研究紀要 - ボール運動領域部会

ボール運動領域部会
1
研究主題
一人一人が運動の楽しさを味わい、集団で学ぶ力を
身に付けるボール運動の学習
研究の構想
研究の仮説
型に応じた楽しさや喜びを味わわせる教材づくりを行い、一人一人がチームへの貢献に向けた
学習を積み重ねれば、集団で学ぶ力を身に付けることができるであろう。
研究内容
⑴ 共通
①「型に応じた攻防の楽しさ」を味わわせ、どの児童にとっても学習課題を追究しやすい教材の提案
②「集団で学ぶ力」を高めるための課題解決的な単元計画の作成
③ 学習活動に即した評価規準の作成と努力を要する児童への具体的な姿を想定した手立ての工夫
⑵
選択
① 小学校 6 年間及び中学校との系統性
・ゲーム領域部会及び山梨大学との共同研究
2 研究内容
(1) 学ぶことの楽しさを味わうことのできる学習内容と教材
① 「学ぶことの楽しさ」について
★ゴール型の学習課題
コート内で攻守が入り交じり、手や足などを使って攻防を組み立てる。一定時間内に得点を競い合う。
★ゴール型の楽しさ
連係して相手ゴールに向かってボールを前進させ、ゴールや得点ゾーンへボールを運び込んだり、
それを防いだりして攻防をすること。
② 学習内容と教材について
★ゴール型の学習の重点
・素早い攻防の切り替えでボール操作とボールを受けるための動きを身に付けること。
・連係して相手をかわしてボールを運ぶための戦術を学ぶこと。
<ハンドボールの学習イメージ>
パスをカットするために
移動しよう。
相手の前に立って進ませ
ないようにしよう。
得点させないようにゴール
の近くを守ろう。
得点しやすい場所
に移動しよう。
1
空いている場所にボールを運ぼう
かな、それともパスをしようかな。
(2)
時
ねらい
学
習
内
容
1
単
位
時
間
の
展
開
課題解決的な単元計画(第6学年
1
2
3
運動の楽しさを味わう
○学習内容の確認
○ルールの確認
○準備運動
みんなでハ ンドボ
ールを楽しもう
4
ゴール型「ハンドボール」)
5
6
7
8
集団で学ぶ力を高める
9
10
○学習内容の確認
○準備運動
チームの特徴に応
じた作戦を考えて
やってみよう。
マークをはずさないと
パスがもらえない。
有効な攻め 方を見
付けよう。
○ゲーム1(11 分)
グループ内ゲーム
総当たり戦
<課題解決を図る指導のポイント>
グループ内ゲームを通して、安心
してプレイしながら、ゲームを楽
しみ、みんなが楽しめるようなゲ
ームにしていく。
リーグ戦×2
対抗戦
<課題解決を図る指導のポイント>
総当たり戦(リーグ戦)を2度繰り返し行う
ことによって、自分のチームや相手のチーム
のよさや特徴を知ることができる。一度負け
た相手に対しても再度対戦するチャンスが
あり、チームの作戦の修正や変更を試すこと
ができる。また、教師もチームに対して作戦
のアドバイスや負けているチームへの支援
や助言もしやすくなる。
<課題解決を図る指導のポイント>
対抗戦で同じチームと対戦
する間にチームでの振り返
りの時間を取り、作戦を修正
させできる時間を取る。
○全体での振り返り(5 分) ○全体 or チームでの振り返り(5 分) ○チームでの振り返り(5 分)
言
作戦はどうだったかな。
みんなが楽しめる
どんな攻め
どこに動くとパスが
葉
次のゲームも同じ作戦で大
ようにするために
方をすると
つながるかな。
か
丈夫かな。
はどんなルールが
得点につな
マークはどうすれば
け
いいかな。
がるかな。
はずせるかな。
例
○チームの練習(7 分)
シュート
ゲーム
サークル
ハンド
ハーフコート
4 人対 2 人
オールコート
4 人対 2 人
選択練習
○ゲーム2(11 分)
グループ
内ゲーム
総当たり戦 リーグ戦×2
○整理運動
○学習の振り返り
○学習のまとめ
○用具の片付け
関・意
思・判
技
の指
工導
夫と
評
価
○
○
技 能
態 度
思・判
(3)
<課題解決を図る指導のポイント>
一つずつ練習の意図を理解させる。
チームの課題を解決するための練習方法を選
択させたり、考えさせたりする。
対抗戦
<課題解決を図る指導のポイント>
チームの課題を解決する活動を行っていたチームを紹介する。
チームの作戦をどのように修正すればよいか話し合うことが大
切であることを価値付ける。
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ボール操作やボールを持たない時の動きができるように、単元前半では、有効な練習
を教師が示し、後半では選択・工夫させる。
チームや友達のよさを認めることができるように、ナイスプレーカードを活用させ
る。
有効な攻め方を考えることができるように、振り返りの時間によい動きをしているチ
ームを全児童に紹介する。
小学校6年間及び幼稚園・中学校との系統性
○山梨大学中村和彦研究室、ゲーム領域部会と連携し、ボールを持たないときの動きを分析し、学習
の進行による動きの変容を明らかにし、指導方法の改善を図る。
2
3 実践事例
(1) ねらい
第6学年「ハンドボール」(10 時間扱いの5時間目)
【技 能】ゲームの状況をよく見て、仲間からボールを受けることのできる場所に動くことができる。
【態 度】ルールやマナーを守り、友達と助け合って練習やゲームをしようとすることができる。
【思考・判断】効果的な攻め方を知り、状況に応じてチームに合った作戦を立てたり振り返ったりできる。
(2) 展 開
学習内容・活動
○学習内容の確認
・本時の学習内容を知り、見
通しをもつ。
指導のポイント
評価
・提示資料をもとに学習内容の見通しをもたせる。
チームに合った作戦を考え、ゲームをしよう。
○準備運動
・ボール慣れの意図を児童に理解させ、動きながらパス
・準備運動やゲームにつなが をしたり、パスをもらうときに声を出したりできるよう
る運動をする。
に声かけをする。
○作戦の確認
・学習カードを基に、各チームのめあてや作戦を確認さ
・チームの作戦や個人のめあ せる。
てを確認する。
○ゲーム(総当たり戦)
・周りをよく見たり、ボールを受けることのできる位置
・1回目のゲームに取り組む。 に動こうとしたりしている児童やチームを称賛する。
・ゲームの様相から、一人一人の児童がどのような役割
をもってチームに貢献しようと取り組んでいるかを把
握する。
○チームでの振り返り
・ゲームの状況や作戦につい
て話し合い、役割分担や攻め
方を振り返り、チーム練習に
取り組む。
○ゲーム(総当たり戦)
・2回目のゲームに取り組む。
○整理運動
○学習の振り返り
・チームのめあて、作戦につ
いて振り返り、その後他者評
価、自己評価の順に行う。
○学習のまとめ
・振り返りの時間を有効に活
用 し て いた チー ム を紹介 す
る。
○用具の片付け
・1回目のゲームで見られ
た課題やチームに貢献して
いる児童を伝える。
・チームの課題に応じた発
問を行い、作戦に生かせる
ようにする。
・チーム練習にはどのような意図があったか確認し、課
題に応じた活動ができるようにする。
・めあてに対しての振り返
りであることを確認する。
・チームの特徴について振
り返り、次時の1回目のゲ
ームに向けての作戦につい
て確認する。
チームの特
徴に応じた
攻め方を知
り、自分のチ
ームの特徴
に応じた作
戦を立てた
り振り返っ
たりしてい
る。
【観察、学習
カード】
〈つまずき〉
・チームに合った作戦が分からない。
・振り返りをする視点が分からない。
〈努力を要する児童への手だて〉
・チームカードや記録カードを基に、自分たちのチームの特徴に
気付かせる。
〈おおむね満足できる状況にある児童への支援〉
・チームの特徴が生かした作戦が立てられるよう助言する。
3
4
資料
毎時間の授業後に行った学級全体の意
識調査(形成的授業評価)の変容を表1で
表している。児童は第2・3時から運動の
楽しさを味わっていることが分かる。これ
は第1・2時にグループ内ゲームを行った
ことにより、どの児童もゲームに参加しや
すくなり、攻防の楽しさを味わうことがで
きた結果であると捉えることができる。
しかし、単元中盤では全体的な評価が下
がっている。その要因として守備が上達し
て攻撃がしにくくなり、作戦を実現するこ
とが難しくなったことが考えられる。
しかし、第9・10 時では守備を突破す
る戦い方を考えるチームが見られるよう
になり、全体的に評価点数が上がってい
る。
表2は赤チーム児童の第8~10 時の
個人カードの記述である。単元が進むに
つれてチームの作戦に応じて、一人一人
の役割が明確になったことが分かる。ま
た、めあての立て方や自己評価の仕方を
指導していくことで、チームの作戦に合
わせて個人のめあてを考えたり、次時の
めあてを立てたりできるようになってい
った。このことから、一人一人のめあて
がチームの作戦を意識したものに修正さ
れ、課題解決的な学習の質が高まったこ
とが分かる。
3
2.8
2.6
2.4
成果
思・判
貢献
2.2
2
1
表1
時
赤チーム
の作戦
チームの
ふりかえり
Aさんの
めあて
他者評価
自己評価
表2
2
3
4
5
6
7
8
楽しさ
協力
平均
9
10時
ハンドボール単元における形成的授業評価の推移
第8時
声をかけて、素早いパス
回しをしよう。
声は出せていたけど、次
は切り替えを速くして
パスをしたい。
第9時
声をかけて、素早いパス
回しをしよう。
作戦もできたし、声も出
せていたから、チームワ
ークもよかった。
第10時
声をかけて、素早いパス
回しをしよう。
切り替えを速くして、パ
スやシュートができた
から、作戦はうまくいっ
た。
シュートを決めるため
に、パスのもらえる位置
に移動する。
もっと声を出してもい
いよ。
少し動けていた。次もも
っともらえる位置に動
きたい。
パスをもらえる位置を
考えて動く。
パスをもらえる位置を
考えて動く。
ちゃんとできていたか
ら、周りも見てみよう。
パスをもらって点を決
めることができた。次も
同じように動きたい。
よく動けていて、シュー
トもできたね。
今日はたくさんパスが
もらえた。パスがもらえ
る回数が増えてうれし
い。
赤チーム及び抽出児童Aさんの学習カードの記述
5 研究のまとめ
(1) 成果
・
「型に応じた楽しさや喜びを味わわせる教材づくり」
どの児童も参加しやすい教材(ゲーム)を提示したことにより、単元初めで運動の楽しさを存分
に味わうことができた。また、ゲーム→振り返り→ゲームの1単位時間の展開にし、振り返りの視
点を明確にして全体の課題(本単元では主にボールを持たないときの動き)を共有することができ、
学習内容を確実に身に付けさせることができた。
・「一人一人がチームへの貢献に向けた学習を積み重ね」「集団で学ぶ力を身に付ける」
チームの作戦に合わせた一人一人のめあてを考えさせたり、めあてに対して振り返らせたりする
指導を行ったことで、チームに貢献できたことを実感し、集団で学ぶ力を高めることができた。
(2)
課題
・単元計画の中盤(第6時)で行った「チーム内ゲーム」は、学級の実態や児童の必要感から実施せ
ず、単元最初の第1時~第3時までに実施する。
・個人やチームに対して適切な指導と評価を行ったり、児童一人一人の学びを見取ったりする手立て
を検証する際の、視点や観点を明確にする必要がある。
6
研究に携わった人
西島秀一 石原朋之
森山雄樹 阿木智華
水上卓哉 山本圭郎
野口由博
柄澤 周
関口亮治
石井幸司
佐藤慎平
下橋良平
4
淺川泰裕
平井政知
中川稚佳子 福井佑太
平林真一
堀河健吾