2 年 2 組 音楽科 拍の流れを感じ取って表現しよう ―教材曲「たぬきのたいこ」― 小川 美紀 1 子どもと単元 (1)問題追求の状況と子どもへの願い 前単元「歌で友達の輪を広げよう」では,遊び歌を歌ったり聴いたりする中で,仲間と一緒に音楽に合わせて身振りを 付け,体で拍を感じ取りながら歌った。教材曲「橋の上で」では,前半と後半の気分の違いを感じ取り,2 拍子の流れに のって身振りを工夫して表現する姿が見られた。仲間の身振りのよさを認めたり,まねをしたりして,楽曲の表現の仕方 を工夫して歌おうとする子どもたちである。 本単元では,拍の流れを感じ取りながら楽曲の気分に合う歌い方や身振り,楽器の鳴らし方を工夫する。自分と仲間の 表現を聴き合うことで,歌い方や身振り,楽器の鳴らし方について仲間にアドバイスしたり,自分の表現を見直したりし て 3 拍子の流れや曲の気分に合うように表現していく姿を期待する。 (2)教材の価値とはぐくみたい資質・能力 教材曲「たぬきのたいこ」は,3 拍子の明快な曲であり,前半と後半の 2 つの気分の対比が魅力である。また,同じ 3 拍子でも拍を 3 つととらえたり,3 拍を 1 つの大きなまとまりとしてとらえたりして表し方の違いから 3 拍子を味わうこ とができる。拍の流れにのって体を揺らしたり拍打ちをして歌ったりすることで,2 拍子と 3 拍子の違いを身体で感じ取 り,拍のまとまりに気を付けて歌う中で,2 つの気分の違いが表れるように工夫して歌おうとする子どもの姿を期待する。 本教材では,歌い方や身振り,楽器の鳴らし方を工夫する。子どもたちは,体の動きや楽器の演奏に夢中になるあまり, 拍の流れを意識できなかったり,互いの歌声や演奏に耳を傾けられなかったりする傾向がある。そこで,歌い方や楽器の 鳴らし方を意識して表現するために,自分の表現の仕方を楽譜に書き加えて表し,イメージを明らかにして歌う。そして, 自分の表現の仕方を仲間に説明する際に,書き加えた楽譜に照らし合わせて聴き合うことで,3 拍子の流れにのりながら 楽曲の気分に合う表現をするよさを見いだしていく姿が期待できる。 そこで,本題材の中核となる学習内容を「拍の流れにのって,曲の気分に合う表現をすること」とおさえた。また,本 単元の前後のステージで関連する単元において,音楽科で設定した 3 つの資質・能力が表出している姿を以下のように 想定し,系統的にはぐくむことを目指した。 第 2 ステージ 小1 拍にのってリズムを打とう 2 音楽を感じ取り表すこと 歌ったり身振りを付けたりしなが ら,拍の流れを感じ取り,リズム打 ちをしながら歌う。 音楽の感じ方,表し方を認め合うこと 自分と表現が異なる仲間の歌い方 や身振り,楽器の鳴らし方を知る。 新たな音楽の表し方で伝えること 聴き手を意識した表現を工夫し, 伝える。 ・ ・ ・ ・ 第 2 ステージ 小2 本単元 歌ったり身振りを付けたりしなが ら,拍のまとまりや楽曲の気分の違 いを感じ取り,体を揺らしながら歌 ったり楽器を鳴らしたりする。 自分と表現が異なる仲間の歌い方 や身振り,楽器の鳴らし方を知り, 仲間の表現を共感的に聴く。 聴き手を意識した表現を工夫し, 相手に伝わるように表す。 ・ ・ ・ ・ 第 3 ステージ 小3 拍の流れにのろう 歌ったり手拍子をしたりしながら, 拍子の違いやまとまりを感じ取り, 体を揺らしながら歌ったり楽器を 鳴らしたりする。 拍の流れに合った歌い方や楽器の 鳴らし方を考え,自分とは異なる仲 間の表現を共感的に聴く。 聴き手を意識して表現を仲間と 工夫し,相手に伝わるように表 す。 「協働型学習」の構想 (1)本単元における「協働」場面の位置付け 音楽科では,問題解決のサイクルの「願いを具現する」の過程に「協働」場面を位置付ける。教材曲「たぬきのたいこ」 に合う楽器の鳴らし方を工夫し,仲間と聴き合う。曲の気分に合うような歌い方や楽器の鳴らし方になっているかを確か めたいという,自分と他者とが共通した願いでつながっていることを感じる状況をつくる。 (2)手だて 1場面・目的意識にかかわる手だて 曲の気分に合うような歌い方や楽器の鳴らし方にするために確かめたいという,自分と他者とが共通した願いでつなが っていることを感じる状況をつくる。そのために,気分の違いに合う楽器の鳴らし方について考え,試す場を設定する。 2交流相手・3交流させるものにかかわる手だて 歌い方や楽器の鳴らし方が異なる子ども同士で,どのように歌ったり楽器を鳴らしたりすると,曲の気分の違いを表現 できるのかを,楽譜に書き加えて見えるようにし,互いに表現の仕方を考える場をつくる。 4交流方法・形態にかかわる手だて ペアで自分と仲間の感じたことや考え,演奏を聴き合う場を設定し,互いのよさについて意見を交流する。 5記録方法にかかわる手だて 曲の気分の違いに合う歌い方や楽器の鳴らし方を書き加えた楽譜,自己評価を記入する振り返りシート (3)評価 ○「音楽を感じ取り表すこと」の評価:歌い方や楽器の鳴らし方の工夫(表現・記述) ○「音楽の感じ方,表し方を認め合うこと」の評価:仲間と表現を聴き合う姿(行動・発話・相互評価) ○「新たな音楽の表し方で伝えること」の評価:表現の変容(表現・発話・記述) 3 単元の目標 仲間と互いの歌や音を聴き合い,歌い方や楽器の鳴らし方について話し合う中で,拍の流れにのって,曲の気分に合う 表現をすることのよさに気付き,体を動かしたりリズムを付けたりしながら歌うことができる。 4 単元計画(全 5 時間 本時 4/5) 1 次 拍子の流れにのって歌ったり体を動かしたりしよう ① ② <抽出児 A さん> <抽出児 B さん> 拍子のまとまりを感じ取って,拍 曲の気分の違いに合わせて体を動 打ちをしながら表現する子 かしながら表現する子。 ・「たぬきのたいこ」の曲の特徴を見付けよう。 この曲は途中で森の仲間が出てき 途中で曲の気分が変わるところが て気分が変わるな。違いが出るよ ある。歌い方を変えて歌うと曲に うに歌いたいな。 合いそうだな。違いを付けて歌え るようになりたい。 ◎曲の気分に合う歌い方や身振りを工夫しよう。 仲間と手拍子を打つときは 1 拍目 前半は縦揺れで,後半は横揺れで が合うと気持ちがいいな。手だけ 歌うよさそうだな。次は楽器をつ ではなく,楽器をつけると楽しく けたらもっと楽しくなりそうだ 歌えそうだな。 な。 3 拍子にのって歌うと楽しいな。曲の気分に合わせて歌うともっと楽 しい。今度は楽器で前半と後半の違いを表せるようにしたいな。 2次 ③ ④ 本 時 3 拍子の気分に合う楽器の鳴らし方を工夫しよう ・3 拍子にのりながら曲の気分に合う楽器の鳴らし方を見付けよう。 1 拍目は 2・3 拍目よりも強く打 前半は打つ鳴らし方で,後半は揺 つようにしたいな。後半はやさし らした鳴らし方で表現してみよ く打って変えるとよさそうだ。仲 うかな。自分の鳴らし方が合って 間に演奏を聴いてもらって確か いるか仲間に聴いてもらいたい めたいな。 な。 ◎曲の気分に合う楽器の鳴らし方を工夫して歌おう。<「協働」場面> 1 拍目は思ったより強くするとよ 楽器の鳴らす場所を変えたら音 さそうだし,3 拍子の感じが出せ が変わって気分の違いがはっき るようになってきたよ。 りするな。 前半と後半の気分に合う鳴らし方を工夫して歌うと,違いが分かっ てもっと楽しくなった。他の人の楽器や鳴らし方も聴いてみたいな。 <留意点> ○表現の願いをもつために,歌詞から 想像したことや,曲の気分の特徴に ついて話し合う活動の組織 ・気分の違いを表して表現するため に,歌い方,身振り,楽器の鳴らし 方を工夫する学習計画を立てる。 ○気分に変化を付けた表現ができる ように,歌い方や身振りについて話 し合う活動の組織 ・歌い方や身振りを楽譜に書き加え, イメージを明らかにする。 評:歌い方や身振りを工夫する姿から 「音楽を感じ取り表すこと」と「音 楽の感じ方,表し方を認め合うこ と」の高まりを評価 1場面・目的意識 ○自分と他者とが共通した願いで つながっていることを感じる状 況をつくる。そのために,曲の気 分の違いに合う楽器の鳴らし方 について考え,試す場の設定 2交流相手3交流させるもの 4交流方法・形態5記録方法 ○曲の気分の違いに合う楽器の鳴 らし方になっているか,楽譜に 照らし合わせながら仲間と聴き 合う活動の組織 □仲間の表現を聴いて,楽器の鳴らし 方やリズムを直したいと願いをも ったら,聴き合いながらつくり直す ことも認める。 (複線化) 評:行動と振り返りの記述から「音楽 を感じ取り表すこと」と「音楽の感 じ方,表し方を認め合うこと」の高 まりを評価 3 次 発表を聴き合って仲間の工夫を見付け合おう ⑤ ◎曲の気分に合う表現の工夫を発表しよう。 鳴らし方は違うけれど,曲の前 自分とは違う楽器だけど,仲間 半も後半も,1 拍目を強く打って の楽器の鳴らし方も前半と後半 楽 し い 感 じ が 出 せ て よ か っ た で違った気分になっていてよか な。 ったよ。 楽器を鳴らしながら歌うと楽しいな。3 拍子に合うともっと楽しか った。次も曲の気分を変えて歌ったり楽器を演奏したりしたいな。 ○楽器の鳴らし方について発表した り,聴いたりして,互いのよさを伝 え合う場の設定 評:表現の変容と振り返りの記述から 「新たな音楽の表し方で伝えるこ と」の高まりを評価 2年2組 音楽科 平成 26 年度 5 月 28 日(水) 単元名 「拍の流れを感じ取って表現しよう」 教材曲 「たぬきのたいこ」 指導者 小川 美紀 本時の計画 4 時間目/5 時間 1 主眼 曲の気分の違いを伝えるために,仲間と互いの表現を聴き合い,楽器の鳴らし方の工夫を明らかに する中で,音の長さや強さ,鳴らす場所を変えると曲の気分の違いが表現できることに気付き,拍に のって曲の気分の違いが伝わる表現をすることができる。 2 本時における「協働」場面の要素の具体と手だて 前時 1場面・目的意識 曲の気分に合うような楽器の鳴らし方にするために確かめたいという,自分と他者とが共通した願い でつながっていることを感じる状況をつくる。そのために,気分の違いに合う楽器の鳴らし方について 考え,試す場を設定する。 気分の違いに合う楽器の鳴らし方を試していくことで,自分の楽器の鳴らし方を仲間に聴いてもらいたい,仲間の楽 器の鳴らし方を聴きたいという意欲を高めていく子どもの姿が期待できる。 本時 2交流相手3交流させるもの 曲の気分の違いに合った楽器の鳴らし方をするために,拍の強弱から表現する子と身体の揺らし方か ら表現する子。 楽譜に表した自他の楽器の鳴らし方と実際の表現を交流させることで,互いの楽器の鳴らし方を聴いたりつくり直し たりして曲の気分の違いに合う楽器の鳴らし方が明らかになる。 4交流方法・形態 同じ楽器を選んでいるが,異なる表現をしている子ども同士のペアで,曲の気分の違いに合う楽器の 鳴らし方の工夫を聴き合う。 仲間の表現を共感的に聴いたり自分の楽器の鳴らし方を見直したりすることにより,自分と仲間の演奏のよさを見付 けて意見を交流する姿が期待できる。 5記録方法 楽器の鳴らし方を書き加えた楽譜,活動の振り返りシート。 曲の気分の違いに合う楽器の鳴らし方で表現してきた過程を振り返ることにより,自分の表現の高まりを実感する姿 が期待できる。 3 評価 「協働」場面における互恵的なかかわりを基に「音楽を感じ取り表すこと」 , 「音楽の感じ方,表し方を認め合うこと」 の高まりを明らかにする。このために,ペアや全体での発言・発話・楽譜や振り返りシートへの記述を記録する。 評価規準 A B(C は B に満たない) 仲間や自分の表現を聴いて,曲の気分の違いに 合う楽器の鳴らし方について話している。 曲の気分の違いに合う楽器の鳴らし方を考え, 仲間の表現を共感的に聴いている。 自分の表現を聴いて,曲の気分の違いに合う楽 器の鳴らし方について話している。 曲の気分の違いに合う楽器の鳴らし方を考え, 仲間の表現を聴いている。 資質・能力 音楽を感じ取り表 すこと 音楽の感じ方,表し 方を認め合うこと 4 過程 願 い の 焦 点 化 10 分 願 い の 具 現 20 分 展開の大要 子どもの追求の広がりや深まりと教師の支援 留意点 <抽出児Aさんの追求> <抽出児Bさんの追求> 楽器は打つ,振るの2つの鳴らし 楽器はカスタネットにしよう。 「ト 方があるタンブリンにしよう。元 ンタンタン」とスタッカートで鳴 気のところは,「トンタンタン」 らすと,元気な感じがするな。次 と打つとよさそうだな。次は優し は,優しいところを考えたいな。 いところを考えたいな。 3 拍子のリズムにのせて歌い,曲の気分の違いが伝わる表現になるよう に,工夫をしたいという意欲を高めている。 <スタートの意識> ◎元気・優しいが伝わる鳴らし方を工 夫しよう。 T1 元気・優しいに合う楽器の鳴らし方を工夫しよう。 前半は「トンタンタン」と始めを強 鳴らす大きさに気を付けよう。前 く打つようにするとよさそう。後 半は元気よく「トンタンタン」で, 半はさっきより優しく打つといい 後半は優しく打つと優しい感じが のかな。仲間に聴いてもらって確 出そうだ。仲間に聴いてもらって かめたいな。 確かめたいな。 曲の気分の違いに合う表現の見通しをもち,仲間に聴いてもらって確か めたいと意欲を高めてくる。 ○自分の楽器の鳴らし方の工夫を試 す場の設定 ・音の強さ・長さ・鳴らす場所など自 分の工夫したいことを明らかにし てから試す活動を行う。 T2 元気・優しいが伝わる鳴らし方ができているか,ペアで聴き合ってア ドバイスし合おう。 トンタンタンの 1 拍目は,トンと 元気は,スタッカートの感じで鳴 強く打つと,元気な感じに合う鳴 らしたいな。後半の優しい感じは, らし方になるみたいだな。優しい 前半より優しく打つといいかな。 ところは,トンにしてみようかな。 ○曲の気分の違いに合う鳴らし方に なっているか仲間と聴き合う活動 の組織 <「協働」場面> Aさん:打って鳴らすだけでなく,振 って鳴らす方法を想起させ,鳴 らす場所を考えるように促す。 Bさん:3 拍子をトンタンタンの 3 拍 だけでなく, 1 拍でとらえさせ, 音の長さに違いを付けて違い を表せるように促す。 ・相手の演奏のよいところを認め,ア ドバイスをし合いながら聴き合え るようにする。 ↓ C さんの,シャンシャンと振る鳴 らし方がいいな。振って鳴らす場 所を変えると優しい感じに合う な。仲間にアドバイスをもらって 工夫できてよかった。他の仲間に も聴いてほしいな。 新 た な 願 い を も つ 15 分 ↓ 元気ははっきり打つといいんだ な。後半は D さんの言っていた音 がつながるために,手を回して鳴 らしてみたら優しい感じがしてき た。仲間に発表したいな。 評:曲の気分の違いに合う鳴らし方の 工夫を書き加えた楽譜から評価「音 楽を感じ取り表すこと」 音の長さや強さ,鳴らす場所を変えると曲の気分の違いが伝わる表現が できることに気付き,仲間に発表したいという意欲を高めてくる。 □仲間の表現を聴いて,楽器の鳴らし 方やリズムを直したいと願いをも ってきたら,聴き合いながらつくり 直すことも認める。 (複線化) T3 曲の気分の違いが伝わるように発表し合い,聴き合おう。 後半の鳴らし方では,C さんみた 発表したら前半と後半の気分の違 いにシャンと振って鳴らすと優し いが分かってもらえて嬉しかっ い感じが出て,楽しかった。他の た。もっと仲間の発表も聴いてみ 仲間の演奏も聴いてみたいな。 たいな。 ○工夫したリズムや楽器の鳴らし方 を仲間と聴き合う場の設定 ・発表する際には,どんな点を工夫し たか説明をさせ,聴き手が視点をも って聴けるようにする。 拍にのって曲の気分の違いが伝わる表現をすることができ,他の仲間の 演奏も聴いてみたいと意欲を高めてくる。 評:歌ったり聴いたりしている様子の 観察と振り返りの記述から評価 「音楽の感じ方,表し方を認め合うこ と」
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