3 年 2 組 理科 ものを動かす 風パワーのひみつ 小倉 義則 1 子供と単元 (1)問題追求の状況と子供への願い 前単元「ゴムの働き」では,ゴムがものを動かす働きについて調べた。ゴムをたくさん伸ばした時と少しだけ伸 ばした時のものの動き方の違いを比較し,実物やイメージ図を用いながら話し合うことを通して,伸ばすほどゴム の働きが強くなることを明らかにしていった。自然事象に関心をもち,不思議に思ったり,知らなかったことを発 見したりすることに意欲を高めてきている子供たちである。 本単元では,風のもつ働きについて実験を行いながら調べていく。その際,実験で共有した事象の理由について, イメージ図で表したり,仲間と話し合ったりする。このことにより,実験や生活経験を基に考え,風についてそれ ぞれがもつ素朴な見方や考え方を,より科学的な見方や考え方へと高めていく子供の姿を期待する。 (2)教材の価値とはぐくみたい資質・能力 本単元では,風を使った道具作りや送風機を使った実験を通して風の働きについて考えていく。子供たちは生活 の中で,風が紙などの物を動かす様子を目にしたり,傘などが風から力を受けることを経験したりしている。また, 学級目標の掲示を動く仕掛けにしたいという願いをもっており,その動力源として風の力が生かせないかと考え始 めている子供たちである。このように,風は生活経験を基に考えやすい自然事象であり,3年2組の子供たちにと っては,学級の生活とも関連している。しかし,風や空気は目に見えないため,それぞれがもつ風のイメージは曖 昧であり,違いがある。観察や実験,話合いを通して,それぞれがもつ見方や考え方を科学的な見方や考え方へと 高めていく子供の姿を期待する。 本単元では,風の強さや受け方について,実験の結果を基にして仲間と話し合う活動を組織する。実験では,送 風機を上に向けてビニールの円盤を浮かせ,到達した高さの違いを比べる。床に落ちるはずのものが浮かぶ現象に ついて調べる中で,子供たちは風が吹くことで上向きの力が円盤にかかっているという見方をしてくる。また,穴 の開いた円盤の中心に棒を通すことで,円盤の動きを制御でき,到達した高さを比べることを通して,受ける風の 力の違いを知ることができる。そして,浮かぶ高さに違いが出た理由について考察する際,実物やイメージ図を用 いて考えを交流する。このことにより,それぞれの風の働きに対する見方や考え方のずれが表出し,実験をして調 べたり話し合ったりすることにより,理解を深めていく。このような学びを通して,風の強さと風の受け方との両 面から,風の働きについて実感を伴って理解する子供の姿を期待する。 そこで,本単元の中核となる学習内容を「風の強さや風の受け方によってものを動かす働きの強さが変わること」 とおさえた。また,本単元と関連する単元ではぐくみたい資質・能力は以下の通りである。 第 3 ステージ 小3 本単元 第 4 ステージ 小5 振り子の運動 第 5 ステージ 中3 力学的 エネルギー 自然事象にかかわり, 観察・実験を通して疑問を 解き明かそうとすること 風の働きについて興味・関心をもっ て調べ,分かったことを生活に生か したり,生活の中で風を受ける場面 や風力の利用とつなげて考えたりし ようとする。 振 り子 の運 動 について,仮 説 を検 証 する実験 を考 えたり,繰り返し実 験を行ったりするなどして,事実をも とに疑問を解き明かそうとする。 ものの運 動 エネルギーと位 置 エ ネ ルギーの関係を,実験を繰り返しな がら明らかにしようとする。 自然事象に対する 見方や考え方のずれを 克服しようとすること 風がものを動かす現象について, 仲間の考えとの違いを見付け,実 験をしたり話し合ったりしながら風 の働きを明らかにしていく。 自然事象を多面的にとらえ,原因や 仕組みを明らかにすること 振 り子 の周 期 を決 める条 件 につ いて,話 し合 ったり,実 験 結 果 を 共 有 した りし なが ら,振 り子 の運 動について明らかにしていく。 仮説を交流したり,実験結果を共 有したりしながら,ものの運動につ いて仲間とともに妥当な解釈を見 いだす。 条件を制御しながら振り子の運動につ いて実験で調べ,振り子の等時性につ いて数値を基に明らかにする。 風の力を空気の流れとしてとらえ,風の 強 さや風 の受 け方 と,ものを動 かす働 きの強さとを比べ,風でものが動く仕組 みを明らかにする。 複数の実験データを基に,ものの運動 について動 きの速さやものの質 量,位 置の高さと衝突の様子とを関係付けな がら,推論したり考察したりする。 2 「協働型学習」の構想 (1)本単元における「協働」場面の位置付け 本単元では,上向きの風で円盤を浮かべた際,どの大きさの円盤が一番浮くかを話し合うところに,「協働」 場面を位置付ける。 (2)本単元の問題解決のサイクルにおける「協働」場面の位置付け 本単元では,問題解決のサイクルにおける「見通しをもつ」と「解決する」の過程に「協働」場面を位置付ける。 問題をもつ 見通しをもつ 解決する 新たな問題を見いだす (3)「協働」場面をつくる手だて 1 場面・目的意識に関わる手だて 2 交流相手・3 交流させるものに関わる手だて 4 交流方法・形態に関わる手だて 5 記録方法に関わる手だて 1 2・3 4 5 「協働」場面① 風の力を受けやすい円盤の大きさについて自分 の予想と仲間の予想のずれにより不確かさを感 じる状況を作る。そのために,ネームプレート を用いて立場の違いを可視化する。 「協働」場面② どの大きさの円盤がよく浮かぶかについて,自分の 予想と結果や,自他の考えのずれにより不確かさを 感じる状況を作る。そのために,イメージ図や実物 を用いて考えを可視化する。 生活班で,イメージ図を用いて交流する。 4~5人の生活班で予想を交流する。 ホワイトボードに記入したり,実験で用いる円 盤を使ったりしながら考えを交流する。 イメージ図と文章を記入できるワークシート。 4~5人の生活班で考察を交流する。 ホワイトボードに記入したり,実物(円盤や送風機) を使ったりしながら考えを交流する。 3 単元の目標 風の働きでものを浮かす実験をしたり,結果について仲間と考察したりする中で,風の強さや風の受け方に よってものを動かす働きの強さが変わることを理解し,風は動力として物作りに利用できることや,風のエネ ルギーが自分たちの生活に生かせることに気付く。 4 単元の計画(全 9 時間 本時 5/9) 1次 ① ② ③ 風でものを浮かせよう <抽出児A さん> <抽出児B さん> 観察や実験の事実と仲間の考えとを 自分の考えを基に,こだわりをもち 比べながら,理解を深める子。 ながら追究していく子。 ・シャボン玉を風で飛ばしてみよう。 シャボン玉に風を当てるといろいろ シャボン玉は強い風を当てたらよく な方向に飛ばすことができるよ。風 動いたよ。他のものにも風を当てて が吹くと,空気やものが動くのかな。 動かしたら面白そうだな。 ・風がもつ働きと,どんな仕掛けにすればよいかを話し合おう。 シャボン玉は風で飛んだよ。学級の 円盤型の「花丸くん」のメダルを作 掲示が空だから,上に飛ばす仕掛け って,浮かせる仕掛けは良さそうだ がいいな。 「花丸くん」の柄で丸いメ な。強い風にすればメダルを高く浮 ダルにすると良さそうだな。 かすこともできると思うよ。 ◎風の強さを変えると,ものを浮かす力も大きくなるのか。 【同じ大きさの円盤を,上向きの送風機で風力を変えて浮かべる実験】 風の力で円盤が浮いたよ。風が強い 風力を最大にするとよく動いたの ほど,高く浮かんだよ。風が強いほ は,風パワーも大きいからだ。もっ どものはよく動くのだな。 と高く浮かせたいな。 <留意点> ・学習したことを学級目標の掲示(空と 虹とシャボン玉のデザイン)の動く仕 掛けに生かしたいという,共通の願い をもっている子供たちである。 ○シャボン玉に風を当てて飛ばす場の設定 ・うちわ,卓上ミニ扇風機,送風機などを使っ て,シャボン玉を風に乗せて飛ばし,遊ばせ る。 ○風の働きの知識や生活経験,学級目標の仕掛 けについて,仲間と話し合う活動の組織 ・ 「花マルくんメダル」を掲示につけていくとい うゴールのイメージを共有した後,うまくい かない具体例を提示する。 ○風の強さとものを動かす働きの関係について 円盤を浮かす実験を行い,結果の違いについ て検討する活動の組織 ・子供たちの話合いを基に,教師が実験装置を 紹介する。 風を強くすると,円盤は高くまで浮かんだよ。風の強さは限界があるけど,もっ と高くまで浮かべる方法はないかな。風パワーが伝わりやすいように工夫したいな。 2次 ④ ⑤ 本 時 ⑥ 風パワーを円盤に上手く伝える方法を考えよう ・風の強さは変えずにもっと高く浮かべるには,どうすればよいだろうか。 大きいうちわは動かしにくかった 風が強い時に傘を開いていると,風 よ。円盤を大きくすると風パワーを で壊れそうになったよ。風をうける たくさんもらえるけど,動きにくく 場所を広くする方が,風パワーはた なるのではないかな。調べたいな。 くさん伝わるのではないかな。 ◎どの大きさの円盤が一番浮かぶのか。 【大,中,小の円盤を上向きの送風機で浮かべる実験】 小さい円盤はよく浮いたよ。大きい 大きい円盤は思ったより浮かなかっ 円盤よりも軽いから動きやすいのだ た。でも,重さを一緒にしたら,広 な。重さが一緒ならどうなるかな。 い円盤の方が動くと思うよ。 ・ものの重さが同じだとどの大きさの円盤がよく浮かぶのか。 円盤を重ねて同じ重さにしたら,小 円盤を重ねたら,小さい円盤の高さ さい円盤は少ししか上がらなかった は低くなったな。風をしっかり受け よ。軽い方が浮きやすいな。 ることが大事なのだな。 ○風の受け方と円盤の動き方について,予想と 実験方法を話し合う活動の組織 「協働」場面① ○円盤の大きさと浮き方について仲間と実験を 行い,結果の要因について話し合う活動の組 織 「協働」場面② ○ものの重さによって動き方が変わるかどう か,円盤を浮かす実験で調べる場の設定 □形について検討したいと考えてきた際には, 演示実験で調べることにする。<複線化> 受ける場所が広い方が,風パワーがよく伝わるのだな。それに,軽いものの方が動き やすいことが分かったよ。これを使えば,学級目標の動く仕掛けもうまく作れそうだ。 3次 ⑦ ⑧ ⑨ 学級目標の掲示に風パワーで動く仕掛けをつけよう ◎学級目標の仕掛けにどんなものを使うとよいか。 軽くて大きい円盤にするとよいと思 風は強い風を当てれば上まで届きや う。学級目標が掲示してある高さま すいよ。軽さにも気をつけて,メダ で届くように作りたいな。 ルを作ったら,空に貼りたいな。 ・ 「マイ花マルくんメダル」を作って,動く仕掛けを完成させよう。 軽い物を使ったらちゃんと上まで届 楽しくて良いデザインになったな。 いたよ。動かすのが楽しみだな。み 早く空に飛ばしたいな。たくさん飛 んなで協力して,花マルでいっぱい ばせるように,いろんなことにチャ のクラスにしたいな。 レンジしていきたいな。 ○学習したことを生かして, 実際に使う円盤 「マ イ花マルくんメダル」の具体を話し合う活動 の組織 ・話合いを基に教師が素材をいくつか提示する。 ○円盤の形を生かして「花マルくんメダル」を 用いた掲示作りをする場の設定 風パワーの秘密を使って,動く仕掛けが作れたよ。これから動かすのが楽しみだな。 他にも,風を使ったおもちゃも作ってみたいな。 5 評価 ○「自然事象にかかわり,観察・実験を通して疑問を解き明かそうとすること」:問題解決への取り組み方(行動,発話,記述 ) ○「自 然事象 に対 する見 方や考 え方のずれを克服 しようとすること」:実験中 や予想 ,考察 の交 流 をした際の行動 (行動 ,発話 ) ○「自 然 事 象 を多 面 的 にとらえ,原 因 や仕 組 みを明 らかにすること」:実 験 の計 画 ,実 験 のやり方 (行 動 ,発 話 ,記 述 )
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