Condensed Matter in Paris, Low Temperature

Annual Report No.29 2015
イットリウム鉄ガーネット中の静磁波と
マイクロ波共振器の強結合状態の実現
Strong Coupling of a Magnetostatic Mode in Yttrium Iron Garnet to a Microwave Resonator
H26海自30
派遣先 フランス固体物理学会(フランス・パリ)
期 間 平成26年8月16日~平成26年8月31日(16日間)
申請者 東京大学 先端科学技術研究センター 特任研究員 田 渕 豊
ピンが強固に結合する強磁性体を用いてこの
海外における研究活動状況
課題に挑戦している。この莫大な数のスピン集
研究目的
団はマイクロ波電磁場と強く結合し、スピンか
欧州ではスピン集団と超電導回路、またスピ
ら超伝導ビット間の情報変換速度を大きく改
ン集団と光などを用いたハイブリッド量子系の
善する。また強磁性はスピン同士の結合により、
研究が量子メモリ、量子トランスデューサを目
試料全体にわたる強固な静磁波モードを形成
的として盛んに研究されている。本研究では強
する。本研究では強磁性体の中でも損失の少
磁性という新奇性の高い材料を用いたハイブ
ない絶縁体に注目し、コヒレーンス時間の長
リッド量子系を注目度の高い国際会議にて発
いイットリウム鉄ガーネット単結晶試料中の均
表する。また個別に研究室を訪問し、セミナー
一歳差運動モードに注目する。
発表を通して議論する。
海外渡航以前までに、マイクロ波共振器と
イットリウム鉄ガーネットの均一歳差運動モー
海外における研究活動報告
ドの強結合状態の実現、そして超伝導量子ビッ
本研究は、イットリウム鉄ガーネット球状
トと均一歳差運動モードとの強結合を実現し
単結晶中の静磁波を用いた量子トランスデュー
ていた。さらに渡航間際に行った実験により、
サの開発を目指している。量子トランスデュー
超電導量子ビットと強磁性体とのコヒーレント
サは異なるメディア間をつなぎ、量子情報をや
な振動を観測している。本海外渡航ではこれら
りとりすることのできるデバイスである。我々
の成果をドイツ・コンスタンツにて行われた国
は長距離通信の可能な光から、量子情報処理
際会議 SpinQubits2にて招待講演し、フランス・
に優れた超伝導量子回路との間の量子トラン
パリにおこわわれたCondensed Matter is Parisに
スデュースを目指している。従来は常磁性スピ
て発表した。またスイス・フランス・オランダ
ンと超伝導回路との複合量子系や、薄膜振動
の各研究機関にて計5回セミナー発表し、議論
子などがこの変換媒体の有力な候補であった。
した。
しかしその変換帯域幅や変換効率の改善が課
ドイツで行われたSpinQubits2では半導体量
題となっている。本研究では10の19乗個のス
子ドットやダイヤモンド中の窒素空孔欠陥スピ
─ 420 ─
The Murata Science Foundation
ンを研究する研究者が集まる国際会議である。
に我々の実験に関してコメントや改善に直結
その中で強磁性体と超伝導回路を用いた量子
するアドバイスを頂いた。またそれぞれ訪れた
情報処理の発表とかなり異色な講演となった
研究室では実験室ツアーが催され、量子光学、
が、質問や後の議論を通じて多くの人からコ
超電導量子ビット、ジョセフソンパラメトリッ
メントやアドバイスを得た。特に巨視的なスピ
ク増幅器、高速信号処理回路など海外の最新
ンを用いたスピントロニクス分野の実験・理論
の実験技術と学んだ。特に海外の情報処理回
の研究者と、我々の手法の応用可能性につい
路は非常に進んでおり、F P G Aを用いた高速
て議論した。このマイクロ波共振器と超伝導
ディジタル処理は非常に魅力的であった。ま
量子ビットをツールとしたスピン自由度の探究
たハードウェアを専門にしている技官の方とも
は、非常に有意義な研究となると結論した。
議論する時間をとり、実験や実装上のアドバイ
フランスで行われたC o n d e n s e d M a t t e r i n
スを頂いた。
Parisは欧州中の固体物理研究者が最新の研究
まとめとして、今回の海外派遣により我々の
を発表する国際会議である。我々の成果を発
研究成果を欧州中の研究者にアピールし、ま
表すると同時に、多くのスピントロニクス分野
たさらに多くの研究者と議論し研究を深めるこ
の研究者から反響があり、光との結合可能性
とができた。また会議の聴講や研究室訪問を
や、回路電磁力学を使った新奇測定法や実験
通して最新の研究動向を得るだけでなく、個々
手法に関して議論した。また固体物理に関す
の技術の難しさ、研究上の課題等を直接的に
る最近のホットトピックの情報収集にも努め
聞くことができたのは大きな成果である。
た。多体量子現象を扱う固体物理分野の諸問
この派遣の研究成果等を発表した
題を量子シミュレータにより解決する手法な
ど、量子情報分野と固体物理と領域を超えた
研究者の議論が非常に魅力的であった。
著書、論文、報告書の書名・講演題目
1) Y.Tabuchi, et al., Hybridizing Ferromagnetic
Magnons and Microwave Photons in the Quantum
各国での研究室訪問の際に行ったセミナー
では、我々の最新の結果である超伝導量子ビッ
Limit, Phys. Rev. Lett. 113, 083603(2014).
2) T. Tabuchi, et al., Coherent coupling between
トと強磁性体中の均一歳差運動モードとのコ
ヒーレント振動に関して議論した。議論の際
─ 421 ─
ferromagnetic magnon and superconducting qubit,
arXiv: arXiv:1410.3781(2014).