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視交叉領域の腫瘤により失明を呈した犬の 2 例
○中原美喜 1 小林義崇 1,2 石川勇一 1 林宝謙治 1
(1 埼玉動物医療センター 2DVMsどうぶつ医療センター横浜)
【はじめに】
視交叉領域の腫瘤により失明したと考えられる犬 2 例に遭遇したので、その
概要を報告する。
【症例】
症例 1)G・レトリバー、避妊雌、8 歳齢。失明を主訴に来院した。初診時に
は、威嚇瞬き反応、対光反射は両眼とも消失していた。眼底に著変はなく、
ERG ではほぼ正常の波形が認められた。MRI 検査では視交叉領域および視床下
部に腫瘤性の病変が認められた。グリオーマ、リンパ腫などの腫瘍あるいは
GME の可能性が考えられたが、確定診断は困難であった。脳浮腫を軽減する目
的で、プレドニゾロン(0.5mg/kg sid)を処方したところ、第 6 病日に左眼は
わずかに威嚇瞬き反応が認められたが、第 20 病日には再び消失していた。第
34 病日に再度 MRI を撮影したが、画像所見は初診時と著変はなかった。その後
運動失調がみられるようになり、第 76 病日には歩行困難となった。
症例 2)雑種犬、雄、9 歳齢。視力低下を主訴に来院した。初診時には、威嚇
瞬き反応は右眼で減弱、左眼で消失していた。眼底に著変はなく、ERG では正
常な波形が認められた。MRI 検査では視交叉領域に dural tail sign を伴う腫
瘤性病変が認められた。髄膜腫の可能性が高いと考えられたが、前大脳動脈を
巻き込んでいる可能性があり、手術は適応外と判断した。第 14 病日には右眼
の威嚇瞬き反応も消失し、プレドニゾロン(1mg/kg sid)を処方したところ、
第 22 病日に右眼はわずかに威嚇瞬き反応が認められた。ハイドロキシウレア
(50mg/kg 週 3 回投与)による治療を開始したが、第 38 病日には威嚇瞬き反応
は消失し、第 78 病日には旋回行動を呈するようになった。
【考察】
今回、視交叉領域の腫瘤が認められた 2 症例において、初期には他の神経症
状を伴わない急性の失明のみであった症状が、後に重篤な神経症状へ発展した
臨床経過が認められた。明らかな眼底病変を伴わない急性の失明を示す症例に
おいて、突発性後天性網膜変性症候群と脳神経疾患を鑑別することの重要性を
改めて認識した。
症例 2 では髄膜腫が疑われ、ハイドロキシウレアによる化学療法を試みた
が、神経症状の進行が認められた。今後症例を蓄積して治療の有効性を検討す
る必要があると考えられた。