並列分散遺伝的アルゴリズムにおけるハイブリッド生成交叉 Hybridization Crossover for Parallel Distributed Genetic Algorithms 正 ○学 三木 光範(同志社大工) 正 大向 一輝(同志社大院) 廣安 知之(同志社大工) Mitsunori MIKI, Doshisha University, Tatara Miyakodani 1-3, Kyo-Tanabe, Kyoto Tomoyuki HIROYASU, Doshisha University Ikki OHMUKAI, Graduate School of Engineering, Doshisha University, [email protected] Key word : Genetic Algorithms, Parallel Processing, Distributed Subpopulations, Crossover 1 はじめに らに,母個体と移住個体が交叉して生成された個体をハ 遺伝的アルゴリズム (Genetic Algorithm : GA) は生物 の進化プロセスを模倣した確率的な最適化アルゴリズム GA の並列化手法の 1 つに,母集団を複数のサブ母集 団に分割して GA を実行し,一定世代ごとに移住と呼ば れる個体の交換を行う並列分散 GA(Parallel Distributed GA : PDGA) がある.PDGA は並列化によって計算時間 が短縮されるだけでなく,単一母集団の GA と比較して より良好な解を得ることが可能である. 本論文では,PDGA の解探索メカニズムをさらに検討 し,それに適した新たな交叉スキームを提案する. PDGA における移住および交叉の役割 2.1 移住の機能が PDGA の性能に与える影響を検証するた め,以下の 3 つのスキームを用いて数値実験を行った.1) である. 2 イブリッドとする. 移住をしない (w/o Mig.) 2)移住後の第 1 世代は母個 体同士および移住個体同士の交叉のみを許可し,ハイブ リッドを生成しない (w/o Hybrid) 3)通常の移住およ び交叉 (Normal). 対象問題は 10 次元のテスト関数 2) の最大化である. Rastrigin 関数は多峰性の関数であり,変数間に依存関係 はなく,GA では比較的解きやすい.Rosenbrock 関数は変 数間に極めて強い依存関係をもつ単峰性関数であり,GA では部分解を形成することができず,非常に解きにくい 問題であるとされている.Ridge 関数は Rastrigin 関数 と Rosenbrock 関数の中間的な性質を持つ単峰性の関数 母集団の分割と移住の効果 である. 単一母集団 GA では,比較的良好なスキーマを持つ個体 が多数を占めることによって他のスキーマの成長が妨げら れ,結果的に早熟収束を起こすことがある.一方,PDGA ではサブ母集団ごとの個体数は単一母集団 GA よりもさ ここでは,個体数を 400,サブ母集団数を 8,交叉率を 1.0,突然変異率を 1/L(染色体長 : 100bit),移住間隔 を 5 世代,および移住率を 0.5 とした.なお,結果は 20 試行の平均値である. らに小さくなり,早熟を起こしやすい.しかし,個々の サブ母集団は異なる傾向に進化することが多く,移住に Table 1 The effect of migration scheme よって個体を交換することで全体としては多様性を保つ ことが可能である.また,あるサブ母集団で生成された w/o Mig. w/o Hybrid Normal # 733 # 339 # 292 良好なスキーマが,移住によって他のサブ母集団の個体 Rastrigin が持つスキーマと結合し成長するために,単一母集団 GA Ridge -4.46328 -1.07266 -0.93984 Rosenbrock -1.26808 -4.97602 -5.23925 よりも高品質な解を高速に求めることができる 1) .すな わち,PDGA における移住の機能は,早熟を防ぎ多様性 を高めるとともに,その後の交叉によってスキーマを結 合させることにあると考えられる.特に,スキーマの結 合メカニズムには,移住後の第 1 世代での交叉が非常に 重要な役割を担っていると考えられる. 2.2 ハイブリッドの影響 次の議論のために,個体に 3 つの属性を定義する.あ るサブ母集団において移住が行われた後,そのサブ母集 1000 世代での適合度を Table 1 に示す.1000 世代まで に最適解を発見できたものについてはその世代(#)を 示している. Rastrigin 関数と Ridge 関数では通常の交叉スキームが 最も高い性能を示している.移住後第 1 世代のハイブリッ ド生成を禁止したスキームは通常の交叉スキームと比較 して探索性能が劣る. 団に留まっている個体を母個体とし,移住によって他の 一方,GA における部分解の形成および組み合わせの サブ母集団から移動してきた個体を移住個体とする.さ 機能が有効に作用しない Rosenbrock 関数では,移住を行 わないスキームが最も良く,移住を行うスキームは両者 りも良い.一方,Rosenbrock 関数では,H = 1.0 とする ともに大きな違いはない. と他のスキームと比較しても最も性能が悪くなる.これ これらの結果より,PDGA における解探索を移住と交 叉が促進している場合には,移住後第 1 世代のハイブリッ らより,HX を用いることで,PDGA において移住が果 たす機能は最大化されることがわかる. Fig. 1 は Ridge 関数での適合度の推移である.H が GA ド生成が極めて重要であることがわかった. 3 の探索に及ぼす影響は探索の前半と後半で大きく異なる ハイブリッドの生成を促進する交叉 ことが明らかになった.まず,探索の前半では,H が高 前節の結果より,移住後にハイブリッドを多く生成す いほうが適合度の上昇は速い.これにより,移住および ることで PDGA の性能をさらに高めることができると考 交叉による解探索は,H を高めることによって有効に機 えられる. 能していることがわかる. 通常の交叉スキームでは,あるサブ母集団において移 住後第 1 世代の全個体に占めるハイブリッドの割合(H ) は次の式で求めることができる.Pc は交叉率(最大 1.0) であり,µ は移住率(最大 0.5)である. H = 2Pc µ(1 − µ) (1) 交叉率を 1.0,移住率を 0.5 としても,H の最大値は 0.5 となる.通常の交叉では PDGA における解探索の主 役であるハイブリッドは全体の 50 %しか生成されない. 残りの 50 %は母個体同士,あるいは移住個体同士から生 成される個体であり,移住の影響を受けていない. そこで,移住後第 1 世代のハイブリッドをさらに多く 生成する新たな交叉スキームとして,ハイブリッド生成 交叉(Hybridization Crossover : HX )を提案する.この 交叉は,移住後の第 1 世代において移住個体を確実に母 Fig. 1 History of the fitness value 個体と交叉させることにより,従来よりも多くのハイブ リッドを生成するスキームである.HX を用いることに より,H は以下の式で求めることができる. H = 2Pc µ 探索の終盤では個体間の多様性が低くなり,母個体と (2) 移住個体が同じような傾向となる.そのため,生成され たハイブリッドによって大きく適合度が上昇することも 交叉率を 1.0,移住率を 0.5 とすることで,全ての個体 少ない.このことから,探索の後半では HX の効果は小 をハイブリッドにすることができる. さくなるといえる. 4 5 ハイブリッド生成交叉の効果 おわりに 移住後第 1 世代に生成されるハイブリッドの数が PDGA 並列分散 GA における解の成長メカニズムが単一母集 の性能に及ぼす影響を調べるため,2.2 節と同様の数値実 団の GA とは異なることに注目し,その性能をさらに高 験を行った.比較するパラメータ H は,0.2,0.5,およ める交叉スキームを提案した.並列分散 GA では,移住 び 1.0 とする. オペレータによってサブ母集団内の早熟を避けるととも に,その後の交叉によって母個体と移住個体から両者の Table 2 The performance of HX H = 0.2 H = 0.5 H = 1.0 # 337 # 296 # 281 Ridge -1.40312 -1.32812 -0.94375 Rosenbrock -3.57505 -4.70237 -5.87565 Rastrigin スキーマを併せ持つハイブリッドを生成する機能をもつ. ハイブリッド生成交叉(HX)はこの解探索機能をさらに 高めるためものであり,提案手法を 3 つの代表的なテス ト関数に適用した結果,良好な結果を示した. 参考文献 1) 三木, 廣安, 金子. 分散母集団遺伝的アルゴリズムにおける 解探索能力. 人工知能学会全国大会, 1999. 実験の結果を Table 2 に示す.Rastrigin 関数と Ridge 関数においては,H が高いものほど良い性能を示してお り,特に Rastrigin 関数では,2.2 節の通常のスキームよ 2) S. Rana D. Whitley, K. Mathias and J. Dzubera. Building better test functions. International Conference on Genetic Algorithms, 1995. 出典: 日本機械学会 第 13 回計算力学講演会講演論文集 pp. 299 - 300 (2000 年 11 月 28-30 日) 問い合わせ先: 同志社大学工学部/ 同志社大学大学院工学研究科 知的システムデザイン研究室 (http://mikilab.doshisha.ac.jp)
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