公募型研究事業-Ⅲ (塩分を抑えた酒盗の開発とこれに伴うフリーズ

平成25年度
鹿児島県水産技術開発センター事業報告書
公募型研究事業-Ⅲ
(塩分を抑えた酒盗の開発とこれに伴うフリーズドライ酒盗の商品化)
保
【目
聖子・稲盛
重弘
的】
一般的な発酵食品の製造においては,腐敗細菌による変敗防止のために10~30%濃度の食塩が使用
される。そのため,これら発酵食品を乾燥させると高塩分(塩分濃度50%以上)となり,発酵商品の乾
燥品化にあたっては,低塩分化が重要な課題となる。そこで,鰹節加工残滓の利活用による商品とし
て有名なカツオ塩辛(酒盗)の常温流通による販路拡大を目的として,塩分を抑えた酒盗のフリーズ
ドライ化を検討した。
試験1
カツオ胃加水分解に適した酵素製剤の選定
【材料及び方法】
カツオ胃
鰹節加工工程時に産出する胃(冷凍)を原料とした。冷水で解凍後,胃壁面を十分に洗浄するとと
もに,付着物を除去したものを試験に供した。。
酵素(市販品)及び分解方法
天野エンザイム(株)製の食品工業用酵素5種を表1の条件で「カツオ胃」に対し0.1%量添加し,加水
分解を行った。
成分分析
酵素製剤を添加し,それぞれの適温で反応を開始し15h後に煮熟により反応を停止させ,遊離アミ
ノ酸を測定した。なお,遊離アミノ酸の分析は,分解溶液と同量のトリクロロ酢酸溶液(16%)を加え,
15分間振盪させた後,遠心分離(3000rpm・15分)を行い,得られた上澄みから油層を分離したもの
を試料とした。これを適宜希釈し,0.45μmのメンブランフィルターでろ過したものを高速液体クロ
マトグラフィーにより測定した。また,分析機器及び条件については,以下のとおりとした。
ポンプ:LC-10AD(島津製作所)
カラム恒温槽:CTO-10A(島津製作所)
測定カラム:Shim-pak
Amino-Na(島津製作所)
検出器及び検出波長:RF-10A(島津製作所);Ex 350nm:Em 450nm
反応方法:OPA((オクタフタルアルデヒト)発色法
表1 使用酵素とその至適分解条件
プロテアーゼ商品名
MアマノSD
AアマノSD
プロチンNY100
Pアマノ3SD
プロテアックス
至適ph
6
7
7
7~8
7
至適温度(℃)
50
50
50~55
40
70
【結果及び考察】
分解溶液の遊離アミノ酸分析結果を表2及び図1に示す。アミノ酸総量は,AアマノSDが最も多く
6097.8mg/100gであり,次いでプロチンNY100の5617.0mg/100gであった。遊離アミノ酸の構成につい
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て検討した結果,旨味系アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)及びアスパラギン酸(Asp)は,Aアマ
ノSD及びプロチンNY100で多く,また甘味系アミノ酸であるグリシン(Gly)及びアラニン(Ala)はA
アマノSD,プロチンNY100及びPアマノ3SDで多く含まれていることが確認された。以上の結果を総合
的に考慮すると,本試験の結果では,AアマノSDがカツオ胃の分解に最も適した酵素製剤であること
が示唆された。
表2
各酵素製剤ごとのカツオ胃分解液の遊離アミノ酸組成
Amino acid
ASP
Thr
Ser
Glu
Pro
Gly
Ala
Val
Met
Ileu
Leu
Tyr
Phe
His
Lys
Arg
合計
MアマノSD
AアマノSD
442.1
330.2
294.1
527.2
149.0
354.1
390.1
301.3
195.1
281.3
543.6
209.6
249.8
149.2
400.4
447.7
5279.3
490.4
379.6
336.1
580.2
181.5
350.9
444.9
357.3
229.1
333.2
653.1
211.7
335.8
195.4
466.0
525.6
6097.8
700
プロチンNY100 Pアマノ3SD
(mg/100g)
469.3
333.8
340.7
284.0
308.5
29.7
547.8
580.2
156.8
203.8
337.0
332.0
403.1
418.5
322.9
312.0
206.9
223.7
315.1
303.0
587.9
597.6
227.4
15.2
296.6
331.0
173.2
194.7
439.9
89.5
483.9
84.9
5617.0
4345.2
プロテアックス
220.8
196.7
159.5
268.4
97.5
96.1
215.1
217.1
135.1
190.5
355.6
199.6
266.7
167.3
298.9
329.5
3422.7
MアマノSD
AアマノSD
600
プロチンNY100
遊離アミノ酸(mg/100g)
Pアマノ3SD
500
プロテアックス
400
300
200
100
0
図1
試験2
各酵素製剤ごとのカツオ胃分解液の遊離アミノ酸組成
市販酵素製剤及び「かつお塩辛」の併用による分解促進効果の検討及びフリーズドライ試作
【材料及び方法】
カツオ胃
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試験1と同様のものを用いた。
カツオ塩辛(市販品)
県内の水産加工業者が製造したカツオ塩辛を用いて胃重量の5~20%量を添加した。
食品工業用酵素(市販品)
試験1で最も分解効果の高いと判断された酵素製剤「AアマノSD」を用いた。
分解方法
表3に分解試験の各条件を示す。カツオ胃に市販塩辛を5~20%量を加え50℃で分解した区及びそれ
ぞれにに酵素製剤を加えた区の計8試験区を設け,50℃で分解反応を行った。
表3
分解試験の条件
塩辛添加量 酵素添加量
反応開始の3h,7h及び15h経過後に分解溶液を採取し, 試験区
%(カツオ胃重量比)
5
0
1
煮熟により反応を停止させた後,遊離アミノ酸を測定した。
5
0.05
2
なお,遊離アミノ酸の分析は,前述試験1と同様に行った。
10
0
3
また,15h経過後の分解液について反応停止後にヒスタミ
10
0.05
4
15
0
5
ンの分析を行い,低塩分下での品質について検討した。な
15
0.05
6
お,ヒスタミンの濃度は,EIA Histamarine kit(Bec kma
n
20
0
7
Coulter製)を用いて測定した。なお,測定は,マイクロ
20
0.05
8
プレートリーダー(MPR 東ソー製)で400nmにおける吸光度を求めた後,Hm標準品の吸光度と濃度
成分分析
の検量線からHm濃度を求めた。また,ヒスタミン濃度分析時に使用した上澄み液の一部を塩分分析
用のサンプルとした。塩分の測定は,上澄みをイオン交換水で10倍に希釈したものを塩分計(アタゴ
社製
PAL-ES1)にて測定した。
フリーズドライ試作
表3に示した各試験区について真空凍結乾燥機を用いてフリーズドライを試作した。
【結果及び考察】
酵素製剤併用効果について検討した結果を図2に示す(その他の試験区でも同様の傾向であったこ
とから,試験区3.4を代表として示す)。
試験区3(塩辛10%)
1200
3h
7h
15h
遊離アミノ酸(mg/100g)
1000
800
600
400
200
0
図2 酵素製剤添加の有無と分解液の遊離アミノ酸組成
酵素併用の有無によらず,分解時間が長いほど,各種アミノ酸ともに増加した。分解反応開始から
3時間経過では,酵素添加区の方が,各アミノ酸ともにわずかながら多く生成していた。しかしなが
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ら,7h経過以降では,酵素併用による有効性は確認されなかった。また,最も分解が進んだ15h経
過後の遊離アミノ酸についての結果を図3に示す。市販塩辛20%添加区において,酵素添加区(試験
区8)の方がやや遊離アミノ酸生成量は多かったものの,旨味系アミノ酸であるグルタミン酸(Glu)
及びアスパラギン酸(Asp)また,甘味系アミノ酸であるグリシン(Gly)及びアラニン(Ala)につい
ては,大きな差とは言い難い結果となった。実用化を見据えての製造経費を考慮すると酵素添加の
必要性は薄いと思われた。 また,低塩分下での分解において懸念される分解液中に生成する可能性
のあるヒスタミンについて検討を行った。その結果を図4に示す。試験区1及び2,すなわち市販塩辛
添加量5%区については,分解液の塩分濃度が2%以下(図示しない)であったことから,分解液中のヒ
スタミン濃度が10ppm以上となった。また,市販塩辛の添加量の増加に伴い,試験区7及び8,すなわ
ち市販塩辛添加量20%区においては,分解液の塩分濃度が4~4.5%(図示しない)と高くなったことで,
分解液中のヒスタミン濃度は低くなった。最終的に分解液は乾燥粉末とすることを考慮すると,最終
製品でのヒスタミンの生成の懸念の最も少ない試験区7及び8,すなわち市販塩辛20%添加が望ましい
ことが示唆された。
各試験区の分解液を,フリーズドライ後,粉末にした(写真1)。粉末化した試作品は,単独では利
用しにくいものの,その他粉末素材と合わせる等により調味料素材としての可能性が期待された。
試験区6(酵素0.05%)
1200
800
600
400
200
200
0
0
1400
600
0
0
図3 酵素併用の有無と分解液の遊離アミノ酸(分解反応15時間)
14
ヒスタミン濃度(ppm)
12
10
8
6
4
2
0
1
2
3
4
5
6
7
8
試験区
図4 各分解液のヒスタミン濃度(分解反応15時間)
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写真1
フリーズドライ試作品
Arg
200
Asp
200
His
400
Lys
400
800
Tyr
600
試験区4(酵素0.05%)
1000
Leu
800
試験区3(酵素0%)
Ileu
遊離アミノ酸(mg/100g)
試験区2(酵素0.05%)
1000
塩辛10%
1200
Pro
1200
Phe
試験区1(酵素0%)
Ser
塩辛5%
Val
400
試験区8(酵素0.05%)
Met
600
試験区7(酵素0%)
1000
Ala
800
塩辛20%
Gly
1000
1400
遊離アミノ酸(mg/100g)
1400
遊離アミノ酸(mg/100g)
遊離アミノ酸(mg/100g)
1200
試験区5(酵素0%)
Glu
塩辛15%
Thr
1400