廃校小学校を基地とするエコ・フューチャーセンターの創設 ― 地域活性化のモデルづくり ― ○清水健一(千葉大学大学院)、佐藤建吉(千葉大学大学院) 1 はじめに 現在、少子化と都市部への人口集中化により、また都市においても居住者の世代変化のため、日本各地で廃 校が起こっている。このように廃校は、いわゆる山間部だけでなく都市部でも行われている。今や、廃校ビジ ネスという言葉すら生まれ、廃校校舎の再利用が進められている。一般的には、地域コミュニティーの拠点や 防災物資の倉庫などとして、またアートプロジェクトの拠点として、あるいはそば工房や工場、あるいは宿泊 施設やバンガローなど、校舎や地域特性を生かした取り組みが行われている。 千葉県においても廃校が進んでおり、2~3 校を 1 校に統合され、結果として廃校が誕生している。筆者ら は、千葉県大多喜町の老川小学校が平成 24 年 3 月に廃校になり、大多喜町役場の再利用募集に応募し、1 年 あまりにわたり町と協議して、提案した「先進的な田舎」というコンセプトを盛り込んだ「エコ・フューチャ ーセンター」構想が認められ、本年 4 月から、そのプロジェクトを開始した。 日本技術史教育学会の会員は、これまで幾多の学制の変遷や、カリキュラム改編、あるいは社会・産業の改 革における技術教育の変化についても目を配り、あるべき姿を提案してきた。本講演では、廃校という学校の 終焉が進行する状況に対して、そこに暮らし、学習・卒業した人々の歴史を受け止め、新しい施設利用を、時 代とともに成し遂げようとする本プロジェクトについてまとめ、会員とともにその利用について協力を得たい。 2 大多喜町立老川小学校の歴史と施設 千葉県夷隅郡大多喜町は、房総半島の中央部にあり、鉄道では JR 外房線大原駅に隣接した、いすみ鉄道大 原駅から、あるいは JR 内房線五井駅に隣接した小湊鉄道五井駅からいずれも上総中野駅で下車し、車で 6~7 分のところにある。近年は圏央道が開通し、東京からアクアラインを経て、直接、車で訪ねることもできる。 東京から 2 時間程度の距離にある。かつては森林業が主産業で隆盛を極めていたというが、昨今ではその産業 は衰退し、季節折々の観光が主な産業にとなっている。最近では、マスコミにも登場しているが、今一つの地 域であるといえる。 老川小学校の歴史は古く、地元のつながりは深い。廃校になった校舎は、平成 10 年に新築されたコンクリ ートつくりであるが、木造風に仕立てられた瀟洒な建築物であり(図1) 、建築デザイン賞も受賞した趣は、 廃校という印象や、学校建築の範囲を超えた利用の可能性を持っている。筆者もこうした面からこの校舎の再 利用を希望した。 3 エコ・フューチャーセンターefco の概要 3.1 名称と法人 旧老川小学校校舎を利用して「エコ・フューチャーセンター」を創設することを計画し提案した。エコ・フ ューチャーセンターとは、 「企業、政府、自治体などの組織が中長期的な課題の解決、オープンイノ ベーショ ンによる創造を目指し、様々な関係者を幅広く集め、対話を通じて新たなアイデアや問題の解決手段を見つけ 出し、相互協力の下で実践するために設けた。 施設は一般に、研修スペースや学習スペース、ミーティング スペースなどで構成される。 フューチャーセンターそのものは施設を指し、中で行われるセッションはフュ ーチャーセッションと呼ばれる。 」と説明されている。 筆者らは、いわゆる「エコ」を重視し、 「エコ・フューチャーセンター」という新しい概念で、この旧老川小 学校を、eco-future-center@oikawa の意味で、efco と名づけて再利用することにした。その施設運営のため に、一般社団法人 efco.jp を同地に新規法人登録した。代表には筆者の一人、佐藤建吉が就任し、ほかに 14 名の理事が参画し設立と運営に当たることとした。大多喜町から校地と一部の建物を賃借し、efco の活動拠 点とした。 3.2 活動 efco は、エコ・フューチャーセンターとしてのコンセプトを第一にしており、 「エコ」を旗印に掲げている。 「エコ」とは、ギリシア語のオイコス()に語源があり、今道友信によれば、それは「家」という意味 や「生息地」 「生息圏」という意味ももつという。したがって、私たちが暮らす「わが家」 「わが故郷」こそが、 「オイコス(oikos) 」であり、 「エコ(eco) 」であるといえる。エコ・フューチャーセンターは、このような 愛着心を根底において、小さな「わが家」から、大きな地球という「生息圏」をも視野に入れた大意が隠し抱 かれた存在として注力したい。 同時に、efco は、今日の状況にも目を向けた存在である。 「エコ」という意味は、ecology や economy とも 重ねられている。そした一般にいわれている好印象の「エコ」も取り入れて、持続可能な地域、すなわち故郷 や故国、そして母なる地球の存続も意識し、活動に加えることとしている。 3.3 事業 廃校になった理由については、既述したが、少子化が原因であるが、背景には地域の経済的な疲弊であると いえる。したがって、efco がこの地で実施する事業は、地域活性化事業に他ならない。しかし、その手法が、 ほかの地域での取り組みとは、一線を画して、efco ならでは特徴とし、あるいは目玉として実施する。ここ に、 「先進的な田舎」という概念を重ねて ICT も導入し、以下のような活動を行う。 (1) efco は、地域の課題を地域の方々とともに、フューチャーセッションを通じて解決する。 (2) efco は、エネルギー環境に関わる課題解決をテーマにする。 (3) efco は、地域の自然、そして文化や歴史、さらにアートを取り入れた地域活性化活動を行う。 (4) efco は、未来を担う子供たちに知恵を、そしてこれまで活躍してきた大人たちの知恵を活かす。 以上のようなイシューを、フューチャーセッションとフューチャーセンターの関わりとして現実化する。こ うした efco を性格づける呼称として「研修型体験観光施設」というのがある。これは、地域に交流人口を増 やし、エコミュージアム活動などを通じて地域を活性化することを意図している。 4 具体的な活動と事業 4.1 プレオープニングイベント これは、2015 年 4 月 4 日に行った efco プレオープニングイベントである。これは、文字通り正式オープニ ングの前に efco の性格を示そうと行った地域住民への紹介イベントであった。その中では、上記の(1)での efco セッション(ファシリテーター:西畑明信)を行った。(2)に関連しては、風力発電などの展示を行い、 (3)に関しては、大多喜の歴史物語や篠笛演奏(図2) 、そして(4)に関しては、ペットボトルロケットや話題 のドローンの飛行などを行った。その後 ICT 関連の行事も行った(図3) 。 4.2 再生可能エネルギー利用開発の事業化 efco の研究活動拠点である体育館に実験設備を設置し、教材風車の開発(本講演会で一部紹介)やハイブ リッド風車の開発、追尾式太陽光発電システムの開発などが行われている(図4) 。 4.3 ICT 研修 昨年 11 月には、ICT 研修としての試行を efco で行った。非日常観により従来の東京都内での研修とは異な る成果が得られたと好評であった。 4.4 今後の展開 efco の拠点である「旧老川小学校」の校舎と、大多喜という地域特性は、他所では得られない特長がある。 それは東京や千葉など都市が持つ魅力や吸引力とは異なるものである。それは田舎力や地域力であり、これこ そが日本再生となりえるものである。その活動には、 「エコ・フューチャーセンター」の特質を活かした株式 会社のような初期資本や雇用形態をとらない新規・未来型の人材集約一般社団法人を主体として、先進的な地 域事業案件を、次々に着手、遂行する予定である。例示すれは、水泳プールの水の浄化、水耕栽培、養殖、エ コカフェ、科学教室・ものづくり研修(図5) 、保健体操、バイオマス、竹アート、絵画収蔵、ICT 研修、企 業コンサルタント、国際観光エコミュージアム、アーティストインレジデンス、MICE などである。 5 おわりに efco は、魅力ある施設と多彩の人財と要し、他地域・他者と連携して、時代を見つめ未来を構築する地域 活性化活動を進めようとしている。技術と教育、そしてその歴史と未来をイシューとする本学会と efco は、 無関係ではなくむしろ相補的交流(適応的交流)をもって未来社会創成が進められ、学会行事や連携行事から 端緒として、協働できればと考えている。地域活性化の一つのモデルとして提唱する。 図1 旧老川小学校校舎 (H10 年新築~H24 年廃校、木造基調の校舎) 図3 人気だった小中校生の QR コード の描画制作(ICT 関連教育) 図2 篠笛の演奏 図4 体育館を利用した研究開発拠点 図5 今後検討されている鉄道模型設置
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