〔東京家政大学博物館紀要 第 20 集 p.1 〜 25, 2015〕 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 プレイメーキングによる学生の自己表現力とコミュニケーション力の育成 花輪 充 *・山本 直樹 ** Substantial Examination of the Childcare Contents“Expression” in the nursery’s training course : Development of Self-expressive Power and Communication Skills of Students by Play-making Mitsuru Hanawa, Naoki Yamamoto 1.はじめに 本学短期大学部保育科 2 年の保育内容の研究(表現Ⅱ)、家政学部児童学科 3 年の保育内容の研究 (表現Ⅱ)、児童教育学科 3 年の保育内容の研究(表現Ⅲ)と、演劇表現に主眼をおいた授業内容を 展開している私どもにとって、授業内容とその展開が領域「表現」の趣旨とどのように整合性を計 り、幼児教育が目指すところの「遊びを通して子どもの発達や経験を保障していく」ことに反映さ れていくかを考えることは正に眼目であり課題でもある。 保育内容の研究(表現)の授業内容については、各保育者養成校によって独自な取り組みがなさ れている。本学では、授業を保育内容演習(表現)-音楽表現、(表現Ⅰ)-造形表現、(表現Ⅱ) -身体表現と区分し、各 15 回の授業を展開しているが、15 回の授業内容を、音楽表現、造形表現、 身体表現、生活表現と区分し、オムニバス形式で授業展開する養成校も少なくない。いずれにせ よ、幼児教育が目指すところの「遊びを通して子どもの発達や経験を保障していくこと」に健全に 反映されることに眼目を置いていることは事実として、その授業の中身となると、各指導者の専門 性に傾倒しすぎたり、純粋芸術の領域に特化したものとなってしまったり、幼児の表現の発達に根 ざした取り組みから些か遊離した内容になりがちなのが現状である。 一方、総合表現的な授業の取り組みにシフトしている養成校もある。その場合顕著に見られるの が、音楽表現、造形表現、身体表現の取り組みを劇の創作から実演(シアター)といった枠組みの 中で構造化し、その成果発表を授業の到達点とするといったものである。つまり、シアターをプロ デュースしていくことを幹として、各表現活動(演技、舞踊、歌唱、舞台美術、広報など)を枝葉 に伸ばしていくものであり、自分の得意な表現分野を手がかりとして、シアターの全体像に関与さ せていくと言ったものである。こうした取り組みは、部分(個人)が全体(グループ)の中でいか に相互的に機能していくかを体験的に学習させる具体的な機会として効果をもつ。ある時は主体的 * 児童学科 演劇表現研究室 ** 有明教育芸術短期大学 — 1 — 花輪 充・山本 直樹 に、ある時は協同的に、そして方略的にものごとを推進していく能力を身に着けさせる上でも実に 有益なプログラムともいえる。しかしながら留意しなければならないことも存在する。前述のよう な場合、ともすれば学生自身のスキルアップのための取り組みに偏向してしまいがちであるという 事である。たとえ、題材が幼児に適したものであったにせよ、幼児の鑑賞に堪えうるものであった にせよ、それだけでは「遊びを通しての総合的指導」を視座とした表現の授業プログラムとして不 十分といえる。 本稿では、現行の幼稚園教育要領に編成された領域「表現」のねらい及び内容の考え方をふまえ ながら、「子どものごっこ遊び、パペットを使った劇的遊び、リーダーに導かれたクリエイティ ブ・ドラマなどのドラマ活動およびドラマ的活動を含めた」1) プレイメーキングを取り入れた学 習方法の妥当性や有用性について、「ぬいぐるみ人形で遊ぶ」(花輪)、「相談無しでの即興的な静止 画づくり」(山本)等の授業実践の展開と振り返りより明らかにする。 2.領域「表現」の趣旨と授業内容の整合性を考える 平成元年の幼稚園教育要領の改訂に伴い誕生した領域「表現」は、幼児の素朴な表現を受容し、 表現しようとする意欲を受け止め、生活の中で幼児らしい様々な表現を楽しむことができるように することを命題とした。幼児の表現は未分化であり、単純に音楽、造形、劇に分かつことはできな いし、そうした指導の羅列であってはならない。ここに総合的な指導の重要性が問われることにな るのだが、果たして保育者養成における表現プログラムは、領域「表現」の趣旨と整合性がとれて いるのだろうか。 昭和 63 年、岡田*は「近く新幼稚園教育要領の公示があり、日本の幼児教育に新しい動きがはじ まろうとしています。先の答申で、主な改善事項とされていた次の三点は、特に示唆に富むもので した。1、幼児の主体的自発的な生活を中心に展開されるものであること。2、遊びを通しての総合 的な指導が重要であること。3、幼児一人一人の発達の特性及び個人差に応じた教育を行うこと。 この中でも特に『遊びを通しての総合的な指導』というのは、従来の幼児教育の反省として大きな 意味を持っています。」2) と説いているが、これは、それまでの健康、社会、自然、言語、音楽リ ズム、絵画制作の 6 領域が、歳月を経るにつれて、小・中学校の教科のような性格をもちはじめ、 子どもの生活や遊びに見られる総合的な視点がぼやけ、それぞれが独立分化した傾向にあることに 対する警鐘ともとれる。また、平成 2 年実施の新教育要領では、先の 6 領域が、「健康」「人間関係」 「環境」「言葉」「表現」の 5 領域に踏襲されるとともに、それらの内容が子どもの主体的な生活や 遊びの中で、総合的に営まれることに視点がおかれた。中でも、音楽リズムと絵画製作といった既 成の芸術ジャンルからの発想をやめて、「表現」という総合的な領域にまとめられたことは実に画 期的なことであった。それは、岡田が、「明治、大正以来、日本の芸術教育はとかく技術主義であ り、音楽、美術といった芸術ジャンルの概念が強く影響し、肝心の子どもの生活や発達という視点 は二の次にされ、歌うことや描くことが、自発的な楽しい遊びよりは、上手に歌え、上手に描ける 結果の方が重視されることになっていました。」3) と指摘するように、我が国の表現教育の在り方 — 2 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 が、とかく直接〈おもてにあらわす〉ための技術の強化に傾倒し、豊かな内面の形成に対する問題 意識が希薄であったことを指摘するものであったからである。 また岡田は、「幼児の生活の中で表現の問題をとらえてみると、幼児は自分の周囲の人や物の存 在に気づき、それとのかかわりを深め、そしてそれを内から外へ表現してみることによって確かな 肉体化、全人化を果たすという構造がわかる。幼児の表現というものを音楽リズム、絵画造形など 抽出したところだけで考える発想とはかなりちがう。」4)として、昭和 63 年の新幼稚園教育要領公 示に対して、音楽リズム、絵画製作といった既成の芸術ジャンルからの発想をやめ、「表現」とい う総合的な領域にまとめたことを支持するとともに、子どもの遊びと表現活動、中でもドラマ的な 表現活動に着目し、絵画的、造形的、音楽的な活動を総合した魅力的なプログラムづくりを急務と した。それは、幼児の表現活動が、素朴に大胆に、統合的に活用されていくことが望ましく、性急 に結果を求めるのではなく、内的イメージを豊かに育み、自己表現することへの勇気や自信を育て ようとするプロセスを重んじる方向へと向かわねばならないことを意味する。 3.表現活動の構造的課題 表現活動の構造について、岡田は「子どもの表現活動について考える時、表現され具体化された 結果だけをとりあげて問題にすることが多い。しかし表現活動とは本来、表現にいたるプロセスに 重点をおいて語られるべきものである。発表会、展覧会、コンクールなどの行事が表現活動の到達 点として設定され、すべてそこへ集約して考えるのが普通だが、実はそこは表現された結果だけし か見ることのできない限られた場なのであって、多くの場合子ども個人の生きた表現活動は、それ 以前にすでに終結してしまっているのである。」5) と説いている。これらの文言は保育現場におけ る表現活動の取り組みを憂慮してのことであろうが、このことに対して、保育者養成校側はいかな る見解と方略をもって保育現場と対峙しているかが問題となる。すなわち「子どもの遊び体験と表 現活動とは同じ領域のものとして考えたい。自発性、主体性、創意工夫性、協調性など遊びの特質 は、そっくりそのまま表現活動に欠かせぬ特質である。(中略)人々に賞讃され拍手喝采を受け、 賞状やカップやメダルが目当てなのではなく、ただ無心に表現の世界に遊び、その場に居合わせた 子どもたちと大人が心の内に感じとった確かな手応え、達成感、感動こそ価値ある表現活動の成果 なのである。」6) とする、子どもと表現の本質に迫るだけの教員の授業デザイン力である。画く、 塗る、作る、歌う、弾く、動く、話す、書く、といった行為以外で表に現れてくる子どもたちの息 遣いを受容する能力である。見た目の変化を評価基準とするのではなくて、子どもの内的な変化を 洞察しようとする教員の動的平衡感(dynamic equilibrium)であり、子どもの探究心を突き動か すだけの表現力である。 保育者は、子どもにとって最高の環境である。保育者の一挙手一投足は、子どもにとってときめ きとひらめきの源泉である。だからこそ、子どもたちは保育者との繋がりを深化させようと、様々 なアプローチを試みる。平山**は、子どもと環境の関わりについて、「探求というよりは「探究」 がふさわしい。探求とは、ある物事をあくまでもさがし求めようとすることであり、その対象は何 — 3 — 花輪 充・山本 直樹 でもよい。それに対して探究は、物事の真の姿を探って見極めることである。(中略)子どもと環 境のかかわりも、まさにそれと同じである。常に真剣である。試したり、工夫したり、まじめに取 り組む。だから、うまくいけば大喜びするが、そうでなければ怒ったり、泣いたり、くやしがった り、本気で嘆く。かかわりは万全でなくてもよい。いっとき休んだり、応援を頼んだり、しみじみ 反省してもよい。子どもの人生は始まっていくらもたっていないからである。子どもの今はゴール ではない。子どもは未来を生きる存在であり、効率や成果が重要ではない。むしろ重要なのは、未 知や未熟なことに対して、知的好奇心をもって環境に正面から立ち向かう「探究心」である。 」7) と記しているが、これらは子どもと表現の関わりをも包含する概念ともとれる。子どもが環境に働 きかけるその過程は、大事な表現の機会であり、たとえ稚拙や粗末に見えようと、そこで用いられ る手段こそが、彼らが選択した真摯な表現方法であることに気づかなければならない。真摯な表現 とは、言い換えればルールにのっとった表現のことを言う。 ガーヴェイは、ごっこあそびを行う子どもの内に、一貫したルールがあることを主張するととも に、ルールのない遊びは存在しないと提言している。ただしそれは、スポーツのように公式的な手 続きによって取り決められたものではない。それは「ふるまいのルール(rules of behavior)」8)と 言われるもので、子どもが人形を自分の子どもと見立てた場合、子どもは母親らしい振る舞いの ルールに従わなければならないといった意味をもつ。だからこそ彼らは、相手がたとえ人形であっ たとしても、母親となって、気を抜くことなく、真剣に立ち向かう高い精神性と探究心をもってい るのである。それが彼らの表現を真摯なものと言わせる所以である。 4.演劇知を導入した幼児教育の転換 ~シアターからドラマへ 各養成校において行われている総合表現の授業内容の多くが既存の演劇(シアター)を柱として 取り組まれていることに着目したい。造形表現、音楽表現、言葉表現、身体表現の各担当教員が チームを組み、それぞれの要素を総合的に発展させていくために、演劇的な要素を軸とする一連の 活動経験を学生に呈示することは、教育活動を活性化させていくばかりか、「個人の独自性と、社 会的な結合との調和」9)を達成する有力な方法手段とも成り得る。しかしながら、それらのことが 既存の演劇(シアター)のシステムにのっとって実践されればそれでいいのかというと課題が残る。 ブライアン・ウェイ***は「混用してはならない二つの活動がある。一つは演劇(theater)であ り、一つはドラマ(drama)である。(中略)「演劇」は主として、俳優と観客の間のコミュニケー ションである。「ドラマ」は観ている人とのコミュニケーションは一切問題にせず、一人の参加者 の経験である。だいたい、観ている人とのコミュニケーションを児童や若人に求めるのは無理な話 である。コミュニケーションを強要すると、人為的になり、目的とした経験の真価をこわしてしま うことになる。」10)と主唱している。たしかに、戯曲を集団で上演し、観客に見せることにも教育 的価値は存在するにちがいない。しかしながら、第三者の視線に気をやむことなく、子どもたちが 安全に守られた環境の中で、drama という虚構や様々な素材を試し、失敗し、創造するという体験 から、様々な事象を学ぶことも大切なことである。中山****は「ドラマ教育の到達点は、子ども — 4 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 たちが自分自身と自分たちの暮らす世界を理解することにある。そのために教師は、その子どもた ちがなぜ人間がそのように振る舞うのかを見出す状況を設定し、子どもたちがその探究の経験を自 らの振る舞いに反映させていくのを助ける役割を担う。」11)と明示しているが、ドラマ教育の在り 方とは、劇の上演にみられるスパルタ的に演出や振付をしかけていくといったことに対しては否定 的なスタンスをとるものなのである。それはドラマ教育が、芸術教育であると同時に、演劇を活用 した体験学習であること、学習手段であること、内容やコンテクスト、シンボル、メタファーを理 解し、解釈し、省察することを求めるリテラシー教育であるからである。そうした観点からみる と、わが国の養成校で行われている総合的表現活動の授業は、既存の舞台を下敷きにしたシアター (theater)の取り組み(大衆芸術)に傾倒している。ドラマ教育の専門スタッフが少ないこともあ るが、如何せん、授業の盛り上がりからすれば、エンターテイメントすることの方が楽しいし、面 白いし、達成感なり充足感も味わえるからである。したがって、学生たちはある意味、自己犠牲の 精神も惜しまずシアターの取り組みに邁進する。目的は、皆で創り上げた作品を、頑張りを、晴れ の姿を、絶対的に賞讃してもらうためである。大きく背伸びした自分に気づいてもらう為でもあ る。どことなくサークル活動を髣髴とさせるその展開は、卒業を控えた学生たちにとって儀礼化し た思い出づくりのイベントになりかねない。 A.F.Alington は「教育におけるドラマは、創造であると同時に、創造を解釈するものでなくては ならない」12) と述べているが、座学では実感しにくい要素こそ、アクティング・アウトすること によって、深い理解に至る可能性をドラマ教育は示唆しているのである。したがって「子どもの遊 び体験と表現活動とは同じ領域のものとして考えたい。」13) とする岡田の表現に関する基本課題 は、ミュージカルやオペレッタといった演劇活動(theater)の取り組みによってただちに熟され るものではない。少なくともドラマからシアターへといった順序性を考え、両義性を理解した上 で、ステップアップしていかなければならないことを授業担当教員は理解しなければならない。 5.表現遊びの意義とは 表現あそびの枠づけにはっきりとした概念規定があるわけではないが、手軽に楽しめる表現活動 を表現あそびとして、劇あそびの前段階に位置づけることを岡田は考えた。 『大人と子どものあそびの教科書 / 表現あそび』(1999、今人舎)の刊行に際して、監修の言葉に 「子どもの表現は、芸術形式にこだわることのない、自由なものであるべきですが、中でも表現技 術的な抵抗の比較的少ない「表現あそび」をくりかえし体験してみることによって、子どもが自分 を表現することに勇気と自信を持つようにする道筋が、今考えられはじめた。」14)と寄せ、そのプ ロセスは、すべての表現活動に共通する基礎体験となるとしながら、①わだかまりのない、自由な 雰囲気の中で活動することができるように配慮すること、②慣れ親しんだ空間(家庭・保育室・教 室)で取り組めることを配慮すること、③好意的な視線を感じながら安心して楽しんで思うままに 活動できることを配慮すること、を留意事項として掲げ、〈明るく個性的で健全な表現と、内面に 根ざしていない、浅はかな表面的模倣とを見極める的確な見識〉を指導者の欠かせぬスキルである — 5 — 花輪 充・山本 直樹 と明言している。筆者も執筆にあたったが、その際特に思案したのが、活動を組織し牽引する指導 者に対するコメントの中身であった。ドラマとシアターについては前述したが、劇あそびがドラマ の概念に近いならば、劇はシアターということになる。しかしながら、そうした定義を知らない読 者にとっては、劇あそびも劇も、既存の劇のイメージに括られてしまってもおかしくない。さらに 「劇あそびはあそびでなければならない」15)とか「劇あそびはごっこあそびの延長である」16)と説 いたところで読者の混迷は避けられないにちがいない。案の定、刊行後まもなく出版元に、「台詞 が覚えきれない」「子どもはのっていたが、予定外の行動にこちらが対応できなくて困った」「発表 会でやる時の衣装や道具はどうすればいいのか」「ガイド(先生)の役を子どもにやらせる場合、 どんな子にやらせればいいのか」などと言った声が届くこととなったのである。劇あそびにおける 指導者の役回りを知らない読者にとってみれば当然の解答であろう。残念なことだが、それは今 もって変わらない。わが国の幼稚園や小学校では、大正以来、教員が子どもに劇を仕込んで父母や 仲間に見せる学芸会などの伝統があり、その伝統は今も脈々と息づいている。そのため、ベテラン の教員になればなるほど、劇の呪縛から離れられないでいるようだ。今もってそうした場面に遭遇 することは少なくない。演劇は子どもにやらせるものといった認識からの脱却をはかるには今しば らく時間がかかりそうである。反対に、近年では学生たちが興味関心を深化させてくれているよう である。劇あそびや表現あそびの取り組みに対して、得手不得手を申し出る学生はいたとしても、 それなりの知見と実践力を携えて保育現場に向かうようになってきたことは事実である。 6.プレイメーキング「ぬいぐるみ人形で遊ぶ」の実践より(花輪) 芸術表現には、自発性を養うとか、やる気を育てるとか、前向きな姿勢を育むなどといった自己 目的性にかかわる要因と、内にあるものを他者に伝え、分かち合い、共感を求めようとする伝達性 にかかわる要因とがある。それらはやがて、車の両輪の如く作用することが求められるが、幼い内 は、自己目的的精神行動を活性化することで、したいと思う事を成し遂げる目的意識とそれに伴う 意欲を育てることが先決課題となる。なぜなら、幼児期の表現活動が、幼児自身の、充実感、満足 感に重点が置かれており、素直な内面性が自然と外化されるレベルを大切にしているからである。 しかしながら成人ともなると、独善的な自己主張をするだけでは意味をなさない。表現あそびの進 行においても、魅力ある仕掛人として、進行係として、交通整理役として、ストーリーテーラーと して、子どもの情感と豊かに交流できる能力を身に着けていかねばならないのである。 保育科 2 年、児童学科 3 年の保育内容の研究(表現Ⅱ)の授業では、一貫して学生たちにプレイ メーキング 17) と称して表現あそびのエクササイズを経験させる。 その場合、 エクササイズは、 パーソナル・プレイ、すなわち「子どもの心も身体もすべてを用いて、他者になり変わる全人的、 体験的な遊び方」と、プロジェクテッド・プレイ、すなわち「手にした小さなオモチャの飛行機や お人形などに、自分のイメージを投影し、そのものに生命を与える遊び方」に分類される。岡田 は、両者ともに強い精神の集中を必要とし、表現活動の二つのタイプとして、どちらも発達させて いかなければならないと説いているが、プロジェクテッド・プレイである「ぬいぐるみ人形で遊 — 6 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 ぶ」は、ぬいぐるみ等の人形を介して、自己の思いをオモテにアラワスことのダイナミクスを体験 することを指標とする。既存の人形劇の取り組みを前提とするのではなく、あくまでもぬいぐるみ 人形との戯れを通じて、他者とのコミュニケーションのあり方や協働的な創造プロセスを経験する のである。 6 - 1 授業内容と手順: 本授業は、本学短期大学部保育科 2 年 ABC 組、児童学科児童学専攻、育児支援専攻 3 年 ABC 組 の「保育内容の研究(表現Ⅱ)」の授業計画第 6 回目「表現を楽しむ(2)ものと見立て(プロジェ クテッド・プレイ)の試み~人形で遊ぶ」にて取り組まれる。具体的な手続きとして、授業当日 に、人形を一体持ってくるように、学生には事前にインフォメーションする。尚、人形は、特に愛 着のあるものと指示しておく。Show&tell に相応しい素材であることが重要である。当日の授業展 開としては、1)イントロダクション・タイム~ぬいぐるみ人形を紹介する、 2)コミュニケー ション・タイム①~ぬいぐるみ人形に触れる、 3)コミュニケーション・タイム②~ぬいぐるみ人 形にニックネームをつける、 4)チャレンジ・タイム~ぬいぐるみ人形をホームステイに向かわせ る、 5)ホスピタリティー・タイム①~訪れたぬいぐるみ人形におもてなしを施す、 6)ホスピタ リティー・タイム②~来訪した人形との別れのセレモニー、 7)プレイメーキング・タイム~グ ループで即興劇に取り組む、 8)本授業を振り返る、 9)考察とまとめ~今後の課題、の流れを 追って実施する。 6 - 2 授業経過及び事例: 1)イントロダクション・タイム~ぬいぐるみ人形を紹介する ペアになって、互いの人形 の紹介をする。 「なぜ、この人形をもってきたのか?」を話題としてコミュニケーションの一時を 過ごす。 保2 A 保2 B 保2 C 2)人形に触れる 互いに人形を交換して、五感を駆使して相方の人形と触れてみる。 保2 A — 7 保2 B — 保2 C 花輪 充・山本 直樹 3)人形に命名する 相方の人形に本時だけの名前(ニックネーム)をつける。 保2 A 保2 B 保2 C 4)人形をホームステイに向かわせる オーナー同士でジャンケンをして、あいこになった なら、人形を相方のもとに向かわせる。交換するのである。その際、名前を申し伝えておくように する。 保2 A 保2 B 保2 C 5)ホスピタリティー・タイム~訪れた人形におもてなしを施す 自身のもとに訪れた人形 に、最善のおもてなしを施してみる。 保2 A 保2 B 保2 C 6)来訪した人形との別れのセレモニー 手元の人形を所有者に戻す。 保2 A・B 7)インプロヴィゼショーン・タイム~グループでドラマづくりに取り組む 「ハラハラ、ド キドキ、ワクワク」をキーワードとして、「トイ・ストーリー 4」と題した即興劇に取り組む。 — 8 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 保育科 2 年 A 組 / ストーリーの内容と展開 : A・M、K・M、S・H、T・H、F・N グループ Story:「怖い話しをし、シルバニアさんが 38 歳という 衝撃の事実を知る。犬と猫が良い雰囲気になり、そこ から恋バナが始まる。バービーさんとシルバニアさん がしっとをし、2 人の仲を切りさこうとする。しかし、 そのようなことで 2 人の仲は崩れず、さらに深まる一方 だった。」 Keyword:「ハラハラ」 ~怖い話し。「ド キドキ」 ~恋バナ。「ワクワク」 ~犬に乗って公園に 行く。 K・A、M・R、T・A、W・A、N・A グループ Story:「地獄(家)からの脱出→ぽぽちゃんの運転で空 港へ→飛行機でロサンゼルスに飛ぶ→ディズニーラン ド到着→ハリウッド到着(歩き)→ピカチュウとのケ ンカ→かごめかごめ~いじめ→仲直りして沖縄 へ!」 Keyword: 「ハラハラ」 ~最初の家からの脱 出。かごめかごめ。ケンカ。「ドキドキ」~ぽぽちゃん が運転することになって~飛行機の移動。「ワクワク」 ~「どこかへ行こう!」と話しあい行くこと!ディズ ニーランドで遊ぶ。ご飯を選んで食べる。 K・H、A・S、S・R、S・R、W・M グループ Story:「皆で自己紹介して合コンがスタートした。いざ こざが起こった鼻血が出た。鼻血がとまった後にオコ ジョが単独行動でピアノに近寄る。空を飛んで追いか ける。ピアノでお弁当の歌を弾いて→稲の素晴らしさ について語り合う。」 Keyword:「ハラハラ」~オコ ジョが単独行動しはじめる。「ドキドキ」~きな子のパ ンツが見えてしまう。 アクシデント(何度も)。「ワク ワク」~空を飛んで移動した。 — 9 — 花輪 充・山本 直樹 N・S、Y・M、T・N、E・S、M・A グループ Story:「ソ っ ち ゃ ん が 森 の 中 に 逃 げ、 森 の 中 で く ま (くーちゃん、山田ダッフィー、キャラメル)とうさぎ (おうめ)に会う。動物たちは仮面ライダー(ストロン ガー)をよんで全員で森から脱出する。力を合わせて 脱出したのち、(ストロンガーのバイクに乗ったり、お うめの背中に乗ったり) ピンクのくま(敵) にあう。 戦う。 決着がつかず、 結局和解する。」 Keyword: 「ハラハラ」~崖を下りる。 「ドキドキ」~りっちゃん の叫び。「ワクワク」~森から脱出を全員で試みるとこ ろ。 M・K、S・Y、T・H、T・S、O・Y グループ Story:「カモノハシのフジマルに乗って旅に出る(上昇 気流に乗って)川でも空でもどっちでも可。フジマル に皆が乗って人間に見つからないように逃げる。逃げ た先で出会った人形と突然戦うことになり、結局和解 する。(その中で親を見つけたり、食べられたり、とド ラマが生まれた。)モテたいミニーちゃんは、あからさ まなパンチラと怖い目から誰からも好かれなかったが、 友達が増えた。最初はバトルをしていたが、仲良しに な り、 ゲ ー ム 対 決(指 ス マ)」 Keyword:「ハ ラ ハ ラ」~フジマルに乗った時に落ちないようにしがみつ く。「ドキドキ」 ~出会った相手と戦う。「ワクワク」 ~どこについて誰と出会うか。 I・E、S・H、N・R、H・M、M・M、Y・N グループ Story:「はちみつを食べるために集まって、プーさんを 先頭はちみつ探しの旅に出る。森に行くが木に登れな い仲間は協力して登って行く。ところがハチに追いか けられ、とことん逃げるはめになってしまう。逃げた 先に、はちみつ発見!!おなかいっぱい食べたら眠く なってきた。そこで宿探しに行く。(空を飛ぶ)宿に着 くと、 自分の部屋にチェックインして寝る。 そして、 Love ラブが生まれてハッピーエンド!」 Keyword: 「ハラハラ」~ハチに追われる。「ドキドキ」~宿につ いてからのラブ。「ワクワク」~旅に出る、空を飛ぶ。 — 10 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 U・S、O・T、K・A、S・M、H・C、H・A グループ Story:「みんなはクラスメイト。そのクラスで「バブちゃん」に対するいじめがあり、「ミリオン」 が守る。仲直りして、みんなで遠足へ行く。みんなで協力してがけへ登る。つりばし効果で恋愛へ発 展する。妊娠し、子どもがうまれる。子どもの反抗期を迎える。」 Keyword: 「ハラハラ」~いじ めとがけ登り。「ドキドキ」~恋愛系。「ワクワク」~妊娠(大きい人形がお母さんへ)遠足。 K・C、I・K、S・R、I・M、M・K、Y・R グループ Story:「チーズ(犬)の飼い主を探しに行く。チーズの飼い主に捨てられる。(新しいペットがいた 白くま)みんなで一緒に住むことにする。家を探しに行く。トンネルで仲間が落ちる。→助かる。海 の近くの家を見つける。アザラシがサメに食べられそうになる。」 Keyword: 「ハラハラ」~サメ に食べられそうになる。トンネルをくぐる。「ドキドキ」~飼い主を探しに行く。「ワクワク」~海の 近くの家を目指す。 保育科 2 年 B 組 / ストーリーの内容と展開 : A・H、S・A、T・K、T・R、M・Y グループ Story:「アレックスと充血子のケンカが主。 舞台まで飛んで旅に出る。 自己紹介(「君は何中だ よ!」)大中小のトトロたちが「私たちはママがいないのこ」という家庭の事情。特大のトトロがマ マだと言う疑惑。アレックスに、大中小のトトロが捕食される。特大のトトロが充血子とじゃれる。 「帰れ、帰れ」といういじめ物語。」 Keyword:「ハラハラ」~アレックスと充血子のケンカ。トト ロ(大中小)が、児童養護施設で暮らしている。「ドキドキ」~うさこが可愛い。トトロ(大中小) の母親が、特大トトロではないかという期待。「ワクワク」~舞台まで空を飛ぶ。自己紹介。 O・M、H・M、H・Y、W・M グループ Story:「ペンペン→赤ちゃん→ラッキー→ジョージの順番でおうちに遊びに行く。おうちの中でお菓 子を食べたりお茶を飲んだり、家族の話をする。幸せな家庭は、ペンペンのおうちだけ。他のみんな は家庭に複雑な事情が・・・。深い森の中にあるジョージのおうちに行った時、ジョージがおうちに 帰れた嬉しさのあまりけいれんする。続く。」 Keyword:「ハラハラ」~みんなの家庭の事情が複 雑。「ドキドキ」~ジョージのおうちが暗く深い森の中。「ワクワク」~みんなのおうちに行く。 U・M、S・H、N・M、M・A、M・R グループ Story:「お出かけ→自己紹介→「汚い!」と言われ泣く →かくれんぼ→見つける→終」 Keyword:「ハラハ ラ」 ~かくれんぼ(完全に隠れない!人形を見せる。 人形を放っておく人もいる)早く見つけてほしい。「ド キドキ」 ~プーちゃんがピー子にほれる恋。「ワクワ ク」~競争「○○まで競争だ!」と言って走る。「ウキ ウキ」~ピー子に帽子を取るように言う。そして戯れ る。 — 11 — 花輪 充・山本 直樹 I・Y、K・M、S・K、T・N、M・A グループ Story:「旅に出る!宝探し!いくたの困難を乗り越え、(ハッグの山に登る、柱(橋)を渡る。互い の名前を知る。断崖絶壁に辿りつき、みんなで声をかけあいながら乗り越えると、ぺんぺん隊長が側 溝にはまり、引きずり出す。すると、くまきちがおなかをすかせ、迷った末に仲間を食べようとする が、みんなが止める。そのまま山を進むが・・・。終了。」 Keyword:「ハラハラ」~くま吉が仲 間を共食いする。エルモが落ちそうになる。「ドキドキ」~ペンペンが排水溝にはまる。「ワクワク」 ~かっぱんの上にエルモがのる。→ステージの上に上がる時、ペンペン隊長についていく。 T・N、S・A、O・A、Y・A、Y・A グループ Story:「フロリダへ探検にいこう!!ガケに登って、滑り落ちそうになるが助け合いのファイト一発 で生き延びる。お腹がすいているところに何やらおいしそうなお弁当を発見!「肉が食べたい・・・」 「野菜がある」「黒いのは何だろう・・・」弁当を食べ、さっきのとは比べものにならないガケに登ろ うとするけど、 仲間割れがおきる。 旅仲間と出会い、 親睦を深める。 川で魚探し。 ノリ夫の大活 躍!!」 Keyword:「ハラハラ」~ガケですべりおちそうになる。「ドキドキ」~仲間割れ。「ワク ワク」~お弁当との出会い!ノリ夫の大活躍。 O・R、S・N、T・N、M・H、Y・R グループ Story:「弁当探しの旅!!おなかがすいていて、お散歩に出かけました。そこでお弁当探しの旅へ バッグの森へ行きました。森に着くと、フランちゃんはバッグのひもにひっかかってしまったり、リ ラちゃんがサンダル(くさい)にはまってしまったり、ボーちゃんがバッグのがけから落ちてしまっ たり・・・。助け合いながら進むと、そこには、しょうが焼き弁当が!!更なる弁当を探しに、ドア の先へ行こうとするが、扉は開かず・・・。仕方なくあきらめ、ピアノの丘へ行きました。しかし、 力を合わせて開けようとしても、5 匹の力では開けることができませんでした。そして、5 匹はおな かをすかせ、おうちへ帰るのでした。」 Keyword:「ハラハラ」~ボーちゃんががけから落ちてし まった時。 「ドキドキ」~ピアノの丘をのぼった時。散歩している時。「ワクワク」~お弁当に出会っ た時。 I・K、A・R、K・Y、S・A、H・M グループ Story:「自己紹介して、サボちゃんに乗り、散歩をして いると、向こうに見えてきたのは、怪獣ハナーワ!! みんなで戦い、無事撃退!!次は宝探しの旅へ出発! ハワイに着き、みんなでフラダンスして、海で泳いで いると・・・、怪獣モエゴンに突き飛ばされ溺れてし まう。しかし、またまた救世主サボちゃん、みんなを 助ける。 その後、 お腹がすいたので、 またしてもハ ナーワに戦いを挑む!!(サボちゃんの鼻赤くなる) その後、仲間と出会う!ねむくなったのでプリントの ふとんでねる。(サボちゃん、寝相悪い)最後に全員生 きているか、人数確認をし、終了。」 Keyword:「ハ ラハラ」~怪獣ハナーワと戦う!「ドキドキ」~モエ ゴンにやられ、 おぼれる。 散歩している時。「ワクワ ク」~ハワイでの宝探し。 — 12 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 T・H、K・N、N・W、K・H、H・R グループ Story:「みんなでお化け屋敷へ行って(3 つくらい)タワーオブテラーに乗ろうとしたけどやめて、 夕日を見て、むろまちジーニョがころりんにホワイトボードで告白して両想いで結婚して、みんなで ピクニックをしておわり。むろまちジーニョがみんなをリードしてつれていく。」 Keyword:「ハ ラハラ」~お化け屋敷に入る前。告白を待っているころりん。「ドキドキ」~お化け屋敷の中。告白 しているプー坊とそれを見ているみんな。「ワクワク」~みんなでどこ行こう?行くまでの楽しみ。 夕日を見る時。 U・S、S・M、K・Y、F・J、W・M グループ Story:「自己紹介をして、サンタリカの頭のてっぺんに登ってかくれんぼをすることに・・・。その 後はお散歩へ。」 Keyword:「ハラハラ」~見つけられちゃうかも・・・。どんな人たちなんだろ う・・・。「ドキドキ」~ちょっと見つかりたいかも・・・。仲良くなれるかな・・・。「ワクワク」 ~見つからないかも・・・。このあとどうなっていくんだろう。 保育科 2 年 C 組 / ストーリーの内容と展開: T・H、H・M、S・M、S・H、H・A グループ Story:「イモオ先輩に連れられ、巨人 2 人に出会った。イモオ先輩は立ち向かい、洋服の中に入って いく。皆は応援しながら、無事を祈っていた。臭いで死にかけたイモオ先輩を仲間が心臓マッサージ をし救出すると、先輩は急に名前を聞き始めた。そして、洋服を着ていない皆に洋服をプレゼントを し、めでたしめでだし。」 Keyword: 「ハラハラ・ドキドキ」~巨人に立ち向かい、帰って来れる かという不安。「ワクワク」~イモオ先輩が戻って来れたが、意識を失っており、生き返るかという 不安。 A・M、O・H、K・K、K・A、N・N グループ Story:「砂漠で、 えいちゃんがひからびて、 助けを求 めていた。じゃんちゃんが空を飛んで海を探しに行く。 川を見つけ、着水する。えいちゃんは助かるが、まち こが呼吸困難になってしまう。えいちゃんの毒針で回 復する。 じゃんちゃんがお腹が空いたと言い、 えい ちゃんを残してみんなで食べ物を探しに行く。そこで、 えいちゃんがいなければ・・・という話になり、えい ちゃんのしっぽをひきちぎろうと綱引きを始める。」 Keyword:「ハラハラ」~えいちゃんとまちこの体調が 急変する。「ドキドキ」 ~空を飛ぶ。「ワクワク」 ~空 を飛ぶ。 — 13 — 花輪 充・山本 直樹 S・Y、S・S、N・S、M・A、M・M グループ Story:「散歩に行く。K ぴょんはぐれる。→南の島(海 水浴をする。溺れる)→ママの背中に乗って北極(寒 くふるえる。水分補給。オーロラ。寝る。ママがテン トになる。起きる。トイレに行く。北極代表として大 会に出るためにママ飛行機で出発する。)K ぴょんが落 下。 ここはどこ?私は誰?THE END。」 Keyword: 「ハ ラ ハ ラ」・・・K ぴ ょ ん が は ぐ れ る。(問 題 児)。K ぴょんが飛行機から落下する。ベンガのおしっこの仕 方。「ド キ ド キ」 ~ 北 極 代 表 と し て 大 会 に 出 場 す る。 「ワクワク」~オーロラを見る。ママの変身(船、トラ ンポリン、テント、飛行機)。 A・T、U・M、H・A、Y・C、R・T グループ Story:「うさぎのミルモの鼻を探す。みんなでミルモの鼻を探す。→実はうもれていた。鼻のことか ら始まり、みんなにいじられて森へ逃げ出す。→みんなでミルモを探しに出かける。」 Keyword: 「ハラハラ」~鼻がない。ミルモを探す。「ドキドキ」~ミルモの安否、確認。「ワクワク」~ミルモ の鼻を探す。くまのみなちゃんはミルモを食べる。 S・T、H・I、T・Y、Y・M、O・K グループ Story:「プーさん(母)から、てれすけが生まれる。逆 子で、まわりはそわそわする。プーさん(母)の背中から 顔(てれすけの)が見える。無事生まれ、平和が訪れる。 プーさんに肩車されるチョコ、マイク、てれすけ、さくら こ(積み重なる)。成長して、家族写真を撮る。実子 はて れすけ 一人・・・。」 Keyword:「ハラハラ」~プーさ んの出産シーン。「ドキドキ」 ~肩車のシーン。「ワクワ ク」~肩車のシーン。家族写真。 I・K、I・M、E・M、G・S、T・Y グループ Story:「1、場所を決め 2、空飛ぶ(歌う) 3、ジャングル着く 4、水飲む 5、告白 6、休憩 7、けんか 8、木の実を食べる」 Keyword:「ハラハラ」・・・水を飲みたいけど、ぬれてしまう。 でも死んでしまう。「ドキドキ」・・・告白タイム。「ワクワク」・・・ジャングルの冒険。 — 14 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 F・N、S・K、T・M、T・M、F・S グループ Story:「自己紹介(みんな有名人・・・ex: ミッフィー)→キャラクターと名の知れない人形のわだ かまり→心の優しい太郎がお団子をおすそわけ→笹の葉しか食べたことのないパン太郎→「食べたこ とないのー?」「えー?」→喧嘩(キャラメル vs パン太郎)→「やりすぎだよパン太郎!」→いじめ →パートナーとの思い出話→仲直り」 Keyword:「ハラハラ」・・・喧嘩。いじめ。「ドキドキ」~ 笹の葉。「ワクワク」~自己紹介。 Y・S、K・N、M・M、M・R、K・M グループ Story:「学園物語。入学式の日にお見合いパーティーに行くことになる。お花畑でみんなでフリータ イム。先生とピースケが男、他女。先生の好きなタイプを話す。→バナナをおいしく食べる子でもみ んなバナナきらい。急トークで盛り上がり、先生ひとりぼっち。先生の髪の話になり、それぞれの チャームポイントを話す。→ピースケがなにもつけていない。→ペティー「そのままですてきよ」っ て言った。→ピースケ、うれしすぎて倒れる。先生が処置するが目覚めず、「運命のキス」で目覚め ることになる。くまさん、けろぴー、先生、ペティーがひとりずつキスしてペティーのキスで起き る。→結婚。」 Keyword:「ハラハラ」~ピースケが倒れた時。「ドキドキ」~一人ずつキスして、 ただのキスで起きるか。「ワクワク」~お花畑でお見合い。 6 - 3 本授業を振り返る 1)イントロダクション・タイム~ぬいぐるみ人形を紹介する、に関して 学生たちには事前に申し伝えていたこともあって、一体欠くこともなく人形は勢ぞろいした。和 やかな雰囲気があたりを包み、互いの人形を突き合わせてお喋りに夢中になる者もいれば、人形に 頬擦りしたり、ギュッと抱きしたり、ポーズをとらせたりする者も少なくない。そうした中、授業 はスタート。数人の学生から、人形との出会いなり、思い出深いエピソードなど話題を提供しても らったところで、人形のイントロダクション・タイムのスタートである。学生同士がジャンケンを 行い、ジャンケンに勝った方から、人形の紹介をはじめるといった様式をとった。開始当初、こう した取り組みを照れくさがったり、困惑したりする学生もいたが、瞬く間に和やかな場の雰囲気に 慣れ親しみ、ほとんどの学生は、自身のことのように声高らかに人形のプロフィール語っていた。 2)コミュニケーション・タイム①~ぬいぐるみ人形に触れる、に関して ペアになって、人形を交換し、五感を駆使して相方の人形と触れてみた。人形に触れて感触を確 かめたり、匂いを嗅いだりして、それを会話のきっかけにする者も現れた。 3)コミュニケーション・タイム②~ぬいぐるみ人形に命名する、に関して 相方の人形にニックネームをつけるといった課題に対して、ほとんどの学生が楽しさを感じた様 であった。見た目や存在感を手がかりとして、様々なニックネームが瞬く間に名づけられていた。 4)チャレンジ・タイム~ぬいぐるみ人形をホームステイに向かわせる、に関して 人形がホームステイに出かけるといった活動であった。プログラムとなった。他人に触れられた くないことを理由に、気乗りしない学生はいたものの、ホームステイはスタートした。学生の中に は、幼い頃より大切にしている人形をもってきている学生もおり、手放すときに思わず涙するな ど、周囲を驚かすこともあった。たしかにこうして人形を皆で遊ぶなどということはなかったこと — 15 — 花輪 充・山本 直樹 かもしれない。そのために、そうした状況が生まれたとしても何ら不思議ではない。乾に言わせれ ば、人形に対する男子・女子の習慣の違いとなる。「見ていると、女の子たちは母親に叱られた通 りのことを、人形に対しておさらいをしています。「おままごと」という形に発展して、一個の人 形が何人かの子どもたちを、ひとつの遊びにまとめる場合、それは一定の意義を認められてもよい でしょう。(中略)おもちゃというものの、ひとつの大きな役割は、遊びの世界を、子どもたちに 共有させるところにあります。」18)となるが、子どものあそびとおもちゃを性差からみる視点につ いては、今後の研究の必要性を感じた。 5)ホスピタリティー・タイム①~訪れたぬいぐるみ人形におもてなしを施す、に関して 照れくさそうにする学生はまばらで、ほとんどの学生たちが、各々人形を見つめ、抱き上げ、頬 ずりし、語りかけ、密かなコミュニケーションを人形ととっているようであった。中には、人形を 天井に向かって投げあげる者もいた。本活動においてもっとも穏やかな時間であったように思え た。 6)ホスピタリティー・タイム②~来訪した人形との別れのセレモニー、に関して 声をあげて人形の所有者を探す学生が多く目についた。それは手元の人形を所有者に戻すという ことよりも、自分の人形を早く手元に戻したいといった意識がそのような言動に向かわせていたよ うである。わずかな時間ではあったが、愛おしさがこみあげてきたのか、抱きしめたり、見つめた りするなど、人形に対して強い愛着を示す学生が多かった。 7)プレイメーキング・タイム~グループで即興劇に取り組む、に関して クラス差はほとんど感じなかった。ただし、グループ差は著しかった。こちらから提示したキー ワード「ハラハラ」「ウキウキ」「ドキドキ」「ワクワク」を言語化し、物語の創作へと発展させ、 グループを統制し牽引するだけの人材がいるグループは、話題に行き詰まることも少なく、活動を 創造的に進行させていた。またそうしたグループは、リーダーへの依存から脱却することも早く、 構成員一人一人がトピックを持ち込むなどして、物語を絶え間なく膨らませることができていた。 一方、リーダー的人材がいないグループ、もしくはリーダーシップを発揮できないような人員で構 成されたグループは、言語化→物語化といったイメージングの作業も低迷し、コミュニケーション の行きづまりから脱却できないでいた。以下、いくつかのグループの動向を省察する。 各クラス、どのグループも円陣を組んだ状態でのスタートであったが、これは主人公たちの 紹介の機会だけに留まらない。ストーリーの方向性やトピックスとなる情報を得るための貴重な時 間と理解できる。それぞれのグループでタイムラグはあったものの、5 分もしないうちに活動が開 始された。体をくの字に折り、人形を歩かせるようにして、広い教室を移動する姿は、痛々しくも 愉快な様相を呈している。 グループ(A) :何かのきっかけを掴もうと、すぐさまピアノの周辺に移動する。列を組んだ人形 がピアノの上を行進する。次にピアノの蓋を開け、中に何か(宝物)ないかを人形に確かめさせて いるようだ。筆箱や書類などは話題提供の格好の副産物らしく、宝の在り処のヒントを探そうと躍 起になっていた。 — 16 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 グループ(B):教室の隅に積み上げられた椅子を格好の冒険のルートとしていた。時折、ぬいぐ るみ人形にカーテンをよじ登ろうとさせたりもしていた。書庫の引き出しを開け閉めしてはドキド キ感を演出しているようで、やたらに歓声や奇声をあげ、人形に心情を投影させ、劇的なシチュ エーションを楽しんでいる姿がみられた。 グループ(C):教室を対角線上に移動しながら、キーワードに相応しいと思われるエピソードを 紡ぎながらストーリーを編んでいたように思えた。他のグループと交流しながら、話題を共有した り、時には敵対する者同士となったりして、息詰まった状況をあえて設定し、その状況からはやく 脱しようと総力を挙げて懸命になっている姿が印象的であった。 グループ(D):これといった発想がわかないのか、他のグループの動向を追随するような行動を とっていた。時々、グループ内のぬいぐるみ人形同士にトラブルを起こさせたり、他の人形がそれ を諌めたりするなどのエピソードを盛り込みながら、活路を見出そうと懸命なのではあるが、先へ とは進まない現実に学生同士の苛立ちもみられた。 グループ(E):グループ(D)と同様にエピソード探しに終始しているようであった。他のグルー プと関係を繋ごうとしたりする努力は随所にみられたがうまくいかず、最終的には、学生同士のお しゃべりで時間が過ぎていってしまったようであった。 およそ 15 分ほどの時間であったが、学生たちが支配・服従の関係ではなく、協働的・共振的な 関係を築こうとしていく過程が見てとれた。 6 - 4 考察とまとめ 本稿では、 「子どものごっこ遊び、パペットを使った劇的遊び、リーダーに導かれたクリエイティ ブ・ドラマなどのドラマ活動およびドラマ的活動を含めたプレイメーキングをコアとした保育内容 の研究(表現)の授業実践「ぬいぐるみ人形を使った劇的遊び」を考察することを目的とした。 それまでの授業の取り組みは、身体性に重きを置いた活動(パーソナル・プレイ)が多かったた め、事前ガイダンスの際、モノに思いを託した活動(プロジェクテッド・プレイ)に取り組むとい うことにイメージがわかず、わだかまりさえ抱く学生も見られた。しかし、それも授業開始早々の 「イントロダクション・タイム~ぬいぐるみ人形を紹介する」にてほぼ解消されたようで、どの学 生もぬいぐるみ人形をばたつかせたり、抱きしめたり、相手の顔に密着させたり、人形同士関わら せたりと、自分の思いの発露の道具として巧みに操っていたように思われた。プログラムのクライ マックスは、8 人ほどのグループによって取り組んだ「プレイメーキング・タイム~グループで即 興劇に取り組む」であった。ぬいぐるみ人形を主人公とした即興劇「トイ・ストーリー 4」への チャレンジである。互いのアイデアを受け入れ合い、膨らませながら、ストーリーを作っていくこ とは、これまでの授業において試みてきたことではあるが、プロジェクテッド・プレイの概念にお いて行うことははじめてとなる。即興劇であるが故、決まっている脚本、設定、配役などない。そ のため、学生たちは「ハラハラ」「ドキドキ」「ウキウキ」「わくわく」といった 4 つのキーワード を手がかりに劇づくりに取りかかることになるが、次のことを意識させる必要性があった — 17 — 花輪 充・山本 直樹 1、ここで取り掛かるものは、既存の人形劇(theater)ではなく、人形に思いを投影するあそび (drama)であること。2、劇づくりをしている過程に意味があること、すなわち、立場や性格の異 なるものがぶつかったり協力したりするプロセスから目を離さないこと。3、ここで行われること は、個人完結の学習ではなく、グループによる学習であること。4、場面設定やストーリーの構築 は、学習者自身の手によって行われること、などである。 リアクションペーパーによれば、「大切にしていたぬいぐるみがどこかへ行ってしまうだけでそ わそわするという感情が芽生えた」「人形に自分自身を投影させて、現実の世界では不可能なこと をやるという面白さがつまっている」「人形を通すことによって自分だけれど自分ではないモノに 成りきることができた」「パペットプレイでは、自分が大切にしているからこそ、その人形を大切 にしている気持ちもよくわかった」「自分のぬいぐるみが他の人のところに行ってしまったときの 淋しいという感情もあった」「トイストーリーは即興でストーリーを完成させるため、難しかった が仲間と上手くコミュニケーションがとれた」「一人一人がぬいぐるみをもってきて、他の人のぬ いぐるみを使ってグループでストーリーを作った活動」「お互いに人形を交換し、他の人の人形で 遊ぶとうものも印象的であった」「遊んでいるうちに自分の人形ではないのに、愛着がわき、大切 に優しく扱おうという気持ちが芽生えた」「久し振りにじっくり関わってみると、子どもの頃のよ うに、ぬいぐるみに愛着が感じられるようになった」「トイストーリー 4 では、自分らの役割を考 えて行動したり発言することで、想像力や主体性が大事だと感じた」「人形に自分の気持ちを話さ せたり、役として話すことが多かった」「表現活動の中で一番友だちと自然に関わることが出来た」 「人形一つですごく気持ちが楽になり、人見知りをあまりせずに活動できた」「ストーリーなどを考 えている時は、真剣な顔をして考えている顔が見られた」「それが子どもとが自分の思いつきで遊 びを展開していく部分との違いかなと思った」「一番、素直になれた。対人ということを忘れ、よ り自分らしさを現すことができ、とても楽しい気分でいた」「ぬいぐるみを介して、自分の気持ち を言ったり、なりきって遊ぶというのは、子どもと話したり遊ぶ時使える」「普段言わない、やら ないことも人形を使うことによって、やりやすくなると思った」などの記述が多々あった。 内容的にも、自分史の中に存在するモノを介して遊ぶことは、伝達性を高揚させるだけでなく、 他者との互恵的な学びをスムーズにさせる良いヒントになってくれたというものが多かった。 7.プレイメーキング「相談無しでの即興的な静止画づくり」の実践より(山本) 児童教育学科 3 年の保育内容の研究(表現Ⅲ)の授業でも、一貫して学生たちにプレイメーキン グと称した表現あそびのエクササイズを経験させている。特に前期は、パーソナル・プレイを中心 に創造的な劇体験を通して、学生自身が楽しみながら自分の中に生まれたイメージを全身を使って 表現することを目指している。授業の特色を言えば、学生達は表現やコミュニケーションを行う際 に言葉に頼る傾向があると考え、言葉を介さない非言語的な活動を意識的に多く取り入れ、子ども の遊びを感覚的に再経験できるように工夫を試みたことである。後期では「つくる・あらわす・た のしむ」をテーマに、人形劇、絵本、童話、昔話などのさまざまな児童文化財を教材とした表現活 — 18 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 動プログラムを創造し、その具体的な指導方法と子どもに対する指導のあり方について体験的に学 ぶことを目指している。プロジェクテッド・プレイに関しては、後期に靴下人形を作成し、人形を 介して友人と交流し、 人形を介して自分の思いを自分自身にぶつけてみる展開の中で行って いる。 本授業は「静止画」の技法を主活動として取り扱う。表現する場面を、言葉を介さず顔の表情や 身体を静止させて表現する技法であり、 その名称は、「写真」「タブロウ」「フローズン・ ピク チャー」などの別名がある。「静止画」は言葉を交えた動作的な即興表現ではないため、身体表現 や言語表現に対して苦手意識をもつ学生でも取り組みやすい活動である。本授業のテーマとしては 「静止画」をつくること、お互いに観せ合い、想像することである。 * 小林志郎「ドラマ教育の実際㊦」『演劇と教育』第 389 号、1988、pp.71-73 7 - 1 授業内容と手順: 本授業は、本学児童教育学科 3 年で幼稚園教諭免許状の取得を希望する学生が履修する通年 30 回 の「保育内容の研究(表現Ⅲ)」の授業計画第 6 回「ドラマであそぶ(2):ストーリーをつくる」 にて取り組まれる。当日の授業展開としては、1、身体と心のウォーミング・アップ:じゃんけん、 ストップアンドゴー、グルーピング、~ 2、挨拶バリエーション、~ 3、変化の気づき、~ 4、 リズムパス、~ 5、静止画づくり、~ 6、ディロールと振り返り、の流れを追って実施する。 7 - 2 授業経過及び事例: 1)身体と心のウォーミング・アップ 毎回の授業の最初に、じゃんけん(30 秒間で 5 回以 上勝つ、声や身体で行う等)、太鼓の合図に応じて歩く・止まる・スキップ・走る・スローモー ション・アイコンタクトをする活動、指定された人数や状況で素早く集まることを行う。 2)挨拶バリエーション ペアとなり、二人で背中を付け、一歩前へ踏み出して振り向き、 お互いの顔を見ながら「こんにちは」と挨拶をする。幼稚園の朝という設定の中で保育者となった つもりで相方を同僚や子ども、保護者に見立てて怒り、哀しみ、喜び等の感情を表出させる挨拶に 挑戦する。 — 19 — 花輪 充・山本 直樹 3)変化の気づき 別のペアと合わせ 4 人となる。一人だけが立ち、身体を向ける。三人は その一人の服や装飾品、髪型等を記憶し、後ろを向く。その間に立っている人が二カ所、服装等に 変化をつける。一つはわかりやすい箇所、もう一つは少しわかりづらい箇所である。三人はどこが 変化したかを見つける。見られる立場、見る立場を交代で体験する。 * 太宰久夫「変身」『表現あそび-大人と子どものあそびの教科書』全国児童館連合会、1999、pp.10-11 4)リズムパス 10 人程度のグループで車座に座る。最初の人から、隣の人に向けて拍手を 一つし、繰り返してパスをつなげていく。パスの際にアイコンタクトを徹底させる。馴れたら、テ ンポを上げる、2つ拍手をした場合は次の人を飛ばす、3つ拍手をした場合は逆回転、というルー ルを付け加える。失敗しないようにパスをし続ける。 5)静止画づくり リズムパスのグループのままで、代表者が状況や場面が書かれたカード を引き、その静止画を全員でつくる。事前に決めるのは順番だけで、誰が何をどのようなやり方で 行うか等の相談は一切しない。最初の人が誰(何)としてどこで何をしているかの話をつくり、そ の人として静止をする。次の人は、カードと目の前にある静止画から状況を判断し、同様にその場 にいる人(物)になって静止する。全員終わったら静止したまま保持する。観ているグループの人 たちは、それが何の状況であるかを当てる。答え合わせの前に、静止画の人たちに、その人は何を 今思っているかを、指導者に肩を触られた順に言っていく。用意したカードは、夏の海、満員電 車、コンサート会場、夏祭り、運動会、おばけやしき、探検隊、お葬式、結婚式、卒業式、お花 見、遠足であった。 「お花見」 最初は少し寂しい木であったが、その幹がだんだんと太くなり、その周りで宴会が開始さ — 20 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 れるようになった。観ている人は、木が形成されるところだけでは全くわからない様子だったが、 花見客が増えるに従ってわかったという反応が出てきた。 「おばけやしき」 最初の学生が髪の毛を垂らす動作をしたこともあり、その後も表情豊かで身体的にも面白 い形のお化けたちが登場した。観ている人はすぐに「おばけやしき」という状況を把握し、次には どのようなお化けが登場するかという期待感をもって待つようになった。 「結婚式」 登場人物は、新郎新婦、牧師、列席者等、人物が容易に想像できるため、テーマはやりや すいものであったが、観ている人からどよめきが沸いたのは、花嫁に付き従いスカートを捌く係の 人と、キリストの像が登場した時であった。おそらく観ている人の想像を超えるものだったからで あろう。 * 児童演劇教育研究会編「シャッターチャンス」『今すぐできる表現活動アラカルト』小学館 2003、pp.20-21 6)ディロール(de-role)と振り返り グループごとに感想や気づいたことを一分間でコメト し合う。その後、車座のまま列になり、目の前にある友人の背中に指文字で「ありがとう」と書 き、肩もみ、最後に背中をさすることで演じた役をこの場に置くことを意識してから部屋を出る ディロールを行う。その後、各自でふりかえりの紙を書いて終了。 7 - 3 本授業を振り返る 1)身体と心のウォーミング・アップ、に関して 毎回少しずつ内容を変えているとはいえ、基本的には同じ内容を展開しているが、とても集中し て活動に取り組んでいる様子を伺うことができる。特に受講生は活動を楽しもうという気持ちに溢 れていることがわかる。 2)挨拶バリエーション、に関して 感情を意識的にコントロールする類の活動は初めて展開したので少々戸惑っている様子も見られ — 21 — 花輪 充・山本 直樹 た。特に怒りの感情での挨拶という非日常的な課題の提示した際には「やったことがない」「難し い」という声も聞こえた。子どもの登園時に喜びの気持ちでの挨拶という課題をした後には、 ほっとしている様子が見られた。 3)変化の気づき、に関して 見ている人を楽しませるような変化を考えたり、服を他の人と交換したりと工夫している様子が 見られた。正解して歓声をあげているグループもあった。また、変化を探す際に「○○ちゃんは、 そんな顔してたっけ」と普段見慣れているはずの友人に対して言葉をかける学生もいた。よく観察 していることが伺える。指導者が場を仕切るのではなく、グループに分かれて同時に自主的に進め る形式の活動は初めてだったがスムーズに行っていた。友人に変化を気づかせないようとするあま り、長い時間がかかってしまうグループもあった。時間制限を加える、まったく気づかせないよう にはしすぎない等の工夫も必要だったと考えられる。 4)リズムパス、に関して 15人程度ならば一つの車座で行うところだが、人数の関係で3つの車座が形成されたこともあり、 見せ合うこととなった。しかし、単に見せ合うだけでは面白くないと考えたため、他のグループは 心的なプレッシャーを与えるという課題も付け加え、どのグループがプレッシャーに屈せずにリズ ムパスを 1 分程度、継続できるかという活動になった。緊張感を感じながら、パスに集中している 様子が見られた。 5)静止画づくり、に関して 今までの進め方と異なったためか、グループ内での事前相談無しという設定がうまく説明でき ず、戸惑った様子の学生もあった。ただ、一番のグループが開始し、だんだんと場面が形成されて いくのを観ると、グループの他の人たちも、観ている人たちも技法の意味を理解できたようで楽し む様子が見られるようになった。計二回ずつ行ったが、たまたま同じグループが「お葬式」と「お ばけやしき」のカードを引いてしまったため、気持ちが暗くなったと訴える学生もいた。あらかじ め気づいていれば、意図的に回避することもできたかもしれない。また、学生からの声で、二回や るのであれば同じことを繰り返すよりも二回目は、テーマを知っているのは最初の人だけで、それ 以降の人は、観ている人と同じく、最初の人の静止画だけを頼りにテーマを判断した方がより面白 い物語をつくれるのではないかというコメントがあった。とても的を射た意見であり、次回以降は そのように授業展開をしていきたい。 6)ディロール(de-role)と振り返り、に関して 発表したグループでディロールを行ったこともあり、いつも以上に声も動きも活気が感じられ た。ふりかえりの時間でもいつも以上にそれぞれが思い思いの声を寄せた。 7 - 4 考察とまとめ 本稿では、プレイメーキングをコアとした保育内容の研究(表現Ⅲ)の授業実践「相談無しでの 即興的な静止画づくり」(山本)を考察することを目的とした。授業でのこれまでの取り組みの中 — 22 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 で相談無しの即興的な「静止画」につながる身体活動として、ペアで人間と鏡の関係のようにお互 いが同一化して動くことを目指す活動、ペアで一人を粘土に見立ててテーマに沿った人間彫刻をつ くる活動、ペアで一人が困っている状況を無言でつくり出し、もう一人がその状況を判断しその状 況を解決できるよう支援を試みる活動、グループで伝言ゲームのようにテーマに沿った動きをパス していく活動、また、グループで昔話・童話・寓話等をモチーフに1つの作品の3枚の象徴的な「静 止画」をつくって見せ合う活動を事前に展開していた。そのためか、非常に集中した状態で、友人 をよく観察しながら判断し、自分の中で物語を構成し、それに対応した役割を果たすことが全体的 にしっかりできていたと考えられる。 リアクションペーパーによれば、「言葉でなく体で表現することは、自分自身でどうすれば伝わ るかを一生懸命考えたり、仲間を見て自分は何をするのか判断したりする中で、「自分を表現する 力」が身に付くとてもいいゲームだと思った。」「前の人の動きにどのように合わせるか、どのよう に変化させるか、もう一方のグループにわかりやすくするためにはどのようにすると良いか考えま した。実際の人間関係にも似ていると感じました。」「最後の人が上手に足して一つの場面を作り上 げるこのポジションも考え深いものだった。」「自分の表現したいことを読み取ってくれて嬉しかっ たし楽しかったのでまたやりたいです。」という表現に工夫を凝らすことや、友人とのイメージの 共有に関する声があった。事前相談無しで行うことはそれなりに難しい課題ではあると考えられる が、自分の表現を受け止めてくれる友人や観ている友人がいるため、自分なりのこだわりをもった 表現方法や、同じグループの人や観ている人に伝わりやすい表現とはどういうものかを考えようと する姿勢になるのであろう。また、「この授業を通じて、完全な正解なものをやることよりも、大 胆にやったり、「え、これ?」というような予想外のものをやった方がゲームとして楽しいと思え るようになりました。」「構図をみんなで共有するのは難しかったけれど、どんどん出来上がってい く過程はワクワクした。子どもたちの○○ごっこも、こんな風に頭の中で場面や風景が見えている んだろうなと思った。」という子どもの遊びの再認識に関する声もあった。想像は自由であり、個 性に繋がるものである。表現やコミュニケーションに対して、物怖じせずに挑戦する気持ちや、よ りよいものを探求する好奇心、そして何より表現することが面白いと思えることは何にも代え難い ものであろう。本授業における身体表現は、大多数の学生にとっては単なる通過点かもしれない が、ある学生たちにとっては重要な第一歩となろう。 8.今後の課題(花輪) 保育者養成課程における表現系科目のパラダイム変換は、これまでにも多くの先行研究の下、研 究がなされてきた。しかしながら、その研究のほとんどは各専門領域(音楽、造形、身体表現な ど)の立場から試みられたプログラムの提案やイベント的色合いを強調する内容のものであった。 要因としては基礎的・基本的な知識・技能の習得に比べて、思考力・判断力・表現力と言ったもの が可視化しづらいことがあげられる。当然、子どもの生活や遊びにおいてもそうした問題は拭えな い。粗方の大人たちが、過程に真価を問うことをせず、結果や終極に価値を導き出そうとするのは — 23 — 花輪 充・山本 直樹 そのためである。幼稚園教育要領第 1 章総説第 1 節幼稚園教育の基本 3 に、(1)幼児期にふさわし い生活の展開、(2)遊びを通しての総合的な指導、(3)一人一人の発達の特性に応じた指導と明記 されていても、内実は、小学校に入ってからの生活の展開、遊び的な教育活動を通しての指導、社 会のニーズに応じた指導、ということにはなるまいか。教育要領が改訂され四半世紀が過ぎたもの の、こうした論考はある種の合理性と説得力をもって、幼児教育の在り方に食い込んでいるといえ る。そのためか、保育内容「表現」の担当者も学生も、即効性・実用性のある教材なり技能の習得 に奔走するケースが多い。有効な結果が導き出しやすい作品という終極に向かうことに舵取りする ためである。幼児期の表現の本質的論考に目を向ける間もなく、芸術創造に向けてのプロジェクト がスタートするのである。 本研究で扱った、プレイメーキングをコアとする保育内容の研究(表現)の授業実践は、自ずと 終極に眼目をおきにくい概念をもったものである。演劇性を携えながらも、常に途上に身を置き、 時折発生する気づきやときめきに新たな行き先を確信し、瞬く間に風景を変容させ、次に進むと 言った具合に 。学生たちは決して心地いいとはいえない状況に身を置きながらも、どこかに親 しみを覚え、興味を抱き、探究心に胸躍らせた。それは取り組みのどれもが、知的情報からでは得 られない体験的知見獲得の取り組みであったからである。学生たちを同化させるには、授業内容の 全てに彼らを共感させ、感化させるだけの環境を構成すればよい。しかしながらその場合、教育的 成果は「楽しかった」「嬉しかった」「つならなかった」などといった生理的感覚にすり替えられ、 その向こうにある臨場感や現実感に至らない場合が想定される。 そこで、授業内容をより印象的、示唆的にするためには〈異化〉した発想が必要であった。すな わち、それは、「まなびの現場で生まれる「混乱」「戸惑い」「躊躇」「食い違い」「対立」といった 「揺らぎ」に肯定的な可能性を見出そうとする」19)ためである。 注: 岡田陽(1923 年~ 2009 年)玉川大学名誉教授 * 平山許江 文京学院大学 大学院特任教授 ** ブライアン・ウェイ(Bryan Way)イギリス・ウェスト・カウンティ児童劇団の共同創立者兼演出家 *** 中山夏織(なかやまかおり)プロデューサー、翻訳家、ドラマ教育アドヴァイザー **** 1) 小林由利子・中島裕昭・高山昇・吉田真理子・山本直樹・高尾隆・仙石桂子著 『ドラマ教育入門~創造 的なグループ活動を通して「生きる力」を育む教育方法』図書文化,2010,p.25. 2) 岡田陽編 『子どもの表現と劇遊び』フレーベル館,1988,p.12. 3) 岡田陽編 前掲書,p.12. 4) 岡田陽著 [オンデマンド版]「ドラマと表現活動」玉川大学出版部,p.82 ~ 83. 5) 岡田陽著 前掲書,1998,p.17. 6) 岡田陽著 前掲書,1988,p.16 ~ p.19. 7) 平山許江著 『領域研究の現在〈環境〉』萌文書林,2013,p.121 ~ 122. 8) 西村清和著 『遊びの現象学』勁草書房,2009,p.222. 9) 木村浩則・山田康彦・渡部淳・加藤修他著 『人間と教育~アートが人間を変える(学校教育におけるア — 24 — 保育者養成課程における保育内容「表現」 の実証的検討 ートの可能性)山田康彦』旬報社,2012,p.25. 10)ブライアン・ウェイ著,岡田陽・高橋美智訳 『ドラマによる表現教育』玉川大学出版部,1977,p.14~ 15. 11)木村浩則・山田康彦・渡部淳・加藤修他著 『人間と教育~アートが人間を変える(学校教育におけるア ートの可能性)中山夏織』旬報社,2012,p.54. 12)A.F.Alington(1961) :『Drama and Education』Bail Blackwell,p.10. 13)岡田陽著 [オンデマンド版]『子どもの表現活動』玉川大学出版部,1998,p.16. 14)岡田陽監修・花輪充著 『大人と子どものあそびの教科書 / 劇あそび』今人舎,1999,p.63. 15)岡田陽著 [オンデマンド版]『子どもの表現活動』玉川大学出版部,1998,p.109. 16)岡田陽著 前掲書,1998,p.110. 17)ウィニフレッド・ウォードは、「プレイメーキング」という言葉を用いて、クリエイティブ・ドラマをは じめ、子どもの劇的遊び、人形劇や影絵の人形を使った遊びを包含した。つまり「プレイメーキング」 は、子どものごっこあそび、パペットを使った劇的遊び、リーダーに導かれたクリエイティブ・ドラマな どのドラマ活動およびドラマ的活動を含めた専門用語である。小林由利子・中島裕昭・高山昇・吉田真理 子・山本直樹・高尾隆・仙石桂子著 『ドラマ教育入門』,図書文化,2010,p.25. 18)いぬいたかし著『子どもたちと芸術をめぐって』いかだ社,1973,p.193. 19)苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎編『ワークショップな学びⅠ まなびを学ぶ』東京大学出版会,2012,p.24 ~ 25. — 25 —
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