職 人さんに知ってほしい 材料の話 今回の回答者:早川 和良 さん (信越化学工業㈱ 有機合成事業部セルロース部) 2 『化学糊料』について 第 回 テーマ 図 1 MC が添加されている建築材料の適用箇所 湿式材料で「化学糊」というのは、主に保水剤であるメチ 波にも乗り、MCは優れた性能を生かして飛躍的に普及しま ルセルロース系の水に溶ける高分子を意味します。天然で した。 はなく、化学的に合成したものであることや水に溶けると それから50数年後の今日、MCは全世界に普及し、幅広 粘りが出ること、および接着力が改善するというイメージ い建材用途に使用されています。当初現場で調合されたも から「化学糊」と呼ばれるようになったと思われます。ただ のが、品質の安定化、施工の効率化などのためプレミック し、白色のエマルジョン系の接着剤と誤解される弊害もあ ス化されることが多くなり、MCは、直に目に触れることは るので、仕様書などで保水剤あるいはメチルセルロースと 少なくなりましたが、なくてはならない材料であり、壁に 呼ばれていることを考え、本稿では、化学名に近い表記で 塗ったり、機械で吹き付けたりする湿式材料には、MCの品 あるメチルセルロースのアルファベット略語のMCを使用 種と量は様々ですが、ほとんど使用していると言っても過 します。 言ではありません。食品で例えれば、カレーのスパイスの MCの日本での歴史は、MCを初めて製造開始した昭和37 ような役割と言えます。 年に遡ります。東京オリンピックの2年前で、その頃は高 最近、某建材総合商社の若手社員にMCの効果を体験し 度経済成長期で、住宅着工戸数も右肩上がりで増加し、住 てもらいました。セメントと砂のみで練り混ぜたモルタル 宅の壁材はセメントモルタル、漆喰など湿式材料が主流で、 とMCを添加したモルタルをベニヤ合板下地に鏝塗りし、 左官業に携わる職人さんも大勢おられました。そんな中、 違いをみてもらいました。結果は、MCなしのモルタルは、 施工性と品質に優れる材料の開発も盛んに行われ、日本で 下地に水が吸われて硬くなり、技能経験者でも塗りつける もMCが産声をあげました。 ことが不可能な状態。一方MC添加は、技能経験なしの素 日左連誌の昭和37年12月号に日左連の左官技術研究所 人でも鏝伸び作業性が良好で付着性も優れることが実感で の研究報告として「化学のり」の紹介があり、「数年前から きました。違いの分かる職人さんならもっとMCの素晴ら 漆喰、又はセメントモルタルなどに混入する化学のりの良 しさに感動されることと思います。 質のものが市販されていました。最近のごとく大量の施工 以下MCとは何か、用途、特徴について説明します。 面積並びに工期短縮を主とする工事には、理想的な混和剤 である。化学のりは一定分量に調合が行われ、能率的に混 ≪MCとは、MCの用途≫ 練ができ、接着、作業性など大きく、仕上がり状態も優れ 50 保水性及び乾燥収縮を最小限度に効果あり、随って亀裂防 MCは、セルロースを原料にして、化学処理した水溶性 止に役割をなし」と記載されています。また、昭和38年8月 高分子で形態は白色粉末です。セルロースは、木材など植 号の建設物価において当時、東京都立大学(前職は建築研究 物の細胞膜の主成分で地球上に最も多く存在する天然の高 所)の中村伸教授が「セメント混和剤の一つの頂点」として 分子です。この種のMCは、日本では、1960年頃、欧米で MCを紹介し、鏝塗り作業性改善、亀裂防止、接着力改善 は1930年代に製造され、建材用としては、セメントモル に効果があると説明されました。 タル、タイル張付けモルタル、セルフレベリング床材、石 これらの先駆的な研究と発想を契機に、高度経済成長の 膏プラスター、断熱モルタル、水性塗料、近年ではコンク No.465 2015 年 5 月号
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