平成26年度 新産業創出研究会「研究成果報告書」 「圧縮変形型柔軟発電体の特性評価方法と生産方法の開発と振動発電への応用」 [広島大学大学院工学研究院・助教] [田中 [広島大学大学院工学研究院・准教授] [陸田 [広島大学 産学・地域連携センター・産学官連携コーディネータ] [榧木 [倉敷化工(株)] [加藤 義和] 秀実] 高男] 隆一] 1.はじめに 近年、図1に示すような再生可能エネルギー発電、環境発電もしくはエネルギーハーベスティン グをキーワードとした研究が活発化してきている。その背景には、化石燃料の枯渇に対する懸念、 二酸化炭素排出による地球温暖化対策、純粋な技術革新への意識、がある。再生可能エネルギー の代表としては、周知のように、太陽光発電、風力発電が挙げられる。電力機器としての太陽光 発電の開発は1950年代から始まっており、1974年以降に電源として活用することに関す る研究が活発化した。現在では、メガソーラーにあるように発電所クラスの活用が行われている が、この状況に達するまで60年近くを必要としている。風力発電の研究は、日本においては1 970年代から始まり、現在に至っている。現在では、太陽光発電と並び、地球温暖化対策の有 効な手段と考えられ、MW クラスの風力発電が可能となってきている。風力発電においても、現 状に達するまで50年近くを必要としている。 振動エネルギーは身近に多種多様に存在している。風力エネルギー、海洋エネルギー、建物のゆ れ、エアコンの室外機、工作機械の振動、など、さまざまなものが考えられる。一般的に認識さ れている振動加速度の分布を図2に示す。振動加速度および振動周波数が大きいほど、振動エネ ルギーが大きいことを意味する。このような振動エネルギーを効率的に獲得するためには、まず、 シンプルな形状の柔軟発電体の発電特性を理論的に予測できる方法を確立することが最も重要で ある。また、それを効率的に生産できる方法を同時に開発しておくこともビジネスを展開してい く上で重要である。そこで、本研究では、円柱形状の圧縮変形型柔軟発電体を想定し、その発電 特性理論計算方法の開発を行う。また、平行して、この柔軟発電体の生産方法の開発を行う。 図1:研究背景 図2:振動加速度と振動周波数の分布 2.概要 近年、注目を集めている環境発電の重要な指標は、図2に示した振動数と加速度である。この観 点から自動車の振動を用いた環境発電は非常に魅力的である。代表者らのこれまで研究活動にお いて、エンジンの加速度は 5 ~20 m/s2、振動数は 30~100 Hz の範囲であることを確認してお り、この振動エネルギーを活用できる技術を開発することは、自動車メーカーにとって非常に魅 力的であると想定できる。これまで代表者らは、圧電フィルムと柔軟素材を用いた柔軟発電体の 研究開発を行ってきた。そこで、本研究開発では、図3に示すようなエンジンマウントとして活 用できる柔軟発電体の研究開発を行う。平成26年度においては、 課題1:圧縮変形型柔軟発電体の発電特性評価方法の開発 課題2:圧電フィルムとゴム素材の接着および成型方法の開発 を達成することを目標に研究を実施した。 図3:研究開発の目標 3.研究成果および今後の課題 3.1.圧縮変形型柔軟発電体の発電特性評価方法の開発 圧縮変形型柔軟発電体の発電特性評価方法について検討を行った。発電特性評価方法として、理論計 算モデルを用いた方法、数値計算(FEM などを用いた方法)が考えられるが、本研究では、理論計算モデ ルを用いた方法を検討した。理論計算モデルを用いる利点としては、結果を短時間で得られる点、力学 的に検討内容が明確である点、が挙げられる。検討した理論計算モデルの概要を図4に示す。圧縮変形 型柔軟発電体の振動を円柱棒の縦振動とみなして、モデル化している。ポアソン効果により、円柱に巻き つけられた圧電フィルムが延伸し発電すると考えている。これらの仮定のもとで得られる運動方程式およ び電気回路の式をモード分離し、各モードの応答が得られる。検討した理論計算モデルの妥当性を検討 するために図5に示すような実験装置を用いて実験結果と理論計算結果を行った。実験装置は、加振機、 レーザー変位計、加速度センサ、電圧計測器で構成される。実験に使用した柔軟発電体(FPED)の構成 を図6に示す。天然スポンジゴムに圧電フィルム PVDF を貼り付け、円柱上に成形している。この FPED を 加振機に設置し、さらに FPED の上に重りを設置し、強制振動実験を行った。実験結果の1例を図7に示 す。PVDF の幅が 10 mm 、20 mm の結果である。実験結果と理論計算結果を比較したところ、幅 20 mm の実験結果と理論計算結果はよく一致している。この理由としては、理論計算モデルでは、圧電フィルム が円柱軸方向に一様に貼り付けられていると仮定しているためである。したがって、圧電フィルムが貼り付 けられている領域を可変にできる理論計算モデルを構築することが今後の課題である。 3.2.圧電フィルムとゴム素材の接着および成型方法の開発 試作品を製作し、荷重負荷試験を実施した。製作した試作品の図面を図8に示す。試作品はシリコンゴム、 圧電フィルムで構成されている。試作品を製作するための型枠も併せて設計・製作を行った。試作品の 製作工程を図9に示す。防振ゴムと圧電フィルムを型枠の中に閉じ込め、加熱し、成形を行う。加熱なしと 加熱ありで試作品を製作し、荷重負荷試験を実施した。実験結果を図10、図11に示す。図10、図11より、 試作品は最大ピーク電圧約 100 V 程度であることが確認された。最大ピーク電力としては 10 mW 程度 である。また、成形するための加熱温度が70度以下であれば、圧電フィルムの性能劣化は起こらないこと が確認された。 図4:理論計算モデル 図6:FPED の構成 図5:加振機を用いた実験装置の構成 図7:実験結果と理論計算モデルの比較 4.おわりに 本研究会において、 課題1:圧縮変形型柔軟発電体の発電特性評価方法の開発 課題2:圧電フィルムとゴム素材の接着および成型方法の開発 の研究を実施した。課題1に関しては、円柱形状の圧縮変形型柔軟発電体の理論計算モデルを検討し、 加振機を用いた実験結果と理論計算モデルを比較したところ、概ね良好な一致が得られた。課題2に関 しては、試作品を作成するための型枠を設計・製作し、試作品の製作を行い、試作品を用いた荷重負荷 実験を行ったところ、ピーク発電量が 10mW 程度得られることを確認した。 5.本研究の今後の計画 今後の研究計画として、 ①圧縮変形型柔軟発電体の発電特性評価方法の改良 ②自動車の振動に長期間耐えうる圧縮変形型柔軟発電体の生産方法の開発 があげられる。①に関しては、平成26年度の成果を元に、理論発電特性評価方法の改良を実施していく。 ②に関しては、平成26年度の成果を元に、さまざまな柔軟素材を用いて試作品を作成し、荷重負荷試験 を行い、性能を評価してくい。そして、実験結果をとりまとめ、実使用を想定したときの適した圧縮変形型 柔軟発電体の設計指針を作成していく。 6.その他 (1)出願特許(タイトル・出願番号・発明者・特許権者など) (2)投稿論文(タイトル・学会名等) 圧縮変形型柔軟発電体の発電特性に関する研究、第27回「電磁力関連のダイナミクス」シンポ ジウム(2015 年 5 月)(採択済み) (3)本研究会の参加企業・団体名 倉敷化工(株) 図8:試作品の図面 図10:荷重試験機を用いた試作品の実験 図9:試作工程 図11:試作品の発生電圧(加熱あり)
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