日中の視点・知財(201509)No.16

大邦法律速報
上海大邦法律事務所
DeBund Law Offices(Admitted in P.R.C.)
日中知財/ 小論説
日中の視点 / 知的財産権法
No.16
China-Japan IP Law Review
a special edition of DeBund Newsletter
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Date: 2015.09.01
大 邦 法 律 事 務 所 (DeBund)に つ い て
編集者記:
“ 日 中 の 視 点 / 知 的 財 産 権 法 ”を 上 海 大 邦 律 师 事 务 所 Newsletter の 特 别 版
と し て お 届 け 致 し ま す 。知 的 財 産 権 法 は 最 も グ ロ ー バ ル 化 が 進 ん だ 法 律 分 野 で す
が 、そ れ で も 、日 本 と 中 国 の 間 に は 、問 題 の 捉 え 方・考 え 方 に 隔 た り が あ り ま す 。
そ こ に 焦 点 を 当 て つ つ ,経 営 的 な 視 点 も 踏 ま え 、知 的 財 産 の 保 護 の 在 り 方 、関 連
す る 契 約 問 題 等 に つ い て 、原 則 毎 月 、小 論 説 を お 届 け 致 し ま す 。第 十 六 回 の 今 回
は、
「 オ ー プ ン・イ ノ ベー シ ョ ン と 中 国 / 特 許 法 の 改 正 -第 4 次 」に つ い て で す 。
日本と中国の相互理解の一助になれば幸いです。
二零一五年九月一日
日中知財/ 小論説 No. 16
「オープン・イノベーションと中国 (10)/ 特許法の第4次改正」
弁理士 川本敬二
上海大邦法律事务所 顧問
1.特許法の改正:
日本ではこの7月に特許法の改正が公布されました。会社の研究所等でその研
究者によってなされた発明(職務発明)の権利帰属について、従来は、「発明
者である研究者に帰属する」としていたのを、改正法の下では、原則、直接「会
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社に帰属させる」ことになりました。目的は、イノベーションを推進する為と
されています。会社人にとりましては、当たり前の結果になったとも言えます
が(私は、会社時代が長かったので、強い遺伝子の刻印があります)、他方、
新発明の創出にあたって、強烈な個による牽引が求められるような場合には、
組織が個に大きく覆いかぶさる結果となる今回の改正は、様々な組織形態から
なる日本全体のイノベーションの創出にどのような影響を与えるのか、我々が
選択した方向性ですが、疑問を持たれる方もいらっしゃるかも知れません。
さて、一方中国ですが、今、第4次の特許法の改正に向けて議論が盛んです。
前回の第3次の改正は、2009 年になされました。その改正では、中国の特許
の質、ひいては、発明の質を高めるべく、特許付与の為の要件のバーを引き上
げました(新規性の要件を国際レベルにまで引き上げる)。加えて、中国の特
殊性を主張するような改正、例えば、中国国内の遺伝資源を使った発明につい
て中国の利権を主張する為の条項も盛り込まれました。それから6年が経過し、
この間、特許の出願数では世界一に躍り出たように、中国の企業・研究機関の
発明の創出に向けた投資熱が高まりましたが、他方、新たに生まれた発明につ
いて、それを事業化にまで持って行く為には、更に、強力な後押しが必要な情
勢です。既に、中国で武器となる特許権を有し、中国国内で積極投資の上、事
業活動をしている外資系の企業は、権利者として、特許権でカバーされた製品
の市場での独占権を確実にするために、特許権を更に強化し、その適正な保護
がなされること主張しています。特許侵害訴訟の局面では、中国の内資同志の
係争も増えておりますが、制度上の不備も指摘されています。中国で自主イノ
ベーションの能力がある一定の水準に達しつつある今、イノベーションを軸に
経済構造の展開を図らなければいけない中国にとって、イノベーションを更に
推進する為に特許制度の見直しが必須の情勢であるといった社会的な背景が
あります。
2.日本企業から見た中国特許法改正(オープン・イノベーションに関連す
る範囲で)
日本企業が中国企業とライセンス契約及び共同研究契約等に基づく提携関係
に入る際、日本側から様々な懸念点が挙げられます。ライセンス形態による提
携の場合は、日本企業か中国で有する特許権がその商品の中国市場に於ける独
占権を確保するに際して、侵害者に対し、どれだけ抑止力を有しているのか、
これは、中国では知財の保護が十分でないといった印象が本質にあります。共
同研究による連携の場合、そもそも、中国の企業の研究開発力は連携するにた
るレベルにあるのか、そして、共同研究から生まれてくる発明の保護が日米欧
では問題ないとしても、中国で、キッチリと権利化されるのか、権利化された
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として、前者の問題点同様、特許権の保護は十分に保障されるのか、そういっ
た懸念点が挙げられています。
中国では、低コストでの製造からイノベーションを駆動とする経済構造への転
換の必要性と同時に、叫ばれているのが、人治から「法治社会」への転換です。
特に、現政権がスタートしてから事あるごとに法治社会の構築の必要性が強調
されています。一度、締結した契約は、中国企業が日本企業同様に、キッチリ
と履行するのであろうか?万一、履行されない場合には、適正な解決を図れる
仕組みが存在するのか?更には、中国で付与された特許権は、適正な範囲で保
護される(侵害者に対し、抑止力として働く)のか、即ち、特許侵害が発生し
た場合、特許侵害者を排除できる仕組みが適正に働くのであろうか?そういっ
た日本企業が抱く懸念点の払拭を目指すことにも繋がるのが、この「法治社会」
への転換です。
上記の様な懸念点に関連して、今回の特許法の改正は、中国の研究開発レベル
を上げること、特許権の質の向上、特許の保護レベルを上げること等について、
制度改善が試みられています。
2-1)特許の保護レベルの引き上げ
中国の特許侵害訴訟の局面では、特許権者にとっては、訴訟に時間とコストが
かかり、また、侵害・損害の立証に多大なる重荷が背負わされているにも拘ら
ず、認定される賠償額が低いこと等、問題点が指摘されてきました。その結果
として、特許の侵害行為が絶えないといった社会を形成してきたとも言えると
思います。
今回の改正では、下記の制度を取ることにより、特許の保護レベルの引き上げ
を図るとしています。
① 損害額の立証の負担の軽減:
特許権者が侵害者による侵害品の販売等の特許侵害の行為によって被った
損害については、裁判で損害賠償を請求することになりますが、侵害品の
販売高等の数字の立証が困難なために、損害額の認定が低く抑えられてし
まう傾向にあります。そこで、特許侵害訴訟に於ける被告である侵害者に
対し、裁判所がその帳簿・関連資料の提出を求めることが出来るようにす
るとしています。
② 懲罰的な賠償金額の認定:
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モグラたたきという表現で説明されますが、例えば、一旦、終息したかに
見えた侵害行為が、関連会社によって再開される等、繰り返し、侵害行為
が再開されるケースがあります。そのような場合、故意侵害として、裁判
で損害額として認定された額の2〜3 倍の額を懲罰的な意味で、裁判所は
侵害者に支払い命令することが出来るとしています。
③ 行政機関による救済システムの強化:
特許侵害の救済システムとして、日本では、裁判所に侵害行為の差止と損
害賠償の請求をすることができますが、中国では、そのような裁判所への
訴えに加えて、中国特有の制度として、行政機関に対し、同様の申し出で
をすることが出来ます。行政機関は、企業等の事業に関する許認可権を含
め、企業に対して、日本の行政に比べて絶大な権力を握っていますが、特
許権者がその行政機関に対し、第三者の特許侵害の際に、救済を求めるこ
とが出来る制度です。今回の改正では、その行政機関に対し、更に強力な
権限を与えるとしています。
行政機関が審理の上、特許侵害行為の差止(中止)の決定をした場合、従
来、侵害者は一旦侵害行為を停止した場合であっても、ほとぼりがさめる
と、侵害行為を再開するといったこともありました。それを封じるために、
行政機関に対し、差止の決定に際して、侵害品の製造の設備、原材料・工
具等を没収する、更には罰金の支払い等の行政処罰を課す権限を与えると
しています。
更に、従来、行政機関に対して、特許権者が損害賠償の請求をする場合、
行政機関は裁判所のように判決によって損害賠償の支払いを命令する権限
はなく、特許権者と侵害者の間で損害賠償の支払いの話し合いの調停をす
る権限しか与えられていませんでした。従って、侵害者が調停で合意した
損害額を支払わないような場合、特許権者は、再度、裁判所に訴えること
が必要となっていました。このように調停の内容の拘束力が弱いといった
問題点がありました。
それを改善すべく、損害賠償額についての行政の調停による決定について、
裁判所で確認し、強制執行を可能とすることとしています。即ち、裁判所
による損害賠償の判決に近いレベルまで執行性を持たせるという方向性で
す。
④ インターネット販売業者の侵害責任の明確化:
中国では、日本の楽天等のようなインターネットによる販売システムが急
速に広がっており、大都市では、日本よりも普及度が高くなりつつあると
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も言えます。侵害品がインターネット販売のチャンネルで流通した場合、
従来は、
「侵害責任法」の下で救済が図られていましたが、侵害品の排除が
十分ではないとされていました。特許法の改正により、そのようなインタ
ーネットの販売業者に対し、侵害品の製造業者と同様に侵害者として明確
な責任を負わせることとしています。
2-2)中国の研究開発レベルを上げる
イノベーションの原点は人、研究者であることから、その研究者の積極性を引
き出すための措置が取られています。
① 職務発明の帰属について
上述した通り、日本では今年の特許法の改正により、職務発明の権利の帰
属については、従来、発明者に帰属するとしていたのを発明者の属する企
業に帰属させるとしました。中国では、従来から、日本の改正後の権利帰
属の制度を取っていましたが、今回、どちらかと言えば、日本の動きと逆
行する改正の方向性が示されています。
即ち、従来は、職務発明の定義を「会社の職務の遂行により生まれた発明」
に加え、
「主として、会社の設備・情報等を使用して生まれた発明」と定め、
そのような職務発明が会社に帰属するとしていました。今回、後者の「主
として〜会社の設備・情報〜発明」を職務発明の範囲から削除することに
なりました、即ち、会社に帰属する職務発明の範囲が狭まることになりま
す。そのように削除された範囲の発明の権利の帰属については、会社と発
明者の間の合意に委ねるとしています。言い換えれば、職務でなく、社員
の研究者の自由意思によって、会社の設備を使ってなされた発明について
は、当事者の合意によって、研究者に権利帰属させる余地が生まれたこと
を意味します。
同時に、関連条例等の整備を行い、発明者への報奨金の額・水準を更に引
き上げる方向で検討されています。
② 発明者による事業化の促進
国立の研究機関、大学等で生まれた発明について、それが事業化される比
率が低いことが問題となっています。そういった背景から、改正法では、
これらの機関が十分な実施をしない場合には、当該機関と発明者間の協議
により、発明者自身が、実施をすることが可能となる仕組みを作るとして
います。
この制度は、中国の研究者によるイノベーションを推進する働きはありま
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すが、例えば、国立の研究機関と共同研究等の連携を図ろうとしている日
本企業にとっては、契約上、必要な防衛措置を講ずる必要が出てきたとも
言えます。
③ 家畜・養殖魚の診断・治療方法の発明の特許対象化
従来、人、家畜・養殖魚の診断・治療方法に関する発明については、特許
を与えないとしていましたが、今後は、家畜・養殖魚の診断・治療方法の
発明については、特許付与の対象とするとしています。この方面での研究
開発の投資が促進されることに繋がると思われます。
2-3)特許権の質の向上
① 特許の無効審判と特許権の安定化
一旦中国で成立した特許に対し、不服とする第三者は特許庁に対して特許
が無効である理由を具体的に挙げて、無効審判を請求することができます。
その場合、特許庁は、特許が無効であるか否かの審理に際して、当該第三
者が挙げた理由に限定して判断することしか出来ず、それ以外の理由に基
づいて、判断することが出来ませんでした。従って、特許庁が、当該第三
者が挙げた理由によっては特許は無効とならない(特許権を維持する)判
断を下したとしても、他の第三者から繰り返し、別の理由に基づいて、無
効審判の請求がされることにも繋がっていました。今回の改正により、無
効審判の際に、特許庁は、当該第三者が挙げた理由以外の理由についても、
必要に応じて、判断することが出来るようになるとしています。そのこと
により、成立した特許権の法的な安定性を強化することに繋がるとしてい
ます。
3.特許法改正とライセンス契約・共同研究契約
今回の特許法の改正により、発明の促進、その発明をカバーする特許権の
質を向上させ、更には、特許権の保護を強化する社会的な土壌が整備され
ることになると言えると思います。そのような新しい社会風土のもとで企
業活動を進めていく中国企業とのイノベーションを軸とした連携を日本企
業が図るに際して、両者間の間で結ばれる提携契約の構成が非常に重要と
なってきます。上記で説明した新しい中国特有の制度の下で、例えば、ラ
イセンス契約では、日本企業として、どのような点について、契約条件で
押さえていかなければならないか、今後の検討課題であると思います。
今回は、日本企業の視点に立って、オープン・イノベーションの推進にあたり、
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どのような改正がされるのかを論じましたが、次回以降で、特許法の第四次改
正について、別の視点から説明をして行きたいと思います。
以上
「その他の日本語版の中国法律情報は、こちらからお入りください。」
その他の中国語版の中国法律情報:
本ニュースレターに掲載されている文章は弁理士個人の見解であり、当事務所の意見を代表するものではありません。
皆様へご参考までにお送りさせていただいており、弁理士の正式な法的意見ではありません。当事務所は、読者が本ニュー
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