授与機関名 順天堂大学 学位記番号 乙第 2301 号 失語症に対する低頻度反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)の効果と回復過程における基底核の 役割について (The Effect of Low-Frequency Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation (rTMS) on Aphasia and the Role of Basal Ganglia in the Recovery Process) 井上 雄吉(いのうえ ゆうきち) 博士(医学) 論文審査結果の要旨 本論文は、非流暢性失語症において、両側半球間の不均衡状態を是正する目的で、健 側 半 球 の 前 頭 葉 下 部 に 抑 制 性 の 低 頻 度 反 復 経 頭 蓋 磁 気 刺 激 (repetitive transcranial magnetic stimulation, rTMS)を施行して、その効果について検討した前向き研究論文で ある。対象は、左大脳半球に病変を有する慢性期脳血管障害 20 例(梗塞 12 例、出血 8 例で全例右利き)で、発症から rTMS 開始までが 68 日〜2793 日(中央値 191 日)であ った。rTMS は健側半球の Broca 野相同部位の Brodmann45 野(BA45)に、運動閾値 の 90%の刺激強度で、1Hz、900 発の刺激を、10 日間で計 10 セッション施行した。評 価は、40 個の絵の呼称、短縮版 Western Aphasia Battery(WAB)、標準失語症検査(SLTA) を使用して行い、キセノン CT(cold 法)(Xe-CT)により rTMS 前後の局所脳血流量 (rCBF)の変化も検討した。脳梗塞例において絵の呼称や SLTA で有意の改善を認め、そ の効果は少なくとも終了 4 週後まで持続した。脳出血例では、rTMS 前後で有意の変化 は認めなかった。また、Xe-CT では、梗塞例で rTMS 後に左基底核の rCBF の有意の増 加を認めた(P=0.039)。結論:健側半球 BA45 への抑制性の 1Hz 低頻度 rTMS は、慢性 期脳梗塞例(特に左基底核の非傷害例)の非流暢性失語症に対して有効と考えられた。 また、失語症の回復に左基底核の関与が示唆された。 以上、本論文は、健側半球への低頻度 rTMS 治療が失語症の有望な治療法の一つにな りうることを示しており、また失語症の回復過程における左基底核の重要な役割を rTMS を用いて初めて明らかにした臨床的に意義のある論文である。 よって、本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと判定した。
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