『怪物はささやく』 パトリック・ネス/著 シヴォーン・ダウト/原案 あすなろ書店 【ものがたり933 ネス】 池田真紀子/訳 子どもの頃、なかなか寝付けない夜は大変怖いものでした。 暗くなった部屋の隅から、こわいおばけが出てくるのではないか…そんな想像をしてドキドキしているうちに 夢のなかへ…子供時代、そんな経験はありませんでしたか? 今月紹介する本はパトリック・ネス著、シヴォーン・ダウド原案「怪物はささやく」です。 主人公はイギリスに住んでいるコナーいう男の子。彼は毎晩見る恐ろしい夢に悩まされています。でも、重い 病気を持つ母や母と離婚してアメリカに行ってしまった父には、その夢について相談することができませんでし た。ある日、いつもと同じように悪夢にうなされてコナーが目覚めると、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえます。 コナーが窓をのぞくとそこには、大きな人の顔をしたイチイの木の怪物がコナーと同じように部屋をのぞきこん でいたのです。 この日を境に、毎晩12時7分になると怪物はコナーのもとへやってきます。悪夢の続きだとコナーは思いまし たが、怪物がやってくる度に部屋はイチイの葉っぱでいっぱいになったり、部屋の床から木の目が出てきたり、 怪物の仕業としか思えない出来事が起こります。 コナーは自分のもとにやってくる理由を怪物に尋ねます。 「で、ぼくをどうするつもり?」 「私が三つの物語を語り終えたら、今度はお前が四つめの物語をわたしに話すのだ。おまえはかならず話 す」 コナーは怪物に話す物語など知りません。それでも怪物は「おまえは真実を語るのだ」と言います。 「おまえがひた隠しにしている真実は、コナー・オマリー、おまえがもっともおそれているもののはずだ」 そう言われてコナーには一つだけ心当たりがありました。毎晩見るあの恐ろしい夢のことです。この世にいる 誰にも言えない、あの夢のことを怪物は話せと言っているのでしょうか。 この物語を読み進めていくうちに、いくつもの謎に出会います。コナーが見る悪夢、物語を語るためやってき るイチイの木の怪物、12時7分の謎…それらは話が進むにつれて広がっていき、やがて結末へと収束していき ます。 原案のシヴォーン・ダウトはこの作品の構想をメモとして書き残していましたが、2007年に癌で逝去。そのメ モを元に、パトリック・ネスがこの物語を作り上げました。ジム・ケイによる世界観にマッチしたモノクロの挿絵は、 作中の不気味な空気を感じさせます。 一人の少年の苦悩と悲しみに、涙が溢れて止まらない一冊です。 那珂川町図書館司書(たいこ)
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