N 病院における心肺蘇生処置中の 家族の立会い

l/MedicalJournal 2015年/1本文:総説・原著・症例・臨床経験 26臨床:服部 裕子 P122 2015年 3月20日 13時 7分41秒 152
臨床経験
N 病院における心肺蘇生処置中の
家族の立会いに関する医療従事者の意識と課題
服部
裕子
藤本
華織
徳島赤十字病院
要
松!
和代
看護部
旨
N 病院救急外来の CPA 患者搬送件数は,年間約1
4
0件であるが,心肺蘇生処置中の家族の立会い(Family-Witnessed
Resuscitation 以下 FWR とする)は,ケースバイケースで実施されている.本研究の目的は,N 病院の FWR の現状を
把握するとともに,救急外来で FWR に関わる医療従事者の意識を明らかにし,今後の FWR における家族ケアのあり
かたを検討することである.
調査の結果,FWR は約6割実施されており,FWR を行う必要条件としては「重要他者の希望」
「対応できるスタッ
フ」などが多く,重要他者の気持ちを優先しサポートするスタッフの必要性が明らかになった.FWR の利点は,家族
の死の受容や蘇生処置の理解につながる点であった.また欠点は,患者家族の悲しみが増し,スタッフの負担が増す等
があげられた.FWR の賛否については,賛成が約6割であった.今後,家族の希望が尊重され,家族が FWR を選択
できるよう,
「マニュアル作成」
「FWR のサポート体制」の必要性が示唆された.
キーワード:心肺蘇生処置,救急外来,家族の立会い
研究目的
はじめに
救急外来に搬送された生命の危機状態にある患者の
N 病院の救急外来における心肺蘇生中の家族の立会
ほとんどが突然の発症によるものであり,その家族は
いに関する現状と,医療従事者の家族の立会いに対す
待合室で何もわからないまま極度の緊張状態で待たさ
る意識を明らかにし,N 病院におけるマニュアル作成
れていることが少なくない.N 病院の心肺停止患者搬
にむけての基礎資料とする.
送件数は年間約1
40件であるが,救急外来での家族の
研究方法
立会いはケースバイケースで実施されている.
1)
浅香 は救急初療において家族に立会いの選択肢を
提供することは,患者の家族に対する何らかの看護介
入の機会を見出す好機ととらえることができると述べ
2)
1.対象:N 病院の救急外来で心肺蘇生処置に携わる
医師92名,看護師82名,救急救命士24名
ている.しかし,田戸 らの先行研究では,どの施設
2.期間:2013年9月∼11月
にも家族の立会いに関する取り決めやガイドラインは
3.場所:N 病院
なく,家族が立会う習慣がないと報告されている.
4.データ収集方法:山勢3)らが作成した質問紙を承
救急外来
そこで,N 病院における心肺蘇生中の家族の立会い
諾を得て引用し,FWR の現状と意識についての
(Family-Witnessed Resuscitation 以下 FWR とする)
質問紙を作成した.質問紙を対象者に配布し,救
の現状と,医療従事者の家族の立会いに対する意識と
急外来に質問紙回収箱を設置し無記名で投函して
家族の立会いを行う上での課題を明らかにし,N 病院
もらった.
におけるマニュアル作成にむけての基礎資料とするた
質 問 内 容 は,1)
属 性 2)
FWR の 現 状:FWR の
めに調査を行った.
実際,状況別の実際,FWR の意向の確認者と決
定者,FWR の条件 3)FWR に関する医療従事
122
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
する医療従事者の意識と課題
Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal
l/MedicalJournal 2015年/1本文:総説・原著・症例・臨床経験 26臨床:服部 裕子 P122 2015年 3月20日 13時 7分41秒 153
者の意識:FWR の利点と欠点,自身が患者また
回答者の平均年齢は医師34歳(SD±8.
8),看護師
は家族の立場になった時の FWR の希望,4)FWR
40歳(SD±9.
1),救命士39歳(SD±6.
9)であり,全
の賛否と課題
回答者の平均年齢は3
8歳(SD±9.
1)であった.性別
とした.
5.分析方法:SPSS(ver2
1)を用い,単純集計及び
は,男性53名(4
1%)
,女性76名(59%)で あ っ た.
χ 検定により分析した.自由記載については内容
資格取得後の経験年数は,1年未満6名(4.
7%),1∼
分析し KJ 法にてカテゴリー化した.
3年8名(6.
2%),4∼6年1
5名(1
1.
6%),7∼9
2
年21名(16.
3%)
,10年以上79名(61.
2%)であった.
6.用語の定義
「心肺蘇生処置」
:一次救命処置を含む,生命を
救急領域での経験年数は,1年未満16名(12.
4%),
救うために実施される医療処置
1∼3年33名(25.
6%),4∼6年20名(15.
5%)
,7∼
「立会い」
:心肺蘇生処置が実施される患者の様
9年18名(14%)
,10年以上42名(32.
6%)であった.
子をある程度の時間をかけて見守ること
2.FWR の現状
倫理的配慮
1)FWR が「少しでも行われている」と答えた者は
81名(6
2.
8%)であり「一切行われていない」は
本研究は,徳島赤十字病院倫理委員会医療審議部会
24名(1
8.
6%)
,「わからない」は24名(18.
6%)
の承認を得て行った.対象者には,研究の趣旨,研究
であった.職種間の比較では,
「一切行われてい
参加・中断の自由性,プライバシー保護,個人情報保
ない」と答えた医師は7名(16.
6%)看護師は15
護,結果の公表について書面と口頭で説明した.質問
名(23.
8%)
,救命士は2名(8.
3%)であった.
紙は無記名とし,質問紙の返信をもって同意とした.
また,「少しでも行われている」と答えた医師は
28名(66.
7%)
,看護師は32名(50.
8%),救命士
結
果
21名(87.
5%)であり,職種間で有意差がみられ
た(図2).
1.基本属性(図1)
本調査の回答者は1
29名で(回収率7
1%有効回答率
92%),内訳は医師42名(回収率51%,有効回答率89%),
重要他者の立会いの現状
看護師6
3名(回収率8
5%,有効回答率90%)
,救命士
①一切行われていない
2
4名(回収率,有効回答率1
00%)であった.
全体
24(18%)
②少しでも行われている
③わからない
81(63%)
24(18%)
基本属性
医師
男性
53名41%
看護師
63名49%
女性
76名59%
7(17%)
28(66%)
7(17%)
医師
42名32%
看護師
15(24%)
32(51%)
p=0.032
16(25%)
救急救命士
24名19%
性別 (n=129)
資格別回答者 (n=129)
①1年未満 ②1-3年
8名6%
6名5%
①1年未満
16名12%
③4-6年
15名12%
⑤10年以上
79名61%
⑤10年以上
42名33%
④7-9年
21名16%
④7-9年
18名14%
救命士
2(8%)
21(88%)
1(4%)
図2
②1-3年
33名26%
③4-6年
20名15%
職暦(ライセンス取得後)
(n=129) 救急領域での経験年数(n=129)
2)FWR が「一切行われていない」と回答した2
4名
は,その理由として,
「重要他者に精神的負担を
図1
かける」14名(5
8.
3%)
,「立会いの規定や習慣が
VOL.2
0 NO.1 MARCH 2
0
1
5
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
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する医療従事者の意識と課題
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ない」1
3名(5
4.
2%)
,
「対応するスタッフがいな
決定する」61名(75.
3%)
「決定することはない」
い」
10名(4
1.
7%)の順に多くあげられた(図3).
13名(1
6.
0%)「その他」12名(14.
8%)「看護師
が決定する」4名(4.
9%)であった(図5).
立会いが行われていない理由
(重複回答あり)
医師
救命士
看護師
立会いの意向は誰が確認しているか(重複回答あり)
①医師
患者本人のプライバシーを確保する
合計
重要他者に対応するスタッフがいない
2
1
1
重要他者に精神的負担をかける
14
救命士
7
1
0
4
23
22
3
6
5
1
13
6
3
処置の妨げになる
2
2
3
立会いの規定や習慣がない
17
22
看護師
8
2
4
重要他者が入るスペースがない 0
29
47
医師
医療者に心理的圧迫感を与える
④その他
③確認することはない
8
1
1
②看護師
1
1
1
9
0
4
立会いの決定は誰がしているか
(重複回答あり)
①医師
②看護師
③決定することはない
61
4
合計
図3
医師
救命士
13
12
29
看護師
3)FWR が行われている場面については,「救命の
④その他
2 10
27
0
5
2
7
0
12
5
可能性が低い場合」4
4名(5
4.
3%)
,「患者が小児
図5
の場合」4
3名(5
3.
1%)
「急性心筋梗塞や脳卒中
の外傷によらない疾患の場合」23名(2
8.
4%)の
5)FWR を行う必要条件については,
「重要他者の希
順で多かった(図4)
.
望」
104名(80.
6%),
「対応できるスタッフがいる」
89名(69.
0%)
,
「医師の判断(許可)がある」75名
立会いが行われている場面 n=81
①全く行っていない
⑤いつも行っている
④だいたい行っている
患者が小児の場合
4 5
29
16
医療スタッフが様々な処置に
追われて忙しい場合
12
22
24
救命の可能性が高い場合
救命の可能性が低い場合
急性心筋梗塞や脳卒中等の
外傷によらない疾患の場合
6
3
22
16
13
7
(58.
1%)
であった.職種別にみると,医師は「対
③どちらともいえない
②あまり行っていない
12
16
23
22
択し,看護師は「重要他者の希望」57名(90.
5%),
11
21
21
13
応できるスタッフがいる」を30名(71.
4%)が選
27
救命士も「重要他者の希望」
1
9名(79.
2%)が FWR
を行う必要条件として一番にあげた(図6,7).
21
23
16
立会いを行うための条件(複数回答)
あり
重要他者の希望
全身熱傷の場合
17
8
27
16
13
104
対応できるスタッフがいる
89
医師の判断 (許可)がある
外傷でかなりの出血や
開放骨折を伴う場合
15
15
19
18
14
図4
75
重要他者が落ち着いている
64
プライバシーが確保できる
59
立ち会いに十分な説明がある
58
重要他者が成人である
53
処置や検査がひと段落する
50
医師の病状説明が行われている
4)FWR をするか否の意向を確認している8
1名の者
のうち,
「医師が確認する」47名(5
8.
0%)
「看護
師が確認する」2
9名(3
5.
8%)「確認することは
48
患者の外観が整っている
37
救急処置室がお落ち着いている
25
治療方針が決定している
25
看護師の判断(許可)がある
19
その他
1
0
20
40
60
80
100
120
ない」1
7名(2
0.
9%)
「その他」14名(1
7.
2%)で
あった.FWR を決定する者においては「医師が
124
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
する医療従事者の意識と課題
図6
Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal
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が患者の死を受け入れることが で き る」109名
立会いを行うための 条件(重複回答あり)
医師
看護師
(84.
5%)
,「重要他者が患者と最後まで一緒にい
救命士
重要他者の希望
28
57
対 応 できるスタッフが いる
30
51
27
医 師 の 判 断 ( 許 可 )が あ る
重 要 他 者 が 落ち 着い て い る
17
プライバシーが確保できる
15
6
治 療 方 針 が 決 定している
看 護 師 の 判 断( 許 可 )が あ る
多かった.一方,少なかった項目は,
「不平/訴
12
29
訟が起こらない」31名(2
4.
0%),「重要他者に心
1
26
10
患 者 の 外 観 が 整っている
救 急 処 置 室 が 落ち 着いている
8
25
16
もらえる」107名(83.
0%)の3項目が利点として
11
31
20
医 師 の 病 状 説 明 が 行 わ れている
力を尽くして治療に当たっていることを理解して
8
14
33
16
重 要 他 者 が 成 人である
処 置 や 検 査 が ひと段 落する
ることができる」107名(8
3.
0%),
「医療者が全
8
40
33
19
立ち会いに十分な説明がある
19
6
24
理的安寧がもたらされる」
43名(33.
3%),
「必要以
3
18
1
8
15
2
9
6 4
上の救命蘇生処置を行わなくなる」48名(37.
2%)
であった.
そ の 他 01
「重要他者が患者の死を受け入れることができ
図7
る」
(p=0.
043)と「患者の支えとなっていると感
じる」
(p=0.
003)の項目については,
「そう思わ
ない」と答えた医師が35%以上いた.一方,救命
3.FWR に関する医療従事者の意識
士は「ややそう思う」
「全くそう思う」と答えた
1)FWR を行う場合の利点については,「重要他者
者が多く,職種間で有意な差があった(図8).
「立会い」の利点
①全くそう思わない
②あまりそう思わない
11
全体 11 11
99
重要他者が 看護師 0 3
最期まで一緒に
いることができる 救命士 1
重要他者が
患者の死を
受け入れる
ことができる
重要他者が
患者の支えに
なっていると
感じることが
できる
看護師
1
42
41
3
11
17
6
13
13
27
88
14
37
30
4
看護師 02
10
救命士 0
5
11
13
17
5
14
22
救命士
1
全体
3
全体 0
32
必要以上
の救命蘇生処
置を行わなく
なる
19
6
重要他者が
0 7
やるべきことを 看護師
やったという 救命士 0 2
思いを持てる
5
医師 0
55
21
3
7
5
36
49
34
0
8
17
12
P=0.003
5
6
8
3
7
22
24
2
全体 0 10
25
看護師 0 5
13
救命士 0 2
看護師 02
64
30
19
26
14
3
5
24
9
15
6
66
8
43
34
救命士 0
19
11
13
7
21
11
全体
6
看護師
3
救命士 0
31
42
35
21
13
5
13
10
9
8
3
15
16
13
2
3
10
全体
4
35
看護師
1
16
救命士 0
7
59
25
6
25
24
11
9
8
21
13
21
33
13
17
医師 0 3
37
8
16
19
28
15
6
5
⑤全くそう思う
42
65
31
9
救命士 0
④ややそう思う
3
7
59
4
37
19
12
看護師 0
医師
医師 0 4
③どちらでもない
1 1 1
医師
全体 05
医療者が
全力を尽くして
治療にあたって
いることを理解
してもらえる
19
22
2
全体 0 11
33
42
21
1
1 2 30
15
医師 0 3
P=0.043
11
12
9
処置内容,
医療者の様子
を重要他者に
見てもらえる
24
24
14
全体 1
全体
看護師 0 5
医師
52
13
2
②あまりそう思わない
16
27
9
重要他者に
心理的安寧
がもたらされる
15
9
0
23
重要他者が
0
患者の命が 看護師
助かったと感じ 救命士 0
ることができる
医師
15
67
救命士 0 2
医師
重要他者が
状況を理解
できる
19
4
医師 0 3
3
11
3
1
全体
重要他者が
医療者から支
援されていると
いう思いを持つ
ことができる
26
9
10
看護師 0 3
救命士
0
5
全体 1 9
52
52
28
3
①全くそう思わない
⑤全くそう思う
④ややそう思う
56
56
6
医師 0
③どちらでもない
不平/訴訟
が起こらない
11
8
20
医師 3
6
31
10
12
18
12
5
3
2
8
1
図8
VOL.2
0 NO.1 MARCH 2
0
1
5
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
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する医療従事者の意識と課題
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2)FWR を行う場合の欠点については,「患者の死
の瞬間を見るので悲しみが増す」107名(83.
0%),
「対応するスタッフを増やさなければならない」
1
05名(8
1.
4%)
,
「救急蘇生処置以外の対応や作
「立会い」の欠点
①全くそう思わない
業が増える」8
7名(6
7.
4%)の3項目が FWR の
欠点として多かった.一方,少なかった項目は,
「必要以上の蘇生処置をすることになる」29名
(2
2.
5%)
,
「患者の死を受け入れることができな
くなる」
36名(2
7.
9%)
,
「重要他者が精神的ショッ
クを受ける」5
4名(4
1.
9%)であった.
「重要他者が精神的ショックを受ける」の項目に
重要他者が
患者の死の
瞬間を見る
ので悲しみが
増す
重要他者が
患者の死を
受け入れる
ことができな
くなる
ついては,
「あまりそう思わない」と答えた者で
全体 1 11
3
医師 0
看護師
26
11
19
3
15
55
32
13
1
30
19
1
救命士
4
6
9
24
43
8
6
医師 0 3
2 0
4
25
8
6
24
17
医師
⑤全くそう思う
52
9
6
重要他者が
看護師
精神的ショック
救命士 0
を受ける
あった(p=0.
004)
.また,
「医療従事者に緊 張
56
0
5
全体
④ややそう思う
28
6
1
救命士
③どちらでもない
9
看護師 0 3
全体
は,医師3名(7.
1%)
,看護師1名(1.
6%)
,救
命士6名(2
5.
0%)であり,職種間で有意な差が
②あまりそう思わない
49
34
12
7
11
5
4 0
5
8
1
0
30
P=0.004
4
感や不安を与えてしまう」については,
「ややそ
全体 0 7
う思う」
「そう思う」と答えた者のうち,医師3
2
名(7
6.
2%)
,看護師4
2名(66.
7%)
,救命士9名
重要他者の
ストレスになる
(3
7.
5%)であり有意な差があった(p=0.
033).
37
看護師 0 3
救命士 0
4
81
44
15
1
9
3
医師 01
1
11
26
13
2
「必要以上の蘇生処置をすることになる」の項目
についても,
「ややそう思う」
「そう思う」と答えた
者のうち医師10名(23.
8%),看護師17名(27.
0%),
救急蘇生の
妨げになる
救命士2名(8.
4%)であり,職種間で有意な差
全体
5
看護師
3
救命士
26
42
52
15
16
2
5
1
21
9
12
3
2
14
医師 0
4
26
0
があった(p=0.
0
05)
(図9).
3)医療従事者である自身が患者の立場になった時の
FWRの希望については,
「希望する」35名(27.
1%)
,
医療者に
緊張や不安を
与えてしまう
「希望しない」4
0名(3
1.
0%)
,「状況による」54
全体
2
25
19
看護師
1
12
8
救命士
1
72
6
医師 0
7
11
32
10
8
8
3
1
32
P=0.033
0
名(4
1.
9%)であった.家族や大切な人に救急蘇
生処置が必要となった場合の FWR の希望につい
ては,
「希望する」7
0名(5
4.
3%)
,
「希望しない」
17名(1
3.
2%)
,
「状況による」42名(3
2.
6%)で
全体 1 9
14
72
対応する
看護師 0 3 6
スタッフを増や
さなければな
救命士 1 2
らない
医師 0 4
33
35
19
6
10
2
5
27
9
あり,職種間で有意差はなかった(図10).
全体 1
4.FWR の賛否と課題
患者の救
急蘇生処置
以外の対応や
作業が増える
1)FWR の賛否については,
「賛成する」
「だいたい
4
2名(3
2.
6%)であり,職種間の有意差はなかっ
た(図1
1)
.
2)FWR の課題については,自由記載から4
0のコー
救命士
必要以上
の救急蘇生
処置をするこ
とになる
1
5
3
2
24
37
11
7
7
7
4
19
9
28
35
60
全体
医師 0
63
7
5
7
看護師
救命士
21
8
医師 0
賛成する」7
5名(58.
1%)
「あまり賛成しない」
「賛
成しない」1
2名(9.
3%)
「どちらとも言えない」
20
看護師 0
17
21
22
27
5
0
1 1
9
11
1
10
P=0.005
0
図9
ドが抽出され1
4のサブカテゴリーと4カテゴリー
に分類できた(表1)
.
126
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
する医療従事者の意識と課題
Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal
l/MedicalJournal 2015年/1本文:総説・原著・症例・臨床経験 26臨床:服部 裕子 P122 2015年 3月20日 13時 7分41秒 157
表1
あなた自身が救急蘇生処置が必要な
患者となった時,立会いを希望しますか n=129
①希望する
②希望しない
35
全体
40
15
看護師
③状況による
20
家族の希望を尊重
付き添う人員不足
人員の確保
6
14
家族の意向をくみ上げる
家族の理解
28
6
8
医師
家族の声を聞く
54
12
救命士
FWR の課題
医療者のストレス
説明するスタッフの確保
20
スタッフ間の連携
あなたの家族や大切な人が救急蘇生処置が
必要となった場合,立会いを希望しますか n=129
①希望する
②希望しない
マニュアル・体制作り
③状況による
環境整備
立会う時間と回数
最善の救命処置の提供
全体
70
看護師
33
1
医師
家族ケアの提供
9
9
23
家族ストレス
23
7
14
救命士
42
17
10
精神的サポート
プライバシーの確保
学習会
図1
0
「救急蘇生処置」
における重要他者の立会いに賛成しますか
①賛成する
②だいたい賛成する
③どちらともいえない
⑤賛成しない
④あまり賛成しない
ているものと推測される.
FWR の意向を確認したり決定する者については,
医師がその役割を担っている現状が明らかになった.
全体
(n=129)
28(22%)
47(36%)
42(33%)
9(7%) 3(2%)
一方,FWR が行われていない理由として,「重要他
者に精神的負担をかける」
「立会いの規定や習慣がな
医師
(n=42)
13(31%)
8(19%)
14(33%)
5(12%) 2(5%)
い」「対応できるスタッフがいない」があげられた.
そして,FWR を行う必要条件では「重要他者の希望」
看護師
(n=63)
「対応できるスタッフ」があげられた.これらの結果
11(17%)
27(43%)
23(37%)
2(3%) 0
から,心肺蘇生処置においては医師の判断が欠かせな
いこと,そして重要他者の気持ちを優先することやサ
救命士
(n=24)
9(38%)
7(29%)
5(17%)
2(8%) 1(4%)
ポート役のスタッフが必要であることがわかった.黒
川4)は「救急領域では,遺族は死別の準備期間がほと
図1
1
んどなく,看取りに費やす時間さえないまま大切な人
の死に直面することになる」と述べており,何よりも
救命処置が優先される救急外来こそ,家族も患者と同
等の立場であることを念頭に入れ,ケアの対象者とな
考
察
るべきであると考える.今後,FWR に関する具体的
な取り決めやマニュアルについても検討する必要があ
FWR の現状については,行われていると答えた者
ると思われる.
が約6割であり,中でも救命士は約8割と高かった.
FWR における利点については,「患者の死を受け
このことは,救急車においては家族の同乗のもと,
入れることができる」
「医療従事者が全力を尽くして
FWR を実施しているケースが多いためであると考え
治療に当たっていることを理解してもらえる」を利点
る.また,FWR が行われている場面では「救命の可
としてとらえている.このことは,家族と医療従事者
能性が低い場合」
「小児の場合」が約5割と多いこと
の両者にとって利点であるといえる.職種間の比較で
から,最後の時間の共有が必要とされる家族への配慮
は,
「患者の支えとなっていると感じることができる」
や,重要他者の現状認識へとつながるために実施され
「重要他者に心理的安寧がもたらされる」の項目で,
VOL.2
0 NO.1 MARCH 2
0
1
5
N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
127
する医療従事者の意識と課題
l/MedicalJournal 2015年/1本文:総説・原著・症例・臨床経験 26臨床:服部 裕子 P122 2015年 3月20日 13時 7分41秒 158
「ややそう思う」
「全くそう思う」と答えた救命士が
結
多かったことは,救命士がプレホスピタルの時点から
論
患者・家族に近く,多くのことを共有していることが
1.FWR は約6割が実施されており,FWR が行わ
伺える.
FWR の欠点では「患者の死の瞬間を見るので悲し
みが増す」
「対応するスタッフを増やさなければなら
れている場面は「救命の可能性が低い場合」
「小
児の場合」である.
ない」「救急蘇生処置以外の対応や作業が増える」が
2.FWR は主に医師の判断・許可で行われており,
あげられたことから,医療従事者は家族の心情を思い
家族に選択肢を提示したうえで,家族の希望が優
ながら FWR を行う現状は,人員不足や体制不備のジ
先されるのが望ましいと8割が回答した.
レンマの中で救命処置を行っている.また,職種間の
3.FWR を行う条件としては,「重要他者の希望」
比較の「精神的ショックを受ける」
「医療従事者に緊
が一番多く,次いで「対応できるスタッフ」
「医
張や不安を与えてしまう」の項目が,医師・看護師は
師の判断が必要である」の回答が多かった.
高く救命士は低かった.このことから FWR は,医
4.FWR の利点は,「家族が患者の最後に立会うこ
師・看護師が実施する救命処置の緊張した空間や時間
とで死の受容につながること」
「蘇生処置への理
を共有するには,家族にとっては大きなストレスであ
解が得られること」であった.欠点は,
「家族の
り,そのためにはサポート人員が必要であることが示
悲しみが増すこと」「スタッフの負担が増すこ
唆された.医療従事者自身が患者になった場合は約3
と」であった.
割が FWR を希望し,重要他者になった場合は約5割
5.FWR マニュアル作成と人員確保を行うことでよ
が FWR を希望しており,
「状況により希望する」が
り良い家族ケアの提供につながると考える.
4割∼3割であることは,家族の立場として FWR に
おわりに
理解を示しながらも決断しにくい問題であることがわ
かった.これらのことから,FWR を行うかどうかに
ついては,家族に選択肢を提示することが重要であ
看取りの瞬間は,家族をはじめとする大切な人に囲
り,看護師の医師への働きかけも必要であると考え
まれていることが通常である.今後,救急外来におい
る.
ても家族のニーズに合った看取りができるよう,課題
FWR に対する賛否では,全体では約7割が賛成す
を検討することで少しでも改善していきたいと考え
ると答えていたが,医師が5割にとどまっていた.医
る.今回の調査に協力して頂いた皆様に感謝いたしま
療現場では常に医師が責任を持つことが多く,特に心
す.
肺蘇生処置時では指示をしながらの医療行為が大半を
文
占めることなどが影響していると思われる.
献
2)
今後の FWR における課題については,田戸 らの
研究とほぼ同様のカテゴリーを見出すことができた.
1)浅香えみ子:ガイドライン2005は蘇生中の家族の
「個々の医療従事者の意識向上とともに,施設の条件
立ち会いに肯定的か?.Nursing Today 20
06;
整備やガイドライン作成等が必要である」と述べてい
21:5
1
るように,
「家族の希望を尊重」することを優先しな
2)田戸朝美,山勢博彰,藤野成美,他:心肺蘇生処
がら,FWR を選択できる機会を作ることが必要であ
置中の家族の立ち会い(Family-Witnessed Resus-
る.さらに,環境整備をはじめとする「マニュアル作
citation ; FWR)に関する現状と医療従事者の意
成・体制作り」が急務である.また「人員の確保」と
識調査(予備調査).日救急看会誌 2010;12:
「家族ケアの提供」の必要性が示唆されたが,医療
9−22
チームとして臨床心理士などの介入も視野に入れたサ
ポートを行う必要がある.
3)山勢博彰,立野淳子,田代明子,他:心肺蘇生処
置中の家族の立ち会いに関する現状および医療従
事者の意識と家族の思い.
「財団法人救急振興財
団助成研究(平成19年4月1日∼平成20年3月31
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N 病院における心肺蘇生処置中の家族の立会いに関
する医療従事者の意識と課題
Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal
l/MedicalJournal 2015年/1本文:総説・原著・症例・臨床経験 26臨床:服部 裕子 P122 2015年 3月20日 13時 7分41秒 159
日)研究報告書」
,東京:救急振興財団 2008
EMERGENCY CARE 201
1;24:116−121
4)黒川雅代子:大切な人を亡くした遺族の悲嘆.
An investigation of the current situation and perspectives of medical workers
regarding family-witnessed cardiopulmonary resuscitation in N hospital
Yuko HATTORI, Kaori FUJIMOTO, Kazuyo MATSUZAKI
Department of Nursing, Tokushima Red Cross Hospital
The number of patients with Cardiac Respiratory Arrest (CPA) that are brought in by ambulances in N
hospital is approximately 1
4
0 per year. However, all the patients’ family members do not witness the resuscitation. The number of Family-Witnessed Resuscitation(FWR)is very scarce. The purpose of this study is to investigate the current situation of FWR in N hospital and to investigate the opinions of medical staff regarding
FWR, so that these results can inform future medical and nursing care.
Results showed that FWR was observed in 6
0% of all CPA cases. Many medical workers reported that in
order to ensure FWR, it needs to be identified as a key person’s wish. Staff quality and quantity is also necessary to carry out FWR. Participants reported a need for more staff who are considerate of the key person’s
wish and who are willing to support them. On one hand, FWR helps families come to terms with the patient’s
death and helps them understand their treatment better. On the other hand, families’ sadness might increase
and staff burden rises as staff then need to deal with the needs of the family. In our study, about 6
0% of the
medical workers supported FWR. Therefore, families need opportunities to choose the option of FWR. The
preparation of manuals and supporting systems for FWR are also needed in order to carry out FWR efficiently.
Key words : cardiopulmonary resuscitation, ER, family-witnessed resuscitation
Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal 2
0:1
2
2−1
2
9,2
0
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1
5
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