近隣に立地する商店街において顕著にみられ
総店舗数
(減少)
たことから、立地特性も関係しているものであるといえるが、
なった。 世田谷 1
北沢 23
住人口の変動が考えられる。 世田谷 14
砧6
世田谷 13
世田谷 21
玉川 8
北沢 9 鳥山 6
玉川 15
偏りのない
鳥山 12
店舗業態へ
北沢 20
50 軒以上 100 軒未満
50 軒未満
200 軒以上
100 軒以上 200 軒未満
商
規店
模街
の
世田谷 13
都市計画
道路整備
都市計画道路
の整備・補修
北沢 9
【密集市街地事業】
豪徳寺駅周辺地区
世田谷駅
商店街をはじめとする中小小売業は、小売業全体において
繋がるといえる。
ことを示す
寺駅
豪徳
都市計画
道路整備
密集市街地事業
2004
22%
2007
円
[年]
軒
78%
1994
1997
51%
49%
2000
増加
密集市街地事業
都市計画道路
2004
1
店
舗
あ
た
51% −40 り
の
売
−20 高
上
49%
2007
百
万
円
[年]
]
「まち」全体を維持・改善していく動きは、商店街の持続に
商店街番号が太字の
大規模店舗 ものは、後背地に大
規模店舗が出店した
の出店
[
密集市街地事業や都市計画道路の整備などの商店街を含む
72%
27%
2000
−80 舗
あ
120−
た
事
74% −60 り
の
務 80−
売
所
高
−40 上
数 40−
26% −20 百
万
]
店街の持続には結びつきにくいと考えられた。その一方で、
1997
鳥山 4
図 5.商店街内部環境の変化と後背地の動き 活動の場所として存続していくことを商店街の持続と考える
ならば、
「商業」の範疇で後背地が変化することは長期的な商
大規模店舗
51% 出店
1
店
減少
]
1994
店舗業態
北沢 4
【密集市街地事業】
豪徳寺駅周辺地区
[
40−
サービス業店舗
49%
[
軒
]
商店街が一定軒数以上の個店の集客をしており、商業消費
物販店舗
80−
[
活力を維持していることがいえた。
120−
物販店舗
中心へ
大規模
店舗
大きいシェアを占めていることが明らかになった。また都心
事
務
所
数
1 店舗あたりの
売上高(長期的に増加)
玉川 19
世田谷 28
鳥山 7
玉川 4
サービス業
店舗中心へ
5-2.結論 3 区から離れた場所に位置する区において、商店街が一定の
短期的な売上高増加
砧1
世田谷 36
伴いそれが増加していることから、この背景として商圏内居
駅の規模(駅乗降客数)には依拠していないことが明らかに
市街地再開発
事業の実施
密集市街地
事業の実施
れた。密集市街地事業や都市計画道路の整備が開始した時期
■商店街内部環境と大規模店舗との関係性
凡例:
大規模店舗の
出店
サービス業店舗 物販店舗 営業を中止した店舗 大規模店舗 顧客
▲
商店街
▲▲ ▲
▲▲ ▲
商圏範囲
▲▲ ▲
▲▲ ▲
・1 店舗あたりの売上高増加
・大規模店舗と同業種の店舗の撤退
■商店街内部環境と密集市街地事業・都市計画道路の整備との関係性
都市計画道路拡幅
による住宅の除却
凡例:
▲▲ ▲
▲▲ ▲
1 店舗あたりの
売上高減少
他大規模店舗の出店を契機とした
顧客の分散
商店街内の店舗 住宅 除却された住宅 新規住宅
都市計画道路の整備に伴う住宅建設
既往研究・主要参考文献 ⅰ)古賀陽子ら「熊本市における商店街の類型化と衰退要因に関する考察 -商店街の
活性化に関する研究-」日本建築学会九州支部研究報告,2013 年,pp.413-416 商店街
1 店舗あたりの
1 店舗あたりの
売上高増加
売上高減少
商圏範囲
ⅱ)角田靖彦ら「テナントの業種の変遷にみる商業空間の変容 中野ブロードウェイ
商圏内居住人口の増加
商圏内居住人口の減少
にみる商店街の特性変化」日本建築学会大会学術講演集,2009 年,pp.1069-1070 ⅲ)冨樫尚寛ら「商店街の形成基盤と特性の歴史的変遷に関する研究 名古屋市内 51
図 6.後背地の変化に基づく商店街内部環境の変化 商店街を対象として 」日本建築学会大会学術講演梗概集,1999 年,pp.561-562 ■密集市街地事業
■後背地の位置と事業(開業)年
❹ 花公園駅南口地区第一種市街地再開発事業
⑦玉川 3 丁目地区 1997∼
❶三軒茶屋・太子堂四丁目地区 ①太子堂・三宿地区 1983∼
第一種市街地再開発事業 ②北沢 3・4 丁目地区 1983∼
(休止中) ⑧太子堂 4 丁目地区 1998∼
10 明大前
13 南鳥山
12 上北沢
③世田谷・若林地区 1988∼
⑨豪徳寺駅周辺地区 1999∼
⑥
(1992-2006)
(1988-1998)
3 桜上水
2 上祖師谷
(1994-2007)
④区役所北部地区 1992∼
⑩千歳船橋駅周辺地区 1999∼
②
(1996-2008)
(1991-2001)
❸祖師谷大蔵駅南地区
⑤上馬・野沢地区 1993∼2007
⑪祖師谷大蔵駅周辺地区 1999∼
⑨ 5∼9(1986-) 4 下北沢
①
第一種市街地再開発事業
④
⑥北沢 5 丁目・大原 1 丁目地区 1995∼ ⑫大蔵地区 2008∼
14 成城学園前
⑩
(2006-)
⑪
⑧
(2003-)
③
11 明薬通り
■大規模小売店舗 品物構成
■特定商業施設 品物構成
⑤
⑫
❺二子玉川東地区
(2000-2007)
第一種市街地再開発事業
医薬品・化粧品、総合、DIY 関連用品、
野沢四丁目地区
❷
医薬品・化粧品
自転車、花・植木・園芸用品、生鮮食品 各 1%
DIY 関連用品
第一種市街地再開発事業
⑦
自動車 各 1%
1(2003-)
音楽・映像・ゲームソフト
不動産 3%
家電、情報通信機器 各 2%
音楽・映像・
その他
ゲームソフト
4%
身の回り品 2%
3%
1998
1969
1969
1991
書籍・雑誌
1968
身の回り品
5%
2000
食料品
食料品
9%
2011
41%
40%
1998
2008 2012
2004
衣料品
1985
1978
1996
1999
1996
2000 1961
2004
19%
2003
書籍・雑誌 衣料品
1995
1975
1979
4%
2013
2009
1972
2003
2006
家庭用品
24%
2005 19841998
21%
家庭用品
1998
7%
1969
1981
地図上
1997
2009
都市計画道路整備
市街地再開発事業
密集市街地事業
地図下
商店街
大規模小売店舗(数字は開業年)
特定商業施設
図 4.世田谷区における後背地の整理