ながの植物防疫 第325号 (平成27年 3月5日発行

平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
(第 325 号)
一般社団法人
長野県植物防疫協会
〒380-0837
長 野 市 大 字 南 長 野 字 幅 下 667-6
長野県土木センター内
電 話 026-235-3510
F A X 026-235-3583
新しく普及に移す
見込みの農業技術
目 次
◇新しく普及に移す見込みの農業技術‥‥‥‥‥‥‥‥‥1
◇短期暴露評価の導入に伴う農薬の使用方法の‥
変更について‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥4
◇だれでもできるIPM⑵‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥9
農業技術課 副主任専門技術員
豊嶋悟郎
◇話題の病害虫 マイマイガ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11
◇最近問題の水田難防除雑草「シズイ」‥‥‥‥‥‥‥‥‥12
◇話題の農薬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥13
平成26年度第2回普及技術検討会(平成27年2月
25日開催)で、普及技術25課題、試行技術6課題、
技術情報46課題が普及に移される予定となった。本
稿では、このうちの植物防疫に関連する13課題の技
術事項について紹介する。また、試行技術1課題と
技術情報5課題については、タイトルのみ紹介する。
〈殺菌剤〉
◎イネもみ枯細菌病(苗腐敗症)防除に種子消毒と
イソチアニル含有苗箱施薬剤の播種時処理の体系処
理が有効である
種子伝染性病害であるイネもみ枯細菌病(苗腐敗
症)は、近年各地で発生が問題となっており、現状
では種子消毒のみでの防除は困難な場面が見られ
る。現在普及に移っているカスガマイシン剤は耐性
菌出現リスクが「中」と判断されており、カスガマ
イシン以外での防除手段が不可欠となる。
イソチアニル含有苗箱施薬剤(スタウトダントツ
箱粒剤(FRACコード:P、IRACコード:4)、ツ
インターボフェルテラ箱粒剤(FRACコード:P、
IRACコード:4+28))の育苗箱1箱あたり50gの
播種時処理が有効である。
もみ枯細菌病(苗腐敗症)の防除は、育苗初期に
高温に遭遇させない温度管理が基本である。イソチ
アニルは植物抵抗性誘導型の薬剤である。
◎採種栽培におけるイネもみ枯細菌病(穂枯症)防
除にDr.オリゼ箱粒剤、イソチアニル含有苗箱施薬
剤が有効である
県内ではこれまで発生が認められなかったもみ枯
細菌病(穂枯症)の発生が散見されるようになって
いる。現状の発生程度では収量に影響を及ぼすこと
はないが、種子生産にとっては深刻な問題である。
Dr.オリゼ箱粒剤(FRACコード:P)またはイソ
チアニル含有苗箱施薬剤(スタウトダントツ箱粒剤
(FRACコード:P、IRACコード:4)、ルーチン
アドマイヤー箱粒剤(FRACコード:P、IRACコー
◇植防短信‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥14
◇地域情報‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥15
◇協会だより‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16
ド:4)、ルーチントレス箱粒剤(FRACコード:P、
IRACコード:4+28)、ツインターボフェルテラ箱
粒剤(FRACコード:P、IRACコード:4+28))
を育苗箱1箱あたり50g移植当日に育苗箱の上から
均一に散布する。
もみ枯細菌病(穂枯症)の防除は、育苗期の苗腐
敗症の防除を徹底し、病原菌を本田に持ち込まない
ことが基本となる。Dr.オリゼ箱粒剤、イソチアニ
ル含有苗箱施薬剤の有効成分であるプロペナゾー
ル、
イソチアニルは、
植物抵抗性誘導型の薬剤である。
◎ハクサイ黒斑細菌病防除にZボルドー、スターナ
水和剤、アグリマイシン-100、カセット水和剤、
バリダシン液剤5が有効である
近年、県内では各種アブラナ科野菜で黒斑細菌病
が発生して問題となっている。本病の対策には、
各種耕種的防除と共に効果的な薬剤防除が必要で
ある。本病菌には、従来から存在したPseudomonas
syringae pv. maculicola と平成21年以降に確認されたP.
syringae pv. alisalensis があり、近年問題となっている
のはpv. alisalensis による。
Zボルドー(FRACコード:M1)の500倍液、
スターナ水和剤(FRACコード:31)の1,000倍液、
アグリマイシン-100(FRACコード:41+25)の
1,500倍 液、 カ セ ッ ト 水 和 剤(FRACコ ー ド:31+
24)の1,000倍液、バリダシン液剤5(FRACコード:
26)の500倍液のいずれかを散布する。
黒斑細菌病は薬剤防除だけでなく、抵抗性品種の
利用や残渣処理などの耕種的防除をあわせて行う。
いずれの薬剤も、発病前から予防的に散布する。定
植後1ヵ月程度が重点防除時期である。Zボルドー
は薬害を生じやすいため、結球始期以降の散布は避
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(第 325 号)
ながの植物防疫
ける。結球始期前に使用する場合も、連用は避ける。
アグリマイシン-100は連用や夏期高温条件下での
散布で薬害(葉身の退緑、黄化)を生じやすいので、
高温条件下や結球期以降の連続散布を避ける。いず
れの薬剤も薬剤耐性菌の出現を回避するため、連用、
多回数使用を避け、作用機構の異なる薬剤とのロー
テーションによる使用とする。
◎キャベツ黒斑細菌病防除にZボルドー、スターナ
水和剤、カスガマイシン・銅水和剤(カスミンボ
ルドー、カッパーシン水和剤)、アグリマイシン-
100、カセット水和剤が有効である
Zボルドー(FRACコード:M1)の500倍液、
スターナ水和剤(FRACコード:31)の1,000倍液、
カスガマイシン・銅水和剤(カスミンボルドー、カ
ッパーシン水和剤(FRACコード:24+M1))の
1,000倍液、アグリマイシン-100(FRACコード:
41+25)の2,000倍液、カセット水和剤(FRACコー
ド:31+24)の1,000倍液のいずれかを散布する。
いずれの薬剤とも、発病前から予防的に散布する。
定植後1ヵ月程度が重点防除時期である。Zボルド
ーおよびカスガマイシン・銅水和剤(カスミンボル
ドー、カッパーシン水和剤)は薬害を生じやすいた
め、結球始期以降の散布は避ける。結球始期前に使
用する場合も連用は避ける。アグリマイシン-100
は連用や夏期高温条件下での散布で薬害(葉身の退
緑、黄化)を生じやすいので、高温条件下や結球期
以降の連続散布を避ける。
◎ブロッコリー黒斑細菌病防除にZボルドー、スタ
ーナ水和剤、キノンドー水和剤40が有効である
Zボルドー(FRACコード:M1)の500倍液、
スターナ水和剤(FRACコード:31)の2,000倍液、
キノンドー水和剤40(FRACコード:M1)の800
倍液のいずれかを散布する。
いずれの薬剤も、発病前から予防的に散布する。
定植後1ヵ月程度が重点防除時期である。Zボルド
ーは薬害を生じやすいため、出蕾期以降の散布は避
ける。出蕾前に使用する場合も、連用は避ける。キ
ノンドー水和剤40は水産動物に強い影響を及ぼすの
で、河川、湖沼および養殖池に飛散、流入する恐れ
のある場所では使用しない。
◎キュウリベと病にジャストフィットフロアブルが
有効である
きゅうり栽培上、べと病はいずれの産地でも常発
する重要病害である。特に露地栽培では多雨時に急
速に発病が進展して、きゅうり生産に大きな影響を
およぼす。
ジャストフィットフロアブル(FRACコード:43
+40)の5,000倍液を散布する。
本剤は治療効果を有することから、発病後での治
療効果も期待できるが、薬剤耐性菌の出現防止と安
定した防除効果を得るため、発病前からの予防的散
布を心がける。本剤は、べと病菌に対してそれぞれ
卓効を示すフルオピコリド(アシルピコリド系)と
ベンチアバリカルブイソプロピル(アミノ酸アミド
カーバメート系)との混合剤であるが、耐性菌の出
現を防ぐため連用、多回数使用を避け、作用機構の
異なる薬剤とのローテーションによる使用とする。
〈殺虫剤〉
◎はくさいのコナガ防除にアファームエクセラ顆粒
水和剤が有効である
近年、コナガでの一部の作用機構の殺虫剤に対す
る抵抗性発達が問題となり、作用性の異なる殺虫剤
によるローテーション散布が不可欠となっている。
アファームエクセラ顆粒水和剤(IRACコード:
6+15)の1,500倍液を散布する。
本剤はアファームとマッチの混合剤である。使用
地域の指定があるので、使用は指定地域に限る。薬
剤抵抗性発達を回避するため、薬剤の使用に当たっ
ては個々の薬剤の作用性に留意し、作用機構の異な
る薬剤をローテーション使用する。水産動植物(甲
殻類)に強い影響を及ぼすので、河川、湖沼および
養殖池等に飛散、流入するおそれのある場所では使
用しない。蚕に対して影響があるので、桑葉にかか
らないように注意する。ミツバチに対して影響があ
るので、直接虫体や巣箱にかからないように注意す
る。
◎キャベツ、はくさいのコナガ防除にアニキ乳剤が
有効である
近年、コナガの一部の作用機構の殺虫剤に対する
抵抗性発達が問題となり、作用性の異なる殺虫剤に
よるローテーション散布が不可欠となっている。
アニキ乳剤(IRACコード:6)の2,000倍液を散
布する。
薬剤抵抗性発達を回避するため、作用性の異なる
薬剤をローテーション使用する。水産動植物(甲殻
類)に強い影響を及ぼすので、河川、湖沼および養
殖池等に飛散、流入するおそれのある場所では使用
しない。蚕に対して影響があるので、桑葉にかから
ないようにする。ミツバチに対して影響があるので、
直接虫体や巣箱にかからないように注意する。
◎レタスのオオタバコガ、ナモグリバエ防除にベリ
マークSCが有効である
オオタバコガは結球内部を食害し、ナモグリバエ
は多発した場合外葉のみでなく結球葉にも食害痕が
発生することから、レタス栽培では重要な害虫とな
っている。
ベ リ マ ー クSC(IRACコ ー ド:28) の400倍 液 を
育苗期後半~定植当日にセルトレイ1枚あたり0.5
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平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
L灌注する。
本剤は、ジアミド系殺虫剤であり、対象害虫に筋
収縮を起こし、速やかに活動を停止・死亡させる。
ナモグリバエは年間発生世代数が多く、殺虫剤によ
る淘汰圧を1年間に多回数受けることになる。作用
性の異なる殺虫剤でのローテーション防除に努める。
◎レタスのオオタバコガ、ナモグリバエ防除にプリ
ロッソ粒剤が有効である
オオタバコガは結球内部を食害し、ナモグリバエ
は多発した場合外葉のみでなく結球葉にも食害痕が
発生することから、レタス栽培では重要な害虫とな
っている。
プリロッソ粒剤(IRACコード:28)を育苗期後
半~定植当日にセルトレイ1枚あたり50g散布する。
本剤は、ジアミド系殺虫剤であり、対象害虫に筋
収縮を起こし、速やかに活動を停止・死亡させる。
セルトレイの上からムラなく均一に散布し、葉の上
に残った薬剤を手で払い落とした後、灌水する。ナ
モグリバエは年間発生世代数が多く、殺虫剤による
淘汰圧を1年間に多回数受けることになる。作用性
の異なる殺虫剤でのローテーション防除に努める。
◎クルーザー FS30の種子塗抹処理は飼料用とうも
ろこしのハリガネムシ(コメツキムシ類幼虫)防除
に有効である
ハリガネムシはコメツキムシ類の幼虫であり、飼
料用とうもろこしの発芽前後および幼苗の種子や根
を食害する。それにより、発芽や稚苗の成長が著し
く低下し、減収につながり、被害の著しい場合には
種子の蒔き直しを要する場合もある。
クルーザー FS30(IRACコード:4)を乾燥種子
1㎏あたり原液6ml種子塗沫処理する。
使用前に容器をよく振ってから、薬剤が種子に均
一に付着するように塗沫処理する。
〈鳥獣害〉
◎広域防護柵の河川開口部に防草シートをのれん状
に垂らして目隠しすることで、ニホンジカの侵入を
防止できる
野生鳥獣による農作物被害を防止するため、防護
柵の設置が進められているが、広域に防護柵を設置
した場合、河川等の柵が設置できない場所からの野
生獣侵入が問題となり、対策が求められている。
防草シートのれんは、護岸の上に渡した単管パイ
プに1m幅の防草シートを20~30㎝重ねて針金で固
定する。それぞれのシートの下部に“おもり”とし
て塩ビパイプ等を固定して、のれん状に垂らす。
設置する場合は、仮設物としてその河川を管轄す
る河川管理者(建設事務所、市町村役場等)の許可
を得る。河川の形状等により価格は異なるが、おお
むね1万円以下で設置できる。
(第 325 号)
◎ポリエチレン製ネットと電気柵を組み合わせた防
護柵により、イノシシ・中型獣の侵入を防止できる
県内においてイノシシ・中型獣による農作物被害
が増加し、広域防護柵で被害を防げない場合に、ほ
場ごとの対策が必要となっている。
市販のポリエチレン製ネット(幅1m、網目サイ
ズ16㎜)と通電線2段の組み合わせで、イノシシ・
中型獣の農地への侵入を防止することができる。
農作物が加害される時期より前から設置し、電源
は収穫終了まで切らないようにする。農地への加害
獣種がイノシシ・中型獣であることを確認してから
設置する。
〈除草剤〉
◎大豆作におけるマルバルコウに対する大豆バサグ
ラン液剤およびバスタ液剤による体系処理は除草効
果が高い
大豆連作地域では、帰化アサガオの1種であるマ
ルバルコウ蔓延圃場が拡大し、全県的に問題となっ
ている。
マルバルコウに対して、大豆2~3葉期(大豆播
種2週間以降)に大豆バサグラン液剤を全面茎葉処
理し、マルバルコウ蔓伸長始期(大豆播種1ヶ月以
降)にバスタ液剤の畦間・株間処理を組み合わせた
体系防除をすることで、高い防除効果が得られる。
◎ながいも畑の一年生雑草防除にデュアールゴール
ドが有効である
デュアールゴールドを10aあたり70~130mlを水
100Lに希釈し、ながいもの植付後萌芽前、雑草発
生前に全面土壌散布する。
イネ科雑草以外が優占する圃場では、登録範囲の
高薬量で使用する。
◎飼料用とうもろこし6~7葉期において生育期雑
草茎葉処理剤としてアルファード液剤は有効である
アルファード液剤を飼料用とうもろこし6~7葉
期に10aあたり150ml処理する。
土壌処理剤との体系処理が望ましい。
試行技術
○イネいもち病の穂いもち防除要否判断のための目
安
技術情報
○ホソハリカメムシの斑点米被害の特徴と薬剤感受
性
○レタスベと病に対する品種間差
○カキ円星落葉防防除に用いる主要殺菌剤の効果特
性
○コナガのジアミド系等の各種殺虫剤に対する薬剤
感受性
○ポリエチレン製ネットと通電線を組み合わせた電
気柵はニホンザルの侵入を防止できる
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(第 325 号)
ながの植物防疫
短期暴露評価の導入に伴う
農薬の使用方法の変更について
農政部 農業技術課
山城政利
農薬の登録に当たっては、これまで、残留農薬の
摂取量について、一日許容摂取量(ADI)を超えな
ければ食品安全上問題ないものと判断(長期暴露評
価)されてきましたが、平成26年2月より急性参照
用量(ARfD)を超えないかという点についても評
価(短期暴露評価)されることとなりました。
1 導入の経緯
海外においては、1990年代に農薬等を短期間に大
量摂取したことに由来する中毒症例が発生したことを
発端として、急性参照用量に基づく短期暴露評価が
開始されました。
(参考:JMPR1999年、
EU2000年など)
日本においては、2007年中国製冷凍餃子への農薬
混入事件をきっかけに、一部の化合物において、急
性参照用量に基づく短期暴露評価が開始されました。
また、平成26年2月14日に開催された内閣府食品
安全委員会農薬専門調査会において「農薬の急性参
照用量設定における基本的考え方」が了承され、平
成26年3月18日に開催された厚生労働省薬事食品審
議会食品衛生分科会農薬・動物用医薬品部会におい
て「急性参照用量を考慮した残留農薬基準の設定に
ついて」が決定されました。
今後は、これらの考え方を基本として、既に登録
されている農薬についても評価対象としての優先
度に応じて、食品安全委員会において、順次ARfD
が設定されます。また、厚生労働省においては、
ARfDの設定を受けて短期暴露評価の結果に基づき、
新たな残留農薬基準値の設定が行われます。
2 急性参照用量(ARfD)とは?
急性参照用量(ARfD:Acute Reference Doseの略)
とは、人がある物質を24時間又はそれより短い時間
で経口摂取した場合に健康に悪影響を示さないと推
定される一日当たりの摂取量のことです。ちなみに、
一日許容摂取量(ADI)とは、人がある物質を毎日
一生涯摂取し続けても、現在の科学的知見からみて
健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂
取量のことです。
つまり、農薬が一定量を超え高濃度に残留する食品
を24時間以内に大量に食べた場合の健康影響を評価
(短期暴露評価)
する指標が急性参照用量
(ARfD)
です。
3 農薬の残留基準値設定の流れ
農薬の残留基準値の設定に当たっては、食品安全
委員会が農薬の人に対する健康影響についてリスク
評価を実施し、厚生労働省がその評価結果に基づき
食品中の残留基準値を設定していますが、前述のと
おり、これまでは一日許容摂取量(ADI)に基づく
長期暴露評価のみで健康への影響を判断してきまし
たが、今後はこれに加え、急性参照用量(ARfD)
に基づく短期暴露評価も考慮した上で、どちらの評
価の要件も満たす必要があります。(図1)
図1 農薬残留基準値設定の流れ
長期暴露評価では、図2に示すように食品ごとの
農薬摂取量を積み上げ、安全レベルであるADIの80
%に達するまで登録が認められます。ここでいう80
% ADIとは、食品以外の飲料水や大気中からの農薬
摂取量を最大20%と仮定し、食品を通じた農薬摂取
量をADIの80%以下とすることをリスク管理の目標
としています。
また、短期暴露評価では個別の食品ごとに短期摂
― 4 ―
図2 長期暴露評価の概念図
図3 短期暴露評価の概念図
ながの植物防疫
平成 27 年3月 5 日発行
取量を評価します。図3の短期暴露評価の概念図の
例では、りんごからの農薬摂取量が安全レベルであ
るARfD値を超えているため、りんごの使用方法を
再検討する必要があります。
使用時期や濃度など使用方法の変更により基準値
を下回るようであれば使用方法の変更で対応します
が、それでもなお基準値を超過する場合は適用作物
が削除されることとなります。
4 長期及び短期暴露評価の農薬摂取量推定方法
長期暴露評価と短期暴露評価の農薬摂取量の推定
方法の違いについては、長期暴露評価(表1)はも
っとも起こりやすい事態を想定し、ある食品の非摂
食者も含めた平均一日摂取量と現実的な農薬残留濃
度(作物残留試験結果の中央値)とを乗じて得られ
た食品ごとの農薬摂取量の合計が、ADIの80%値と
同じであるかその数値以下であるかで評価されます。
(第 325 号)
衛生分科会農薬・動物用医薬品部会において平成17年度
から24年度にかけて実施した調査・研究の成果として「急
性参照用量を考慮した残留基準値の設定について」が提
案され、122品目の食品の多食者の摂取量が示され了承さ
れました。今後は、多食者の摂取量や推定方法について
統一した見解のもとに評価が行われることとなります。
5 残留基準値設定までのスケジュール
通常、申請から10カ月で食品安全委員会に諮問さ
れ、部会審議を経て答申まで1年程度を要します。
その後、5カ月ほどで厚生労働省の審議会に諮られ、
7か月後に官報告示され、告示後6カ月で基準値の
削除又は縮小が行われます。(図4)
表1 長期暴露評価の農薬摂取量推定方法
長期暴露評価の農薬摂取量推定方法
考え方
起こりやすい事態を想定
食品摂取量
非摂食者も含めた
平均一日食品摂取量
農薬残留濃度
(可食部)
現実的な農薬残留濃度
☟
作物残留試験結果の中央値
計算方法
平 均 平 均 ×
農薬残留濃度 一日食品摂取量
評価方法
80% ADI ≧ 全食品経由
の農薬摂取量
図4 残留基準値設定までの流れ
一方、短期暴露評価については最悪の事態を想定
し、ある食品の多食者の97.5%タイル値の食品摂取
量と最大の残留濃度(作物残留試験結果の最大値)
とを乗じて得られた個別の食品ごとの農薬摂取量
が、ARfD値と同じであるかその数値以下であるか
で評価されます。
表2 短期暴露評価の農薬摂取量推定方法
このスケジュールと農薬の変更登録申請のスケジ
ュールを併せてみると(図5)、ケース♳としてARfD
の提案を受けてから変更登録の申請を行った場合、
変更登録が行われてから残留基準値の変更が行われ
るまで周知期間は約1年半となりますが、農薬の有
効期限は3年程度あることから、残留基準値の削除
又は縮小が行われた以降も、変更登録前に製造販売
された農薬を農家が保持していた場合これを使用す
ることによる残留基準値超過の恐れがあります。
一方、ケース♴として、ARfDの提案を待たずに
変更登録申請をした場合、農薬の有効期限と周知期
間がほぼ同じ期間となることから、基準値の削除又
短期暴露評価の農薬摂取量推定方法
考え方
最悪の事態を想定
食品摂取量
多食者の食品摂取量
(97.5%タイル)
農薬残留濃度
(可食部)
最大の農薬残留濃度
☟
作物残留試験結果の最大値
計算方法
最 高 一日最大
×
農薬残留濃度 食品摂取量
評価方法
ARfD ≧ 個別の食品経由
の農薬摂取量
(参考)短期暴露評価における食品摂取量の考え方
短期暴露評価においては、多食者による最大一日摂取
量を用いることとされ、多食者を判断する基準として97.5
%タイル値を用いることとしています。例えば、120人分
の食品摂取量のデータが得られた場合、上位から97.5%に
当たる117番目の数値を最大一日摂取量として採用します。
平成26年11月27日に開催された厚生労働省薬事・食品
― 5 ―
図5 残留基準値設定と農薬の変更登録の流れ
ながの植物防疫
(第 325 号)
は下方修正の時点で旧ラベルの製品の流通の可能性
は低く、在庫農薬の有効期限も切れているため、こ
れを使用することによる残留基準値超過の恐れは少
なくなります。(図4)
6 生産現場の混乱を防ぐために
今後、短期暴露評価が進むに従って、既登録農薬
についても農薬の「使用方法の変更」や「適用農作
物の削除」、「残留基準値の引下げ」といった影響が
生じる見通しであり、ARfDの設定や残留基準値の
改訂をまって農薬の使用方法の変更を行った場合
は、残留基準値の改訂後も変更前の使用方法が表示
された有効期限内の農薬を使用基準変更前の表示ラ
ベルどおりの方法で使用すると、新たな残留農薬基
準値を超過する恐れがあります。
このため、農林水産省では農薬メーカーに対して、
自ら短期暴露評価を実施し、登録を受けている農薬
の使用方法を変更する必要があるかを確認した上
で、使用方法を変更する必要がある場合は、ARfD
の設定や残留基準値の改訂を待たずに、十分な時間
的猶予をもって、変更の登録申請を行うよう要請し
ており、平成27年2月末現在(表3)で、7有効成
分の農薬について変更登録申請又は変更登録が行わ
れています。
表3 変更登録(申請)された農薬有効成分
有効成分名
事前通知日
変更登録日
26.9.11
26.11.17
26.11.7
27.2.18
26.11.21
未定
26.12.25
27.2.4
アセフェート
フルバリネート
フェナリモル
NAC
カルボスルファン
ベンフラカルブ
ジメトエート
※詳細は7~8ページに掲載
7 変更される農薬の使用方法の周知
農林水産省では、5で既述した農薬の使用方法の
変更が必要な場合であって、残留基準値の改訂まで
にその内容の周知に必要な時間的な猶予がなく、変
更前の使用方法で栽培することにより残留基準値超
過事案が発生する場合も想定されることから、これ
までの変更登録が行われる日の概ね1か月前の情報
提供に加え、変更登録申請が行われた時点から県に
情報提供を行うとともに、特に周知が必要な農薬に
ついては、農薬製造者がチラシを用いて周知を行う
こととしています。
8 農薬使用者等の対応
県では、農林水産省から情報提供がなされた場合
には、速やかに、病害虫防除所及び農業改良普及セ
ンター、JAを通じて、使用者等に対し次のとおり
指導するよう関係機関に依頼しています。
① 変更登録を受ける前でも、表示ラベルの使用方
法ではなく、変更後の使用方法により農薬を使用
するよう指導すること。
② 変更登録を受ける前でも、
農作物病害虫・雑草防
除基準に反映するとともにJA等の生産者団体等が
作成する防除暦の変更をするように指導すること。
また、県から情報提供を受けたJA等の生産者団
体にあっては
① 変更登録を受ける前でも、
チラシ等で周知された
変更後の使用方法に基づき使用者を指導すること。
② 変更登録を受ける前でも、
防除暦を改定すること。
農薬使用者にあっては、
① 変更登録を受ける前でも、チラシ等で周知され
た変更後の使用方法に基づき農薬を使用すること。
② 不要農薬、最終有効期限切れ農薬などの廃棄や
返品に努めること。
残留基準値超過の危険を減らすためにも、既に使用
している農薬であっても、必ず最新の情報を確認し、
表示ラベルに記載された使用方法ではなく、新しい登
録内容により使用するよう情報収集に努めてください。
なお、短期暴露評価導入に伴う農薬の使用方法の
変更内容については、病害虫防除所ホームページ又
は最寄りの農業改良普及センターに問い合わせて確
認してください。
9 おわりに
これまでのまとめと農薬の使用方法の周知に当た
っての留意事項について再度お願いをします。
現段階で把握している状況ですが、ARfDの設定
に当たってのスケジュールは未定です。現在、残留
基準値の設定済みの農薬は700を超えていることか
ら、短期暴露評価に当たっては、優先順位を判断す
る考え方を示すとしておりますが、未だ公表されて
おらず、残留基準値の変更時期が明確ではありませ
んが、平成26年11月に122品目の食品の多食者の摂
取量が提示されたことから、今後統一的な基準に基
づいて適正な評価が行われていくことなります。
また、農薬メーカーが、独自に短期暴露評価を行
い、緊急度が高いものから、順次、変更登録申請を
実施していくこととしていますが、特にメジャーな
農薬の適用可能農薬の縮小により、これまでのよう
な病害虫防除ができなくなることへの危惧もあり、
情勢が不透明なことからくる不安感の高まりは確か
にあると認識しています。
しかしながら、評価の優先順位(品目・農薬成分
等)を農業生産現場で想定することは無意味なこと
ですし、今回の短期暴露評価の導入は、決してこれ
までの評価の考え方が危険であったからではなく、
農薬の安全性をさらに高めるための手法であり、変
更後の基準で使用していれば、残留基準値超過等の
リスクは全くありません。
県としても、JA等関係機関や農薬販売店、農薬
メーカーと連携し変更内容の周知徹底に努めてまい
りますので、農薬使用者の皆様におかれましても、
― 6 ―
平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
積極的な情報収集を行っていただくとともに、変更
後の基準による使用の徹底をお願いします。
(第 325 号)
(平成26年3月18日 厚生労働省 薬事食品審議会 食品
衛生分科会 農薬・動物用医薬品部会)
・「急性参照用量を考慮した残留基準の設定について」
(参考文献)
(平成26年11月27日 厚生労働省 薬事食品審議会 食品
・「農薬の急性参照用量設定における基本的考え方」
衛生分科会 農薬・動物用医薬品部会)
(平成26年2月14日 内閣府 食品安全委員会 農薬専門
・農薬登録制度に関する懇談会(第12回)議事概要
調査会)
(平成26年8月20日 農林水産省 消費・安全局農産安
・
「急性参照用量を考慮した残留農薬基準の設定について」
全管理課農薬対策室)
(参考)変更登録(申請)された農薬一覧表(平成27年2月末現在)
ジメトエート(事前通知:平成26年12月25日)
農薬名
農薬登録番号
登録が削除となる作物
住化ジメトエート乳剤
第4803号
みかん、なつみかん、かんきつ(みかん、なつみかんを除く)、はくさい、
トマト、ピーマン、かぼちゃ、しろうり、かぶ、にんじん、ねぎ、
にら、たまねぎ、さやいんげん
サンケイジメトエート乳剤
第12406号
みかん、なつみかん、かんきつ(みかん、なつみかんを除く)、はくさい、
トマト、ピーマン、かぼちゃ、しろうり、かぶ、にんじん、ねぎ、
にら、たまねぎ、さやいんげん、さとうきび、パイナップル
ジメトエート粒剤
第14397号
ホクサンジメトエート粒剤
第22733号
ベジホン乳剤
第15450号
ホクサンベジホン乳剤
第22630号
だいこん、なす、ねぎ、だいず、畑さわび、わさび
キャベツ、はくさい、だいこん
カルボスルファン剤(事前通知:平成26年11月21日)
農薬名
農薬登録番号
*FMCガゼット粒剤
第20794号
ガゼット粒剤
第17400号
石原ガゼット粒剤
第21046号
*ISKガゼット粒剤
第23446号
*FMCアドバンテージ粒剤
第20795号
アドバンテージ粒剤
第15474号
*石原アドバンテージ粒剤
第21047号
*FMCアドバンテージS粒剤
第20796号
石原アドバンテージS粒剤
第21074号
*ISKアドバンテージS粒剤
第23181号
登録が削除となる作物
なす、きゅうり、すいか、とうがん、だいこん、キャベツ、はくさい、
ねぎ、ブロッコリー、ばれいしょ、かんしょ、いちご、メロン
きゅうり、すいか、なす、メロン、だいこん、かんしょ、いちご、
ねぎ、とうがん
かんしょ、ねぎ、だいこん
*は販売がないため、チラシを用いた周知は実施しない。
ベンフラカルブ剤(事前通知:平成26年11月21日)
農薬名
農薬登録番号
登録が削除となる作物
オンコルOK粒剤
第2278号
グランドオンコル粒剤
第20317号
かんしょ、とうがん、オクラ
大塚ジャッジ箱粒剤
第20092号
明治ジャッジ箱粒剤
第20093号
オンコル粒剤5
第16575号
オンコルスタークル粒剤
第21972号
大塚オンコルスタークル粒剤
第21973号
オンダイアエース粒剤
第20345号
キャベツ、はくさい、ブロッコリー、ばれいしょ、ねぎ、すいか、
メロン、なす、だいこん
オンコルマイクロカプセル
第20337号
キャベツ、はくさい、ブロッコリー、カリフラワー、レタス、非結球
レタス、ねぎ、わけぎ、にら
オンコル粒剤1
第18190号
*ホームガーデン粒剤
第19681号
*ガーデンホスピタル粒剤
第23194号
きゅうり、キャベツ、ねぎ
きゅうり、すいか、メロン、なす、なばな、キャベツ、はくさい、
だいこん、ブロッコリー、カリフラワー、レタス、ねぎ、わけぎ、
ほうれんそう、とうがん、いちご、かんしょ、ばれいしょ、オクラ
ねぎ、きゅうり、なす、メロン
キャベツ、はくさい、だいこん、きゅうり、すいか、メロン、なす、
ねぎ
きゅうり、すいか、メロン、なす、なばな、キャベツ、はくさい、
だいこん、ブロッコリ-、カリフラワー、レタス、ねぎ、わけぎ、
ほうれんそう、いちご、かんしょ、ばれいしょ、オクラ
*は販売がないため、チラシを用いた周知は実施しない。
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ながの植物防疫
(第 325 号)
NAC(事前通知:平成26年11月7日、変更登録:平成27年2月18日)
農薬名
農薬登録番号
日産ミクロデナポン水和剤85
第5129号
日農ミクロデナポン水和剤85
第5131号
ホクコーミクロデナポン水和剤85
第5133号
三明ミクロデナポン水和剤85
第11013号
*ローヌ・プーランミクロデナポン水和剤85
第18186号
*ローヌ・プーランミクロデナポン水和剤50
第18191号
登録が削除となる作物
ぶどう、はくさい
ぶどう
*は、販売実績がないため、農薬製造者による防除暦の変更の働きかけは行われません。
フェナリモル(事前通知:平成26年11月7日、変更登録:平成27年2月18日)
農薬名
農薬登録番号
登録が削除となる作物
日産ルビゲン水和剤
第16866号
トマト、もも
日産スペックス水和剤
第17606号
もも
フルバリネート(事前通知:平成26年11月7日、変更登録:平成27年2月18日)
農薬名
農薬登録番号
マブリック水和剤20
第16714号
クミアイマブリック水和剤20
第16715号
マブリックEW
第17943号
クミアイマブリックEW
第17944号
日曹マブリックジェット
第16720号
マブリックジェット
第16721号
新富士マブリックジェット
第16722号
登録が削除となる作物
大粒種ぶどう、トマト
使用方法に関する変更のある作物
レタス
大粒種ぶどう
―
トマト
―
アセフェート(事前通知:平成26年9月11日、変更登録:平成26年11月17日)
農薬名
農薬登録番号
ホクコーオルトラン水和剤
第13175号
オルトラン水和剤
第19992号
家庭園芸用ホクコーオルトラン水和剤
第19566号
家庭園芸用オルトラン水和剤
第21519号
家庭園芸用GFオルトラン水和剤
第21819号
ホクコーオルトラン粒剤
第13177号
オルトラン粒剤
第19993号
家庭園芸用ホクコーオルトラン粒剤
第19568号
家庭園芸用オルトラン粒剤
第21520号
家庭園芸用GFオルトラン粒剤
第21789号
オルトランDX粒剤
第21733号
ジェイエース粒剤
第20939号
スミフェート粒剤
第21904号
ジェイエース水溶剤
第20967号
スミフェート水溶剤
登録が削除となる作物
使用方法に関する変更のある作物
なす、ブロッコリー、だいこん、
はつかだいこん、かぶ、トマト、
ミニトマト、かんきつ
キャベツ、はくさい、レタス、
非結球あぶらな科葉菜類(ケール、
からしな、みずな、ルッコラ、
たかなを除く)、ばれいしょ、
未成熟とうもろこし、ぶどう、かき、
茶、オクラ
なす、ブロッコリー、だいこん、
はつかだいこん、トマト、
ミニトマト、かんきつ
キャベツ、はくさい、レタス、
ばれいしょ、未成熟とうもろこし、
ぶどう、かき、オクラ
キャベツ、トマト、きゅうり、なす、
ピーマン、はくさい、ブロッコリー、
だいこん、かぶ、ばれいしょ
ミニトマト、はつかだいこん
―
キャベツ、はくさい、トマト、
きゅうり、なす、ピーマン、
ブロッコリー、だいこん、かぶ、
ばれいしょ
トマト、なす、きゅうり
ミニトマト
キャベツ、はくさい、ブロッコリー、
だいこん、かぶ、なばな、きゅうり、
トマト、なす、みずな、ばれいしょ、
こまつな、チンゲンサイ
第21903号
かんきつ、ブロッコリー、
だいこん、かぶ、トマト、
ミニトマト、なす
かき、ぶどう、はくさい、レタス、
チンゲンサイ、みずな、オクラ、
ばれいしょ、茶
「興農」ジェネレート粒剤
第20940号
ミニトマト
キャベツ、はくさい、だいこん、
きゅうり、トマト、なす、
ばれいしょ
「興農」ジェネレート水溶剤
第20968号
かんきつ、ブロッコリー、
だいこん、トマト、ミニトマト、
なす
キャベツ、はくさい、ばれいしょ、
茶
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平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
だれでもできるIPM⑵
農業技術課 副主任専門技術員
豊嶋悟郎
(第 325 号)
○病害虫発生予察情報などの活用
病害虫防除所では、主な病害虫の発生状況を随時
調査し、防除対策、今後の発生予想などの情報を提
供している。「前回の防除から1週間過ぎたから」
というような、防除根拠に乏しいスケジュール防除
シリーズ第2回は、IPMのうち耕種的防除などの
は行わず、これらの予察情報を有効に利用しながら、
各圃場の病害虫の発生状況を把握したうえで、必要
基本技術について紹介したい。
な防除を行う。
直接的な技術とは異なるが、情報の管理、収集お
病害虫雑草防除では、さまざまな防除方法を活用
よび活用は全ての防除技術の前提となる。
していくことになる。それぞれの防除方法を利用す
○栽培管理状況の記録と研修会への参加
栽培管理状況を記録して保管することは、IPMの
る際に留意すべきことは以下のとおりである。
○品種の選択と健全苗の確保
取り組みの第一歩である。
品種によって病害虫の発生程度が異なる場合があ
自らのIPMの実践度を把握するためにも、農作業
の実施日、病害虫の発生状況、使用した農薬などを
るので、適切な品種を選定する。
記録しておく。翌年以降の防除のタイミングや方法
育苗期間中は適切な管理を行い、健苗育成に努め
を決定するうえで、これらの情報の蓄積は効果的な
る。育苗施設の側窓や天窓などの開口部には防虫ネ
防除のための貴重な資料となる。通常の病害虫防除
ットを張るなどして、害虫の侵入を防ぐ。育苗中に
技術は、平均的な圃場における防除対策であり、圃
病害虫の発生が見られた場合、早期の防除や被害苗
場毎に環境条件が異なる個々の現場では100%対応
の除去を行い、健全苗のみを移植、定植する。
果樹の苗木では、ウイルスフリーのものを購入す
できない事例があることも事実である。その際、生
産者が栽培管理状況を詳細に記録していると、「既
ることが基本である。
製品」の防除技術を「オーダーメイド」の防除技術
○圃場および周辺環境の整備
圃場内外の雑草管理は、病害虫防除にとって重要
に作り替えることが可能となる。さらにGAP(農業
生産工程管理)を実施する際の重要な記録の一部と
である。
斑点米の原因となるカメムシ類は、畦畔の雑草に
もなる。
また、県や地域で開催されるIPMや防除に関する
生息している。出穂2週間前までに畦畔の除草を行
研修会にも積極的に参加する。県では毎年春に農薬
う。出穂間際に除草を行うと、すみかを奪われたカ
安全使用推進大会、冬に病害虫防除研修会を実施し
メムシ類が水田に入ってきてしまい逆効果となる。
ている。これ以外にも品目別の振興研修会などさま
発生する病害虫の生態をよく考えた、効率的な管理
ざまな機会に、病害虫に関する研修を行っている。
作業が大切である。
各種研修会の詳細なスケジュールは、お近くの農業
果樹栽培では特に言えることだが、収穫時期が異
改良普及センター、病害虫防除所におたずねいただ
なる品種の混植は、防除時期や防除薬剤の選択が制
きたい。
限される場合があるので避ける。複数の品種を混植
せざるを得ない場合は、収穫時期がほぼ同じ品種の
みを植える。早生種と晩生種を混植した場合、晩生
種での防除目的で散布した農薬が早生種に飛散した
場合に、収穫前日数の違反を引き起こす場合もある。
また、異なる樹種の混植は、使用可能な農薬が大変
限られてしまうので避ける。
果樹の病害では、園周辺の特定の植物が伝染源と
なる場合がある(りんごやなしの赤星病のビャクシ
ン類、ぶどうのさび病のアワブキなど)。そのよう
な植物は、園の周辺からはできるだけ除去する。
野菜、花き栽培では、収穫残渣は病害虫の発生源
研修会への参加
となるので、早めにすき込むなどの処分をする。
― 9 ―
ながの植物防疫
(第 325 号)
○物理的防除、生物的防除の利用
当然のことではあるが、農薬使用に当たっては、
施設栽培では開口部を防虫ネットで被覆すると、
害虫の侵入を防ぐことができる。露地栽培でも防虫
農薬ラベルをよく読み、対象作物、使用量、希釈倍
数、使用時期などの記載内容を守る。
ネットによるトンネルがけが可能な品目では、同様
病害虫防除に際して同じ作用性を持つ農薬を使い
な効果が期待できる。果樹では袋かけを行うことで、
続けていると、農薬の効果が低下する薬剤耐性菌や
病害虫の物理的防除ができる。
薬剤抵抗性害虫が発生する恐れがある。そのため、
異なる作用性を持つ農薬をローテーションして使用
することが大切である。それぞれの農薬の作用性の
グループは、「長野県病害虫雑草防除基準」にコー
ド番号として記載してある。また、地域において耐
性菌や抵抗性害虫の発生が確認されている農薬は、
使用しないようにする。
○IPMの実践と評価
自らの営農の中でIPMをどの程度実践しているか
を確認するための「IPM実践指標」がある。この実
践指標は、現在の栽培管理ではIPMをどの程度実践
しているか、まだ取り組んでいないことは何か、現
施設開口部の防虫ネット
状の防除を改善できることがあるかを確認して評価
するものである。
栽培作業に入る前に、前年のIPM実施状況をチェ
ックする。前年実施できていなかった項目について、
今年の目標として追加する。収穫作業終了後に、今
年の栽培管理を振り返ってIPM実施状況をチェック
する。昨年の実施状況、今年の目標及び今年の実施
結果を見比べ、取り組みにどのような変化があった
か、病害虫の防除が適切に行われたかどうかなどを
客観的に評価したうえで、翌年のIPM導入目標を検
討する。
長野県で策定したIPM実践指標は、以下のURLか
ら入手できる。
http://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/sangyo/nogyo/
kankyo/ipm.html
おわりに
近年薬剤抵抗性の発達によりこれまで使用してい
た農薬の効果が低下したり、登録農薬が失効して使
える農薬が減ったりする事例が見られている。さら
に、全国的なレベルでは栽培規模の小さい品目では、
果樹の袋かけ
もともと使える農薬が少ない場合もある。そうした
微生物農薬の散布や天敵生物の利用は、生物的防
場合、農薬だけに防除を頼ることはできない。さま
除になる。放飼した天敵生物が定着すれば、長期に
ざまな手段を併用して防除に取り組むことになる。
わたって害虫の密度を抑制することも可能である。
防除が困難になる前の普段の病害虫防除において
有色マルチや除草シートを利用すれば、除草剤に
も、その考え方を取り入れていくことがIPMである。
次回は現地で取り組んでみたいIPM技術について
頼らない雑草抑制になる。
○化学合成農薬の適切な使用
紹介する。
― 10 ―
ながの植物防疫
平成 27 年3月 5 日発行
(第 325 号)
未交尾雌は光に集まり、そこで交尾し産卵を始める。
そのため、照明の近くや明るい白色の壁上で産卵す
る雌が多数確認される。
話題の病害虫
マイマイガ
果樹試験場 笹脇彰徳
昨年、様々な雑誌や新聞で目にすることが多かっ
た害虫である。一昨年から県内の一部で多発してお
り、昨年はさらに多発地域が拡大した。山林の樹木
では、葉がすべて食べつくされている様相が見られ、
その近くの果樹園では、山林から成長した幼虫が移
入してきて、様々な果樹や農作物を食害する被害が
発生した。マイマイガの多発は、1年に限らず数年
間連続することがあるので、今年も春先から重点的
な防除対策が必要な害虫である。
林地に近いブルーベリー園で発生したマイマイガ
◆生態
北半球に広く分布する山林、公園などの樹木害虫
である。ドクガ科に属し、1齢幼虫時にわずかだが
毒針毛があり、触れるとかぶれることがある。2齢
以降の幼虫や成虫には毒針毛はない。卵塊で越冬し、
ふ化は4月にほぼ完了する。ふ化した幼虫は集団で
生活することがなく、糸を吐いてぶらさがり、風に
乗り移動する。その様子からブランコケムシの別名
をもつ。
幼虫は、針葉樹、広葉樹など100種以上の植物に
寄生する。成長すると体長が60mmほどの非常に大
きな幼虫になる。終齢幼虫は7月ごろに繭らしきも
の作り、その中で蛹化する。成虫は7月から8月に
かけ発生し、雌成虫は交尾後12時間以内に産卵を始
める。産卵には数日かかり、数100個の卵が含まれ
た卵塊を樹幹や建物の壁等に産む。卵塊は雌の鱗毛
で覆われる。年1世代であり、この卵塊で越冬する。
マイマイガの鱗毛に覆われていた卵
◆防除
防除のポイントは次の3点になる。
① 越冬卵の除去
林地や山際の果樹園を中心に発生した成虫が、街
中の果樹園や住宅地に飛来して産卵している様子が
見られている。先に記載したとおり雌成虫は、光に
集まる習性があることから、街路灯や住宅近くの明
るい果樹園では特に要注意である。この卵塊から数
百匹の幼虫が発生してくるので、卵塊は必ず取り除
くよう、主幹部を中心にしっかりと点検する。あわ
せて、建物の壁に産まれている卵塊の除去も十分に
行う。このように初期密度を下げる耕種的防除は、
マイマイガの防除で最も有効な手段であり、基本で
あるので必ず実施する。
② ふ化完了期の薬剤防除
ふ化が完了する4月下旬~5月初めに有効な薬剤
を散布する。ただし、この時期はマメコバチやミツ
バチなどの花粉媒介昆虫の活動期にあたるので、こ
れらの昆虫に影響のないBT剤、IGR剤などを用
いる。なお、BT(生菌)製剤は、使用できる地域
の指定があるので、十分に確認してから使用する。
③ 幼虫移入期の薬剤防除
春先に丁寧に防除し果樹園内の密度を低くして
も、周辺の樹木で成長した中齢幼虫が、5月下旬頃
から比較的長い期間、果樹園へ盛んに移入してくる
場合がある。中齢幼虫は一日の摂食量が多く、短期
間に大きな被害をもたらすので、速効的でかつ残効
の長い合成ピレスロイド剤を用いて防除する。合成
ピレスロイド剤は使用できる地域の指定があるの
で、十分に確認してから使用する。
― 11 ―
ながの植物防疫
(第 325 号)
最近問題の水田難防除
雑草「シズイ」
農業試験場 細野 哲
シズイ(Scirpus nipponicus Makino)は北海道から
九州まで分布するカヤツリグサ科に属する多年生雑
草で、特に東北地方の水田で発生が多く認められ問
題となっている。関東甲信地方においても近年発生
が認められており、長野県や山梨県の高冷地を中心
に発生面積が拡大している。
長野県では諏訪郡富士見町の標高1,000m以上の
水田で確認され、聞き取りや現地調査の結果、近隣
の茅野市、原村など諏訪地域の高標高水田地帯にも
拡大している。最近の調査では、上伊那地域の標高
600~700m地帯の水田にも発生が確認されている。
多発圃場では、水稲の減収や収穫作業効率の低下が
問題となり、防除対策が求められている。
シズイの防除に有効な除草剤の適用範囲(適用草
種)は、平成25年度までは東北地域のみであったが、
平成24年度から長野県と山梨県及び公益財団法人日
本植物調節剤研究協会との共同試験の結果、適用範
囲(適用草種)が平成26年以降、関東東山地域まで
拡大されている。
図1 「シズイ」の草姿
シズイの特徴
シズイの茎葉は断面が三角形で、幅が5㎜程度と
やや狭く直立している。草丈は40~60㎝程度である
が、水田においてイネと競合すると90㎝以上になる
表1 シズイと他のカヤツリグサ科植物の形態的特徴
シズイ
ホタルイ
クログワイ
茎葉
三角形
丸(5~6角形)
丸(節がある)
株
分けつ少ない。
分株が多く群生
分けつ多い
大きな株を形成
株を形成
花序
上部に仮側生
花序枝2本
上部に仮側生
花序枝無し
先端に形成
塊茎
数㎜~10㎜
偏球形
形成しない
10㎜程度
球形
図2 「シズイ」の塊茎
場合もある。また地下には根茎があり、分株が多く
発生し、偏球形をした数㎜~10㎜程度の塊茎を多数
生産する。このため、適正な防除が行われないとシ
ズイが侵入してから数年で急速に水田内に蔓延す
る。(表1、図1、2)。
シズイの防除対策
シズイは塊茎による栄養繁殖が主で、水田では種
子による発生はまれである。ただし1株で15~20個
程度の塊茎を形成し、繁殖力が極めて旺盛である。
ポット試験では現地から採取したした3個体を栽培
したところ、3,000個以上の塊茎を生産した。その
ため、シズイ防除をしない水田では雑草害による稲
の茎数減少が認められる。また、効果のある薬剤を
早い時期に処理した場合は薬剤の防除効果が切れ、
後発生による影響が発生する。逆に遅い時期に処理
した場合は薬剤処理以前の発生量が大きくなり、水
稲の穂数が減少し、残草による塊茎形成量が多くな
り次年度の発生源ともなる。
以上のような生育特性を示すシズイの防除には、
草丈3㎝まで(高冷地の水田では田植え後5~10日
まで)にシズイ防除効果のある初中期剤を処理する
ことが重要と考えられる。現在、シズイに対して
防除効果のある初中期除草剤としてヤイバ豆つぶ
250、シリウスエグザ1キロ粒剤、ビクトリーZ1
キロ粒剤及びメガゼータ1キロ粒剤、ムソウ1キロ
粒剤が現在登録されており、関東・東山・東海地域
でシズイ防除に使用可能となっている。これらの初
中期剤については一般雑草、多年生雑草に有効な初
中期除草剤として長野県農作物病害虫・雑草防除基
準に掲載されている。
また、シズイの出芽は地表面下5㎝の位置では田
植え後10日位までに出芽するが、地表下20㎝の位置
から発芽するには30日以上かかり、気温や塊茎の深
さによっては、7月上旬頃まで出芽がダラダラ続く
ことがわかっている。シズイの発生状況によって
は、初中期除草剤では防除しきれない場合も想定さ
れる。今後中・後期除草剤についても適用範囲が拡
大されれば体系処理が可能になり、シズイに対して
さらに高い防除効果が得られるようになる。
― 12 ―
平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
(第 325 号)
話題の農薬
「イプフェンカルバゾン」
~水田除草剤「ウィナー」の新規成分~
北興化学工業(株) 東京支店技術チーム 奈良有至
粒剤は県関係機関で試験中です。
はじめに
イプフェンカルバゾンは、北興化学工業(株)が
⑵ カチボシ剤
開発した新規の除草剤有効成分です。平成25年8月
平成26年9月10日に農薬登録を取得いたしまし
6日付けでイプフェンカルバゾンを含有する水稲用
た。イプフェンカルバゾンにテフリルトリオン、ベ
除草剤「ウィナー」の農薬登録を取得いたしました。
ンスルフロンメチルを配合した剤で、長野県での検
1.イプフェンカルバゾンの特長
討はこれからです。
⑴ ノビエに対する長期残効性
おわりに
水稲栽培で問題になるノビエに対して高い効果を
イプフェンカルバゾン含有剤を通して、本県での
水稲作に貢献できるよう今後も邁進して参ります。
示し、長期にわたり発生を抑えます。
⑵ 高い土壌吸着性
【イプフェンカルバゾンは、ノビエに対して長期の残効性を示した】
土壌表層から1㎝程度に強固な処理層を作
ると推察されることから、砂壌土やある程度
の漏水条件下でも、従来の除草剤と比べて効
果の変動が少ない知見が得られています。
100
除 90
草
効
果 80
70
⑶ 水稲に対する高い安全性
A剤
60
水稲に対する安全性が高く、残効も長いこ
とから、田植同時処理に適していると考えら
イプフェンカルバゾンフロアブル(25gai/10a)
%
21日後 28日後 35日後 42日後 49日後 56日後 63日後 70日後
処理後日数
試験方法:薬剤処理後、1週間ごとに土壌表層にノビエを播種し、播種3週間後に除草効果を調査した。
れる有効成分です。
平成13 年 北興化学工業(株)開発研究所 ポット試験
図 ノビエに対する残効性
2.イプフェンカルバゾンを含有する製品の
紹介
⑴ ウィナー剤
表 普及に移す技術に既採用のウィナー剤の登録内容(関東・東山・東海
地域のみ抜粋、平成27年2月末日現在)
Lフロアブル
イプフェンカルバゾン及びブロモブチド、
ベンスルフロンメチルを配合し、ノビエ他一
年生雑草、SU抵抗性雑草(ホタルイ、コナ
Lジャンボ
ギ、アゼナ類など)に高い効果を示します。
ウィナー剤には、ウィナー1キロ粒剤、ウィ
ナーLフロアブル、ウィナーLジャンボがあ
り、このうちLフロアブルとLジャンボが
「普及に移す技術」になっています。1キロ
イプフェンカルバゾンを含む ブロモブチドを含む ベンスルフロンメチルを含む
農薬の総使用回数
農薬の総使用回数
農薬の総使用回数
2 回以内
― 13 ―
2 回以内
2 回以内
ながの植物防疫
(第 325 号)
植
植防
防短
短信
信
長野県農薬卸商業協同組合新理事長に
海野安彦氏就任
長野県農薬卸商業協同組合平成27年度(第69期)
通常総会が2月19日長野市鶴賀のメルパルク長野に
於いて開催されました。平成26年度事業報告並びに
決算の承認、平成27年度事業計画並びに収支予算書
等を承認後、役員改選があり、次のとおり決定しま
した。
理 事 長 海野安彦
専務理事 海野晴彦
常務理事 小宮山朝男
理
事 廣田光彦
理 事 桜井 孝
理
事 山下大輔
理 事 丸田貴司
監
事 岡沢洋文
監
事 相馬栄治郎
(任期平成27年2月~平成29年2月)
なお、各委員会の委員長は次のとおり選任されま
した。
総 務 委 員 長 海野晴彦
経 済 委 員 長 桜井 孝
教育情報委員長 丸田貴司
(長野県農薬卸商業協同組合 浜田俊郎)
海野安彦新理事長
平成26年度寒冷地果樹研究会に参加しました
利用率が高くなったことに加えて、リンゴハダニを
主に捕食するフツウカブリダニの発生が慣行防除園
でもみられるようになったことから、リンゴハダニ
がほとんど問題にならなくなったとの報告がありま
した。秋田県からは、有望な土着天敵のケナガカブ
リダニの一部で、合成ピレスロイドに対する感受性
低下がみられているとの報告があり、今後は土着天
敵に対する農薬の影響評価も必要との発表がありま
した。この他、ナミハダニの薬剤感受性低下の現状
や土着天敵の活用法について、各県から様々な視点
の研究データが紹介されました。
(果樹試験場 笹脇彰徳)
雑草情報受付メールアドレスを設置しました
県下各地において問題を抱えている難防除雑草
は、蔓延する前の発生初期段階から対策に取り組む
ことが重要になります。
長野県主要農作物難防除雑草対策プロジェクトチ
ームでは、難防除雑草の蔓延による農業生産への被
害防止対策を講じるため、発生初期段階から情報を
収集・共有・活用し、効率的な雑草防除を目指して
います。このための体制作りを下図のように進めて
おり、今回、雑草情報受付窓口となるメールアドレ
スを設置いたしました。お困りの“変な・珍しい・
知らない”雑草の情報をお待ちしております。
①所定の記録様式に、可能な限りの詳細な内容を記
入し、写真などの画像を添付して情報提供をお願
いいたします。
②いただいたメールは当面、以下のメンバーで情報
を共有いたします。
農業技術課専技、農業試験場担当者、プロジェ
クト事務局(全農長野生産資材課)
③寄せられた雑草情報に対し、回答はできる限り早
急に行いますが、現時点で情報が不足している事
象については共同で検討させていただきます。
④お寄せいただいた情報は発生地域などを伏せて公
開します。
リンゴに代表される寒冷地果樹の試験研究を推進
する上で解決が急がれる課題について、全国の公立
試験研究機関等が集まり検討する会議が(独)果樹
研究所の主催で2月5~6日の2日間、盛岡市で開
催されました。全体会議は、「リンゴの機能性成分
とその作用に着目した商品開発」をテーマに、栄養
機能、嗜好機能および健康性機能に関する研究の動
向について報告がありました。分科会は4つの分野
に分かれて開催され、病害分科会は「減農薬防除に
向けた取り組みの現状と問題点」、虫害分科会は「寒
冷地果樹栽培におけるハダニ類の発生状況と天敵利
用による防除」をテーマとして検討がなされました。
虫害分科会の中では、青森県から、マシン油乳剤の
― 14 ―
メールによる雑草情報の受付アドレス
[email protected]
情報をお待ちしています。
記録票
メールアドレス
県チーム
やり取りを集約
Webサイト
(公開適合情報のみ)
サーバー
県チームから早期警戒情報
(JA全農長野 生産資材課 橋爪真一)
平成 27 年3月 5 日発行
ながの植物防疫
地域情報
斑点米カメムシ識別研修会を開催
上伊那農業改良普及センターでは、本年度から農
業試験場協力のもと、アカヒゲホソミドリカスミカ
メのフェロモントラップ調査を管内の水稲早生種の
4ほ場で実施しました。調査は毎週、各担当者がほ場
を巡回して誘殺数を調査しましたが、アカヒゲホソ
ミドリカスミカメ以外のカメムシ類による被害も想
定されることから、各地区の水稲の出穂期に合わせ
て捕虫網すくいとり(スイーピング)調査を実施し、
捕獲したカメムシ類を識別しました。アカヒゲホソ
ミドリカスミカメの成虫と幼虫、トゲシラホシカメ
ムシ、ホソハリカメムシ、アカスジカスミカメなどが
捕獲されました。 センターでは、フェロモントラップ調査、すくい
とり調査の2手法により、斑点米の原因となるカメ
ムシ類の発生予察による適期防除の情報提供を行っ
ています。(上伊那農業改良普及センター 高野正美)
捕虫網すくいとり調査状況(7/29)
農産物直売所の安全安心の取組み
(第 325 号)
ルを回避する取組として、導入についての説明を行
いました。
農薬の適正使用、農作業事故の防止は、特別な事で
はなく、当たり前な事を確実に行う必要があり、人為
的なミスを減らす事が必須です。GAPの導入はミス
をできるだけ発生させない取り組みとして有効であ
るので、今後も継続して推進していきます。
(下伊那農業改良普及センター 布山佳浩)
「木曽地域農業入門講座」修了式について
木曽農業改良普及センター、JA木曽、各町村など
で組織する木曽地域就農促進プロジェクト推進協議
会が開催している「木曽地域農業入門講座」が、今年
度すべての講座を終了し、2月4日に修了式を行い
ました。
入門講座は、農業の基礎知識を学ぶ座学と、
「イン
ゲン」、
「スイートコーン」、
「トルコギキョウ」
「直売用
野菜・花き」、
「水稲」の栽培を農場で体験する実践講
座を組み合わせて、58回の講座を開催しました。
受講生26名のうち、出席規定を満たした11名に修
了証が交付されることになりました。このうち、修了
式には7名が出席し、木曽農業改良普及センターの
大島所長から修了証が交付されました。
出席した受講生からは、農業の基礎が学べた、受け
継いだ畑で本格的な野菜栽培に取り組みたい、来年
度も講座に参加したい、などの意見が聞かれました。
木曽地域就農促進プロジェクト推進協議会では、
研修を終了した受講生が次年度から農業生産に取組
めるよう積極的に支援していきます。
(木曽農業改良普及センター 松原正典)
下伊那農業改良普及センターでは、管内の農産物
直売所の安全安心に向けた取り組みとして、直売所
GAPの推進と農薬の安全使用に関する講習会を開催
しています。高森町牛牧直売所あんしん市場では、平
成27年1月28日に生産者約35名を対象に講習会を行
いました。
農薬の安全使用については、農薬に関する法律や、
基本的な使用・保管方法の説明を行った後、農薬事
故の原因となりやすい機材の洗浄の仕方等の説明を
行った他、農薬の短期暴露評価の導入に係る注意事
項などを説明し
ま し た。ま た、
GAPの推進につ
いては、農作業
事故の現状や、
農薬の残留基準
値違反の事例な
どの紹介から、
研修会の様子
間違いやトラブ
― 15 ―
修了証の授与
修了式の様子
(第 325 号)
ながの植物防疫
をテーマとし、世界農薬工業連盟の傘下に設立され
協会だより
た殺虫剤抵抗性管理委員会IRACと、殺菌剤耐性
管理委員会FRACの我が国における窓口として活
躍のデュポン(株)島克弥、日本曹達(株)田辺憲
●平成27年版
太郎の両氏から委員会の使命と活動内容、抵抗性発
「長野県農作物病害虫・雑草防除基準」の販売
達の現状や対策提言などについて講演がありまし
★★★ 安全・確実な防除のための1冊 ★★★
た。また、農政部農業技術課の豊嶋専技からは、本
県における薬剤抵抗性管理の考え方についてIPM
価 格: 700円(消費税込み、送料別途)
を交えての解説がありました。
各委員会では抵抗性(耐性)関連情報の収集と配
布、薬剤の効果を持続するための抵抗性管理戦略の
※ 薬剤抵抗性(耐性)の発達を防止するため
立案と実践を通し、薬剤抵抗性の発達を遅らせ、ま
には異なる作用機構の農薬を選択し、いくつか
た抵抗性発現が認められた場合にその影響をいかに
組み合わせてローテーション使用することが必
して最小限に食い止め、薬剤の持続的使用を目指し
須です。本防除基準には、FRAC(殺菌剤耐
ています。
性菌対策委員会)およびIRAC(殺虫剤抵抗
具体的には、薬剤のローテーション使用に欠かせ
性対策委員会)が定める作用機構による分類コ
ない作用機構をわかりやすくグループ化したIRA
ード(FRACコード、IRACコード)の情
Cコード表またはFRACコード表の作成、抵抗性
報を農薬ごとにわかりやすく記載しました。同
(耐性)管理のための薬剤使用ガイドラインの作成
じコードは、同じ作用機構を示すので、生産現
などが行われています。殺虫剤では、従来のローテ
場で抵抗性対策に向けた防除薬剤の選択に大い
ーション防除の考えをさらに進めたブロック式ロー
に役立ちます。防除基準をぜひ活用してくださ
テーションが紹介されました。これは、異なる作用
い。
機構の薬剤をローテーション使用する際に、害虫の
1世代を「1ブロック」として考え、ブロック単位
●書籍紹介
で薬剤ローテーションを組む方法で、隣り合ったブ
「農薬作用機構分類一覧」日本植物防疫協会発行
ロックの中では異なる作用機構の殺虫剤を使うこと
で、感受性の低い個体群が生き残る確率を下げるこ
価 格: 970円(消費税込み、送料別途)
とができます。殺菌剤では耐性化するリスクを病原
リスク、殺菌剤リスク、栽培リスクに整理し、これ
本書の特徴は、我が国で登録のある殺菌剤、殺虫
らの複合リスクとしてのとらえ方や、SDHI剤、
剤を網羅し、農薬の作用機構(FRACコード、I
QoI剤などの使用ガイドラインが紹介されました。
RACコード)を商品名で検索できます。商品名か
抵抗性問題は、適切な手だてを講じないと、将来、
ら分類コードを、逆に作用機構グループに属する商
一層深刻化することは確実とみられています。詳し
品をかんたんに検索できます。便利です。また、殺
い情報はIRAC、FRAC等のHPや関連機関か
虫剤抵抗性、殺菌剤耐性についての解説があります。
ら発信されています。まずはアクセスしてみられる
ことをお勧めします。
これらの問い合わせ・ご注文は、
(一社)長野県植物防疫協会事務局
【行事】
電話 026(235)3510、FAX 026(235)3583、または最
1月29、30日 農薬管理指導士更新・特別研修会
(長
寄りの農業改良普及センターまでお願いします。
野市、松本市)
2月5、6日 農薬管理指導士養成研修会
(安曇野市)
●平成26年度長野県病害虫防除研修会が開催されま
2月12日 農薬等普及展示圃打ち合わせ会議
(長野市)
した
2月27日 病害虫防除研修会(松本市)
去る2月27日に、長野県松本合庁講堂において県
3月9日 農薬等普及展示圃設置会議(長野市)
主催の標記研修会が開催され、140名の参加があり
ました。近年、問題が深刻化している薬剤抵抗性に
ついて、
「薬剤抵抗性(耐性)管理の推進について」
ながの植物防疫はホームページでもご覧になれます。
http://www5.ocn.ne.jp/~nppa
― 16 ―
(注:~はチルダー)