ZE26A-21 リチウム鉛合金中におけるリチウム酸化物の 化学的挙動に関する研究 近藤正聡 1, 2,中嶋 結 2,鈴木成実 2,辻 光世 1,笠田竜太 3,小西哲之 3 東海大学工学部原子力工学科 東海大学大学院応用理学専攻 3 京都大学エネルギー理工学研究所 1 2 1. 研究背景・目的 ゼロエミッションを達成可能な商業用核融合炉開発への重要なステップとして、液体燃料増殖材を 使用した原型炉設計が進められている。鉛リチウム合金は、鉛(Pb)の中性子増倍作用とリチウム(Li) のトリチウム増殖作用を兼ね備えた優秀な液体燃料増殖材であるが、その性能のメンテナンス性に関 しては未解決の課題がある。その一つは、長期間高温条件下で使用する鉛リチウム合金の品質管理で ある。京都大学が推し進めるバイオマスハイブリッドシステムのようなデザインの場合、700℃以上の 高温で使用される可能性もある。高温状況下における鉛リチウム合金の酸化等による純度の低下はあ る程度許容しなければならない。過去の研究結果から、鉛リチウム合金が酸化する事により、Li が選 択的に酸化して失われる可能性が示唆された。しかし、Li 濃度に関しては、ブランケットにおけるエ ネルギー増倍と燃料増殖に大きく影響するため、運転期間中は常に一定に保ち続ける必要がある。鉛 リチウム合金の酸化特性や、Li 酸化物の化学的挙動は明らかにされていない。Li 濃度を長期間一定に 保つためには、酸化を極力抑制するか、生成された Li 酸化物を還元するか、酸化物を除去した上で合 金中の Li 濃度を再調整する必要がある。このためには、鉛リチウム中の Li と Li 酸化物の化学挙動を 明らかにする必要がある。本共同研究の目的は、鉛リチウム合金中における Li と Li 酸化物の挙動を明 らかにする事である。平成 26 年度は、鉛リチウム合金の酸化挙動と酸化による液体ブランケットの性 能への影響について調べた。 2. 研究成果 約 12%のリチウム濃度の鉛リチウム合金(Pb-12Li)100 ㏄を用いて、大気暴露型高温酸化試験を実施し た。大気中において、375℃の温度条件で 311 時間保持した。試験中、合金の自由表面には、オレンジ 色の酸化物が形成された。この酸化物を回収し XRD 分析を実施したところ、図 1 に示す結果が得られ た。測定結果から、Li2PbO3 が形成されている事がわかった。鉛リチウム合金が大気中で酸化した場合、 低いリチウム濃度における低い活量にも関わらず、酸化反応に鉛 1mol が反応するのに対してリチウム 2mol が酸素と反応する事がわかる。酸化物を形成したリチウムは合金内の組成として機能しなくなる ため、酸化反応によりリチウムが選択的に失われる事が示唆している。同時に PbO の形成も検出され ているが、これはある程度合金が酸化してリチウムが失われ、合金の組成が純鉛に近い状態になった 後で形成されたものであると考えられる。また、酸化試験前後の合金の冷却曲線を、合金中に浸漬し た熱電対により測定した(図 2)。酸化試験前の冷却曲線には、合金状態図が示す Pb-12Li の融点付近の 温度で温度変更点が観察された。試験後の合金では、温度変更点は観察されず純鉛の融点(600.6K)に近 い温度でプラトーを示した。これらの結果から、鉛リチウム合金の酸化がリチウム濃度の低下につな がる事が明らかになった。 次に、高速点火レーザー核融合発電プラント KOYO-Fast のブランケット体系をモデルとして、リチウム 濃度と TBR の関係を重イオン輸送統合コードシステム PHITS 用いて調べた(図 3)。15mol%付近の条件から Li 濃度が低下した場合、TBR は線形的に減少する事がわかった。 3. 結論 鉛リチウム合金の酸化特性を、大気暴露型高温酸化試験により明らかにした。酸化反応においてリ チウムが選択的に失われる事が分かった。酸化によるリチウム濃度の低下はブランケットの燃料増殖 性能の低下に直結する事を、レーザー核融合炉の体系における数値計算により定量的に明らかにした。 ZE26A-21 3000 Li2PbO3 2500 PbO Fe2O3 Count 2000 1500 1000 500 0 10 20 30 40 50 2θ[deg] 60 70 80 90 図 1 鉛リチウム自由表面に形成された酸化物の XRD 分析結果 650 630 Melting point of Pb : 600.6 [K] 610 Temperature [K] 590 570 Oxidation of alloy 550 530 Melting point of Pb-Li eutectic : 508 [K] 510 490 Melting point of Pb-12Li 470 450 0 173 346 518 691 864 1037 1210 Time [s] 図 2 大気暴露型酸化試験前後の合金の冷却曲線 1.4 1.2 TBR 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 5 10 15 20 Li濃度(mol%) 図 3 Li 濃度と TBR の関係 25 30
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