3 摩擦攪拌処理によるタングステン皮膜強化技術の開発

平成27年度第1回ダイバータ物理・工学合同研究会:
筑波大学プラズマ研究センターシンポジウム
プラズマ物理クラスター・スクレープオフ層とダイバータ物理サブクラスター
炉工学クラスター・ダイバータサブクラスター
炉工学クラスター・炉材料サブクラスター
炉工学クラスター・ブランケットサブクラスター
7月31日(金) つくばサイエンス・インフォメーションセンター
ダイバータ工学とPWI物理研究
摩擦攪拌処理による
タングステン皮膜強化技術の開発
原子力機構 ○谷川博康
小沢和巳
阪大接合研 森貞好昭
藤井英俊
原子力機構(現:KAERI) 盧 相熏
プラズマ対向材料の被覆技術開発
 ブランケットやダイバーターでは、プラズマ対向部はWをアーマー材とし
て被覆することが想定されている。
 第一壁用 W/RAFM鋼の研究報告例
プラズマ焼結
H. Hirose (2006) Bulk W+F82H(SPS) ホットプレス
S. Noh (2010) Bulk W+ODSS by HP Good: Wの機械的特性が高い
No: 中間層の形成、クラック発生
No: 広面積への適用が困難
プラズマ溶射
S. Tokunaga (2010) VPS‐W+F82H Good: 広面積へ適用可能
No: 空孔率が高い
→ 熱伝導率が低く、弱い
→ W層内で剥離し易い
Ref.: T. Nagasaka et al.
Fus. Sci. Tech. (2009)
⇒ プラズマ溶射されたWに対して摩擦攪拌処理のプロセスを追加適用す
ることにより、緻密で高強度タングステン被覆を開発することを目指す。
摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding; FSW)
ツールの回転
ツールの投入
摩擦熱の発生 ツールの移送・接合
産報出版HPより転載
• FSWは1990年代の初めに,英国の
溶接研究機関であるTWIで開発さ
れた技術。
• FSWでは接合過程で「かき混ぜて
(Stir)」、固体状態での塑性流動現
象を利用し一体化する。
F82H薄板摩擦攪拌接合の様子
摩擦攪拌接合の応用例
700系のぞみ,リニアモーターカー,
自動車,航空機,船舶,歩道橋
Al合金では工業化
Eclipse Aviationの
小型ジェット構体
配管系への摩擦攪拌接合適用
*Z. Feng et al. ORNL report(2005)
Field deployable FSW system <管‐管の摩擦攪拌接合の様子>
<摩擦攪拌接合された大型低炭素鋼管>
摩擦攪拌処理(Friction Stir Processing:FSP)
ツール回転方向
荷重
Ar シールドガス
FSPツール
VPS‐W
ツール移動方向
基盤材
FSWツールの「ピンなし」ツールを
利用して攪拌することで、表面近
傍に塑性流動を導入する。
注:W薄板では成功していない
摩擦攪拌接合の様子
真空プラズマ溶射及び摩擦攪拌処理
真空プラズマ溶射:トーカロで実施
(Vacuum Plasma Spraying, VPS)
摩擦攪拌処理:阪大接合科学研で実施
(Friction Stir Processing, FSP)
Sand blast処理 ⇒プラズマ溶射:被覆厚み 0.5~2mm
12mm WC-Co プラントツール (Arシールドガス)
摩擦攪拌処理条件(t0.5mm W)
ツール移送速度:50mm/min (全条件で一定).
表面状態が良好な400rpm, 1t および600rpm, 2tを選択して評価
10mm
FSPによる組織の緻密化 (t0.5mm VPS‐W)
As VPS
FSP:400rpm / 1ton
真空プラズマ溶射W
摩擦攪拌処理W
 溶射プロセスによって溶射方向に並んでいる
→ 積層粒及び未溶融粒が混在
 積層粒間の溶射欠陥(空隙等)が顕著に存在
溶射欠陥(積層粒間の空隙)が著しく減少
結晶粒の等軸化傾向が見られる。
バルクW組織に比べて細粒
攪拌組織の広がり
(t1mm VPS‐W)
FSP: 400rpm, 50mm/min, 1ton
VPS-W
VPS-W
VPS-FSP-W
VPS-W
VPS-W
Base metal
Base metal
1mm
FSP: 600rpm, 50mm/min, 2ton
VPS-W
VPS-W
VPS-FSP-W
VPS-W
Base metal
VPS-W
Base metal
1mm
 600rpm 2ton の条件が、広く、深く攪拌組織が広がる。
 FSP処理によるWの損耗はピン位置で 400rpm/1t:11%、600rpm/2t:14%程度
(t1mm VPS‐W)
攪拌による強化の評価
:攪拌領域中央での深さ方向硬さ分布
Base metal(F82H)
W
Interface
800
硬さ Hv (0.2kgv)
700
600
500
Bulk‐W
400
600rpm, 2ton
300
200
400rpm, 1ton
As VPS
100
0
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
表面からの距離 (μm)
 いずれのFSP条件でも、As‐VPSより固くなる。また、ばらつきが小さくなる。
 600rpm/2ton は、400rpm/1tonより強く、より深くまで強化される。
 600rpm/2tonでは、全深さ範囲でBulk‐Wより強くなる。
→ 600rpm / 2tonのFSP条件がより望ましいとかんがえられる。
2重攪拌処理効果の評価
(t0.5mm VPS‐W)
より稠密な組織を得ることを期待して、2重攪拌処理を試行
FSP: 600rpm, 50mm/min, 2ton
2nd Pass
1st Pass
t0.5mm VPS‐W FSP(600rpm/2ton)x1 FSP領域
1mm
t0.5mm VPS‐W FSP(600rpm/2ton)x2 FSP領域
1mm
→ 2重攪拌によって、より平坦な界面が得られる。W損耗は最薄部で17%程度
2重攪拌処理の硬さおよび組織への影響
(t0.5mm VPS‐W)
W
Base metal
攪拌中央部
FSP x1
FSP x1
硬さ Hv (0.2kgv)
FSP x2
¼部
FSP x2
SEM 攪拌中央部
As VPS
¼部
FSP x1
FSP x1
100m
FSP x2
100m
 2重攪拌処理により、空隙がより潰され
て組織が緻密になる傾向が示された。
 硬さは攪拌中央部で、回復傾向、およ
び均質化する傾向が示された。
FSP x2
As VPS
表面からの距離 (μm)
(さらなる入熱による焼きなまし効果?)
→ 600rpm/2ton X2が良い条件として期待できる。
元素分布に対する攪拌効果
EPMAによる評価 (t1mm VPS‐W)
VPS‐FSPx2‐W
V=15kV, I=2x10‐7A, Tdwell=100ms, Step; 1m
As‐VPS‐W
 FeおよびWが互いの層に対して有害な中間層を形成している様子は
観察されない。
VPS‐FSP (600rpm/2ton) x2‐Wの特性
(t2mm VPS‐W : FSP後に基盤から剥離させた試料を使用)
高温硬さ
200
(5点平均)
レーザー・フラッシュ法による評価
180
500
VPS‐FSPx2‐W
400
* ITER-Grade W
Provided by Allied material
Bulk‐W*
300
As‐VPS‐W
200
100
F82H
熱伝導率, λ (W/m∙K)
ビッカース硬さ Hv(1kgf)
600
熱伝導率
高温真空硬さ試験機による評価
160
*Ref.: T. Nagasaka et al.
Fus. Sci. Tech. (2009)
Bulk‐W*
140
120
100
VPS‐FSPx2‐W
80
60
40
As‐VPS‐W
20
0
0
0
200
400
600
800
試験温度 T(Ԩ)
1000
1200
0
200
400
600
800
1000
試験温度 T (Ԩ)
 FSP処理を施したVPS‐Wは1000度までの全温度領域にわたって、バ
ルクWよりも硬い傾向にあることが示された。
 FPS処理を施したVPS‐Wの熱伝導率は、低温ではバルクWの8割程度、
800度ではほぼ同等の値を示した。
1200
適用想定
• ブランケット対向材
冷却チャンネル付
き第一壁:
(HIP接合)
Wアーマー
厚さ 0.5mm
25mm
外径11mm、
内径8mm
• ブランケットやダイバータ
の補修
主たる課題
VPS‐FSPx2‐W
密度:17.274 g/cc
BEI
EBSPによる評価
EPMAによる評価
15kV, WD=20mm, 0.2m step : VPS, FPS‐W, 1m step : Bulk‐W
V=15kV, I=2x10‐7A, Tdwell=100ms, Step; 1m
IPF
30m
As‐VPS‐W
10m
O
100m
100m
O
100m
密度:17.340 g/cc
IPF
BEI
30m
Bulk‐W
100m
10m
密度:19.300 g/cc IPF
BEI
30m
 VSP時に溶射粒子表面に
付着したと考えられる酸化膜
に沿ったW皮膜の剥離
30m
 未融解粒を完全に細粒化できていない
 FSP後の密度が、VPS‐Wと同等 (空隙
は細分化された?)
ツールの脆弱性
+ 繰り返し熱負荷試験による、W皮膜
および界面強度の評価
イオン照射実験
供試材
8.0
損傷量[dpa]
• バルク W材︓参照材
(アライドマテリアル社製)
• VPS W材
• VPS-FSP W材
照射条件(TIARA施設)
•
•
•
•
SRIM-2013, Ed= 90eV
3.0
2.4
6.0
1.8
4.0
1.2
2.0
0.6
照射イオン︓18 MeV W6+
0.0
0.0
照射温度︓ 500, 800oC
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
照射量 ︓ 0.2, 1.0, 5.0-5.4 dpa
試料表⾯からの深さ[µm]
損傷速度︓ ~1.0*10-4 dpa/s
↑損傷プロファイル(5 dpa)
超微⼩押しこみ試験
(観察設定深さ︓0.5 µm)
• 押しこみ深さ︓300 nm ⼀定
微細組織観察
• 加⼯︓ FB-2100 (HITACHI) @ 40 keV Ga+
• 仕上げ︓GentleMill IV-5 HI 2 -> 0.3 keV Ar+(12°傾斜)
• 観察︓ JEM-2100F (JEOL) @ 200 kV
W 堆積率[%]
10.0
FSP処理による粒径分布変化
EBSP Auto Grain
VPS-FSPx2-W
(t2mm VPS-W : FSP後に基盤から剥離させた試料を使⽤)
As-VPS-W
Bulk-W
粒径分布
0.35
Fraction
0.3
Bulk-W
0.25
As-VPS-W
0.2
0.15
0.1
0.05
VPS-FSPx2-W
0
0
5
10
Grain diameter (mm)
15
20
 FSP処理を施したVPS-Wと、As-VSP-Wの粒形分布では、細粒側の分布
と割合は⼤きくは違わない。 すなわちAs-VPSで形成された微細な積層
粒が、FSP処理により更に微細粒化する傾向は⽰していない。
 ナノインデンテーション硬さ試験は、微細粒領域に対して選択的に実施
硬さ値自体のバラつき
~ビッカースvsナノインデンター~
VPS-W
11
FSP: 600rpm, 50mm/min, 2ton
1000.0
VPS-FSPx2-W
FSP Center
ビッカース硬さ Hv
(0.2kgw)
800.0
600.0
VPS-FSP
9
VPS
7
照射温度:500°C
5
0.01
⾮照射
13
400.0
ナノインデンテーション硬さ[GPa]
t0.5mm
ナノインデンテーション硬さ[GPa]
13
As-VPS-W
0.0
0
200
表⾯からの距離
400
600
(μm)
9
VPS-FSP
VPS
7
5
0.01
As-VPS Wは積層粒間の⽋陥(空隙
等)が多いため、硬さがHv200〜
400の範囲でばらつく
10
照射温度:800°C
11
200.0
0.1
1
照射量[dpa]
0.1
1
10
⾮照射
照射量[dpa]
ナノインデンテーション硬さでは、
As-VPS W とVPS-FSP Wでは⼤き
な差は認めれなかった。
超微小押しこみ試験結果
照射温度:500°C
12
ナノインデンテーション硬さ[GPa]
ナノインデンテーション硬さ[GPa]
12
11
10
照射温度:800°C
11
VPS-FSP
10
VPS
9
8
Bulk
7
6
0.01
⾮照射
0.1
1
照射量[dpa]
10
VPS-FSP
9
8
VPS
7
6
0.01
⾮照射
0.1
1
照射量[dpa]
• バルクW:500°Cでは照射硬化の線量依存性が認められる。
• VPS W非照射材において格子ひずみ導入による硬化認められるが、
FSP追加による顕著な硬化は認められない。
• 500°C:~5dpaまでは硬さに変化は認められない。
• 800°C:およそ1 dpa付近から軟化(回復)傾向が認められる。
10
熱負荷試験
JEBIS 10MW/m2 350msのシングルショット電子ビーム照射
As VPS
FSP‐VPS‐W 400rpm/50mm/min /1ton x1
 VPS‐Wでは表面が融解したが、FSP‐VPS‐Wでは若干の変化は観察
されたが、顕著な融解を示す表面組織は観察されなかった。
今年度繰り返し熱負荷試験を実施予定
Dプラズマ注入実験
Flux: 8.5×1021 D/m2 s
Fluence: 1.0×1026 D/m2
Temp.: 250(±5)Ԩ
Bulk‐W
Flux: 4.6×1021 D/m2 s
Fluence: 1.0×1026 D/m2
Temp.: 250 ‐> 300Ԩ (照射時間
6時間の間に昇温)
FSP‐VPS‐W
600rpm/ 50mm/min /2ton x2 Alimov
 FSP‐VPS‐Wではブリスタリングは起こりにくい傾向? (温度効果?)
まとめ
プラズマ対向材料として期待される真空プラズマ溶射
(VPS) W皮膜の高空孔率を解消すべく摩擦攪拌処理
(FSP)による強化を試みた。
 FSP処理によりVPS‐Wの高空孔率を解消し、バルクWを超える硬さを
広範囲で得ることができることを確認した。
 2重にFSP処理を施すことで、より稠密なW組織を得られることが明ら
かになった。
 最適FSP条件(600rpm / 50mm/min / 2ton x2)で強化したVPS-Wで
は、VPS‐WやバルクWに比べて等方的な粒となり、高温でもバルクWを
上回る硬さを示し、かつ熱伝導率がバルクWとほぼ同等であることが
示された。
 ただし、FSP処理により溶射粒表面に形成された酸化膜が分散解消さ
れるわけではないことが示された。
 イオン照射実験、熱負荷試験、D注入実験が試行された。