九州における公共職業訓練の展開と特徴 永 田 萬 享

福岡教育大学紀要,第64号,第4分冊,215   238(2015)
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
Public Vocational Training in Kyushu Area
─ in case of Oita Prefecture ─
永 田 萬 享
Kazuyuki NAGATA
技術教育講座
(平成26年 9 月30日受理)
Ⅰ.はじめに
厚生労働省の「職業安定行政組織・職業能力開発行政組織及び施設一覧」を使って,各都道府県が実施す
る公共職業訓練を普通課程と短期課程の割合からタイプ分けすると,学卒者訓練タイプと離職者訓練タイプ
に分かれる。タイプ分けの根拠は普通課程の占める比率が 5 割以上を学卒者訓練タイプとし,4 割以下を離
職者訓練タイプとする。
この考え方に沿って都道府県別の公共職業訓練を分類すると,学卒者訓練タイプの典型は北海道,青森,
岩手,宮城,秋田,山形,福島のいわゆる北海道・東北地区および佐賀,長崎,熊本,大分,宮崎,鹿児島
の九州地区である。いずれも地方エリアに多く見られる。一方,離職者訓練タイプは,東京,愛知,大阪の
大都市圏に多く見られる 1)。
本論考では,学卒者訓練タイプに分類される九州地区に注目して,公共職業訓練がどのような形で行われ
ているのか,その展開と特徴について検討する。九州地区では普通課程が短期課程を上回っている県が多
く,8 県中 6 県を占めている。さらに短期大学校を有している県は大分県と熊本県である。ここでは大分県
を事例とする。鹿児島県とならんで職業能力開発施設の統廃合がそれほど進んではいないことや,福岡県に
次ぐ九州第 2 の工業立県であることに注目して,公共職業訓練は地域の人材育成にどのような役割・機能を
果たしているのか,考察する。
Ⅱ.大分県立高等技術専門校
1.大分県の職業能力開発の沿革と学科再編
表 1 は,大分県における職業能力開発施設の再編状況を見たものである。1970 年代初期には 7 校(大分,
別府,佐伯,中津,日田,竹田,武蔵)体制であった。その後,1977(昭和 52)年度竹田校が,1981(昭
和 56)年度武蔵校が廃校となり,5 校体制に減少した。
その後においても訓練校の再編は続き,中津校は 1996(平成 8)年度に廃校になり,1988(平成 10)年
度に工科短期大学校へと再編された。さらに,別府校は 2001(平成 13)年度に別府産業工芸試験所との統
合によって,2 年制の竹工芸・訓練支援センター(以下,竹訓セという。)へ名称変更されている。
したがって,現在大分県では,工科短期大学校 1 校と高等技術専門校 4 校体制である。九州各県における
能力開発施設数は 8 校の福岡県を除くと鹿児島県と並んで,多いことがわかる。しかも,九州地区には 2 校
しかない短期大学校のひとつが大分県に設立されていることも特徴的であろう。
大分県の場合,廃科も含めた学科の再編は 1985(昭和 60)年から 1996(平成 8)年にかけて行われてい
る。なかでも,1986(昭和 61)年から 1991(平成 3)年にかけて集中している。時期的には第 4 次及び第 5
次職業能力開発基本計画の間に,実施されていることがわかる。
出所)大分県雇用・人材育成課資料より作成。
表 1 大分県の職業能力開発施設再編整備の流れ
216
永 田 萬 享
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
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学科の廃止,再編は入口と出口の状況に左右される。入校率と就職率によって訓練ニーズが図られるから
である。大分県雇用・人材育成課によると,以下のように述べている。
「基本的にはニーズ調査を行って,受け入れ側の企業,送り出す側の中学校,高校,そして労働界からの
情報をもとにして職業能力開発基本計画を作成しますので,そういう時に見直しを行います。その前に審
議会を開きますが,答申する前に事務方で情報を集めて審議会に答申をしていくというかたちになりま
す。」(大分県雇用・人材育成課)
こうして,具体的には,別府校にあった電子機器科は大分校に移転された。また,溶接科は廃科になった
のであるが,それは訓練ニーズが無くなったからである。さらに時代は遡るが,竹田校,武蔵校が廃校に
なったのは,入校率,就職率が低かったことや地域の訓練ニーズが無くなったために,訓練ニーズのある大
分校に集約されたことによる。
以上みてきたように,最大 7 校体制から,現在では工科短期大学校を含めて 5 校体制へと削減を余儀なく
されている。しかし,大分県は九州地域の中では福岡県,沖縄県に次いで定員数(普通職業訓練と高度職業
訓練)は多い(2012 年度)。
2.訓練科目別定員と訓練科目の特徴
(1)訓練科目別定員と応募率の特徴
表 2 は,大分県における 2011 年度から 2013 年度までの高等技術専門校別に見た訓練科の定員である。そ
れによると,普通課程の定員が多いことがわかる。入学定員の 66.7%(180/270),総定員の 69.0%(200/290)
が普通課程によって占められている。普通課程のうち 1 年制が圧倒的に多いことが特徴的である。普通課程
1 年制は大分校,日田校,佐伯校,竹訓セで持っているが,普通課程 2 年制を持っているのは大分校(メカ
トロニクス)のみである。一方,短期課程は日田校,佐伯校,竹訓セにそれぞれ 2 科,1 科,1 科が設置さ
れているに過ぎない。
学科再編,定員見直しに当たって,影響を及ぼす指標のひとつが応募率である。応募率は 2011 年から
2012 年にかけて下がり気味で推移していることがわかる。景気持ち直しによる就職動向の好転,それにと
もなう人材不足が生じて訓練機関への入校者が少ないということが考えられる。
そういう中にあっても,応募率 100%を割っているのが日田校の情報ビジネス科であり,佐伯校の機械加
表 2 大分県の訓練科別定員と応募率
技專校 訓練科
大分
メカトロニクス
電気設備
自動車整備
空調配管
木造建築
小計(5 科)
日田
情報ビジネス
建築
造園
小計(3 科)
佐伯
機械加工
情報ビジネス
建築
小計(3 科)
竹訓セ 竹工芸
介護サービス
小計(2 科)
合計(13 科)
課程 / 期間
普通 2 年
普通 1 年
普通 1 年
普通 1 年
普通 1 年
定員 / 総定員(人) 応募率(11/12/13)
(%) 定員充足率(11/12/13)
(%)
20
150   /220   /135  
  90   /100   /100
20
205   /220   /145  
  95   /100   /100
20
190   /230   /205  
  95   /100   /100
20
115   /140   /105  
  80   /100   /105
20
160   /140   /105  
100   /  90   /  90
100/120
164   /190   /139  
  92   /  98   /  99
普通 1 年
20
270   /175   /  95  
105   /105   /  85
  60   /100   / - 短期 1 年
20
100   /115   / -  
短期 1 年
20
185   /210   /110  
100   /100   /  95
60/60
185   /166   /102  
  88   /101   /  90
普通 1 年
20
105   /  70   /  60  
  80   /  70   /  45
普通 1 年
20
190   /200   /135  
  90   /100   /  85
短期 1 年
20
125   /120   /150  
100   /  95   /  90
60/60
140   /130   /115  
  90   /  88   /  73
普通 1 年
20
265   /295   /220  
100   /100   /100
短期 1 年
30
250   /256   /150  
100   /100   /100
50/50
256   /272   /167  
100   /100   /100
普通(2 年・1 年) 20+160/40+160
183.3/187.8/128.8
  92.8/  96.1/101.3
短期 1 年
90/90
174.4/184.4/138.6
  91.1/  98.9/  95.7
合計
270/290
180.4/186.7/131.7
  92.2/  97.0/  91.3
出所)各校の「業務概要」2011 年度,2012 年度,2013 年度から作成。
注 1 )日田校の建築科は 2013(平成 25)年 3 月に廃止,情報ビジネス科はオフィスビジネス科に,造園科はガーデンエクステリア科
に改称。
218
永 田 萬 享
工科において低いのが目立つ。いずれも普通課程 1 年制である。しかし,応募率が低いからといってすぐさ
ま廃科になることはない。要は見直しの対象リストに上がったということであろう。現に 2013 年度に廃科
になったのは,日田校の短期課程である建築科であった。同じ建築科は佐伯校にもあるが,こちらは存続し
ている。応募率をみると,2011 年 125%,2012 年 120%,2013 年 150%というように,決して高くはない
が,一定のニーズがあるという大分県の判断であろう。こうした点から考えると,学科再編の動きは応募率
の低さのみならず,地域労働市場のニーズ,さらには民間の教育機関との競合関係についても目をむける必
要がある。
大分県の訓練科目を見ると,全国の訓練校ではあまり見られない情報ビジネス科が日田校のみならず佐伯
校にも存在している。他県では,厚生労働省の通達に基づいて,民間との役割分担が強調され,民間教育訓
練機関との競合関係を避けることを基本的なスタンスとしているため,廃科になるケースが多い 2)。
もっとも大分県においても,「全専各連からは民間で出来るところは民間でやらせてくれと,公共でやる
必要はないんじゃないかという要望がありますので,そういう時には私どもは手を引かせていただくと,民
業圧迫は行政がやってはいけないということでございますので。」(大分県雇用・人材育成課)という状況に
変わりはない。
この通達の取り扱いについては極めてリジットに守られている都道府県が多いなか,大分県では地域の独
自性を配慮する柔軟な姿勢を強調している。その背景・要因には,佐伯や日田地域の独自性が関わる。これ
らの地域には専門学校がそれほど多くはないうえに,情報ビジネス関連職種に対する強い需要が存在するた
めに,これらの要望を満たすことが優先されているからである。
「私どもは地域的なところを見て,今に残しているというようなところがございます。……そう意味では,
地域差があります。状況が各県によって違うところがあります。」(同上)
(2)訓練科目の配置の特徴
ところで,大分県の訓練科の配置にはどのような特徴があるのだろうか。
表 3 は,各高等技術専門校に配置されている訓練科を定員別に見たものである。それによると,定員が
もっとも多い訓練科は,①木造建築と建築のいわゆる建築施工系である。大分校,日田校,佐伯校に設置し
ており,定員 60 人である。②次いで多いのは,機械・メカトロニクス系である。大分校と佐伯校に設置さ
れており,定員 60 人,総定員 80 人である。③次は,ものづくりを中心とする訓練校には珍しい,情報ビジ
ネス系,介護・福祉系である。民間との棲み分けによって他県では少ない訓練科である。日田校と,佐伯
表 3 大分県の訓練科別定員
訓練科
大分
日田
佐伯
(人)
竹訓セ
合計
定員 / 総定員
機械加工
20 普 1
20/20
メカトロニクス
20 普 2
20/40
電気設備
20 普 1
20/20
自動車整備
20 普 1
20/20
空調配管
20 普 1
20/20
木造建築
20 普 1
20/20
建築
20 短期
造園
20 短期
情報ビジネス
20 普 1
20 短期
40/40
20/20
20 普 1
40/40
竹工芸
20 普 1
20/20
介護サービス
30 短期
30/30
定員
100
60
60
50
270
総定員
120
60
60
50
290
出所)各校の「業務概要」平成 25 年度から作成。
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
219
校,竹訓セに設置されており,定員 70 人である。
定員でもっとも多い職種は①建築関連系である。訓練科でいえば,空調配管,木造建築,建築,造園,竹
工芸であり,定員 120 人である。次に定員が多い職種は②ものづくり系である。訓練科でいえば,機械加
工,メカトロニクス,電気設備であり,定員 60 人,総定員 80 人である。次は③情報ビジネス,介護・福祉
といった非ものづくり系である。訓練科でいえば,情報ビジネス,介護サービスであり,定員は 70 人であ
る。④最後は自動車整備系である。訓練科は自動車整備科であり,定員は 20 人である。
3.応募と入校者の特徴
(1)応募率と入校率
前掲表(表 2)によって,大分県の高等技術専門校全体の応募倍率をみると,2011 年度 180.4%(普通課
程 183.3%,短期課程 174.4%),2012 年度 186.7%(普通課程 187.8%,短期課程 184.4%),2013 年度 131.7%
(普通課程 128.8%,短期課程 138.6%)である。このように,応募倍率は高等技術専門校によっては高低の
格差はあるものの,全体を通して定員を上回っていることがわかる。しかし,2013 年度になると普通課程
においても短期課程においても応募倍率は下がる。とくに,2011 年度及び 2012 年度では普通課程(2 年と
1 年)が短期課程を上回っているが,2013 年度には逆に雇用情勢の好転によって短期課程が上回っている。
ちなみに,応募倍率が 100% を割り込むのは日田校普通課程 1 年の情報ビジネス,そして佐伯校普通課程 1
年の機械加工だけである。
表 4 は入校者をみたものである。それによると,定員に対する入校者の比率は 9 割を超えている。2011
年度 92.2%,2012 年度 97.0%である。ちなみに,2013 年度はやや低下するが,それでも 91.3%を示してい
る。入校率が 9 割を割り込むのは日田校(2011 年度 88.3%),佐伯校(2012 年度 88.3%)に過ぎない。概し
て入校率は高いことがわかる。
先に見たように,応募率は定員を超えているのであるが,応募率は訓練科目見直しの指標になっているこ
とを考えれば,いかにして学生を確保するのか,学生募集は極めて重要なファクターである。表 5 は大分県 高等技術専門校の募集方法による入校状況を見たものである。それには(表 5)推薦入学の合格者,一般
入試の合格者が記されているのみで,入校者の内訳として推薦入試と一般入試別の入校者が記載されてい
ないために推薦入学による入校者を正確には把握できない。しかし,推薦入学による合格者が全員入校し
たとして,入校者に占める推薦入学者のおおよその比率をみてみよう。推薦入学による入校者は 2011 年
6.4% → 2012 年 18.7% → 2013 年 14.3%のように,次第に増えつつあるが,推薦入学による入校者は少ない。
推薦入試による合格者が入校する確率は一般入試に比べてはるかに高く,定員確保のためには重要な方法と
して考えられている。
表 4 大分県の訓練定員・入校者・修了者
技專校
大分
日田
佐伯
竹訓セ
合計
年度
(人)
定員
入校者
修了者
A
B
C
B/A
C/A
C/B
2011
100
92
80
92.0
80.0
87.0
2012
100
98
71
98.0
71.0
72.4
2011
60
53
50
88.3
83.3
94.3
2012
60
61
56
101.7
93.3
91.8
2011
60
54
45
90.0
75.0
83.3
2012
60
53
43
88.3
71.7
81.1
2011
50
50
48
100.0
96.0
96.0
2012
50
50
48
100.0
96.0
96.0
2011
270
249
223
92.2
82.6
89.6
2012
270
262
218
97.0
80.7
83.2
出所)各校の「業務概要」平成 25 年度から作成。
220
永 田 萬 享
表 5 大分県高等技術専門校の募集方法による入校状況
推薦入学
訓練科名
課程 定員
一般入試
応募者
合格者
応募者
合格者
2011/12/13
2011/12/13
2011/12/13
2011/12/13
入校者
うち新卒
新卒比率
2011/12/13
2011/12/13
2011/12/13
大 分
メカトロニクス
普 2 年 20
  2/  4/  4
  2/  4/  3
  28/  40/  23   17/  19/  20   18/  20/  20
  4/  5/  5
22.2/25.0/25.0
電気設備
普 1 年 20
  4/  6/  8
  3/  6/  6
  37/  38/  21   19/  14/  14   19/  20/  20
  3/  7/  6
15.8/35.0/30.0
自動車整備
普 1 年 20
  4/13/10
  3/11/  5
  34/  33/  31   18/   9/  16   19/  20/  20
  3/11/  7
15.8/55.0/35.0
空調配管システム 普 1 年 20
  0/  3/  2
  0/  3/  4
  23/  25/  19   16/  20/  18   16/  20/  21
  2/  4/  8
12.5/20.0/38.1
木造建築
普 1 年 20
  1/  8/  3
  1/  9/  3
  31/  20/  13   22/  11/  13   20/  18/  14
  1/12/  3
  5.0/66.7/21.4
小計
佐 伯
100
11/34/27
  9/33/21
153/156/107   92/  73/  81   92/  98/  95
13/39/29
14.1/39.8/30.5
機械加工
普 1 年 20
  0/  1/  4
  0/  1/  4
  21/  13/   5   18/  13/   4   16/  14/   6
  1/  3/  2
  6.3/21.4/33.3
情報ビジネス
普 1 年 20
  7/12/  5
  7/10/  5
  31/  28/  22   18/  18/  18   18/  20/  17
  5/  2/  4
27.8/10.0/23.5
20
  0/  2/  0
  0/  2/  0
  25/  24/  28   20/  22/  20   20/  19/  16
  2/  7/  3
10.0/36.8/18.8
60
  7/15/  9
  7/13/  9
  77/  65/  55   56/  53/  42   54/  53/  39
  8/12/  9
14.8/22.6/23.1
普 1 年 20
  0/  4/  0
  0/  3/  0
  54/  31/  18   24/  20/  17   21/  21/  16
  3/  3/  3
14.3/14.3/18.8
建築
短期
小計
日 田
情報ビジネス
建築
短期
20
  0/  0/-
  0/  0/-
  20/  23/ -   14/  21/ -   12/  20/ -
  2/  1/-
16.7/  5.0/ -
造園
短期
20
  0/  0/  0
  0/  0/  0
  37/  42/  22   22/  20/  22   20/  20/  20
  0/  0/  0
  0.0/  0.0/  0.0
60
  0/  4/  0
  0/  3/  0
111/  96/  40   60/  61/  39   53/  61/  36
  5/  4/  3
  9.4/  6.6/  8.3
普 1 年 20
  1/  0/  0
  0/  0/  0
  52/  59/  22   20/  20/  10   20/  20/  10
  0/  0/  0
  0.0/  0.0/  0.0
30
  0/  0/  0
  0/  0/  0
  75/  77/  43   30/  30/  30   30/  30/  30
  0/  1/  0
  0.0/  3.3/  0.0
50
  1/  0/  0
  0/  0/  0
127/136/  65   50/  50/  40   50/  50/  40
  0/  1/  0
  0.0/  2.0/  0.0
270
19/53/36
16/49/30
468/453/267 258/237/202 249/262/210
26/56/41
10.4/21.4/19.5
小計
竹訓セ
竹工芸
介護サービス
小計
総 計
短期
出所)2011 年度,2012 年度,2013 年度「入校状況調」から作成。
(2)年齢別・学歴別特徴
次に,入校者の年齢別・学歴別構成とその特徴についてみておこう(表 6 参照)。まず年齢別特徴につい
て,普通課程 2 年では 10 代 24%,20 代 43%,30 代以上 33%,普通課程 1 年では 10 代 22%,20 代 33%,
30 代以上 45% という数値が示すように,普通課程 2 年及び 1 年では 10 代が 2 割強,20 代と 30 代以上が 8
割弱を占めている。一方短期課程では 30 代以上が圧倒的に多く(80%),10 代はわずかに 1 割にも満たな
い。なかでも,日田校,竹訓セ,佐伯校では 30 才以上が 74% ~ 85%と高い比率を示している。
このように,普通課程 2 年および 1 年は学卒者を対象とする養成訓練であるが,実際には中高年の離転職
者がその多くを占めていることがわかる。離転職者が多いことは学歴別構成にも反映している。
次に学歴別特徴であるが,大分校,日田校のデータは見当たらない。前掲表(表 6)は普通課程 1 年と短
期課程を持つ佐伯校と竹訓セ(高卒の新規,過年度生別は不明)のみを掲載している。そうした制約がある
ことを前提に学歴別構成を見てみよう。高卒が 60%,大卒が 35%を示している。佐伯校の高卒新規は 1 割
にすぎないが,過年度生は 5 割を超えている。
表 7 は 2012 年度及び 2013 年度入校生のみのデータであるが,新卒者の人数と比率をみたものである。そ
れによると,工科短期大学校を除くと,最も高い大分校でも 30 ~ 40%を示すに過ぎない。佐伯校で 23%,
日田校や竹訓セにいたっては,新卒者は 1 割も満たない状態である。このように,新規学卒者が少ないとい
うことは,逆に言えば離転職者が多いことを意味する
さらに,表 8 は入校者の雇用保険受給者数を見たものである。それによると,在校生に占める比率は全体
で 6 割以上を占めていることがわかる。離転職者が多く入校する短期課程を有する佐伯校(64%),日田校
(80%),竹訓セ(93%)において高い数値を示しているが,注目すべきは学卒者向けの普通課程を有する大
分校においても 5 割弱が雇用保険受給者である。公共職業安定所長の受講指示による入校者は,訓練期間終
了時まで給付期間が延長されることを考えれば,公共職業訓練が離転職者のセーフティネットの役割を果た
していることを示している。
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
221
表 6 大分県の高等技術専門校入学者数と年齢別・学歴別構成(2011 ~ 2013)
技專校 訓練課程
入学者数
11
大分
日田
佐伯
竹訓セ
合計
12
13
年齢別構成
10 代
20 代
学歴別構成
30 才以上
中
高
大
新規
過年
普2
18
20
20 24.1/  14
43.1/  25
32.8/  19
普1
74
78
79 30.3/  70
30.7/  71
39.0/  90
計
92
98
99 29.1/  84
33.2/  96
37.7/109
普1
21
21
17 15.3/   9
40.7/  24
44.1/  26
短期
32
40
19
4.4/   4
9.9/   9
85.7/  78
計
53
61
36
8.7/  13
22.0/  33
69.3/104
普1
34
34
26 18.1/  17
31.9/  30
50.0/  47
1.1/  1
18.1/17
54.3/  51
26.6/  25
短期
20
19
18 21.1/  12
5.3/   3
73.7/  42
28.1/16
0.0/  0
57.9/  33
14.0/   8
計
54
53
44 19.2/  29
21.9/  33
58.9/  89
11.3/17
11.3/17
55.6/  84
21.9/  33
普1
20
20
10
0.0/   0
32.0/  16
68.0/  34
0.0/  0
20.0/  10
80.0/  40
短期
30
30
30
2.2/   2
17.8/  16
80.0/  72
1.1/  1
67.8/  61
31.1/  28
計
50
50
40
1.4/   2
22.9/  32
75.7/106
0.7/  1
50.7/  71
48.6/  68
普2
18
20
20 24.1/  14
43.1/  25
32.8/  19
普1
短期
計
149 153 132 22.1/  96
32.5/141
45.4/197
0.7/  1
54.2/  78
45.1/  65
7.6/  18
11.8/  28
80.7/192
11.6/17
63.9/  94
24.5/  36
249 262 219 17.5/128
26.6/194
55.9/408
6.2/18
59.1/172
34.7/101
82
89
67
出所)各校「業務概要」2011 ~ 2013 年度から作成。
注 1)日田校では,2013 年度に短期課程建築科が廃止。
注 2)竹訓セでは,2013 年度から竹工芸科が 2 年制へ移行。
注 3)学歴別構成は佐伯校と竹訓セのみ。
表 7 新卒者の比率
入校者(人) 新卒者(人) 比率(%)
2012/13
2012/13
2012/13
工科短大
75/71
69/68
92/96
大分
98/95
39/29
40/31
佐伯
53/39
12/  9
23/23
日田
61/36
4/  3
7/  8
竹訓セ
50/40
1/  0
2/  0
出所)各校「業務概要」2012 ~ 2013 年度から作成。
4.修了と就職状況の特徴
(1)高等技術専門校別に見た出身地の特徴
高等技術専門校に入校した生徒の多くは地元出身者である。ここで言う地元とは高等技術専門校が置かれ
ている自治体を指している。表 9 を見てほしい。高等技術専門校別にみると,①地元が 7 ~ 8 割を占めてい
る日田校や佐伯校,②地元と地元外がほぼ同じ割合を示す大分校,③県外や地元外が圧倒的に多い竹訓セ,
という 3 つのグループに大別できる。
②の大分校は大分県のほぼ中央に位置しているため,大分市内や周辺市町村からの通学に容易であること
や新卒者を対象とする普通課程 1 年,2 年を設置しているために県内各地から通学していることによる。こ
うした状況を反映して,大分校のみ学生寮がある。
222
永 田 萬 享
表 8 大分県高等技術専門校の在校生数と雇用保険受給者数(2013 年)
( )は%
高等技術
専門校
課程
訓練科
大分
普通
普通
普通
普通
普通
普通
メカトロニクス科 1 年
メカトロニクス科 2 年
電気設備科
自動車整備科
空調配管システム科
木造建築科
小計
  20
  16
  20
  20
  21
  14
111(100)
  12
  10
   8
   7
   8
   8
  53(47.7)
佐伯
普通
普通
短期
機械加工科
オフィスビジネス科
建築科
小計
   6
  17
  16
  39(100)
   2
  12
  11
  25(64.1)
日田
普通
短期
オフィスビジネス科
ガーデンエクステリア科
小計
  16
  19
  35(100)
  10
  18
  28(80.0)
竹訓セ
普通
短期
竹工芸科
介護サービス科
小計
  10
  30
  40(100)
   8
  29
  37(92.5)
225(100)
143(63.6)
総 計
在校生
(人)
雇用保険
受給者(人)
出所)「月別施設内訓練生及び向上訓練実施状況について(報告)」から作成。
表 9 大分県の高等技術専門校生徒の出身地
技專校
大分
日田
佐伯
竹訓セ
年度
2011
2012
2013
小計
2011
2012
2013
小計
2011
2012
2013
小計
2011
2012
2013
小計
2011
2012
2013
合計
入校生
92      98      99      289(100.0)
53      61      36      150(100.0)
54      53      44      151(100.0)
50      50      40      140(100.0)
249(100.0)
262(100.0)
219(100.0)
730(100.0)
地元
地元外(県内)
49     42     45     51     56     42     150(51.9) 135(46.7)
33     20     41     20     26     10     100(66.7)
50(33.3)
44     10     42     11     33     11     119(78.8)
32(21.2)
7     33     17     23     9     26     33(23.6)
82(58.6)
133(53.4) 105(42.2)
145(55.3) 105(40.1)
124(56.6)
89(40.6)
402(55.1) 299(41.0)
出所)各校「業務概要」2011 ~ 2013 年度から作成。
(人)
県外
1     2     1     4(  1.4)
0     0     0     0(  0.0)
0     0     0     0(  0.0)
10     10     5     25(17.9)
11(  4.4)
12(  4.6)
6(  2.7)
29(  4.0)
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
223
表 10 大分県の訓練科別の応募率と就職率
技專校
大分
日田
佐伯
竹訓セ
訓練科
訓練課程
応募率(倍)
就職率(%)
2011/12
2011/  12
メカトロニクス
普2
1.5/2.2倍
92.9/100.0%
電気設備
普1
2.1/2.2 94.1/100.0 自動車整備
普1
1.9/2.3 94.4/  94.1 空調配管
普1
1.2/1.4 83.3/  92.9 木造建築
普1
1.6/1.4 73.7/100.0 情報ビジネス
普1
2.7/1.8 85.7/  82.4 建築
短期
1.0/1.2 70.0/100.0 造園
短期
1.9/2.1 89.5/  80.0 機械加工
普1
1.1/0.7 80.0/  91.7 情報ビジネス
普1
1.9/2.0 80.0/  87.5 建築
短期
1.3/1.2 80.0/  93.3 竹工芸
普1
2.7/3.0 100.0/100.0 介護サービス
短期
2.5/2.6 92.9/  96.6 出所)各校「業務概要」2011 ~ 2013 年度から作成。
注)就職率は就職者 / 修了者を示す。
③の別府市にある竹訓セは地元は 2 割強に過ぎないが,地元外(6 割)と県外(2 割弱)が圧倒的に多い
ことがわかる。これは設置されている訓練科に影響を受けている。介護サービスでは,高い応募率や 100%
の定員充足率からわかるように介護,福祉関連分野に対するニーズを反映していること,さらには竹工芸で
は全国的にも珍しい竹工芸の自営を目指すためのコースとして県外からも多数応募している現状を反映して
いる。
しかし,大分県全体で見ると,地元および地元外のいわゆる県内の出身者が 95% を占めて多いことがわ
かる。
(2)就職状況
前掲表(表 4)によると,入校者に占める修了者の割合は 8 ~ 9 割を超える。したがって,約 1 ~ 2 割が
ドロップアウトしている計算になる。その理由としては,「就職のための中退」や「教育内容・授業に合わ
ない」といったものまで多様である。
入校者に占める修了者(8 ~ 9 割)の訓練課程別に見た就職状況を示したものが表 10 である。2011 年度
から 2012 年度にかけて就職率は上昇を遂げている訓練科が多いなかで,下降しているのは日田校の普通課
程 1 年の情報ビジネス科,同じく日田校の短期課程の造園科の 2 科に過ぎない。ちなみに,日田校の建築科
は 2013 年 3 月に廃止,情報ビジネス科はオフィスビジネス科に,造園科はガーデンエクステリア科に改称
された。
次に,訓練科別に見た特徴について,2011 年度の就職率において 80%を割っているのは大分校の普通課
程 1 年木造建築科 73.7%,日田校の短期課程建築科 70.0% の 2 校である。2012 年度においては就職率 80%
を超えていることがわかる。
最後に表 11 によって就職先の地域別特徴をみておこう。全体の平均では,高等技術専門校の所在地及び
所在地以外の県内に 96%が就職している。県外はわずかに 4% である。これによって,各高等技術専門校
は大分県内の中小企業に人材を供給していることがよくわかる。とくに,日田校では県外はわずかに 1 人
(2.0%)である。なお,訓練科別にみれば,大分校の空調配管 2 人(15.4%),竹訓セの竹工芸 2 人(10.5%)
というように県外への就職が他訓練科に比べて相対的に多い。竹工芸は県外からの入校者が多いことから,
224
永 田 萬 享
表 11 大分県の訓練科別卒業生の就職場所(2012 年度)
技專校
訓練科
大分
日田
佐伯
竹訓セ
合計
就職者
県内
県外
メカトロ
   8
   8
 0
電気設備
  17
  16
 1
自動車整備
  16
  16
 0
空調配管
  13
  11
 2
木造建築
  15
  14
 1
計
  69(100.0)
  65(94.2)
  4(5.8)
情報ビジネス
  14
  14
 0
建築
  19
  18
 1
造園
  16
  16
 0
計
  49(100.0)
  48(98.0)
  1(2.0)
機械加工
  18
  18
 0
情報ビジネス
  11
  10
 1
建築
  19
  18
 1
計
  48(100.0)
  46(95.8)
  2(4.2)
竹工芸
  19
  17
 2
介護サービス
  28
  28
 0
計
  47(100.0)
  45(95.7)
  2(4.3)
213(100.0)
204(95.8)
  9(4.2)
出所)各校「業務概要」2013 年度から作成。
修了後には出身地の地元へ帰って自営業を行うケースが多いためである。
Ⅲ.大分県立工科短期大学校
1.実践技術者の養成
①設立の経緯
大分県立工科短期大学校は 1998(平成 10)年 4 月に開設された。前身は大分県内の高等技術専門校のひ
とつである中津高等技術専門校である。というよりも中津高等技術専門校の廃止にともなって,新たに専門
課程を置く短期大学校として開校された。全国にある都道府県立の短期大学校 15 校のひとつとして設置さ
れた。ちなみに九州では熊本県立技術短期大学校が存在する。
大分県立工科短期大学校が設立されるに至った背景の一つは九州第 2 位の工業県であったということであ
る。47 都道府県を対象とする「製造品出荷額」(2012 年度)についての都道府県ランキングによれば,九州
地域では,福岡県(全国 11 位)に次いで多いのが大分県(全国 24 位)である。出荷額は福岡県の約 8 兆 3
千億円に対して,大分県は 4 兆 2 千億円を示しており,福岡県の約半分であるが,九州管内では福岡県に次
ぐ 2 番目の工業県ということになる。歴史的にみれば,かつて新産都市の成功事例として山口県の徳山,岡
山県の水島コンビナートとならんで大分県が採り上げられるように,そういう意味では工業立県なのであ
る。
「大分県はいわゆる新産都市が成功したところですね。別府湾沿いに広がっている新日鉄,九石,住友化
学,昭和石油等々があります。大分と徳山と岡山の水島コンビナートが成功例としてよく挙げられていま
すので,そういうことからすると,ちょっと語弊はありますが,工業県ということになるかも知れませ
ん。」(工科短期大学校)
二つは,大分県北部に電子部品の工場が数多く展開されていることである。県北テクノポリスと言われて
いた頃の電子産業は隆盛を極めていたし,現在もそうである。
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
225
「この時期は電子工業のほうが中心であった。要するに IC チップを作る工場がたくさんあったんです。
キャノンをはじめ,この前閉鎖されたテキサス・インスツルメントとか,東芝,県北テクノポリスと呼ば
れていた時期で,電子産業が当時盛んだったんです。……大分キャノンは国東の安岐町,杵築にあります
し,今度また日田にも新しいキャノンの工場ができました。キャノンの会長の御手洗さんは大分県出身者
なんです。」(同上)
三つは,大分県北部は北九州市に近く,福岡県苅田町の日産,宮若市のトヨタを中核とする北部九州の自
動車産業ベルト地帯の一角を占めていることである。工科短期大学校が設立される段階ではダイハツの中津
工場は未稼働の状態ではあったが,中津進出を見越して自動車産業特有の裾野の広い業種に対して,高度な
人材供給が求められたからである。
「ダイハツ九州さんが中津に進出することが決まっておりまして,それを見越してということがあります。
中津校は溶接も廃止になって残っていたのが,造園科と情報技術科だけの小さな所帯になってしまったん
です。ダイハツ九州さんが進出するということで,自動車関連の機械系の企業が進出しますから,それに
対応した制御・電子系ですね。自動車産業というのはエレクトロニクスのかたまりですから,機械,制
御,電子系を主にした科を設置してダイハツ九州および関連企業の立地に対応しようということです。そ
ういうことで,工科短期大学校の設置のきっかけになっています。」(大分県雇用・人材育成課)
これらの要望に応えるかたちで,これまであった県立の高等技術専門校では育成できない高度な実践技術
者の養成目標を掲げて設立されたのである。
「大分県内に大分,日田,佐伯,別府,中津の 5 校あったんです。5 つあったものの中から,電子産業や
自動車産業の工場の関係で,高度化しないと人材を輩出できないということで,中津を高度化して専門課
程を置くという,いわゆる短大に改編したということです。」(工科短期大学校)
②実践技術者の養成と学科構成
学科構成は,生産技術科,制御技術科,電子技術科,住居環境科の 4 科からスタートする。その後,2004
(平成 16)年にダイハツが操業を開始したことによって,新たに金型製作,保全業務を担う実践技術者の育
成が強く求められた。しかし,予算は定員 80 名に対して積算する関係で定員枠の変更はできないというこ
とを前提に再編計画が進められた。再編にあたり,金型 10 名定員枠を電子技術科と住居環境科の定員枠か
ら引き出した。当時建設業の不況のあおりで需要が著しく低下していたこと,さらには IT 企業の海外移転
が進み,需要が減退していたことのために,電子技術科と住居環境科から定員が振り向けられたのである。
これによって 10 名定員の金型コースを立ち上げたが,金型コースを作ったがために,従来の学科との整合
性がとりづらくなった。
「短期大学校は 80 名定員が決まっているから,国と予算の関係で 80 人に対して金額が来るという話に
なっているから,定員は変えられないという前提があった。定員 10 名の金型コースを作ることになった
が,その 10 名はどこから出すのかという話になって,建築から何人減らして電子から何人減らしてとい
うことになった。当時建設業不況で,建築のほうもあまり需要がなくなった。電子のほうは IT 企業がど
んどん外国に出て行った時期があったのでその需要がなくなり,建築を減らし,電子を減らして,機械の
ほうにということで金型コースを作った。そうするとまとめて呼ぶのに今までのように機械,生産,制御
という呼び方がわかりにくいから機械システムという大きな括りを使って,そのなかにコースが 3 つあり
ますよという言い方をしようということになったんです。」(同上)
こうして,2007(平成 19)年,従来の 4 学科制を 3 系・7 コース制に再編し,また,2013(平成 25)年 4
月には電子システム系を電気・電子システム系に改編を行った。
具体的には,生産技術科と制御技術科を機械システム系へ,そして金型コースも機械システム系に位置づ
けられ,それぞれデジタルメカエンジニアコース,自動化システムエンジニアコース,金型エンジニアコー
スの 3 つに分かれた。そして電子技術科は電気・電子システム系に位置づけられ,電気エンジニアコース,
電子エンジニアコースの 2 つに分かれた。さらに,住居環境科は建築システム系に位置づけられ,プラン
ナーコース,施工管理エンジニアコースの 2 つに分かれた。
③実践技術者の仕事内容と求められる能力
それでは,こうした実践技術者はいかなる仕事内容に従事しているのか,どのような業務に従事すること
226
永 田 萬 享
を想定しているのか,みていこう。
機械システム系はデジタルメカエンジニアコース,自動化システムエンジニアコース,金型エンジニア
コースに分かれる。まず,①デジタルメカエンジニアコースは板金,冶金,溶接,各種工作機械による機械
加工を行う機械屋であり,②自動化システムエンジニアコースは工場のオートメーションを担当し,工場の
自動化ラインの機械保全を行う。③金型エンジニアコースは車のボディなど部材の金型をつくり,保全を行
う。金型エンジニアコースはダイハツの操業による金型技術者に対する強い要請から生まれた。
「平成 16 年ダイハツが操業した時から,車のボディなどの部材の金型をつくる人,保全のできる人がほし
いと。金型というのは 1 日何百回も打つものですから摺り減るんです。それで保全が必要なんです。そう
いうメンテナンスができる学生がほしいということで,金型コースができたんです。」(同上)
一方,電気・電子システム系は電気エンジニアコースと電子エンジニアコースに分かれる。電気エンジニ
アコースは「工場の中のオートメーションのラインを触るんだけど,機械じゃなくて電気のほうを触る。工
場のラインというのは機械部分と電気部分がありますが,電気のほうを触るということです。」(同上)これ
に対して電子エンジニアコースでは,「IC チップを作ったり,IC の検査をしたりするのが電子エンジニア
コースです。丸いウエハを作りますが,出荷する前にそれを検査したり,ウエハをつくる機械の保全をした
りするのが電子エンジニアコースです。」(同上)
次に,建築システム系は図面を引き,設計を行うプランナーコースと現場管理を行う施工管理エンジニア
コースとに分かれる。プランナーコースでは,図面設計を行う場合,顧客の意見を聞き入れながら,例えば
バリアフリーの住宅設計を行う際に階段はエレベーターをつけたほうがいいなどと提案をしながらいわゆる
営業を行う能力をも修得することが求められている。
「プランナーコースでは,現在福祉コーディネーターの資格を取って,図面を引くなかで,バリアフリー
の家はどうあるべきかというようなことをやる。だから,お客様の意見を聞きながら図面を引いて,階段
はエレベーターをつけたほうが良いということで図面を引くのがプランナーです。そして,実際に引かれ
た図面を現場に持っていって大工さんたちを指導するのが施工管理エンジニアコースです。だから今プラ
ンナーは営業もできないとダメなんです。お客さんと話をしながら,これは要る,要らないという話が出
来ないとダメなんです。……福祉コーディネーターの資格を取って,福祉施設の基準を理解したり,イン
テリアのことを理解したり,カラーのことを理解したりするのはプランナーなんです。」(工科短期大学
校)
そのため,福祉施設の構造基準を理解することや福祉コーディネーター,カラーコーディネーターの資格
取得が必要とされたり,福祉施設にふさわしいインテリア,色彩についての幅広い知識の習得が欠かせない
のである。
「今は建築でも図面を引くときに,最初から階段をどう作るとか,エレベーターをどう作るとか,福祉施
設の構造基準を理解していないと図面が引けないんです,福祉コーディネーターの資格を取ってね。お客
様と話をするときに,80 歳,90 歳のおじいちゃん,おばあちゃんがいる家向けの,高齢者向けの家はこ
うあるべきだという時には,一般の建築のなかにはないんですよ。それは福祉コーディネーターの資格の
なかで高齢者住宅の,こういった設置基準が必要なんだというのを取得していくわけです。……さまざま
な資格を取得しないと建築も就職がないのです。福祉の資格も持っています,カラーコーディネーターの
資格も持っていますということです。海に近いところだったら,こんな色合いだからこういう色がいいと
か,そういう提案もしないとダメなんです。インテリアの全体の提案も出来ないとだめなんです。図面を
引くだけの仕事はありえないです。お客さんのいろんなニーズを取り込んで図面を引くということですか
ら,大変なんです。」(工科短期大学校)
④実践技術者の育成目標
以上を踏まえて,各コースは,表 12 のようにそれぞれの分野の実践技術者の育成を目的にしている。具
体的に見ておこう。まず,機械システム系のデジタルメカエンジニアコースでは「5 軸加工機による精密数
値制御加工ができる実践技術者」を,自動化システムエンジニアコースでは「機械技術と電気電子技術を融
合できる実践技術者」を,金型エンジニアコースでは「CAD/CAM/CAE によるプレス金型や射出成形型
の設計・製作ができる実践技術者」を,そして電気・電子システム系の電気エンジニアコースでは「電子回
路の設計からプリント基板製作,動作解析・評価ができ,さらに半導体デバイスの解析・評価ができる実践
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
227
表 12 大分工科短期大学校の目指す実践技術者像
学科
系
目指す実
践技術者
像
活躍でき
る分野
生産技術科
制御技術科
電子技術科
住居環境科
機械システム系
電子システム系
建築システム系
・CAD/CAM/CAE に 代
表されるデジタル技術を
駆使し,5 軸加工機によ
る精密数値制御加工がで
きる実践技術者
・機械組立,シーケンス
制御,モーター制御技術
・電子回路(アナログ・
デジタル回路)の設計か
らプリント基板製作,動
作解析・評価ができ,さ
らに半導体デバイスの解
析・評価ができる実践技
術者
・住環境や設備に関する
企画・提案力,改修技術
を習得し,基本設計から
積算,実施設計までの一
連の業務の流れをおさえ
た実践技術者
・各種施工法,測量,工
などを習得し,機械技術 ・ コ ン ピ ュ ー タ 技 術
と電気電子技術を融合で (ハードウエア,ネット
きる実践技術者
ワークなど)を使いこな
・プレス加工や射出成形 したものづくりができる
加 工 の 基 礎 技 術 を 習 得 実践技術者
し,CAD/CAM/CAE に
よるプレス金型や射出成
形金型の設計・製作がで
きる実践技術者
程管理,品質管理,維持
管理,耐震改修などの技
術を習得し,コスト感覚
を有する実践技術者
・自動車関連企業
・機械加工メーカー
・機械設計会社
・機械組立関連企業
・金型メーカー
・住宅メーカー,工務店
・総合建設会社
・建築設備会社
・建材関連企業
・専門工事会社
・半導体メーカー
・コンピュータシステム
企業
・ 電 子・ 情 報 機 器 メ ー
カー
・ネットワークシステム
企業
・コンピュータ制御関連
企業
出所)大分県立工科短期大学校「平成 23 年度業務概要」から作成。
技術者」を,電子エンジニアコースでは「コンピュータ技術を使いこなしたものづくりができる実践技術
者」を,建築システム系のプランナーコースでは「住環境や設備に関する企画・提案力,改修技術を習得
し,基本設計から積算,実施設計までの一連の業務の流れをおさえた実践技術者」を,施工管理エンジニア
コースでは「各種施工法,測量,工程管理,品質管理,維持管理,耐震改修などの技術を習得し,コスト感
覚を有する実践技術者」の育成をめざしている。
このように工科短期大学校の教育目的は極めて明瞭で,実践技術者(テクニシャン)という人材育成像が
明確に位置づいていることがわかる。そういう意味では,文部科学省の大学(工学部)の育成像とは明らか
に異なっており,むしろ工業高等専門学校に近いと言えよう。
2.教育課程・教育方法とキャリア支援・就職支援
(1)教育課程・教育方法
こうした特徴はカリキュラム編成にも反映している。表 13 は職業能力開発促進法施行規則の別表から作
成した高等技術専門校と工科短期大学校の時間数の比較をみたものである。工科短期大学校の総時間数は 2
年間で 2,800 時間である。4 年制大学では 2,385 時間以上であることから,ほぼ 4 年制大学に相当している
ことがわかる。
228
永 田 萬 享
表 13 高等技術専門校と工科短期大学校の時間数の比較
高等技術専門校
普通課程の普通職業訓練
メカトロニクス系
メカトロニクス科
系基礎 学科 600 時間
実技 300 時間
専攻 学科 250 時間
実技 450 時間
合計 1,600 時間
自由裁量 1,200 時間
施行規則 2,800 時間
工科短期大学校
専門課程の高度職業訓練
機械システム系
生産技術科
系基礎 学科 350 時間
実技 215 時間
専攻 学科 350 時間
実技 610 時間
合計 1,525 時間
自由裁量 1,275 時間
施行規則 2,800 時間
出所)職業能力開発促進法施行規則別表から作成。
高等技術専門校と工科短期大学校の訓練時間数はいずれも 2 年間で 2,800 時間であるが,高等技術専門校
は「職場ですぐ役立つような技術・技能を身に付ける」ことをめざし,工科短期大学校では「中堅的な技術
者になる基礎・素地を作る」ための職業訓練を行うことを狙っていることから,「カリキュラム上の科目自
体が教科に関しても実技に関しても,大きく異なって」いる。
「職業能力開発促進法の施行規則の別表には,メカトロニクス科とあって,系基礎の学科,実技そして専
攻の学科,実技として決められている時間があります。それにたいして,生産技術科というのは工科短期
大学校になりますが,機械システム系ということで,教科的にも被るところが多いのですが,内容的にも
違いますし,教科名自体も違います。」(大分県雇用・人材育成課)
同様に,両者間において総時間数は変わらないけれども,学科と実技の時間数が異なるために,自由裁量
時間数に両者の違いが見られることである。
「決められている時間数も違います。メカトロニクスの場合,系基礎学科は 600 時間に対して,生産技術
科の場合,350 時間で良いのです。最終的には 1 年間 1,400 時間という縛りはあります。そうすると系基
礎の学科,実技,専攻の学科,実技を足しても 1,400 時間にはなりません。あとは自由裁量の部分が出て
参ります。ですので,専門課程はそこの部分がだいぶ出て参りますので,より高度な科目を設定できると
いうことです。」(同上)
したがって,工科短期大学校では,「1 年間 1,400 時間の 2 年間の 2,800 時間が決められている時間になり
ますから,マイナス 1,525 時間で 1,275 時間になります。それを 2 で割ると,1 年間に 637 時間の自由裁量
の科目が設けられ」(大分県雇用・人材育成課),それだけの時間が確保できる計算になる。こうした自由裁
量の時間においても,実践技術者を目指す工科短期大学校独自のカリキュラムが組まれている。以下,具体
的に見ていこう。
表 14 は機械システム系のカリキュラムを示したものである。職業能力開発促進法の施行規則の別表に即
して教育課程は組まれているが,科目名や時間数には独自性が発揮される。クオーター制を採用し,第 1 ~
4 クオーターまでが 1 年次,第 5 ~ 8 クオーターが 2 年次である。授業は 90 分を 1 時限として,1 日 4 時限
まで行われる。授業科目は,総合訓練,一般訓練,専門学科,専門実技の 4 グループに分類されている 3)。
「総合訓練」は,実践技術者として必要なヒューマンスキルを獲得する「ヒューマンスキル演習」や「イ
ンターンシップ」,さらに社会人としてのマナーやコミュニケーション能力を身につける「コミュニケー
ションセミナー」「リーダーシップセミナー」を学ぶ。「一般教育」では「英語」「コミュニケーション技法」
などによって,社会人として必要な協調性や国際化に対応する能力を身に付ける。「専門学科」では,「工学
の基礎となる原理や,技術・技能修得に必要な基礎知識」を学ぶ 4)。さらに「専門実技」は最も多くの授業
時間が割かれており,「講義で学んだ内容を頭の中の知識として留めるのではなく,学生自ら体験しつつ,
ものづくりの技を身に付ける」ために,「各専門に関する製図・測定・設計・製作などを,ものづくりの現
場で使われる装置類によって実習」が行われる 5)。
そのうち専門実技に多くの時間数が費やされる。専門実技には実験・実習が数多く含まれる。基礎から専
門,それから応用へと進む。1 年次には一般教育や専門基礎の座学が多いが,基本的に 2 年次の第 3 クオー
出所)大分県立工科短期大学校「学生便覧」平成 25 年度,p7 ~ 8 から。
表 14 機械システム系カリキュラムチャート
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
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230
永 田 萬 享
ターで座学は終わる。最後の第 4 クオーターではもっぱら実習に取り組むことになる。卒業研究は第 2 年次
に 1 年間を通して取り組む。第 2 年次以降,金型エンジニア,デジタルメカ,自動化システムの各コースに
分かれて,授業が行われる。
(2)キャリア支援・就職支援
以上のようなカリキュラムのもとづいて専門的知識や技術・技能の修得が行われ,実践技術者や現場の管
理監督者,保全工の養成が行われている。しかし,現在ではこうした専門的知識や技術・技能の修得にとど
まらず,就職率の向上をめざして,企業の求める人材育成,職業観・就業意識の向上に向けて,キャリア形
成支援・就職支援が行われている。
表 15 は 2 年間にわたる就職支援・キャリア支援の流れを示したものである。1 年次では,入学時のオリ
エンテーション(OIT 導入プロジェクト)から始まり,「自身の将来像」を描く「キャリアデザイン入門」,
そして就職した先輩や企業人を呼んで行う講演や「企業人による特別講義」が行われ,キャリア形成意識を
涵養するのである。さらにはインターンシップが 1 年次の 9 月に 1 週間から 10 日に渡って実施されている。
インターンシップ実施にあたって,参加者は心構えや社会人としてのマナーについて事前にセミナーを受講
し,実施後には報告会が行われる。また,「就職対策セミナー」や「企業説明会」も頻繁に実施されている。
たとえば,「就職対策セミナー」では,「就職活動開始前」「就職試験の直前」「就職期間中」のように切れ目
なく,段階的に,系統的に就職支援セミナーが開催されている。就職活動開始前では心構え,自己分析や企
業研究の方法などを学び,就職試験の直前になると社会人としてのマナーや身だしなみを学ぶ。さらに就職
試験の最中には,筆記試験や面接のための対策を学ぶ。これらは自由裁量時間として,毎週水曜日の午後の
2 時限にわたって行われている。それは 40 週の 2 時間,つまり 80 時間に相当する。1 時限は 90 分であるか
ら,120 時間にのぼる長い時間をかけていることがわかる。そのうえ,用意周到に就職支援が行われている
ことが見て取れる。この点が第 1 の特徴である。
第 2 は,キャリア支援・就職支援の指導組織と指導員の関わり方である。基本的には入校した生徒の割り
振りは系によって異なるけれども,電子系の場合,6 名の指導員に 24 名の学生が出席番号によって割り振
られる。各系の就職担当指導員の 1 名は 6 名の指導員と相談をしてインターンシップの行き先を決定する。
その際,「どこの工場に行くのが向いているのか,学生の相性,成績を考えて振り分けていく」(工科短期大
学校)という。インターンシップに入る前の段階から指導員同士の話し合いが行われる。
「電子の場合最初の出席番号で機械的に決める。半年後のインターンシップの時に,各系の就職担当の先
生がいますから,就職担当の先生と機械的に振り分けられた先生たちが相談して,この子はどこにやった
らいいのか,振り分けていくんです。どこの工場に行くのが向いているのか,学生との相談,成績を考え
て振り分けていくんです。」(同上)
「インターンシップに振り分けるときには最初に機械的に振り分けた先生と就職担当の先生がお話しをし
て,この学生はここが良いということで行き先を決めます。そういう関わり方をするんです。」(同上)
このように,就職担当の指導員を軸に各系の指導員との間で相談,連絡調整をはかり,学生一人ひとりの
就職支援活動の年間計画を作成している。そのプランに沿って,インターンシップや 2 年次以降の企業訪問
が行われる。企業訪問時では,その企業を熟知している指導員が必ず付き添って出かける。
「就職担当の先生とゼミ担当の先生が二人でお話をされて,こういう学生がいるけどどういう順番でどこ
に連れていくかということを相談しながらやっていく。その年間計画をたてるということです。・・・最
初のインターンシップの時から,どの学生をどの工場にもっていけば良いかから始まります。」(同上)
「学生の一人ひとりを計画的にということです。インターンシップが終わって,企業も気に入って自分も
行きたいとなれば,それに向けて勉強すると。企業の仕事に向いたようなコースに入っていくということ
になります。」(同上)
「就職活動をするときに先生がいっしょについていくということです。就職指導の担当の先生は変わりま
せんけど,会社に連れていくときの先生は,会社の窓口の先生なんです。だから,ある生徒が A という
会社が向いていると就職担当の先生がふんだら,A の会社の担当の先生に話をしに連れていくというこ
とです。」(同上)
入学早々,2 年後の就職を想定した就職支援・キャリア教育支援が行われていることである。
第 3 は,したがって,企業とのつながりを重視することによって,企業が工科短期大学校に要望を言いや
出所)工科短期大学校「キャリア支援・就職支援」から。
表 15 工科短期大学校のキャリア支援・就職支援
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
231
232
永 田 萬 享
すい環境をつくり,一方,工科短期大学校は企業の要請を受け入れて就職が有利に働くよう配慮している。
「例えば,A 企業については B 先生が良く知っているから,B 先生といっしょに A 企業に行って具体的な
話をしなさいと。企業の担当者も,もっとこういう技術を教えて欲しいとか,こういう人が欲しいという
ことを言いやすい。うちで対応できることがあれば,帰ってそれを教えます。」(同上)
第 4 は,以上のような就職支援の枠組み,指導員の関わりのなかで,具体的にはどのような指導や取り組
みが行われているのであろうか。これらの取り組みは正課の内外にわたって広く行われている。聴き取りか
らいくつか取り上げておく。
「入学した時には,仕事の感覚も職に就くイメージも全くないものを,挨拶から始めて,どんな口のきき
方をするのかを教え込みます。」(工科短期大学校)
「僕が(副校長―引用者)来たときからやっていますけど,朝の挨拶運動,ゴミ拾い運動をやっています。
きちんと就職するためにはこういうことが必要なんだと言っています。」(同上)
「正課は 8 時 50 分から 16 時 10 分までの間なんですけど,16 時 10 分から科によっては 18 時までに就職
セミナーというか就職対策の時間があるんです。面接の練習をしたり,SPI をしたり,さまざまなことを
しています。」(同上)
以上から,より一層のきめ細かな指導が行われていることがわかる。
3.応募・入校状況と修了・就職状況-入口と出口
(1)応募状況・入学状況
まず,応募状況,入学状況について見ていこう(表 16 参照)。応募者数は 2010 年度から 2012 年度まで定
員の 1.6 ~ 1.7 倍を示しているが,2013 年度には 1.3 倍に大きく低下する。ちなみに,応募者が最も多かっ
たのは 2003(平成 15)年の 196 名であったから,2013 年度 103 名はほぼ 2 分の 1 まで激減していることに
なる。応募者の減少は入校者の減少にも影響を及ぼしている。入校者を見れば,定員 80 名に対して 2010 年
84 名,2011 年 81 名,2012 年 75 名,2013 年 71 名と減少傾向が続く。
2013 年度の具体的な応募状況等をみると,機械システム系において定員 46 名で応募が 60 名あり,定員
を超えて合格者 48 名を出したが,4 名の欠員を生じた。電子系に至っては 24 名定員で 32 名の応募があっ
たが,合格者は定員を割っている。入校者は 17 名であった。結局,残りの 7 名は入校することなく,国立
大学の工学部に行っているという。
このように,特に 2013 年度に応募倍率が 1.3 倍にまで低下したことによって,結果的に入校率も低くな
るのであるが,定員確保のために,学力レベルから考えてそれ以上の合格者を出すことには相当の危機感を
持っている。一定の学力を維持することが訓練内容を理解するうえで大切なことであり,最終目的である就
職に結びつけるためには欠かせないからである。学力不足の影響は理論的な内容を学ぶ学科よりも,実験・
実習を行うための安全作業に大きな支障をもたらすという。
「定員が 80 名にもかかわらず,実際は 76 名,77 名で,なぜ 80 名にしないのかと言われるけれども,最
終的には就職に結びつけて社会に出てもらうというのがうちの目的なので,そこから逆算していけば自ず
と入る人は決まってきます。」(工科短期大学校)
表 16 大分県立工科短期大学校の応募・入校状況(2010 ~ 2013 年度)
定員
生産技術科
応募者(人)
応募率(%)
入学者(人)
入学率(%)
平均年齢(歳)
既卒者(人)
10 11 12 13 10 11 12 13 10 11 12 13 10 11 12 13 10 11 12 13 10 11 12 13
46   69   68   82   60 150 148 178 130 48 44 43 44 104   96   93   96 18.8 18.1 18.3 18.1 5
1
2
1
電子技術科 24   45   51   36   32 188 213 150 133 25 25 20 17 104 104   83   71 18.6 18.6 18.4 18.3 1
2
3
2
住居環境科 10   17   14   16   11 170 140 160 110 11 12 12 10 110 120 120 100 19.6 19.0 18.1 18.0 2
0
1
0
3
6
3
制御技術科
計
80 131 133 134 103 164 166 168 129 84 81 75 71 105 101   94   89 18.9 18.2 18.3 18.1 8
出所)大分県立工科短期大学校「事業概要」2010 ~ 2013 年度から作成。
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
233
表 17 大分県立工科短期大学校の募集方法による入校状況
(人)
推薦入学
一般入試
入校者
うち新卒 新卒比率
(%)
系
定員
応募者
合格者
応募者
合格者
2012年/13年 2012年/13年 2012年/13年 2012年/13年 2012年/13年 2012年/13年 2012年/13年
機械システム 46
41/35
30/27
41/25
22/21
43/44
41/43
85.4/97.7
電子システム 24
16/13
12/  9
20/19
12/15
20/17
17/15
85.0/88.2
建築システム 10
  7/  8
  6/  8
  9/  3
  9/  3
12/10
11/10
91.7/100.0
計
80
64/56
48/44
70/47
43/39
75/71
69/68
92.0/95.8
出所)2012 年度,2013 年度「入校状況調」から作成。
表 18 大分県立工科短期大学校卒業生の就職状況(1999 年度~ 2012 年度)
科名
卒業者数
生産技術科 320(   4)
制御技術科 231( 22)
電子技術科 288( 27)
住居環境科 243( 98)
計
1,082(151)
2013 年 4 月 1 日現在 (単位:人数)
内訳
就職
希望者
県内
県外
小計
公務員
計
就職率
(%)
自己
開拓
304
217
259
213
993
197
133
150
145
625
  98
  80
  93
  55
326
295
213
243
200
951
2
2
2
1
7
297
215
245
201
958
98
99
95
94
96
 7
 2
 9
 9
27
実質 進学等
その他 就職率
(%)
0
100
16
0
100
14
5
  98
29
3
  99
30
8
  99
89
出所)大分県立工科短期大学校「業務概要」平成 25 年度から作成。
「指導員は,最低ある一定のレベルがないと授業についていけないということが経験的にわかっているん
です。これから下のレベルは絶対入れちゃいけないんだというのが指導員の確固たる信念なんです。相対
的に,高校生の学力が下がってきているんです。」(同上)
指導員によれば,座学はなんとかなるが,実技はどうしようもないという。
「座学は 30 点でいいので何とか教え込んでやるんですけど,実技に入ったときに,危ないということを理
解していないから,またなぜここがこうなるのかが理解できないために,それをやらせると危ないので,
前に進めないんです。時間が経ってしようがないということです。」(同上)
表 17 は募集方法による入校状況を見たものである。それによると,入学試験の方式には推薦入試と一般
入試があり,「推薦入試の場合,合格すれば入校する」という。したがって,2012 年度 75 名,2013 年 71 名
の入校者のうち,推薦合格者がそれぞれ 48 名,44 名いるので,推薦合格者が全員入校するとすれば,一般
入試による入校者は 2012 年,2013 年いずれも 27 名となることから,推薦合格者 6 割,一般入試合格者 4
割程度になる。
学歴構成,とりわけ新卒比率をみれば,2012 年度 92.0%,2013 年度 95.8%のように新規高卒者が圧倒
的に多いことがわかる。ここに,普通課程と比べたときの特徴の一つが見られる。ちなみに,前掲表(表
5)によれば,高等技術専門校(普通課程および短期課程)の新卒比率は,2011 年 10.4%,2012 年 21.4%,
2013 年 19.5%のように新規学卒者は極めて少なく,多くが離転職者によって占められている。工科短期大
学校では,均質の学力レベルのなかで 2 年間にわたる濃密な訓練が可能となっている。
(2)修了・就職状況
次に,就職状況について見ておこう(表 18 参照)。1999 年度から 2012 年度までの卒業者数は 1,082 人を
数える。うち女性は 151 人 14%を占めている。とくに,住居環境科では 243 人中 98 人(60%)を占めてお
り,他学科に比べて多い。女性の 65%は住居環境科が占めていることになる。進学が 89 人 8%を占めてお
り,彼らは生産技術・生産管理部門のリーダー養成をねらう職業能力開発大学校や専門学校への進路を選ん
でいる。
また,ここでいう「自己開拓」とは高等技術専門校を通じることなく,個人自ら就職開拓を行った者をさ
している。したがって,「自己開拓」を入れた実質就職率はほぼ 100%に近い数値を示している。就職して
活躍できる分野(就職分野)は前掲表(表 12)に見るように,各科で修得した知識,技能,技術を活かす
ことができる分野・領域であることがわかる。
234
永 田 萬 享
「メーカーの 1 次サプライヤー,2 次サプライヤー,3 次サプライヤーなど,要するに工場があるところに
行っています。」(工科短期大学校)
「基本的には,そのコースがやっている技術の職に行っています。それ以外の所には行きようがない。例
えば,金型コースの修了生であれば,久留米ダイハツのエンジン部門に就職して,金型モデルをやってい
ます。同じくダイハツの滋賀県の守山工場では金型保全をやっています。とにかく,金型出身者たちは金
型の工場に行っています。」(同上)
「デジタルメカエンジニアコース出身者は機械の何でも屋なので,旋盤もするし,冶金もするし,溶接も
するし,そういう工場に行って,そういう仕事をやっています。」(同上)
「自動化システムエンジニアコース出身者も実際に工場に行って,オートメーションのラインの保全,維
持管理,改良業務に従事しています。」(同上)
このように,工科短期大学校の修了生はラインマンとしてではなくて,ラインが止まった時に修理をした
り,改良をしたり,オーバーホールも含めていわゆる保全業務,生産管理業務に従事しているのである。し
たがって,工場全体の管理運営を考えるのが大卒エンジニアとすれば,現場で指揮をとっているのが工科短
期大学校修了生の実践技術者ということになる。
就職企業規模別には,表自体にデータはないが,500 人以下の中小企業がほとんどを占めると思われる。
高等技術専門校と同様か,もしくは企業規模はやや大きいと判断される。
表 18 によれば就職する場所,地域は 60 ~ 70%が県内であるが,最近は特に地元志向が強い傾向にある
という。また,地元志向が強いのは経済的な問題にもよるという。いずれにしても,家から通える範囲で就
職することが期待されている。
「最近は概ね県外が 25 ~ 30%で,県内が 70 ~ 75%です。県外もほとんどが北九州の行橋,豊前からで,
学生たちは地元の工場に就職したいという地元志向がとても強いんです。それはひとつにはお金の面もあ
りますし,現在の学生気質もあるでしょう。要するに,卒業して地元に就職したいということです。」(同
上)
「北九州,行橋あとは筑豊,黒崎,長門ぐらいまでですね。基本的には家から通えるところに就職する人
が多いですね。もちろん遠い人もいますよ,対馬,鹿児島から来る人もいます。それは数人です。」(同
上)
「県内も実は県北の高田,宇佐,中津,国東,杵築ぐらいまでで,県内のうちの 50 ~ 60%を占めている。
そういう傾向です。」(同上)
以上からわかるように,工科短期大学校は地元・地域の中小企業の人材供給にとって欠かせない重要な役
割・機能を果たしているのである。
Ⅳ.委託訓練と在職者訓練
(1)委託訓練の特徴
大分県では委託訓練は大分高等技術専門校で行われている。表 19 は 2013 年度の委託訓練の実施訓練計画
を示したものである。それによると,訓練コースは 83 コース,定員は 1,636 人である。IT 分野が最も多く
35 コース,次いで介護・福祉が 29 コースを占めている。訓練期間はまれに 6 ヵ月もあるが,ほとんど 3 ヵ
月が中心である。例えば,IT 分野のパソコン経理科,介護・福祉分野の介護初任者研修科,医療事務分野
の医療事務科などは 3 ヵ月である。
表 19 委託訓練のコース数と定員(2013 年度実施計画)
訓練コース名
コース数
定員
介護・福祉
IT 分野
医療分野
その他
29
35
15
 4
  509(  31.1)
  757(  46.3)
  310(  18.9)
    60(   3.7)
合計
83
1,636(100.0)
出所)「2013 年度商工労働企業委員会資料」から作成。
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
235
表 20 委託訓練の入校,修了,就職状況
年度
コース数
定員
入校者(率)
修了者(率)
就職者(率)
2010 年度
64
1,119
1,052(94.0)
  953(90.6)
654(68.6)
2011 年度
79
1,363
1,355(99.4)
1,253(92.4)
635(50.7)
2012 年度
89
1,630
1,602(98.3)
  741(46.3)
577(77.9)
出所)大分県立大分高等技術専門校「業務概要」各年度から作成。
注 1)各年度の 4 月 25 日現在の数値。ただし,2010 年度は 6 月 30 日現在の数値である。
注 2)2010 年度の就職者数には 1 月入校者の就職者は含まれていない。
注 3)2011 年度の就職者数には 10 月入校以降の就職者は含まれていない。
注 4)2012 年度の修了者数,就職者数には 10 月入校以降の修了者,就職者は含まれていない。
一方,「デュアル」は若者の自立を支援するための訓練であり,座学と企業実習からなっている。訓練期
間は 4 ヵ月であるが,うち 1 ヵ月間は企業実習が行われる。さらに,介護福祉士や保育士の訓練コースでは
2 年間にわたって,資格の取得をめざして介護福祉の現場へ人材を投入するための訓練が行われている。
次に,表 20 によって委託訓練の入校,修了,就職状況について見ておこう。表は 2010 ~ 2012 年度の
データを示している。入校時期によって,修了者数や就職者数が含まれない場合があるため,一定の制約を
被っているものの,ある程度の傾向を把握することはできる。それによれば,定員の増加とともに入校者も
増えている。2010 年 1,052 人,2011 年 1,355 人,2012 年 1,602 人,入校率はほとんど 100%に近い状態であ
る。修了率をみても 9 割を超えている。ただし,2012 年度は 10 月入校以降の修了者が含まれていないため
減少している。
最後に,就職率を見てみると,50 ~ 80%の幅で,訓練コースによって大きな差が見られる。非ものづく
り系コースへの入校・応募率は高いけれども,一方で求人がそれほどには集まらないという雇用のミスマッ
チ現象が起こっている。入校者の年齢の高さや狭隘な地域労働市場の問題も反映している。
(2)在職者訓練の特徴
①在職者訓練の展開
他の都道府県同様に大分県の在職者訓練においても,高等技術専門校があらかじめ訓練内容を設定してい
るレディメード型と事業所のニーズに応じて訓練内容を設定するオーダーメード型に分かれている。在職者
訓練は短期課程で行われるが,大分県の場合,専門短期課程を置く工科短期大学校があるため,高等技術専
門校(短期課程)と工科短期大学校(専門短期課程)の両者で在職者訓練が実施されている。
表 21 をみてほしい。それによると,コース数,訓練日数はともに工科短期大学校が 6 割以上を占めて,
多い。一方,定員数と受講者数では高等技術専門校が 6 割前後を占めている。高等技術専門校ではメニュー
型のみ行われ,工科短期大学校においてもほとんどがメニュー型である。定員数と受講者数が工科短期大学
校よりも高等技術専門校で多いのは,1 コース当たりの定員が多いからである。
次に,1 コース当たりの訓練日数,定員,受講者数,修了者数をみてみよう(表 22 参照)。高等技術専門
校が 3.2 日,工科短期大学校が 2.8 日である。メニュー型とオーダー型では,それぞれ 3.0 日,2.3 日である。
このことから,訓練を受けている日数は 2 ~ 3 日という極めて短時間の訓練日数でしかないことがわかる。
平日の 5 時以降,土日の時間帯以外は,地域の中小企業にとって,長時間にわたる研修期間の確保が如何に
困難であるのか如実に示している。
1 コース当たりの定員は約 13 人である。高等技術専門校が 20 人,工科短期大学校はわずかに 9 人である
から,工科短期大学校は高等技術専門校の半数に過ぎないことになる。工科短期大学校の定員数の少なさが
目立つ。メニュー型とオーダー型とではいずれも 12 ~ 13 人であるから,ほとんど差は見られない。
1 コース当たりの受講者数は定員を下まわって 9 人である。高等技術専門校が 15 人,工科短期大学校が 5
人である。工科短期大学校の受講者は高等技術専門校の 3 分の 1 まで低下している。このように定員より受
講者数が少ないため,大幅に定員を下まわっている現状が見て取れる。
236
永 田 萬 享
表 21 2012 年度在職者訓練(技能向上セミナー)の実施状況
高等技術専門校
種類
コース数(夜) 日数(夜) 時間(夜)
メニュー
6(1)
16( 6)
78(18)
メニュー
4(3)
15(13)
51(39)
メニュー
3(2)
12(10)
36(24)
メニュー
2 5   30   合計
15(6)
48(29)
195(81)
機械
メニュー
14(3)
48(14)
246(42)
2 5   30   システム系 オーダー
小計
16(3)
53(14)
276(42)
電子
メニュー
6 13   78   1 2   12   システム系 オーダー
小計
7 15   90   建築
メニュー
4 8   48   0 0   0   システム系 オーダー
小計
4 8   48   メニュー
24(3)
69(14)
372(42)
オーダー
3 7   42   合計
27(3)
76(14)
414(42)
メニュー
39(9)
117(43) 567(123)
オーダー
3 7   42   総計
42(9)
124(43) 609(123)
大分
日田
佐伯
竹訓
工科短期大学校
合計
定員(夜) 受講者(夜)修了者(夜)
120( 10)
117( 6)
94( 5)
70( 60)
51(41)
31(25)
50( 40)
25(16)
22(13)
50    36   21   290(110)
229(63)
168(43)
123( 25)
68( 7)
60( 7)
25    23   20   148( 25)
91( 7)
80( 7)
48    40   35   10    0   0   58    40   35   35    0   0   0    0   0   35    0   0   206( 25)
108( 7)
95( 7)
35    23   20   241( 25)
131( 7)
115( 7)
496(135)
337(70)
263(50)
35    23   20   531(135)
360(70)
283(50)
出所)「平成 24 年度技能向上セミナー実施結果集計表」から作成。
注 1)( )は夜間開講セミナー
表 22 2011 年度在職者訓練(技能向上セミナー)の 1 コース当たりの日数,定員,受講者数,修了者数
高等技術専門校
工科短期大学校
合計
タイプ
メニュー型
オーダー型
計
メニュー型
オーダー型
計
メニュー型
オーダー型
計
日数(日)
3.2
0.0
3.2
2.9
2.3
2.8
3.0
2.3
3.0
定員(人)
19.3
0.0
19.3
8.6
11.7
8.9
12.7
11.7
12.6
受講者(人)
15.3
0.0
15.3
4.5
7.7
4.9
8.6
7.7
8.6
修了者(人)
11.2
0.0
11.2
4.0
6.7
4.3
6.7
6.7
6.7
出所)「平成 24 年度技能向上セミナー実施結果集計表」から作成。
②在職者訓練の新たな動き
大分県では,企業の在職者に対する訓練を技能向上セミナーとして高等技術専門校,工科短期大学校がこ
れまで担ってきた。そこでは訓練校があらかじめ訓練計画をたてて,訓練受講者を募集して訓練を行うメ
ニュー型や企業のニーズに合わせたオーダー型の訓練が他府県同様に行われてきた。
2005 年に「大分県長期総合計画」として「安心・活力・発展プラン 2005」が発表された。その 7 年後の
2012 年には改訂版が発行されたのであるが,その中には今後の在職者訓練の在り方を大きく転換させる取
り組みが打ち出されている。具体的には「(企業訪問等による)企業に有用な技術情報の発信」「工科短期大
学校などでの地域企業の在職者を対象にした技術力の向上支援」「工科短期大学校を核にものづくり企業が
共同して人材育成を行うネットワークの形成」を行うことが求められている 6)。職業訓練施設,なかでも工
科短期大学校には,これまで新規学卒者に対する 2 年間の専門訓練だけではなく,地域,企業の技術支援を
行うことが役割として大きく取り上げられたのである。
こうした考え方のもとに,2013 年に「低コスト生産設備改良(LCI)講座」が工科短期大学校において開
かれた。指導者は北部九州にある自動車メーカーのラーニングセンターの講師である。対象は「自動車関連
部品等の生産にかかる指導者クラス」に対して,製図,空圧制御,シーケンス制御などの知識教育や自動車
九州における公共職業訓練の展開と特徴
─ 大分県の事例 ─
237
搬送装置の設計,製作,不具合確認などを訓練内容とする研修であった。具体的なカリキュラムは以下のと
おりである。
表 23 低コスト生産設備改良(LCI)講座のカリキュラム
月
6月
開催日
内容
7日(金)8日(土)
開講式,機械製図
22日(土)
機械製図
7 月 5日(金)6日(土)
空圧
12日(金)13日(土)
シーケンス制御
8 月 1日(木)2日(金)3日(土)
装置設計
9 月 19日(木)20日(金)21日(土) 装置製作
10 月 18日(金)19日(土)
調整
11 月 8日(金)9日(土)
調整
22日(金)23日(土)
調整
12 月
7日(土)
ふり返り,纏め,修了式
全 7 ヶ月 20 日間 講義時間 9:00 ~ 18:00(うち 8 時間)
出所)「低コスト生産設備改良(LCI)講座受講者の募集」より。
1 日 9 時から 18 時の 8 時間を 7 ヶ月間,20 日間にわたって行われた。大分県主催の参加費無料の研修で
あった。同様に,6 年前からプレス金型保全技術者の育成講座や金型補修技能講習も行われている。これら
の研修の申し込み条件は「大分県内に事業所を有すること」「業務命令で受講させること」「原則,全カリ
キュラム受講させること」を満たすことが必要であった。
在職者訓練のこうしたあり方は,これまでの「システム的に期間を定めて,人を定めて訓練を行う」とい
うものではなく,個別企業の経営合理化,LCI(Low Cost Improvement),経費削減のための工場レイアウ
トの変更,生産性向上の改善のための研修会という性格を色濃く反映している。
「生徒は完全に地元の民間企業です。だから,それは普通の職業訓練をやっている在職者訓練ではないん
です。本来は企業が企業内で技術者を養成するものを,日産とかダイハツのブランドを使ってやりますと
いう,いわゆる肩代わりです。だから,うち(工科短期大学校)の機械・設備を使って民間の人たちの技
術レベルを少しぐらい技術向上しますというレベルじゃない。ダイハツや日産の技術を企業に持ち込むた
めの研修をやっているんです。」(工科短期大学校)
「これだけの内容をこれだけ教えて欲しいということですから,これは完全に県の事業です。大分県の事
業として日産と組んで,地元の企業を育成するために LCI という事業をつくりました。それを工科短期
大学校にさせるという話です。だから県の事業です。地場の企業に技術移転するためにやるということで
す。1 企業が持っている技術を地場の企業に移していくために,事業を組んでいます。……北九州から中
津までにかけての自動車産業のサプライヤーさんに活かせる技術移転に工科短期大学校が一枚加わりなさ
いという県の計画になっています。だから,一般の職業訓練のオーダーメードとかのレベルを超えていま
すよ。」(同上)
以上みたような在職者訓練をめぐる現実の取り組みは,もはや工科短期大学校が単なる職業訓練施設とし
てだけではなく,地域のなかにおける技術支援の位置づけを今後どのように担っていくのかが問われてい
る。企業ニーズを受け入れるオーダー型の在職者訓練はすでに企業内教育の一環として位置付いているので
あるが,指導員も,予算(経費)も,そして訓練場所も「肩代わり」するという新たな動きは公共職業訓練
のあり方を大きく超えているといえよう。
Ⅴ.むすびにかえて
これまで,大分県の公共職業訓練(学卒者訓練,離職者訓練,在職者訓練)がどのように展開されてきた
のか,学卒者訓練,離職者訓練(委託訓練),在職者訓練ごとに,入校状況,訓練内容,就職状況について
考察してきた。最後に,大分県の公共職業訓練は産業人材育成においてどのように位置づいているのか,ま
とめておこう。
238
永 田 萬 享
まず第 1 に,大分県の公共職業訓練の定員は普通課程に突出している。なかでも普通課程 1 年に特化して
おり,短期課程の比率は低い。応募率,入校率を見ればいずれも高いものがある。
第 2 に,入校者の年齢層は 30 代以上が多く,したがって新規学卒者が少ない状況にある。ここには,学
卒者訓練としての普通課程に離転職者が数多く入校していることがわかる。さらに,訓練生全体の 6 割強が
雇用保険受給者であることを勘案すれば,高等技術専門校は雇用のセーフティネットの機能を十分に果たし
ているといえる。
第 3 に,どちらかといえば高等技術専門校よりも工科短期大学校により強く反映されているのであるが,
新規高卒者のものづくり系の教育機関として,専門学校と並んで位置付けられていることである。いわゆる
ものづくり系の専門学校という位置づけである。
「高校の進学担当の先生に聴いたことがあるんだけども,国公立大学に何人通すのかが勝負だというよう
な先生達がいるんです。その先生たちから言わせると工科短期大学校は専修学校,専門学校と同じ扱いを
しているということです。」(工科短期大学校)
「大分県の高校は旧制中学校系と旧制女学校系の両方があって,旧制中学校系は国公立志望の先生が多い
んです。女学校系の高校はそんなものに太刀打ちできないから,就職のほうを先にみているんです。だか
ら大学を選ぶときも就職をしやすい大学とか,ここの学校にやって地元の企業に就職させるんや,そうい
う感覚で進路指導をしている学校がある。」(同上)
このように,工科短期大学校は専門学校とほぼ同様に位置づけられていることもあって,工業高校の教
員,保護者,学生本人いずれも高い評価を与えている。
「学生達の意見は,専門学校といっしょです。大学の横並びに考えている人はいません。専門学校の横並
びです。要するに工業系の専門学校が他にあればそこに行くかもしれませんけども。」(同上)
「進学系の高校の教員は最初からダメですけど,非進学系の高校の先生は,就職のことを考えて専門課程
(工科短期大学校)に行かせます。」(同上)
「(保護者の評価はー引用者)高いですよ。就職 100%ですよ。地元の大企業ですから,ダイハツ,トヨタ,
日産の 1 次サプライヤーなので,レベルは高いですよね,給料も含めてね。そこに入れるということで評
価は高いですよ。」(同上)
第 4 に,ものづくり系の人材育成機関として,地元の中小零細企業に数多くの技能者を送り込んでいるこ
とである。もともと県外入校者が多い竹訓セを除いて,他の高等技術専門校では地元就職が 100%に近い状
況にある。
第 5 に,経済的に困難なものが進学する教育機関として位置づいていることである。
「もうひとつの特徴として母子家庭・父子家庭の割合が高いんです。面接していても就職のことを言いま
す。今までお父さん,お母さんに育ててもらって,早く就職して楽にさせてあげたいんだと言います。だ
から,授業料の免除率が多いです。」(同上)
注
1)永 田萬享「日本の公共職業訓練─首都圏・東京都の事例─」『福岡教育大学』第 63 号,2014 年 2 月 p204
2)1998 年 3 月 31 日,厚生労働省は文部科学省との間で,「公共職業能力開発施設と専修学校等との調整等
について」という覚え書きを取り交わしている。それによれば,「公共職業能力開発施設における職業
訓練の実施に当たっては,官民の役割分担に配慮して民間の教育訓練施設との競合を避けることが重要
である」としている。永田萬享「公共職業訓練の展開と現段階の特徴」『福岡教育大学紀要 第 60 号』
2011 年 2 月,p243
3)大分工科短期大学校「平成 25 年度学生便覧」
4)同上
5)同上
6)大分県長期総合計画「安心・活力・発展プラン 2005 ともに築こう大分の未来 2012 改訂版」