治療およびケアの 基本的な方針

連 載
最前線を知る
循環器看護の
第 10 回
表6
発症前
入院
準備因子の評価
(看護師)
図2参照
ひとつでも当ては
まれば右に進む
せん妄治療で使用される抗精神病薬の特徴(文献27より引用改変)
発症後
促進因子の評価と介入(看護師)
常に新たな促進因子を評価し, 最小限にするケア(看護師)
定型抗精神病薬
一般名
商品名
投与の経路
早期発見のための
継続した観察(看護師)
常用量
せん妄 ?
鎮静作用
せん妄の可能性を見抜く(看護師)
せん妄の状態診断( 医師 )
せん妄!
精神科にコンサルト
せん妄症状の観察(主に看護師)
せん妄の原因診断(医師)
直接因子への介入(主に医師)
抗精神病薬による対症療法
図 5 せん妄の予防・診断・治療ケアの流れ
せん妄ケアの基本は,発症の予防とともにせん妄の早期発見および対応であり,入院時にせん妄のハイリスク患
者を選別して予防ケア(促進因子の評価と介入,新たな促進因子の評価,それを最小限にするケア,せん妄の
可能性を見抜くための観察)を開始する必要がある。さらに,せん妄が疑われた場合,医師によりせん妄の診断
(状態診断→原因診断)
,治療が進められる。せん妄を発症した後にも促進因子の評価と介入は継続される。
治療およびケアの
基本的な方針
せん妄のケアを知る
非定型抗精神病薬
ハロペリドール
クロプロマジン
リスペリドン
クエチアピン
オランザピン
セレネース ®
コントミン ®
ウィンタミン ®
リスパダール ®
セロクエル ®
ジプレキサ ®
経口・筋肉内
静脈内
経口・筋肉内
経口
経口
経口
0.75 ~ 10mg
10 ~ 50mg
0.5 ~ 4mg
25 ~ 100mg
2.5 ~ 10mg
低
高
低
高
高
低
高
低
低
低
作 用 特 性・ 抗コリン作用
有害事象
降圧作用
低
高
低
低
低
錐体外路症状
高
低
低
低
低
その他
・標準的
・全剤形より選択可能
・治療効果に対するエ ・ 腎排泄であり腎不全
ビデンスは同等
での使用は要注意
・パーキンソン病のせん ・ ステロイドの 併 用 は
妄に第一選択
注意
・糖尿病患者には禁忌 ・糖尿病患者には禁忌
せん妄治療に使用される抗精神病薬の代表的なものとその特徴を示した。
つかずに治めること”が基本であり,①まず逃げる,
体外路症状を生じやすく,半減期が長く翌日にも効
②複数で対応する,③怯えや敵意を見せたり笑った
果が持ち越されることがしばしば問題になります。こ
りしない,④正面から近づかず避難経路を確保する,
のため近年は,錐体外路症状の出にくい非定型抗精
⑤すぐに外に出ることができるようにドアに近いほう
神病薬がよく使用されていますが,注射による投与が
に自分が立つ,などの行動が必要です。さらに自傷
できないため経口投与が可能な患者に限られています
他害の危険性が高いと判断した場合,やむをえず身
(表6)
。
体拘束を行うことがあります。ただし,身体拘束自体
せん妄が改善傾向にあっても睡眠が持続しない場
がせん妄をさらに促進させることや患者の人権保護の
合には,睡眠導入剤を併用することがあります。睡
観点から,慎重に検討して行う必要があり,拘束に
眠導入剤単独ではせん妄を誘発することがあっても,
至った場合にはできるだけ最小限に,また評価を重
抗精神病薬との併用ではせん妄に有効であるといわ
ね早期に解除することが原則です。
れています 28)。ただし,せん妄の改善が得られたら
せん妄を発症した際の治療およびケアの基本的方
ために転倒やベッドからの転落,点滴ラインやカテー
針として,①安全の確保,②原因の探索・同定と
テル類の自己抜去に至ることがあります。このような
介入,③促進因子に対するアプローチ,④薬物療法,
事故を未然に防ぐためには,
危険物を周囲に置かない,
⑤家族への説明の 5 つが挙げられます 26)。②は,図2
ベッドを低くする,体動センサーを設置するなど安全
に示したうちのとくに直接因子に対する徹底的な探
確保のための環境整備に努めることが重要です。また,
せん妄治療の基本原則は原因の同定と除去にあり
索と同定であり,③では促進因子を評価したうえで,
患者の様子と状況をよく観察して,何をきっかけと
ますが,原因の同定が困難であったり,重篤な身体
して興奮が引き起こされているのかを把握し,それら
疾患により原因の除去自体が不可能なことがありま
では以下に②,③以外の基本的方針について概説し
を除去,または緩和します。
す。さらに過活動型せん妄では症状の激しさのために
予防的な観点からいえば,ハイリスク患者の家族に
ます。
同時に,意識の障害や認知の変化,知覚障害に配
速やかな鎮静を求められることが多くあります。この
対しては入院の時点でせん妄の可能性について説明
慮し,医療者や家族が患者の脅かしとなり患者の混
ような意味から,実際にはせん妄に対する対症療法
し,ケアの協力を得ることが大切です。患者にとっ
乱を助長させることのないようにかかわることが大切
として薬物療法の位置づけは重要です。
て最も身近な存在である家族の関わりが患者に安心
です。具体的には患者が安心できる態度で接すること,
抗精神病薬はせん妄治療において第一選択剤に挙
感を与え,せん妄の予防のための効果的なケアになり
簡潔にわかりやすく説明すること,妄想や幻視などの
げられる薬剤です。なかでもハロペリドール(セレネー
ます。具体的には,
環境調整や患者が安心できる対応,
表6
から該当するケアを選択して介入します。ここ
安全の確保
薬物療法
®
抗精神病薬を漫然と使用し続けないことが大切であ
り,せん妄が収束して数日〜 1 週間程度の継続投与
を行った後に適宜漸減中止します 27)。
家族への説明およびケア
患者と周囲の安全確保は,せん妄ケアのうち最も
体験に寄り添い,内容ではなくその感情に理解を示
ス )は注射薬として使用できること,鎮静効果を有
さらには身近な話題で日常会話をするなど,家族に
優先して行われています。過活動型せん妄患者では,
し穏やかに反応することなどです。
することから,著しい興奮や内服困難な場合にしば
もできるケアについて説明します。
衝動性を抑制したり興奮状態をコントロールできない
すでに患者が興奮し暴れている状態では“互いに傷
しば用いられます。しかし臨床上,副作用として錐
患者にせん妄が生じた場合には,それが患者だけ
618 ・ HEART 2012/6 Vol.2 No.6
Vol.2 No.6 2012/6 HEART ・
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