INSIDE RUSSIA の首都」とも称される。しかるに、現在モスク INSIDE RUSSIA ワ~カザン間を鉄道で移動しようとすると、14 時間強かかる。むろん、カザンのような大都市 はモスクワと空路で結ばれているので、飛行機 を使えば移動に問題はない。しかし、2018年に サッカー・ワールドカップ(W杯)を控えてい るロシアとしては、モスクワと地方、そして地 方と地方を結ぶ陸路を発達させることが課題 であった。モスクワ~カザン高速鉄道も、そう した文脈から出てきたプロジェクトであると 理解している。同高速鉄道が当初2018年開業を モスクワ~カザン高速鉄道は 中国の支援で推進 目指すとされていたのも、W杯をにらんだもの だったのだろう(ただし、検討はW杯が決まる 前の2009年頃から進んでいた)。 はじめに 下の図に見るとおり、高速鉄道はモスクワ、 当会発行の『ロシアNIS経済速報』 (2014年12 ウラジーミル、ニジニノヴゴロド、チェボクサ 月15日号、No.1647)で、 「ロシアの50大投資プ ルィ、カザンという大都市を結び、このうちモ ロジェクト・リスト ―岐路に立つメガプロジ スクワ、ニジニノヴゴロド、カザンがW杯開催 ェクト主義」という記事をお届けした。その中 都市である。将来的には、エカテリンブルグま でお伝えしているとおり、現在ロシアが推進し で延伸するという想定である。 ている投資プロジェクトの中で、最大の事業は、 モスクワ~カザン間高速鉄道の建設である。 中国の浮上 大プロジェクトだけに、昨年来のロシア経済 しかし、ウクライナ危機を受け、ロシア経済 の変調で、実現が危ぶまれた。そこに現れたの に変調が生じ、またロシアは国際的にも孤立し が、中国というパートナーである。この5月に、 た。当然のことながら、最大のプロジェクトで モスクワ~カザン高速鉄 道がロシア・中国の共同事 モスクワ 業として推進されること が、基本決定した。以下本 稿でその概要を紹介する。 ウラジーミル ヨコの移動の不便を 解消へ ニジニノヴゴロド ロシアは、陸路でのヨコ の移動が不便な国である。 チェボクサルィ カザン市は、重要地域であ カザン るタタルスタン共和国の エカテリンブルグ まで延伸計画 中心都市で、「ロシア第3 (出所)http://www.rg.ru/2013/08/01/putin2.html 126 ロシアNIS調査月報2015年7月号 INSIDE RUSSIA あるモスクワ~カザン高速鉄道の実現も、危ぶ ーブルと見積もられている。中国側は、融資と まれる事態となった。 いう形で2,500億ルーブル、事業会社への出資 そこに登場したのが、中国というパートナー という形で520億ルーブル、資金を提供するこ である。2014年10月に中国の李克強首相がロシ とになる。モスクワ~カザン区間は、将来的に アを訪問した際、ロ中両国はモスクワ~北京間 建設される予定のモスクワ~北京高速鉄道(総 の高速鉄道整備のプロジェクトを検討する旨 工費7兆ルーブル)および中国のシルクロー のメモランダムに署名した。モスクワ~カザン ド・プロジェクト(中国と欧州・中近東市場と 区間は、北京までの高速鉄道の最初の区画とい を結ぶ構想)の一部になる可能性があるとされ う位置付けになった。モスクワからカザフスタ ている。 ン領を通過して北京に至る総延長は7,000kmで、 モスクワ・北京間が陸路で2日間で移動できる ようになるとされた。 結局、中国による新幹線輸出か かくして、モスクワ~カザン間の高速鉄道建 設は、中国の資金・技術面でのバックアップを 設計・建設・運営を中国と共同で 受け、実現に向け走り出した。 2015年4月22日にモスクワ~カザン高速鉄 モスクワ~カザン区間の全長は770km。50~ 道の設計業者を決める入札が実施され、ロシ 70kmに1箇所ほどの割合で駅が設けられる。 ア・中国のコンソーシアムが落札した。コンソ 列車の速度は最大で時速400km。モスクワから ーシアムは、公開型株式会社「モスギプロトラ カザンまでの所要時間は、現在は14時間あまり ンス」が幹事で、公開型株式会社「ニジェゴロ だが、それが3.5時間に短縮される。ただし、最 ドメトロプロエクト」、CREEC(China Railway 新の情報によると、2016年に建設に着手し、現 Eryuan Engineering Group Co. Ltd.)が参加して 時点では2020年の全面開業を見込んでいると いる。設計の契約額は200億ルーブル。A.ミシ いうことである。ということは、残念ながら ャリン・ロシア鉄道第一副社長は、シーメンス 2018年のワールドカップに間に合うというこ を中心としたドイツのコンソーシアム、フラン とはなさそうである。 スのSystra社が参加する可能性があると事前に ロシア当局がモスクワ~カザン高速鉄道の 述べていたが、実際に応札したのは当該のロ中 建設プロジェクトを発案した当初は、機器の国 コンソーシアムだけだった。 産化率を80%まで高め、また周辺部門を合わせ そして、5月8日、習近平・中国国家主席が て37万人分の新規雇用を創出するといった経 戦勝記念日式典出席のためにモスクワを訪問 済効果を思い描いていたようである。それが、 したのに合わせ、両国元首列席の下、モスクワ 中国に依存することになり、結局は単に中国が ~カザン高速鉄道建設に関するメモランダム 自国の新幹線を輸出するだけのプロジェクト がロ中間で調印された。「モスクワ~カザン高 に変質してしまったと、そんな印象を受ける。 速鉄道の協力形態と資金モデルについて」と題 他方、中国側は新シルクロード構想の一環と する文書に、ロシアのM.ソコロフ運輸相、ロシ してロシアの高速鉄道への投資を決めたもの ア鉄道のV.ヤクーニン社長、中国鉄道の総裁、 の、果たして北京とモスクワを結ぶ鉄道旅客輸 中国発展・改革国家委員会の委員長が署名した 送にニーズがあるのかという点に、個人的には ものである。インフラ建設および車両購入を合 疑問を覚える(高速鉄道と言うからには、貨物 わせたプロジェクトの費用総額は1兆685億ル 輸送は行わないのだろうし)。 ロシアNIS調査月報2015年7月号 (服部 倫卓) 127
© Copyright 2024 ExpyDoc