卒業論文要旨 二波長面発光型素子の作製工程改善とその評価

卒業論文要旨
二波長面発光型素子の作製工程改善とその評価
工学部光応用工学科 太田寛人
はじめに
現在、テラヘルツ(THz)帯域の周波数は未開拓の領域であり、工業、医療、農業、セキュリティ
など様々な分野において、その応用が見込まれている。そこで我々の研究室では、簡便なテラヘル
ツ波発生素子の開発を目指し、面型テラヘルツ波発生素子を研究している。これは 2 つの共振器層
を GaAs/AlGaAs-DBR 多層膜で結合した多層膜結合共振器構造を用いて、電流注入による二波長の発
光から差周波発生によりテラヘルツ波を得るというものである。これまで GaAs/AlAs-DBR 構造にお
いて、片側の共振器層に光学利得として InAs 量子ドットを導入したウエハに電流注入構造を形成
し、電流注入による表面からの発光でモード周波数差が 2.41THz の共振器モードである二波長の発光が
確認できている[1]。このときの問題点として電極が n-GaAs 層表面に蒸着できないという点が挙げ
られる。これはエッチング溶液の選択性を上手くコントロールできていないことが原因と考えられ
た。加えて、今回の試料は GaAs/AlGaAs-DBR 構造であるためエッチング溶液を再度見直す必要があ
った。また、注入した電流が効率よく素子の発光に用いられていない点も問題点として挙げられる。
本研究では、この二波長面発光型素子の発光効率向上を目指し、作製プロセスを改善のために電極
形成プロセスを見直し、素子内での電流密度をさらに高めるために電流狭窄構造を導入した。そし
て、電流注入による発光特性と素子構造の評価をおこなった。
試料作製
本研究で作製した試料構造を図 1 に示す。この試料は(113)B
基板上に差周波を発生させる2λの GaAs 共振器を持たせ、(001)
基板上の共振器層には光学利得を印加するための InAs 量子ド
ットが 9 層積層してある。この 2 種類の基板を図中の点線の位
置で接合し、(001)基板を除去した。その後、上部 p 型電極を蒸
着し、中間 DBR 膜まで選択エッチングを行った。今回の試料で
は、p-DBR 層はリン酸系で、InAs ドットの挿入された共振器層
はクエン酸系で、n-DBR 層の AlGaAs1 層分は希釈リン酸系で選
択性をコントロールしエッチングした。そして、p-DBR 層にあ
る AlAs 層を選択的に熱酸化し電流狭窄構造を作製した。この選
択酸化プロセスは初めて導入されるため、熱酸化の時間依存性
を調べた。その後、n-DBR 表面に下部 n 型電極を蒸着しアニー
ル処理後に感光性ポリイミドによる保護膜を形成し、キュアリ
ングを行った。
上部p型電極
GaAs共振器層
InAs量子ドット9層
p-DBR
(001) epi
下部n型電極
n-DBR
GaAs 共振器層
(311)B epi
undoped-DBR
(311)B GaAs sub.
図1.試料構造
電気特性評価と構造評価
試料に電流を注入した電極像を図 2 に示す。この時、メサ直径
100μmϕの電極に 10mA の電流を注入した。Ti/Au の電極の内径は
40μmϕで発光像の直径は約20μmϕであった。ここから、選択酸
化により、AlAs 層がメサ側壁部分から約35μmAl2O3 へと変化し、
電流を狭窄する構造ができているとわかる。また、電流を注入し
た際のスペクトルを図 3 に示す。スペクトルからこの試料では、
波長1274nm, 1289nmの 2 つのピークで発光していることがわか
る。この発光のモード周波数差は、2.72THzである。電流値の上
昇に反して強度が飽和していることからレーザ発振には至って
いないことがわかった。
下部n型電極
(AuGe/Ni/Au)
発光窓外径
(上部p型電極内径)
上部p型電極(Ti/Au)
プローブ針
DC(10mA)電流注入
図 2.赤外光の発光図
105
Intensity(counts)
まとめ
2 つの共振器層をもつ二波長面発光型レーザの作製プロ
セスについてエッチング溶液の変更と電流狭窄層の導入に
より、素子の電流注入構造を改善した。実体顕微鏡と走査型
電子顕微鏡の双方から素子に電流狭窄構造が形成されてい
ることを確認した。電流注入による表面からの発光でモード
周波数差が2.72THzの共振器モードである二波長の発光が
得られた。2 つの波長を発生させるレーザ素子を実現させる
ためには、さらに光学利得印加するような素子構造を設計す
ることが必要と考える。
AlAs電流狭窄層
0.2mA
0.4mA
0.6mA
0.8mA
1mA
1.2mA
1.4mA
Current Mode:DC
104
103
1260
1270
1280
1290
1300
Wavelength(nm)
[1]
原山他,第 75 回秋季応用物理学会学術講演会,18p-A27-3(2014)
図 3.電流注入時の発光スペクトル