前回のチャレンジ問題の講評と解答例

2015 年 12 月 11 日チャレンジ問題の講評と解答例
Q.ビヤークネス・フィードバックを構成する方程式だけで考えて(28 枚目のスライドの
1-4 式),地球温暖化するとビヤークネス・フィードバックは強まるか弱まるかを,理由を
付して答えよ.
hE + hw = 0
ちなみに(1)-(4)式は, τ = aTE
hE − hw = bτ x
で,これらから1変数1式を得ると
 abc

dTE / dt = 
− r  TE
 2

x
dTE / dt = chE − rTE
となり,このかっこ内第一項がビヤークネス・フィードバックを表すということを説明し
ました.また従属変数である,TE などはすべて偏差(気候値=平年値からのずれ)でした.
問題のポイント:フィードバックは,a, b, c, γの係数で決まるので,それらの係数がどう温
暖化で変わるのかを考える.温暖化すれば,気温・水温は上昇するが,それは将来の平年
値を変えるのであって,偏差である TE が上昇するわけではないのだが,ここを混同してい
るレポートが多かった.
授業で述べたように適切な解答はいくつもあり得ます.たとえば次の3つの解答は結論は
違いますけれど,いずれも仮説提案の解答としては満点です.
解答例1:
温暖化すると,空気中の水蒸気量が増加するので,降水に伴う大気加熱によって生じる変
動は振幅が大きくなることが期待される.このことは(1)式の係数 a が大きくなることを意
味する.ビヤークネス・フィードバックは abc/2 で表されるので,ビヤークネス・フィード
バックは強まる.
解答例2:
温暖化すると海水は上から暖められるので,表面付近で成層が強くなる.このため,赤道
の東西風偏差が東西の温度躍層勾配を変える効果が小さくなる,このことは(2)式の係数 b
が小さくなることを意味する.ビヤークネス・フィードバックは abc/2 で表されるので,ビ
ヤークネス・フィードバックは弱まる.
解答例3:
温暖化すると海水は上から暖められるので,表面付近で成層が強くなる.このため,温度
躍層の深度変化が赤道湧昇を通じて表面水温を変える効果が小さくなる,このことは(3)式
の係数 c が小さくなることを意味する.ビヤークネス・フィードバックは abc/2 で表される
ので,ビヤークネス・フィードバックは弱まる.
なお,冷舌が周囲よりもより強く暖まるために,巨大エル・ニーニョ増加するという,最
新研究の仮説を前提としてこのレポートを書くことは,この式から考えてね,という趣旨
からは外れてしまいます.なぜなら「冷舌が周囲よりもより強く暖まる」という情報を,
その研究を信じて取り入れなくてはならないからです.最新研究は常にどれだけ妥当であ
るのかを批判的に評価する必要があり,その論文の証拠が何によっているのか,そしてそ
れがどの程度確からしいのかを,評価しなくてはなりません.ただしその仮説を前提に,
レポートを書いた学生さんもいるので,その場合どのように書けるかの例を示しましょう.
なお,授業では明記していませんでしたけれど(これはするべきだった!すまん),それを
書いておくのが情報源を明確にするために重要です.
解答例4:Cai et al., (2014)は,冷舌が周囲よりも速く暖まるために,巨大なエル・ニーニ
ョが増加することを提案している.冷舌が周囲よりも暖まると,その上では飽和水蒸気量
がより増加し,降水を仲立ちとする大気応答が大きくなることが予想される.このことは(1)
式の係数 a が大きくなることを意味する.ビヤークネス・フィードバックは abc/2 で表され
るので,ビヤークネス・フィードバックは強まる.