虐待防止に向けた取り組み - 宮城県医師会

虐待防止に向けた取り組み
宮城県医師会常任理事
奥 村 秀 定
近年,虐待の事例は増加しており,官民あげての取り組みが追い付かない状況である。児童相談所に
おける児童虐待に関する相談件数も増えており,子どもの生命に危険が及ぶ事例も後を絶たず,社会全
体で対応すべき重要課題となっている。何より「虐待は社会が絶対に許さない」という姿勢が大事であ
り虐待から子どもを守るために関連するすべての団体・組織が一丸となって取り組み虐待の早期発見,
早期介入,保護措置等あらゆる手段で対応することが重要である。
虐待対策の基本は,患児の安全の確保を最優先するということである。虐待の疑いがあり相談される
ケースは隣人や知人が最も多く地域コミュニケーションが大きな役割を果たしている。医療機関からの
通報は残念ながら約4%と少ない。つまり虐待が疑われるケースのほとんどは病院からの通報ではない。
医療機関では外傷・骨折およびネグレクトによる体重増加不良といった事例に限られるため,児童の生
命に影響を及ぼすおそれがあり,来院時には即入院あるいは保護措置が取られる場合が多くなる。
虐待の早期発見には乳幼児健診の役割が大きい。節目健診(2カ月,4∼5カ月,8∼9カ月,1歳
6カ月,3歳児)の場を活用し虐待を受けている子どもを見逃さないようにする。身体的特徴として外
傷は勿論,顔面・眼周囲のあざ,熱傷の跡,低身長,体重増加不良,不潔な肌,脱水症状等をチェック
する。子どもの様子では,極端におとなしい,無気力,無表情,おびえ,反抗・乱暴,人前での過度な
甘え・異常な馴れなれしさ等は要注意である。保護者の様子として,子どもへの威圧的態度,無関心,
拒否的態度,不自然な状況説明や態度,外来治療の中断・未受診,感情の起伏が激しいなどが多くみら
れる。これらを総合的に考慮し,虐待の有無および緊急性や深刻度を判断し,疑わしい場合は児童相談
所へ通告する。乳幼児健診未受診者や予防接種未接種者はネグレクトのケースが多く,訪問員や保健師
が家庭を訪問し直接家族に会う必要がある。
平成 24 年4月から平成 25 年3月までに発生した児童虐待死亡事例 49 例の検証結果では0歳が 43.1 %
を占めた。実母の抱える問題として,妊娠届を提出せず,妊婦健診未受診,母子手帳未交付が多かった。
妊婦健診を受けない妊婦については直ちに母子手帳交付手続きを行うよう指導を徹底し,要観察とする
など関係機関の連携が重要である。
厚労省では平成 26 年9月に「児童虐待防止対策のあり方に関する専門委員会」を開催し,妊娠期から
の切れ目のない支援のあり方,効果的な児童虐待防止対策のための関係機関の連携強化について検討し
ている。
宮医報 829,2015 Feb.
日本医師会では平成 16 年度から「児童虐待防止法」が施行された
11 月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け毎年「標語」を募集し
啓発している。平成 26 年は「ためらわず 知らせてつなぐ 命の輪」
が選ばれた。児童虐待の種類は児童虐待の防止等に関する法律第2
条で以下に掲げる4つの行為をいう。
1.身体的虐待 児童の身体に外傷が生じ,又は生じるおそれのあ
る暴行を加えること。
2.性 的 虐 待 児童にわいせつな行為をすること又は児童をして
わいせつな行為をさせること。
3.ネグレクト 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減
食又は長期間の放置,保護者以外の同居人による
同行為。
4.心理的虐待 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応,児童が同居する家庭における配偶
者に対する暴力,その他心理的外傷を与える言動を行うこと。
医療機関・医療機関関係者は同法律第5条第1項・2項で児童虐待を発見しやすい立場にあることに
より,児童虐待の早期発見に努め,関係機関と協力するよう努めなければならないとしている。又日本
医師会では Ai オートプシーイメージング(死亡時画像診断)の活用により兄弟例での虐待等を見逃さな
いよう死因究明に取り組んでいる。Ai とは CT や MRI 等の画像診断装置を用いて遺体を検査し,死因究
明等に役立てる検査方法である。児童虐待の防止等,社会的課題への対応にも有効な方策としてその実
施が求められている。虐待の画像診断では頭蓋内出血と骨折が主な対象である。平成 24 年度の0∼ 15
歳未満の死亡数は 4,181 名で約半数は先天奇形,悪性新生物である。「不慮の事故」のなかに相当数の虐
待が含まれている可能性がある。虐待確実例は年間平均約 45 名である。
平成 24 年度,宮城県(仙台市を除く)の児童虐待相談件数は 865 件,経路別では警察等が 40.4 %,以下
近隣・知人 13.5 %,学校,福祉事務所,家族親族と続き医療機関からの通告は 3.3 %である。相談種別で
は心理的虐待が最も多く 44.4 %,身体的虐待 33.4 %,ネグレクトとなっている。宮城県では子育て支援
課を事務局に「宮城県子ども虐待対策連絡協議会」を組織し総合的な調整・虐待に関する情報提供およ
び対策を検討している。各児童相談所を事務局に仙南地域,仙台地域,大崎・栗原地域,石巻・登米地
域,気仙沼地域にも設置している。又,県内 34 市町村すべてで児童相談所,警察・消防,学校・保育所,
保健所,民生委員,医師会等その他の関係機関による「要保護児童対策地域協議会」を設置している。
虐待通告を受けて児童相談所では 48 時間以内に目視し子どもの安全を確認する。次に同居者・家族と
面談し家庭に置くのが心配な場合は一時保護・分離措置を取る。虐待を認めない親が増えており,身体
的虐待をしている親はしばしば「しつけ」であると言う。民法 822 条の1は親権を有する者が指導,ケ
ア,教育の目的に限りしつける(懲戒する)権利を認めている。子育て上の体罰の使用が広範に容認さ
れている状況では身体的虐待は防げない。平成 24 年度の民法改正の前規定では,親権を行う者は必要な
範囲内でその子を懲戒することができるものとされていたが,懲戒権の行使について「子の利益のため」
でなくてはならないことが明文化された。「子どもに対する暴力防止キャンペーン・メンバー」(日本子
ども虐待防止学会・児童虐待防止全国ネットワーク他)は平成 25 年7月に厚労省・法務省に民法 822 条
の削除を要望している。
最後に,宮城県医師会や関連団体では虐待防止セミナーや「こどもの健康週間」で虐待を取り上げ,
講演会・シンポジウム等を通じて児童虐待問題に関する社会的喚起を図るとともに,児童虐待防止のた
めに広報・啓発活動を実施している。「子どもは未来」であり,虐待を見逃さない社会作りのためにさ
らに一層関連団体や組織との協力と連携が求められる。