シェルターとしての建築と「快の追及」 広島工業大学 環境デザイン学科 c112018 沖 航太 1.現状と問い 近年、世界中で様々な災害がおこっている。わが国、日本は地震大国であることに加 え、近年では火山活動による被害や台風や豪雨などによる土砂災害も頻繁に発生してい る。 ここでは、森田慶一著『建築論』で論じられている快適性の概念を学びながら建築の シェルターとしての機能の向上と将来必要となる快適性能について書こう。 2.企業の取り組み 現在、ハウスメーカー業者や施工会社などが顧客の満足度を向上させるような取り組 みを行っている。実際の企業が取り組んでいるものを大きく分けてみると、1.周辺環 境の向上、2.建物の長寿命化、3.室内空間の快適性向上に分けられるだろう。 まず、周辺環境の向上では、都市開発の促進の一方で、自然環境を残し自然との共存 を行っている。敷地内に樹木などを植え、子供がいる家庭では子供が木と共に成長する なども取り上げ行っている場合もある。また多くの企業が国内木材にこだわり、自然な 生態系を守り傷つけないようにしている。 次に、建物の長寿命化は、現在もっとも力が入れられている部分であろう。耐震性能 や制震性能などの地震に対する対策や、耐火性能などの延焼対策など企業それぞれで力 を入れている。また木材や鋼材などの部材をよりよいものを造り、選ぶことによって性 能を向上させている。 最後に、室内空間の快適性向上では、温熱効果向上させるものも多く増え、自然光を 取り入れるためトップライトのある住宅も増えている。またソーラーシステムを設置す ることによって室内環境を向上、維持させるエネルギーを蓄え住宅におけるランニング コストの低下も行われている。 3.建築論と比較 『建築論』の用の概念として初動的な快である「風雨を防ぐこと」に加え、 「夏は涼し く、冬は暖かい」という典型的な快がある。また、環境との共存について書かれている 「環境とそれへの適応」もある。 上述の企業の3つの取り組みを『建築論』に当てはめ考えてみると、周辺環境の取り 組みは必然的な用における「環境とそれへの適応」に関連するだろう。人間が無秩序な 「快の追求」を行うたびに環境を破壊し、現在では人の手が加えられていないありのま まの自然環境は少なくなっている。人間を取り巻いている外部環境が「快の追求」によ って損なわれ続けられると、オゾン層の破壊や、オキシダントの発生、地球温暖化など の問題が多く浮上してくる。周辺環境の向上への取り組みは、人間が環境との関わりを 理解し、自然環境とよく調和した建築的人工環境を造っていくものであろう。 建物の長寿命化は、人間が安全で快適なシェルターでの生活を保つものである。 『建築 論』で論じられている「風雨を防ぐ」という初発的なシェルターとしての意味と関連し ていると言える。だが風雨を防ぐことを長く保つことは、既に初動的な次元を超えてお り、 「快の追及」にもつながって行くだろう。近年では長期優良住宅制度などもあり建物 の長寿命化が実現された住宅には保障がついていたりもする。 「ソーラーシステム」は快適性を向上させるとともに環境を考えたものであると思う。 『建築論』での議論では「夏は涼しく、冬は暖かく」という今どこでも求められる住環 境に対する典型的な要求に相当する。持続的最適環境を行うには多くのエネルギーが必 要となる。また現在では「知覚される複雑な快さ」を求め視覚、聴覚、嗅覚のようなも のを刺激するものも求め、エネルギーの消費がさらに必要となっている。その必要とな っているエネルギーをソーラーパネルによって太陽エネルギーを変換し補っている。 「ソ ーラーシステム」は持続的に最適環境を実現し、さらにその他の複雑な欲求を満たして いることに加え、自然環境を損なうことなくエネルギーを作り上げている自然利用型エ ネルギー開発装置である。 4.結論として 『建築論』に照らしてみると「快の追及」を行いながら、同時に環境にも配慮した建 築行為を考えて行くことが重要であることが分かった。 現代の日本には様々な機能を備えたものが増えてきている。また災害の教訓から住宅 での安全性が唱えられており、耐震や制震などの構造を向上させることが重要視されて いる。だがこれから先では視点を変化させ、構造のような物理的なものではなく目には 見えない災害などの保障制度の強化、住宅で過ごしていく生涯のランニングコストの低 下などソフト面での安心を考えていくとよいだろう。 *参考文献 ・森田慶一『建築論』東海大学出版会、1978 年。
© Copyright 2024 ExpyDoc