演習 2

東京大学経済学部 2009 年度 夏学期
ゲーム理論 神取道宏
7月2日
演習 2
・7 月 8 日(水)、正午までに経済学部教務係(経済学部棟 5 階)に提出すること。この〆切を過
ぎた場合は、赤門総合研究棟 4 階 428 研究室の前の回収箱に提出してください。遅れて提出したものは減
点されますのでご注意ください。
・解答は氏名・学生証番号を明記の上、A4版レポート用紙に書いて、ホッチキスで止めて下さい。
・解説は TA セッションで行います。日程と場所は経済学部掲示板でお知らせします。
・成績は演習(2回の予定)20% 、期末試験80%で評価します。
・演習は自分自身の頭を使って理解を深める良い機会です。がんばって自力で考えてみましょう。答案の
最初に、次の文章を記入し、署名してください。
この問題を解くに当たり、他人と相談せず、また他人に解答を教えることなく、
独力で考えたことを誓います。
この文章と署名のある答案のみを採点します。
1. 部分ゲームの定義を述べ、下の図のゲームのすべての部分ゲームを見つけてください。
(全体のゲームそれ自体も、一つの部分ゲームとします。)このゲームの部分ゲーム完全均
衡を求めてください(図の数字は、
(1の利得、2の利得、3の利得)です)。
2.2国間の関税政策が囚人のジレンマと同じ利得を持つという、演習1問3を思い出し
てください。いま、「関税ゲーム」の利得がつぎのような囚人のジレンマゲームになってい
たとします。
自由貿易
関税をかける
自由貿易
4, 4
5, 1
関税をかける
1, 5
2, 2
この表の行と列はそれぞれ A 国と B 国の政策を表し、各らんの最初の数字は A 国の利得を、
2番目の数字は B 国の利得を表します。各国はこのゲームを無限期間 t = 0, 1, 2, … くり
かえしプレイし、将来の利得は割引因子  (0 <  < 1) で割り引くとします。このくり返しゲ
ームにおける、トリガー戦略とは何かを説明し、トリガー戦略で自由貿易を維持するには、
割引因子がどのような値をとらなければならないかを説明しなさい。
3. 定員が5人のゼミが8つあり、45人の学生が同時に、(各人が一つの)ゼミに応募
する。各ゼミの教員は、45人の学生に対して、望ましい順にランクをつけている。(たと
えば、A 君が1位、B さんが2位、…など。同点はないとします)。教員は、自分のところ
に応募してきた学生のうち、ランクが高い者を定員まで受け入れる。受け入れられなかっ
た学生はどこのゼミにも所属できない。(2次募集などはありません。
)
各学生も、どのゼミに入りたいかのランクを持っています(M 島ゼミ1位、K 取ゼミ2
位…など。同点はないとします)。また、学生は「ゼミなし」よりも、どこかのゼミに所属
したいと思っているとします。教員も同様に、定員に余裕があるのに学生を落とすことは
ないとします。
教員・学生のランク付けは自分しか知らない私的情報であり、これらのランク付けは完
全にランダム(つまり、どんなランク付けも等確率で生じるとします)で独立にきまって
いるとします。
(1)不完備情報ゲームとは何かを説明し、このゼミ応募ゲームが不完備情報ゲームであ
ることを説明しなさい。
(2)このゼミ応募ゲームの、ベイジアン・ナッシュ均衡を一つ求めてください。
(ヒント:
めちゃくちゃに計算が難しそうですが、じつは簡単な均衡があります。)
***発展問題***
問4か問5のどちらかをやってください。
4.(応用発展問題) 音楽がただでウェブからダウンロードできる可能性がある現状では、ミュー
ジシャンを保護する必要があるという議論があります。このことをゲーム理論で考えて見ま
しょう。
1 曲あたりの利潤が r である場合、ミュージシャンが n 曲作曲したときの利得は
nr –
n2
であるとします。ここで、 n2 は n 曲を作曲するコストを表します。作曲数 n は、本来は
n=0,1,2,…という整数の値をとりますが、ここでは計算を簡単にするために n は連続な値を
とると考えてください(n[0,))
。つくられたそれぞれの曲に対する需要曲線は
P = 2 – Q であり、曲はインターネットで(ほとんどコストをかけずに)配信できるので、
供給のコストはゼロであると考えましょう。
政府がネット上での音楽送配信を規制しないと、曲のコピーがただでネット上に出回っ
て、ミュージシャンの利潤はゼロになると考えます。そこで、政府が規制をかけて、ダウ
ンロード 1 回当たり t 円の料金を徴収してこれをミュージシャンに渡すと、(作曲されたそ
れぞれの曲について)、ミュージシャンの利潤(r)は図の A、消費者の利益(消費者余剰)
は図の B となります。
P
需要曲線 P = 2 ‐ Q
B
t
A
Q
政府の目的は、ミュージシャンと消費者を含めた社会全体の利益
W = n(A+B) –
n2
を最大化することです。
(1)ミュージシャンがまず作曲し、次に政府が、ミュージシャンが何曲作曲したかを見
た上でダウンロード料金 t を決めるゲームでの、部分ゲーム完全均衡を求めなさい。
(2)社会全体の利益を最大化するには、政府はあらかじめ(事後的には最適でない)料金 t*
にコミットすることが必要となります。まず、政府があらかじめある料金 t を将来課すことに
コミットしたとき、ミュージシャンが何曲作曲するかを計算してください。これをもとに
して、政府があらかじめある料金 t を将来課すことにコミットしたときに得られる、社会全
体の利益 W(t)を計算し、そのグラフの概形を描きなさい。この図の中で、政府がコミット
すべき最適な料金 t*を示しなさい。最後に、t*を計算してください(グラフの概形を描くと
。
ころと t*の計算は、高校数学の練習問題ふうになります)
(3)現実には、政府がネット上のダウンロードを全部監視して料金 t を徴収することは不
可能でしょう。では、社会全体の利益を最大化するために取ることができる、現実的な政
策はなんでしょうか?自由に考えを書いてください。
5. (応用・数理発展問題) **省の原宿にある官舎が国民の批判を受けて廃止となり、跡
地が売却されることになりました。売却方式として、次の 3 つを考えます。
①最高価格封印入札:全員が入札額を紙に書いて同時に提出し、最も高い入札額を出した
者がその入札額を支払って土地を手に入れる。同点の場合は等確率で勝者を決める。
②VCG オークション:全員が入札額を紙に書いて同時に提出し、最も高い入札額を出した
者が 2 番目に高い入札額を支払って土地を手に入れる。同点の場合の取り扱い:例えば、
最高の入札額 1 億円を出したものが複数いた場合、等確率で勝者を決め、勝者は 1 億円で
土地を手に入れる。(参考:1 つのものを売却する VCG オークションは、
「セカンドプライス・
オークション」と呼ばれることもあります。)
③上げせり:オークショニアが価格を(1 円刻みで)徐々にせり上げてゆく。入札者は、オ
ークショニアが叫んでいる価格で土地を買いたかったら手を上げる。そうでなければ手を
下げる。一度手を下げたら再び手を上げることはできない。最後に一人残った者が、その
ときの価格で土地を手に入れる。同点の場合の取り扱い:たとえば 1 億円で 4 人が手を上
げていて、1 億 1 円で全員が手を下ろした場合、1 億円で手を上げていた 4 人のうち一人を
ランダムに(等確率で)選んで、その人に土地を 1 億円で売却する。
いま、不動産業者 i=1,2,…,10 人がオークションに参加し、彼らの土地に対する評価額は
すべて10億円であるとします。また、不動産業者たちはお互いの評価額を良く知ってい
るとします。
(1)最高価格封印入札、VCG オークションで、各人が 10億円を入札するのがナッシュ
均衡になることを説明しなさい。また、せり上げでは、各人が 10億までは手をあげ、10
億 1 円で手を下げるのが、部分ゲーム完全均衡になることを説明しなさい。
(2)最高価格封印入札に比べ、VCG オークションや上げぜりでは「談合がおこりやすい」とい
われることがあります。
(1)でみた均衡のほかに、VCG オークションで売却金額が異常に
安くなるようなナッシュ均衡がないでしょうか?
また、上げぜりでは、(1)でみた均衡
のほかに、売却金額が異常に安くなる部分ゲーム完全均衡がないでしょうか?
最後に、
最高価格封印入札での純粋戦略ナッシュ均衡をすべて求め、最高価格封印入札では売却価
格が異常に低くなる均衡がないことを示しなさい。