生徒が主体的に学ぶ授業を目指して

生徒が主体的に学ぶ授業を目指して
教諭 仲西 潤(情報科)
沖縄県立小禄高等学校
概要:本レポートは、有限会社オーシャン・トゥエンティワン主催の「キャリア教育プロフェッショナ
ル教員養成講座 アクティブラーニングコース」の受講レポートをまとめたものである。産業能率大学
教授の小林昭文先生の指導の下、
「アクティブラーニング型授業の基礎理解」
、「アクティブラーニング
型授業プランの作成」
、
「実践についての振り返り」
、
「講師介入法のスキル」
、
「研究発表」等、5回の講
座を受講し、レポートを作成した。
1.はじめに~受講の動機と目標~
2.
「GROWモデル」を活用したアクティブラーニング型授業プランの作成
3.
「クリティカルフレンド」による実践の共有とブラッシュアップ
4.模擬授業体験を通して学んだこと~授業の見方・振り返り会の方法~
5.沖縄キャリア教育EXPOでの発表を通して~総括~
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「社会と情報」㻌 アクティブラーニング型授業㻌 展開例㻌
展㻌 開㻌
生徒の活動㻌
教師の活動㻌
備㻌 考㻌
学習内容の
・番号順に着席㻌
・出席確認㻌
・空席で素早く確認㻌
説明㻌
・基本的に自分の席で説明
・本時の目標を確認㻌
㻌
(㻞㻜 分)㻌
を聞く㻌
・本時の学習内容を説明㻌
・基本的にスクリーンで説明し、
・前方スクリーンを見ながら
㻌
必要に応じて生徒用PC画面に
説明を聞く㻌
㻌
提示㻌
㻌
問題演習㻌
・プリントの練習問題をチー
・練習問題を解かせる㻌
・自作の練習問題使用(解答は
(㻝㻡 分)㻌
ムで協力しながら解く㻌
㻌
配布しない)㻌
・解くことができた生徒は他
・問題演習の残り時間をス
・タイマーソフト使用㻌
の生徒を手伝う㻌
クリーンに表示㻌
・集中させるため全体への声掛
・個人への声掛け㻌
けは控え、気になる生徒には個
人的に介入する㻌
確認テスト㻌
・各自で確認テストを解く㻌
・確認テストを配布し、各
・解けない場合は解答を見てもよ
各自で解答㻌
㻌
自で解かせる㻌
い(画面に解答を表示)㻌
リフレクション
・解けない場合は解答を見
・期末考査の練習とし、ま
㻌
カード記入㻌
ながら解く㻌
ずは自分だけで解かせる㻌
・練習問題や確認テストが解けた
(㻝㻡 分)㻌
・解き終わり次第、リフレク
・解き終わった生徒は解答
かをもとに振り返らせる㻌
ションカードを記入する㻌
を確認し、リフレクションカ
ードで振り返りをさせる㻌
㻌
はじめに~受講の動機と目標~
㻌
1.受講の理由
キャリア教育プロフェッショナル教員養成講座の受講を希望したのは、今まで実践してきた授業
スタイルに疑問を感じていたからである。
【これまでの取り組み】
生徒が面白いと感じる授業ができれば、教科の目標を達成することができ、授業中に寝る生徒も
いないであろうと考え、常に生徒の興味関心を高める授業を模索してきた。生徒の興味関心を高め
る授業、つまり面白い授業は、
「関心のある話題」
、
「先生のトーク力」、
「教材の工夫」で作ること
ができると考えて取り組んできた。
【現状】
努力の成果はあって、確かに多くの生徒が楽しそうに授業を聞いてくれた。しかし、寝てしまう
生徒も必ずいた。また、授業が終わった直後に確認テストを行うと、知識や理解はさほど身につい
ていないことがわかった。生徒は楽しく授業を「聞いて」満足したあと、定期考査前に必死になっ
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て自分で学習していたのである。
【感じ始めた疑問】
当初はこのような現状にさほど疑問には感じることなく、寝ている生徒は指導の名のもと厳しく
叱り、定期考査前の勉強はあたりまえであると考えていた。しかし、キャリア教育という言葉を聞
くようになり、職員研修等で勉強するにつれて、以下の疑問を感じるようになった。
・生徒が楽しく授業を受ける(聞く)ことができれば良い授業なのか
・授業の主役は教師で、生徒は観客なのか
・教師の活動ばかり考えて授業に取り組んでいないだろうか
【疑問に対して】
これまでの授業では、自ら学び、自ら考える力が育たないともに、基礎・基本の定着すらままな
らないと感じ、生徒が主体的に取り組む授業スタイルに取り組まなくてはいけないと強く思うよう
になった。それから、
「協同学習」や「学びあい」など、様々な授業スタイルについて情報を集め
て参考にしたが、なかなか自分の授業での実践をイメージすることができなかった。
そのような中、産業能率大学の小林昭文先生が実践されているアクティブラーニングに関する情
報を得ることができた。資料を読み、研修を受けた同僚の話を聞いただけであったが、高校の通
常の 授業の中で実践しやすいと感じ、自分の授業でも取り組んでみることにした。
【今年4月からの取り組みでは】
小林先生による研修資料をもとに、4月からの授業で自分なりにアクティブラーニング型の授業
に取り組んでみたが、あまりうまくいかず、以下のような課題があった。
・生徒のやる気が感じられない(やらされている感じがする)
・生徒の活動が鈍い(全く活動しない生徒もいる)
・理解が深まっていない
悪戦苦闘しながら1学期が終了し、途方に暮れていた夏休みに、キャリア教育コーディネータから
の紹介で小林先生の研修会に参加することができた。
【研修に参加して】
研修会に参加し、小林先生の解説を聞くとともに、実際に生徒としてアクティブラーニング型
の授業を体験してみると、アクティブラーニングについての理解が不足していたことを実感した。
具体的には、
・まだまだ従来の授業スタイルに固執している(長年で身についた考えを変えなくてはいけない)
・生徒にやらせようという意識が強い(まだまだ教師の活動として考えている)
・教師目線のみで授業を考え、生徒目線で考えていない
・授業方法のみに目が行き、ファシリテーションの意識がなかった
また、変化が激しく、将来の予測が困難な時代に対応できる力を育成するというキャリア教育の
観点からも、アクティブラーニング型の授業は必要不可欠であり、まさに今、授業改善が必須であ
ることを強く感じた研修会であった。
私はこれまでの授業スタイルを見直し、アクティブラーニング型の授業を実践することで、生徒
主体の学びで教科の目標を達成すると同時に、いま生徒が本当に必要な力を身に着けることができ
る授業に取り組みたいと強く思い、この講座の受講を希望した。
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2.本講座受講にあたって達成したい目標
本講座を受講することで達成したい目標を以下のように設定した。
・アクティブラーニング型の授業についてより理解を深める
・実践、報告を通して、小林先生や他の受講者のアドバイスをいただき、より授業の質を高める
・他の受講生の実践を参考にし、自分の教科や学校の特色に合わせたアクティブラーニング型の
授業をデザインする
・講座で学んだことを学校へ持ち帰り、学校全体で授業改善に取り組めるよう働きかける
3.1日目講座を受講して気づいたこと
・従来の授業が間違っているのではなく、時代が変化しているから授業改善が必要なのである
・日本の教育は世界と比較しても決して悪くはない
・従来の授業は一人のリーダーが集団をコントロールすることに重きを置いている(ヒドゥンカ
リキュラム)
・アクティブラーニング型の授業は知識基盤社会を生き抜く社会人を育成するために不可欠であ
る
・授業改善は未来の社会を作ること(待った無しで取り組まなくてはいけない)
・従来の授業スタイルや考えにとらわれず、新しい発想で取り組むことは簡単ではない(私たち
が受けたことがない授業にとりくまなくてはならない)
・生徒として授業を体験し、生徒の目線で考えると新しい発見がある
・先生が楽しい授業が、生徒が楽しいとは限らない(先生の自己満足になっていないか)
・アクティブラーニング型の授業の成功のカギは生徒をコンフォートゾーンに置くこと
・テストで理解度を図るよりも、振り返りで気づきを促すことがとても重要である
実践から「GROWモデル」を活用したアクティブラーニング型授業プランの作成
㻌
1.実践する授業プラン作成の背景
1.G「ゴール *RDO を明確にする」
(1)将来どんな教師になりたいか
・生徒が主体的に考え、学ぶことができるよう導く教師
(2)今回の「$/ 型授業」への挑戦は、その将来にどうつながりそうか
・一斉講義の受け身型の授業を減らし、生徒が主体的に学習する授業のデザインと実践を繰り
返すことで、生徒の主体的な学びと学習を促す実践力を身に着けたい
(3)
「今、考えている授業」のイメージは
・生徒が自ら学習する
・参加しない生徒がいない
・より学習意欲が高まる
2.R「現実 5HDOLWLY を把握する」
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(4)
(3)の目標に対して現状は
①どんな授業をやっているか
・教師の説明を生徒が聞く講義形式の一斉授業
②「AL型授業」について知っていること、体験したこと
・研修会で学び、実際に生徒として体験した
③あなたの強みは
・小林先生の実践をモデルとすることができる
・教科の特徴として、受験等に影響がなく、比較的自由に授業設計ができる
・教科の目標が、実習や体験を重視している
3.ギャップを把握する
(5)あなたの知っていることや体験や強みをどう活かせば(3)の実現につながるか
まずは小林先生の実践を真似して実践してみる。具体的には以下のとおり
・教師による説明の時間を減らし、生徒同士による自学の時間をつくる
・自学の時間は練習問題や実習などをさせる
・確認テストとリフレクションカードを毎時間実施する
・問題等の解答はあらかじめ配布しておく
4.課題を決める
(6)具体的にはどのような授業にするか
A.授業中にクラスや生徒にどんなことを起こしたいか
・生徒が自ら積極的に課題に取り組む
・すべての生徒が協力し課題に取り組む
B.それを起こし、維持するための「教師の活動」は何か 項目/具体例
目標達成のための教師の活動計画
Aしくみ
目 的:ICTを身につける
VWUXFWXUH
目 標:情報活用力とコミュニケーション力を高める
目的、目標、構成、ルー
構 成:座席は自由 立ち歩き自由 授業に関する会話は自由
ル、雰囲気等
ルール:教科書必携 教師の解説中は質問のみ
相談する、質問する、説明する、協力する、貢献する
雰囲気:リラックスして話がしやすい雰囲気
Bしかけ
道具:PC、プロジェクタ、パワーポイント
GHYLFH
題材:教科書 ネットワークの単元
道具、題材、問題、ワー
問題:学習ノート内の聯須ゆ問題(解答付)
クシート等
ワークシート:確認テスト(練習問題と同じ内容)
リフレクションカード
C教え方
・プロジェクタを使用し、板書はなし
KRZWRWHDFK
・細かい部分は生徒用PCに表示
専門知識、板書、声の調
・実際の画面や例を提示する(できるだけ本物を見せる)
- 162 − 162 −
子、ティーチングスキル ・生徒に身近なものに関連付けて説明する
・生徒への問いかけをできるだけ多くする
D支え方
・全体への声掛け(目標の確認、内容の確認、時間設定など)
KRZWRIDFLOLWDWH
・グループへの声掛け(協力できているか、問題に取り組めている
場をつくる、場を読む、
介入する、ファシリテー
ションスキル等
か)
・生徒一人一人への声掛け(問題に取り組めているか、困っている
ことはないか)
・意欲が低い生徒への介入(質問、傾聴、どうすればできるか)
大まかな時間構成 座席等
時 間
おおまかな構成
00~20 あいさつ、出席確認
学習内容の解説
PCが設置されている机と机の間に、グルー
プで集まって学習できるように、新たに机を
設置
20~35 問題演習
35~45 確認テスト、相互解答
45~50 リフレクションカード記入
(7)計画実行に際して、最も大きな障壁は何か
・多数の生徒もしくは集団(グループ)で授業に参加しない状態
5.O「選択肢 2SWLRQV をつくる」
(8)
(6)以外の方法や次善策(うまくいかないときは)
・指定の座席に着席させ、確認テストを各自で解かせる(質問以外は禁止とする)
・教師が口頭で解答解説を行い、各自で採点させる
6.R「資源 5HVRXUFH を発見する」
(9)課題達成に向けてあなたの力になる人、モノ、場所など
人:一緒に講座を受講している同僚および他校の職員
モノ:PC、プロジェクタ等
場所:PC教室(提示装置が充実、教室内での移動がやりやすい)
7.W「意志 :LOO を確認する」
()いつからこのプランに基づいた行動を始めるか
2学期の授業から( から)
()このワークを体験して「わかったこと」「気づいたこと」
・生徒と教師が理想的な状態をイメージすることから始める
・うまくいかないときの選択肢を考えておくことで、安心感を持って取り組むことができる
()このシート記入は「役に立ったか」「どんな風に」
・アクティブラーニング型の授業を計画することができた
・自分がAL型の授業を組み立てるなかで、自信を持っている部分と自信がない部分に気が付い
た(説明には自信があり、ファシリテーションスキルに自信がない)
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2-2.実践の概要
1.授業展開 展 開
生徒の活動
教師の活動
備 考
学習内容の
・番号順に着席
・出席確認
・空席で素早く確認
説明
・自由に移動して説明を聞
・本時の目標を確認
( 分)
く
・本時の学習内容を説明
・パワーポイントを使
・教科書とパワーポイント
用し、スクリーン及
・必要に応じて簡単な実習を
び生徒用PC画面
を見ながら説明を聞く
・各自で実習を行う
行う
に提示
問題演習
・学習ノートの練習問題と
( 分)
解答を使用し、協力しな
がら問題を解く
・学習ノートの練習問題を指
・全生徒が購入済の学
定し、問題を解かせる
習ノートを使用(解
・問題演習の残り時間をスク
・早めに解くことができた
リーンに表示
生徒は他の生徒を手伝
・全体への声掛け
う
・各グループへの声掛け
答は配布済み)
・タイマーソフト使用
・個人への声掛け
確認テスト
・確認テストを受け取り、 ・確認テストを配布し、各自
相互解答
( 分)
各自でテストを解く
・解けない場合は解答
で解かせる
を見たり、教えても
・確認テストの時間を表示
・解答や周りの生徒に助け
・すべて解答すること
・解けない場合は助けてもら
てもらい、すべての問題
を解く
・解き終わり次第、解答用
うよう声掛け
・解き終わった生徒同士で解
らってもよい
・解答を交換できない
紙を交換して相互で採
答用紙を交換し、相互で採
生徒は教師が採点
点する
点させる
する
リフレクシ
・リフレクションカードを
ョンカード
受け取り、記入する
記入
・リフレクションカードを配
布し、記入させる
・退出時にクラス棚へ提出 ・クラスの提出棚へ提出させ
( 分)
る
- 164 − 164 −
2.授業で使用した資料
(1)提示資料
- 165 − 165 −
(2)確認テスト
(3)リフレクションカード
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3.「クリティカルフレンド」による実践の共有とブラッシュアップ 1.振り返りのプロセス
㻌 㻌 (1)
「私の実践」をコンパクトにまとめる
<授業の流れ>
①学習内容の説明、解説( 分)
【課題】
・おしゃべりや居眠りで参加しない生徒が
いる
・パワーポイント、教科書を使用
・座席は自由
・必要に応じて簡単な実習
②問題演習( 分)
・学習ノートの練習問題を指定し、その
問題を解かせる
・残り時間をスクリーンに表示
・全体、グループ、個人への声かけ
【課題】
・おしゃべりや居眠りで参加しない生徒が
いる
・声をかけたときだけやるふりをする
・練習問題の内容が単調である
③確認テスト、相互解答
・練習問題と同じ内容の確認テストを
各自で解かせる
・解けない問題は、教えてもらったり
解答を見ても良い
【課題】
・はじめから答えを写すだけの生徒がいる
・解き終わり次第、解答用紙を交換して
相互で採点させる
④振り返り
・リフレクションカードを記入させる
・退出時に提出させる
【課題】
・活動しなかった生徒が、リフレクション
カードには「楽しかった」「勉強になっ
た」と書く
(2)
「クリティカルフレンド」演習
①「私の実践」提示(3分間)
・簡潔な説明をする ・時間を守る ・メモを取らないで傾聴する
②質問と解答( 分間)
・コンパクトな質問と回答をする ・つながる質問をする ・相互質問もする ・良い質問をメモする
③「ラブレター」を書く(3分間)
・
“愛と勇気を伝える精神”で書く ・短時間でわかりやすく書く
(3)全体振り返り
2.振り返りの中で得た自分なりの気づき
(1)自分の実践の特徴をコンパクトに表現する
- 167 − 167 −
・1ページにシンプルにまとめる作業を行うことで、課題に感じていることを明確にすること
ができた。
・人に説明することを前提にまとめることで、自分の実践を客観的に考えることができた。
(2)他者の実践に対して「建設的な質問」をする
・わからないことや知りたいことを質問することは簡単にできたが、相手の気づきを促すよう
な質問は難しかった。
「建設的な質問」や「相手の気づきを促す質問」が苦手であり、授業での
生徒への介入があまりうまくいかない原因であると感じた。
・建設的な質問を全員が意識することで、グループ全員が安心感を持って気持ちよく発言する
ことができていた。これも「コンフォートゾーン」なのかと思った。
・
「建設的」を意識すると、つい質問ではなくアドバイスをしてしまうことがあった。
「教える」
ではなく、相手の「気づき」につながる質問ができるようになることが、授業での生徒への有効
な声かけにつながると感じた。
(3)チームの力を発揮して、AL型授業の質的向上のための「次の一手」を得る
・他の先生方の実践を聞くと、生徒の実態や今までの授業の流れ、単元の内容などにあわせて
さまざまな工夫をしていた。私の実践はまず小林先生の授業を真似ることから始めたが、モデル
と同じようにやろうという意識が少なからず課題の原因となっていたことがわかった。
・これまで経験した授業検討の話し合いでは、改善点を指摘されることはあっても具体的な「次
の一手」をイメージすることはあまりなかった。しかし今回のセッションでは、グループ内での
建設的な質問のやりとりの中から次の実践で試してみたいと思うことをイメージすることがで
きた。 3.今後の課題
(1)生徒の実態に合わせた実践
・生徒同士の学び合いが可能なクラスは今の実践を継続する。
・生徒同士の学び合いが難しいクラスは、以下の工夫をしてみる。
◇練習問題1問ごとに解説、問題演習、解答を行うことで常に集中させる
◇解答を配布せず、教えあわないといけないようにする
◇グループを指定し、グループ同士で競わせるようなゲーム的要素を取り入れる
(2)練習問題の改善
・現在は生徒が購入した学習ノートの練習問題を使用しているが、より生徒がお互いに教えあ
いやすいような問題を作成して使用する。
(3)単元にあわせた実践
・毎時間同じパターンではなく、生徒のアクティブな学習活動を多く取り入れやすい内容とそ
うでない内容に合わせた授業を計画、デザインする。
そのために、練習問題を教えあうこと以外にも生徒がアクティブに活動できるさまざまな学習
形態を考え、試してみる。
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4.模擬授業体験を通して学んだこと~授業の見方・振り返り会の方法~
1.自分の授業改善の今後の課題と展望
(1)生徒役として授業体験して気づいたこと
・教師の説明を聞く場面は書くことをせずにしっかり聞くことで、今なにを学習しているのか
がはっきりとし、深い理解につながる。
・教師の説明を聞く場面と、グループで問題に取り組む時間をはっきりさせ、テンポよく配分
することで集中力が高まり持続する。
・国語の授業では自分の考える答えとグループのメンバーの答えを話し合うことができたが、
数学の授業ではまず個々で問題に取り組んでいた。しかし、グループ単位で答えを発表させ
ることでお互いの答えを確認しあう行動が生まれる。
・グループ同士で競わせるゲーム的要素を取り入れると、生徒全員が参加する雰囲気ができる。
・解説、演習、発表を短いサイクルで複数回繰り返すことで、テンポよく授業が進み、生徒が
何もしない時間をなくすことができる。
・解説の際の板書を残しておくことで、演習の際に安心して取り組むことができる。
(2)
「見学用ワークシート」
「授業者を傷つけない振り返り会」を通して気づいたこと
・授業見学の目的は、指摘や批評をするためではなく、
「自分の授業に活かせるヒントを得る」
ことが目的であり、常にその視点で見学することが大切である。
・授業者の言動だけでなく生徒の様子や変化に注目することで、その授業のよいところが見え
てくる。
・教科のコンテンツではなく、生徒の行動や変化につながっている仕組み、しかけ、教え方、
支え方などのプロセスに注目することで、他教科でも活かせるヒントを見つけることができ
る。
・授業見学で良いと感じたことの理由を考えることで、自分の授業で実践したいことを具体的
にすることができる。
・授業者の実践について、自分も実践するために情報を得るという姿勢で質問を考えることで、
建設的な質問になると同時に自分の授業への活かし方がより具体的になり、実践に向けての
意欲が高まる。
(3)今後の自分自身の授業改善の課題や展望
・同一科目でも、クラスの状況によってしくみや仕掛けを変える必要がある。
・集中が持続しないクラスでは、少ない問題数で解説、演習、解答(発表)を複数回繰り返す
ことで集中を切らさないようにしたい。
・初めからグループを設定し、グループで協力できるような仕掛け(ゲーム的要素)を取り入
れることで、活動しない生徒がいないようにしたい。
・生徒は単純な問題には積極的に取り組まない傾向があるので、演習で使用する問題を工夫す
る必要がある。具体的には、穴埋めなどの単純な問題を減らし、意味を調べたりまとめたり
するような問題に置き換える。
・確認テストを単純なテスト形式からグループで話し合って解き、発表するような形式に変え
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ることで全員が真剣に取り組めるようにしたい。 2.校内の授業改善のリーダーとしての今後の課題
(1)校内での活用
・ 年研の研究授業で「授業者を傷つけない振り返り会」を実施する。
・振り返り会への参加を全職員に呼びかけ、実際に見て体験してもらう。
・初任者研修の指導教諭と連携して、初任者の授業でも振り返り会を実施する。
・研究授業と振り返り会をセットにして校内研修として取り入れてもらう。
(2)校内での課題
・管理職および指導教諭の理解を得ることが最も重要である。特に初任者に対しては多くの教員
が先輩として指導、アドバイスをしなければならないという意識が強いので、お互いに学びあ
うための振り返り会を意識した実践に取り組みたい。
・他教科の研究授業への見学が少ない。コンテンツではなく、プロセスに注目する授業見学と振
り返り会の周知が課題である。
・教諭個人での取り組みには限界がある。学力向上やキャリア教育などに関する委員会で取り上
げてもらい、組織的に実践する必要がある。
3.研修終了後の課題と展望
沖縄の教育における最重要課題として、学力向上があげられる。沖縄の生徒は決して能力が劣って
いるわけではなく、学習に対する意欲の低さが問題点として指摘されている。学習意欲の低下に関し
ては様々な要因が考えられるが、現場の教員としてまず行動できるのは授業の改善である。
これまでは「わかる授業」を目指して多くの教員が自己の授業力の向上や教材開発に取り組んできた。
もちろんこれは必要なことであるが、ともすると授業を行う教員が主役になってしまい、生徒が観客
になってしまうことがあるように感じる。生徒が受け身の授業よりも、生徒が主体となって活動する
授業を行うことが、日々の授業に対する生徒の意欲向上につながるのではないか。苦手であっても、
体育や音楽、美術の授業が好きな生徒は多い。今後は教員が生徒の学力を引っ張り上げ、または下か
ら持ち上げるような取り組み以上に、生徒が自ら積極的に向上していくよう支援するような取り組み
を行うことが重要であり、教員がすぐにできることは能動的な学習を授業で実践することである。
一方的な講義だけではない全ての授業をアクティブラーニング型授業と定義すると、多くの教員が
すでに実践しているが、アクティブラーニング型の授業として意識している教員はまだ少ない。また、
アクティブラーニング型授業を一つの理論としてとらえての批判や懐疑的な意見も見受けられる。ア
クティブラーニング型の授業というのが原理や派閥のように取り扱われることなく、生徒の意欲向上
のための取り組みの一つとして多くの教員が気軽に、かつ意欲的に様々な実践を行い、教科や校種の
枠を超えて共有することが重要である。
教員個人の孤独な取り組みではなく、多くの教員が建設的な態度で実践を共有し、自らの授業改善
に効果的に活かすための「次の一手」として、「アクティブラーニング型の授業」と「授業者を傷つ
けない振り返り会」をセットで多くの場面で実践していきたい。
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5.沖縄キャリア教育EXPOでの発表を通して~総括~㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌
1.発表資料の作成過程において
キャリア教育EXPOでの発表に向けて資料を作成することで、本講座で学んだ内容を改めて振り
返ることができた。
受講当初はアクティブラーニング型の授業(以降AL型授業)の実践についてヒントやコツなどを得
ることができればよいと考えていたが、予想をはるかに超えて多くのことを学ぶことができた。
まず初めの講座では、知識基盤社会への変化に伴うヒドゥンカリキュラムの限界や、大学入試改革
へ対応する授業、中教審による諮問など、AL型授業の必要性を改めて認識することができた。また、
AL型授業の定義を学ぶことで、形式やスキルに縛られることなく自由に授業内容をイメージするこ
とができた。さらに、必要とされる質問や介入のスキルなど、AL型授業だけでなく教育活動全般に
必要とされるファシリテーションの具体的な方法を提示していただいた。
次の講座では、GROWモデルを活用して様々な視点から考えた具体的なAL型授業をデザインし、
実際に現場で実践することができた。
3回目の講座では、
「クリティカルフレンド」により受講者同士でお互いの実践を共有し、新たな
気づきと次の一手を得ることができた。さらに、
「質問のスキル」、
「リフレクションのスキル」、
「リ
ーダーシップ・スキル」という新たな視点で自分に必要とされる授業スキルに気づくことができた。
4回目の講座では受講生による模擬授業を受けることで改めて生徒の視点で自分に起こるアクテ
ィブラーニングを体験することができた。さらに「授業者を傷つけない振り返り会」を通して自らの
授業について新たな気づきを得ると同時に、建設的な振り返り会で授業改善へのモチベーションがと
ても向上することを感じた。授業見学の視点と振り返り会の方法を学んで、今後の学校現場での組織
としての取り組みについても明るい展望をもつことができた。
AL型授業を知り、学び、実践し、共有し、振り返り、改善し、発表するというプロセスをこの短期
間で経験することができたことはとて貴重なことだと感じている。
2.発表において
沖縄キャリアEXPOでの発表では、ポスターセッションの形式で多くの来場者と交流することが
できた。みな真剣に説明を聞いてくださり、活発な質疑応答も行われ、関心の高さが感じられた。
(1)教科での実践について
情報科の授業での具体的な実践についての質問があった。情報科でのアクティブな授業という
と、座学以外のPCを使った実習という印象が強いように感じた。私の今回の発表では教科書の
内容を学習する座学の授業での実践を取り上げた。ともするとPCを使用しない情報の授業は生
徒が退屈することがあるが、解説を聞くだけでなく、自ら考え、チームで協力して問題に取り組
むAL型の授業を行うことで学習意欲の向上と基礎基本の定着を図りたいと考えている。
また、PC教室ではレイアウトの関係でグループ活動がやりにくいのではないかとの質問があ
った。私も当初は同じ懸念をもち、HR教室で座学の授業を行うことも検討した。しかし、PC
教室ではプロジェクタやPCなどの提示用機器が使用しやすいというメリットがある。また、教
科の目標として情報活用の実践力を養うことがあげられているので、必要に応じて情報機器や通
- 171 − 171 −
信ネットワークを活用する授業を行いたい。そこで、PC教室のあいている場所に古い机を設置
していくつかの島をつくり、生徒が自由に集まって学習ができるように工夫した。
情報科の授業では座学の授業と実習の授業をわけて計画することが多いが、今後は学習内容に
ついて生徒が主体的に取り組み、その学習のツールとして情報機器や情報通信ネットワークを活
用するような、座学と実習のハイブリッドな授業をAL型授業としてデザインしていきたい。
(2)学校現場におけるAL型授業の実際について
AL型の授業はどの教科や単元でも実践が可能なのか。また、どのような学校や生徒でも可能
なの課と言う質問が多かった。これはまさに私が初めて小林先生の研修を受けた際に小林先生に
質問したことであうか」という質問で返されたことを覚えている。その時は疑問が解消されずす
っきりしなかったが、講座を受講して考え方が大きく変化した。
私も初めは小林先生の実践をそのまま真似て授業をしてみたが、うまくいくクラスとそうでな
いクラスがでてきた。また教科の内容に合わないところも出てきた。しかし、講座を通して他の
先生方と実践を共有し、建設的な振り返りを繰り返すことで、新たな「気づき」や「次の一手」
が次々に出てきたのである。
それぞれの学校現場で、目の前の生徒に対してその教科の授業を行っているのはその教師だけ
である。小林先生や私の実践が、他の授業でそのまま活用できるわけではない。大切なことは、
エラーを恐れずにできることから実践し、その実践結果を建設的に振り返ることと、他の仲間と
協力して取り組むことである。
目的はAL型授業を実践することではなく、生徒が主体的に学ぶための授業改善である。これま
での授業で取り組んできたことを否定するのではなく、自分の強みを活かし、仲間の力を借りな
がら、教科の特色と生徒の実態に合わせた、オリジナルのAL型授業に取り組もうと考えるよう
になった。
3.講座を受講して
これまでの5回の講座を通して、あまりにたくさんのことを教授していただいたので、すべてをし
っかりと咀嚼して実践につなげていくには時間がかかるかもしれないが、毎回の講座を受講するたび
に授業改善へのモチベーションが高まっていくのを感じた。今では、次の授業で何を実践しようかと
わくわくした気持ちで日々の授業に取り組んでいる。
私にとって、毎回の講座を通して多くの気づきが生まれたことと、高いモチベーションで様々な実践
に取り組まれている先生方の姿に勇気づけらたことが、この講座の一番の成果である。
最後に、このような学びの機会を与えてくださった小林昭文先生と有限会社オーシャン・トゥエン
ティワンの皆様に感謝を申し上げます。
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