1/17 生理学講義ノート 消 化 Index 総 論 ・・・・ 02 口腔・食道・胃 ・・・・ 06

生理学講義ノート
消 化
Index
総 論
・・・・
02
口腔・食道・胃
・・・・
06
肝臓・胆嚢・膵臓
・・・・
09
小腸・大腸
・・・・
13
問 題
・・・・
17
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消化器系 Gastrointestinal tract (GI tract)
まず、解剖から。消化管の解剖は易しいと思います。一本の管があって、上から口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、
直腸、肛門。小腸は十二指腸 duodenum、空腸 jejunum、回腸 ileum に分けるけれども、機能的には十二指腸とそ
の後、でよい。
Note: 一本の管なので マカロニのようなスキームを描きましたが、もちろん上から下にまっすぐ行くわけじゃなくて、
とくに変なのが大腸のところ、上行して横行して下行する。こういう配置になってるので、食事をするとふくらんだ胃が
横行結腸を刺激して排便をうながす。
消化液をつくる外分泌腺がくっついていて、上から唾液腺は唾液 saliva を口腔に分泌し、肝臓、膵臓はそれぞれ胆
汁 bile、膵液 pancreatic juice を十二指腸に分泌する。胆汁をつくるのは胆嚢ではなくて、肝臓。胆嚢は胆汁を一時
的に溜めて濃縮する。
次に組織。消化管を輪切りにしてみると、その壁が3層からなることがわかる。内腔 (lumen) の方から、粘膜
mucosa、粘膜下組織 submucosa、そして筋層 muscle layer。粘膜は、粘膜上皮 mucosal epithelium、 粘膜固有層
lamina propria、粘膜筋板の3層からなる。筋層は内輪・外縦の2層からなる。内側の筋は輪走している (輪ゴムのよ
うに消化管を取り囲む)。外側の筋は縦走している (消化管の縦軸方向に走る)。内側の筋が収縮すると消化管は細
くなり、外側の筋が収縮すると短くなる。
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血管・神経は粘膜下組織で全周にまわる。あとからでてくるけど、副交感神経の一次ニューロンが二次ニューロンと
シナプスをつくるところが2ヶ所あって、内輪・外縦の2つの筋の間にあるのが筋層間神経嚢 (myenteric plexus) ま
たはアウエルバッハ神経嚢、粘膜下組織にあるのが粘膜下神経嚢 (submucosal plexus) またはマイスナー神経嚢。
それぞれ筋、分泌腺を支配する。
もうひとつ別系統の組織として、MALT: mucosa-associated lymphatic tissue 粘膜関連リンパ組織があり、リンパ球・
マクロファージなど免疫系の細胞がいる。これが消化管にある理由は想像できますね、消化管の内腔は身体の外で
あり、バクテリアなどの外敵・異物がたくさんいる。MALT がとくに発達しているのが扁桃、虫垂。この理由も想像でき
るでしょうか、扁桃は口と咽頭の境い目で、(口から咽頭への) バクテリアなどの進入を防ぎたいところ。虫垂は大腸
と小腸の境い目で、(大腸から小腸への) バクテリアなどの進入を防ぎたいところ。
上の図は基本構造。消化管の部分によってバリエーションがあって、粘膜上皮のところの違いが最も大きく、これは
各々の部分の機能を反映している。下の図で、口から食道までと肛門は「非角化扁平重層上皮」で、それ以外は「単
層円柱上皮」。言葉どおりだと思ってください。「扁平」「重層」はひらべったい細胞が重なりあってること。「角化」する
というのは皮膚のようになることで、「非角化」は、そうはならないということ。単層円柱、はいいですね。
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粘液などを分泌するのは円柱上皮なので、胃から腸。この部分の粘膜は凹凸になっていて、表面積が大きくなって
いる。特に小腸では、この粘膜の突起を絨毛 villi (ビーライと読んで下さい)という。小腸の粘膜上皮の吸収細胞は
細胞一つ一つのルーメン側に小さな毛のような突起をもつがこれは微絨毛 microvilli。
さて次に機能だが、もちろん消化と吸収。消化 digestion とは、食べ物の中の栄養素を吸収できる形にすることで、
機械的消化 mechanical digestion と化学的消化 chemical digestion に分ける。なんとなくわかりますね、機械的消
化は歯で噛み砕くところ(=骨格筋の働き)から始まり、そのあとは消化管の平滑筋によりおこなわれる。化学的消
化の主役は消化液に含まれる消化酵素。吸収は、消化管内の分子を血液またはリンパ液に移動させること。消化は
主に口から小腸までの機能で、吸収は主に小腸・大腸の機能。
栄養 neutrients とはなにか、というのはなかなかたいへんな話だけど、消化に関する限り「炭水化物(多糖類)」「脂
質」「蛋白質」「核酸」の4つと考えてください。この4つは、消化酵素の働きで高分子から低分子に分解されて吸収さ
れる。この4つが狭い意味での栄養素=エネルギー源であり、ATP 産生に用いることができる (=解糖系から TCA
サイクルのどこかのステップに入ることができる)。この4つ以外のいろんな栄養素、ビタミンとか電解質などについて
は、吸収されるために「消化される=分子のかたちが変わる」必要がない。水溶性にしても脂溶性にしても、とにかく
溶けてさえいればよい。この4つのうち、核酸は量的に少ないので、3大栄養素というと「炭水化物」「脂質」「蛋白質」
の3つになります。カップラーメンを食べるときに、ラベルに印刷してある成分表を見てみるように。
消化と吸収以外に、消化管の入り口と出口のところの機能、嚥下 swallowing と排便 defecation は別に考える。そう
する理由は、嚥下と排便は自分の意思でコントロールできるから。口のなかの食べ物を「飲み込もう」と思って飲み込
むことができるし、排便は肛門括約筋を収縮して我慢することができる(しんどいけど)。 自分の意思でコントロール
できるということは、おのおのの機能が随意筋 voluntary muscle (=骨格筋 skeletal muscle)で行われていて、運動
神経の支配下にあることを意味する。嚥下と排便の間の消化・吸収の機能は自分の意思でコントロールできない。
自分の意思でコントロールできないことは、働いてるのは不随意筋 involuntary muscle (=平滑筋 smooth muscle)
で、自律神経の支配下にあることを意味する。
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自律神経による消化器系の支配を復習しておくと、副交感神経はほとんど全て迷走神経 (脳神経 X) から。例外は2
つ、唾液腺は顔面神経 (脳神経 VII) と舌咽神経 (脳神経 IX) に支配され、大腸の後ろのほうから下は仙髄からの
副交感神経に支配される。交感神経は頸部ないし腹部の神経核から。Fight or Rest で、消化・吸収は rest のとき
に行われる。副交感神経は消化管の運動・分泌をともに亢進し、交感神経は抑制する。たいていの場合、副交感神
経は標的の組織のなかに中継核がある (節前ニューロンと節後ニューロンがシナプスをつくるところ)。消化管での
中継核が、上に出てきたマイスナーとアウエルバッハ。ここには描いてないけど、感覚系の神経も分布する。ここらへ
んのことは自律神経のページを見て下さい。
最後に消化液についてまとめておく。外分泌腺により分泌される消化液が3種類、唾液、胆汁、膵液。消化管の粘膜
が分泌するのが2種類、胃液と腸液。化学的消化については、おのおのの消化液がなにを含んでいて、栄養素の消
化にどう関わるか、がわかればよい。
それでは以下は各論、口から順にみていきます。
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口腔 oral cavity 食道 esophagus 胃 stomach
口での機械的消化は、噛むこと=咀しゃく mastication。これで唾液とよく混ぜる。唾液腺は顎下腺 submandibular
gland、舌下腺 sublingual gland、耳下腺 parotid gland の3つ。その分泌は副交感神経により促進され、交感神経に
より抑制される。唾液はほとんど水だけど、消化酵素 digestive enzyme としてアミラーゼを含む。アミラーゼのター
ゲットはでんぷん(多糖類)でこれをオリゴ糖にする。ここら辺の分解過程はあとでまとめます。免疫グロブリン A は分
泌型の抗体で、リゾチームはバクテリアを破壊する酵素。なので、化学的消化に関与するのはアミラーゼだけ。唾液
は一日に 1~1.5 リットル分泌される。当然だけどいろんな分子を溶かす溶媒として働く。
よく噛んだら、嚥下 swallowing。嚥下は咽頭相 laryngeal phase と食道相 esophageal phase の2つの相 phase か
らなる。相 phase という言葉は続けてなにかが起きるときに良く使う。咽頭相では、舌が口腔内の食べ物を後ろに
押しやる。このとき、口腔と鼻腔を遮断するのが軟口蓋(なんこうがい: soft palate)と口蓋垂(こうがいすい:uvula) で、
咽頭と喉頭(気道につながる)を遮断するのが喉頭蓋 epiglottis。これが何かの拍子でうまくいかないと「むせる」こと
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になるわけです。食道相でははいってきた食べ物を蠕動運動 (peristalisis ぺりすたりしす) により胃のほうに送る。
このおかげでわたしたちは逆立ちしてても食事ができる/宇宙飛行士は無重力状態でも食事ができる。咽頭相は舌
筋、咽頭筋で行われる。舌筋、咽頭筋はともに骨格筋で運動神経の支配下。食道相は食道壁の平滑筋で行われ、
自律神経の支配下。
次に胃での機械的消化は胃壁の運動による。胃液とよくまぜることが第一の目的。胃の入り口が噴門 cardia 出口
が幽門 pyrus。幽門には括約筋があって、十二指腸へ素通りしないようになってる。胃粘膜には4種類の上皮細胞
があって、下に示す分子を分泌する。まず、粘液細胞により分泌される粘液。粘液の主成分は糖鎖を多く含む蛋白
質 (ムチン: mucin) で、胃粘膜を覆う。壁細胞により分泌される塩酸 HCl は、胃の中を殺菌し、蛋白質を変性させ、ペ
プシノーゲンを活性化する。内因子はビタミン B12 の吸収に必要な蛋白質。主細胞により分泌されるのはどちらも消
化酵素。ペプシノーゲンは胃の中の酸性条件下で活性化されてペプシンとなる。ペプシンのターゲットは蛋白質。胃
リパーゼのターゲットは脂質。G 細胞により分泌されるガストリンはペプチドホルモンで、ホルモンなので血中へ分泌
され、胃液中にはでない。ガストリンの作用などは後述。
塩酸は危ない。実験室にある濃塩酸のふたを開けると、ものすごい刺激臭がする。もちろんそんな高い濃度ではな
いけれど、胃粘膜が塩酸でやられないのは、粘液で保護されているから。
ペプシノーゲンは不活性型なので、胃粘膜の蛋白質を分解しない。不活性型のプロテアーゼ(蛋白質を分解する酵
素の総称)を分泌して、それが働くべきところで活性化されるというパターンは膵液のところでも出てくる。リパーゼの
ターゲットは脂質の中でもトリグリセリド(=中性脂肪)。グリセロール骨格から脂肪酸をはずす。この話もあとで。
壁細胞が塩酸を分泌するメカニズムはおもしろいところで、炭酸脱水酵素 (carbonic anhydrase) が主役。この酵素
は血液による炭酸ガスの運搬のところでもでてくる。炭酸脱水酵素は下の図に示す反応でプロトン(H+) と重炭酸イオ
ン (HCO3-) を発生させる。プロトンはポタシウムと交換で内腔側へ移行し、重炭酸イオンはクロライドと交換で血中
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へ移行する。クロライドは内腔側へ運ばれるので結果として HCl が分泌されることになる。血中への重炭酸イオンの
移行のため、食後血液の pH はアルカリ側に傾く。
粘膜下組織にいる肥満細胞はヒスタミンを分泌し、ヒスタミンは壁細胞からの塩酸の分泌を亢進させる。壁細胞のヒ
スタミン受容体は H2 受容体で、H2 受容体のブロッカーは胃潰瘍 (胃粘膜の塩酸による破壊) の治療薬である。
胃液の分泌は一日あたり1リットル程度で、その分泌量は3つの相 phase で調節される。脳相 cepharic phase で
は、食べ物を見ること、臭いをかぐこと、口腔内に食べ物がはいることなどが副交感神経を興奮させ、胃液の分泌を
促進する。胃相 gastric phase では、胃の中に食べ物がはいり、胃内の pH が上がることにより G 細胞からガストリ
ンが分泌され胃液の分泌を促進する。腸相 intestinal phase では十二指腸内の糖・アミノ酸の存在、pH の変化など
により、モチリンなどのペプチドが内分泌され、胃液の分泌を調整する。脳相は神経性の調節、 胃相と腸相は内分
泌性の調節であることがポイント。
胃で十分に胃液とまぜあわされた食物は幽門から少しずつ小腸へ移行する。少しずつ、というところもポイントで、食
物を一時的に貯めこむことも胃の重要な機能。日本語で胃袋と呼ばれるわけですね。胃袋に対応する英語は知らな
い、誰か知ってたら教えて下さい。
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肝臓 胆嚢 膵臓 liver, gall bladder, pancreas
十二指腸には、胆汁 bile と膵液 pancreatic juice が分泌される。胆汁は肝臓でつくられ、胆嚢で濃縮されて総胆管
から十二指腸へ。膵液は膵管から。総胆管と膵管は最後のところでいっしょになってファーター乳頭で十二指腸につ
ながってる。ファーター乳頭には括約筋 (sphincter of Oddi) があって、逆流を防いでいる。
肝臓の別名は「代謝の工場」。その機能は多岐にわたり、特に、栄養素 neutrients が体内に吸収されたあと、それ
を形をかえて利用する、輸送する、貯蔵するなどの全てのステップの主役。そういう働きについては「栄養と代謝」の
講義で力いっぱいでてくるのでここでは省略。消化・吸収の過程に関する限り、肝臓は「胆汁を分泌する外分泌腺」と
考えてよい。
胆汁は例によってほとんど水。ここしかないという成分が2つあって、胆汁酸 bile acid と胆汁色素 ビリルビン
billirubin。胆汁酸は化学の言葉ではデオキシコール酸とコール酸。どちらもデタージェント detergent。Detergent を辞
書でひくと「洗剤」だけど、これが生化学ででてくると「可溶化剤」のことで、水に溶けないものを溶けるようにする薬物
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一般。胆汁酸のやってることはちょっと違う。脂肪滴 lipid droplet に働いてこれを小さくする。この働きを難しい言葉で
は「乳化 emulcification」と呼び、できた小さな油・胆汁酸のかたまりを「胆汁酸ミセル」と呼ぶ。とんこつラーメンのス
ープに油が浮いてますね、これは脂肪滴 lipid droplet で目に見えるほど大きい。胆汁酸ミセルは見えません。デオキ
シコール酸とコール酸はどちらもコレステロールから合成される。
もうひとつのビリルビンはヘム heme の代謝産物。 赤血球はつねに産生され、古くなったのは壊されている。赤血球
の主成分はヘモグロビンで、これはグロビンとヘムと鉄。ここらへんのことは血液のページで。 ビリルビンは大腸に
いる腸内細菌により代謝されステルコビリンになる。ステルコビリンは茶褐色でこれが便 fece の色。総胆管の閉鎖
などの原因で胆汁が腸内にでてこなくなると、「白色で、脂肪を多く含む便」になる。白いのはなぜ?脂肪を多く含む
のはなぜ?
次に膵液。これは重炭酸イオン
を含むのでアルカリ性で、やって
きた胃液を中和する。膵液には
たくさんの消化酵素が含まれて
いて、右のリストを見てください、
たくさんあっていやになるけど、
4つの栄養素「炭水化物=多糖
類」「蛋白質」「脂質」「核酸」のど
れを分解するものかがわかれば
十分です。アミラーゼ、リパ-ゼ
はもうどこかででてきましね・・・
唾アミラーゼ、胃リパーゼ、です
が分子としては別物です。
胃液中のペプシンが不活性型=ペプシノーゲン
で分泌されて胃のなかで活性化されたように、膵
液中のプロテアーゼ(蛋白質を分解する酵素の
総称)も不活性化型で分泌されて腸のなかで活
性化される。上のリストで、左の名前が不活性型、
右の名前が活性型。活性化するメカニズムはち
ょっとややこしいけど、プロテアーゼのカスケード
反応。右の図で、分泌された(不活性型の)トリプ
シノーゲンはエンテロキナーゼの作用で(活性型
の)トリプシンになり、トリプシンは(不活性型の)
キモトリプシノーゲンに働いてこれを(活性型の)
キモトリプシンにする。描いてないけど、プロカルボキシペプチダーゼ、プロエステラーゼもキモトリプシノーゲンと同
様にトリプシンにより活性化される。エンテロキナーゼは十二指腸の上皮細胞がつくる。
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胆汁、膵液の分泌はどちらも十二指腸の上皮細胞がつくるホルモンにより調節されている。十二指腸内の pH が下
がる (胃液と混合された食べ物がやってくる) と、CCK-PZ (cholecystokinnin-pancreozymin) が分泌される。
CCK-PZ の日本語名はありません、でも読んでもらうとそのままの意味です、胆嚢を収縮させて胆汁の排出を促進し
(cholecystokinnin)、膵臓からの重炭酸イオンの分泌を亢進させる (pancreozymin)。もうひとつ、十二指腸の上皮細
胞が蛋白質の分解産物などで刺激されて産生するのがセクレチン secletin。これは膵臓に働いて消化酵素の分泌
を亢進させる。ここまで消化管ホルモンがいくつかでてきたけど、全てペプチド。
肝不全 hepatic failure
肝臓の機能が低下すると、ビリルビンの排出がうまくいかないのでその血中濃度が増加し(=高ビリルビン血症)、ひ
どい場合には皮膚が黄色くなる(=黄疸 jaundice)。黄疸が最もわかりやすいのは眼球結膜。溶血性貧血で赤血球
の破壊が亢進しているときにも高ビリルビン血症になるけれども、黄疸といったらまず肝機能不全を疑う。肝機能不
全=「代謝の工場」がうまく働かない状態だから他にもいろんなことが起きる。尿素サイクルの処理能力の低下によ
る高アンモニア血症、凝固因子の合成低下による出血傾向などが特徴的。お酒の飲みすぎで GOT/GPT の値が上
がって、なんてのは中高年男性の会話ですが、GOT/GPT はともに肝細胞に多量に含まれる酵素なので、肝細胞の
破壊によりその血中濃度が増加する(逸脱酵素という呼び方をすることもある、肝細胞から逸脱してきた、というこ
と)。
Note: GOT=AST, GPT=ALT
GOT (Glutamic-oxaloacetic acid transaminase)、GPT (glutamic-pyruvic acid transaminase) は最近名前が変わりま
した。各々、AST (aspartate aminotransferase)、ALT (alanine aminotransferase) で、こちらのほうが標準なのだそう
です。どちらもアミノ-トランスフェラーゼだから、アミノ酸のアミノ基を他の分子に移す働きを持っていて、尿素サイク
ルの初めのところで出てくる酵素です。また、ビリルビンについては直接・間接ビリルビンという検査項目がでてきま
すが、血液のページ(ヘム代謝のところ)で説明します。
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小腸 small intestine
小腸では消化の最終段階が行われ、ほとんど全ての栄養素がここで吸収される。小腸上皮には下の図に示す突起
がぎっしり並んでいてこれが絨毯の毛のようなので絨毛 (villi)。さらに吸収細胞一つ一つの内腔側にも小さな突起が
いっぱいあって、これが微絨毛 (micovilli)。微絨毛のびっしり並んだところは顕微鏡下では「刷毛:はけ」の毛のよう
に見えるので刷子縁(さっしえん: brush border)と呼ぶ。絨毛・微絨毛があるので、小腸上皮の表面積は成人でテニ
スコートくらいの広さになるそうです。どうやって計算したんだ、と言いたくなりますが・・・
上皮細胞には下に示す4種類の細胞がある。まず、微絨毛の生えている吸収細胞。これはその名のとおり吸収を一
手にひき受ける。と同時にいろんな消化酵素を産生していて、これらの酵素は刷子縁にとどまるので刷子縁酵素
brush border enzyme と呼ばれる。下のリストのようにいろいろあるけど、例によってどれを分解する酵素かがわか
れば十分。刷子縁酵素の働きで炭水化物、蛋白質、核酸は最終的に吸収できるかたちになる。そのほか、粘液を分
泌する杯細胞、リゾチーム(これもどこかででてきましたね)を分泌するパネート細胞。さらに十二指腸では、胆汁・膵
液の分泌調節のところででてきたように、消化管ホルモンを分泌する細胞がいる。
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炭水化物の分解・吸収
炭水化物、蛋白質、脂質、核酸の各々について、その化学的消化のステップをまとめる。まず、炭水化物=多糖類と
はその名のとおり、糖がたくさんつながったもの。これがアミラーゼで二糖類・オリゴ糖(オリゴというのは短い、少な
いくらいの意味)まで分解され、刷子縁酵素で単糖類まで分解されて吸収される。
蛋白質の分解・吸収
蛋白質はアミノ酸がつながったのもので、この化学的消化は炭水化物のそれに似てますね、胃液・膵液のいろんな
プロテアーゼでペプチド(短い蛋白質、と思ってください)に分解され、さらに刷子縁酵素でアミノ酸までバラバラにさ
れて吸収される。一部ダイペプチド、トリペプチドで吸収されるものもある(=ダイペプチド、トリペプチドを通すトランス
ポーターが存在する)。
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Note. 機能性食品のうそ
蛋白質は体内でいろんな機能をもつ。それで、蛋白質を含む食品を機能性食品と称して「身体にいいですよ」と売り
込む。例えば、コラゲンはお肌の若さを保ちます、この食品には大量のコラゲンが含まれているので、お肌の若さを
保つのに有効です。これほとんど詐欺なんだけど、どこが嘘かわかります?
繰り返すと、蛋白質は消化管内で大部分がアミノ酸まで分解される。当然その機能は失われる。例えば糖尿病の患
者さんはインスリンを皮下注射しないといけない、経口では効かないのはこれが理由です。コラゲンだって蛋白質だ
から、消化管内でばらばらになる。
ところが、例外があるんですね、ある種の蛋白質については、どう見ても一部その機能を保ったまま(=アミノ酸まで
ばらばらにされないで)吸収されるようです。有名なところでは BSE bovine spongiform encephalopathy:牛海綿状脳
症があります。皆さんテレビで見たことがあるでしょう、牛がふらふらになってて歩けない。原因はプリオン prion と
いう蛋白質の異常。変異型プリオンは牛の神経系に濃縮される、これが混入した牛肉を食べるとヒトでも発症する可
能性がある。この場合、変異型プリオン蛋白質はその機能を保ったまま吸収されると考えざるをえません。もっと身
近なところでは食品中の蛋白質に対するアレルギー反応があります。消化管にある蛋白質が入ってきた、それに対
して免疫反応を起こすとすると、その蛋白質の少なくとも一部は抗原性を保ったまま吸収されているはずです。さらに、
これは新生児に限って起きることですが、母乳中の免疫グロブリンがその活性を保ったまま吸収される。こういう例
があるから、コラゲンの詐欺商法ももっともらしく聞こえることになります。
中性脂肪(トリグリセリド)の分解・吸収
脂質にはいろんな種類があるけど、栄養素としては中性脂肪が主役なので、これについてだけ示します。中性脂肪
=トリグリセリド triglyceride はカーボン3つからなるグリセロールに脂肪酸が3つついてる。 こいのぼりをイメージし
てください。つないでる さお がグリセロール、泳いでるこいのぼりが脂肪酸。3匹だとトリグリセリド、2匹はダイグリ
セリド diglyceride、一匹はモノグリセリド monoglyseride。こいのぼりをはずす酵素がリパーゼ。 中性脂肪はリパー
ゼによりモノグリセリドと脂肪酸にまで分解されて吸収される。
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核酸の分解・吸収
最後に核酸。DNA(デオキシリボ核酸)・RNA(リボ核酸)の構造は生化学・遺伝学で勉強してください。DNA は塩基
(AGCT)と糖(デオキシリボース)に分解され、RNA は塩基(AGCU)と糖(リボース)に分解されて吸収される。
こうやって消化された分子が吸収される=消化管内から血液またはリンパ液に移行するんだけど、この過程はおの
おのの分子でてんでばらばらなので省略。教科書には拡散 diffusion、促通輸送 facilitated transport、能動輸送
active transport などいろんな言葉がでてきますが、栄養素はいろんなメカニズムで小腸上皮の吸収細胞に (消化管
から) とりこまれて、(血液またはリンパ液に) 輸送される、ぐらいの理解で十分です。
大腸 large intestine
最後に大腸。栄養素の吸収はほとんど全て小腸で行われ、大腸はあまり関与しない。水、電解質についてもその
90%以上は小腸で吸収され、残りの一部が大腸で吸収されるに過ぎない。けれども、大腸での水、電解質の吸収は、
吸収量の調節を行うという点で重要。吸収量が少なすぎると下痢 diarrhea になる。下痢をしたことがないというひと
はいないでしょうね、精神的ストレスから感染症までいろんな原因がある。下痢なんて、と侮ってはいけません、重度
の下痢は特に小児、高齢者では脱水の原因になります。逆に吸収量が多すぎると便秘 constipation。
大腸では、腸内細菌が残った炭水化物を発酵させ水素ガス、メタンガス(燃える!)を発生させる。腸内細菌により、ア
ミノ酸はインドール、スカトール、硫化水素などに分解され(これは臭いそう)、ビリルビンはステルコビリンになる(そ
れで、便は茶褐色)。
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問 題
(1) 唾液について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
消化酵素は含まれない。
交感神経刺激により分泌が亢進する。
リゾチームを含む。
食事中の成分の溶媒として働く。
(2) 胃液について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
副交感神経刺激により分泌が亢進する。
ガストリンを含む。
ペプシノーゲンを含む。
酸性である。
(3) 胆汁に含まれるのはどれか?
1.
2.
3.
4.
デオキシコール酸
ビリルビン
キモトリプシノーゲン
重炭酸
(4) 膵液に含まれるのはどれか?
1.
2.
3.
4.
アミラーゼ
リパーゼ
キモトリプシノーゲン
重炭酸
(5) 腸液に含まれるのはどれか?
1.
2.
3.
4.
スクラーゼ
ヌクレオシダーゼ
塩酸
ビリルビン
(6) 蛋白質を分解する消化酵素はどれか?
1.
2.
3.
4.
リパーゼ
マルターゼ
ペプシン
キモトリプシン
(7) 炭水化物(多糖類)を分解する消化酵素はどれか?
1.
2.
3.
4.
アミラーゼ
マルターゼ
ラクターゼ
デキストリナーゼ
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(8) 脂質を分解する消化酵素はどれか?
1.
2.
3.
4.
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
A. 1
B. 1, 2
C. 1, 3, 4
D. 1, 2, 3, 4
E. 3, 4
リパーゼ
リゾチーム
ペプシン
ヌクレオシダーゼ
(9) 核酸を分解する消化酵素はどれか?
1.
2.
3.
4.
リボヌクレアーゼ
デオキシリボヌクレアーゼ
フォスファターゼ
ヌクレオシダーゼ
(10) 消化管ホルモンの作用について正しいのはどれか?
1.
2.
3.
4.
解答
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
ガストリンは胃液の分泌を亢進させる。
CCK-PZ は胆嚢を収縮させる。
セクレチンは膵液の分泌を亢進させる。
CCK-PZ は膵液の分泌を亢進させる。
E
C
B
D
B
E
D
A
D
D
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