リスクマネジメントと保険を 再考する SAREX News 2015 年 10 月

火災保険料値上げ
-リスクマネジメントと保険を
再考する
SAREX News 2015 年 10 月
10 月 1 日より火災保険料が値上げとなる。値上げの原因は、9 月に栃木、茨城、宮
城を襲った集中豪雨による水災に象徴される自然災害の増加である。今日の火災保険
では火災事故のみを担保する契約は少数派となり、風水害や飛来落下、盗難など幅広
い事故を担保する住宅総合保険へと変わってきている。
気候変動現象により多発化する台風は、災害範囲を広域化させ保険金支払いの増加
を招く。値上げは、このために悪化した住宅総合保険や店舗総合保険(一般物件)の
ロスレシオ(事故率調整)の是正のためとされている。今回は、この自然災害や事故
と損害保険について考察してみる。
■自然災害頻発で保険料が高騰化■
過去最大の風水災保険金支払いは 1991 年の台風 19 号の 5,225 億円である。
昨年度の火災保険元受正味保険料収入が約 1 兆 5,000 億円。
1 つの台風で責任準備金(損害保険の場合、保険種目および保険会社によって異な
るがおよそ保険料の 40~60%)を吹き飛ばしてしまうほどの極大損害の大きさを示し
ている。
保険試算基礎となる予想損害率推計によって年平均 2.5 個の台風による風水災事故
が発生し、何十年かに 1 回極大損害が起こりうると仮定し保険料率は算定される。
今回の火災保険料改定では台風の進路にあたる福岡県は 27.8%引き上げられ、影響
の少ない香川県は 20.3%の引き下げとなっている。
なお、建築請負工事中の工事物件は、建設工事保険や組立保険で風水災損害は担保
されるが、地震による火災は免責となる。またリフォーム工事期間中に今回のような
水災が発生し、床上浸水で住宅が汚損した場合に適用される保険は施主の火災保険と
なる。自然災害による罹災はリフォーム業者の賠償責任には当たらないからである。
以前、火災保険を利用して屋根、外装リフォームができると謳う事業者が問題とな
ったことがある。風水災等で屋根、外壁に損害が発生した場合に保険対象とはなるが、
屋根、外装リフォーム工事金額に匹敵する保険金を受領するためには全損査定が必要
となろう。屋根、外装を全損とされるほどの事故で住宅本体が無事なはずはなく、保
険不正請求まがいの屋根・外装リフォーム業者の登場には注意が必要となる。
■老朽住宅の保険目的は賠償リスクへの備え■
今回の火災保険料率改定で意外に思える項目がマンションの保険料率引き上げであ
る。東京、大阪地区のマンション(M 構造)は 12%の値上げとなる。これは集合住宅
における漏水事故多発化によるものとされている。集合住宅の漏水は事故の起因者の
みならず階下住戸への波及損害で被害額が大きくなる。火災保険の保険対象としては
区分所有部分となるので、火災保険に個人賠償責任保険を付帯させておかないと階下
や隣戸への漏水は担保されない。
さらにマンションストックに比例するかのように共用配管の劣化漏水事故も増加し
ている。共用部分からの発生事故を担保する保険としてはマンション保険がある。こ
れはマンション管理組合が保険契約者となり、火災、施設賠償、個人賠償を担保する。
■空き家の保険契約料が高い理由■
住宅の空き家問題は損害保険にも影響している。空き家住宅の保険契約は引き受け
が厳しく契約ができても大幅割増保険料となる。空き家は専用住宅、兼用住宅にもあ
たらない一般物件(事務所や店舗)として区分される上、無管理財物への侵入や火災、
風水災リスクなどが高いと判断される。
東京都で築 40 年超の 120 ㎡、2 階建て木造住宅のケースでは、現住中に対して空
き家の保険料は 70%割増となる。管理の手間やコストへの忌避から加増する一方の空
き家に対し、ディスインセンティブとなる高保険料では保険付帯率は遠のく一方であ
る。
そもそも経済価値ゼロの空き家を保険の目的とする場合、保険金の用途は住宅物件
とは意味合いが違ってくる。住宅火災の場合に保険金は生活再建資金に充てられる(地
震保険も同じ)
。空き家の場合、残存物(燃えカス)の片づけ費用や、被害を及ぼした
近隣への迷惑料の原資と考えられているが、そのような殊勝な心がけの家主ばかりな
ら空き家問題は起こらない。
■ますます高まる賠償リスク■
少子高齢化に伴い火災保険や自動車保険、生命保険など国内市場が縮減する中で、
拡大中の損害保険が賠償責任保険である。例えば 27 年 4 月に兵庫県条例で義務化さ
れた自転車保険のように、対人、対物への賠償責任を担保する賠償責任保険のニーズ
は今後一層高まることが予測されている。
建築請負工事業界では、建設工事保険、請負賠償責任保険、生産物賠償責任保険を
使い、工事中および引渡し後の賠償リスクを軽減させることが一般的である。
建設業の中でもリスクコードの低い木造建築業の基準料率は相対的に低廉である
(リスクコードは賠償額の大きさ、発生頻度により細分化され、大工工事業・内装工
事業は工事・作業の請負業種の中で一番低い)。瑕疵保険や地盤保証などの普及で常態
化した長期保証ニーズに備えて、賠償責任保険に不良完成品特約や請負業者管理財物
補償特約を付保しておくことでリスクマネジメント力の強化につなげることができる。