会社法レジュメ 第8回 根本 会 社 の 機 関 (2) : 取 締 役 、 取 締 役 会 、 代 表 取 締 役 [設 例 8 - 1 ] 以下の場合、取締役会決議は法的に瑕疵があるか?瑕疵がある場合、どのような 法律効果を生じるか? (1)取 締 役 会 に お い て 招 集 通 知 に 記 載 の な い 議 題 に つ い て 審 議 し 、 決 議 を し た 。 (2)あ る 取 締 役 が 欠 席 し 、 代 わ り に そ の 部 下 の 従 業 員 が 出 席 し て 決 議 が 行 わ れ た 。 (3)代 表 取 締 役 解 職 の 件 が 審 議 さ れ た が 、そ の 際 、当 該 代 表 取 締 役 も 決 議 に 参 加 し た 。 [設 例 8 - 2 ] 以下の場合、A株式会社と第三者との間の契約は有効か? (1)A 社 で は 10 億 円 以 上 の 取 引 に は 取 締 役 会 の 承 認 が 必 要 で あ る 旨 の 定 款 の 定 め が あった。A社の代表取締役Bは、取締役会の承認を得ずに、C株式会社との間で、 小 麦 粉 を 20 億 円 で 購 入 す る 契 約 を 締 結 し た 。 (2)A 社 の 代 表 取 締 役 B は 、会 社 の 運 転 資 金 と い う 名 目 で D 銀 行 か ら 融 資 を 受 け た が 、 実際には、その融資金を自分の借金返済に充てた。 ( 3 )資 本 金 1 億 円 の A 社 の 代 表 取 締 役 B は 、 取 締 役 会 の 承 認 を 得 ず に 、 子 会 社 で あ る E 株 式 会 社 の F 銀 行 か ら の 借 入 金 10 億 円 の 保 証 を し た 。 [設 例 8 - 3 ] 株式会社Gの取締役Hは日ごろから「副社長」と名乗っていたが、I株式会社との 間 で 、 小 豆 10 ト ン を 購 入 す る 売 買 契 約 を 締 結 し た 。 I 社 は 、 G 社 に 対 し て 当 該 契 約 の 履行(代金支払い)を求めることができるか? Ⅰ.総説:会社の業務執行 ・会社は事業活動を行うために事業に関する様々な意思決定を行う 会 社 法 は こ の よ う な 意 思 決 定 を 「 業 務 の 決 定 」「 業 務 執 行 の 決 定 」 と 呼 び ( 348 Ⅱ ・ 362 Ⅱ ① ・ Ⅳ ・ 4 18 ① )、 そ の 執 行 を 「 業 務 執 行 」 1) と 呼 ん で い る ( 348 Ⅰ ・ 363 Ⅰ ・ 415 ・ 418 ② ) ・株式会社において、このような意思決定およびその執行を、どの機関が、どのように して行うかは、その株式会社の機関構成により異なる (1)取 締 役 会 非 設 置 会 社 の 場 合 ・ 取 締 役 は 、 会 社 の 業 務 を 執 行 す る ( 348 Ⅰ ) ・取締役が 2 人以上の場合、会社の業務は取締役の過半数で決定する(同Ⅱ) いずれも定款で別段の定めが可能 各 取 締 役 に 委 任 で き な い 事 項 と し て 、 34 8 Ⅲ ① ~ ⑤ が 掲 げ ら れ て い る ・ 取 締 役 は 、 会 社 を 代 表 す る ( 349 Ⅰ ) た だ し 、代 表 取 締 役 そ の 他 会 社 を 代 表 す る 者 を 定 め た 場 合 は そ の 者 が 代 表 す る( 同 但 書 ) ・取締役が 2 人以上の場合、取締役は、各自会社を代表する(同Ⅱ) ・会社は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選または株主総会決議によって、 取締役の中から代表取締役を定めることができる(同Ⅲ) (2)取 締 役 会 設 置 会 社 の 場 合 ・ 取 締 役 会 は 、 会 社 の 業 務 執 行 の 意 思 決 定 を 行 う ( 36 2 Ⅰ ) 個 々 の 取 締 役 は 、 取 締 役 会 の 構 成 員 に 過 ぎ な い ( た だ し 366 Ⅰ ・ 82 8 Ⅱ 等 ) ・ 取 締 役 会 は 、 取 締 役 の 中 か ら 代 表 取 締 役 を 選 定 し ( 362 Ⅱ Ⅲ )、 代 表 取 締 役 が 業 務 を 執 行 し ( 363 Ⅰ ① )、 対 外 的 に 会 社 を 代 表 す る ( 349 Ⅳ ・ Ⅴ ) ・重要な業務執行は、取締役会で決定した上で、代表取締役等が執行するが、日常の業務 1) 業 務 執 行 と は 会 社 の 事 務 を 処 理 す る こ と で 、「 職 務 」 執 行 と 比 べ る と 、 監 査 ・ 監 督 を 含 む 点 で 後 者 の 方 が よ り 広 い 概 念 で あ る ( そ の 意 味 で 、 362 Ⅱ ② の 文 言 は 修 正 す べ き で あ る ) と 解 さ れ て い る 。 - 63 - 執 行 ( 常 務 ) は 、 代 表 取 締 役 が 意 思 決 定 と 執 行 の 両 方 を 行 う ( 362 Ⅳ 参 照 ) ・内部的な業務執行は、代表取締役以外の他の取締役に委ねることもできる ( 363 Ⅰ ② 、 業 務 執 行 取 締 役 ) (3)指 名 委 員 会 等 設 置 会 社 の 場 合 ( 第 11回 で 詳 述 ) ① 取 締 役 会 は 取 締 役 と し て の 地 位 を 前 提 と し な い 執 行 役 を 選 任 し ( 40 2 Ⅱ )、 執 行 役 が 会 社 の 業 務 を 執 行 す る ( 418、 執 行 と 監 督 の 分 離 ) ② 取 締 役 会 は 一 定 の 事 項 を 除 き 、 業 務 執 行 の 決 定 を 執 行 役 に 委 任 で き る ( 416 Ⅳ 、 業務執行権限の集中) 取締役会の権限は、基本事項の決定および執行役等の職務執行の監督に特化する ( 415 ・ 4 16 Ⅰ Ⅱ Ⅲ ) ③執行役の業務執行を監督するために、指名・監査・報酬の 3 委員会を置く 各委員会の委員は取締役会の決議によって選定され、その過半数は社外取締役でなけれ ば な ら な い ( 400・ 2 ⑮ ) (4)会 社 ・ 取 締 役 間 の 訴 訟 に お け る 会 社 代 表 者 ・会社と取締役との間で訴訟が提起された場合、馴れ合い訴訟防止のため、会社代表者に ついての例外が定められている ・取締役会非設置会社では、株主総会は、会社・取締役間の訴えについて会社代表者を 定 め る こ と が で き る ( 35 3) ・ 取 締 役 会 設 置 会 社 で は 、 株 主 総 会 で 定 め た 場 合 を 除 き 、 取 締 役 会 が 決 定 す る ( 364) ・ 監 査 役 設 置 会 社 で は 、 監 査 役 が 会 社 を 代 表 す る ( 38 6 Ⅰ ) ・指名委員会等設置会社では、取締役会が定める者または監査委員会が選定する監査委員 が 会 社 を 代 表 す る ( 4 08 Ⅰ ・ Ⅱ ) Ⅱ.取締役 1.選任 ・ 役 員 ( 取 締 役 ・ 会 計 参 与 ・ 監 査 役 )・ 会 計 監 査 人 は 、 株 主 総 会 の 普 通 決 議 に よ っ て 選 任 さ れ る ( 329 Ⅰ ) ・選任決議の際、法務省令で定めるところにより、役員が欠けた場合または会社法・定款 所 定 の 役 員 の 員 数 を 欠 く 場 合 に 備 え て 補 欠 の 役 員 を 選 任 で き る ( 同 Ⅱ 、 規 則 96) ・ 会 社 と 役 員 ・ 会 計 監 査 人 と の 関 係 は 、 委 任 に 関 す る 規 定 に 従 う (330) 2.資格 ・ 以 下 の 欠 格 事 由 ( 331 Ⅰ ) に 該 当 す る 者 は 取 締 役 に な る こ と は で き な い 2) ①法人 取締役は、その職務の性質上 3) 、自然人でなければならない ②成年被後見人・被保佐人 ③会社法・一般法人法・金商法に定める罪で刑に処せられ、執行を終わった日または 執行を受けないことが確定した日から 2 年が経過しない者 ④③以外の罪で禁錮以上の刑に処せられ、執行を終わっていない者または執行を受け ないことが確定していない者(執行猶予中の者を除く) ・欠格事由に該当する者を選任した場合、その総会決議は法令違反により無効となる ・定款による資格制限(日本人限定など)は可能だが、公開会社の場合、株主であること 2)会 社 法 で は 、 取 締 役 の 欠 格 事 由 か ら 「 破 産 開 始 の 決 定 を 受 け 復 権 し な い 者 」( 改 正 前 商 法 254 ノ 2 ② ) が 除 か れ た 。 し か し 、 破 産 開 始 の 決 定 は 民 法 第 653 条 に よ り 委 任 の 終 了 原 因 と さ れ て い る ( 下 記 6 ( 2) ) こ と か ら 、 破 産 し た 取 締 役 は 当 然 に そ の 地 位 を 失 う 。 こ の 破 産 者 を 取 締 役 に 選 任 す る た め に は改めて株主総会の決議が必要である。 3)取 締 役 の 職 務 は 個 人 的 性 質 を 有 し 、 個 人 に 民 事 責 任 を 課 す 必 要 が あ る こ と か ら で あ る 。 - 64 - ( 資 格 株 ) は 要 求 で き な い ( 331 Ⅱ ) ←広く有能な人材を得るため、ただし結果的に株主が取締役になることは可能 ・ 使 用 人 は 取 締 役 を 兼 ね る こ と が で き 、わ が 国 で は し ば し ば 見 ら れ る( 従 業 員 兼 務 取 締 役 ) ・指名委員会等設置会社、監査委員等設置会社では、社外取締役の設置が必須 ( 400 Ⅲ ・ 2 ⑮ 、 第 11 回 参 照 ) ・事業年度の末日において、公開会社かつ大会社の監査役会設置会社の有価証券報告書 提出会社が社外取締役を置いていない場合、取締役は、当該事業年度に関する定時株主 総会において、社外取締役を置くことが相当でない理由を説明しなければならない ( 327 の 2 、 2 014 年 改 正 に よ り 新 設 ) ←社会取締役確保の観点から、社外取締役がいない上場会社等について、その不設置の 理由についての説明義務を課するもの 4) 定 時 株 主 総 会 で は 、 株 主 か ら の 請 求 が な く て も 説 明 義 務 が 生 じ る ( 31 4 対 比 ) 3.員数 ・ 取 締 役 会 非 設 置 会 社 で は 、 取 締 役 は 1 名 以 上 ( 326) ・ 取 締 役 会 設 置 会 社 で は 、 取 締 役 は 3 人 以 上 ( 331 Ⅳ ) 4.任期 ・取締役の任期は、原則として 2 年以内(選任後 2 年以内に終了する事業年度のうち 最 終 の も の に 関 す る 定 時 株 主 総 会 終 結 の 時 ま で 、 33 2 Ⅰ ) ただし、定款・株主総会決議により短縮可能 ・ 非 公 開 会 社 ( 指 名 委 員 会 等 設 置 会 社 を 除 く ) で は 、 定 款 で 10 年 ま で 伸 長 可 能 ( 同 Ⅱ ) ・指名委員会等設置会社では、任期は最長 1 年(同Ⅲ、なおⅣ) ・ 会 計 監 査 人 設 置 会 社 で 剰 余 金 配 当 等 の 権 限 を 取 締 役 会 に 与 え た 場 合 は 1 年 ( 45 9 Ⅰ ) 5.選任手続とその効果 (1)選 任 手 続 ・ 役 員 ・ 会 計 監 査 人 の 選 任 は 、 株 主 総 会 の 普 通 決 議 で 行 う ( 329 Ⅰ ) た だ し 、 設 立 時 取 締 役 は 発 起 人 ま た は 創 立 総 会 が 決 め る ( 38 Ⅰ ・ 88) ・選任決議は普通決議で行うが、取締役の地位の重要性から、特別な取扱いがなされる ・ 定 足 数 は 少 な く と も 議 決 権 総 数 の 3 分 の 1 以 上 必 要 ( 341) ・2 人以上の取締役を同じ総会で選出する場合、株主は、定款に別段の定めがあるとき を除き、総会の 5 日前に書面で請求することにより、累積投票 5) の方法で取締役を 選 出 さ せ る こ と が で き る ( 342・ 規 則 97 ) ・ 書 面 投 票 ・ 電 子 投 票 を 採 用 す る 会 社 に お け る 参 考 書 類 に つ き 、 301・ 302 ・ 規 則 74 (2)選 任 の 効 果 ・総会で選任された者が承諾すれば取締役の地位に就任する その際、会社と被選任者との間で任用契約が締結される ・形式的には、会社を代表する権限のある者(代表取締役など)が就任申込みをし、 被選任者(取締役候補者)がこれを承諾するという形で任用契約が締結されるが、 実際には、総会の選任決議に先立って、会社と被選任者との間で、総会の決議を停止 条件とする任用契約が締結されている ・ 取 締 役 の 選 任 は 登 記 事 項 ( 91 1 Ⅲ ⑬ ) 4)2014 年 改 正 に よ り 、 事 業 報 告 等 に お い て も 、 社 外 取 締 役 不 設 置 の 理 由 が 開 示 さ れ る 予 定 と さ れ る 。 5)取 締 役 全 員 の 選 任 を 一 括 す る と と も に 、 各 株 主 に 1 株 に つ き 選 任 さ れ る 取 締 役 の 数 と 同 数 の 議 決 権 を認める方法。これを用いると、各株主はその議決権を全部1人の候補者に集中するか、数人に分散 するか選択でき、これにより少数派株主にもその持株数に応じて取締役を選出する可能性を与えられ る。実際には、ほとんどの会社で定款で排除されている。 - 65 - 6.終任 (1)総 説 ・ 会 社 と 役 員 等 と の 関 係 は 委 任 に 関 す る 規 定 に 従 う ( 333 ) の で 、 取 締 役 は い つ で も 辞 任 で き る ( 民 651 Ⅰ ) ただし、会社に不利益な時期に辞任したときは、病気などのやむを得ない事由がない 限 り 、 会 社 に 対 し て 損 害 賠 償 責 任 を 負 う ( 民 651 Ⅱ ) (2)委 任 の 法 定 の 終 了 事 由 ・ 取 締 役 の 死 亡 ・ 破 産 ・ 成 年 被 後 見 ( 民 653) 6) (3)そ の 他 の 終 任 事 由 ・ 任 期 満 了 、 解 任 ( 下 記 (4 ))、 資 格 の 喪 失 、 会 社 の 解 散 (4)取 締 役 の 解 任 ・ 株 主 総 会 は 普 通 決 議 に よ り 、い つ で も 取 締 役 を 解 任 で き る( 33 9 Ⅰ 、会 社 法 に よ り 変 更 ) ・ただし、任期の定めがある場合、正当の事由なくその任期満了前に解任したときは 会社は取締役に対して損害賠償責任を負う(同Ⅱ) ←株主に解任の自由を保障する一方、取締役の任期に対する期待を保護するもの ・損害賠償の範囲は、取締役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた 利益の額 ex.報酬額×残任期間 ・取締役解任の正当事由とは、取締役の職務遂行上の法令・定款違反、心身の故障 ( 最 判 昭 57 ・ 1 ・ 2 1 判 時 1 037 号 129 頁 [百 選 46])、 職 務 へ の 著 し い 不 適 任 ( 著 し い 能力欠如)等であり、経営判断の失敗については争いがある(肯定説が有力) ・ 定 足 数 ・ 決 議 要 件 は 選 任 の 場 合 と 同 じ( 34 1、決 議 要 件 を 定 款 で 加 重 で き る 点 に 注 意 ) ・ 累 積 投 票 で 選 任 さ れ た 取 締 役 の 解 任 は 、 特 別 決 議 事 項 ( 309 Ⅱ ⑦ ・ 34 3 Ⅳ ) (5)取 締 役 解 任 の 訴 え ア)意義 ・役員(取締役・会計参与・監査役)の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に 違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会 において否決されたとき、または当該役員を解任する旨の株主総会の決議が種類株主 総会決議がないことによりその効力を生じないときは、少数株主は、当該株主総会の日 か ら 30 日 以 内 に 、 訴 え を も っ て 当 該 役 員 の 解 任 を 請 求 で き る ( 854) ←速やかに解任すべき取締役について、多数決等により解任決議が成立しなかった場合 に少数派株主にその是正を認める制度 イ)要件 ① 株 主 が 議 決 権 総 数 の 10 0 分 の 3 以 上 の 議 決 権 を 6 ヶ 月 前 か ら 継 続 保 有 し て い る こ と ただし、 ・当該役員の解任議案について議決権を行使できない株主、当該請求に係る役員である 株主を除く ・非公開会社の場合、6 ヶ月の継続保有の要件は不要 ・持株割合・保有期間は定款で緩和可能 6)会 社 が 破 産 し た 場 合 は 必 ず し も こ れ に 含 ま れ な い 。 有 限 会 社 の 破 産 宣 告 当 時 に 取 締 役 の 地 位 に あ っ た者は、破産宣告によっては取締役の地位を当然には失わず、社員総会の招集等の会社組織に係る行 為 等 に つ い て は 、 取 締 役 と し て の 権 限 を 行 使 し 得 る ( 最 判 平 16・ 6・ 10 金 法 1720 号 36 頁 )。 - 66 - ②役員 7) の職務執行に不正行為または法令・定款に違反する重大な事実があったこと ③②の事実があったにもかかわらず、その役員の解任議案が株主総会で否決され、または 種 類 株 主 総 会 決 議 が な い こ と に よ り 解 任 が 効 力 を 生 じ な い こ と ( 32 3、 下 記 9 ) ・不正の行為:会社財産を私的に使用するなどの故意の加害行為 ・総会で否決:定足数不足による流会の場合も含む ・ 実 際 に は 、取 締 役 解 任 議 案 が 会 社 提 案 と し て 提 出 さ れ る こ と は ほ と ん ど あ り え な い の で 、 ③を充足するために、少数株主は総会招集請求または提案権行使をしなくてはならない ウ)被告 ・ 会 社 と 取 締 役 と を 共 同 被 告 と す る ( 855) ←会社・取締役間の委任契約の解消を求める訴えだから委任契約の当事者が被告となる エ)効果 ・解任判決の確定により取締役解任の効果が生じる(形成訴訟) 7.欠員が生じた場合の処置 ・終任により会社法・定款所定の取締役の員数を欠くことになった場合、後任の取締役を 22 参 照 ) が 、 後 任 者 が 就 職 す る ま で の 間 、 任 期 満 了 選 任 し な け れ ば な ら な い ( 97 6 ○ ま た は 辞 任 に よ り 退 任 し た 取 締 役 は 取 締 役 と し て の 権 利 義 務 を 有 す る ( 346 Ⅰ 、 取締役権利義務者) そ の 間 、 退 任 の 登 記 は で き な い ( 最 判 昭 43・ 12・ 24 民 集 22 巻 13 号 33 34 頁 ) ・ただし必要があれば、裁判所は利害関係人の請求により一時取締役の職務を行うべき者 (仮取締役)を選任できる(同Ⅱ・Ⅲ) ex.取締役の死亡、病気による辞任、解任の場合 8.職務執行停止と職務代行者選任 ・取締役を選任した株主総会決議について、決議取消の訴え等が提起されても、 それによってその取締役が職務執行停止になることはないが、その取締役に従来通りの 職務執行を認めるのが適切ではない場合もあり、また、訴えが認められた場合、 取締役はその地位を遡って否定されることになる そこで、訴えの提起後または訴えの提起前でも急迫な事情がある場合には、裁判所は 当事者の申立てに基づいて、取締役の職務執行を停止し、さらに取締役の職務代行者を 選 任 で き る ( 民 保 23・ 24) ・職務代行者の権限は、原則として、会社の日常的な業務執行(常務)に限られる ( 352 Ⅰ ・ Ⅱ ) ・ 本 店 お よ び 支 店 の 所 在 地 に お い て 登 記 さ れ る ( 917 ① 、 民 保 56) 9.選解任種類株式がある場合の特例 ・ 取 締 役 の 選 解 任 に つ い て 内 容 の 異 な る 株 式 が あ る 場 合 ( 108 Ⅰ ⑨ )、 定 款 の 定 め に 従 い 、 種類株主総会により取締役の選解任が行われる Ⅲ.取締役会 1.意義 ・取締役全員によって構成される、会社の経営に関する意思決定を行う機関 ・改正前商法とは異なり、原則として必須機関ではない た だ し 、 公 開 会 社 、 監 査 役 会 設 置 会 社 、 指 名 委 員 会 等 設 置 会 社 で は 必 須 ( 326 Ⅰ ) 7)最 判 平 20・ 2・ 26 金 判 1295 号 44 頁 は 、 会 社 法 346 条 1 項 に 基 づ き 退 任 後 も な お 会 社 の 役 員 と し て の権利義務を有する者(取締役権利義務者)の職務の執行に関し不正の行為または法令・定款に違反 す る 重 大 な 事 実 が あ っ た 場 合 に お い て 、 同 法 854 条 を 適 用 ま た は 類 推 適 用 し て 株 主 が 訴 え を も っ て 上 記の者の解任請求をすることは許されないとする。 - 67 - 2.権限 ・ 取 締 役 会 は 、 (1) 取 締 役 会 設 置 会 社 の 業 務 執 行 の 決 定 、 ( 2) 取 締 役 の 職 務 の 執 行 の 監 督 、 お よ び 、 (3)代 表 取 締 役 の 選 定 ・ 解 職 と い う 職 務 を 行 う ( 36 2 Ⅰ ) (1)業 務 執 行 の 決 定 ・会社法・定款で株主総会権限とされているものは決議できない ・取締役会は、具体的法定事項のほか、以下の事項その他の重要な業務執行の決定を 取 締 役 に 委 任 で き な い ( 362 Ⅳ 、 な お 34 8 Ⅲ 参 照 ) ①重要な財産の処分・譲受け 8) 会社の規模に比して、多額な財産取引 ②多額の借財 借入れのほか、債務保証等もこれに当たる ③支配人その他の重要な使用人の選任・解任 ④支店その他の重要な組織の設置、変更・廃止 ⑤ 社 債 の 募 集 ( 67 6 ① ) そ の 他 の 社 債 を 引 き 受 け る 者 の 募 集 に 関 す る 重 要 な 事 項 と し て法務省令で定める事項 ⑥取締役の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制その他 株式会社の業務並びに当該株式会社およびその子会社から成る企業集団の業務 9) の 適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備 (リスク管理体制(内部統制)システムの構築義務、後述・第 9 回) ⑦ 取 締 役 の 責 任 の 一 部 免 除 ( 4 26 Ⅰ ) ・大会社および指名委員会等設置会社では、取締役会は、上記⑥に掲げる事項を決定 し な け れ ば な ら な い ( 362 Ⅴ ・ 416 Ⅰ ① ホ ・ Ⅴ ) (2)業 務 執 行 の 監 督 ・取締役会設置会社では、取締役会が決定した事項は代表取締役等の業務執行取締役が 業 務 執 行 し 、 取 締 役 会 は そ れ を 監 督 す る ( 36 2 Ⅱ ② 、 上 記 Ⅰ (2)) ・監督機能に資するために、代表取締役等は 3 ヶ月に 1 回以上職務執行の状況を取締役会 に 報 告 し な け れ ば な ら な い ( 363 Ⅱ ) な お 、 監 査 役 に も 、 取 締 役 会 へ の 出 席 ・ 意 見 陳 述 ・ 報 告 義 務 が あ る ( 38 3 Ⅰ ・ 382) (3)代 表 取 締 役 の 選 定 ・ 解 職 ・ 取 締 役 会 設 置 会 社 で は 、 取 締 役 会 が 代 表 取 締 役 を 選 定 し 、 か つ 解 職 す る ( 262 Ⅱ ③ ) 3.招集 (1)招 集 権 者 ・ 取 締 役 会 は 、 各 取 締 役 が 招 集 す る ( 366 Ⅰ ) ただし、定款・取締役会で取締役会を招集する取締役を定めることができる(同但書) ・招集権者を定めた場合でも、それ以外の取締役は法定の要件に従って取締役会を招集 で き る ( 366 Ⅰ 但 書 ・ Ⅱ ・ Ⅲ ) ・監査役は、取締役が不正の行為をし、もしくは当該行為をするおそれがあると認める とき、または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認める場合 に お い て 、 必 要 が あ る と 認 め る と き は 、 取 締 役 会 を 招 集 で き る ( 38 3 Ⅱ ~ Ⅳ ) 8)最 判 平 6・ 1・ 20 民 集 48 巻 1 号 1 頁 [百 選 70]は 、「( 改 正 前 ) 商 法 260 条 2 項 1 号 に い う 重 要 な 財 産 の処分に該当するかどうかは、当該財産の価額、その会社の総資産に占める割合、当該財産の保有目 的、処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断すべきものと解 す る の が 相 当 で あ る 」と し て 、会 社 の 総 資 産 の 約 1.6 % に 相 当 す る 価 額 の 株 式 の 譲 渡 が 改 正 前 商 法 260 条 2 項 1 号にいう重要な財産の処分に当たらないとはいえないとした。 9)下 線 部 は 2014 年 改 正 に よ り 追 加 。 - 68 - ・監査役設置会社・指名委員会等設置会社以外の会社では、株主による招集請求も可能 ( 367) (2)招 集 手 続 ・招集権者が、取締役会の日の 1 週間前までに、個々の取締役・監査役に対してその通知 を 発 し て 開 催 す る ( 3 68 Ⅰ 、 期 間 は 定 款 で 短 縮 可 能 ) ・招集通知は書面による必要はなく、また、議題等を示す必要はない 10) ←取締役会は経営の専門家の集まりであり、臨機応変に様々な議題を審議する必要が あ る か ら ( な お 、 2 99 Ⅳ ・ 29 8 Ⅰ 参 照 ) ・取締役・監査役(監査役会設置会社では監査役会)全員の同意がある場合、招集手続 な し で 開 催 で き る ( 3 68 Ⅱ ) →あらかじめ定めた定例日に開催する場合、その都度の招集通知は不要 ・ 監 査 役 に よ る 招 集 に つ い て は 、 後 述 第 10 回 Ⅱ 4 (2) 参 照 ) 4.決議 ・取締役会は、決議に参加できる取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過半数で 決 議 を す る ( 369 Ⅰ ) 定款で要件を加重できるが、軽減はできない(同) ・定款で定めれば、取締役会の議題について取締役全員が書面等により同意の意思表示を し た と き は 、 そ の 提 案 を 可 決 す る 旨 の 取 締 役 会 決 議 が あ っ た と み な さ れ る ( 37 0、 取締役会の決議の省略) ただし、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く →書面決議・持ち回り決議が可能に ・取締役会に報告をすべき取締役・会計参与・監査役・会計監査人が、その報告事項を 取締役(監査役)全員に対して通知した場合、その事項は取締役会に報告する必要は な い ( 37 2) た だ し 、 代 表 取 締 役 等 に よ る 3 ヶ 月 に 1 回 の 定 期 報 告 ( 363 Ⅱ 、 上 記 2 (2)) は 必 要 ・株主総会と異なり、議決権の代理行使は認められない ←取締役は個人的信頼に基づき選任され、一人一議決権が認められている ・ 特 別 の 利 害 関 係 を 有 す る 取 締 役 は 取 締 役 会 決 議 に 参 加 で き な い ( 36 9 Ⅱ ) ←取締役会決議の公正さを確保するため 取締役は会社全体の利益のために行動すべき存在であるから個人的利害のある者を 排 除 す る ( 831 Ⅰ ③ 対 比 ) →どのような場合に、取締役は決議に個人的利害関係を有するか? e x .・ 競 業 取 引 ・ 利 益 相 反 取 引 の 承 認 決 議 に お け る 競 業 等 を 予 定 し て い る 取 締 役 → ○ ・代表取締役の選定に際しての被候補者取締役、取締役報酬の配分に際しての 各取締役→× →代表取締役解職決議に際して解職対象代表取締役には特別利害関係はあるか? ・ 肯 定 説 : 判 例 ( 最 判 昭 44・ 3 ・ 28 民 集 23 巻 3 号 645 頁 [百 選 73])・ 多 数 説 当該代表取締役が私心を去って会社に対して忠実に議決権を行使 することは困難だから ・否定説:選定決議における扱いと矛盾している 利害対立は会社・取締役間ではなく取締役相互間に存在する ・特別利害関係のある取締役は、取締役会決議(定足数・決議要件)との関係では、 取締役の数の算定から除外される ・特別利害関係のある取締役が参加して取締役会決議がなされた場合、その決議は 瑕疵を帯びる(下記6、取締役会決議の瑕疵) 10) 取 締 役 会 の 場 合 、 招 集 通 知 に 記 載 の な い 事 項 に つ い て 審 議 ・ 決 議 す る こ と も ま た 認 め ら れ る ( 名 古 屋 高 判 平 12・ 1・ 19 金 判 1087 号 18 頁 )。 - 69 - 5.取締役会の議事録 ・ 取 締 役 会 の 議 事 に つ い て は 議 事 録 を 作 成 し な け れ ば な ら な い ( 369 Ⅲ ) 議事録がなくても決議の効力には影響がなく、議事録は証拠の機能を有するにすぎない ただし、取締役の責任追及には重要な意味をもつ ・議事録には議事の経過の要領およびその結果を記載しなければならない ・議事録が書面によって作成されたときは、出席した取締役・監査役はこれに署名 しなければならない(同Ⅳ、電磁的記録の場合は電子署名) ・ 取 締 役 は 取 締 役 会 議 事 録 を 10 年 間 本 店 に 備 え 置 か な け れ ば な ら な い ( 371 Ⅰ ) ・株主は、その権利を行使するため必要がある場合、会社の営業時間内は、いつでも、 取締役会議事録の閲覧・謄写請求等をすることができる(同Ⅱ) ・ 監 査 役 設 置 会 社 ま た は 指 名 委 員 会 等 設 置 会 社 の 場 合 、閲 覧 ・ 謄 写 請 求 等 を す る た め に は 、 裁判所の許可が必要(同Ⅲ) ・取締役会設置会社の債権者は、役員・執行役の責任を追及するため必要がある場合、 裁判所の許可を得て、取締役会議事録の閲覧・謄写請求等ができる(同Ⅳ) ・取締役会設置会社の親会社社員(株主)についても同様(同Ⅴ) ・裁判所は、閲覧・謄写により、取締役会設置会社またはその親会社・子会社に著しい 損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、閲覧・謄写請求等の許可をすることが できない(同Ⅵ) ←取締役会における審議内容は企業秘密に関わるものが多いことから、その漏洩を防止 するため 6.一人会社の取締役会決議 ・一人会社において、会社法上取締役会決議が要求されていても、取締役会決議は不要と さ れ る こ と が あ る ( 最 判 昭 45・ 8・ 20 民 集 24 巻 9 号 13 05 頁 、 反 対 説 あ り ) ←単独株主が取締役の場合、会社と当該取締役との間には利害対立が生じないから 7.特別取締役による取締役会決議 ・従来、わが国の大会社の取締役会のメンバーの数は多く、機動的な業務執行に適して いなかったため、取締役会のもとに一部の取締役によって構成される常務会、 経営委員会等が設置される例が多かった 他方で、取締役会の専決事項の中には、迅速な意思決定が求められるものがあり、 それらは大人数による取締役会には適しない そこで、実務で存在する常務会等を法に取り入れ、これに取締役会の専決事項の一部に ついての決定権限を委譲しようとした(改正前商法における重要財産委員会) ・ 会 社 法 は 、取 締 役 会 の メ ン バ ー の 一 部 を「 特 別 取 締 役 」と し て あ ら か じ め 選 定 し て お き 、 取締役会で決定すべき事項のうちで迅速な意思決定が必要と考えられる重要な財産の 処 分 ・ 譲 受 け と 多 額 の 借 財 ( 362 Ⅳ ① ・ ② ) に つ い て 、 特 別 取 締 役 に よ る 決 定 で 代 替 するものとした →重要財産委員会のように、取締役会とは別の機関として構成されるのではなく、 取締役会の決議要件の特則にかかる制度とされる ・ 取 締 役 が 6 名 以 上 、 か つ 、 社 外 取 締 役 ( 2 ⑮ ) が 1 名 以 上 の 会 社 の み 利 用 可 能 ( 37 3 Ⅰ ) ただし、社外取締役は特別取締役である必要はない ・取締役会決議で 3 名以上の取締役を選定し、その特別取締役が重要な財産の処分・ 譲 受 け と 多 額 の 借 財 に つ い て 決 定 す る ( 373 Ⅰ ・ Ⅱ ) 定 足 数 ・ 決 議 要 件 は 取 締 役 会 と 同 じ だ が 、 書 面 決 議 は 認 め ら れ な い ( 37 3 Ⅳ ) ・特別取締役の互選で定めた者は、決議後、遅滞なく、決議の内容を特別取締役以外の 取 締 役 に 報 告 し な け れ ば な ら な い ( 373 Ⅲ ) ・監査役会の決議または監査役の互選により、その会合に出席すべき監査役を定めた と き は 、 そ の 他 の 監 査 役 は 出 席 義 務 を 負 わ な い ( 38 3 Ⅰ 但 書 ) - 70 - 8.取締役会決議の瑕疵 ・取締役会決議に瑕疵がある場合について、会社法は定めをおいていない(≠株主総会) →一般原則に従い、瑕疵ある決議は原則として無効 11) いつでも、誰でも、いかなる方法によっても主張できる ・しかし、手続上の瑕疵については、それがどんなに些細なものであっても常に決議を 無効とするのは問題がある ex.一部の取締役に対する招集通知漏れがあった場合でも、その取締役が出席しても なお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、その瑕疵は 決 議 の 効 力 に 影 響 は な い ( 最 判 昭 44・ 12・ 2 民 集 23 巻 12 号 2396 頁 ) ←その取締役が出席することによる影響を無視 名目的取締役に対する招集通知を要しないことになりかねない Ⅲ.代表取締役 1.意義 ・業務執行をし、対外的に会社を代表する常設の機関 ・取締役会と異なり、業務執行の実行段階を担当する 12) とともに、取締役会から適法に 委ねられた範囲内で、業務執行の意思決定をも行う →日常の業務執行(常務)は意思決定と執行の両方を、重要な業務執行については 取締役会による意思決定を前提にして執行する 2.選定 ・ 代 表 取 締 役 は 、 取 締 役 の 中 か ら 、 取 締 役 会 決 議 を も っ て 選 定 さ れ る ( 36 2 Ⅱ ③ ・ Ⅲ ) 業務執行の意思決定と執行の連携を図る趣旨(←→指名委員会等設置会社) →定款により代表取締役選定を株主総会権限にできるか?(上述第7回) ・員数は 1 名以上 ・代表取締役の就任には、取締役と同様に、被選任者の同意が必要 ・ 代 表 取 締 役 の 氏 名 ・ 住 所 は 登 記 事 項 ( 91 1 Ⅲ ⑭ ) 3.終任 ・取締役の地位を前提とするので、取締役を終任すれば当然に代表取締役の地位を失う ・代表取締役はいつでもその地位を辞任できるとともに、取締役会もまたいつでも 代 表 取 締 役 を 解 職 で き る ( 民 6 51、 362 Ⅱ ③ ) 13) ・代表取締役が欠けた場合や定款所定の員数を欠くことになった場合、取締役の欠員の 場 合 ( 34 6) と 同 様 の 規 定 が 置 か れ て い る ( 351) 4.権限 ・ 株 式 会 社 の 執 行 機 関 と し て 内 部 的 ・ 対 外 的 な 業 務 執 行 権 限 を 有 す る ( 36 3 Ⅰ ) ・株主総会・取締役会で決められた事項をそのまま執行するほか、取締役会から委譲され た範囲内では自ら意思決定をし執行をする ・代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為 14) をする権限 を 有 す る ( 代 表 権 の 包 括 性 、 349 Ⅳ ) 11)通 常 の 民 事 訴 訟 に お け る 確 認 訴 訟 と し て 提 起 で き 、 管 轄 等 に つ い て は 会 社 法 851 条 1 項 等 が 類 推 適用される。 12) 代 表 取 締 役 は 、 業 務 執 行 の 実 行 段 階 と し て 、 内 部 的 お よ び 対 外 的 な 業 務 執 行 を 担 当 す る が 、 こ の うち対外的な業務執行をとくに「代表」と呼ぶ。 13) 正 当 事 由 の な い 任 期 満 了 前 の 解 職 の 場 合 、 当 該 代 表 取 締 役 は 会 社 に 対 し て 損 害 賠 償 で き る ( 会 社 法 339 条 2 項 の 類 推 適 用 )。 14) 支 配 人 の 代 理 権 ( 支 配 権 ) が 特 定 の 営 業 に 限 ら れ る の と 異 な り 、 代 表 取 締 役 の 代 表 権 の 範 囲 は 会 社の事業全体に及ぶ。 - 71 - ・定款・取締役会規則等により代表取締役の代表権に加えた制限(内部的制限)は、 善意の第三者に対抗できない(代表権の不可制限性、同Ⅴ) ex.1 億円を超える取引については取締役会の承認を要するとの定款の定め ・代表取締役の行為が客観的には事業活動の範囲内の行為であっても、主観的には自己 ま た は 第 三 者 の 利 益 の た め に 行 わ れ る 場 合 ( 代 表 権 の 濫 用 )、 取 引 の 効 果 は 原 則 と し て 会社に帰属する →代表取締役の真意について悪意の相手方まで保護する必要はないとする点については 争いがないが、ではどのような相手方なら保護されるか? ・ 判 例 : 民 法 93 条 類 推 適 用 説 → 相 手 方 が 悪 意 ・ 有 過 失 で な い 限 り 取 引 は 有 効 ( 最 判 昭 38・ 9・ 5 民 集 17 巻 8 号 909 頁 ) ・ 学 説 : 349 条 5 項 類 推 適 用 説 な ど →悪意・重過失の相手方に対してのみ無効を主張できる な お 、 共 同 代 表 制 度 ( 改 正 前 商 法 261 Ⅱ ) は 会 社 法 に よ り 廃 止 5.表見代表取締役 (1)意 義 ・会社は、代表取締役以外の取締役に社長、副社長その他株式会社を代表する権限を 有するものと認められる名称を付した場合には、当該取締役がした行為について、 善 意 の 第 三 者 に 対 し て そ の 責 任 を 負 う ( 354) ←社長、副社長などの名称は、一般に代表取締役に用いられ、外部の者はこれらの名称 を付された取締役のことを代表取締役と誤解しやすいので、そのような外観を信頼 して取引した第三者を保護するため ・ な お 、 会 社 法 に よ り 、「 専 務 取 締 役 ・ 常 務 取 締 役 」 と い う 文 言 は 削 除 さ れ た (2)要 件 ①外観の存在 ・社長、副社長、その他会社の代表権を有すると認められる名称が用いられていること ・「 代 表 取 締 役 代 行 者 」「 取 締 役 会 長 」 は 会 社 を 代 表 す る 権 限 を 有 す る と 認 め ら れ る 名 称 に 当 た る ( 最 判 昭 44・ 11・ 27 民 集 23 巻 11 号 23 01 頁 、 東 京 地 判 昭 48・ 4・ 25 下 民 24 巻 1 ~ 4 号 2 16 頁 ) ②外観への与因(帰責性) ・会社がそのような名称の使用を許諾したこと 使用の許諾は、明示・黙示を問わない ・名称の使用を会社が黙認していれば、会社には責任が生じる 代表取締役がそれを知りながら放置した場合だけでなく、正規の手続を経ずに取締役の 多数がある取締役の名称使用を承認していた場合もこれに当たる ( 最 判 昭 56 ・ 4 ・ 2 4 判 時 1 001 号 110 頁 ) ③相手方の信頼(外観への信頼) ・相手方は、代表権がないことについて善意であれば保護され、無過失は必要ないが、 重 過 失 は 悪 意 と 同 視 さ れ る ( 最 判 昭 52 ・ 10・ 14 民 集 31 巻 6 号 825 頁 [百 選 57] ) ・悪意・重過失の立証責任は会社側にある 会社は、相手方の悪意・重過失を立証して、責任を免れることができる ( 最 判 昭 52 ・ 1 0・ 14 民 集 31 巻 6 号 825 頁 [百 選 57] ) →第三者が登記簿の閲覧等を怠っても過失があるとはいえないが、代表取締役かどうか 疑 う に 足 り る 相 当 の 理 由 が あ る 場 合 に は 、登 記 簿 の 調 査 ・ 会 社 へ の 確 認 を 怠 る な ら ば 、 重過失あるものとされる ex.初めて取引する会社と高額の取引をするとき (3)効 果 ・会社は善意の第三者(相手方)に対して契約責任を負う - 72 - 表見代表取締役の行為があたかも代表権のある取締役の行為と同様に会社に対して効力 を生じる →会社が当該取締役の行為により義務を負うとともに、権利をも取得する ・ 354 条 は 取 引 の 安 全 保 護 の た め の 規 定 な の で 、 訴 訟 上 会 社 を 代 表 す る 権 限 を 有 す る 者 を 定 め る 場 合 に は 適 用 さ れ な い ( 最 判 昭 45・ 12 ・ 15 民 集 24 巻 13 号 2072 頁 ) (4)登 記 の 効 力 と の 関 係 ・ 代 表 取 締 役 の 氏 名 ・ 住 所 は 登 記 事 項 な の で ( 911 Ⅲ ⑭ )、 登 記 を 見 れ ば 誰 が 代 表 取 締 役 かが分かる ・会社法上の登記事項は、登記の後でなければこれをもって善意の第三者に対抗できず、 また、登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らな か っ た と き は 、 同 様 と す る ( 908 Ⅰ ) =登記後は、正当事由がない限り、第三者は誰が代表取締役であるかについて知って いるものとして取り扱われる(悪意擬制) → 信 頼 の 要 件 が 不 具 備 、 35 4 条 の 適 用 の 余 地 な し ? ↓しかし ・ 判 例 ・ 多 数 説 は 、 354 条 は 9 08 条 1 項 の 例 外 で あ り 、 354 条 が 適 用 さ れ る 限 り で 、 908 条 1 項 の 適 用 は 排 除 さ れ る と 解 し て い る ( 例 外 規 定 説 、 反 対 説 あ り ) ←登記の公示機能の限界と商取引の迅速性から、登記による悪意擬制を貫くと、 表見代表取締役制度が無意味になるから e x .・ 解 職 さ れ 、 そ の 旨 の 登 記 が な さ れ た 代 表 取 締 役 と 取 引 を し た 場 合 ・共同代表の定めが登記されており、代表取締役の 1 人が単独で代表権を行使 し た 事 案 に つ き 、判 例 は 3 54 条 の 類 推 適 用 に よ り 会 社 の 責 任 を 認 め る( 最 判 昭 42 ・ 4・ 28 民 集 21 巻 3 号 796 頁 、 最 判 昭 43・ 12・ 24 民 集 22 巻 13 号 3349 頁 ) (5)類 推 適 用 ・使用人による名称の使用 使用人が代表取締役の承認のもとに「常務取締役」の名称を使用して取引した場合にも 354 条 が 類 推 適 用 さ れ る ( 最 判 昭 35・ 10 ・ 14 民 集 14 巻 12 号 2499 頁 ) 15) 6.代表者の行為についての損害賠償責任 ・株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害 を 賠 償 す る 責 任 を 負 う ( 350) ex.代表取締役が取引上の詐欺などにより第三者に損害を与えた場合、代表取締役 個人だけでなく、会社もまた責任を負う 7 . 取 締 役 ・ 会 社 間 の 訴 訟 ( 上 記 Ⅰ 1 (4)) 8.決議に基づかない行為の効力 (1)総 説 ・株主総会・取締役会の決議事項は、これらの機関の意思決定を前提として、 代表取締役が執行 ・前提となる決議に基づかない代表取締役の行為の効力については争いがある 決議を要求することによって守られる会社(株主)の利益と取引の安全との調整が問題 ・対内的な行為 16) については取引の安全は問題にならないので、単純に無効でよいが、 15) 取 締 役 で も 使 用 人 で も な い 外 部 者 が 「 専 務 取 締 役 」 の 名 称 を 使 用 し て 取 引 し た 場 合 に は 、 354 条 で は な く 、 名 板 貸 責 任 ( 9) が 問 題 と な る ( 浦 和 地 判 平 11・ 8・ 6 判 時 1696 号 155 頁 )。 16) 支 配 人 そ の 他 の 重 要 な 使 用 人 の 選 任 ・ 解 任 、 支 店 そ の 他 の 重 要 な 組 織 の 設 置 ・ 変 更 ・ 廃 止 、 準 備 金の資本組入れなど。 - 73 - 対外的な取引行為については、取引安全の観点から様々な解釈論が展開されている (2)株 主 総 会 決 議 を 欠 く 場 合 ・ 株 主 総 会 決 議 が 必 要 な 事 項 は 一 般 に 会 社 に と っ て 重 大 な 事 項 な の で 、決 議 を 欠 く 行 為 は 、 原則として無効とすべき ・ただし、決議事項によっては、取引の安全を重視して有効とする場合もある(一定の 条件のもとで無効と解する見解もある) e x .・ 事 業 譲 渡 → 判 例 ・ 多 数 説 は 無 効 と 解 す る ( 相 対 的 無 効 説 も 主 張 さ れ て い る ) ・新株の有利発行→判例・多数説は有効と解する ・株主総会における取締役の選任決議の取消・無効 →取締役の地位を前提として代表取締役となった者が行った取引行為については、 相 手 方 保 護 の た め に 善 意 者 保 護 規 定 ( 908 Ⅱ ・ 354・ 民 10 9) を 適 用 す べ き ( 上 述 ) (3)取 締 役 会 決 議 を 欠 く 場 合 ・取締役会決議が必要な事項は一般に取引安全の必要性が高く、決議を欠く場合でも有効 とすべき場合が多い e x .・ 重 要 な 財 産 の 処 分 ・ 譲 受 、 多 額 の 借 財 ( 362 Ⅳ ① ② ) →取締役会決議を欠くことについて悪意の相手方まで保護する必要はないとする 点については争いがないが、 ではどのような相手方なら保護されるか? ・ 判 例 : 民 法 93 条 類 推 適 用 説 → 相 手 方 が 悪 意 ・ 有 過 失 で な い 限 り 取 引 は 有 効 ( 最 判 昭 40・ 9・ 2 2 民 集 19 巻 6 号 1656 頁 [百 選 71]) ・ 34 9 条 5 項 類 推 適 用 説 な ど →悪意・重過失の相手方に対してのみ無効を主張できる ・ 利 益 相 反 取 引( 改 正 前 商 法 265)→ 判 例 ・ 通 説 は 相 対 的 無 効 説( 後 述 、第 9 回 ) ・ 新 株 発 行 ( 改 正 前 商 法 280 ノ 2) → 判 例 ・ 多 数 説 は 有 効 と 解 す る ・代表取締役が取締役会決議を経ずに重要財産を処分した場合、当該会社以外の者が無効 を 主 張 す る こ と は 、 特 段 の 事 情 が な い 限 り 許 さ れ な い ( 最 判 平 21 ・ 4 ・ 17 民 集 63 巻 4 号 5 35 頁 ) ・無効な取締役会決議により代表取締役となった者が行った取引行為 → 相 手 方 保 護 の た め に 善 意 者 保 護 規 定 ( 908 Ⅱ ・ 354・ 民 10 9) を 適 用 す べ き - 74 - コラム:いわゆるクーデター 株式会社の事実上のトップは代表取締役社長であるが、その選定・解釈の権限は取締役会に ある。わが国の場合、取締役会はコーポレート・ガバナンスのシステムとしてはあまり機能し ていないといわれるが、時としてそれが威力を発揮することがある。 老 舗 の 百 貨 店 で あ る 三 越 の 岡 田 茂 社 長 は 、 そ の 強 引 な 経 営 手 法 は 1982 年 6 月 に は 優 越 的 地 位 の濫用で公正取引委員会から審決を受け、同年 8 月の「古代ペルシャ秘宝展」で偽物騒ぎが発生 し、さらに「三越の女帝」と呼ばれた愛人竹久みちへの不当な利益供与も明るみに出た。こう した中、水面下では三井銀行の小山五郎相談役などの三井グループの幹部や三越の反岡田派を 中心とした「岡田おろし」の準備が進められていた。以下は岡田社長が解任された三越の取締 役会の模様である。 「 本 件 取 締 役 会 は 、 昭 和 57 年 9 月 22 日 午 前 11 時 か ら 、 被 告 本 店 新 館 七 階 役 員 会 議 室 で 、 原 告 ( 岡 田 社 長 ) を 含 め 当 時 の 被 告 の 取 締 役 17 名 、 監 査 役 4 名 の 全 員 が 出 席 し て 開 催 さ れ た 。」「 原 告は、議長として前記報告事項及び議題(1)ないし(5)について説明を加え、売上高など 報告事項の詳細を記載した書面及び議題を記載した書面を順次回覧させて、列席する取締役ら から承認の捺印を得たうえ、さらに、原告が毎日新聞のカメラマンに対して暴行をはたらいた と し て 新 聞 ・ 雑 誌 で 報 道 さ れ た 件 な ど に つ い て 、 自 ら 口 頭 で 事 情 説 明 を 行 な っ た 。」「 引 き 続 い て、原告が、その他の審議事項について杉田専務の発言を促したところ、同専務は、原告の社 長 及 び 代 表 取 締 役 か ら の 解 任 を 提 案 し 、 賛 成 の 者 に 起 立 す る よ う 求 め た 。」「 原 告 を 除 く 取 締 役 らのうち、これに対して質疑を求めたり、反対の意見を表明したりする者はなく、口々に「賛 成」などと声を上げながら全員が起立したため、杉田専務は、解任決議の可決と取締役会の閉 会 を 宣 言 し た 。」「 し か し 、 原 告 は 、 社 長 で あ る 自 分 に 取 締 役 会 の 議 長 の 権 限 が あ り 、 杉 田 専 務 に対しても解任の提案や議決を求めた覚えはないから、議長の指示に従わずになされた右決議 は 無 効 で あ る と 主 張 し た 。」「 こ れ に 対 し 、 小 山 取 締 役 は 、 原 告 は 特 別 利 害 関 係 人 に 該 当 す る か ら、議決権もないし、議長としての権限も失うもので右決議が有効であると主張し、疑義を払 拭するために再度採決するよう提案した。これを受けて、杉田専務が、原告の社長及び代表取 締役からの解任について賛成の者の起立を求めたところ、やはり原告を除く全取締役が起立し た 。」「 そ こ で 、 杉 田 専 務 は 、 取 締 役 会 を 閉 会 し て よ い か 、 原 告 に 意 見 を 求 め た と こ ろ 、 原 告 が こ れ を 承 諾 し な か っ た た め 、 他 の 取 締 役 に 異 論 の な い こ と を 確 認 し た う え 、 閉 会 を 宣 言 し た 。」 (東京地判平成平2・4・20判時1350号138頁) 岡田社長はその場で非常勤取締役に降格となったが、このとき岡田が発したとされる言葉「な ぜ だ !」 は こ の 年 の 流 行 語 と な っ た ( 他 の 取 締 役 か ら 「 キ ミ 、 会 議 は 終 わ っ た の だ よ 」 と 声 を か け ら れ て も 「 な ぜ だ … … 」 と 力 な く 呟 き 続 け て い た と い う )。 なお、この間の事情は、河村貢『解任 三 越 顧 問 弁 護 士 の 証 言 』( 講 談 社 、 1985 年 ) に詳しい。 参考文献: ・ 中 島 茂 『 取 締 役 物 語 』( 中 央 経 済 社 、 2012 年 ) 小説形式で、会社における取締役の仕事ぶり、法的紛争への取り組みなどが分かりやす く語られている。取締役に関する重要判例についても言及があり、参考になる。 - 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