2016年9月17・18日に行われました日本線維筋痛症学会 第八回学術

当院の川口院長、及び杉田医師が学会にて発表致しました。
発表内容は下記をご参照ください。
会 議 名:日本線維筋痛症学会第 8 回学術集会
会議テーマ:線維筋痛症の真面目
会 期:2016 年 9 月 17 日 ( 土 ) ∼ 18 日 ( 日 )
うつ病治療に対する反復性経頭蓋磁気刺激療法と線維筋痛症に対する可能性
川口 佑 1)
、杉田 裕介 1)、中島 利博 2)
1)新宿ストレスクリニック、2)東京医科大学医学総合研究所運動器研究科学部門
経頭蓋磁気刺激 (transcranial magnetic stimulation: TMS) は 1985 年に Barker らが頭部を刺激し手の筋から誘発電位を記
録することに成功してから臨床応用されている。TMS は非侵襲的に大脳皮質を刺激する方法で、治療用としては連続的に
磁気刺激を行う反復磁気刺激 (repetitive transcranial magnetic stimulation; rTMS) が主に使用される。この rTMS と sham
刺激(プラセボ刺激)を対象とした二重盲検ランダム化試験によって抗うつ効果が示され、2008 年には rTMS がうつ病の
治療機器として米国食品医薬品局 (Food and Drug Administration: FDA) から認可されている。また最近のメタアナリシス
でも統計学的に優位な抗うつ作用が示されており、アメリカ精神医学会のガイドラインでは rTMS についても言及している。
しかし、まだ本邦では rTMS がうつ病の治療機器として認可されていない。
我々はうつ病患者 160 名に対して 30 回の標準的な rTMS プロトコール(10Hz, 3000pls, 左背外側前頭前野)で施行した
ところ、ハミルトンうつ病評価尺度が 17.9±5.9(治療前)から 6.8±5.1(治療後)と改善を認め、これらは男女差、年齢、
治療前後の重症度、治療スケジュール、内服薬によって改善率に差が出ないことがわかった。このことから日本人において
も rTMS は抗うつ作用を持つと思われた。
一方、本邦でも線維筋痛症診療ガイドライン (2013、日本線維筋痛症学会編 ) では rTMS はエビデンスレベルⅠ・推奨度 B
と位置付けられている。
当院のうつ病患者 149 名において広範囲疼痛指数 (Wide-spread Pain Index; WPI) と症候重症度 (Symptom Severity; SS)
が初診時 12 点以上の患者を調べると、30 回の rTMS の前後で平均 15.2 点から 10.0 点へ 34.5% の改善率を認めた。
また当院ではうつ症状の患者に光トポグラフィー検査を行っているが、線維筋痛症患者の光トポグラフィー検査でもうつ
病波形や双極性障害波形を示すことが経験的に多い。これが合併によるものか定かではないが、うつ病も含まれる中枢性過
敏症候群 (central sensitivity syndrome) の代表疾患である線維筋痛症もまた rTMS が有効であり、どのようなプロトコール
がより有効性が高いのかは今後の検討が必要である。
Key words: 反復経頭蓋磁気刺激、うつ病、線維筋痛症、光トポグラフィー検査
●線維筋痛症に対する反復性経頭蓋刺激療法の現状と臨床
杉田 裕介 1)
、南 和幸 1)、川口 佑 1)
1)新宿ストレスクリニック本院、
反復性経頭蓋磁気刺激療法(Repetitive Transcrainial magnetic stimulation; rTMS)は、磁気を媒体として、局所的かつ低
侵襲に大脳皮質を電気刺激する治療法である。うつ病をはじめとする精神疾患、神経変性疾患、脳血管障害、片頭痛、てん
かんなどへの治療応用が研究され、うつ病、脳梗塞後の麻痺、片頭痛などに対する実臨床での応用が既に行われている。近
年疼痛に対しても rTMS による治療が試みられている。1990 年に坪川、片山らにより一次運動野の硬膜外電極を用いた電
気刺激が脳卒中後の視床痛を改善させることが報告されて以降、世界的に電気刺激による慢性疼痛への治療応用が研究され
てきた。1995 年右田らにより一次運動野への rTMS により慢性疼痛患者の疼痛軽減が認められたことが初めて報告された。
その後、刺激頻度や刺激部位によって除痛効果に差があることが各国から相次いで報告された。2006 年に Sampson らによ
り線維筋痛症患者において右背外側前頭前野を 1Hz の低頻度刺激することで除痛効果が得られたとの報告を皮切りに線維
筋痛症に対する rTMS による治療応用が世界的に検証されてきた。わが国では線維筋痛症ガイドライン 2013 において、線
維筋痛症に対する rTMS はエビデンスレベルI、推奨度B(行うよう勧められる)と位置付けられている。これは、先行研
究の systematic review において、rTMS 研究の 8 割で有意に疼痛が軽減すると報告されたことに加え、安全性が高いこと
が根拠とされた。更に、疼痛軽減のみならず、抑うつ気分や全身倦怠感の改善による QOL の向上も期待できるとされている。
脳機能画像を用いた解析により下行性疼痛抑制系機能の賦活が効果発現に寄与していると推測され、最近では内因性オピオ
イドを介した除痛の可能性も指摘されている。当施設では、NeuroStar®(Neuronetics 社、米国)を用いた線維筋痛症治療
を行っており、最良の磁気刺激部位や治療回数、刺激強度や刺激頻度 (Hz 数 ) などの治療条件に関して検証を重ねている。
今回は線維筋痛症に対する rTMS の現況を概観し、当施設での診療の現状と課題を紹介する。今後 rTMS による疼痛軽減
や抑うつ症状の改善に関わる作用機序が解明されるとともに、より治療に適したプロトコールが開発され、非薬物療法の大
きな柱となることを期待する。
Key words:fibromyalgia, Repetitive Transcrainial magnetic stimulation, depression