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新しい育種技術を
めぐる状況
2015.6.30
くらしとバイオプラザ21
佐々 義子
[email protected]
1
戦略的イノベーション創造プログラム
2
「次世代農林水産業創造技術」で実施する課題
研究課題
1.農業のスマート化を実現する革新的な生産システム
(1)高品質・省力化を同時に達成するシステム
(2)収量や成分を自在にコントロールできる太陽光型植物工場
2.画期的な商品の提供を実現する新たな育種・植物保護技術
(1)新たな育種体系の確立
予算額
8.5億円
3.8億円
8.5億円
(2)持続可能な農業生産のための新たな植物保護技術の開発
3.5億円
3.新たな機能による未来需要創出技術
(1)次世代機能性農林水産物・食品の開発
5.0億円
(2)林水未利用資源の高度利用技術の開発
①木質リグニン等からの高機能素材の開発
3.3億円
②未利用藻類の高度利用・培養型次世代水産業の創出
生研センターにおける管理費
1.7億円
0.7億円
2.(1)新たな育種体系の確立
【8.5億円】
担い手の大幅な減少、企業による農業生産の拡大、和食に対する関心の世界的な高まり等、我が国の農林水産業や食品
産業を取り巻く状況が大きく変化する中、様々な市場のニーズに対応する多様な農林水産物の可能な限り速やかな開発
の重要性が増大している。
このような中、農林水産物の品種開発に必要な育種技術そのものを高度化するためのこれまでの取組を府省連携を通じ
て加速化し、様々な品目における育種期間の大幅な短縮と育種材料の多様化を早期に実現する。
1系:ゲノム編集技術等を
開発・改良
2系:オミクス解析技術等を育種
に応用するための技術を開発
3系:ゲノム編集技術を用い
て画期的な農作物等を開発
想定している画期的な農作物等の例
ゲノム編集技術
果樹の超早期開花技術
オミクス解析(代謝物等の網
羅的解析)技術の活用
作物等への重イオン照射技術の活用
開発された技術をパッケージ化し、国内のユーザーに提供
4系:NBTの社会
実装のための社会
4系:円滑な社会実装の方法
に関する調査研究等を実施
科学的調査と遺伝
子残存や変異発生
等に関する科学的
知見の集積
超多収イネ
さ進
れ捗
た状
技況
術に
を応
活じ
用、
開
発
おとなしいマグロ
(集約飼育が可能)
育種関係者に新しい技術の有用性を提
示/社会実装に至るまでの課題を抽出
し、対応策を検討
4-1
4-2
技術系
社会科学系
円滑な社会実装のための戦略・手
法を提案
【目標とするアウトカム】概ね10年後を目処に、育種の担い手たる国や地方の研究機関及び民間の種苗会社等が、新た
な開発された育種技術を活用し、多様なニーズに対応した様々な新品種を次々に開発するとともに、それらの新品種の
市場投入が円滑に行われることにより、国産農林水産物の品質・価格両面における市場競争力が向上する状況を創出。
新しい育種技術
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新しい育種技術
New Plant Breeding Techniques
(NPBT or NBT)
2007年 欧州委員会の下に新技術検討委員会(NTWG)設置
2011年 欧州委員会共同研究センター「新たな植物育種技術
(商品開発のための最新技術と展望)」をとりまとめる。
以下のことが書かれている。
〇論文数はEUが、特許出願数はアメリカが進んでいる。
〇企業では商業的な育種利用を開始している。
遺伝子組換え生物でないと整理されたら2-3年後に商品化さ
れるだろう。
〇育種の効率化、開発コスト削減が期待される。
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新しい育種技術がやってきた
2011年7月2日 主催 全国大学等遺伝子研究支援連絡協議会
「第3回遺伝子組換え実験安全研修会」 開花遺伝子が話題になる
2012年5月14日 主催 日本学術会議
「新しい遺伝子組換え~技術の開発と植物研究、植物育種への利用」
http://www.life-bio.or.jp/topics/topics461.html
2012年8月22日 朝日新聞「消える痕跡」
2013年2月17日 主催 くらしとバイオプラザ21
「新しい遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーション」
http://www.life-bio.or.jp/topics/topics537.html
2014年12月3日 主催 ILSI Japanバイオテクノロジー研究部会
「New plant Breeding Techniques(NBT)に関する国際動向」
2014年12月26日 日本経済新聞
「遺伝子組み換え、痕跡残らない技術 農業生物研が開発 」
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新しい育種技術とは
遺伝子組換え技術のような定義がない
カルタヘナ法の定義:「遺伝子組換え生物等」とは、次に掲げる技術の利用により得
られた核酸又はその複製物を有する生物。①細胞外において核酸を加工する技術で
あって主務省令で定めるもの、②異なる分類学上の科に属する生物の細胞を融合する
技術であって主務省令で定めるもの
遺伝子を操作する複数の技術の総称
例)ゲノム編集:人工ヌクレアーゼをコードした遺伝子を狙った
場所で働かせ、選抜の過程で導入遺伝子は削除される。
・オリゴヌクレオチド誘発突然変異導入技術
(Oligonucleotide-Directed Mutagenesis:ODM)
・ジンクフィンガーヌクレアーゼ技術 (Zinc Finger Nuclease)
・シスジェネシス及びイントラジェネシス
・接ぎ木
・アグロインフィルトレーション
・RNA依存性DNAメチル化技術 ・逆育種 ・合成ゲノム
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海外の状況 1
1.EU
2011年 欧州食品安全期間(EFSA)
欧州共同研究センター・技術予測センター(JRC-IPTS)でWS開
催
オランダ、イギリス、ドイツで個別の検討が行われている
GMOの定義は環境放出司令(2001/18/EC)付属書IAPart1
にあるので、これと照らし合わせる。
新規遺伝子がゲノム内に安定的に導入され、この遺伝子が後代に
受け継がれ、最終生物に残存するかどうかがポイント!
食成分に大きな変化があるときには 新規食品(Novel Food)と
して検討される。
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海外の状況2
2.米国
遺伝子組換え作物は農務省(USDA)、食品医薬品局(FDA)、環
境保護庁(EPA)が所管している。NBTはプロダクトベースで
ケースバイケースで判断。
USDAでは開発者からの照会を受けたときの回答を公開。その中
にNBTによるものも含まれている。
3.ニュージーランド
2013年4月EPAはZFN1とTALENを組換え規制対象外と判断。環
境NGOが無効を求める。2014年5月高等裁判所は環境NGOの主
張を認めた。
→具体的な判断の事例が蓄積されつつある。
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日本の国内の状況1
NBTの情報提供
学術会議は2014年、SPBTを対象にして報告書を公開。
農林水産省 新しい育種技術検討委員会が見解をまとめつつある。
学会などで情報提供が行われている
規制について
SPI(Seed Producing Technology) は規制対象にならなかった
日本での規制は検討中
期待されるゴール
1)日本発NBTが実用化すること
(日本発NBTが海外で利用されることを含む)
2)国民が適切な判断をして受容すること
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日本の国内の状況2
ベネフィットと懸念
最終製品で調べても自然突然変異と区別できない
→遺伝子組換え作物としての安全性審査のコスト削減
→公的機関や小中企業に参入のチャンス
→日本発NBTが実用化される可能性
→「痕跡が残らない」=「消費者をだます」技術という誤解
→NBTはすべて審査不要になるのではないかという懸念
ハードル
・規制は
・特許
・消費者の受容
→→表示
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消費者は
遺伝子組換え作物・食品をめぐる
コミュニケーションからの類推
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食品安全委員会
アンケート
遺伝子組換え食品に不安を感じない人が
50%を超えて6年
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
H24
H25
H26
0%
平成26年8月実施
20%
40%
60%
80%
まったく感じない
あまり不安を感じない
ある程度不安である
とても不安である
よく知らない
無回答
100%
16
食品安全委員会
2015年実施
健康影響で気をつけるべきことを10項目選んでください
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がんの原因になるものは?
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COOPの不分別表示された食用油の卸実績(本数)
3000000
2500000
2003年度実績
2007年度実績
2010年度実績
2000000
1500000
1000000
500000
0
キャノーラ油 1350g 非 一番絞りキャノーラ油 1
組換え
500g
サラダ油 1.5Kg
コーンソフト100 マーガ コーンソフト100 マーガ
リン450g 非組換え
リン450g
2010年度実績において、マーガリンは320g、サラダ油はキャンーラ&コーン油1000gの売上実績値を採用
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不分別表示食品の多様化
調味料 136品目中56品目に、氷菓 30品目中20品目に不分別素材を使用
機能
なたね
揚げ油、ドレッシング、マヨネーズ
ダイズ
ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン
アミノ酸液、しょう油
乳化剤
トウモロコシ
食用油、ドレッシング
コーンスターチ、パン粉
乳化剤・安定剤
水あめ、粉あめ、異性化糖
対象製品:インスタント食品、調味料、冷凍食品、パン、氷菓、菓子他
TOPVALUE 商品一覧より 2015年4月21日現在
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2014年度
試験栽培など
実施場所
(独)農業生物資源研究所
シンジェンタジャパン(株)中央研究所
筑波大学遺伝子実験センター
所在地 遺伝子組換え作物種類
実施者
除草剤耐性ダイズ
害虫抵抗性及び除草剤耐性トウモロコシ
スギ花粉症治療イネ
スギ花粉ペプチド含有イネ
茨城県
(独)農業生物資源研究所
複合病害抵抗性イネ
開花期制御イネ
殺虫タンパク質(Cry43Aa1)を生産する葉緑体形質転換タ
バコ
害虫抵抗性及び除草剤耐性トウモロコシ (Bt1
茨城県
シンジェンタジャパン(株)
xMIR162xGA21)
茨城県 耐冷性ユーカリ
筑波大学
除草剤グリホサート耐性ダイズMON89788系統 (ラ
ウンドアップ・レディー2ダイズ)
日本モンサント(株)
河内研究農場
チョウ目害虫抵抗性トウモロコシMON89034系統
茨城県 (イールドガード・VT・プロ・トウモロコシ)
日本モンサント㈱
チョウ目害虫抵抗性ダイズMON87751系統
コウチュウ目害虫抵抗性及び除草剤グリホサート耐性
トウモロコシMON87411系統
(独)農研機構 畜産草地研究所(那須)
栃木県 除草剤グリホサート耐性トウモロコシ
(独)農研機構 畜産草地研究所
ブイ・シー・シー・ジャパン㈱
ダウ・ケミカル日本㈱小郡開発センター
福岡県 害虫抵抗性及び除草剤耐性ダイズ
ダウ・ケミカル日本㈱
バイエルクロップサイエンス㈱明野事業所隔離ほ場 茨城県 除草剤グルホシネート耐性ダイズA2704-12
バイエルクロップサイエンス㈱
一般圃場(=農家)での商業栽培の状況
実施場所
所在地
非公開(08年4月から)
非公開
2013年度 遺伝子組換えカイコの隔離飼育施設で飼育
実施場所
所在地
(独)農業生物資源研究所
茨城県
遺伝子組換え作物種類
実施者
フラボノイド生合成経路を改変したバラ(青いバラ) サントリーホールディングス(株)
遺伝子組換え作物種類
実施者
緑色蛍光タンパク質(GFP)を県史で発現するカイコ (独)農業生物資源研究所
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新しい育種技術をめぐる
サイエンスコミュニケーション
22
消費者の意識
傾向
天然自然が好き(放射線育種、遺伝子組換え技術)
事実を知らない
遺伝子組換え作物・食品の安全性確認制度
組換え作物の大量輸入
本音とたてまえ
アンケートで誘起される不安
アンケート結果と購買状況は一致しない
遺伝子組換え作物・食品への関心の低下
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GMの二の舞?
内容
・技術開発の目的より安全性の説明が重視された
・特定の技術だけにフォーカスされていた
• 生産者のメリットが消費者のメリットになることが説明しきれていなかった
スタイル
• 欠如モデルだった
タイミング
• Up Stream Engagement ができなかった
• 説明者がいなかった→コンテンツの共有
結果
• 当事者が説明しなかった→STAFF 大中小規模コミュニケーション
• 安全と安心が混乱したまま→安全と安心の区別への言及始まる
さらに
• 不適切な発言、報道に反論しなかった
→食品安全情報ネットワーク(FSIN)、メディア対応
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情報量と安心の関係
“欠如モデル”から“市民参加”へ
受容
Engagement
Public
コミュニケーションの重要性
そして、信頼?
情報提供が有効
情報量
25
25
信頼関係の構築
• 信頼が成立する条件
能力への期待
意図への期待(サイエンスコミュニケーションの役割)
山岸俊男氏(北海道大学)
• 意見が一致している団体
• 皆が決定に関わって決めたルールの方が実効
性が高まる
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信頼性向上へのプロセス
能力へ
の期待
(情報)
信頼の向上
意図への期待
(コミュニケーション)
赤いパス:初めにバイオカフェなどでコミュニケーションを通じて話し合え
る関係を構築し、情報を提供する:関心の低い層向け(一般市民など)
緑のパス:初めに情報を提供し、関心を喚起し、コミュニケーションを通じ
て情報源が信頼に値することを伝える:関心の高い層向け(メディア、行
山岸俊男氏(北海道大学)「安心社会から信頼社会へ」を参考に作成
政、事業者)
NBT聴取会参加者の意見
全部の技術の説明が必要か
必要
46%
不要
54%
N=37
消費者の受容
★ベネフィット・リスクコミュニケーショ
ン→ベネフィットを前面に!
★技術の説明は二の次
☆日本の技術、企業の活躍の可能性
☆日本の農家が元気になる
事業化
・遺伝子組換え規制対象外になる
・育種期間の短縮化
・特許
提供する情報の内容と信頼感
リスクリテラシー
・リスクゼロはない
・リスクのトレード
・リスクコミュニケーション
田中 豊 2009 遺伝子組換え食品の受容におけるリスクリテラシーの重要性
日本リスク研究学会第22回研究発表会講演論文集,161-166
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一般市民への「プロダクトベース」の説明
イメージしやすい例
接ぎ木
組換え体の台木(病害虫に強い)に
おいしい果樹を接ぎ木する。
果実は組換え食品?→検証中
遺伝子組換え技術と同じ手順を行うが、最
終製品では自然突然変異との違いがわから
ないケースがある。
プロダクトベース⇔プロセスベース
台木は
組換え
「世界の人口増加」「食料の安定供給」
食物をつくる
• 収量が多い
• 栄養価が高い
• 栽培しやすい
↓
育種・栽培
交配、遺伝子組換え技術
NBT(特にゲノム編集)、
放射線育種、農薬、肥料
食物を保存する
• いつでも食べられる
• どこでも食べられる
• 劣化・腐敗しない
↓
保存・輸送
乾燥、冷蔵・冷凍、殺菌
食品添加物、
(食品照射)
生産者・事業者のメリット=消費者メリット
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各技術の強みが理解されるように!
従来の交配
突然変異
遺伝子組換え
実用化
多様な植物
食品表示
環境評価
ー
ー
ー
ー
○
○
?
SPTは不要
安全性審査
ー
ー
○
SPTは不要
ゲノム情報利用
△
△
○
○
変異の範囲
交雑可能近縁
種
ー
種の壁をこえる
交雑可能近縁種
メリット
特徴的費用
年数
多種な植物 飼料・油糧穀物
NBT
品質向上
育種効率向上
動物・植物
品質向上
消費者の信用
審査コスト削減
育種効率向上
安全性確認のコス 組換え規制対象外
ー
施設使用料
ト大
なら審査コスト削減
数十年
10年
10年
2-3年
ストーリー性
Success Story
• 地方創成
過疎地域にアグリ株式会社
• 女性の参画
• ブレークスルー(今、問題になっていること)
GM実用化例:
組換えイチゴで動物医薬品
NBT開発中の事例:
ジャガイモのソラニン中毒
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情報発信のTPO
Upstream Engagement:
早期から、多様なステークホルダー
スタイル:行政・事業者から
ぶれない情報発信
関心の高い層に厚く
慎重派対応:
○痕跡なき遺伝子組換え技術
「痕跡を隠す」+遺伝子組換え技術」
○オフターゲット懸念への説明
○タグを入れてトレース
34
ご清聴ありがとうございました
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