微分方程式Ⅰ 演習問題 9 2015 年度前期 工学部・未来科学部 2 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) 確認問題 9-1. (定数係数 2 階線形微分方程式: 斉次の場合) 以下の微分方程式の一般解を求めなさい。 (1) y ′′ − 4y ′ + 3y = 0 (4) y ′′ + 2y ′ + 6y = 0 (2) y ′′ + 8y√= 0 (5) y ′′ − 2 3y ′ + 3y = 0 (3) (6) y ′′ + 4y ′ + 4y = 0 y ′′ + 2y ′ − 7y = 0 cv ∗ 確認問題 9-2. (空気抵抗付きのばねの振動) kx m ばねに質量 m のおもりをつけた状態で、おもりをば ねの自然長の位置から適当に伸ばして手を離すと、お もりが 単振動 simple harmonic motion と呼ばれる振 x O 動運動をすることを高校の物理の授業では学んだ。し かし、我々の経験則に基づくと、実際にはおもりが永久に振動し続けることはなく、おもりの運動は 徐々に遅くなっていって最終的には静止してしまうと考えられる。これは、おもりに空気抵抗等の 減衰力 damping force が働くためである。そこで、本問では空気抵抗も考慮に入れた際のおもりの 運動の様子を、ニュートンの運動法則に基づいて考察してみよう。 以下、ばねの自然長の位置を原点とする座標軸を考える (右図を参照)。運動する物体には、その運 動速度があまり速くない場合には進行方向と逆向きに速度と比例する空気抵抗が加わることが知ら れている*1 。その空気抵抗係数を c, ばね係数を k として (ともに正の実数とする)、おもりに対する ニュートンの運動方程式を立式すると m √ となる*2 。簡単のために ω= d2 x dx = −kx − c 2 dt dt 1 ······ ⃝ c k ,γ= とおき直すと、運動方程式は (定数係数の) 斉次 2 階 m 2m 線形微分方程式 d2 x dx + 2γ + ω2 x = 0 2 dt dt ······ ⃝ 2 に書き直される*3 。 2 の一般解を求めなさい。γ と ω の 大小関係 (つまり、特性方程式が相異な (1) 微分方程式 ⃝ る実数根を持つか、重根を持つか、虚数根を持つか) で 場合分けして答えること。 (2) (1) のそれぞれの場合に於いて、初期条件 x(0) = 2, v(0) = 形を図示しなさい。 *1 チャレンジ問題 4. も参照のこと *2 おもりの速度 v, 加速度 a はそれぞれ v = *3 ω は振動の 固有角振動数、γ は 減衰率 などと呼ばれる dx (0) = 0 の下での解曲線の概 dt dx d2 x dv ,a = = 2 で表されることに注意しよう。 dt dt dt (3) (チャレンジ問題) dx を掛け算して変形することで、等式 dt ) ( ( )2 ( )2 d 1 dx dx 1 3 m + kx2 = −c ······ ⃝ dt 2 dt 2 dt 1 の両辺に 微分方程式 ⃝ が得られることを確認しなさい。また、この式の力学的な意味を考察しなさい。 [ヒント: “エネルギー” がキーワード] チャレンジ問題 9. (景気変動のマクロ経済学) [見た目ほど難しくないです、多分] ニュースなどでも良く耳にするように、日本経済や世界経 済は好況と不況を絶えず繰り返しつつ、複雑怪奇な様相を見 せながら移ろいゆく。景気の好況、不況は我々の生活にも直 結する非常に関心の高い話題ではあるが、そんな景気変動が 各国の国内総生産の推移 発生するメカニズムも微分方程式を用いて説明することが出 World Economic Outlook Database 2014 (IMF) 来る。今回のチャレンジ問題ではそんな景気変動のメカニズ ムに迫ってみよう。 以下、Y (t) を時刻 t に於ける国内総生産 (GDP), C(t) を時刻 t に於ける消費量 (“支出”)、I(t) を 時刻 t に於ける投資量とする。このとき、Y (t), C(t), I(t) の間には以下の関係式が成り立つという。 Y (t) = C(t) + I(t) ······ 1 ⃝ C(t) = α(Y (t) − Y ′ (t)) ······ 2 ⃝ I(t) = vC ′ (t) ······ ⃝ 3 ここで α は限界消費性向を表す係数で 0 < α ≤ 1 を満たす実数である。また v は加速度係数を表す 2 式の両辺を微分したものと ⃝ 3 式から C ′ (t) を消去することで 正の実数である。⃝ I(t) = αv(Y ′ (t) − Y ′′ (t)) ······ ⃝ 4 ······ ⃝ 5 2 式と ⃝ 4 式を ⃝ 1 式に代入することで 斉次 2 階線形微分方程式 が得られ、⃝ Y ′′ (t) + 1−v ′ 1−α Y (t) + Y (t) = 0 v αv を得る。 5 の特性方程式の判別式 D を計算しなさい。また、それを用いて ⃝ 5 の特性方程 (1) 微分方程式 ⃝ 式が相異なる実数解/重解/虚数解を持つような v, α 間の条件式を求めなさい。 5 の特性方程式が虚数解を持つとき、⃝ 5 の解が発散/減衰するための v, α の間の (2) 微分方程式 ⃝ 条件式を求めなさい。 5 の特性方程式が相異なる実数解を持つとき、⃝ 5 の解が発散/減衰するための (3) 微分方程式 ⃝ v, α の間の条件式を求めなさい。 (4) (1) — (3) の結果を vα 平面内に図示しなさい (横軸を v とすること!)。 【略解】 確認問題 9-1. 必ず 2 つの基本解の線形結合の形となること (つまり パラメータが 2 つ現れること) に注意しよう。 (1) y = C1 ex + C2 e3x (C1 , C2 は任意の実数) √ √ (2) y = C1 cos(2 2x) + C2 sin(2 2x) (C1 , C2 は任意の実数) (3) y = C1 e−2x + C2 xe−2x (= (C1 + C2 x)e−2x ) (C1 , C2 は任意の実数) √ √ √ √ (4) y = C1 e−x cos( 5x) + C2 e−x sin( 5x) (= e−x (C1 cos( 5x) + C2 sin( 5x))) (5) y = C1 e (6) y = C1 e √ 3x √ 3x + C2 xe √ (−1+2 2)x + C2 e √ (= (C1 + C2 x)e √ (−1−2 2)x (C1 , C2 は任意の実数) 3x ) (C1 , C2 は任意の実数) (C1 , C2 は任意の実数) 確認問題 9-2. 2 の特性方程式 λ2 +2γλ+ω 2 = 0 の判別式を計算すると D/4 = γ 2 −ω 2 = (γ +ω)(γ −ω) で (1) ⃝ ある。γ, ω は共に正の実数であるから √ 2 2 √ 2 2 (ケース 1) D/4 > 0, 即ち γ > ω のとき x(t) = C1 e(−γ+ γ −ω )t + C2 e(−γ− γ −ω )t (ケース 2) D/4 = 0, 即ち γ = ω のとき x(t) = (C1 + C2 t)e−γt = (C1 + C2 t)e−ωt (ケース 3) D/4 < 0, 即ち γ < ω のとき √ √ x(t) = e−γx (C1 cos( ω 2 − γ 2 t) + C2 sin( ω 2 − γ 2 t)) となる (C1 , C2 はそれぞれ任意の実数)。 (2) 初期値 x(0) = 2, x′( (0) = 0 を代入して ; ( ) C1 , C2 の値を求めると、解は以下の通りとなる ) √ √ γ γ 2 2 2 2 (ケース 1) x(t) = 1 + √ e(−γ+ γ −ω )t + 1 − √ e(−γ− γ −ω )t 2 2 2 2 γ −ω γ −ω −ωt (ケース 2) x(t) = 2(1 + ( ωt)e ) √ √ γ (ケース 3) x(t) = 2e−γt cos( ω 2 − γ 2 t) + √ sin( ω 2 − γ 2 t) ω2 − γ 2 図示すると以下の様になる (ω = 2 を一定とし γ を γ = 3, 2, 0.5 と動かした); x 2 t O [紫: (ケース 1), 青: (ケース 2), 赤: (ケース 3)] babababababababababababababababababab 【参考】 (ケース 1) の状況を 過減衰 over damping, (ケース 2) の状況を 臨界減衰 critical damping, (ケース 3) の状況を 減衰振動 damped oscillation と呼ぶ。 ( )2 dx dx d2 x dx dx を掛けて整理すると m + kx = −c となるが、合成関数 dt dt dt2 dt dt ( )2 d dx dx d2 x d 2 dx の微分法 より =2 · 2 , (x ) = 2x · が成り立つので、これらを代入し dt dt dt dt dt dt 3 式を得る。⃝ 3 式の左辺はおもりの 力学的エネルギー kinetic energy を t で微分したも て⃝ ( )2 dx 3 は時刻 t に於いておもりの力学的エネルギーが −c のであるので、⃝ の速度で喪失し dt ていることを表している (つまり、抵抗力が働く系では 力学的エネルギーは保存しない!!*4 )。 1 式の両辺に (3) ⃝ チャレンジ問題 9. (1) 特性方程式 λ2 + 1−v 1−α = 0 の判別式は λ+ v αv ( D= 1−v v )2 1−α 1 −4· = αv v { (1 − v)2 −4 v ( 1 −1 α )} であるから、v > 0 であることを考慮に入れると - 相異なる実数根を持つ条件は D > 0 ⇔ α > 4v (1 + v)2 4v (1 + v)2 4v - 虚数根を持つ条件は D < 0 ⇔ α < (1 + v)2 - 重根を持つ条件は D = 0 ⇔ α = となる。 (2) 虚数解を持つときの一般解は Y (t) = C1 e− が発散するか減衰するかは e− 1−v 2v t 1−v 2v t √ √ 1−v cos( Dt) + C2 e− 2v t sin( Dt) であり、解 が発散するか減衰するかによって決まる。したがって 1−v - − > 0, 即ち v > 1 のときは発散 2v 1−v < 0, 即ち v < 1 のときは収束 (減衰) - − 2v となる。 5 の一 (3) 相異なる実数解 λ1 , λ2 を持つときの微分方程式 ⃝ 般解 Y (t) = C1 e λ1 t + C2 e λ2 t f (λ) が収束するためには、λ1 , λ2 の両方が 0 以下にならなければならない。そのため 1−α 1−v λ+ の条件は、二次関数 f (λ) = λ2 + の軸 v αv 1−v λ=− が y 軸よりも左側にあり、かつ λ が 0 のと 2v 1−α きの値 f (0) = が 0 以上であることである (右図 αv 参照)。したがって (α, v > 0 であることに注意すると) λ=− λ1 f (λ) = λ2 + - v < 1 かつ α ≤ 1 のときは収束 1−v 2v 1−α αv λ2 O λ 1−v 1−α λ+ v αv - それ以外のとき (つまり v ≥ 1 のとき) は発散 となる。 (4) (1) – (3) で得られた情報を vα 平面に纏めると、以下のようになる。Ⅱ, Ⅲ の状況では景気変 動 (解の振動現象) が発生する。 *4 喪失した分のエネルギーは熱エネルギー (摩擦熱) 等に変化したものと考えられる。 α 1 α=1 Ⅰ Ⅳ Ⅱ Ⅲ α= 4v (1 + v)2 v 1 O Ⅰ. 特性方程式が互いに相異なる実数根を持ち、収束 (過減衰) Ⅱ. 特性方程式が虚数根を持ち、収束 (減衰振動) Ⅲ. 特性方程式が虚数根を持ち、発散 (発散振動) Ⅳ. 特性方程式が互いに相異なる実数根を持ち、発散 (単調発散) 注意 4v 上では特性方程式は重根を持つ。v < 1 で収束 (臨界減衰)、v > 1 で発散。 (1 + v)2 √ √ 1−v 2. 直線 v = 1 上では e− 2v t = e0 = 1 なので、一般解は Y (t) = C1 cos( Dt) + C2 sin( Dt) と 1. 曲線 α = なる (単振動: 減衰せずに振動し続ける)。 3. 特に点 (1, 1) では √ D = 0 となっているため、一般解は Y (t) = C1 + C2 t という 1 次関数 となってしまう (!!!) これは C2 = 0 のときは定常状態であり、C2 ̸= 0 のときは不安定。 【自由研究】 景気変動のシミュレーション 上記の各領域 Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ, Ⅳ (及びその境界上) の点 (v, α) を適当に選び、国内総生産 Y (t) の (適 当な初期条件 Y (0), Y (t) 下での) 変動の様子をグラフにしてみましょう。また、それぞれの領 域は経済がどのような状況にあることのシミュレーションとなっているかを考えてみましょう。 babababababababababababababababababab 【コラム】 景気変動と乗数-加速度モデル 株式ニュースを眺めていると、株価などは常に複雑に乱高下を繰り返しているように見 え、まるで意識を持った一個の生命体のように見えることさえあります。しかし、特に誰か が意図しているわけでもないのに、経済状況が好転したり悪化したりといった変動を繰り 返すのは何故でしょう? それこそアダム=スミスの言うように「神の見えざる手」によっ て暗黙の内にコントロールされているのでしょうか、はたまたより「理性的な」メカニズ ムが働いているのでしょうか? 『景気変動』という考えてみると不思議な現象が発生する メカニズムにひとつの解釈を与えたのが、ノーベル賞受賞者としても有名なサミュエルソ ン*5 、ヒックス*5 による 乗数-加速度モデル multiplier-accelerator model の理論です。 *5 Paul Anthony Samuelson (1915–2009), John Richard Hicks (1904–1989) babababababababababababababababababab 折角なので彼等の理論の概観を追ってみましょう。先ずは 簡単のために「国内総生産 (GDP, “所得”) Y (t) が全て消費 (comsumption) C(t) か投資 (investment) I(t) に回される (つま 1 が成り立つ)」と仮定しておきま り等式 Y (t) = C(t) + I(t) · · · ⃝ す。その上で「人 (または国) は所得 Y (t) のうちある一定の割合 α (ただし 0 < α ≤ 1) を消費に回し、残りは貯蓄する」という自然 な仮説を設けます。割合 α を 限界消費性向 marginal propensity サミュエルソン 2′で of consume と呼びます。このことは等式 C(t) = αY (t) · · · ⃝ 1 1 に代入して等式 C(t) = 表されますから、式 ⃝ I(t) が得 1−α 1 > 1 なので、最後の式は「投資が増えればその分消費が増加する」とい 1−α う経済学で 乗数効果 multiplier effect と呼ばれる傾向を表しています。チャレンジ問題 9. られます。 2 式は、⃝ 2 ′ 式を時間による消費傾向の変化等を加味して修正したものです。 の⃝ 逆に「一定の消費財需要の増加が投資財需要の増加を齎す」こ とも社会ではしばしば起こります (例えば数年前の「食べるラー 油」騒動のように、商品が大ヒットして品薄になると企業が対応 して工場の拡張など増産体制のために投資を注ぎ込む事例など)。 この現象は 加速度原理 acceleration principle と呼ばれていま 3 は「消費の増減が投資 (の増減) を誘 す。式 I(t) = vC ′ (t) · · · ⃝ 発する」ことを表しており、まさに加速度原理を数式化したもの であることが見てとれます。サミュエルソンとヒックスは「消費 の増減が投資の増減を招き (加速度原理)、投資の増減が消費の増 ジョルジュスク-レーゲン 減を招く (乗数効果)」という相反する経済の力学を数理モデル化し、その解を解析するこ とで、経済変動という現象に意味付けを与えたのでした。なお、サミュエルソンとヒックス は 差分方程式 difference equation (離散時間版、高校の用語で言えば「漸化式」) を用いた 数理モデルを用いており、今回のチャレンジ問題ではジョルジュスク-レーゲン*6 による微 分方程式版 (連続時間版) のモデル (をさらに単純化したもの) を紹介しました。 サミュエルソンの思想が経済学に与えたインパクトは鮮烈で、現在もなおその功罪につ いて活発に議論されている様です。ただ、「乗数効果」と「加速度原理」というたった 2 つ の極めて単純な基本原理を前提として、確認問題 9-2. で扱ったばねの振動の方程式と全く 同じ (!) 形の微分方程式 (あるいは差分方程式) の解として数学的に景気変動のメカニズム を解き明かしたサミュエルソン等の慧眼には、ただただ驚かされるばかりです。 *6 Nicholas Georgescu-Roegen (1906–1994) 今回引用したのは Relaxation Phenomena in Linear Dynamic Models, in: Activity Analysis of Allocation and Production (T. C. Koopmans edt.), New York, Wiley, 116–131 (1951). *7 画像は以下より引用; Paul Samuelson (21 April 2015, 14:50 UTC). In Wikipedia: The Free Encyclopedia. Retrieved from http://en.wikipedia.org/wiki/Paul Samuelson Nicholas Georgescu-Roegen (1 May 2015, 07:03 UTC). In Wikipedia: The Free Encyclopedia. Retrieved from http://en.wikipedia.org/wiki/Nicholas Georgescu-Roegen
© Copyright 2024 ExpyDoc