名古屋大学地球水循環研究センター 共同研究報告書

別紙様式2
名古屋大学地球水循環研究センター
共同研究報告書
平成 27 年 3 月 25 日
名古屋大学地球水循環研究センター長 殿
申請者(研究代表者)
所属機関 (独)海洋研究開発機構_____
職
主任研究員__________
氏名
永井 信___________
e-mail
[email protected]
下記の共同研究について、別紙の通り報告します。
1 研究課題 衛星•地上統合観測によるアジアモンスーン生態系の植生の時空間分布変動検出
2 研究組織
氏名
代表者
永井 信
分担者
小林 秀樹
鈴木 力英
所属
職
分担研究課題
(独)海洋研究開発機 主任研究 アジアモンスーン域における植生気
構•地球表層物質循 員
候相互作用の解明
環研究分野
(独)海洋研究開発機 主任研究
構•地球表層物質循 員
環研究分野
(独)海洋研究開発機 分野長
構•地球表層物質循
環研究分野
センター対応教員
熊谷 朝臣
3 研究内容 (別紙)
研究課題名:衛星 • 地上統合観測によるアジアモンスーン生態系の植生の時空間分
布変動検出
共同研究者名:永井
信、小林秀樹、鈴木力英(海洋研究開発機構 • 地球表層物質
循環研究分野)、熊谷朝臣(名古屋大学 • 地球水循環研究センター)
研究目的:アジアモンスーン地域では、全球規模での気象 • 気候変動や人間活動に
よって、植生の被覆や生育期間の時空間分布に変動が生じている。これらの変動は、
光合成や蒸発散など植生機能の変化をとおして、炭素 • 熱 • 水循環に大きな影響を
およぼす。このため、植生の被覆や生育期間の時空間分布の変動を高精度に検出す
ることは、アジアモンスーン地域における植生 − 気候の相互作用系を理解するため
に重要な研究課題のひとつとなる。これを遂行するためには、衛星リモートセンシ
ング(リモセン)により毎日観測された植生指数の解析が有益である。しかしなが
ら、衛星リモセンがとらえる生理生態現象の理解や、観測手法の普遍性 • 特異性 •
不確実性に関する検証は不十分である。そこで本研究は、 (1) 熱帯多雨林(ランビ
ルヒルズ) • 落葉広葉樹林(高山) • 落葉針葉樹林(八ヶ岳)の生態系観測サイト
において、植生の季節変化(フェノロジー)の観測を毎日連続的におこない、リモ
セン観測データと生態現象との対応関係を毎日の時間スケールで明らかにすること。
そして、 (2) 地上観測で得た知見や検証結果に基づいて、東南アジアと日本を対象
に、衛星リモセンにより毎日観測された植生指数データを用いて、植生の被覆と生
育期間の空間分布の年々変動を広域的に図化することを目的とする。
研究内容:熱帯多雨林(マレーシア国、ランビルヒルズ国立公園) • 落葉広葉樹林
(日本、高山) • 落葉針葉樹林(日本、八ヶ岳)において、自動撮像型カメラシス
テム(デジタルカメラ:ニコン Coolpix-4500 または Coolpix-4300 、魚眼レンズ:ニ
コン FC-E8 、制御システム:早坂理工 SPC31A )により森林上部におけるフェノロ
ジー画像を毎日得た。熱帯多雨林と落葉広葉樹林において、光量子センサー(日本
環境計測 MIJ-15LAI Type2 および MIJ-14PAR Type 2 )または分光放射計(英弘精機
MS-700 )により森林上部における分光反射スペクトル(近赤外 • 可視赤 • 可視緑
• 可視青)を60分または10分ごとにそれぞれ計測し、代表的な植生指数である
NDVI ( normalized difference vegetation index ) • EVI ( enhanced vegetation index ) •
GRVI ( green-red vegetation index )を毎日得た。東南アジア(マレーシア国 • インド
ネシア国 • ブルネイ • ダルサラーム国)と日本を対象に、TerraとAqua衛星に搭載さ
れたMODISセンサーにより観測された、幾何 • 大気補正が施された 500 m の空間分
解能を持つ分光反射率データ( MOD/MYD09GA プロダクト)を 2001 年 1 月 1 日から
2013 年12月31日まで収集し、 NDVI • EVI • GRVI を毎日得た( MYD09GA プロダ
クトは、 2003 年 1 月 1 日から 2013 年12月31日まで収集した )。
開花 • 開葉 • 落葉などの植生フェノロジーの期日を定量的に検出するために、森
林上部全体や各樹種を対象に、フェノロジー画像から赤 • 緑 • 青のデジタルナンバ
ー( DN RGB )を毎日抽出し、 DN RGB のそれぞれの割合( %RGB )や DN RGB から計算
される植生指数 GEI (green excess index)を毎日得た。森林上部全体や各樹種を対象
とした %RGB と GEI の季節変化パターンの特徴と植生フェノロジーや地上と衛星観
測で得た植生指数との対応関係を調査した。
東南アジアを対象に、 GRVI が長期間にわたり 0 未満の値をしめす場合は森林破
壊や森林劣化が生じたと仮定し、雲被覆やエアロゾルなどによる影響がないベスト
クオリティをもつ衛星観測で得た GRVI ( GRVI best )データの年間取得日に対する
GRVIbest < 0 の取得日の割合の空間分布の年々変動を調査した。また、日本を対象
に、春に GRVI が初めて 0 を上回った日を生育期間の開始日、秋に GRVI が初めて
0 を下回った日を生育期間の終了日と定義し、生育期間の空間分布の年々変動を調
査した。
研究成果:リモセン観測により紅葉や落葉など秋の植生フェノロジーを解析 • 評価
する場合の不確実性として以下の項目が含まれることが明らかになった。すなわち、
(1) 対象となる群落全体における各樹種の空間分布の不均一性、 (2) 樹種ごとに異
なる紅葉と落葉のパターンと期日、そして (3) 樹種ごとに異なる落葉の期日の年々
変動の幅である。また、 GEI の閾値により検出される落葉の期日は、紅葉と落葉の
パターンの特異性を原因として、落葉の終了の期日ではなく、紅葉の最盛期の期日
をとらえている樹種がみられた。これらの事実は、リモセン観測による秋のフェノ
ロジー観測の不確実性を低減するためには、対象となる森林の構成樹種や各個体の
空間分布など基礎的な情報を統合した解析 • 評価をおこなうことの重要性を示唆し
た。
東南アジアでは、 GRVIbest が 0 未満の割合が高い地域は、ミリ周辺(マレーシア
国、サラワク州北部) • ビンツル周辺(マレーシア国、サラワク州中部) • 西およ
び中央カリマンタンの泥炭地(インドネシア国)において主に検出された(図 1 )。
これらは、年が経緯するとともに海岸沿いから内陸部へと標高が徐々に高い地域で
分布する傾向がみられた。これらの地域では、世界的なオイルパームの需要の拡大
にともない、森林伐採後のオイルパームプランテーション開発が急激に進んだと考
えられる。最近では、オイルパームの輸出量は、インドネシア国がマレーシア国を
上回った( FAO )。 この事実は、今後、未開発な地域が広く分布する、インドネシ
ア国における森林伐採の拡大を示唆する。
日本では、緯度や標高の環境傾度に沿った生育期間の空間分布の特徴を検出でき
た(図 2 )。 生育期間の終了の期日は、生育期間の開始の期日と比べて、時間あた
りの緯度と標高の環境傾度が急であった。これは、落葉前線は、開葉前線と比べて、
短期間で前進することを意味する。各地域 • 各都道府県の標高ごとを対象とした生
育期間の開始と終了の期日の空間分布の年々変動は、異なる特徴を示した。この原
因としては、緯度や標高の環境傾度が卓越した日本では、開葉や落葉のフェノロ
ジーに影響を与える気象変化の期間が地域ごとに異なるためと考えられる。同一地
域であっても、低標高域と高標高域では、生育期間の開始や終了の期日の平年値に
対する偏差の傾向が一致しない可能性が考えられる。植生フェノロジーの年々変動
に関する地域性を高精度に評価するためには、低標高域に偏在する各気象台で観測
された生物気象データ(たとえば、イチョウの発芽 • 紅葉 • 落葉の期日)のみなら
ず、衛星観測データを用いた面的な解析 • 評価が重要であると言える。
図 1 ボルネオにおける雲被覆やエアロゾルなどによる影響がないベストクオリティ
をもつ衛星観測で得た GRVI ( GRVI best )データの年間取得日に対する GRVI best <
0 の取得日の割合の空間分布の年々変動。 80% 以上のみを着色した。
図 2 衛星観測で得た GRVI の解析により検出された生育期間の終了の期日の空間分
布の年々変動。落葉林のみを着色した。
成果発表:本研究の主な成果は、下記 (1) 論文として出版され、下記 (2) と (3) 論
文として投稿中である。
(1) Nagai, S., Ishii, R., Suhaili, A.B., Kobayashi, H., Matsuoka, M., Ichie, T., Motohka, T.,
Kendawang, J.J., Suzuki, R. (2014) Usability of noise-free daily satellite-observed green-red
vegetation index values for monitoring ecosystem changes in Borneo. International Journal of
Remote Sensing: 35(23) 7910−7926.
(2) Nagai, S., Inoue, T., Ohtsuka, T., Yoshitake, S., Nasahara, K.N., Saitoh, T.M., Uncertainties
involved in leaf fall phenology detected by digital camera. Ecological Informatics, submitted.
(3) Nagai, S., Ichie, T., Yoneyama, A., Kobayashi, H., Inoue, T., Ishiia, R., Suzuki, R., Itioka, T.,
Usability of time-lapse digital camera images to detect characteristics of tree phenology in a
tropical rainforest. Ecological Informatics, submitted.
植生のフェノロジー及び天空画像は、 Phenological Eyes Network (PEN;
http://www.pheno-eye.org)において公開されている(一部はパスワード付きの制限公
開)。
今後の問題点:東南アジアでは、オイルパームは典型的な植生景観のひとつとなっ
た。このため、オイルパームを対象とした、たとえば自動定点カメラによる、長期
連続的な地上観測が必要である。気象 • 気候変動に対する植生の感度は生態系 • 樹
種ごとに異なると考えられる。このため、気象 • 気候変動に対する植生の感度に関
する特異性や普遍性を多地点での地上観測データの解析 • 評価により解明すること
が重要である。