2015 年 3 月 16 日発行 ICT 活用通信(仮称) No. 14 発行: 大分大学 高等教育開発センター こんにちは、高等教育開発センターの末本です。久しぶりの発行です。 現在、全国各地で ICT を使った様々な授業改善が試みられています。この 2~3 年で特徴的な授業展開 として「反転授業」が注目を浴びるようになっています。2015 年 2 月 24 日(火)に関西大学で開催され たシンポジウム「反転授業はディープ・アクティブラーニングを促すか?」に参加しましたので、これか ら 4 号分の紙面と使って要約を紹介していきます。 (なお、講演を聞きながらとったメモを元に 2 ページ に収まるように加工した記事であるため、講演者が本来伝えたかった内容を曲解している部分もあると思 います。活用の際にはご留意ください) シンポジウム「反転学習はディープ・アクティブラーニングを促すか?」出張報告1 0.シンポジウムの趣旨(森 朋子 氏) 現在の大学教育改革は 3 つのキーワード(アクティブラーニング、FD、IR)で動いている。今回のテ ーマにつながるアクティブラーニングについて言えば、国内ではかなり導入が進んできた。しかし、教員 だけがアクティブであったり、教員の顔色を伺ったふり返りになっていたり、フリーライダーがいたり、 活動だけがアクティブだったりと、導入後の課題は多い。ICT の活用によって教育格差は是正されるよう になったものの、学生のやる気の差によって学習成果が二極化し、学びの格差が拡大している。 今回のテーマは反転学習である。反転授業には学生同士や教員との相互作用に十分時間をとることがで きるという利点がある。ICT 活用や方法論に特徴づけられた報道が多いことから、ビデオで予習してから 臨む授業形態との認識が広まっているが、本質的には対面教育の質向上を図る手法である。まだ国内での 知見や実践の少ない反転学習について理解を深め、普及の場として今回のシンポジウムを企画した。 1.基調講演「反転授業による高次能力の育成」 (山内 祐平 氏) 現在の日本で浸透している反転授業の意味は 「講義時間での説明をオンライン教材化に変えて宿題とし、 従来は宿題としていた応用課題を講義時間内に行う形態の授業」だろう。説明を聞く講義と課題に取り組 む宿題との時間・空間的な反転である。 学習効果に注目すれば、難しい方の応用課題を支援者のいない宿題とするのは合理的でない。 「まず新 しい知識をつけ、その知識を使って課題を解く」という順番が「知識を提供する講義の後に課題に取り組 む宿題」の流れを規定しているだけである。ICT の活用により、知識をつける過程が必ずしも講義時間で ある必要がなくなってきた。 では、知識獲得を宿題にし、講義時間に応用的な課題に取り組めば、アクティブラーニングが促進され るのだろうか。佐賀県武雄市の実践により、日本の反転授業はタブレット端末とグループワークを伴った 小学校での授業形態という印象が強い。しかし、アメリカなどにおいて小学校での反転授業はほとんど行 われていない。そもそも発祥は高校であった。そして、反転授業はグループワークや学び合いをねらう文 脈で生じたものではない。 スポーツが盛んなウッドランド・パーク高校では、大会や学外試合などで頻繁に学生が授業を欠席して いた。教員は個別に授業を補填していたが、ある時、講義スライドをビデオにしてオンラインで流す方法 を思いつ つく。これなら ら個別に時間 間をとって指導 導をしなくても、視聴方法 法を伝えるだけ けで補填がで できる。こ のあたりのエピソードは、図書「 「反転授業」 ( (バーグマン& &サムズ,201 14 年,オデッ ッセイコミュ ュニケーシ 試行錯誤は行 行われているが が、結果として成績は低下 下しなかった。 。むしろ、落 落第率の低 ョンズ)に詳しい。試 習態度の向上が がみられた。ただし、ビデ デオ講義が良かったという うよりは、チュ ュータリング グ(すなわ 下、学習 ち、学習 習の個別化)が が上手く機能 能したと分析す する。教室での一斉講義で で理解できない い生徒がいる る。その状 態で家に に帰って、さら らに難しい応 応用課題が解け けるはずもない。ビデオを を使った反転型 型にすると、自分のペ ースで分 分かるまで見直 直すことがで できる。 理解で できなくとも、 何が分からな 何 ないかぐらいは は分かるよう うになる。 その疑問 問を教室で教員 員に尋ねれば ば、理解を進め められる。個々の分からな ないことに対し して個々に適 適切な指導 ができた たという点で、効いているのはチュータ タリングであり、その本質 質は完全習得学 学習である。つまり、 武雄市の の事例のような なグループワークやディス スカッションを多用する活 活動的な学習形 形態としての の反転授業 とは別の の目的をもって ていた。 スタン ンフォード大学 学医学部でも反転授業を取 取り入れている。基礎知識 識を講義ビデオ オで獲得し、講義時間 には臨床 床学習を行う。知識の習得 得と活用をセッ ットにして学 学習効果を高め めるねらいであ ある。医者を を養成する 医学教育 育では知識を身 身につけても活用できない いと意味がない。つまり、効果的な知識 識定着という うよりは求 められる る学習目標の高 高度化に対応 応する手段とし して、反転授 授業形式が取り り入れられた。 。 高次能 能力を養成する るためにアクティブラーニ ニングは不可欠 欠である。し しかし、学生の の主体性に依 依存するた め、授業 業設計はとても も難しい。反 反転授業にも似 似た形態として、e ラーニ ニングと対面授 授業を連携さ させるブレ ンディッ ッドラーニング グという考え え方がある。い いずれにせよ、対面活動に において必然的 的に知識を使 使う活動が 生じなけ ければ意味がな ない。 高次能 能力を育成する る深い学習を を生み出すため め、以下の 3 点に留意する る必要がある。 。 (1)在 在宅学習にお おいて、後の応 応用課題に取 取り組むために に必要な知識 識が網羅されて ていること → 使うべ べき知識が提供 供されなけれ れば深い思索は は生まれない → ただし し、提供すべき きものが何か かを事前に知る るよしもない (矛盾した留 留意ではある) 高次能力の獲 獲得に必要な活 活動と支援が が対面で用意さ されていること (2)高 → 活用さ される場面がな なければ、そ そもそも高次能 能力は養えない い あらかじめ、上記(1) (2 2)がつながる るように学習 習過程が設計さ されているこ こと (3)あ も当たり前だが が、忘れがちなことである る → とても のように、反転 転授業には知 知識の完全習得 得を目指したタイプも、ア アクティブラー ーニング要素 素も加えて 以上の 高次能力 力の獲得をねら らうタイプもある。実践に においては、目的と留意を を踏まえた授業 業設計が必要 要である。 ―――― ――――――― ―――――― ――――――― ――――――― ――――――― ――――――― ―――――― ――――― 本学で でも、知識獲得 得は正課時間 間外の課題とし し、大学と社会 社会との接続に において必要に になる能力を を正課時間 内で実践 践的に学習する るという授業 業形式は行われ れています。反 反転授業は必 必ず講義ビデオ オを使わなくてはなら ないとい いうものでもあ ありません。講義ビデオを を教材のひ とつと捉 捉えれば、どの のような手法 法を採用するこ ことが到達 目標や好 好ましい能力の の獲得につな ながるのかとい いう視点に 移ります す。今回の基調 調講演1からは「反転授業 業」という 手法の見 見方と授業設計 計においるヒントをもらい いました。 (文責 末 末本 哲雄)
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