動的再構成可能なSU(3)スピン回路を用いたロボット制御中枢の設計

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
動的再構成可能な SU(3) スピン回路を用いたロボット制御中枢の設計
山崎 優作†
鈴木 拓也†
田向
権†
関根 優年†
† 東京農工大学 工学府
〒 184-8588 東京都小金井市中町 2-24-16
E-mail: †{yamazaki,suzuki}@sekine-lab.ei.tuat.ac.jp, ††{tamukoh,sekinem}@cc.tuat.ac.jp
あらまし
当研究室では画像認識,音声認識,音声合成の要素技術を統合するためのプラットフォームとして,カメ
ラ,マイク,スピーカ,各種センサを搭載したロボットを開発している.脳機能を模擬した状態機械を設計するため
に,本研究ではリー代数を用いた SU (3) スピン回路を提案する.SU (3) のディンキンインデックスにより定まるルー
ト図の経路を用いて,状態機械を動的に更新する.また,回路を流れる固有ベクトルからカルタン部分代数で状態量
を観測する.この状態量を用いた応用回路例としてロボット制御中枢を取り上げ,その設計について考察する.
キーワード
リー代数,状態機械,FPGA,ロボット
Robot Control Unit by Using Dynamically Reconfigurable SU (3) Spin
Circuit
Yusaku YAMAZAKI† , Takuya SUZUKI† , Hakaru TAMUKOH† , and Masatoshi SEKINE†
† The Faculty of Engineering, Tokyo University of Agriculture and Technology
Naka-Chou 2-24-16, Koganei-Shi, Tokyo, 184-8588 Japan
E-mail: †{yamazaki,suzuki}@sekine-lab.ei.tuat.ac.jp, ††{tamukoh,sekinem}@cc.tuat.ac.jp
Abstract Our laboratory has developed a robot with various sensors, a stereo camera, microphones and a speaker.
This robot has been a platform for integrating element technologies (image recognition, voice recognition, speech
synthesis, etc.). In order to design a state machine that simulates neural networks, this study proposes SU (3) spin
circuit based on Lie algebra. In the proposed platform, SU (3) is used as the design rules for state machine.Dynkin
index and Route diagram represent the state machine update rule. In addition, the proposed system observes the
state of SU (3) using eigenvectors signal flowing through the circuit and Cartan subalgebra. For the disscussion, we
apply the state of SU (3) to a robot control unit, and show its effectiveness.
Key words Lie Algebra, State Machine, FPGA, Robot
1. は じ め に
1. 1 研 究 背 景
識用のマイクが 2 個,音声合成の出力用スピーカ,先端に加速
度センサが実装された 4 軸アーム,FPGA 搭載 PCI ボードを
接続した HostPC が搭載されている.
半導体プロセス技術の進歩により,数千万ゲート級の大規模
このロボットを用いて,複数のセンサとアクチュエータを対
LSI を扱うことが可能になっている.これら大量の回路資源を
象とした高速な反射動作が実現された [3].FPGA 内部のみで
どのように利用するかという問題が発生している.高度複雑な
センサからの入力データを制御信号出力にフィードバックさせ,
処理システムを回路化した際に,どのような機能を持ったアプ
複数のアクチュエータを同時に,かつ高速に制御することが可
リケーションが実現できるのか,どれだけの回路規模が必要で
能となった.また,HostPC でロボット全体の行動計画や動作
あるか,といった知見が必要である,当研究室では,人間の知
命令等を行い,ハードウェアの制御信号を管理することで,高
覚機能をモデル化した画像認識や音声認識等の回路化に取り組
速で負荷の少ない制御システムを構築することができた.
んでいる.それらの技術を統合し,一つのシステムを構築する
1. 2 研 究 目 的
ためのプラットフォームとして,ロボットを開発している.こ
ロボットは周囲の環境で発生する想定外の状況に対処しなけ
のロボットには,画像認識用のカメラユニットが 2 個,音声認
ればならない.ソフトウェアで環境に適応する例があるが,ロ
—1—
Level
[2,0]
+α
−α
[1,-1]
[0,1]
(1 )
−α
[-2,2]
1
(2)
2
[1,-1]
−α
+α
0
−α 1
( )
( 3)
−α
(2)
[-1,0]
( 3)
−α
(1)
3
( 2)
[0,-2]
4
図 1 関根研究室のロボット
図 3 [2, 0] のルート図
ボットの制御を行うハードウェアを変更しながら動作するには
至っていない.また,ロボットの制御系が高度複雑化している
[2,0]
[0,-2]
[1,-1]
場合,状態機械や条件分岐を含むハードウェアの再設計は困難
[0,1]
である.新しい状況に対応するためにハードウェアを最設計す
[-1,0]
[-2,2]
る場合,条件文や状態機械を人の手で変更しなければならない.
ニューラルネットワークによる学習で制御を変更したり,条件
図 4 [2, 0] の状態遷移図
付き確率を組み合わせて分岐を表現する試みがあるが,分岐を
発生させたり,状態機械を再設計することはできない.
本研究では SU (3) のリー代数で得られるルート図で状態遷
移図を表現し,状態機械として利用する方法を提案する.状態
Level
0
[2,1]
+α
( 3)
[1,0]
[0,2]
[-2,3]
[1,0]
[3,-1]
1
[1,0]
2
[-1,1]
3
遷移図が SU (3) の規則に従うため,これを利用することで動
的に再構成可能な状態機械を設計できる.この状態機械を表現
+α
[0,-1]
できる SU (3) スピン回路を用いて音声認識とアクチュエータ
制御を組み合わせた応用例を示し,実際のロボット制御におけ
( 3)
+α
( 3)
[-1,1]
[2,-2]
[0,-1]
[0,-1]
[-3,2]
[-2,0]
[1,-3]
[-1,-2]
る利用法を考察する.また,SU (3) スピン回路を FPGA 上に
実装した際の回路規模や実現可能な機能についても考察する.
4
5
6
図 5 [2, 1] のルート図
2. ロボット制御中枢
図 3 に示す.[1, 0] と比較すると,Level1 の部分に分岐点が現
本研究で提案する SU (3) スピン回路を用いて,ロボット制
御中枢を設計する.
れている.これを状態遷移図で書き表すと図 4 のようになる.
さらに大きいディンキンインデックス [2, 1] の場合のルート図
2. 1 状態機械と SU (3)
を図 5 に示す.分岐点の数がさらに増え,状態遷移がより複雑
本研究では SU (3) のリー代数を用いている.SU (3) を選択
になったことがわかる.
した理由としては,多種多様に存在するリー代数の中で比較的
分岐点の発生と状態遷移図の規模は SU (3) の規則に従って
小規模であり,分岐を表現することの出来る最小の変換群だか
いる.すなわち,[m, n] が大きく複雑な状態遷移図を扱う場合
らである.SU (3) にはディンキンインデックスとルート図とい
でも,完成した遷移図と分岐点を全て把握しコントロールする
う規則がある.ディンキンインデックスは [m, n] という 2 次元
ことができる.[m, n] の状態機械の全状態数 D(m, n) は以下の
の整数で表される.[m, n] の数値により一意のルート図が決定
式で求められる.
する.
例 と し て [1, 0] の ル ー ト 図 を 図 2 に 示 す.図 2 で は
[1, 0], [−1, 1], [0, −1] がそれぞれ 1 つの状態を表現している.
つまり,[1, 0] のルート図では 3 状態で分岐の無い有限状態機
械が表現できている.経路の途中に分岐点は無く,常に同じ状
態遷移を繰り返す状態機械となる.
次に,ディンキンインデックスが [2, 0] の場合のルート図を
D(m, n) =
1
(m + 1)(n + 1)(m + n + 2)
2
(1)
2. 2 SU (3) スピン回路
ルート図の 1 状態に対応する基本素子を 2 次元平面上に配置
し,SU (3) の規則に従って状態機械を表現できる回路を SU (3)
スピン回路とする.各基本素子は E−α(1) ,E−α(2) のルート演算
に対応する 2 系統の出力を持っており,E−α(1) の演算で 1 つ右
の素子へ,E−α(2) の演算で 1 つ下の素子へ移動する.図 6 のよ
Level
[1,0]
−α 1
0
( )
+α
( 3)
[-1,1]
−α
( 2)
[0,-1]
1
2
うに縦軸・横軸をルート演算子に対応させる.このような構造
にするとで,SU (3) の規則に合わせたルート図を容易に表現で
きる.終了状態から初期状態へ戻るための経路として,E+α(3)
により状態を戻す経路を別に用意する.
一般的な状態機械は遷移後の状態 S ′ ,遷移前の状態 S ,入力
図 2 [1, 0] のルート図
I を用いて次のように表せる.
—2—
E−α
(1)
横軸,縦軸のそれぞれが
E-a1,E-a2 の演算に対応
最高
[2,0]
(
)
無効
[3,-2]
(
E−α
)
通常
通常
[0,1]
(
)
通常
[-2,2]
(
通常
[1,-1]
(
)
)
[-1,0]
(
)
無効
[-4,3]
(
)
DynkinIndex[m,n]
(State)
無効
[-3,1]
(
)
( 2)
無効
[4,-4]
回路規模は
設計者が決定する
(
)
無効
[5,-6]
(
E+α
(3)
E+α
(3)
)
最低
無効
[0,-2]
(
無効
[3,-5]
(
)
)
[1,-4]
(
)
無効
[-2,-1]
(
)
ウェイト上昇(Ea+3)経路
無効
[-1,-3]
(
)
図 7 ディンキンインデックス [2, 0] の閉回路
E+α
(3)
最低ウェイトを最高ウェイトまで戻す経路
図6
)
無効
[2,-3]
(
制御中枢(Software)
ルート図を表現する回路
See
′
S = AS + BI
(2)
O = CS + DI
(3)
Plan
Do
図 8 制御中枢 (ソフトウェア)
SU (3) スピン回路の状態機械としての入出力信号を整理する.
まず,有限状態機械の状態出力 S がある.状態 S は図 6 のど
分岐点
候補
の素子がアクティブになっているか,に対応する.S は専用の
状態観測モジュールによって観測する.そして,状態分岐を制
御する入力 I がある.I がロボットに搭載されたセンサの入力
に相当する.あらかじめ各基本素子に B の値を設定すること
で,状態分岐の条件を設定できる.また,各基本素子が状態 S
図 9 4*4 平面の SU (3) スピン回路内の分岐点候補
に対応しているので,C の値を設定することで出力 O の動作
を設計できる.
上のソフトウェアがある.下位に FPGA 上の SU (3) スピン回
これらの入出力信号とは別に,状態機械のディンキンイン
路があり,ソフトウェアからの制御を受ける.ソフトウェアか
デックスを指定する入力 [mi , ni ] と再構成を開始するトリガ入
らハードウェアに対して,
“ 状態機械の再構成のトリガ ”,
“状
力を持つ.SU (3) スピン回路は上位層のハードウェア,もしく
態機械のディンキンインデックス指定 ”,
“ センサ・アクチュ
はソフトウェアの制御で動作するように設計されている.今回
エータ等の入出力設定 ”等のコマンドを送信できる.
は上位層のソフトウェアが状態機械を制御する階層構造とした.
この詳細については後述する.
ソフトウェア部分は“ See(評価) ”,
“ Plan(計画) ”,
“ Do(行
動) ”のループ構造で,自らの状態と出力を監視し,フィード
2. 3 状態機械の再構成
バックをかける制御系となっている.SU (3) スピン回路から得
ディンキンインデックスを指定することで状態機械を再構成で
たカルタン部分代数と固有ベクトルの情報を基に,閉回路の状
きる.図 6 の SU (3) スピン回路を例に説明する.まず,左上端
態であるウェイトを計算する.このウェイトを状態機械の状態
の基本素子に任意の最高ディンキンインデックス [mmax , nmax ]
S とする.ソフトウェアは必要に応じて状態機械を拡張するこ
を入力する.するとルート図の規則に従って各基本素子のディ
とが出来る.状態機械を拡張させた際に生じる分岐は,SU (3)
ンキンインデックスが計算される.そして,各基本素子の持つ
の規則で調べることができる.
ディンキンインデックスに従って有効な素子と経路のみが残さ
2. 5 状 態 分 岐
れる.結果的にディンキンインデックス [mmax , nmax ] のルー
4*4 平 面 の 基 本 素 子 を 持 つ SU (3) ス ピ ン 回 路 を 例 に ,
ト図が回路で表現される.各基本素子を状態 S ,経路が状態遷
mmax + nmax < 3 の条件を満たす全ての状態機械につい
移として表される状態機械が構成される.
て,どの基本素子が状態分岐を持つかを調べた.1 つでも状態
最高ウェイトのディンキンインデックス [2, 0] が渡された場
合に,状態機械が構成された例を図 7 に示す.図 3 のルート図
を表現できているとわかる.
x ∗ x 平面の SU (3) スピン回路を用いた場合,構成できる
分岐を持つパターンがあった基本素子を分岐点候補とし,その
配置図を図 9 に示す.
状態機械に与えられたディンキンインデックスにより,どの
分岐点候補が状態分岐となるか決まる.状態遷移が起こる際に,
最大の状態機械のディンキンインデックス [mmax , nmax ] は
入力 I とあらかじめ指定した条件と比較することで状態分岐の
mmax + nmax < x の条件で判定できる.例えば 4*4 平面では,
方向を決定する.
[3, 0] や [1, 2] 等が最大の状態機械であると判定することがで
きる.
2. 6 音声入力回路との統合例
動作を開始した時点で状態分岐の無い状態機械が,ディンキ
2. 4 ソフト・ハードの協調動作
ンインデックスを大きくすることで状態分岐を獲得できること
ロボット制御中枢は階層構造となっている.上位に HostPC
を示す.最も単純な例として,状態機械の入力 I として音声入
—3—
[5:0] iEigenVector
[1,0]
[0,-1]
[2,0]
[0,1]
[-1,1]
[0,-2]
[1,-1]
E−α
E+α
DynkinIndex
Checker
E+α
の演算結果
( 2)
E-a2
の演算結果
( 3)
E+a3
(1)
の演算結果
Bus
Slave
[7:0] iDynkinIndex_m
[7:0] iDynkinIndex_n
[7:0] iDynkinIndex_n
[7:0] iDynkinIndex_m
データパス線
[5:0] oVector_a3
(3)
図 12 ルート演算子モジュール
[7:0] iDynkinIndex_m
SpinCircuitModule
図 11
[5:0] oVector_a2
( 2)
E-a1
E−α
[15:0] iDynkinIndex
E−α
[-1,0]
状態機械の変化
[7:0] iEigenVector
[5:0] oVector_a1
(1)
[-2,2]
図 10
E−α
[7:0] iDynkinIndex_n
+1
[7:0] oDynkinIndex_n_a1
E−α
−2
[7:0] oDynkinIndex_n_a2
E−α
( 2)
[7:0] oDynkinIndex_m_a3
+1
+1
(1)
[7:0] oDynkinIndex_m_a2
+1
スピン回路基本素子
図 13
[7:0] oDynkinIndex_m_a1
−2
[7:0] oDynkinIndex_n_a3
E+α
( 3)
ディンキンインデックス演算モジュール
力を利用する場合を考える.
システムが動作を開始した時点で,状態機械は最小規模であ
の行列の形に注目すると,固有ベクトルの各要素の入れ替えを
る [1, 0] の回路になっているとする.図 2 より [1, 0] の状態機
行う演算であるとわかる.つまり,このモジュールは入力され
械には分岐点が存在しないので,音声入力 I に依存せず同じ状
た固有ベクトルの要素を入れ替えるマルチプレクサのみで構成
態遷移を繰り返すだけの動作となる.
できる.ハードウェアの並列性を活かし,入力の固有ベクトル
ここで状態機械のディンキンインデックスが [2, 0] になり,状
に対し E−α(1) , E−α(2) , E+α(3) の演算を同時に行っている.
態遷移図が拡張されたとする.図 10 より [2, 0] の状態機械で初
3. 3 ディンキンインデックス演算モジュール
めて分岐点が現れる.これにより音声入力 I を用いた状態分岐
固有ベクトルの入れ替えを行うのと同時に,ディンキンイン
ができるようになる.SU (3) の規則で分岐点が現れる場所がわ
デックスを更新する必要がある.ディンキンインデックス [m, n]
かっているので,あらかじめ分岐条件を設定することができる.
の要素 m, n に対し,加算と減算を行う.ルート演算子モジュー
同様に [2, 0] 以外の状態機械を用いた場合でも分岐条件を設定
ルと同様に,E−α(1) , E−α(2) , E+α(3) のそれぞれに対応する更
できる.このとき,各状態にアクチュエータ駆動の対応関係を
新を同時に行う.
設定していれば,ロボットに所望の動作をさせることができる.
3. 4 ディンキンインデックス判定モジュール
状態機械の再構成は回路動作中にも問題なく利用できる.こ
ディンキンインデックスを調べることで,スピン回路基本素
れにより学習でリアルタイムに回路が成長するシステムを作る
子がルート図においてどの状態にあるのかを判定することが出
ことも可能である.どのように状態機械を変更しシステムを成
来る.ディンキンインデックス [m, n] から状態を判定する条件
長させていくか,またどのような学習アルゴリズムが最適であ
について述べる.
るか,という点は今後の検討課題である.
3. 周辺回路の設計
SU (3) スピン回路を構成するモジュールについて述べる.
3. 1 スピン回路基本素子
( 1 ) 無効な素子 (スピン回路の経路に”含まれない”素子)
最高ウェイトのディンキンインデックスを [mmax , nmax ] とし
て,素子のディンキンインデックス [m, n] が m > mmax +nmax
もしくは n > mmax + nmax を満たす場合.
( 2 ) 最高ウェイトの素子
ルート演算子モジュール,ディンキンインデックス演算モ
与えられた最高ウェイトのディンキンインデックスと素子の
ジュール,ディンキンインデックス判定モジュール,データパ
ディンキンインデックスが一致する場合.つまり,m = mmax
スを合わせたモジュールをスピン回路基本素子とする.このモ
かつ n = nmax である場合.
ジュールが状態機械を構成する最小単位となり,1 素子が 1 状
( 3 ) 最低ウェイトの素子
態に対応する.これらの組み合わせによって様々な規模のルー
素子のディンキンインデックスが,与えられた最高ウェイトの
ト図を表現する.
ディンキンインデックスを入れ替え,正負を反転させたものと
3. 2 ルート演算子モジュール
一致する場合.つまり,m = −nmax かつ n = −mmax である
固有ベクトル µ
⃗ の入力に対して,ルート演算子との乗算を行
場合.
うモジュールである.ルート演算子は式 (A·8),(A·9),(A·13)
( 4 ) 有効な素子 (スピン回路の経路に”含まれる”素子)
—4—
50000
Address
Generator
Bus
Master
回路規模
40000
Dual Port
BRAM
H3
H8
State
Observer
[31:0] oCircuitState
へ書込
SDRAM
SpinCircuitObserver
表1
30000
模
規
路
回20000
XC3S2000
最大容量
10000
データパス線
図 14
(Slice)
0
0
状態観測モジュール
4
6
SU(3)
各モジュールの論理合成結果
モジュール
2
図 15
回路規模 (Slice 数)
8
10
12
スピン回路
スピン回路の
回路の規模 x*x
14
16
18
SU (3) スピン回路の回路規模
ルート演算子モジュール
27
ディンキンインデックス演算
51
ルと実装方法を示した.音声入力とアクチュエータ制御を統合
ディンキンインデックス判定
51
する一例を示し,ロボット制御中枢への適用について考察した.
104
また,論理合成ツールを用いた回路の合成結果を示し,FPGA
233(最適化後 195)
上にどの程度の規模の SU (3) スピン回路を実装できるかを検
状態観測モジュール
スピン回路基本素子 (合計)
証した.今後は SU (3) スピン回路の応用例の提案と,学習ア
上記のいずれの条件にも当てはまらない場合,スピン回路の経
ルゴリズムを適用することでシステムをどのように拡張できる
路に”含まれる”有効な素子であると判定する.
かを考察していきたい.
文
各基本素子が常に自身のディンキンインデックスを監視し,
スピン回路の経路に含まれるかを調べる.この判定結果を用い
ることで,容易にルート図に即した状態機械を構成することが
できる.
3. 5 状態観測モジュール
各基本素子の固有ベクトルとディンキンインデックスの情報
を取得する.得られた固有ベクトルに対して,カルタン部分代
数 H3 , H8 を用いて状態値を算出する.この出力が状態機械の
状態 S となる.観測した状態 S は上位のソフトウェアに転送
し,行動計画の創出に利用する.
付
3. 6 回 路 規 模
今回設計した SU (3) スピン回路を,XC3S2000 向けに Xilinx
献
[1] 関根優年,”AND 素子の負入力でパルス半否定演算を実現し
たパルス論理,” 電子情報通信学会論文誌,Vol.J89-D,No.3,
pp.414–421,2006.
[2] 長井啓一,山崎優作,関根優年,”動的に再構成可能なパルス
論理回路の設計,” ニューロコンピューティング研究会 (NC),
Vol.110,No.388 NC2010-93,pp.25–30,2011.
[3] 前川裕明,田中柳一,関根優年,”多階層制御回路を用いた高
速制御システム,” 電子情報通信学会技術研究報告 コンピュー
タシステム研究会 (CPSY),Vol.107, No.416, CPSY2007-49,
pp.7–12, 2008.
[4] 佐藤光,物理数学特論 群と物理,丸善,2001.
録
1. リ ー 代 数
社製 XST を用いて論理合成を行い,どの程度の規模の SU (3)
本研究ではコンパクトな線形リー群である SU (3) のリー代
スピン回路が実装可能であるか,どのような機能が実現できる
数を利用する.SU (3) は 3 × 3 特殊ユニタリ行列の作る全体の
か考察する.まず,SU (3) スピン回路を構成する各モジュール
群である.
ごとの論理合成結果を表 1 示す.
次に 2*2 から 16*16 平面の SU (3) スピン回路の論理合成を
1. 1 ゲルマン行列
特殊ユニタリ行列は一般に T rX̂ = 0 であるようなエルミー
行い,その使用 Slice 数のグラフを図 15 に示す.図 15 から,
ト行列 X̂ により U = exp iX̂ と表され,SU (3) の独立なパラ
XC3S2000 内に 4*4 平面の SU (3) スピン回路回路を約 6 個実装
メータの数は 32 − 1 = 8 個となる.SU (3) の生成子行列は次
でき,回路資源の全てを 1 個の SU (3) スピン回路で利用した場
の様に定義され,これらをゲルマン行列と呼ぶ.





1
0 −i 0
0 1 0









,
t
=
,
t
=
t1 = 
0 0 3  0
1 0 0  2  i
0
0 0 0
0 0 0





0
0 0 −i
0 0 1










t4 = 0 0 0 , t5 = 0 0 0  , t6 = 0
0
i 0 0
1 0 0




0 0 0
1 0
0



1 



t7 = 0 0 −i , t8 = √ 0 1
0 

3
0 i
0
0 0 −2
合,最大で約 10*10 平面の回路を実装できるとわかる.SU (3)
スピン回路を複数同時に動作させることで,複数の状態を組合
わせたより複雑な状態機械を扱うことができる.SU (3) スピン
回路のハードウェアは全て並列に動作することが可能で,多数
のセンサとアクチュエータの状態を管理する必要があるロボッ
トの制御で有効であると考えられる.
4. ま と め
本研究のベースとなる SU (3) のリー代数について,ルート
図の導出までを述べた.そして,ルート図を状態機械の設計図

0
0

0

−1
0
0
0

0
0

1

1
0
(A·1)
として用いる SU (3) スピン回路を提案し,その周辺モジュー
—5—
(
1. 2 カルタン部分代数
SU (3) の生成子行列の中で対角形であり,互いに可換である
元をカルタン部分代数と呼ぶ.これらを H3 , H8 と記述し,通
常の生成子行列とは別に扱う.
H3 = t3 ,
(A·2)
1. 3 カルタンの標準形
カルタン部分代数の次元 r をリー代数の階数 (rank) という.
式 (A·2) よりカルタン部分代数は 2 つであるから,SU (3) の
階数は r = 2 であることがわかる.階数 r のリー代数の基底
{Ha , E+α , E−α } は次の交換関係に従う.
(a, b = 1, · · · , r)
[Eα , Eβ ] = Nα,β Eα+β
(A·3)
Eα† = E−α ,
(Ha , Hb ) = ĝab
(
α⃗2 =
√ )
1
3
,−
2
2
(A·7)
最高ウェイトから最低ウェイトを得るまでには,ウェイトか
を SU (3) の生成子行列を用いて次のように表現する.


0 0 1


E 1 , √3 = E−α(1) = (t4 + it5 ) = 
(A·8)
0 0 0


2 2
0 0 0


0 0 0


E 1 ,− √3 = E−α(2) = (t6 − it7 ) = 
(A·9)
0 0 0


2
2
0 1 0
これらは下降演算子である.任意のウェイト µ
⃗ に E−α を乗
[Ha , E±α ] = ±αa Eα
[E+α , E−α ] = αa Ha ,
√ )
1
3
,
,
2 2
ら単純ルートを引く演算を行う.単純ルートに対応する演算子
H 8 = t8
[Ha , Hb ] = 0
α⃗1 =
算することで,ウェイトを下降させることが出来る.
E−α |µ⟩ ∝ |µ − α⟩
(Eα , Eβ ) = σα+β,0
∑
αa αb
=
(A·10)
1. 7 ル ー ト 図
α
単純ルートによる下降演算で最高ウェイトを最低ウェイトま
1. 4 基本ウェイト
で計算することでルート図が完成する.そして,最低ウェイト
カルタン部分代数の固有値 µ1 , µ2 は,次の 3 つの固有ベクト
ルを用いて求められる.
 
 
1
0
 
 



⃗e1 = 0 , ⃗e2 = 1
,
0
0
 
0
 

⃗e3 = 0

1
に至るまでの経路をディンキンインデックスを用いて簡略化し
たルート図で表すことが出来る.固有ベクトルにルート演算子
を作用させた場合,ウェイトの変化に合わせてディンキンイン
(A·4)
デックスを更新する必要がある.SU (3) のカルタン行列は次の
式を用いて求められる 2 × 2 正方行列である.
µ1 , µ2 をまとめた 2 次元ベクトルをウェイト µ
⃗ と定義する.
それぞれの固有ベクトルに対応するウェイト µ
⃗ を次に示す.
(
)
(
)
(
)
1 1
1 1
1
µ
⃗ ⃗e1 = , √ , µ
⃗ ⃗e2 = − , √ , µ
⃗ ⃗e3 = 0, − √
2 2 3
2 2 3
3
(A·5)
α(i) α(j)
Cij = 2 (j) (j)
α α
) (
(
2
C11 C12
=
C =
−1
C21 C22
(A·11)
−1
)
(A·12)
2
ディンキンインデックス [m, n] の状態に対して E−α(1) の場
合は,カルタン行列の 1 行目の値をディンキンインデックスか
ウェイト µ
⃗ の要素 µ1 , µ2 , · · · の中で,0 でない最初の要素 µi
ら引く.つまり,[m′ , n′ ] = [m − 2, n + 1] という規則で更新す
が正であるとき,これを正ウェイトと定義する.任意の既約表
る.E−α(2) の場合も同様にカルタン行列の 2 行目の値を用い
現のウェイトの中で,µi が最も大きいウェイトを最高ウェイト
て,[m′ , n′ ] = [m + 1, n − 2] で更新する.
と定義する.最高ウェイトが与えられると,それに応じた表現
が求められる.特に SU (3) の基本ウェイトは次の 2 つとなる.
(
µ⃗1 =
1 1
, √
2 2 3
)
(
,
µ⃗2 =
1
1
,− √
2
2 3
)
ディンキンインデックスの数値でルート演算を行う回数が決
定する.[m, n] の場合は E−α(1) を m 回,E−α(2) を n 回演算
する.最低ウェイトまで下降したウェイトを最高ウェイトに戻
(A·6)
1. 5 ディンキンインデックス
すために,上昇するルートを定義する必要がある.ここで,新
しく E+α(3) のルート演算子を定義する.
ディンキンインデックスは最高ウェイトから単純ルートを用
いて,最低ウェイトを得るまでのウェイトのシリーズの経路を
記述するためのものである.SU (3) では,[n, m] のように 2 次
E1,0 = E+α(3)

0


= (t1 + it2 ) = 0
0

1
0
0

0

0
0
(A·13)
元の数値で表される.
ディンキンインデックスとウェイトは 1 対 1 で対応しており,
[n, m] のときのウェイトは基本ウェイトを用いて,n⃗
µ1 + m⃗
µ2
この上昇演算子を用いることで,ウェイトの経路をループさ
せることができる.
と書き表せる.
1. 6 単純ルート
単純ルートはリー代数のランクの数だけ存在する.よって,
SU (3) の単純ルートは次の式で表される.
—6—