α-アシロキシイミノチオエステルに対する N,N,C

α ─アシロキシイミノチオエステルに対する N,N,C ─トリアルキル化による四級アミノ酸合成の開発
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α ─アシロキシイミノチオエステルに対する
α-アシロキシイミノチオエステルに対する
N,N,CN,N,C─トリアルキル化による四級アミノ酸合成の開発
トリアルキル化による四級アミノ酸合成の開発 *
*
溝 田 功
溝 田 功* Highly efficient sequential electrophilic N,N,C-trialkylation of α-N-acyloxyimino esters
Isao Mizota*
α-N-Acyloxyimino esters serve as highly efficient substrates for the electrophilic
N,N,C-trialkylation reaction that can introduce various patterns of nucleophiles at the imino
nitrogen and carbon atoms to synthesize N,N-dialkylated and N,N,C-trialkylated α-amino
esters in moderate to high yields.
1.はじめに 三級および四級α-N,N-ジアルキルアミノ酸やそれらの誘導体のアルコールは、有機合成における多くの重要な薬剤や
構築ブロックの骨格となるだけでなく、不整脈治療剤のような有用な生理活性化合物合成の中間体にもなる。これらの骨
格構築には、アミノ酸の窒素原子やカルボニル炭素に自由に置換基を導入することのできる手法の開発が必要であり、過
去 10 年間にわたって多くの注目を浴びてきた。しかしながら、我々の知る限り、そのような効率的且つ優れた手法はほ
とんど存在しない。 一方α-イミノエステルは、電子求引基であるエステル部位がイミノ炭素に隣接した構造を取っており、反応性の高い
イミンとして知られ、α-アミノ酸前駆体として有機合成に汎用されている。このイミンの最大の特徴は求核付加反応が
必ずしもイミノ炭素上で起こるだけでなくイミノ窒素への付加反応も進行するという事にある。
(c) Nu
N
R3
OR 2
R1
(a) Nu
Nu (b)
O
図1.α-イミノエステル
求核試薬との付加反応における一般的な分極の仕方に従えば、求核付加はイミノ炭素やエステル
部位でおこる(図 1, 経路(a),(b))。一方ごく稀にではあるがイミノ窒素が求電子中心として振
る舞うような反応も知られており、これはイミンの極性を逆転させなければ起こりえない反応で
あり、極性転換反応と呼ばれる(経路(c))。我々は、このイミンの特異な反応性に着目し、αイミノエステルに対し種々の有機金属反応剤を用いる事で、極性転換反応が効率よく進行し Nアルキル化生成物が得られる事を見出している。(1) 本研究は、α-アシロキシイミノチオエステルに対する三種の求核剤をイミノ窒素及び炭素にそれぞれ自在かつ位置選
択的に付加させることの出来る未踏のワンポット三段階炭素-炭素結合形成法の開発を目的とし、イミノエステルへの極
性転換を活用する未知の四級 α-アミノ酸合成法開拓への展開を狙った。 2.α-アシロキシイミノエステルに対するタンデム N , N -ジ アルキル化反応 我々は、既に、三級および四級α-N,N-ジアルキルアミノ酸合成のための、極性転換反応を活用した新手法として、イ
ミノエステルとオキシムの両方の特徴を有するα-スルホキシイミノエステルに対する、N,N-ジおよび N,N,C-トリアルキ
ル化反応を見出している。(2)しかしながら、N,N-ジアルキル化反応は早すぎるために、モノアルキル化で制御することは
できておらず、窒素原子上への自由な置換基導入は達
成できていなかった。そこで、まずこの問題を克服す
るための検討から行った。 初めに α-トシロキシイミノエステル 1a に対し、
EtMgBr を用いて N 上への付加反応を行ったところ、N,Nジエチル化体 3 が 79%で得られモノエチル化体 2 は得
られなかった。更なる基質検討を行ったところ、 2015 年 3 月 15 日受理
* *豊田理研スカラー
(三重大学大学院工学研究科分子素材工学専攻)
N
Ph
EtMgBr
(2.2-2.5 equiv)
OR
CO 2Et
toluene, -78 oC, 30 min
1
R = Ts, (Z)-1a :
R = Bz, (Z)-1b :
R = p-toluoyl, (Z)-1c:
O
p-toluoyl =
Et
Et
CO 2Et
Ph
N
Ph
N
Et
CO 2Et
2
3
0%
74% (Z/E=90/10)
78% (Z/E=91/9)
79%
0%
0%
図2.α-アシロキシイミノエステルに対する N - モノアルキル化反応
α ─アシロキシイミノチオエステルに対する N,N,C─トリアルキル化による四級アミノ酸合成の開発
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表1.α-アシロキシイミノエステルに対する N,N -ジアルキル化反応の最適化
N
Ph
O( pToluoyl)
CO 2Et
EtMgBr
(2.2 equiv)
additive
(x equiv)
nPrMgBr
(y equiv)
Et
toluene, -78 oC, 30 min
solv., temp.1, 15 min
temp.2, 30 min
Ph
N
nPr
N
Ph
CO 2Et
4a
(Z)-1c
entry
additive (x eq)
solv.
temp.1 ( oC)
y (eq)
temp.2 ( oC)
1
2
3
4
5
6
7
TMSCl (2.0)
BF 3•OEt 2 (2.0)
PhCO 2H (0.5)
PhCO 2H (0.75)
PhCO 2H (1.0)
Toluene
Toluene
Toluene
-78
-78 to 30
-78 to 30
-78 to 30
-78 to 30
2.0
2.0
2.0
2.0
2.0
1.75
2.5
-78
-78 to 30
30
30
30
30
30
モノエチル化体 2 を良好な収率で得ることに成功し、
ある事を見出した(図2)。そこで次に、第二の置換基
N
Ph
O(p-toluoyl)
CO 2Et
Ph
(Z)-1c
Et
N
CO 2Et
2a
3a
yield (%)
4a
2a (Z/E)
3a
0
33
69
17
78
79
63
75 (91/9)
13
0
15 (86/14)
0
0
0
0
27
6
0
0
0
0
Et
3. RMgBr (1.75 equiv)
30 oC, 30 min
CO 2Et
導入を目指し、異種求核剤を用いて添加剤や反応条件
Et
1. EtMgBr (2.2 equiv)
toluene, -78 oC, 30 min
2. PhCO 2H (0.75 equiv)
toluene, -78 to 30 oC, 15 min
ベンゾイルオキシイミノエステル 1b を用いる事で、
トルオイルオキシイミノエステル 1c が最適な基質で
Et
N
R
Ph
CO 2Et
4
の検討を行った(表1)。その結果、添加剤として安息
香酸(PhCO2H)を用いて反応を行う事で、N,N-ジアルキ
ル化体 4a が良好な収率で得られる事を見出した。得
られた最適条件下、種々の求核剤を用いて反応を行っ
たところ、一、二、三級のアルキル基を自由に導入す
る事ができることを見出した(図3)。 Et
Ph
Et
N
CO 2Et
Ph
4a 79%
Et
N
CO 2Et
Ph
4b 72%
Et
N
CO 2Et
4c 39%
Ph
Et
N
CO 2Et Ph
4d 12%
N
CO 2Et
4e 64%
図3.種々の求核剤を用いたタンデム N,N-ジアルキル化反応
3.α-アシロキシイミノエステルに対するタンデム N , N,C -トリアルキル化反応 1. EtMgBr (2.2 equiv)
最後に、N 上への付加に続く酸化による
toluene, -78 oC, 30 min
イミニウム塩形成と第三の置換基導入の検
1. DBDMH (0.6 equiv)
2. PhCO 2H (0.75 equiv)
Et
n-Pr
O(p-toluoyl)
CH 2Cl 2, 30 oC, 15 min
toluene, -78 to 30 oC, 15 min
N
N
討を行った。酸化剤には、1,3-ジブロモ
3. n-PrMgBr (1.75 equiv)
2. RMgBr (2.0 equiv)
CO 2Et
Ph
Ph
CO 2Et
R
-5,5-ジメチルヒダントイン(DBDMH)を用い
30 oC, 30 min
30 oC, 15 min
(Z)-1c
5
て行った。第三の求核剤を種々検討した結
Et
n-Pr
Et
n-Pr
Et
n-Pr
Et
n-Pr
Et
n-Pr
Et
n-Pr
N
N
N
N
N
N
果、様々な置換形式の求核剤を用いても望
Ph
CO 2Et Ph
CO 2Et Ph
CO 2Et Ph
CO 2Et Ph
CO 2Et Ph
CO 2Et
Me
みのトリアルキル化体 5 を得ることができ、
S
N 上と C 上に自由に置換基をワンポットで
5a 59%
5b 31%
5c 64%
5d 57%
5e 43%
5f 54%
導入できる新規四級アミノ酸合成法開発に 図4.α-アシロキシイミノエステルに対する N ,N, C - トリアルキル化反応
成功した(図4)。 4.まとめ 本研究では、N-アシロキシイミノエステルが、連続的求電子アミノ化/N-アルキル化/C-アルキル化反応に極めて有効な
基質であることを見出した。(3)これにより、イミノ窒素原子およびイミノ炭素原子上に様々な置換基を自由に導入する事
のできるα-アミノエステルの新規合成法になるものと考えられる。さらに、抗不整脈薬のような重要な生理活性化合物
を含む様々な三級、および四級のN,N-ジアルキルアミノ酸合成としても期待できるため、本手法は有機合成上きわめて重
要であるといえる。今回はアシロキシイミノチオエステルまで拡張することはできなかったが、今後の進展に期待できる。 REFERENCES
(1)Niwa, Y.; Shimizu, M. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 3720-3721. (2)Hata, S.; Maeda, T.; Shimizu, M. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2012, 85, 1203-1205. (3)Mizota, I.; Maeda, T.; Shimizu, M. Tetrahedron 2015, submitted for publication.