OPI (oral proficiency interview)日本語能力口頭試験試験官 の紹介及び OPI の授業応用例 池畑裕介 台湾ではいろいろな日本語能力試験があります。その中でも代表的なのが JLPT(日本語能力試験)です。この試験は毎回約 3 万人が受験するとても大き な試験でもあり、日本企業や日本語関係の仕事に就くときの 1 つの目安になり ます。しかし、語学は読む・書く・聞く・言うの四技能があり、この試験はと ても大規模な多くの人が受ける試験のため、「読む・聞く」が中心、つまりイ ンプットが中心(内容理解)の試験となっており、アウトプット(自由発言、 自分の思っていることを表現する、実用的な発言)はあまり触れられていませ ん。そのせいで、N1(一番高いレベル)に合格したけど、話せないという学 生をよく目にします。大人数が受ける試験のシステム上採点を考えるとこのよ うになるのはしょうがないことだとは思います。 そして、台湾人の日本語を勉強したい動機の一位(文化大学推廣部調べ)が会 話能力の向上です。会話能力を向上したいのに、今の試験では会話能力向上を 練習する機会がない?なにか矛盾していますよね。 そこで、紹介したい資格が OPI です。この資格は日本語の口頭能力を計るもの で、日本語能力試験で計れない「どれだけ日本語を話せる能力があるか?」と いうのが計れる資格です。30 分間いろいろな話題をお喋りして、その中から 試験官がお喋りの内容を聞いて会話能力のレベルを判断します。判定出来るレ ベルは初級・中級・上級・超級と分かれており、それぞれに上・中・下と分か れています。例えば、初級の下だとか、上級の上とか、そのような形でレベル の測定が行われます。つまり自分の中に会話能力のレベルの基準が植え付けら れるという資格です。それを元に学生に指導をしたり、レベルを判断したり、 アドバイスをしたりすることができます。 どうにも試験対策だと文法中心の教育一辺倒になりがちですが、OPI だと文法 の正確さは会話能力判定基準の一部分でしかありません。OPI の判定基準は以 下のように様々なモノがあります。それらをお喋りの中から総合的に判断し、 レベルを決めていきます。 機能・タスク:説明が上手に出来るか否か。 1 場面・話題:フォーマル、インフォーマルの使い分け。 テキストの形:文、文法、段落、複段落(つまり一人でどれだけ長く話せるか) 文法:文法運用の正確さ。 語彙:語彙運用の正確さ。 発音:発音の正確さ。 社会言語的能力:相手に対して失礼にならないような日本語らしい表現が使え るかどうか。 語用論的能力:相槌や言葉の間の取り方、ターンテイキングなど。 流暢さ:会話のなめらかさ。 逆に言うと、会話能力というのはこれだけいろいろなことを見て総合的に判断 しなければ行けないものと言えるでしょう。そして、OPI で最も大切なポリシ ーが OPI の真ん中の P の字つまり、「proficiency(実践力)」です。日本語 を勉強してどれだけ使えますか?ここがこのインタビューのポイントです。実 践力とはどういうことか?本当に使える日本語とはどういうことか?そのよ うなことが勉強出来る資格です。 では、実際に授業に応用するとどうなるのでしょうか。下の表をご覧下さい。 ① 超級 総合的タスク、機能 いろいろな話題について広範囲に議論したり、意見を裏付けたり、仮 説を立てたり、言語的に不慣れな状況に対応したりすることができ る。 上級 主な時制の枠組みの中で、叙述したり、描写したりすることができ、 予測していなかった複雑な状況に効果的に対応できる。 中級 自分なりの文を作ることができ、簡単な質問をしたり相手の質問に答 えたりすることによって、簡単な会話なら自分で始め、続け、終わら せることができる。 初級 丸暗記した型どおりの表現や単語の羅列、句を使って、最小限のコミ ュニケーションをする。 こちらは簡略化するため、総合タスクと機能だけを見た表です。実はこれ以 外にも前述のとおりたくさんありますが、それはここでは述べません。 例えば、初級クラスを担当しているときに、学生の会話能力を向上させたい場 合、初級で出来る事は、、、 2 「丸暗記した型どおりの表現や単語の羅列、句を使って、最小限のコミュニケ ーションをする。」 初級と言いますと、ゼロ初級(50 音学習者)〜みんなの日本語 50 課終了ぐら いでしょうか。ゼロ初級の学習者を例にとると、ゼロ初級の学習者がより初級 の中、初級の上となるためには、 ・ フレーズの丸暗記 ・ 単語でとにかく返事をさせる(前提として相手の言ってることが分からな いと返事ができません。同時に相手の言っていることが理解できるだけの 聴力を育てる。) ・ 複雑ではない限られた状況の中で、コミュニケーションを成立させる。 機能においてはこの辺がキモになるのではないでしょうか。これに乗っ取った カリキュラムを作る必要があります。 では、もう少しレベルが上がり中級レベルだとどうなるのでしょうか。 「自分なりの文を作ることができ、簡単な質問をしたり相手の質問に答えたり することによって、簡単な会話なら自分で始め、続け、終わらせることができ る。」 ・ 自分で言いたいことがある程度言える。 ・ 受け身の会話ではなく、相手に対して質問ができる。 ・ そして、会話を始め、続け、終わらせることができる。 とくに、三つ目が会話においてはポイントだと思われます。 じつは、日本語で会話を続け、終わらせるのは大変難しい会話ストラテジーを 要求されると思います。 続けるために、相手の話を興味をもって聞いているというフィラー(filler) も学習しなければなりませんし、相手に話をさせているだけでなく、こちらも 話をするためのターンテイキングのストラテジー(具体的には話を転換させる、 タイミング、間、言葉など、例、あっ、そういえば、あの話どうなりました?)、 3 話の終わらせかたのストラテジー、話の流れの推測ストラテジーや相手の気持 ちを察する日本語ならではの表現などを身につけなければいけません(文字で 書くとややこしいですが、実際は対ししたことありません)。 そして、これらをクリアしたら次は上級が見えてきます。 「主な時制の枠組みの中で、叙述したり、描写したりすることができ、予測し ていなかった複雑な状況に効果的に対応できる。」 上級こそ応用力が試されるレベルだと思います。特に予期していない複雑な状 況に効果的に対応できることが試されます。これはどういうことかというと、 予期せぬハプニングを如何に乗り切るか? 例えば 「会社の上司に配置転換の話をされました。このやんわりと断ってください。 」 という状況です。ここで試されている能力は、 「敬語」 「失礼にならないようあ n断り」「ほのめかし」などを会話の中で言わなければいけないでしょう。そ れが出来て初めて上級であると言えるのです。この様な状況は普段あまりない ので、ロールプレイという形で教師から示す必要があります。 では最後に超級はどうでしょうか。 「いろいろな話題について広範囲に議論したり、意見を裏付けたり、仮説を立 てたり、言語的に不慣れな状況に対応したりすることができる。」 さすが超級という感じだと思います。どのような状況でもそれなりに相手を納 得させる言語能力があります。 ・ 議論、意見の裏付け、仮説 ・ 言語的に不馴れな状況への対応 議論、意見の裏付け、仮説は説得力が試されているので、説得力をつけるよう な言語訓練が必要です。そのために、意見が対立するような題材を持ってきて、 それにう対して意見を言ってもらい、教師がわざと難癖をつけ否定する、そし てそれをどれぐらい自身の言語能力で跳ね返せるか?そのような技術が試さ 4 れています。教授法としては、ロールプレイ、ディベート、究極の二択(あな たならどちらを選ぶ?)などがあっていると思います。 言語的に不馴れな状況への対応なのですが、自分が少ししかしらないことを如 何に説明できるか?割と難しいのが知っていそうでしらないことです。例えば、 台湾の文化、 「U—BIKEってどうやって借りるんですか?」 「臭豆腐はどう して美味しいと思うのですか?どう考えても美味しくない・・・」「ボァボェ (擲杯筊)はどうやってやるのですか?」など普段何気なく接している文化の 紹介が意外に難しいと思います。 ただ、日本人とのコミュニケーションのなかで、これらの台湾文化を紹介する 場面はたくさん出てきます。また、相手を納得させるコミュニケーションは超 級では必須なので、これらのことはすらすら説明できるようになって欲しいで す。 言葉の体力(打たれ強さ)の問題もあると思います。何かを突っ込まれてすぐ 諦める人、その度合いという意味なのですが、それもすぐ諦めずにコミュニケ ーションをしないと、知らない分野、苦手な分野でも、粘って自分の意見を言 うようにしないとOPIの基準では超級には届きません。 最後に台湾で変えるOPIに即した教材を紹介して今回の報告の結びにした いと思います。 初級 聽.想.說 初級日語會話(學生用) (附有聲 CD1 片) 大新書局 聞く・考える・話す 留学生のための初級にほんご会 話 中級 上達日本語表現 上級 きちんと伝える技術と表現 超級 超級日本語表現 大新書局 日本語上級話者への道 大新書局 日本語超級話者へのかけはし きちんと伝える技術と 表現 一つの基準に対しての実地例だけである、タスク・機能以外の基準の細かい点、 等、今回書けなかった部分は次回に譲りたいと思います。 5 池畑裕介 明治大学経済学部卒業、文化大学大学院日本語文学学科卒業、師範 大学博士課程教育課程学科在学中、現文化大学推廣部専任教師 専門:マルチメディア教育、教育課程 6
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