非接触給電における低次高調波に起因する 放射

非接触給電における低次高調波に起因する
放射磁界の一低減手法
–マルチレベルインバータの適用日下
佳祐*,伊東
淳一 (長岡技術科学大学)
A Suppression method of Radiated Emission caused by Low-order Harmonic Current in a Wireless Power Transfer System
Keisuke Kusaka, Jun-ichi Itoh (Nagaoka University of Technology)
85 kHz 帯における許容値については,許容値を緩和せんと
1. まえがき
近年,電気自動車をアプリケーションとした非接触給電
システムが盛んに研究されている(1)。しかし,本システムで
は伝送コイル間の磁気結合を用いて電力を伝送するため,
伝送コイルから漏洩電磁界が生じる。漏洩電磁界の低減手
法として,2 レベルインバータの出力電圧幅を制御すること
で漏洩電磁界を抑制する方法が提案されている(2)。しかし,
する動きもある。
CISPR の放射妨害波の許容値を満足することを考えると,
非接触給電システムの基本波 85 kHz で生じる漏洩磁界を抑
制することも重要であるが, それ以上に 3 次,5 次などの
低次高調波の漏洩磁界を強く抑制する必要がある。
3.インバータによる出力電流の低次高調波低減手法
本手法は 3 次高調波成分の抑制にのみ有効であり,5 次以降
図 2(a)に非接触給電システム向けとして広く用いられて
の高調波成分に対しては抑制効果が薄い。そこで本論文で
いる 2 レベルインバータを示す。ここでは,最も一般的な
は,マルチレベルインバータを用いて放射磁界の低次高調
駆動方法である方形波駆動と,文献(2)のパルス幅制御方式
波成分を抑制する手法を検討したので報告する。
を適用した場合の 2 種類を検討する。文献(2)は具体的なパ
2.CISPR が定める放射妨害波の許容値
ルス生成法が記述されていないものの,位相シフト制御を
図 1 に CISPR11(Class B, Group 2)の測定距離 3m における
放射妨害波の許容値を示す(3)。
非接触給電システムは CISPR
における「ISM 装置」扱いとなる見込みであり,図中にお
いて青の実線で示した許容値が適用される。クラス B 装置
については,放射磁界の許容値が 150 Hz から 30 MHz まで
の帯域のみ規定されているため,現在のところ非接触給電
システムの基本波 85 kHz は規制範囲外である。しかしなが
ら,現在この規制周波数帯域を 9 kHz から 30 MHz まで拡張
する動きがある。新たに拡張される本帯域の許容値は未だ
議論中であるものの,図 1 中に青の点線で示した電磁誘導
用いて所望の出力電圧を形成しているものと仮定する。
2 レベルインバータの出力電圧は,方形波駆動時には(1)
式,位相シフト制御時には(2)式で得られる。ここで2Lv は 2
レベルインバータが半周期中にゼロ電圧を出力する期間の
半値である。
Vinv _ 2lv _ sq 
4Vdc
Vinv _ 2lv _ pw 
4Vdc


 2n  1 sin2n  1t
1
······(1)
n1, 2 ,
cos2n  1 2 Lv
sin2n  1t ······(2)
2n  1
 n1, 2,


非接触給電システムでは,高調波のうち 3 次高調波の影
されている。さらに,非接触給電システムの基本波となる
響が最も大きいため,3 次の電流高調波を低減するよう,す
Radiated emission [dBuA/m]
加熱式調理器と同レベルの許容値が適用されることが予想
(2)式より,Lv = T / 12 とすることでインバータ出力電圧の
80
(Possibility of relaxation of regulations)
60
す。
出力周波数が 85 kHz と高いことから,
出力周波数 85 kHz
CISPR11
(Class B, Group 2, D = 3m)
Under
consideration
Fundamental
(85 kHz)
0
1kHz
10kHz
三次高調波成分がゼロとなる。
図 2(b)に本論文で検討する T 型 3 レベルインバータを示
For induction
heating equipment
40
20
なわち 3 次の電圧高調波がゼロとなるよう2Lv を設定する。
3rd
100kHz
にて 1’パルス駆動(4)を行う。1’パルス駆動時,インバータの
出力電圧 Vinv は(3)式となる。なお,ここで n は高調波の次
・・・
5th
1MHz
数,は出力電圧の基本波周波数である。
10MHz
100MHz
Frequency [Hz]
Fig. 1. Regulations of radiated emission by CISPR11.
Vinv
 2n  1 
cos2n  1 3 Lv cos

4Vdc 
2

 sin2n  1t (3)


 n1, 2,
2n  1
インバータの方形波駆動時には 63.0%,2 レベルインバータ
の位相シフト制御時には 17.5%,3 レベルインバータの 1’
パルス駆動時には 12.6%となり,5 次以降の電流高調波の低
減にも効果があることを確認した。
ここで 3 次,5 次高調波成分がゼロとなるよう3Lv とを
以上より,3 レベルインバータを 1’パルス駆動すること
決定する。(3)式より,3Lv = T / 6, = T / 10 とすることで
により非接触給電システムから放射される放射磁界の低次
インバータ出力電圧の 3 次及び 5 次高調波分がゼロとなる。
高調波成分を抑制可能なことを確認した。
4.放射磁界の低減効果の検証
Table 1. Parameters for analysis
Parameters
Symbols
Values
ループ電流により生じる磁界はコイルに流れる電流値に
比例するため,本論文では放射磁界を評価する代わりに,
インバータの出力電流高調波の評価を行なった。なお,シ
Coupling coefficient
Switching frequency
ミュレーションは図 2 に示した回路構成とし,他の伝送シ
Self-inductances
ステムのパラメータは表 1 に示す通りである。
Smoothing reactor
図 3 に各回路構成時のインバータ出力電圧と出力電流,
Resonance capacitors
図 4 にインバータ出力電流の低次高調波の割合を示す。な
Input voltage
Load
お,それぞれ基本波周波数(85 kHz)の電流値において規格化
として流れる三次高調波が 0.6p.u.にものぼることに起因し
ており,結合係数が高いほどひずみが顕著に表れる。
文献(2)の 2 レベルインバータにおいて位相シフト制御を
用いた場合には,方形波駆動時と比較して電流の 3 次高調
波を 83.6%低減できる。しかしながら 5 次調波の低減効果
は薄く,低減率は 16.8%に留まる。
一方,3 レベルインバータを 1’パルス駆動した場合,2 レ
ベルインバータの位相シフト制御方式とほぼ同様に 3 次調
波を 81.3%低減できる。さらに 5 次高調波も 89.0%低減可能
Inverter current
iinv [A]
ータ出力電流が大きくひずむこととなる。これは無効電流
Inverter output voltage
vinv [V]
している。2 レベルインバータの方形波駆動時には,インバ
である。また,40 次までの総合ひずみ率(THD)は,2 レベル
Su1
400
200
0
-200
-400
30
15
0
-15
-30
2-level
Su2
Vdc
Sv2
L1
L2
r2
C2
Cs
R
Inverter output voltage
Vdc
0
0
Vdc
Vdc
T
2
 2 Lv
T
2
T
T
(Square wave)
(Phase shift control)
Su1
Sv1
Vdc
vinv
r2
L2 C2
L1
Sv2
2-level
(Phase shift)
0.4
3-level (1' pulse)
0.2
1
2
3
4
5
6
7
Harmonic number
8
9 10 11
文 献
Cs
R
(1)
Inverter output voltage
Su2
0.6
Fig. 4. Inverter output current harmonics.
k
r1
iinv C1
(1' pulse)
Topologies
THD40
2-level (Square wave) 63.0%
2-level (Phase shift) 17.5%
3-level (1' pulse)
12.6%
2-level
(Square wave)
(85kHz)
Ls
Su4

0 10 20 30 0 10 20 30 0 10 20 30
0.8
0
(a) Two-level inverter with square wave operation or pulse
width control(1)
Su3
kHz
H
H
mH
nF
nF
V
3-level
(Phase shift control)
1
Normalized inverter
output current Iinv [p.u.]
r1
C1
2-level
(Square wave)
k
Vdc
0.8
85
35.7
34.8
1
275
98
282
24
Time [s]
Fig. 3. Operation waveforms of WPT system with each inverter
topology.
Ls
Sv1
k
f
L1
L2
Ls
C1
C2
Vdc
R
 V dc
1
 Vdc
2
(2)
0

1
 Vdc
2
 V dc   23Lv  
T
(b) T-type three-level inverter (1’ pulse)
Fig. 2. Wireless power transfer systems for consideration.
(3)
(4)
S. Y. R. Hui, Y. X. Zhong, C. K. Lee, IEEE Trans. On Power
Electronics, Vol. 29, No. 9, pp. 4500-4511 (2012)
佐 藤 , 徐 , 金 子 , 阿 部 , 電 気 学 会 研 究 会 , SPC-14-016,
MD-14-016, pp. 93-98 (2014)
CISPR, CISPR11, ClassB, Group 2 (2014)
近藤, 松岡, 中澤, 電気学会論文誌 D, Vol. 118, No. 7-8, pp.
900-907 (1998)