ベルリン日本語教師研修会 2015 に参加して~ ポートフォリオについての考察 アダム・ミツキェヴィチ大学 東洋研究所日本研究科 中西恭子 Ⅰ.はじめに 筆者は、2015 年 2 月 14 日にベルリン日独センターで行われたベルリン日本語教師研修 会 2015 に参加しました。今回のポーランド日本語教師会勉強会では、そのベルリン研修に おいてポートフォリオの実践報告をなさった、ハンブルク大学の杉原早紀先生のご発表に ついて概要を紹介するとともに、筆者が日頃から抱えているポートフォリオ評価に対する悩 みや考察などを発表しました。杉原先生のご発表部分についてはここでは省略させていた だき、筆者の考察部分について、以下、簡単に概要を報告します。 Ⅱ.ポートフォリオ評価導入の難しさ 学びの成果だけでなく、そのプロセスの学習活動も含めて総合的な評価をすることには 筆者も意義があると考え、以前からポートフォリオ評価に関心を寄せています。しかしなが ら、現実に授業には導入できていません。自分が感じている困難さの原因は何か、次の3 点を挙げて説明しました。 ①ポートフォリオの形成は教師だけでなく学習者自身の手が必要である。 ②ポートフォリオの効果や必要性を学習者自身が本当に実感できるのか。 ③教師自身がポートフォリオの効果や必要性を本当に理解しているのか。 ①については、教師と学習者の共同作業である以上、課題に取り組む価値観や意識を 共有していないと実行が難しいと思われます。義務化はともすれば学習者の自律性をむし ろ損なう、負の効果を持ちかねないと筆者は懸念しているため、動機づけにどんな方法が 良いのか、悩みを感じています。②については、自己評価活動にあまり価値を感じていな いと見受けられる学習者の存在や、各自が多様な学習方法を持つ中で学習過程の記録や 振り返りをあまり行わない学習者の存在、実際に学習者が他の教育機関に移動して過去 の学習記録を移動先機関の教員に提示するなど「ポートフォリオが現実の場面で役立つ」 機会がどの程度あるかという問題などから、筆者が感じている疑問です。③は、教師自身 が自己の過去の学習経験を振り返ると、ポートフォリオを作成したりそれをもって評価され たりした経験がないため、自らが効果や必要性を真の意味で実感できていないという、筆 者自身の問題点です。 Ⅲ.今後への模索 ポートフォリオ評価というキーワードで調べると、90年代後半頃から日本の教育現場で も積極的な導入が始まってきていることが伺えます。今、日本の高等教育機関等で教育を 受けている世代の人達が、これから国内外の日本語教育現場で活躍するようになれば、 ポートフォリオ評価の実体験を持つ教員が増え、日本語教育界にポートフォリオ評価がより 浸透すると思います。もちろん、ただ時代の変遷を待つのではなく、現在既に教壇に立って いる教員達も新しい教授法を積極的に学び取り入れる姿勢が求められます。筆者の場合、 現在導入3年目になる自律学習プロジェクトの中に組み込めないか、検討中です。具体的 には、例えば現在は年3回、授業時間の中で報告会を行っていますが、杉原先生のご発 表のおかげで WEB 上で情報共有する方法の可能性も考え始めました。ほか、現在は学習 活動の記録や整理を学習者自身の判断に任せていますが、その点も例えば義務化して学 習者にポートフォリオの効果を感じてもらうなどの変更が可能だと思います。 危惧がないわけではありません。WEB 上で情報共有をすることは、自分の学習活動が 教員・クラスメートに常時公開されることになるので、ともすると本来の目的-自分のペー スにあわせて自身が本当に必要性や楽しさを感じる学習をし、分析と改善を考え、自己管 理をする-つまり自律性を育てるというところを、人の目が入ることにより自分をよりよく見 せたいという飾る欲求が生まれ、不必要な要素が入り込んで本末転倒になるかもしれませ ん。何を公開するのか、公開する意味は何かというしっかりした定義づけと説明が必要に なります。義務化もただ「単位のために不可欠である」と義務化すると、抵抗を感じる学習 者がいるでしょう。それは自律した学習と真逆にある考え方です。ポートフォリオに取り組ま ないことがマイナス評価になるのではなく、あくまでも取り組んだ場合にそれをプラス評価 にし、あとはその内容をどう評価するかが深い考察を要するところだと思われます。筆者本 人のみならず、学習者も、まずポートフォリオ作成をやってみてそのあと、意義や効果を自 身で感じ、自己の学習に取り込むかどうかを自己選択するのが理想的です。まずやってみ るきっかけ作りを学習者に与えるという点では義務化も可能ですが、評価とのからめ具合 を注意しなければなりません。 以上のような考察を今回の教師会勉強会において発表させていただきました。発表を聞 いて下さった皆さん、発表後にご質問・ご提言を寄せてくださった会員の方々に御礼申し上 げます。 以上
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