超3D 造形技術プラットフォームの開発 〜マイクロ・ナノ光造形による

3PM-B01
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
超3D 造形技術プラットフォームの開発 〜マイクロ・ナノ光造形によるオープンイノベーション〜 横浜国立大学大学院 工学研究院 丸尾 昭二
1. はじめに 近年、3D プリンティング技術が大きな注目を集めて
いる。家庭用の卓上サイズの造形装置から、数 m サイズ
の工業製品を造形する産業用の大型装置まで多種多彩な
造形装置が開発・販売されている。我々は、約 20 年に渡
って、フェムト秒(fs)レーザーを用いてマイクロ立体
構造を形成する「2 光子マイクロ光造形法1」」に関する
研究開発に取り組んでいる。この造形法は、約 100nm の
加工線幅で自在に3次元構造体を形成できる。
このため、
最も高精細な3D プリンターとして、フォトニクス、MEMS、
医療など幅広い分野への応用が検討されている。 我々は、
昨年 10 月から、
マイクロ光造形法を実用化し、
従来技術では加工が困難な形状や材料を用いて高付加価
値製品を創出する研究プロジェクト(内閣府・戦略的イ
ノベーション創造プログラム:SIP)を開始した。本プロ
ジェクトでは、従来法の限界を超えて、より高速な造形
が可能なナノ光造形装置、積層段差が極めて小さい全方
位型マイクロ光造形装置を開発する。また、マイクロ光
造形で作製した樹脂鋳型を用いて、さまざまなセラミッ
クス機能デバイスや人工臓器の開発を行う。さらには、
マイクロ光造形の応用分野を活用し、新たなビジネスを
探索するために、
普及型マイクロ光造形装置を開発する。
そして、平成 27 年 10 月に、この普及型装置を神奈川県
産業技術センターに設置し、会員企業が自由に活用でき
る公的試作ラボを立ち上げた。 本稿では、我々の SIP プロジェクトの研究内容と、オ
ープンイノベーションの核となる普及型マイクロ光造形
装置の性能について詳しく紹介する。
2. SIP プロジェクト「超3D 造形技術プラットフォー
ムの開発と高付加価値製品の創出」 本プロジェクトでは、4つの主要な研究課題に取り組
んでいる。第一は、2 光子マイクロ光造形法1を発展させ
て、100nm 以下の加工線幅を実現するナノ造形法の確立
である。ナノ造形を実現するには、光硬化性樹脂を硬化
させる fs レーザーに加えて、
硬化を阻害する半導体レー
ザーをドーナツ状に照射して、硬化領域を集光スポット
以下のサイズに限定させる。現在、この原理に基づくナ
ノ造形装置を開発中である。 第二に、従来の一方向の積層ではなく、3D モデルのあ
らゆる方向から積層造形が可能な全方位造形法の開発を
行っている。この方法には、我々が提案・開発した光フ
ァイバーマイクロ光造形法を適用する。光ファイバーを
物体の表面形状に応じて傾けることで、積層段差が極め
て小さい3次元造形が可能となる。これまでに、小型ロ
ボットアームシステムを用いて、
光ファイバーを保持し、
一方向への積層造形を実証した。今後、光ファイバーを
所望の角度に傾斜させて積層段差のない滑らかな曲面を
有する3次元造形を実証する。 第三に、光造形を用いて作製した樹脂モデルを鋳型に
用いて、セラミックスや人工臓器などを作製するソフ
ト・ハード鋳型技術の開発と応用に取り組んでいる。本
手法では、樹脂鋳型にセラミックススラリーを注入後、
樹脂モデルを焼失し、焼結することで3D セラミックス
構造を作製できる。
これまでに、
シリカ製マイクロ流路、
バイオセラミックス足場、圧電セラミックス振動発電素
子などを試作している。また、横浜国立大学の福田淳二
准教授が提案・開発中の人工肝臓を作製するために、血
管形成用の3D 金属鋳型の作製にも取り組んでいる。 3. 普及型マイクロ光造形装置の開発 現在、市販されている光造形装置は、大きく2つに分
類される。1つは紫外レーザーを用いた造形法で、加工
線幅は数μm が限界である。一方、2 光子マイクロ光造形
を基礎とする実用機も販売されているが、加工線幅は数
100nm と非常に細く、1μm 程度の加工線幅で、ハイアス
ペクト比構造や自由曲面をもつ高精度なモデルを作製す
る技術が欠如している。そこで、我々は、青色レーザー
を用いて 0.5μm〜10μm の加工線幅で 3 次元モデルを自
在に造形できる普及型マイクロ光造形装置の開発を行っ
ている。本装置では、fs レーザーを用いないため、装置
コストは従来の 2 光子造形装置の 1/10 程度である。 普及型装置では、2 光子造形法と同様に樹脂の内部に
レーザー光を集光させて、焦点近傍の樹脂のみを選択的
に硬化させる。このためサブミクロンの加工線幅を実現
できる。
また、
集光レンズの開講数を小さくすることで、
ミリスケールの造形物も作製できる。図1は、本造形法
を用いて作製した立体構造の例である。このように、廉
価でコンパクトな装置でありながら、マルチスケールな
高精度造形が可能である。 4. 産学官連携によるオープンイノベーション 現在、我々は、本装置を会員企業の方に活用いただく
ために、産学官連携組織「超3D 造形ものづくりネット
ワーク」を立ち上げた。本ネットワークに加入いただく
ことで、SIP プロジェクトの最新情報が入手できるとと
もに、普及型装置を自由に活用できる。3D プリンター
に利用してみたい材料を所有されている方、あるいは 3
次元マイクロ構造体を用いた応用デバイスを検討されて
いる方など、是非とも利用を検討していただきたい。 図 1 普及型造形装置による造形例(数μm〜数 mm サイ
ズの3D 樹脂モデルを造形可能) 文献 1)丸尾昭二,日本機械学会誌,第 118 巻,26-29 (2015). 3PM-B02
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
Direct Slicing による付加製造データの高精度化
横浜国立大学大学院 工学研究院
横浜国立大学大学院 工学府システム統合工学専攻
1. はじめに
付加製造では、
3D-CADモデルをSTereo-Lithography
(STL)データに変換し、平面でスライス(slicing)して
層状の断面データを作成した後に各層の tool path を計
算している。しかし、STL データへの変換には多くの欠
点があることが知られている。特に自由曲面を有する形
状をメッシュ化する際の欠点として、形状精度の低下、
メッシュ数の増大、メッシュの欠損、トポロジーの変化
(穴が開いたり塞がってしまう)等が挙げられる[1]。
一方、direct slicing 手法は 3D-CAD モデルから STL
データへの変換を経ずに直接断面データを生成する手法
であり、データ精度の向上やデータ量の大幅な削減が見
込まれる[1]。しかし、従来の direct slicing 手法は対象物
体の形状データのみに適用されており、内部の材料配合
率等の特性データは考慮されていない。そこで本研究は、
形状・特性データを有するモデルに対して direct slicing
手法を適用し、各層の tool path を生成する方法を提案
する。
2. 特性データの B-spline 関数によるフィッティング
本研究では、CAD の代表的な表現法である B-spline
関数で表現された形状・特性データを用いる。ここで、
形状データの B-spline フィッティングの研究は数多く
行われている[2]一方で、特性データの B-spline フィッテ
ィングに関する研究はほとんど行われていない。したが
って、本研究では形状データの B-spline 関数は既知であ
るとし、特性データのフィッティングをすることからは
じめる。
一般に B-spline フィッティングは線形システムを解
く必要があるが、本研究では線形システムを解かずに反
復幾何処理手法[3]を採用してフィットする。この手法は
入力データと B-spline 関数との誤差を反復的に減少さ
せる手法であり、従来法と比べると実装が容易であり、
精度に合わせたフィットが可能である等の利点がある。
Fig. 1 の例では、物体表面からの離散的な距離情報を
入力の特性データ(Fig. 1(a))として、反復幾何処理手
法を用いて B-spline フィッティングを行っている(Fig.
1(b))
。
3. Direct slicing
本研究では ray-tracing 法を用いて各層の断面データ
を作成する。まず、スライスする平面を定める(Fig. 1(c)
参照)
。次にこの平面上で ray を飛ばし、物体表面との
交点、ならびに物体内部における任意の特性値の
contour line との交点を求める。この交点計算を、平面
上で等間隔に配置したすべての ray について行うことで、
断面データを得ることが出来る(Fig. 1(d)参照)
。さらに、
求めた交点を入射点である entry point と外に出る exit
○前川 卓
佐々木 雄飛、竹澤 正仁
point に分類し、それらを結ぶことで tool path を求める
ことが出来る。
Fig. 1 の例では、物体表面からある距離までは材料 A
で、内部は材料 B で構成されるモデルを生成する際に、
その境界線を考慮した tool path を求めている。
4. まとめ
本研究では特性データを B-spline 関数でフィットし、
direct slicing 手法を適用することで、特性データを考慮
した tool path を生成した。今後は本手法と STL データ
への変換を経る従来法との比較をする予定である。
(a)
(b)
(c)
(d)
Fig.1 Direct slicing of the tooth model. (a) Input data.
(b) Fitted result. (c) Sliced by a plane. (d) Tool path.
(Tooth model is courtesy of Prof. Hongwei Lin. [2])
5. 参考文献
[1] B. Starly, A. Lau, W. Sun, W. Lau, and T.
Bradbury. Direct slicing of STEP based NURBS
models for layered manufacturing. Computer-Aided
Design, 37: 387-397, 2005.
[2] H. Lin, S. Jin, Q. Hu, Z. Liu. Constructing
B-spline solids from tetrahedral meshes for
isogeometric analysis. Computer Aided Geometric
Design, 35-36: 109-120, 2015.
[3] Y. Kineri, M. Wang, H. Lin, and T. Maekawa.
B-spline surface fitting by iterative geometric
interpolation/approximation algorithms. ComputerAided Design, 44(7): 697-708, 2012.
3PM-B03
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
ナノインプリント技術の基礎・応用例と高精細 3D プリンティングに対する期待
株式会社協同インターナショナル 電子部技術 三田正弘
3.ナノインプリントの応用例
1.はじめに
ナノインプリント加工技術のポイント解説と応用
例の説明及び高精細 3D プリンティング技術との融
表 2 はナノインプリント品の用途・特徴を示した
ものである。
合によるアプリケーション創出について紹介をおこ
なう。
2.ナノインプリントの基礎技術
表2
次にバイオミメティックス(生物模倣)の応用例
を示す。図 4 は蓮の葉表面を観察したものであり、
図 5 は実際に蓮の葉から転写したものである。
下図 1~3 は、離型処理の有無による転写性を確認
した結果である。
図 1:離型処理なしの金型
図 2:図 1 の金型にて、熱転写された樹脂
図 3:離型処理された金型を用いて転写された樹脂
図4
図5
また、水を滴下し接触角を確認した。
その結果、UV 硬化樹脂材の選定にもよると考えるが
概ね良好な転写結果が得られた。
図1
図2
蓮の葉:170°
転写品:145°
転写なし:45°
図3
表 1 は同じパターンデザイン 3 種類のモールドを
蓮の葉
転写品
転写なし
用いて、UV 硬化樹脂転写を行い、垂直に離型した際
の抵抗力を測定したものである。
4.高精細 3D プリンティングへの期待
今後、益々微細化が進む電子・光学・バイオ・医
療などの分野において、ミリ~マイクロ~ナノのサ
イズ全ての加工が可能であり、その組み合わせによ
り、特殊な構造体(金型・鋳型を含む)を安価に高
速で作製できる期待は大きいと考える。
表1
以上
3PM-B04
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
3D プリンタ技術を機軸としたものづくり支援事業と将来への期待
SOLIZE Products 株式会社
1. はじめに
3D プリント技術は、1980 年代前半に米国 UVP 社
Charles W Hull 氏(現 3D Systems 社 Co-Founder and
CTO)によって、液体樹脂を紫外線レーザーで硬化させ
て立体造形物を作る技術を高速三次元成形試作および製
造(Rapid Prototyping and Manufacturing :RP&M)
として誕生した。
その後、自動車業界や家電業界を中心に、近年では航
空宇宙業界、医療分野など様々な分野で、開発支援のツ
ールとして使用されおり、レーシングカーの風洞実験モ
デル、航空機の風洞機体、医療用の人工骨モデルなど、
これまで開発段階では確認できなかった性能評価や、製
作困難だった部品の加工を実現可能にしている。
当社は 1990 年に国内で初の 3D プリントのサービス
ビューローとして起業し、国内を中心にお客様の製品開
発支援を 25 年続けてきた。今回は、本年から立上げを
行っている金属材料での造形に関して紹介する。
2. 3D プリンタの種類
3D プリンタの技術は、Additive Manufacturing(=
付加製造、略して AM)として、2009 年に The American
Society for Testing and Materials(ASTM) の
International Committee F42 において正式に定義され
ている。ここでは、表 1 に示すように、材料を 3 次元に
造形する技術を 7 つに分類している.
3D プリンタの技術は汎用性が高く、液体材料の代わ
りに樹脂や金属の粉末材料を使用する、また紫外線硬化
の代わりに熱可塑性や熱溶融での技術が開発され、強度
や耐熱性などが向上し、適用範囲が広がっている。
この中で、金属の粉末材料を造形する技術は、1980
年後半に米国 DTM 社(現 3D Systems 社)において工
法として確立され、図 1 に示すようなレーザーと電子ビ
ームを用いて造形する 2 つの工法が多く使用されている。
金属造形は、液槽光重合や材料押出、結合剤噴射 等とは
異なり量産に適用することを目的として使用される事が
多く、現在最も注目されている技術である。海外では、
医療業界や航空機業界などで、実用化に成功した事例が
出始めている。
表 1. 3D プリンタの分類
造形方式
概要
材料
装置メーカー
シート積層
シート状の材料を層毎にレーザーやカッターで切断 紙、樹脂、金属
Moor Technologies(アイルランド)
Sheet Lamination
しながら積み重ねて行く積層方法
Fabrisonic(USA)
液槽光重合
液槽に溜めた光硬化性樹脂をレーザー等により、部 光硬化性樹脂、
3D Systems(USA)
Vat Photopolymerization
分的に選択し硬化させ積層する造形方法
シーメット(JPN)、ディーメック(JPN)
材料押出
加熱する事により、溶融状態になる樹脂をノズルよ 熱可塑性樹脂
Stratasys(USA)
Material Extrusion
り押出し積層させる造形方法
3D Systems(USA)
結合材噴射
液状の結合材をノズルより噴射して、粉末材料を結 樹脂、金属、砂、 3D Systems(USA)
Binder Jetting
合させる積層造形方法
材料噴射
液状材料をノズルより噴射し、選択的に積層させる 光硬化性樹脂、
Stratasys(USA)、3D Systems(USA)、
Material Jetting
造形方法
ディーメック(JPN)、キーエンス(JPN)
粉末床溶融結合
粉末材料の特定領域をレーザーや電子ビームの熱エ 金属、樹脂、
ARCAM(スウェーデン)、3D Systems(USA)、
Powder Bed Fusion
ネルギーで選択的に溶融・結合させる積層造形方法 セラミック
EOS(ドイツ)、SLM(ドイツ)、Concept laser(ドイツ)、
セラミック
石膏、セラミック ExOne(USA)、Voxeljet(ドイツ)
ワックス
Realizer(ドイツ)、
アスペクト(JPN)、松浦機械製作所(JPN)
指向性エネルギー堆積
金属材料を供給しながら、レーザー等で熱エネル
Directed Energy Deposition
ギーを与え、溶融・堆積させる造形方法
金属
Optomec(USA)、TRUMPF(ドイツ)、
DMG森精機(JPN)、ヤマザキマザック(JPN)
後藤 文男
(a)粉末床溶融結合
(b)指向性エネルギー堆積
図 1 造形方式
3. 金属造形への取組み
弊社では、フランスのフェニックス・システムズ社(現
3D Systems 社)が製造する金属粉末造形機を導入した。
この装置の特徴は、金属粉末をプレスすることで、粒径
が小さい材料を高密度で造形することができる。表面の
粗さも他社の装置と比較して高い精度で造形が可能であ
る。
また、
複雑な形状でも 1 回で造形できる
(図 2 参照)
。
金属材料は、マレージング鋼、ステンレス、アルミ、
インコネルの 4 種類を用意して順次立ち上げを行ってい
る。造形以外に、熱処理や機械加工などの二次加工の導
入も計画しており、最終製品として使用できるレベルの
物性、品質を目指している。
図 2 インペラの金属造形品
4. まとめ
日本の製造業は、高いものづくり技術をベースに成長
してきた。新しいものつくりイノベーションへ取り組み
の一環として、3D プリンタ技術は大変有意義であると確
信しているが、国内での取り組みは欧米に比べ大変遅れ
ている。気付いた時には製造業の優位性が失われないか
弊社は、樹脂の造形を行ってきたが、新たに金属の造
形を行い、3D プリンタ技術の発展と普及を目指し、国内
の製造業支援に貢献して行きたいと考えている。
3PM-B05
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
レーザーを用いた紙と鉛筆によるグラフェン成長
神奈川県産業技術センター 電子技術部
○金子 智、安井 学、黒内 正仁、小沢 武
機械・材料技術部
良知 健
化学技術部
田中 聡美、加藤 千尋
(公財)神奈川科学技術アカデミー
牛山 幹夫、伊藤 裕子、小沼 誠司
はじめに
炭素原子一層から成るグラフェンは新しい物理を含ん
だ新素材として注目されている。グラファイトをスコッ
チテープで繰り返し剥がす方法や化学気相法(CVD法)、
シリコン・カーバイトの熱分解法などにより作製されて
いる。しかし、引き剥がし法では大きなグラフェンが作
製できず、CVD法では触媒を必要とするため製膜後に膜
の張り替えが必要となる。また、シリコン・カーバイト
の熱処理には高温が必要となる。
本発表では、鉛筆で塗り潰した紙に、フェムト秒レー
ザー装置を用いてレーザー照射することでグラフェンの
成長が確認できたので報告する。鉛筆と紙というありふ
れた材料を使う手法であるが、最近では紙に鉛筆で描い
た歪みセンサーや化学センサーも報告されていている。
鉛筆の芯はグラファイトと粘土、ワックスで構成されて
いて、表1に示すように、その比率によりグレードが決
まっている。Hはハードネス(hardness)、Bはブラック
(black)であり、その他にもFというグレードもある。F
はファイン(fine)を示す。鉛筆と紙を用いる本手法は、作
製は室温で行われ、真空を必要としないため、高効率な
グラフェン作製が期待できる。
実験方法
9Hから10Bのグレードの鉛筆を用意して、各種の紙を
塗り潰した。用いた紙は、PC用印刷用紙、ケント紙、写
真画質のPC印刷用紙、銀塩写真用印画紙である。フェム
ト秒レーザーの照射前に、マルチメーターによる抵抗値
の測定とラマン測定の評価を行った。レーザー照射の実
験条件は入射口径を50μmとして、出力を0〜100mWま
で可変させた。また、レーザーの走査スピードは最大で
毎秒3,000μmとした。鉛筆での塗り潰しを実際に行った
ところ、紙の種類によっては繊維質が多く、一様に塗り
潰すことが困難であると分かった。PC印刷用紙ではある
程度は一様に塗る潰すことが可能だが、レーザー照射に
より炭化することもあったため、レーザー照射には銀塩
写真用印画紙を用いた。
結果と考察
各種グレードの鉛筆によるレーザー照射前の抵抗値の
図 1 グレードによる抵抗値の違い
図 2 ラマンのスキャン速度依存性
評価を図1に示す。5H以上の硬度では抵抗値が高過ぎて
測定不能であった。グレードによりカーボンが増えると
抵抗値が下がっているのが分かる。これ以降、カーボン
含有量の多いと思われる10Bの鉛筆で実験を進めている。
また、レーザー照射前のラマン測定でも、10Bの鉛筆か
らグラファイトに近いスペクトルを得られている。そこ
で、銀塩写真用印画紙を10Bの鉛筆で塗り潰した後に、
レーザーの出力とスキャン速度を変えた照射実験を行い、
レーザー照射条件の最適化を行った。図2にレーザー出
力を5mWと一定として、スキャン速度を変えた時のラ
マン測定を示した。ラマン測定では一般的に、グラファ
イトに近くなるとDピークが消えてGピークのみになり、
グラフェンではG’ピークが現れる。この結果からスキャ
ン速度が毎秒1,000μmの時にG’ピークが確認され、グラ
フェンが成長していることが分かった1)。
参考資料
1) S.Kaneko et.al. Jpn. J. Appl. Phys. (inprint)
http://arxiv.org/abs/1508.00304
表1 鉛筆のグレード
3PM-B06
平成27年 神奈川県ものづくり技術交流会 予稿
電子線描画装置によるサブミクロンパターンの試作
神奈川県産業技術センター 電子技術部
1. はじめに
電子線(EB: Electron Beam)描画はスループットが低
い短所があるが、光で不可能な微細パターン描画が可能
1)という長所をもつ微細加工技術である。
当センターでは 2015 年に電子線描画装置(Elionix 社
製 ELS-S50)が新規に導入された。EB 描画ではサブミ
クロンレベルの微細なパターンの形成には近接効果 2)の
影響を受けるため、EB 描画する図形と実際に形成され
る構造体の間でサイズの差が生じやすく、また最適なド
ーズ量の予測はシミュレーションを利用しない限り難し
い。本報告では一例として、ハーフピッチ 100nm の線
幅(L)/線間隔(S)を持つレジストのサブミクロンパターン
を試作して、描画条件を検討した。
2. 実験方法
3 インチシリコン基板上にポジ型の EB レジスト
(Gluon Lab 社、gL2000)を約 100nm の厚さで塗布した
試料に上記の電子線描画装置でハーフピッチ 100nm の
L/S パターンを描画した。開口部(電子線をドーズする領
域に対応)の幅が 100nm となることを目標として、EB
描画の L/S パターンについて L/S=100nm/100nm と、
ピ
ッチを一定にして L を減らしたものである
L/S=80nm/120nm と L/S=60nm/140nm を描画した。
EB 描画の加速電圧は 50kV を用いて、ドーズ量は
87.5µC/cm2 ~200µC/cm2 の範囲で条件を設定した。EB
描画後は現像液に o-キシレンを用いて処理をして、微細
パターンを形成した。作製した試料は走査型電子顕微鏡
(SEM: Scanning Electron Microscope)観察を行い、像の
強度プロファイルの基線値とピーク値で中間値をとる位
置を端とみなして開口部幅を測定した。
3. 結果
作製した試料はドーズ量に応じて、良好にパターンが
形成された領域とドーズ不足による現像不良の領域、ド
ーズ過剰によるパターンの倒壊や消滅の領域がみられた。
良好にパターンが形成された領域で開口部幅を測定し
た結果を図 1 に示す。いずれのパターンにおいても、ド
ーズ時間の増加につれて開口部幅が増加する傾向がみら
れた。L/S=100nm/100nm では現像不良の領域とパター
ンが形成された領域との境界付近(100µC/cm2)で約
103nm の開口部幅をもつパターンが確認された。また、
L/S=80nm/120nm では、150µC/cm2 のドーズ量で約
100nm の開口部幅をもつパターンが確認された。
L/S=60nm/140nm については、今回設定したドーズ量
の範囲内では開口部幅は最大で 92nm であった。
次に 100nm の開口部幅が得られたパターンの表面
SEM 像を図 2 に示す。L/S=100nm/100nm でドーズ時
間を 100µC/cm2 としたパターン(図 2(a))と比べて、
L/S=80nm/120nm でドーズ時間を 150µC/cm2 としたパ
○黒内 正仁、安井 学、小沢 武
ターン(図 2(b))はエッジラフネスが小さい様子が見られ
た。
本結果から、100nm/100nm の L/S パターンを形成す
るには L/S=80nm/120nm としてドーズ量を 150µC/cm2
とすればよいことが分かった。
4. まとめ
昨年度に新規に導入された電子線描画装置を用いてハ
ーフピッチ 100nm の L/S パターンを試作し、描画条件
を検討した。その結果、目標値に近い寸法で形成できる
描画条件が得られた。
参考文献
1) 応用物理学会編/徳山巍編著、”超微細加工技術”、
オーム社、P.79.
2) 応用物理学会編/徳山巍編著、”超微細加工技術”、
オーム社、P.120.
図 1 線幅/線間隔パターンのドーズ量依存性
図 2 線幅/線間隔パターンの SEM 像