通常では観察不可能な自然事象をICT機器の活用でリアルに再現

分科会G2
通常では観察不可能
能な自然事象をICT機器の活用でリアル
ルに再現
―画像処理技術を使った自然事象の可視化―
―
倉敷市立多津美中
中学校 講師 難波治彦
キーワード:中学校,理科,自然事象,画像処理技術,可視化
活用例:薄い雲がかかってい
いる時、通常の写真では
全体的に甘い感じになるがハイ
イダイナミックレンジ写
真にすると雲の細かな構造が確
確認できるため、大気の
広がりを実感できる(図2)。
1.はじめに
生物分野)の中に
自然事象(主として天体、気象、生
は、明暗差や時間的、空間的スケール
ル差が存在するた
め通常の観察や実験だけではその規則
則性や特性をとら
えることが難しい場合がある。このような場合以前で
は教材用写真やVTRを活用して知識
識・理解を深めて
きた。しかし、優れた教材でも授業内
内容や生徒の実態
にそぐわず興味や関心を持ちにくく、実感を伴わない
理技術やリアルタ
場合もある。そこで、最近の画像処理
イム画像を授業に導入して「自然事象
象への感心・意
欲・態度」「実感を伴った知識・理解
解」が得られるよ
うにしたのでここに報告する。
2
1
ジによる雲の写真
図2 ハイダイナミックレンジ
1:通常の写真 2:ハイ
イダイナミック写真
2.画像処理技術と活用例
視化して、導入や
実験、観察が困難な自然事象を可視
まとめ、個別学習、最終単元「自然と人間」でモジュ
ール化して振り返り学習に使用した。以下に可視化方
ームは動画)示す。
法と活用例を(図中のフィルムフレー
(1)インターバル撮影
設定した時間ごとに連続的に撮影す
する手法で、写真
をつなぎあわせて動画として再生でき、時間の流れを
縮めて、被写体の変化を観察することができる。基本
的には定点観測を行う。使用物は、デ
デジタルカメラ
(SONY製:α100、リコー製:CX3)、イン
ターバル撮影タイマー(研究室創遊製
製:iT440
0)、動画作成フリーソフト(JPG2AVI)であ
る。
活用例:自然事象の変化に、数時間
間から数週間かか
る現象を2分程度に縮めて視聴し、実
実感を伴った理解
が得られるようにした。具体例では、花の開閉、蒸散
作用、葉緑体の原形質流動、結晶成長
長、結露量測定、
前線付近の雲の動き、腐敗等に利用し
した(図1)。
(3)比較明
画像を単純に重ね合わせるの
のではなく、1画素ごと
に明るさを撮影したすべての画
画像にわたって比較を行
い、最も明るいデータを採用す
する技法である。使用物
は、デジタルカメラ(SONY
Y製:α100。リコー
製:CX3)、作成フリーソフ
フト(Sirius C
omp)である。
活用例:実感を伴った星の動
動きの理解は、観察に勝
るものはない。しかし、現状で
では夜空も明るく美しく
ない。また、安全面や時間的な
な問題と課題も多い。そ
こで、東西南北の星の動きを比
比較明により撮影して、
天体に対する興味関心を高め、実感を伴う理解とした
(図3)。
なお、これらの技法のもう1
1つの特徴は、正確な撮
影時刻を記録できることである
る。また、最近のデジタ
ルカメラおよびスマートフォン
ンのカメラ機能にも、上
記の機能を組み込んだ物も多く
くあり、生徒でも簡単に
実践できる。
分科会G2
2
1
1
3
図3 比較明による
る星の日周運動
1:通常の写真 2
2:比較明動画
2
4
(4)リアルタイム画像の実践
践例
気象の単元:各地の天気を定
定点カメラでリアルタイ
ム確認。気象庁ホームページで
で24時間の雲の動きを
確認(図4―1,2)。
ページで地球の自転を確
天体の単元:気象庁ホームペ
認(図4―3)。
図1 インターバル撮影。1:花の開
開花
2:雲の動き 3:成長 4:腐敗
(2)ハイダイナミックレンジ写真
通常の写真に比べて幅広いダイナミックレンジを表
現するための写真技法である。使用物
物は、デジタルカ
メラ(SONY製:α100。リコー
ー製:CX3)、
作成フリーソフト(Dynamic Photo-H
DRトライアル版)である。
1
2
図4 ネットによるリアルタイム画像
1:天気図2:雲 3:地球の自転
− 88 −
3
(5)総まとめで再活用
術の利用」は、第
理科の「自然環境の保全と科学技術
3学年の最終単元に位置し4つの領域
域を融合させて、
多面的かつ総合的に自然環境の保全と科学技術の利用
のありかたについて広い視野で科学的
的に考察し、持続
可能な社会を作ることの認識を目標に
にしている。しか
し、現状においては高校入試等の準備
備があり継続的な
実験・観察が持ちにくく、しかも、自然を総合的にと
らえる見方を育てることは、最終単元
元で急にはぐくま
れるものでもない。そこで、3年間を
を見通して、各単
元の中に「科学技術と環境保全」のあ
ありかたについて
ふれ、実社会や実生活との関連を重視
視して情報や実
験・観察、科学の歴史等を積極的に取
取り入れて、理科
学習の意義や有用性が実感できる授業
業内容にしてきた。
そして、新たな画像と過去に視聴した
た画像を元に「自
然と人間のかかわり」というモジュー
ールを作成した。
そして、単元の目標達成と自分たちの
の成長を振り返り、
新たな学習への意欲づけとした。(図
図5)。
JAPET&CEC成果発表会
大気の移動が理解しやすかった
た。しばらくして強い風
と雨が降ってきて青空が見えた
たのには感動した。④リ
アルタイム画像で、倉敷は雨な
なのに九州では晴れてい
た。前線と天気の変化がよく理
理解できた。⑤ハイダイ
ナミックレンジ写真は、スマー
ートフォンにも「HDR
モード」カメラとして入ってい
いるので使ったことがあ
ります。⑥比較明は感動しまし
した。倉敷の夜は明るい
のにあのように撮れるなんてす
すばらしい。星がたくさ
ん見える所だともっとすごい写
写真・動画ができそうで
すね。私もチャレンジしたい。⑦北の星は、天の北極
を中心に反時計回りに回転して
ているのがよくわかった。
よく知っている風景も映ってい
いたので感動した。
以上の結果から、実験、観察
察が困難な自然事象に画
像処理技術やリアルタイム画像
像を授業に導入すれば関
心、意欲、態度の向上、および
び実感を伴った知識、理
解に効果があることが判明した
た。アンケート結果を図
6に示す。
質問1:画像に興味
味を持ったか
質問1:この画像に興味を持ったか。
質問2:画像を作ってみ
みたいと思ったか
質問3:画像は実感を伴っ
った理解に役立ったか
図5「自然と人間のかかわり」のメニ
ニュー画面
とモジュール
3.実践の結果
「自然と人間」の学習が終了した時
時点で、画像処理
技術が生徒に及ぼす影響の調査を行った。調査対象は、
3年生約60人(2クラス)、4件法
法による質問紙
(質問1「この画像に興味を持ったか
か」、質問2「こ
のような画像を作ってみたいと思った
たか」、質問3
「この画像は実感を伴った理解に役立
立ったか」)と感
想文で行った。その結果、どの質問項
項目についても相
対的に83%以上(p=0.0000 **(p<.01))の肯定的な
回答が得られた。特に質問1と質問2からは、本教材
に対する関心の高さが伺える(図6)。また、感想文
も調査結果を裏付けるものとなった。一部をあげれば
①インターバル撮影に興味を持ち、カメラを買った。
雲、朝顔の開花にチャレンジした。思
思っていたより簡
単にできた。②インターネットの動画
画サイトにもイン
ターバル撮影が多くある。難しい撮影
影法だと思ってい
たが友人のAさんが「簡単だから教え
えてあげる」と言
ったのが嬉しかった。③寒冷前線の通
通過の動画がすご
かった。下の雲と上の雲の動きが逆に
になっているので
4.おわりに
ソードとして魚の生態学
本文では省略したが、エピソ
習の予備実験で、使用した金魚
魚が死んだことを生徒に
告げると「かわいそうだから実
実験をやめよう。でも観
察は大切。」と多くの意見が出
出た。結局、犠牲を最低
限にするために録画で学習しよ
ようということになり、
放課後数人の生徒たちとデジタ
タルカメラの動画機能で
記録をとった。学習といえども
も「生命を大切にしたい」
という生徒の気持ちが伝わった
た出来事であった。また、
星座カメラi-CANの活用、インターネット望遠の
効果については実践時間が短い
いため、今後の課題とす
る。
術は、今後ますます発展
デジタル技術と画像処理技術
し様々な分野で使われるであろ
ろう。この技術を教育の
分野にも活用して実感を伴う理
理解へと結びつけたいも
のである。
− 89 −
分科会G2
図6 主として画像処理教
教材の効果について