荒神 と神木 生物多様性研究分科会 宇野 真一 1.はじめに 平 成 26 年 度 は 意 宇 川 流 域 の “ 荒 神 ・ 神 社 に あ る 御 神 木 ” を 見 て 廻 っ た 。 社 寺 林 や 御 神 木 は そ の 土 地 の 自 然 植 生 は も ち ろ ん 、歴 史・生 活・信 仰 と い がりを象 っ た 地 域 文 化 と も 密 接 に 関 わ っ て お り 、あ る 意 味 、人 と 自 然 と の 徴した存在ではないかという発想である。 調 査 を 始 め る 前 は 、限 ら れ た エ リ ア 内( 意 宇 川 流 域 )で も 立 地 条 件 や 主 祭 神などの指標によって傾向が見えてくるのではないかとの期待があったが、 現実には関連性が見いだせなかった。 2.意宇川流域の御神木 調 査 対 象 と 御 神 木 は 以 下 の と お り 。な お 、神 社 の 御 神 木 で は な く 境 内 に 合 祀されている荒神を対象としているものは「荒神」と表記している。 表 1 調査対象と神木一覧 調査対象 荒神 阿太加夜神社 荒神 タブノキ×② 松 江 市 東 出 雲 町 出 雲 郷 587 揖夜神社 荒神 エノキ・ネズミモチ・スダジイ・サワラ 松 江 市 東 出 雲 町 揖 屋 字 宮 山 2229 スダジイ 松 江 市 八 雲 町 西 岩 坂 946 磐坂神社 神木 住所 熊野大社 荒神 モチノキ・スダジイ・サワラ・カツラ 松 江 市 八 雲 町 熊 野 2451 志多備神社 荒神 スダジイ・カゴノキ 松江市八雲町西岩坂 六所神社 荒神 タブノキ・スギ・チシャノキ・スダジイ 松 江 市 大 草 町 496 スダジイ・イヌマキ・ケヤキ 松 江 市 山 代 町 字 伊 弉 諾 84 ナギ 松 江 市 古 志 原 町 73 スダジイ 松江市山代町 タブノキ 松 江 市 竹 矢 町 494 真名井神社 山代神社 山代町荒神 意宇の杜 荒神 桑並 Wikipedia に よ る と 、 荒 神 信 仰 は 屋 内 に 祀 ら れ る 「 三 宝 荒 神 」 と 屋 外 に 祀 ら れ る「 地 荒 神 」が あ り 、「 地 荒 神 」に は“ 山 の 神 ”“ 屋 敷 神 ”“ 氏 神 ”“ 村 落 神 ”の 性 格 も あ っ て 集 落 や 同 族 ご と に 樹 木 や 塚 の よ う な も の を 荒 神 と 呼 ん で いる場合もあるようで、今回の調査対象もこのケースに該当しそうである。 ま た 牛 頭 天 王 の ス サ ノ オ 信 仰 と の 習 合 も 見 ら れ る と の こ と だ が 、今 回 の 調 査からその可能性まで探ることは難しい。 -112- 「 荒 神 」の 御 神 木 に は 藁 蛇 や 幣 を 奉 納 し た も の が 多 い 。圧 倒 的 に 迫 力 が あ るのは阿太加夜神社を始め、いくつかを下に示す。 図 1 阿太加夜神社内の荒神 図 2 藁蛇の頭部 図 3 揖屋神社内の荒神 図 4 松江市山代町の荒神 図 5 志多備神社内の荒神 図 6 六所神社内の荒神 -113- 3. 他 地 域 の 荒 神 と 神 木 ( 山 陰 民 俗 叢 書 か ら ) 山 陰 民 俗 叢 書 6「 家 の 神・村 の 神 」( 平 成 10 年 発 行・山 陰 民 俗 学 会 編 集・(株 ) 島根日日新聞社発行)の中に「荒神」の神木を調査した論文があったので、 そのデータを示す。 表 2 出雲能義郡の荒神(井塚忠氏の論文から抜粋・改編) 地区 戸数 神木 奉納物 横手 14 樫 酒・小豆餅・白餅 後ヶ市 16 樫 米・酒・小豆飯 川原 35 榊 米・酒・小豆飯 平野・乙見 24 桧 酒・オゴク・米 本町 32 杉 米・酒・白餅 中曽根 36 ? ? 西ノ谷 33 榊・樫・杉 米・酒・白餅 根宇・川原 20 杉・樫 酒・白餅・米・オゴク 飯田 19 榊 赤飯・白餅 上り原 23 タライの木 小豆飯・白餅・酒 上金原 9 榊 小豆飯・白餅 下布部 29 杉 米・白餅 *オ ゴ ク ( 塩 気 の 無 い 小 豆 飯 ) *タ ラ イ の 木 ( モチノキ科 の タラヨウ? ) 表 3 能義郡荒島村の荒神(島田成矩氏の論文より抜粋・改編) 地区 戸数 神木 奉納物 荒島 382 松・楠 藁 蛇 ・ 幣 ・ シボ・ 酒 ・ 醴 川原 33 松・栗 藁蛇・幣・酒 上荒島 53 松・栗 幣・酒 論田 11 松 幣・醴 奥日白 23 松 ・ 榊 ・ ドングリ 藁蛇・幣 久白 42 椎 藁蛇・幣 西赤江 21 ナシ 幣・醴 山根 26 榊・桜・椎椿・高野槇 幣 ・ 醴 ・ シトギシボ 下日白 34 椿 藁蛇・幣 *シ ボ *シ ト ギ (「 粢 」 神 前 に 供 え る 餅 、 米 粉 を 清 水 で こ ね て 長 卵 形 と し た も の ) 先 ほ ど の 表 1 も 併 せ て 概 観 し て み る と 、各 エ リ ア で 御 神 木 と な る 木 の 樹 種 が 異 な っ て い る こ と が わ か る 。御 神 木 に 良 く 選 ば れ て い る 樹 種 は 各 エ リ ア と も2∼3 種類、いずれも他のエリアとは重複していない。 -114- ① ② 意宇川流域の神木 能義郡の神木 スダジイ 7 ヵ 所 、 タブノキ いずれかを含む 9/10 ヵ 所 ・ ・ ・ ・ 90% カシ 4 ヵ 所 、 スギ 4 ヵ 所 、 サカキ いずれかを含む ③ 荒島村の荒神 3 ケ所 マツ 5 ヵ 所 、 シイ類 いずれかを含む 4 ヵ所 9/11 ヵ 所 ・ ・ ・ ・ 82% 4 ヵ所 6/9 ヵ 所 ・ ・ ・ ・ 67% 4.さいごに 樹 種 の 違 い が 単 に 自 然 条 件 に よ る も の な の か 、あ る い は 文 化 的 要 素 も 加 味 さ れ た 結 果 な の か 今 回 の 調 査 か ら 結 論 は 導 き 出 せ な い が 、も う 少 し 御 神 木 の 分布?状況を知るには、もっと広域からの視点が必要である。 2 日間の調査で訪れた 8 ヵ所の神社はいずれも出雲国風土記に記載のある 社 で あ っ た 。 位 置 が 変 わ っ た も の も あ る が 1300 年 前 の 神 社 が 当 た り 前 に 現 存しそれを特別なことと日常感じることはない。 個 人 的 に は「 荒 神 」の 藁 蛇 と ヤ マ タ ノ オ ロ チ の 関 係 に も 興 味 が 湧 く が 、つ くづく(広義の)出雲というのは稀有な風土と思う。 図 7 意宇の杜 (今回最大の疑問 -115- 何故ここに?)
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